9月1日〜4日の4日間にわたって開催されたICC KYOTO 2025。その開催レポートを連続シリーズでお届けします。このレポートでは、ICCサミット最終日、DAY3の最後の時間帯で初開催のワークショップ「ビジネスに直結する「感性育成ワークショップ」- あなたの“感じる力”が、次のイノベーションを生む -」の模様を参加者たちの感想を中心にお伝えします。ぜひご覧ください。
ICCサミットは「ともに学び、ともに産業を創る。」ための場です。そして参加者同士が朝から晩まで真剣に学び合い、交流します。次回ICCサミット FUKUOKA 2026は、2026年3月2日〜3月5日 福岡市での開催を予定しております。詳しくは、公式ページをご覧ください。
左脳だけでは辿り着けない場所を体験するワークショップ
「ビジネスに直結する「感性育成ワークショップ」- あなたの“感じる力”が、次のイノベーションを生む -」は、CHEERS白井 智子さんによるICCサミットでは初開催のワークショップ。7月にICCのオフィスで若き経営者たちやICCの運営スタッフを中心に実施したところ、熱い反応と高い評価を得たため、ICCサミットでの開催となった。
▶︎7月開催時のレポート

ワークショップの流れは、基本的にオフィスでの時と同様だが、ICCサミット最終日ということが特別な意味を加えていた。冒頭、参加者たちがグループとなる同じテーブルの人たちに向けて挨拶をした後に、白井さんはこう語り始めた。

「ICCサミットへのご参加、お疲れ様です。3日間、左脳をフル回転させながらロジカルに物事を考え続け、おそらく頭がパンパンになっている頃かと思います。
皆さんの事前アンケートを拝見しましたが、『普段は“ロジカルモンスター”と呼ばれるほど、論理的思考で仕事をしている』『会社の規模が大きくなるほど、投資対効果が明確な施策にしか手を出せていないことに課題を感じる』など、ご参加いただいている24名中23名の方が『右脳を使うような感覚的な取り組みは苦手』とのことでした。
それでもこの場に参加してくださったのは、皆さんが事業と向き合うなかで、左脳だけでは辿り着けない場所があると、すでにお気づきだからだと思います。
このワークショップでは、そんな“左脳だけでは辿り着けない場所”を体感していただける時間をお届けしたいと思います」

ICCサミットのプログラムをフルに活用して学び尽くそうとすると、いろんな意味で疲弊する。起業家たちの人生をかけた7分間のプレゼンを聞き、先輩経営者たちのここでしか聞けないハードシングスや痛みを伴った経験から学び、ファイナンスから人文系まで様々なセッションで、経営から自分の興味関心までを満たすと、興奮状態が収まらない。
魅力的な人々と出会い、雲の上にいるような経営者たちと輪になり語り合って刺激を受け、落ち込んだり、反省したり、逆にやる気が湧いてきたりする。まさに「ビジネス脳」の左脳がフル稼働する時間を過ごした後は日常に戻り、自分に向き合わなければいけない。
そんな時にこのワークショップは打ってつけで、外にばかり張っていた興味関心のベクトルを自分の中に収めて、自分の感性を改めて見直すと同時に、自分を取り巻く世界の多様性を自然に受け入れられる気持ちになる。アート? 絵を描くなんて苦手だけど?という心配は不要だ。
絵の具を手に取って、ワーク開始!
「ロジックだけでは納得いかないときや、数字だけでは物事を前に進められない瞬間があると思います。それは人間は心があって、感じることがあるからです。同じ会社で同じ部署で働いていてもバックボーンはそれぞれで、感じ方も、同じ言葉に対して連想することも異なります。これからの時間は、自分が何を感じるかをトレーニングしていきましょう」
用意された絵の具のチューブから好きな3色を選び、指で感じるままに描いていく最初のワークは、何を描くという特別なテーマはなく、きれいだなと思ったその感じのままに、色を並べてみるでも混ぜるでも重ねるのでも何でもOKで、やり方は自由。最初こそ参加者たちは戸惑っていたが、だんだん夢中になって色を重ねていく。




絵筆ではなく指でというのが、人間のプリミティブな喜びを刺激するようだ。色を塗り広げるだけで、会場がぱあっと明るくなったのは、単にテーブル上がカラフルになっただけでなく、参加者たちがこのワークを楽しみ始めているからだろう。




描き終わったら、自分が何を思って色を選び描いてみたかを同じテーブルでシェア。全体発表では、ランダムに9月生まれの人を募って発表した。
「頭に浮かんだ色を3つ選びました。手で絵の具を触ってみたくて、シュッと描いてみたくて。水を混ぜてみたらどうなるか、置いたらどうなるか。まっすぐなものやシンメトリーのもの、変化のないものが苦手なので、画面には空間ができました」

「来週誕生日です!(周囲拍手)我ながらいい色だなと。建物が好きなので、わかるかどうか分かりませんが、立体を描きました。そのあとは意図もなく、気持ちよく描きました。同じグループではまんべんなく塗りたくっている人もいるし、いろんな形、使う色、パレットの使い方も全然違うなと思いました」
次のワークに移ると言われた参加者たちは、渋々といった表情で手袋を外した。ここで久しぶりに絵の具を触った人も多いだろうに、すっかり絵の具を使うのが楽しくなってしまったようである。
自分の五感からイメージを膨らませてみる
次回ワークショップ受講を考えている方にネタバレしたくないため詳細は避けるが、ここからは自分の味覚・嗅覚を探っていく。
自分で選んでアウトプットするワークとは逆で、与えられた外部からのインプットに、自分はどんな反応をするのか。白井さんはそれを助けるような様々なヒントを段階的に提示し、参加者たちはイメージを膨らませて手元のメモにどんどん書き出していく。


同じ体験をしたはずなのに感じ方はさまざまで、インプットから受ける印象は、例えば春・夏・秋・冬、人によって感じる季節が違っていた。同じ体験でもこれだけ受け取り方に違いがあるという体験でもあるが、グループ毎で共有する時には、「そんな感じもするね!」と、他人の感覚を楽しむ声も聞かれた。

次にその言語化をさらに深めていくワークが続く。「普段小説を書いたりしていますか?」と、白井さんは参加者に聞いたが、丁寧にステップを踏んでイメージを膨らませた後では、参加者たちの頭の中には、すでに情景や物語が見えているようだ。

同じお茶を1杯味わっただけなのに、まるで自分の子ども時代を語るような情感いっぱいの物語や、自然の情景を細かく描写するストーリー、心浮き立つような逃避行の話、文章のリズムにこだわったものなど、実にバラエティに富んだものが発表された。

次に参加者たちが挑んだのは、再び絵で表現すること。すると先ほどまであんなに楽しんでいた描く作業に、苦戦している人もいる一方で、何枚も描いている人もいる。
「ストーリーは具体的なのに、絵にすると抽象的になったのが面白かった」
「昨晩、運営チームのメンバーと明日はこうしようと話していたことが、描かれているような気がして、今までのワークとは全く関係ないことなのに驚きました」
「同じグループの中で大好きな絵があった。小学生に戻ったような気持ちです」

みんながどんなものを書き、描いたか見てみたい!と鑑賞タイムになり、色々な作品を眺めて回ると、一つひとつが違っていて、物語も絵もそれぞれに面白く、両方を合わせて見ると、また新たな発見があったりもする。

参加者の大多数は、絵や物語は、普段は扱っていない人が多いと思われる。それがたった2時間ほどで、すんなりとその両方を完成させてしまった。最初は恥ずかしがっていた人も、どんどん表現することに前向きになっていった。






しかもどれもよく見たくなるような、美しく面白く魅力的なものばかりで、見るだけでも心が動く。普段の鎧を脱いだ右脳の人々、恐るべしである。
瞑想で未来の自分を想像する
最後は、ウェルビーイングデザイナー渡邊 みかさんのガイドで行う本格的な瞑想体験。体の緊張を緩めて、何度か体の力を抜く呼吸の練習をした後は、部屋を暗くして瞑想に入っていく。

目を閉じて、ゆっくりとした心地の良い呼吸を繰り返し、ある1つのイメージを深めていく。


この時に、ここまでのワークで得た、小さなヒントからイメージを膨らませていく力が役立つ。
この先は、今後ワークショップを体験する人のためにお楽しみとして取っておきたい。それこそ千差万別で、そこから受け取ったものを大事にしている人は多いはずである。

最後に白井さんは、参加者たちにこう伝えた。
「みなさんお疲れ様でした。今日は味覚や嗅覚、視覚などの感覚を使いながら、さまざまなことを感じ取ってくださったことかと思います。
今日感じた”なんかこれ好き””なんかこれ嫌い”のワケをよく考え、言語化していくことが、感性を育成するためにはとても大切です。
左脳と右脳。論理的思考と感性。どちらにも良さがあり、どちらもビジネスを加速させるうえで大切な力ですが、過去のデータや数字を使って、成功確率をあげていく左脳的考察は、あらゆる可能性から選択肢を絞っていく考え方であり、感性を使った壮大なビジョンやワクワクには、無限の可能性があります。
世の中で愛されつづける企業やサービスには、そんな右脳的要素が必ずあり、誰かの心を動かすのは、データでは説明のつかない感性なのです。
経営者になり、経験は増えたのに、夢を思いっきり描くことは少なくなったと感じた方は、今日のワークショップをきっかけに、ぜひご自身のなかの感性の力を思い出していただけたら嬉しいです」
参加者たちは、このワークショップにさまざまな印象を抱いたようである。

おてつたび 永岡 里菜さん「あっという間の3時間でした。日々ビジネスをやっていく中で、左脳をベースに動いてしまうことが多くて、自分で自分を小さくしていることが多いなと思いました。

絵を描いた時に、もっと大きな模造紙が欲しいと思っていた自分がいました。自分で自分を小さくしすぎず、もっと右脳の力を借りて、広い世界を見にいくことが必要だなと思いました。
余談になりますが、左脳に憧れてきた人生で、自分でも意識的に左脳を強化してきた人生でしたが、もうそれを手放していいのかなと思った3時間でした」

フォトクリエイト大沢朋睦さん「何も考えずに絵を描く経験は何年もしていなかったんですが、意外なことに描けました。そういう不思議な感覚を思い起こすことができた。それはなぜなんだ?というのが今まだ自分の中でグルグルしています」
「正解のない作業に没頭して、自己効力感が回復」
ワークショップ終了後も作品を手に持ったまま、みんな興奮冷めやらずといったところ。「自分たちのところでもやってみたい」と言っていた、OWB和田 智行さんに感想を聞いた。

「普段気にしていない嗅覚や味覚に意識を向けて、感じるものを言語化したり絵にしたりして、その作業が新鮮でめちゃくちゃ楽しかったです。
いつも正解を常に探しにいくような脳の使い方をしている中で、正解のない作業に没頭するのは、自己効力感を回復させていただいた感があります」

今回、ガーディアン・カタパルトで2位に入賞した石川樹脂工業 野関さんは、仕事もプライベートも左脳的に考えがちだという。
▶︎「ARAS」を支えた共創のモデルケースを開き、地域産業への貢献を目指す「石川樹脂工業」(ICC KYOTO 2025)
「普段左脳的に考えたり、事業ややっていることのインパクトを考えているのですが、自分の感覚やイメージを解放して、左脳的に考えていない人やそちらが響くような人に対して、どうやってつながっていくか、どうやって解放していくかのトリガーを教えていただいた気がします。
それをスイッチする、シームレスにお互いが心地いいコミュニケーションをする方法を楽しい方法で教えていただける、とてもいい時間でした。
地域に石川樹脂をどう開いていくかを考えるときに、地域の人と関わっていく時もロジカルだけではなく、暮らす人たちの生活や街に対する想い、生き方、人生にどう右脳的にアプローチするか。
ビジネスへのインパクトと、ウェットにつながっていくこと、その両方でつながっていくことが必要だと思いました。これからちゃんと実践していきたいです」

ワークショップの途中では、自分の世界に入り込んで作品を作りながら涙する参加者もいて、同じグループの間では、肩書抜きの会話が深まっていた。ここでは誰もがアーティストとなって作品を作ることに没頭し、自分の世界を表現することができる。
形のないものを創造して伝えることは起業家が日々やっていることであり、ここで体験したことと変わりはない。永岡さんが言うように、経営者となると左脳を強化しがちで、和田さんのように左脳で正解を当てに行く頭の使い方は、世の中に求められていることでもあるとも思う。
しかしそれに限界を感じている人がいるのも確かで、いかに新たなイノベーションや創造する力で突破するか。そんなときに、このワークショップの体験がヒントを与えてくれそうである。
この「ビジネスに直結する「感性育成ワークショップ」- あなたの“感じる力”が、次のイノベーションを生む -」は、ICC FUKUOKA 2026でも最終日のSession 13Eで開催される予定である。少しでも興味を持った方は、ぜひ参加して体験をしてみてほしい。
(終)
編集チーム:小林 雅/浅郷 浩子/戸田 秀成


