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IoTビジネスではデータが利権になる 【K16-2B #6】

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「クラウド x IoT(センサー通信)の進化とビジネス・チャンス」【K16-2B】セッションの書き起し記事をいよいよ公開!7回シリーズ(その6)は、IoTによって取得される膨大なデータで、ビジネスや人間社会がどう変わるか?等を議論しました。是非御覧ください。

ICCカンファレンスは新産業のトップリーダー160名以上が登壇する日本最大級のイノベーション・カンファレンスです。次回 ICCカンファレンス KYOTO 2017は2017年9月5〜7日 京都市での開催を予定しております。


【登壇者情報】
2016年9月6日・7日開催
ICCカンファレンス KYOTO 2016
Session 2B
「クラウド x IoT(センサー/通信)の進化とビジネス・チャンス」

(スピーカー)
青木 俊介
ユカイ工学株式会社
代表

川原 圭博
東京大学
准教授

小林 晋也
株式会社ファームノート
代表取締役

玉川 憲
株式会社ソラコム
代表取締役社長

(モデレーター)
尾原 和啓
Fringe81株式会社
執行役員

「クラウド x IoTの進化とビジネス・チャンス」の配信済み記事一覧

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【本編】

尾原 川原さんを少し置き去りにしているのですが、川原さん、ここまでで突っ込まれたいところはありませんでしたか?

川原 突っ込みたいところですか(笑)?

尾原 素朴な感想でも。

川原 先ほど牛の話もあったのですが、ユカイ工学さんでターゲットにされているのは、家庭が多いのかなという気がしたのですが。

ロボットはあの形でなくともよい気がするのですが、もう少し動きもの一般に広げられたりしないのですか?

常時電源が入っているロボットを市場に出したい

青木 僕達は、今までのロボットとは違って、敢えて歩かず常に電源が入っているというものを作りました。

普通のメッセージツールとして使えるように、一日中電源が入っているロボットをまずは市場に出したいと思いがあったので、そういった運動する機能というのは全部取ってしまったのです。

その代わり安くはなったのですが、川原先生も書かれていたように、現状ですとやはりバッテリー等のエネルギーというのはすごく大きな制約ですね。

バッテリーの性能も、色々な国の機関が20~30年でも数倍にしかならないという予測を出しています。

現状で30分歩けるロボットが20~30年経っても1時間くらいしか歩けるようにならないということだと、その辺のアクチュエーターや、バッテリーのイノベーションがまだ必要な状況なのではないかなということを感じています。

尾原 あとは「BOCCO」がずるいなと思うのは、結局IoT時代のポータル(ユーザーがインターネットを利用する際の入り口、または拠点として必ず利用する場)とは何なのだろうと考えた時ですよね。

青木 そうですよね。まさに。はい。

尾原 今すごくニヤーッとされましたね。(笑)

(会場笑)

言われたくなかったですか?

あまり掘らない方が良い?

青木 いや、大丈夫です。

今、皆さんはスマートフォンで色々なIoTデバイスを操作したり情報を見たりしようとされているので、例えば家の中にる時に、デバイス毎にアプリをいちいち切り替えなければならなかったりしします。

段々と、家の中でずっとスマートフォンを見ていないといけない状況が生まれつつあって、そうするともちろん奥さんにも怒られますし、子どもが家族と一緒にいるのにずっとスマートフォンを見ているという風なのも、すごく感じが悪いじゃないですか。

エクスペリエンス(ユーザー体験の質)がどんどん下がっているなというのを感じていて、そうすと、スマートフォン型のインターフェースではなくて、ロボットのような音声を中心にしたインターフェースの方が家庭のポータルとして向いているのではないかなと考えています。

最強のポータルはコミュニケーション

尾原 僕は「BOCCO」というのは上手いアイディだなと思っています。

ポータルの歴史というのがあり、ポータルというのは、必ず最初は情報の検索のポータルから入るんですよ。

次に行動のポータルに変わって、最後、最強のポータルは、コミュニケーションなんですよね。

僕みたいなGoogle中毒者は1日に50回くらいGoogle検索しますけれども、一般的にはやはりGoogle検索をするのは1日に2回や3回です。

一般の方になればなるほど、実はコミュニケーションの方が多くなる。

そういう中で、あの「Amazon Echo」等は情報と行動のポータルを取りにきているけれども、「BOCCO」は親子間等のコミュニケーションを取りにいっている気がするんですよね。

青木 はい。そうですね。

尾原 しかもそこの関係性の中で貯まるデータというのは、なかなか面白い活用方法があるのではないかなと思っています。

青木 そうですね。

家族のタイムラインがあると実はすごく面白いのではないかなと思いました。

それを作ろうと思ったきっかけですが、Facebookを見ていると、どこでラーメンを食べたとか、そういう知り合いの情報がたくさん分かるじゃないですか。

「あれ、うちの子は昼ごはん何食べているのだろう?」と思った時に、そういうサービスがまだネットにないなと気づきました。

家族のタイムラインがあればそういう情報も上がってくるかもしれないですし、そこに家電の情報等も集約されていった方が、一個一個アプリを切り替えてコントロールしていくよりは自然なのではないかなと考えました。

尾原 そうなんですよね。

だから結局、IoTの戦いというのは、データを誰に預けるのかという戦いで、情報を検索するからといって動くGoogleやAmazonに対して、「コミュニケーション」が重要だと思います。

僕達ってGoogleとFacebookのどちらに情報を握られてしまっているのだろう。

日本の場合はGoogleとLINEと言った方がよいのかもしれませんが、実は意外とLINEの方が所持データが多いような気がします。

もちろんテキスト解析等、色々なものが必要なのですが、その辺を考えていくとすごく色々なことができるのではないかと思います。

僕一人が興奮して、他は置き去りにしている感があるのですけれども。(笑)

機械が人間の行動パターンを先読みし始める

川原 色々なインフラが出てきて、センサーも出てきて、色々な情報が今ネットに貯まってきて、それに加えてディープラーニング等も出てきました。

ディープラーニングがすごいのは、人間が何となく「これとこれは関係がありそうだ」と思うことを数式で上手く表現してくれて、それを人間並みの精度で判断してくれるというところなのですが、ここからどんどん怖い世界に入っていくのかなという気がしています。

先ほどのLINEの話ではないですけれどね。

尾原 そうでしたね。

示唆深いので、ぜひ「不気味の谷」の話を少しして頂けますか。

川原 尾原さんが、IoTの本質はおもてなしだという風にお話されていたのですよね。

色々な情報から、次はこうなるだろうという予測をして、先回りをして、お膳立てしてあげることが良いサービスに繋がるのではないかという話もあるのですが、確かにそれはそうで、今日は京都への出張ですということでGoogle Nowを見たら、「あなたは今日はここに泊まります」「ここにチェックインして下さい」と。

これからディープラーニングが使われてくるようになると、自分の典型的な行動パターンが完全に読まれるようになってくるかもしれません。

自分では意識していなくても、「そろそろこの人はラーメンを食べるな」とGoogleの方が先を読んでしまうような時代が来るのではないかと思っています。

ラーメン屋くらいだったらよいのですが、もっと恐ろしいことが色々あるのだろうなと思います。

例えば、保険会社に自分のデータを出すと保険料が安くなるというような話もあるけれども、逆に、この人はそろそろ事故をしそうだということも読まれてしまうかもしれませんよね。

尾原 逆に保険料が高くなると怖いですよね。

あれ、どうして僕だけ高いのだろうみたいな。(笑)

川原 (契約は)今日までです、といったことになるかもしれないですよね。

自分よりも周りの方が自分のことをよく知っているような時代が来るのではないかと思うと、不気味な世界だなと思います。

尾原 私はGoogleに勤務していた時に、「Google Now」の立ち上げに携わりました。

今日丁度ベルリンからルフトハンザ航空さんで帰国したのですが、「Google Now」の航空プレイヤーとして最初に対応してくれたのが彼らなのです。

彼らはすごくラディカルで何でもやってくれるというので、僕達は色々なことを考えました。

まず、出発の前の晩に明日の準備をして下さいという通知が入り、出発の朝にもお知らせが届きます。

そして飛行機に乗る段階になると、空港までの時間を見て、例えば渋滞していたら15分早く出る必要があると教えてくれる。

青木 そこまでやってくれるのですね。

尾原 車で移動を開始して速度を感知すると、自動的に「Google Mapのナビゲーションに切り替えますか?」というボタンが出てきて、それを押すと、空港の搭乗ターミナルまで誘導してくれるのです。

そして空港に着くと自動的にQRコードが出てきて、スマートフォンを操作しなくても、クリックしていくだけで登場できるというところまで設定しました。

今日、空港に少し早く着き過ぎておろおろしていたんですね。

Google Nowを開いたら、ドイツ語で「チェックインカウンターはどこですか」というドイツ語に通訳するユニットが出てきて(笑)、こんなことまでは考えていなかったので、さすがに不気味の谷を感じてしまいました。

理解の範囲を超越すると価値がゼロになってしまう

尾原 結局、ユーザーのメリットと、預けることの怖さとのバランスですよね。

取り組みの中で、その他に、どういう風にクリアしていけばよいのかと考えられることはありますか?

単純に言えば、お前のデータを他の人には漏らさないぞという。

玉川 今日は僕や川原さんなどのようなエンジニア系が多いのですが、裏で何が動いているかというのが分かるじゃないですか。

例えば、Amazonで僕が見たものが、その時に買わなくても、後でFacebookに広告として出てきますよね。

こことここでデータが交わされて、こう来ているのだなということが分かる訳です。

それだけだとそこまで不気味ではないのですけれども、エンジニアとしては、そこを超越した時が少し怖いなと思いますね。

あれ、ちょっと待てよ。これってどうなっているのかなと。

「なぜ、ここからこうなってしまっているのかな」という疑問が出てきた瞬間に、ゾゾッとしますよね。

裏の仕組みが分かっているうちは大丈夫なのですが。

尾原 僕が好きな方程式に、「差異×理解=価値」というのがあるのですが、基本的に、差異がないところには価値が生まれないじゃないですか。

でも、理解の範囲を超えた途端に、価値がゼロないしはマイナスになってしまう。

僕ってどう考えても挙動不審じゃないですか。こんな赤いマフラーなんてして。

でも、Googleにいるということが理解されると、変なのでもよいのかなという風に思ってもらえるという。

このように理解を広げていくというところが、一つの鍵ですよね。

不気味の谷から無理解の谷へ

一方で、Robert Anson Heinlein (ロバート・アンスン・ハインライン)が「月は無慈悲な女王」で言っていることが面白いのです。

科学がすごく進んだ国で、原子力が宗教として扱われているという下りがあります。

結局、原子力のことを説明するのは難しいと。

制御棒は神様のアイコンで、取り扱いには注意が必要だと。

そのように理解の範囲を超えるのだったら、別のラップに包むというのも一つかもしれません。

日本の場合はそこにキャラクターという資産があるので、そういうストーリー性やナラティブ(語り口)に近いものを使っていくというのも、面白いのかなと思います。

青木 それはそうですね。

「Google Now」については、人によっては「これは気持ち悪い」という人もいたり、かなりギリギリなところを攻めていますよね。

僕はかなり重宝していますが。

尾原 アメリカでは、オプトアウト(Opt out)の文化がしっかり根付いています。

基本的には全てのサービス項目の横にボタンが付いていて、それを押すと「あなたはターゲットされているぞ!」と出て、そこからワンクリックで、オフにしたい人はして下さいという文化が根付いているのです。

一方で、日本の場合はなかなか動かないのですが、受け入れてしまうと無批判になるという、むしろ無理解の谷みたいなところがあります。

無理解のまま突っ走って、常態化したら誰も理解しなくてもOKみたいな不思議なところがあるので、その辺のバランスが難しいですよね。

玉川 特にアメリカ西海岸では、インターネット・テクノロジーに対する、若干宗教的な、前向きな信頼関係があるじゃないですか。

だからそういうところがある意味、スタートアップのエコシステムにはすごく前向きに働いていて、現状だとそれは結構良い方向に動いていると思うんですよね。

でも、日本では、そこのそういうアイコン的なものがないので、それに対する批判を打ち返す術が少ないなという感じはしますよね。

微細な技術よりもデータが価値になる時代がくる?

尾原 だからそこですごく危険なのが、特にアメリカを含めた先進的な国では、結局IoT自体が価値である時代というのがどこかで終わるということなのです。

結局IoTを使って貯めたデータが価値になる時代が来ると思います。その時に、データを先に貯めた者がどんどん強くなるんですよね。

そうすると、ユーザーがきちんと選択的に受容してくれる国が、このIoTの時代にデータで先に行ってしまうと、後で追いつけなくなる。

そういう意味では、僕達の場合は、B to Bの方が、そういう需要もメリットも受けやすいから分かり易いし、職人の国だから不も分かっているし。

あとは何よりも、先ほどのスプラウト(編集注:川原さんが手がける農家向けセンサー。本編その1でお話し頂きました)もそうですけれども、やはり僕らは匠の国にいるので、センサーで取れる精度が他の国より高いし楽ですよね。

そういうところに付加価値があるのではないかなと思います。

玉川 全体的に、IoTの文脈で日本全体が心配しているのが、価値の大きさというか、今まで摺合せやハードウエアや、ものすごい微細な技術に価値は十分にあって、これからもそうあり続けるのだけれども、データを集めることの価値の方がガーンと大きくなってしまったら、相対的に小さくなってしまうという怖さがありますよね。

僕もトヨタさんが好きですけれども、トヨタのあの素晴らしい技術が相対的に小さくなってしまうのではないかという、そういう怖さがあります。

尾原 そういうところでは多分、そこに目をつけているのですよね?

小林 そうですね。

やはりデータを集めた者勝ちなので、結構スピード優先かなと思っていて、しかも農業のような産業に特化しているじゃないですか。

そうすればそうするほど、特化したデータが膨大に集まるようになって、誰も作れない価値をそこで作ることができると信じています。

尾原 データが利権になってきてしまうではないですか。

小林 恐らくそうではないかなと思います。

尾原 そうすると、これが先に富を生むのなら自分も加わりたいという人が出てきたりして、色々な大変なことが起きないのですか?

小林 多分起きるでしょうね。

今でも、何か牛でビジネスをしようという時、お声がかかる確率が非常に高いんですよ。

僕達は事業を始めて数年ですけれども、外からは、結構ユーザーが集まってデータがあるように見えるようです。

そうすると、そういう人達が集まってくる可能性も非常にあるのではないかと思います。

エコシステムで強くなることが大事

尾原 その点に関して「BOCCO」がいいなと思ったのは、API化されたことですね。

どういった意図や目的がおありなのでしょうか。

青木 そうですね。ありがとうございます。

尾原 僕、「BOCCO」が好きですから。

(会場笑)

青木 「BOCCO」本体自体にはそんなにセンサーがある訳でもないですし、ロボットにはカメラもありませんが、製品が沢山出ていますので、そういった他のサービスと連動して、ロボットがインターフェースの役割をするというような世界を作っていきたいと思っています。

そういった意図もあり、一緒にサービスを提供できるパートナーを増やしていきたいなと考えています。

尾原 本来、1社がデータを抱え込むというよりは、API化してモジュール化することで、皆がそこに参加して利益を享受できます。

そこのエコシステム、つまり寄合が寄り合うと強くなるという風にもっていけるということが大事ですよね。

(続)

続きは 【最終回】誰がIoTビジネスを制するのか? をご覧ください。

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編集チーム:小林 雅/榎戸 貴史/戸田 秀成/Froese 祥子

【編集部コメント】

続編(その7)では、会場からの質問を受け付け、誰がIoTビジネスで儲けることができるのか?どんな機能を価値とすると儲かるのか?といった点を議論しました。是非ご期待ください。他にも多く記事がございますので、TOPページからぜひご覧ください。

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