9月1日〜4日の4日間にわたって開催されたICC KYOTO 2025。その開催レポートを連続シリーズでお届けします。このレポートでは、ぷくぷく醸造が優勝を飾った、第5回 ICC SAKE AWARDの模様をお伝えします。ぜひご覧ください。
ICCサミットは「ともに学び、ともに産業を創る。」ための場です。そして参加者同士が朝から晩まで真剣に学び合い、交流します。次回ICCサミット FUKUOKA 2026は、2026年3月2日〜3月5日 福岡市での開催を予定しております。詳しくは、公式ページをご覧ください。
今回が5回目となる ICC SAKE AWARDは、過去最多の13社がエントリーし、2日間にわたる激戦を繰り広げた。1日目の審査員たちのコメントを聞き返していると「優勝が読めない」「今回は荒れる」といった言葉が多数聞かれた。
その理由は、みりん、ミードといったこのアワードでなければ参戦しないような酒造や、フレッシュな新星から大手までが出揃ったクラフトビール各社、クラフトサケ、日本酒、蒸留酒といった本当に様々なジャンルの、そしてレベルの高い造り手が揃ったことにある。
まさに異種格闘技と呼ばれるのも無理はない13社で、審査員は70名超。造り手も審査員も酒をくみかわしながら、語り合いながら、2日にわたる激戦を駆け抜けた。
その戦いを制したのは、クラフトサケのぷくぷく醸造。酒造りのみならず、全てのものづくりに関わる人たちが心動かされる優勝スピーチで、大きな感動を呼んだ。

【速報】福島浜通り発、異文化を溶かす自由なサケで世界を目指す「ぷくぷく醸造」が第5回 ICC SAKE AWARD優勝!(ICC KYOTO 2025)

どのお酒も、チームも素晴らしかった。彼ら・彼女らの奮闘をわずかであるがお伝えしながら、今回優勝したぷくぷく酒造がいかに勝ち抜いていったかを、このレポートでご紹介できればと思う。
DAY1 予選ラウンド
今回初めての企画として、予選ラウンドにエントリーする13社のスタジオ撮影を行った。いつもブースにいる姿をご紹介しているが、予選で出品する酒を手に、撮影に臨んでいただいた。その写真とともに、顔ぶれをご紹介しよう。













予選ラウンドに挑戦した13の酒造やブランドとICCサミットとの関係は以下のとおり。
| ICC歴 | 出展酒造、ブランド |
|---|---|
| ICCサミット初参加 | 神田豊島屋 弥栄醸造 CHARLES BREWING(アリクイ) 金市商店(京都蜂蜜酒醸造所) BLANK HARD CIDER WORKS 花巴(美吉野醸造) 若潮酒造 LINNÉ |
| ICCサミットには過去参加、ICC SAKE AWARDに初参加 | ヤッホーブルーイング ISEKADO |
| ICC SAKE AWARD2回目の挑戦 | ローカルフラッグ Far Yeast Brewing ぷくぷく醸造 |
5回目開催ともなると、参加者にも様々なキャリアが出てくる。誰もが参加に驚いたクラフトビールというよりすでに認知度も人気も高い3社。ヤッホーブルーイングやISEKADOは、このアワードの初回から審査員として参加しており、その熱気と過去の挑戦者たちの説得が初挑戦の裏にあったと聞く。前回ジンで挑んだFar Yeast Brewingは、今回は仲間とともに、本業のビールでリターンマッチに挑んだ。
ICCサミットの参加歴があるほうが、雰囲気をわかっていて有利かもしれない。しかしここで問われるのは、酒のうまさとともに、いかに自分たちの酒を伝えることができるか。そういう意味では過去アワード参加歴がある方に分があるかもしれない。しかし、そんな人たちこそひどく緊張していた。
審査員として参加してきたヤッホーブルーイングの森田 正文さんは、今回は出展側に回る。そわそわと落ち着きなさげだ。
「めっちゃ緊張する。審査する側も責任感で緊張するんですけど、今回出展するとなると、僕らがビールの代弁者という感じがするんで、ちゃんと説明できないとビールに悪いなっていうプレッシャーみたいのがあって」

予定していた出展担当者が急遽欠席になったので、その人の想いも伝えたいとのこと。今回ICC初参加の宮越 裕介さんとともにブースに立つ。宮越さんは「ICCは初めてですけど、もうめちゃくちゃ熱いですね。その熱い波に乗ってすごく気分が上がっています。勝ちたい!」
予選には特別なよなよなエールで臨む。通常は流通時に生じる品質の変化を避けるため、出荷の前に酵母を取り除いているが、今回は樽から汲んできたタンパク質の酵母がそのまま残るものを持ってきた。「通常のより厚みがあって、ふくよかです」と言い、大切そうにビールサーバーに手をかけている。ファン垂涎の無濾過よなよなだ。
「どうしようかなと思ったんですけど、逃げちゃダメだと思って」
スタジオ撮影でも感心するほどブランドの”らしさ”を体現して、真剣勝負の場ですら楽しさを持ち込む準備は万端だ。
予選ラウンド

予選では、13のブースをオフィシャル審査員とゲスト審査員が小グループを作って巡回して試飲をし、「美味しさ」「ブランディング」「製法へのこだわり」「想いへの共感」の4部門に投票を行っていく。オフィシャル審査員は酒や食のプロたち、ゲスト審査員はICCサミットに参加するこのアワードへの審査員参加志望動機を書いて応募した酒を愛する方々である。
オフィシャル審査員と、ゲスト審査員それぞれで得票の平均値を出し、その総合点で予選ラウンドの点数が決まる。オフィシャル審査員の加点比重はゲストの倍である。
ジャンルの違う酒を審査するため、審査員の主観、好みで勝利の行方は大きく左右される。ビール4社のうちならこれが好き、飲んだ経験値が多くないから判断できないなど、出展している他のブースとのバランスや、造っている酒の種類にも左右される。
しかしこのアワードで平等なことは、造り手から直接、製法や味への工夫、その想いを伝えられることである。フード&ドリンクアワードも同様だが、商品としての高い完成度は出発点で、そこにどんな想いが込められており、それを実現するためにどのような工夫を凝らしているかを知ることで、旨さは格上げされるのだ。
だからといって、トークが上手ければ得点できるわけではない。このアワードは、ICCサミットのカタパルト同様に、まず実力があって、想いがあって、それを伝えられてこそ勝利に近づく。
レベルは回を重ねるごとに高まるばかりで、どれも良い酒なのは、全ての部門で10点満点のうち最低点ですら6.32点ということからわかる。本当に美味しいと言われながら、予選ラウンドで去った7社の結果を、審査員を務めた五島つばき蒸溜所 門田クニヒコさんのコメントと共に紹介しよう。
ASOBI BEER


1年前のICC KYOTO 2024のアワードに参加して予選敗退で涙をのんだASOBI BEER。前回は濱田 祐太さんともう1人で参加だったが、今回は5名での参加。「造り手として、1年積み上げたものを表現したい」と「晴れこがね – Yosano Session IPA –」を携えて帰ってきた。今回はゲスト審査員投票による「想いへの共感」部門で2位となったが、予選突破ならず。
弥栄醸造


2024年創業、2025年秋から新潟県柏崎市で酒造りを開始した弥栄醸造は、修行先の阿部酒造で委託醸造した「ITTEKI(一擲)十割麹酒 vol.0-3 白夜 火入れ」を持参。オフィシャル審査員投票で「想いへの共感」9位、ゲスト審査員投票で「製法へのこだわり」部門8位が最高スコア。自社製造での再挑戦が期待される。
CHARLES BREWING



広島でモダンベトナム料理とワインのお店を営むチランさんがソムリエとともに、レストランが求める料理と合うハイエンドのビールを造るブランド。自然栽培レモンを使ったRock this town(ロックディスタウン)は、ゲスト審査員の「ブランディング」部門で10位が最高位となったが、審査員がシェフばかりならば結果は違っていたかもしれない。
金市商店(京都蜂蜜酒醸造所)



第1回目以来、2社目となるミードの醸造所。京都で95年の蜂蜜屋で全国各地の養蜂家を回るハニーハンター市川 拓三郎さんと、クラフトサケ界隈に知り合いの多い佐藤 聡一郎さんが国産百花蜜を使った「The MEAD」で登場した。オフィシャル審査員で「製法へのこだわり」5位、ゲスト審査員で「美味しさ」6位・「ブランディング」4位、「製法へのこだわり」2位と善戦したがあと一歩及ばず。
Far Yeast Brewing


3名の製造部門のエースとともに再びこの場に帰ってきた山田 司朗さんは、今回本業のクラフトビールで勝負をかけた。オフィシャル審査員で「製法へのこだわり」4位・「想いへの共感」で5位、ゲスト審査員「ブランディング」6位・「製法へのこだわり」3位・「想いへの共感」で4位と高得点を集めながら、予選突破とたった1.28点差で苦杯を舐めた。
BLANK HARD CIDER WORKS


本来は農家でサイダーを造るためにりんごの無農薬栽培を始めたというBLANK HARD CIDER WORKS。お酒に強くない人でも楽しめるワイン酵母で醸すサイダーは、オフィシャル審査員たちの嗜好とは少し違ったかもしれないが、ゲスト審査員には響いて「美味しさ」「製法へのこだわり」で票を集めた。
ISEKADO


クラフトビールの大手、ISEKADOのエントリーを皆、驚きを持って受けとめた。オフィシャル審査員を務める社長の鈴木 成宗さんは挑戦への意欲を表明しており、ついに今回エントリー。看板商品のISEKADO ペールエールに、オフィシャル審査員は「美味しさ」3位、ゲスト審査員「美味しさ」7位と好位置につけたものの、予選突破とならなかった。
相互投票のプレ予選と、本番予選ラウンドの違い
実はこの前日に、出展企業のみの相互投票による「プレ予選」というものも行われていた。リハーサルをかねて本番さながらに行われ、予選での突破を占うとともに、結果に満足できなければプレゼンの改善策を練るための材料ともなる。プレと予選ラウンドでの実際の突破企業を並べてみてみると……。
| 突破順位 | 1位 | 2位 | 3位 | 4位 | 5位 | 6位 |
| プレ予選 | 若潮酒造 | LINNÉ | ぷくぷく醸造 | Far Yeast Brewing | ヤッホーブルーイング | 京都蜂蜜酒醸造所 |
| 予選 | ヤッホーブルーイング | ぷくぷく醸造 | LINNÉ | 花巴(美吉野醸造) | 若潮酒造 | Me(KANDA TOSHIMAYA) |
※予選突破は太字で表記
ちなみに、予選突破した花巴(美吉野醸造)とMe(KANDA TOSHIMAYA)は、プレ予選ではともに同点の7位。プレ予選であと0.6点入れば6位に手が届く位置におり、結果を受けて奮起したのではないかと思われる。
決勝トーナメント

このICC SAKE AWARD、今回から決勝でのルールがマイナーチェンジしており、予選までは事前に登録した酒で戦うが、決勝トーナメントでは、登録した酒を出す順番を変えてもOKとなった。
それにより、前日の状況を受けて戦い方を変えることが可能となった。自分たちのプレゼンで伝えたかったことと、審査員の反応でどこに差異があったのかを振り返りながら、一番自信のある酒を決勝までとっておくのか、または目前を勝ち抜くために出すのか、他社との被りをどれだけ意識するか、決勝進出6社は最多3種の酒の順番に頭を悩ませた。
これが決勝トーナメントをいかに勝ち抜くかを決める。酒の順番は、結果速報の記事も合わせてご参照いただきたい。ここからはトーナメント方式ではなく、ノックアウト方式で非常に白熱した会場の様子に移ろう。

会場激震! 予選突破1位が、準々決勝でまさかの敗退

予選を1位で突破し波に乗るヤッホーブルーイングは、人気の「有頂天エイリアンズ」で準決勝に駒を進めたかったが、4位突破の美吉野醸造と1点差でまさかの敗退となり、大きな衝撃を与えた。ここでビール勢はすべて姿を消した。
ICCサミットに参加する方々にファンが多いブランドであることや、敗退を惜しむ声、その先に出されるはずだったサーバーにあるビールを求めて、敗退決定後も多くの審査員たちがヤッホーのブースへと集まっていったのが印象的だった。

もう1社、ここで姿を消したのが「424GIN ジュニパーベリーオンリー」を出した若潮酒造。鹿児島・志布志の焼酎蔵ながらここで大胆にクラフトジンで勝負をかけたが、突破はならなかった。

数種の芋焼酎をブレンドした世界唯一の木樽蒸留クラフトジン。興味を持った方はぜひ、商品名のリンク先から購入ができるのでお試しいただきたい。

ちなみに準々決勝は1位がぷくぷく醸造 / ぷくぷくホップ VaVaVa -DDH どぶろく-(94点)、2位LINNÉ / 800 薩摩芋 ヤオ サツマイモ(90点)、3位が花巴 / 花巴 水酛(美吉野醸造)(81点)、4位がMe(KANDA TOSHIMAYA) / 柳蔭(やなぎかげ)(75点)という得点。
通算点数ではなく、毎回勝負が決まるノックアウト方式のため、まだまだ優勝に望みが残る、巻き返し可能な僅差となった。
順位が入れ替わった白熱の準決勝
準決勝の戦いは、決勝戦に進む2組と3位決定戦にまわる2組を決定する。順位と得点を先に言うと、ここでフラッグシップの「800 蕎麦 ヤオ ソバ」を出したLINNÉが70点で1位を奪取し、2位の59点、ぷくぷく醸造に大きな差をつけた。ともに癖強酒対決だった。
LINNÉがが出した「800 蕎麦 ヤオ ソバ」は、有機栽培の蕎麦を麹にして米と掛け合わせた甘旨味たっぷりで、蕎麦湯のようなとろみが特徴の酒。熱燗、器にもこだわっておちょこで和の味わいを演出した。

ぷくぷくの「#AWADOBU -AWAMORIホップどぶろく-」は、過去にICC SAKE AWARDで優勝した池原酒造とのコラボどぶろくで、稲とアガベ優勝時に岡住さんと組んで出場、今回は審査員で参加した熱燗DJつけたろうさんのつけたろう酒店限定発売の酒だ。

3位、4位にも入れ替えが起こり、Me(KANDA TOSHIMAYA)が46点で3位、花巴 水酛(美吉野醸造)は45点で4位となった。


どの戦いも、どれだけ接戦かお分かりいただけるだろうか? 酒のセレクトと、想いやストーリーを伝えることで挽回できるという可能性がスリルを生み、バトルが白熱する。ブースの周りで発表を待つ審査員たちは、自然とお気に入りの酒の近くに集まり、一緒に勝ち抜けを祝った。

3位決定戦
ここからは最後の勝負の酒で、それぞれがどんなプレゼンを行ったか見ていこう。まずはたった5点差で順位が決した3位決定戦から。
誰もが予想しなかったみりんの大躍進「Me(KANDA TOSHIMAYA)」
木村 倫太郎さん「みなべクラフト梅酒の高田(遼)さんの梅酒とのコラボです。”Me”と梅しか使っていないこのFuuという商品を使って、カクテルを作りたいと思います。我々は東京で造っています。この梅酒のように全国の素晴らしいものと、今後どんどんどんどんコラボレーションをして、どんどんと新しい商品を作っていきたいと思います。
今ここにいる皆様が持っている何か、それとこのMeがつながっていく、このICCで終わるんじゃなくて、今後も、そんな期待を込めて、最後のカクテル名を『U & Me』と名付けました。
せっかくなので、皆さんと一緒にカクテルを作って終わりたいと思います。シェイカーをお一人ずつ振っていただきたいです。皆さん、シャッターチャンスです、行きまーす!


では楽しく乾杯で終われればと思います。このカクテルは、今までで一番複雑です。この風味、昆布だし、柚子、そして桜のリキュール、こうしたものを合わせて最後にMeを少し入れることで、これらを調和させています。
そして新プロジェクトの発表になっってしまいますが、(ともに出場した)伊藤さんが静岡に蒸溜所をお持ちで、そこでコラボレーションをして、今日1発目で飲んでもらった『柳蔭(やなぎかげ)』をいつでも飲んでいただけるようなプロダクトにして、今後製造していく予定をしています。
ぜひこちらも応援をしていただければと思います。さあ、というわけで、最後、皆さんで乾杯して終われればと思います。カンパーイ! ありがとうございました!」

初日の予選トーナメントで、審査員の住吉酒販 庄島 健泰さんはみりんの躍進を予感していた。
「みりんはすごく可能性を感じました。麹リキュール、その切り口があったかと。みりんと言われて飲むのと、麹と言われるのは全然違う。現代に合わせて、視点を変えて表現を変えると、歴史が一気に繋がる感じがして新しい」と感心していた。
木村さんは、東京オフィスでのプレイベントの際に、皆を驚かす、入賞すると宣言していた。最初にみりんと聞いて、ここまでの善戦を予想した人がいるだろうか。Coctail Bar Ravenの伊藤 広光さんと共に、確かな旨さと新しいアイデアで、審査員たちが思わず誰かに伝えたくなるような印象を残した。
第3位:あふれる郷土と自然への敬意を酒に込めて。花巴(美吉野醸造)


橋本 晃明さん「水酛×水酛を樽に貯蔵したお酒『花巴 樽丸 和紙ラベル寺田克也画 ”水酛×水酛”』、ぜひ 味わってみてください 。杉樽貯蔵です。先ほどの『水酛×水酛』の濃度感というのを感じさせながらも、さっぱりと仕上がっています。これは熟成というのをあえてかけています。
私たちの住んでいる奈良県の吉野という地域は、樽丸林業といわれるほど林業が盛んな地域です。その林業家や樽丸職人さんといった方たちの仕事を見てもらう、分かってもらうという意味でも、このお酒を造っています。

(審査員たちに映像を見せながら)木材を割るとバームクーヘンみたいになっていて、それを剥がして年輪を漏れないように組み合わせて樽を作ります。この酒の特徴としては、樽廻船で江戸まで運ぶのにかかる10日間ぐらいを漬け込んでいます。そうすると、吉野杉だった理由がそこにある。そういう酒を造りたいなと思ってやっています。
これは非日常のお酒ではなくて、日常酒として使われたい。私たちは自然に沿った造り方をしているので、アート感が出るのではないか。アートの世界で日常に溶け込めないかな、という想いで造りました。例えば陶芸などのように、趣味の世界としてのお酒は地酒としてのひとつの魅力ではないかと思います。
麴室にも吉野杉が使われています。味がしっかりあるお酒なので、湿度の高いところでしっかりした麹を作る必要がある。そういうときにこの木は非常にいいんです。調湿作用が高く、湿度80%以上にしてもベタっとしない。私たちは木桶仕込みをして樽貯蔵にして、この木を伝えることによって、吉野という地域を知ってもらいたいと思っています」
揃いの赤い法被を着込み、息もぴったりに酒造りと、地域を伝え続けた花巴チーム。ただひたすらに風土、自然に寄り添う酒造りを極めようとする日本酒蔵の3位入賞は、今後参戦するであろう日本酒蔵にとって朗報だったに違いない。
決勝戦
決勝では、実力も十分のクラフトサケ対決、準決勝で2位となったぷくぷく酒造が順位を逆転できるかが注目された。前夜に過去の優勝者の稲とアガベ岡住さんが「想いを伝え切ることができた方が勝つでしょう」と予言していたが、最後の両者のプレゼンはどんなものだったのか。まずはLinnéから見ていこう。
共創で造る酒で、穀物酒の無限の高みを目指すLINNÉ
「よろしくお願いします!『800 大麦 樽熟成 ヤオ オオムギ』、樽熟成をかけたお酒になります。LINNÉ創業、最初に造ったお酒、原点のお酒を持ってきました。大麦で麹を作ってお酒に仕上げております。
誰と造ったか? haccobaの皆さんと造らせていただきました。LINNÉの創業の地は京都、手続き上そうなんですけど、事実上の創業の地は福島、haccobaのある小高です。
そして何よりこのビール大麦、COEDO BREWERYのビール大麦、国産大麦を使わせていただきました。そしてここにいらっしゃる山田さんのFar Yeast Brewingの樽で熟成しています。では皆さんと乾杯したいです。じゃあ、乾杯!

このお酒で目指したいのは、穀物酒の高みです。今回のライバル、ビールの皆さんもたくさんいらっしゃって、でも全員が勝ち上がるわけはないことが分かっている中、ビールのことも背負いたいと思って、このお酒を選びました。
どうやって造ったか? 大麦を家庭用精米機でコツコツ磨きました。それを2種類の麹、黄麹と黒麹、人生1回も造ったことがなかったですが、手作業で造って、それをぶち込み、アッサンブラージュして樽熟成、最適化したものを、Far Yeastの樽で熟成しました。
僕が伝えたいのは表現としての酒造りです。世界中に造り手の数を増やしたいと本気で思っています。例えるなら、仮に清酒は水墨画としたときに、クラフトサケで切り拓いたのは色彩の開放です。これによってたくさんのカラフルな絵が描けるようになりました。でもそれだけでは足りないんです。
LINNÉが増やそうとしている麹の技術というのは、絵筆の数を増やすことにつながると思っています。クレヨンでも何でもいいんです。この色彩と絵筆の掛け算で表現の多様性が世界中に広がります。その造り手の数だけ酒が生まれる。酒を本気で造って、国を超えて世界中で造り手が切磋琢磨することが産業創造だと僕は信じています。
ユネスコの話もありますが、これはゴールでもピークでもなく、未来につなげるというのを、一枚絵に表したのがこれです。この米以外の素材も集まって結晶化していくさまを、僕は君が代の国歌につながると思っていて、さざれ石が大きな巌となって苔がむすまで栄えていく、そのビジョンをこの京都の地から、来年醸造所も立ち上げて世界へ発信する、このホームタウンで、今日この夜がそのスタートだと僕は信じています!ありがとうございます」
▶︎『伝統的酒造り』がユネスコ無形文化遺産に登録決定!伝統的なわざと文化を守り・つなぎ、日本が誇る國酒を世界へ(PR TIMES)
同時進行で審査が行われているため、ぷくぷく醸造はこのプレゼンを聞くことはできない。どの方のファイナルプレゼンも素晴らしかったが、今井さんの情熱のこもったプレゼンは優勝に値するもので、胸が熱くなった審査員も多いはずである。
フランスで4年半酒造りをした後、2024年に帰国して京都で創業した今井さんは、ワインが日常の酒として親しまれる地でたくさんの挫折と失敗を経験したと初日のスピーチで語っていた。醸造家の役割はアルコールのゼロイチを作ることと語り、日本の伝統技術を再構築しながら、世界の万物を発酵させることを夢見るとも語った。
さて、それに勝ったぷくぷく醸造のプレゼンとは?
江戸時代の家庭の味、地酒を再現した「#ODAKA」

「皆さんお疲れさまです。今回は3部作のうちの最後、江戸時代のお酒を持ってきました。そこで、江戸時代のクラフトサケとは何ぞやという話をします。
僕は、あくまでもクラフトサケの源流はHomebrew、家での酒造りだと思っています。つまり江戸時代の家庭の味は、江戸時代のクラフトサケということです。
今回、『#ODAKA』という酵母無添加木桶どぶろく、3人でやっている小さな蔵なので、南相馬市限定で販売させていただいているどぶろくです。お酒が届いた方から、ぜひ目をつむって飲んでいただけると嬉しいです。

『#ODAKA』というお酒、今回ちょっとだけ福島の話をさせていただくと、僕はお酒の一番美味しい飲み方は目をつむって飲むことだと思っているので、できれば実家のおじいちゃん、おばあちゃんを思いながら飲んでいただけると嬉しいです。
シンプルなお米と米麹だけの、純米のどぶろくです。僕が一番尊敬している根本 洸一さんのお米を使っています。もう90になる方なんですけど、5年間住めない地域だったにもかかわらず、いまだに有機でお米を作り続けている、僕が一番本当に好きな、尊敬をしている農家さんです。
精米具合は90%。90%というのは本当に江戸時代に削れたと言われているぎりぎりの数値で、なおかつ土着の小高にしかいない自然酵母、野生酵母で発酵させています。
さらに杉と竹だけで編んだ木桶での発酵、こちらは江戸時代の発酵容器で発酵していまして、鴫原 (廣)さんという福島の本当にレジェンド的な木桶の職人さんに作っていただいていまして、90リットルという家庭サイズの桶で造っています。
さらに、空調のない環境での自然発酵、つまりこれは全部江戸時代にできたことで、この味は確実に江戸時代の方が作れたはずなんです。なので、僕はこの酒は江戸時代の家庭の味だと思っています。

僕は日本酒が大好きで、どぶろくも大好きで、ここには日本の美学がつまっていると思っています。それは引き算の美学であり、地域への関わり方、地酒という関わり方だと思っています。
僕には2つ夢がありまして、40年前に造られなくなってしまった酒を、なんとか復活させたいと思っています。今、ご親族と実際に話をして、ようやく連絡先を交換したところです」
もう1つの夢は、前回から立川さんが言い続けていることだった。しかし今回は、いつもはシャイで淡々としている立川さんが、全身の力を込めて叫ぶように伝えていた。
「もう1つは、浜通りの米で世界一うまい酒を造るという夢です。
僕は移住者で、移住したときからずっとこれを言い続けているんですけど、根本さんの米で、絶対に世界一のお酒を造ります! よろしくお願いします!」
自由な発想で様々などぶろくをファントムブリュワリーで醸して、高い人気を得てきたぷくぷく醸造は、2024年末、ついに自分たちの酒蔵を立ち上げてこの決勝の舞台で、江戸時代の家庭で造られていたどぶろく、原点となる引き算中の引き算の酒を出した。
たかが1つのアワードだが、立川さんの声は枯れかかり、表情は鬼気迫っていた。プレゼン終了後のインターバルでは、しきりと後を向いて水を飲み、メガネをずらし、にじむ涙を押さえていた。そうして次の審査員が来ると、再び声を張った。
どれだけ真剣なのか、根本さんが作る米が、土着の酵母が、移住した小高の地がどれだけ大切なのかをど直球に伝えるしかなく、それが酒の旨さとともに審査員の心を動かした。すべてのプレゼンが終わった立川さんは、造ったどぶろくを手に、抜け殻のように座り込んだ。

「この道は間違っていなかった」
最後に残った4組が、自分たちにとって最高の酒を出し、ありったけの力を出してプレゼンしたあとは、入賞発表を待つばかりとなった。
花巴(美吉野醸造)の3位が発表となり、一瞬落胆した表情を見せたMe(KANDA TOSHIMAYA)の木村さんは、すぐに満面の笑顔を浮かべて橋本さんを祝福した。その差は5点。客席にいた花巴チームからは歓声が上がり、一際大きな拍手が壇上に送られた。


さて、優勝の発表である。


そして、あの優勝スピーチである。

「ありがとうございます。ありがとうございます。
ぷくぷく醸造を立ち上げて3年になりますが、本当にこれで良かったのかなとか、ノイローゼ気味になったり、逃げ出したい夜も、眠れない日もありました。
本当にこの道は間違っていなかったのか?とずっと考えてきたんですけど、皆さんに間違ってないよと言っていただいたような気がして、本当に嬉しくて。
浜通り、まだまだ、これからもっともっとよくしていかないといけない。
もっとできることがいっぱいあると思っています。本当に僕は浜通りの地酒で世界一旨い酒を造りたいと思うので、これからもよろしくお願いします。ありがとうございます」
▶︎ぷくぷく醸造の酒蔵が小高にオープン!「地域の魅力を醸す地酒を」代表・立川さんが極めたい酒造りとは。(おだかる)

ぷくぷくチームの隣に座っていたが、発表の瞬間から町田 さくらさんは溢れる涙が止まらない。その様子をスマホで撮影していた内記 朋冶さんも、立川さんのスピーチが始まると、涙を抑えられなかった。ぷくぷく醸造はまだ小さな、始まったばかりの酒造なのである。
まだまだこれから、伸びしろしかないチャンピオンが誕生した。ほかの12組の挑戦者たちも同じで、LINNÉのように無限の掛け算を世界に増やすことに挑んだり、美吉野醸造のように日常酒を通して風土を伝える試みや、Meの新たなジャンルの創造など、それぞれの挑戦者たちが、それぞれの挑戦を今日も続けて、日本の酒産業を豊かなものにしていく。
それを応援するには、獺祭の櫻井 一宏さんがいつも言うように、まずは「買って応援」である。
なお、このアワード優勝者への応援として、マクアケ、プレイド、J.フロントリテイリングから
賞品が授与された。こういった形でサポートをいただけるのは造り手にとって本当に良いことであり、日本らしさを形にした、世界を目指す酒がこの場にどんどん集まってきている状況で、双方にとって将来の大きなチャンスになればと思う。
世界に通用する酒を生み出すことを目指して
このアワードは「世界に通用する酒を生み出すこと」を目的としている。優勝した企業は名刺代わりに紹介できるようになった、売り上げが倍になったという話は聞くが、大手を除いて海外で発売しているのは稲とアガベ(第1回優勝)、伊勢谷酒造(第3回優勝)、HOLON(第3回3位)、haccoba(第4回2位)などまだわずかだ。
それはこのアワードで優勝するよりもさらに高いハードルで、輸出はできても彼ら・彼女らが「通用する」と感じるまでは遠い道のりであるが、挑戦する価値はある。実際に、世界に類を見ないこのアワード、日本の酒の多様性やレベルの高さをパッケージにして見せたい、世界に持っていきたいと言う審査員は多い。いつかそれが現実になる日も来るかもしれない。

優勝したぷくぷく醸造と立川さんの名前は現在、地元の南相馬市の市役所に掲げられている。

決勝の翌日、ばったり会った岡住さんに、クラフトサケは強いですねと声をかけると「みんなが納得する1位で良かった。でもクラフトサケはまだ何もできていないですから」と言った。そう、日本酒の製造免許が新規発行されない現在、彼らはクラフトサケを造ることしかできないのだ。
それでも無数の挑戦者たちが夢を描き道を作ろうともがき、それを応援する人たちがいることで、やがて道は太くなり大きな流れとなる。ICCサミットにはものづくりだけでなく戦略に長けた経営者たちも多い。そんな仲間たちと出会い、競い、高めあうために、ぜひこのアワードに出展や審査員として参加してほしい。
今回ほど「感動した」とあちこちで耳にしたことはない。実力があって、想いがあって、審査員たちの心を大きく動かしたぷくぷく醸造が優勝となった第5回ICC SAKE AWARD。新たなコンテンツが増えるICCサミットでも、一、二を争うほどの緊張感と感動があり、真剣勝負の場である。次回もぜひご期待いただきたい。

(終)
編集チーム:小林 雅/浅郷 浩子/小林 弘美/戸田 秀成


