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8月31日から開催予定のICCサミット KYOTO 2020。9月2日には、今回で第4回目となるピッチコンテスト「CRAFTED カタパルト」が開催されます。その登壇者でもあり、その日の晩には名庭・無鄰菴での“一夜限り”の舞台を披露いただく能楽師の宇髙 竜成さんに「お能」の知られざる魅力を教えていただきました。ぜひご覧ください!
ICCサミットは「ともに学び、ともに産業を創る。」ための場です。毎回250名以上が登壇し、総勢900名以上が参加する。そして参加者同士が朝から晩まで真剣に議論し、学び合うエクストリーム・カンファレンスです。 次回ICCサミット KYOTO 2020は、2020年8月31日〜9月3日 京都市での開催を予定しております。参加登録などは公式ページをご覧ください。
6月某日、ICCサミット KYOTO 2020の下見取材で京都に赴いた私たちは、プレオープンしたばかりのエースホテル京都を訪れました。次回ICCサミットのCRAFTED カタパルトに登壇予定の能楽師、宇髙 竜成(うだかたつしげ)さんとの打合せが目的です。
待ち合わせ場所は、ホテル3階の「ミスター・モーリスズ・イタリアン」。隣接する新風館の中庭を望むルーフトップバーで、宇髙さんに“お能”の面白さを教えていただきました。
YouTubeの配信を通じて、能をもっと身近に
室町時代から続くとされる日本の伝統芸能「能」。詳しくご存知ない方も、般若や翁(おきな)のお面や、松の木が描かれた檜舞台と聞けば、すぐにそのイメージが沸くのではないでしょうか。
そんな能の舞台に3歳から立ち、気鋭の能楽師としご活躍中の宇髙さんは、100本以上の動画を自前で配信する“YouTuber能楽師”でもあります。稽古や公演で多忙を極める中、YouTubeでの情報発信を続ける狙いとは?
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宇髙 竜成さん
金剛流能楽師
シテ方
昭和56年生まれ。二十六世金剛流宗家・金剛永謹、及び父・宇高通成に師事。初舞台は3歳。子方時代を経て、プロの能楽師となる。舞台活動の傍ら、初心者にもわかりやすく楽しめる「能楽ワークショップ」を企画し、パリ、韓国、アメリカなど海外でもワークショップを行う。平成27年より自主公演「竜成の会」を主宰。平成29年よりYouTube「竜成の会」チャンネルで動画配信を開始し、より幅広く普及活動に努める。現在京都を中心に活動中。ホームページ:http://www.tatsushige3.com
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宇髙さん「YouTube配信を始めたのは6年ほど前で、家元から初めて公演の主催を許されたとき、そのプロモーション動画をつくってアップしたのがきっかけです。
お能の解説だけではなく、『着物の着方』や『袴のたたみ方』といったコンテンツも扱っています。
さすがにニーズないやろと思って配信したら一番アクセスを稼いでしまったのは『裃(かみしも)の着方』の動画です。裃というのは、“遠山の金さん”が着ているやつですね。
裃(かみしも)の着方 ~前編~(YouTube「竜成の会」チャンネルより)
『祭りで裃を着ることになったれけど身近に着付けられる人がいない』という方々からの根強いニーズがあるようで、Googleで“裃 着方”と検索すると一番にヒットするようになりました。祇園祭で歩いていると、『あ、裃の動画の人だ!』と言われることもあります(笑)。
そうしたお能と直接関係のない動画でも、何人かに一人がお能に興味を持ってくれて、いつか『今度お能を見に行ってみようかな』となればいいなと思って続けています。チャンネル登録数は5年かけてまだ900を超えたところですが、ツイッターの応援コメントをモチベーションに日々配信しています」
「金剛流能楽師 シテ方」ってどういう意味?
宇髙さんの肩書は、上記のプロフィールの通り「金剛流能楽師 シテ方」というもの。能の主人公は「シテ(為手、仕手)」と呼ばれ、それを演じるのがシテ方です。能では役割ごとに流派があり、笛には笛の、鼓には鼓の流派があります。
現存するシテ方には5つの流派(観世流、宝生流、金春流、金剛流、喜多流)があり、ここ京都の金剛流以外の4派の拠点は、すべて東京にあるそうです。
宇髙さん「シテ方の流派はかつては五流とも江戸幕府に仕えていたのですが、金剛流は本家が一度途絶えてしまい、京都御所に仕えていた分家が宗家を継承したことで、僕たちが唯一の京都在住の流派となりました。
金剛流は“舞金剛”(まいこんごう)とも言われるように激しい動きが特徴的で、歌はそれに付随するものと捉えられています。正反対なのは宝生流で、“謡宝生”(うたいほうしょう)と言われるように謡に重きが置かれ、舞はシンプルです。
そう聞くと『色々あって、取っつきづらそうだな』と思うかもしれませんが、言ってみれば、各流派はプロ野球チームのようなものです。それぞれの強みやカラーにファンがつくように、派手な舞が好き、あまり動かないのが好きなど、どの流派を好んで見るかはその人のお好み次第です」
ちなみにこの「舞」という言葉。宇髙さんが、お能を題材に「舞と踊りの違い」を解説されている動画はなるほど!と膝をたたきたくなる内容です。お能の動きはなぜ、「踊り」ではなく「舞」と呼ばれるのか。ぜひご覧ください。
舞と踊りの違い(YouTube「竜成の会」チャンネルより)
能面(お面)をすると、前はほとんど見えない!
金剛流の特徴は「舞」にあり。しかし冒頭でも触れたとおり、お能では能面(お面)をかぶりながら演舞が行われます。この能面についても、面白い話を教えていただきました。
宇髙さん「目の部分の穴はわずか5ミリ四方程度。面(おもて)をかけるとそれが少し離れたところに見えるので、視界は大分狭いです。それ以外には、それよりもさらに小さい光の穴が足元に見えるのみ。階段をあがるような動作は至難の業とも言えます。
面をかけて舞う能楽師(宇髙竜成 公式HPより)
ではどのように舞うかというと、舞いながら舞台の四方に立っている『柱』を視界に入れることで、自分の立ち位置を把握するのです」
激しく舞台の上で旋回しながら、頼りになるのは5ミリの穴から見える柱のみ。能楽協会の能楽事典によると、一つひとつの柱には名前がつけられているそうです。
舞台に向かって左手前の柱は、その名も「目付柱」。その他の柱にも、シテ、ワキ、笛方の各役割の立ち位置(座り位置)に因んでだ「シテ柱」「ワキ柱」「笛柱」といった名前がつけられています。
能面をした状態での見え方については、以下の動画でも解説されています。全く見えないという感じでもなさそうですが、この視界で旋回したら一瞬で向いている方向が分からなくなりそうですね。
面をかけた役者の視界(YouTube「竜成の会」チャンネルより)
同じ公演は一度きり。お能は「一期一会」を重んじる
CRAFTED カタパルトでのプレゼンテーションのイメージについても伺いました。かつてTEDx KYOTOにて、14分間で能の文化を解説されたという宇髙さん。
▶Noh changes with imagination | Tatsushige Udaka(YouTube「TEDx Talks」チャンネルより)
カタパルトのプレゼンテーション時間は、その半分の7分間です。今回はどのような形式でのピッチを想定しているのでしょうか?
宇髙さん「能装束を着て壇上に立てばインパクトはあると思いますが、見た目が強すぎても逆に安物っぽくなってしまうので、格好は紋付かもう少しラフな着物にして、『能面』にフォーカスをあてたプレゼンテーションにしたいと思っています。
能面は、角度や光の当て方で全然違う表情になります。怖い能面ほど目の部分に金属が入っていて、下からの光で目が光るような作りになっています。
能面のご紹介 ~鬼編~(YouTube「竜成の会」チャンネルより)
ただ、僕が実際に面をかけながら説明してしまうと、能の世界観を崩してしまいます。僕らの分野では、見る人のロマンを崩さないことを頑なに守り続けています。まるで本当の出来事がそこで起こっているように『一期一会』を演出するのが、能の舞台のコアになるのです。
例えば歌舞伎では、同じ題目を1週間や1ヶ月続けてやりますが、能では2日以上同じ題目を繰り返すことはしません。お稽古も、日頃から面をかけて行っていれば毎度同じクオリティーの舞台をお見せすることができますが、それでは『一期一会』にならないので、それもしません。
皆が集まるお稽古も同じです。日頃から全員でお稽古していれば上手になりますし息もあうでしょうが、それでは本番は“同じ感じ”にしかなりません。ですから僕らはそれぞれが別の場所お稽古して、全体で練習するのは本番前の一度だけなのです」
どの能面を使うかは、演じる当日まで分からない
今のお話を聞いて「へぇ!」と驚嘆する私たちに、きょとんとされる宇髙さん。
宇髙さん「あれ……もしかして、こういう話をしたほうがいいですか?
皆さんよく、僕らが日頃から本番と同じ能面をかけて練習していると思われるのですが、そうではないのです。僕らは下積みの時代から、お師匠さんの所作を見て『面があの角度になればあの表情になるんだな』ということを学びます。
僕らのような弟子家と呼ばれる能楽師は家元から能面をお借りするのですが、それを渡されるのは演じる当日です。届いたばかりの能面を見て、事前にイメージしていたものとこれぐらい違うな、角度はこれぐらいがいいなと頭の中で修正して本番に臨むのです。これも、僕たちにとっての『一期一会』とも言えます。
日々のお稽古はあくまで予行演習で、旅行であればそのプランをつくっているに過ぎません。実際の旅行は予定通りに事が運ぶことはほとんどありませんが、そこに楽しさや出会いがあります。能が、今言ったような演じる側・見る側双方にとっての一期一会を大切にしているのもそのためです。
当然、題目ごとに舞台の上でやることは決まっていますが、やり方は決まっていません。西洋の音楽のように譜面にbpm(beats per minute)が書かれているわけではなく『ここでゆっくり』『ここで早く』と決まっているだけです。
さらに言うと、誰がやるかも決まっていません。舞いながら『笛来たー!』とか思ったり、『え、ここで来ないの…?』と思ったら後ろから鼓が来たり、さらに舞台を見ている人の高揚感も重なって、その場に一体感が生まれるのです」
千年以上にわたり、時の武将や為政者を魅了してきた能
宇髙さん「他の伝統芸能が一期一会でないとは言いませんが、能で重んじられる『一期一会』の考え方とそのライブ感こそが、生き死にを生業にしていた当時の武将たちが能に傾倒した理由の一つとされています。
余談ですが、かの伊達政宗もお能が大好きで、自分が見たかったお能に遅刻したときには、能役者を呼び戻してやり直させたという逸話があります。これは、一期一会を大否定していますが(笑)。
能は鎌倉時代からその原型となるものが存在していて、室町時代に今のスタイルが確立されたとされています。観阿弥の息子、世阿弥が足利義満をパトロンにつけたことでさらに広がり、豊臣秀吉は全ての流儀の能楽師に給料(配当米)を支給する政策を打ち出しました。
江戸時代には諸国の大名は能を習い能楽師を雇い、能装束・能面を集めなければいけないとされました。幕末以降も、諸外国を視察した岩倉具視が能にオペラ同様の価値を見出し華族による庇護を実現したり、その後も財閥の支援を受けるなどして現代まで守られてきました。
しかしこれからの能がどうなってゆくの?というのは、今まさに自分たちに期待されていることだと思っています。
こうして能のことを知ったように話してはいますが、能は奥深すぎて、未だに『こういうことだったのか』と新しい気づきを得る毎日です。能を理解するには、一生時間があっても足りないぐらいです」
“得体の知れない”魅力を、世の中に届けたい
宇髙さん「昔、僕ら能楽師が寺社仏閣に仕えていた頃、神様をはじめ生身の人間には演じられないものが生じ、能面が誕生しました。さらに女性を演じるためのお面も生まれ、室町時代には幽玄、禅の思想から複雑さを増して色々な表情の面が生まれました。
僕らは能面のことを“面(おもて)”と呼びますが、『面をかぶる・つける』とは言わず『面をかける』と言います。それは、お面が主役で僕らはそれを助ける役割だからです。
神様のお面であれば、そのお面は神様として存在します。自分のからだにその面をかけて、そのからだを人形のように演じる。言ってみれば、人形を操る『文楽』と、生身の人間による『歌舞伎』のちょうど中間のような感じです。
僕はこれまで、一般向けのワークショップなどを通じてお能のことを色々な形で説明してきました。そうした経験の中で気づいたのは、能の魅力の一つはその複雑さであり、初めて見たときに感じる“得体のしれなさ”だということです。
今の世の中を見渡すと、物事のすべてを理解しようとするその風潮には、奥行きがなく、息苦しさを感じることも少なく有りません。得体の知れない、一期一会の能を通じて、現代を生きる皆さんの想像を駆り立てることで、世の中を豊かにできないかなと思っています」
◆ ◆ ◆
茶道の心得として知られる「一期一会」の言葉ですが、茶の湯も能も、多くの戦国武将がその虜になったことを考えると、そこに日本文化に流れる精神性のようなものを感じますね。
そして、ICCサミット参加者の方には朗報です。宇髙さんは次回ICCサミット KYOTO 2020のCRAFTED カタパルトに登壇いただくほか、ICCサミット会期中に“リフレッシュ・プレイス”として参加者に開放される無鄰菴のライトアップ企画にあわせて、一夜限りのお能を披露いただく予定です!
ご参加予定の皆さまにおかれましては、日頃の喧騒を離れた一期一会の夜を、どうぞお楽しみに。
宇髙さん、お忙しいなか貴重なお話をありがとうございました!当日はよろしくお願いします!
(終)
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編集チーム:小林 雅/尾形 佳靖/戸田 秀成
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