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煎茶堂東京は「シングルオリジン」で日本茶をアップデートする

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カラフルなデザインと洗練された茶器が目を引く「煎茶堂東京」は、日本茶の専門店。ブレンド茶が主流のなか「シングルオリジン」にこだわり、旧来のイメージを刷新するデザインとともに、簡単でおいしい淹れ方を提案して注目を集めています。ITベンチャー会社から独立し、デザイン会社LUCY ALTER DESIGNを設立した青柳智士さんと谷本幹人さんが挑戦する、新しい日本茶への試みについて伺いました。ぜひご覧ください。

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ICCサミットは「ともに学び、ともに産業を創る。」ための場です。毎回200名以上が登壇し、総勢800名以上が参加する。そして参加者同士が朝から晩まで真剣に議論し、学び合うエクストリーム・カンファレンスです。次回 ICCサミット FUKUOKA 2019は2019年2月18日〜21日 福岡市での開催を予定しております。参加登録は公式ページをご覧ください。


もしあなたがコーヒーが好きならば、ブレンドコーヒーと、ブルーマウンテンのコーヒーで、何が違うかはご存知だろう。ブレンドならば、複数の豆がほどよくブレンドされたコーヒーで、ブルーマウンテンならブルーマウンテンの豆だけが使われた「シングルオリジン」のコーヒー。では、日本茶については?

玉露、宇治茶、狭山茶、静岡茶……様々な銘柄が知られているが、実はこれはほとんど、その産地によるブレンド茶ということを、ご存知だろうか? 日々飲んでいるペットボトルのお茶。ブランド名はついているけれど、これもまたブレンド茶ということをご存知だろうか?

お茶は、同じ茶畑から収穫されていても、その年の気候によっても味が異なる。それを優れた技術で均一化しているのが、現在、私たちが楽しんでいるほとんどのお茶だ。

それを逆手にとって、あえて「シングルオリジン」、同じ品種でも味や製法の違いを「見える化」し、その違いを個性として楽しもうというのが、今回訪問した「煎茶堂東京」のコンセプトだ。銀座にある路面店は、従来の日本茶専門店のイメージとは一線を画し、純白の店内に、カラフルな茶筒が並ぶ。

ITベンチャー企業から独立し、日本茶の世界に飛び込んだLUCY ALTER DESIGNの青柳智士さんと、谷本幹人さんにお話を伺った。

※ICCサミットFUKUOKA 2019では、ブランドスペース「AGSコンサルティング」のブースにて煎茶堂東京のお茶を楽しんでいただくことができます。

なぜ今、日本茶なのか

青柳さん「日本の中でも穫れる量が少ないものを農家から買い、お客様に、その品種のその年のものを提供しています。現在、全国40数種あります。

従来のような緑の茶葉をモチーフにしたようなグラフィックではなく、それをデザインの力で、グラフィックも空間も含めてプロデュースしています。この店の中にあるほとんどのものは、空間や茶器も含めて僕らのデザインです」

お話を伺った青柳さん

青柳さんはも谷本さんも、デザイン系のバックグラウンドを持つ。青柳さんは3年前のICCサミットで、人事役員としての企業カルチャー作りのセッションで登壇していた。そこから転身して、ブランド戦略や体験をデザインするLUCY ALTER DESIGNを設立。IT企業などの社内にカフェを作るなど、コーヒー事業を行っていた。

青柳さん「コーヒーはライフスタイルを含め、かっこいいイメージがあるじゃないですか。一方、お茶は、旧来の急須など生活感が出てしまう。でも、全部の見せ方をうまくプレゼンできれば、新しいお茶のビジネスモデルができるのではないかというのが僕らの初期仮説です。

シングルオリジンという概念も、日本茶ではあまりありません。

僕らは全国でがんばっている生産者さんと手を組んで、出口に近いところでやっています。入口に近いところは、僕らは生産者でもないし、バックグラウンドもありません。

紅茶とコーヒーも、生産をしていない出口に近いプレイヤーはいます。でも、お茶にはまだいません。そこで僕らが、デザイン的にもビジネス的にも日本で一番になれれば、つまり世界で一位になれます。輸送コストも、コーヒーと比べて軽いので安いです」

デザインの力でイメージを変える

試飲できる水出しのお茶。低温だとアミノ酸が抽出されるので、甘みやうまみが強くなる

店に入ると、まず目に飛び込むのはカラフルな缶だ。茶葉の紹介が添えられていて、味も独自の12の指標があり、お茶なのに「海苔」「果実味」「花」など、見ていると思わず試してみたくなる。これに缶の色の秘密があるという。

青柳さん「ミラノデザインウィークに出展したときに、海外のペンキ缶を見て、インスピレーションを受けました。

僕らのお茶はシングルオリジンなので、茶葉についていろいろな固有の情報があります。火入れの温度や蒸す時間などが茶葉によって違い、その情報を入れると、この色に変換するというアルゴリズムを組んでいます。

産地、製法、味の情報が各茶葉に添えられている

だから、どの茶葉を扱うか決めたときに、缶の色が決まります。海外の人にこれを説明すると受けますね。同じ茶葉でも、年によりプロセスが変わってくるので、缶の色が変わることもあります。味もアルゴリズムの変数に関わっています」

店内のプロデュースはもとより、茶器も作っている。

青柳さん「僕らはデザイン会社でもあり、クリエイティブカンパニーとしてハードも作っています。この透明の急須がそうです。コーヒーのようにギアというか、容れ物、淹れ方までライフスタイルになると、ムーブメントが起こせて、カルチャーとして定着するのではないかと思っています。

トライタンという樹脂で作られ、熱湯を入れても熱くならず、直接持って注ぐことができる

たとえば従来の急須だと、取っ手があって、洗いづらく、欠けやすいという欠点があります。一般的に急須は右利き用に作られていて、左利きの人は使いにくいので、取っ手のないデザインにしました。

ふたにツマミもないので、狭いキッチンでも、茶葉の缶とともに縦にスタッキングができます」

見た目はガラス容器のように見えて、おしゃれでかつ扱いやすい。この急須は、シングルオリジンの煎茶とともに、2018年のグッドデザイン賞を受賞している。

コンパクトで収納にも場所を取らない。中央は一煎目を入れるときの1分20秒を測る砂時計

お茶を三煎目まで楽しむ

早速その急須で淹れたお茶をいただいた。

青柳さん「僕らのレシピでは、一人分4gの茶葉を使い、一煎目は70度のお湯を使い、1分20秒蒸らします。低温で出すのは、うまみをより感じていただくためです。

1回で茶葉を捨ててしまう方もいるかと思いますが、二煎目は80度のお湯で、次は渋みを感じてください。

三煎目は、トッピングです。シングルオリジンの玄米をトッピングして、85度のお湯で淹れます」

解説を聞きながら、それぞれのお茶をいただくと、確かに味は変わっている。一煎目はじつに味わいが深く、口の中で何度も確かめたくなるようなうまみがあり、二煎目は軽くなりながら渋みが加わる。三煎目はまったく別物といっていい、香ばしいお茶に変わった。新しい飲み方の提案である。

淹れ方は極めて簡単で、難しいことは何もない。4gがどのくらいかわからない、どのお茶がいいかわからないというならば、さまざまな茶葉を4gから試せるパッケージもある。

好きな茶葉を5種類選べるセレクションパック。ギフトにも人気

青柳さん「お茶は水で味が変わりますが、なるべくどんな条件下でも、お茶本来の味を楽しめるようにしています。

お客様が自宅で飲むのに、この水でという環境作りは難しい。家庭の浄水器で入れたときにもおいしいというのを、日常に根付かせたいと思っています」

また、お茶と楽しむお菓子も合わせて提案している。

青柳さん「お茶といえばどら焼きなど、和菓子というイメージがありますが、グローバルに言うと、あんこを食べない人も多いですよね。

そこで、貴腐ワインのレーズンや、シナモンアーモンドなど、お茶と一緒に楽しめるものを出しています。

人気のお菓子は品切れのときも

ペアリングで、何のお茶がいいかというのもパッケージでわかるようにしています。お菓子によって合うものが違うので、セットなどもご用意しています」

日本茶に他業界の手法を持ち込む

ここまでの話では、お茶を使って新たな手法を試みる、IT出身、野心的なデザインカンパニーの挑戦に思えるかもしれない。しかし、ふたりは全国の茶農家を回り、生産者と話し、その思いやストーリーを届けたいという強い想いをもっている。自分たちでどのお茶も試し、価値基準にあったものだけを取り扱う。

青柳さん「2017年2月に福岡のICCサミットに行った時に、車を借りて福岡から鹿児島まで、お茶行脚をしていました。いまや九州は一大お茶産地です。

斜面の段々畑でお茶を作るイメージがあると思いますが、九州は平地で作れるので生産高が違うのです」

スリーブで着替えられるオリジナルの有田焼カップ。欠けや割れには金継ぎで対応している

昔からある伝統産業に参入していくときに、ためらいはなかったのだろうか。

青柳さん「歴史もありますし、敬意をもって取り組みを開始しました。一方で業界にお茶が売れないという閉塞感、課題が見えてきました。

ペットボトルのお茶が売れているといっても、生産者にとってはあまり儲けにはなりません。一方、一般の消費者にとっては、お茶を自分で淹れなくなっている。だから解決のしがいがあるというか、新しい人が入ってくることに歓迎される土壌はありました。

そこで、茶農家さんたちと対話を重ねました。僕たちのコンセプトとしてしたいことを伝え、茶葉を取り扱わせてもらえないか、こういう見せ方をさせてほしいと伝えていきました。すると共感をいただき、信頼していただけるようになりました。

プロトタイプという発想がなかったので、3Dプリンタで急須を作ってみるなど発想としてなかったと思います。

インターネット業界の強みは、成長産業だと優秀な人材がいて、優秀なPDCAサイクルをもっています。他の業界、とくにレガシーな業界に行くと、いい意味で新しさをもたらせます。実際インターネット系の人が、リアルな業界に来ることが増えているような気がします」

谷本幹人さん(写真中央)は全国の茶農家を回っている

強みを活かすのは、事業を進める手法だけではない。生産者側、消費者側の両面で、世の中の流れをつかみ、反映していく。

青柳さん「お客様から、いずれトレーサビリティも求められる気がします。そこはブレンド茶と違い、シングルオリジンなので、すべての過程をオープンにできます。

生産者はそこに顔を出せばいいだけではなくて、ストーリーやどういう想いで作っているのか、お客様にちゃんと届くのかどうか、そこまで僕らがデザインできればと思います。そうすると、一次産業にこのモデルを水平展開できるのではと思っています」

現在直営店が3店舗、プロデュースが3店舗あるが、無闇に増やしていく気はない。

青柳さん「店舗を出せば売れるわけではありません。ECやサブスクリプションといった、ライフスタイルを提案し、それに対して納得度の高いモデルを、クリエイティブとセットで作っていきたいと、今いろいろやっています。

店舗での体験も、ただ試飲ではなくて、なぜ試飲をするのかというところから、設計したいと思っています。

誰かに何かを贈りたいから見に来て、自分もいいものを贈りたいというように、わかりやすい動機があって、来たときに驚きがあり、贈ったらこういう顔してくれるかな、あの人、この色が好きだったなというように、来たことに体験価値が上がるような形にしたいです」

日本茶をアップデートする

シングルオリジン同士を混ぜ合わせる「ブレンド体験」も提案する

日本で、日本茶を知らない人はいない。海外まで目を向けるとさらにマーケットは広がる。

青柳さん「国内で日本茶は、再評価のフェーズだと思います。飲んではいたけれど、ペットボトルか茶道へと二極化していました。僕らはその間をブランド化させようとしています。

一方、海外の人にとって日本茶はものすごく新しい。だからデザイン的にも受けることを意識してやっています。コーヒーに比べて輸出コストも安いです。

コーヒーはこれだけお店ができると、臨界点まできていて、カルチャーとして根付いている。同じく嗜好性飲料ということで、コーヒー好きの人が、お茶好きになってくるのではと思います」

日本茶を飲みたいけれど、何を選べばいいかわからないという人から、ホテルやレストラン、引き出物や内祝いなどのギフト市場なども取り扱いが増えてきているという。資生堂が展開するSHISEIDO THE TABLESのように、急須を含めて入れているところもあれば、飲食店のプロデュース依頼とともに茶葉の提供まで行う店もあるそうだ。

スタイリッシュなギフト用のパッケージ

青柳さん「僕らはシングルオリジン煎茶として、トレーサビリティ、フェアトレードに取り組んでいることもあり、スーパーで買える一般的なブレンド茶のものより高いかもしれません。

だからギフトから入り、贈られた方が買いに来るというのが、マーケットとしてこの2年で検証できました。ここからどうスケールさせるかというところへ、やっと来ました。

ここからテックカンパニーとしての色を強めていくつもりです」

新しい世界を開拓しながら、そこで出会う新しい人たちに刺激を受けている。

「ワイナリーの若い人たちが作り始めた日本産ワインが美味しいのです。“フランスを気にしなくなった”というキーワードがすごくいいなと思いました。

代替わりした40歳前後の人たちは、親の世代とは違い、ワインをペアリングを前提にして作っている。

単体で飲むのではなく『この土地の牡蠣と一緒に飲むと半端ないマリアージュがある』と言い、実際飲むとめちゃくちゃ美味しいのです。合わせ技一本というか、新しいなと思いました。

いろいろな食の人たち、ITとは違う脳の人たちと出会うのですが、面白いなと思っています」

この銀座の店舗をオープンしたときには、茶農家の人たちにも声をかけて来てもらった。その時に言われた言葉を、今も青柳さんは忘れられないという。

青柳さん「透明急須を見せると、『めちゃくちゃいいよ、こういうの作ってくれてありがとう』と言ってくれたのです。僕はとてもぐっときてしまって、やってよかったと思いました。

『僕らがんばります! いつでも来てください』と言ったら『わかった』と言ってくれました」

噂を聞きつけてか、まだ取り引きのない農家からも、取り扱ってほしいと問い合わせが来ているという。「日本茶をアップデートする」という理念への期待を追い風として、煎茶一筋で、青柳さんと谷本さんは、今日も新しい日本茶のアプローチを続けていく。

(終)

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編集チーム:小林 雅/浅郷 浩子/戸田 秀成

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