「僕たちでなければできないですし、僕たち以外の人がやらない、あるいはできない。それをやったほうが社会にとってよくなるというときに、勝手に使命感を感じるんですね。」
オイシックス 高島宏平さんに「経営者として大切にしていること」に関してインタビューを行いました。(その1)の「使命感を大切にする」を是非ご覧ください。
登壇者情報 2016年6月25日開催 ICCカンファレンス CONNECTION 2016 特別インタビュー「経営者として大切にしていること」 (語り手) 高島 宏平 オイシックス株式会社 代表取締役社長 神奈川県生まれ、東京大学大学院工学系研究科情報工学専攻修了後、外資系経営コンサルティング会社のマッキンゼー日本支社に入社。2000年5月の退社までEコマースグループのコアメンバーの一人として活動。2000年6月に「一般のご家庭での豊かな食生活の実現」を企業理念とするオイシックス株式会社を設立し同社代表取締役社長に就任。2013年3月に東証マザーズに上場。その他、2007年には次世代のリーダーの1人として、世界経済フォーラムのYoung Global Leadersに選出される。同年、NPO法人「TABLE FOR TWO International」の理事となり世界の食糧問題に関わる活動に積極的に参加。2011年3月の大震災後には、一般社団法人「東の食の会」の発起人として復興支援活動を精力的に実施。2016年には越後妻有を魅力ある地域にしていくことを目的としたNPO法人「越後妻有里山協働機構」の副理事に就任し活動の場を広げている。 (聞き手) 坂本 達夫=質問者1 松尾 彩佳=質問者2 福村 圭祐=質問者3
使命感を大切にする
質問者1 「自分が、情熱が燃えることをやりたい」みたいな内容のお話が過去の記事に何度も出てきていますが、高島さんご自身は、何に対して情熱が燃えるタイプなのでしょうか?
高島 これは、すごく大事ですよね。まず自分を納得させるというのが。
多分、事業を立ち上げるときも、それが道の50%ぐらいじゃないかなと思います。
まず、自分を納得させることを大切にしていますね。逆に、納得していないとやらないですよね。自分は「納得してないことやる意欲」がとても低いんです。
(ICCカンファレンスに登壇するような)起業家の人たち、ほとんどそうだと思いますね(笑)。「人の言うこと聞く力」が極めて低い人たちなんですよね。
そうすると、何か上司から言われたことをやるというのがどうもだめで、心から納得のいく腹落ちしたことがあれば100倍大変でもやるけれど、納得いかないことをやるのは、ほんのちょっとやればいいことでも、「もう、すごい嫌だ」みたいな感じの人たちが多いと思います。
僕もすごくそういうタイプですね。だから、自分を腹落ちさせる作業というのがすごく大事ですし、今でも新しい新規事業をオイシックスの何かで立ち上げるときや、新しいプロジェクトを進めるときは、自分を納得させることに、すごく時間を使いますね。
何が納得ポイントかと言いますと、社会から必要とされているということが、僕の場合はすごく大事です。
僕たちでなければできないですし、僕たち以外の人がやらない、あるいはできない。それをやったほうが社会にとってよくなるというときに、勝手に使命感を感じるんですね。
誰に言われたわけでもないですが、「俺がやるしかない」「俺たちが頑張るしかない」という使命感が湧いてきて、そうすると「よし!」ってなる。
何かやらなくてはいけないという価値を考えて、「それだったら収益出るかな」と、あとで考えるタイプなのですね。
最初から「儲けどころはどこかな」みたいな感じとは大分違いますね。僕は、社会的に必要とされるかどうかがすごく大事ですね。
質問者1 創業されたのは2000年だと思いますが、このタイミングでオイシックスを創業されたというのは、まさにその使命感「俺がやらなきゃ」というふうになったのでしょうか?
高島 2000年の時は26歳でした。今、このように言語化ができていて、「自分がエキサイトしているときは、どういうときか?」ということを振り返ると、年と共に共通項がだんだん見えてきて、言語化できるようになりました。
当時はどこまで言語化して事業を探したのか分からないですが、やっぱりインターネットを使いたかったですね。それは、インターネットが好きだったし、インターネットを使って社会を良くしたかったですね。
質問者1 2000年というと、ちょうど一般にもPC、インターネットが普及してきたかという時期ですよね?
高島 みんな、「何だろうな?」という感じでやっているぐらいのときでした。
「インターネットを使って、どう世の中をよくするか」というのを考えたときに、衣食住みたいなところでやりたいと思ったときに、「食」がすごく問題がいっぱいあるなということに気づいたんですよね。
みんなスーパーに行くと、スーパーでものを手に取って裏面を見たりしていますよね。不安があるからです。
でも、専門家ではないから分からない。見て、戻したり買ったりしている姿を見て、「何という不幸な買い方なんだろうな」と思ったんですね。
食べ物が、食べていいものかどうかよく分からないというのは、かなり原始的な課題じゃないですか。
僕は、当時はマッキンゼーという会社にいたんですが、2年いる間に、インターネット担当をやりながら、自分で起業をするのはどの領域がよいのか?というは、2年かけてリサーチしていました。
食品の分野はすごくやりがいがあって、かつアメリカでも成功者がいなかったんですよね。
やっぱり、自分で起業するときは、自分のオリジナルなビジネスをやりたいなと思っていました。
海外でも参考となるビジネスモデルがなくて、かつ、世の中にインパクトが与えられそうだなと思ったので、食の分野を選びましたね。
質問者1 マッキンゼーなどの経営コンサルティング会社の方はフレームワークで考えられるじゃないですか。 逆にアメリカで上手くいっているビジネスモデルを日本に持ってうるアプローチのほうが自然なのかなと思いました。
情熱の源泉や価値観の源泉
高島 僕の場合は、皆さんが思われているようなマッキンゼーのイメージとは違うのだと思います。
僕は起業するために自分の弱みを補強するためにマッキンゼーに行ったようなところがありましたね。
学生の頃から起業して、1つ目の会社を創ったのが21歳か22歳ぐらいのときです。そのときの仲間と、「このままだと小さく成功してしまいそうだから、手分けして勉強して、もう1回合流しよう」と言って別れたんです。
それで、僕はマッキンゼーに行きましたし、他のメンバーはIBMやインフォシスに行きました。別れて、3年後に合流するというのが1年前倒しに、2年後に合流したんです。
その間、結構毎週末のように集まって話していました。「何やろうか」ということは、インターネットを使って何をやろうと話していました。
「アメリカで儲かっているビジネスがあるよ」とか、「僕の友達がこういう事業、一緒にやらないか」と言って来たよとか。
いろんな情報がある中で「結局、俺たちは何なんだっけ」や「俺たちは、何が嬉しいんだっけ」というのをかなり議論したんです。
そこで、自分たちがたどり着いたところは「自分たちが社会をよくしたい」だったんです。
「社会をよくしたい」と結構いい人たちじゃないですか。でも、ちょっといい人じゃないっぽいですよね。見たらわかると思うんですけど(笑)。
「いい人」というのではなくて、僕たちは、すごく素直に言うと「社会をよくしている自分が好き」なんだということを、気づいたんですよ。
僕たちは、僕たちがいない世界より、いたあとの世界のほうが、いい世界、便利な社会になっていて、「『ありがとうね』と言われたら、すごく気持ちいだろうな」というところに、自分たちのモチベーションの根っこがあるという。
だから、すごくエゴなんです。
社会をよくしたいのは、「社会をよくしたい自分たちが好き」というエゴを徹底的に表現しきるんだということなんです。ということに情熱の源泉があるなということに気づいたんですよね。
起業でも、それから何か事業でも、「根っこ」(源泉)がすごく大事だと思うんです。「根っこ」というのは、自分たちの情熱の「根っこ」であり、価値観の「根っこ」です。
情熱の源泉は過去の原体験にある
質問者1 過去にそういう原体験が皆さんの中にあったのでしょうか?
高島 1つ特徴的なことで言うと、今でもそうなんですが、僕たちは誕生日とかのサプライズを結構やるんです。
僕らは、誕生日のサプライズを仕掛けるほうが、仕掛けられるより圧倒的に好きな人たちなんですね。
誕生日のサプライズを仕掛けられるとどうしていいかわからない(笑)。
むしろ逆に悔しいみたいな感じになっちゃうから。だけど仕掛けるのは好きなんです。
結構、もてなされるより、もてなす側が好きだし、仕掛けられるより、仕掛けるほうが好き。喜ぶより、喜ばすほうが好き。
それは、原体験というか、自分たちがそういうふうに、そういうふうなところで盛り上がっていたんですよね。
それと、社会をよくして、社会から褒められたいというのとは、おそらく同じようなことなんですよね。
やっぱり今でも、誕生日のサプライズを仕掛けるほうが、仕掛けるより好きな人が、新しく入ってくる社員でも多いですね。
質問者2 社会にインパクトを与えたいとか、社会をよくしたいと思っている人は多いと思うんですよ。しかし、「それがすごく好きで、やりたい」ということは別ではないか?と思うのです。
「食」の分野で熱中できるかどうか?と不安に思ったりしなかったのでしょうか?
高島 多分、社会をよくしたいということが、自分たちのエゴなんだという割り切りをしてるから、あんまりぶれないというか、欲望を叶えているんですよ、僕らは。欲望にないことやらなければいいので。
欲望に従ってやっていくということで言うと、ぶれることはなかったですね。
食なので、市場が大きいじゃないですか。100兆円ぐらいあるんですよ、日本だけで。
何とでもなるんだろうなみたいなのはありましたよね。
16年間 経営者として働き続ける源泉は何か?
質問者1 先ほど「ぶれない」というお話がありましたが、もう16年も経営されていらっしゃって、同じことを同じ領域で事業をやっていて、飽きたりすることないのでしょうか?
高島 バイオリズムが乗ってるころとか、乗っていないころというのは、やっぱりありますね。
スポーツ選手の成績が、必ずいい年があったら、必ず悪くなったりする。それが終わりでもなく、いい年があって、悪い年があって、またいい年があってみたいな感じでね。
経営者個人のパフォーマンスも、いい年や悪い年がある。それよりちょっと遅れて、会社組織としての、いい年があり、悪い年がある。
それは、一定ではなかったですけど、「飽きることないか?」と言うと、飽きることはなかったですね。
なぜかと言うと、何も成し遂げてないからということがあると思いますね。
「何かを達成した感」というか、「満足した感じ」が途中であったら「もう、そろそろいいかな」となったかもしれないですね。
自分たちが思い描いている絵には、まだまだ行けないけど、「行けそう感」もある。多分一生懸命やっているのかなと思いますね。
山に登りたいのか、山に登っているのが楽しいのか、分からなくなってきますよね。
山頂に到達して景色を見たいのか、山頂に到達したいと思って、坂道を登ってるいのがいいのか。
昔は、山頂が目的で、坂道は手段だったんですが、もしかしたら逆かもしれないと思うようになりました。もしかしたら、坂道を上ることが目的なのかもしれない(笑)。
質問者1 「頂よ来ないでくれ!」ということなのでしょうか?
高島 頂は多分来ないんだろうなとは思います。
何も、「成し遂げた感」は残っていないけれど、立ち上げた頃からすると、結構見上げた状態の場所にはいるんですよね。
だけど、あんまり下を見ないというか、1回超えてしまうととその上ばかり見えてしまう。ただ、上がずっと見えてるから飽きてないですよね。
多分、事業領域の特殊性というのもあると思います。食べ物という、非常に奥が深い、非常に原始的な、人間が始めた1番最初の商売だと思うんです。
食べ物を売るという、非常に奥が深く、かつ、毎日感謝されますからね。
お客さんからも、生産者さんからも日々感謝をされるので、良くも悪くもモチベーションが維持されやすい環境だなと思いますね。
(続)
編集チーム:小林 雅/根岸 教子
続きはこちらをご覧ください:人生の「行き当たりばったり力」を磨く(オイシックス 高島 宏平)
今回のインタビューはICCカンファレンスのボランティア・チームの3名(坂本・松尾・福村)が担当しました。30歳前後のビジネス・パーソンや大学生が直面する課題を直接質問することでリアリティのあるインタビューとなりました。
ICCカンファレンスのボランティア・チームはこような第一線で活躍する経営者・幹部と直接インタビューする機会もあります。興味が有る方はぜひスタッフ募集ページをご覧ください。
大学生の福村さんはNPO法人アイセック・ジャパンの事務局長です。2016年9月13日のICC/AIESEC ソーシャル・イノベーション・カンファレンス2016を共催します。
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