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人間がコントロールできるのは『今』しかない。全員がそれを理解・実践できるようになるだけでチームは変わる

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異分野対談シリーズ第一弾。健康に生きるための方法論を研究し、日々企業向けワークショップなどを実践する石川氏と、日本を沸かせた日本代表ラグビーチームのコーチングディレクターとして活躍している中竹氏。2人が専門知識をベースに人材育成、能力開発に関するユニークなディスカッションを展開。会場は「なるほど!」の嵐となりました。後篇の「人間がコントロールできるのは『今』しかない。全員がそれを理解・実践できるようになるだけでチームは変わる」をご覧ください。

ICCカンファレンス CONNECTION 異分野対談「石川 善樹 X 中竹 竜二」(後編)

登壇者情報
2016年2月17日開催
ICCカンファレンス CONNECTION
異分野対談   「石川 善樹 X 中竹 竜二」

(スピーカー)
石川 善樹  株式会社 Campus for H 共同創業者
中竹 竜二  公益財団法人日本ラグビーフットボール協会 コーチングディレクター

(モデレーター)
小林 雅     ICCパートナーズ株式会社 代表取締役

前編はこちらをご覧ください:ゾーン(究極の集中状態)に入るための3つのステップ。「ストレス」「リラックス」「集中」


小林雅氏(以下、小林) 前に中竹さんと食事をした時に、エディジャパンの話になったことがあります。エディ ヘッドコーチはむちゃくちゃ練習が厳しいと。そういう極度のストレスの中で結果を出すのはすごいなと思っていたのですが、それと通じるものがあるように思われますね。

石川善樹氏(以下、石川) エディさんとのミーティングというのはどのような感じなのですか。

中竹竜二氏(以下、中竹) 相当厳しいです。本当に厳しいハードワークを選手らに求めるんですよ。だから石川さんの話しを聞いて、あの極度のストレスがゾーンへ誘っていたのかと思いました。

小林 完全に南アフリカ戦とかはゾーンというか、すごい集中力ですよね。

中竹 そうですね。すごい集中力と逆にリラックスもありました。話を聞くと、試合が始まって15分くらいで「今日いける」と思ったらしいです。

石川 そんなに厳しい人だったのですね。

中竹 そうです。厳しくてかつ尋常ではないことをやってきたので、だからああいう結果が出たのかなという感じはしますね。

石川 危機感を作るのが本当に上手かったのですね。

中竹 本当です。厳しさとの戦いです。

石川 すると『ウォーキングデッド』は見る必要はなかったのですね。

中竹 一番厳しい人が目の前にいるわけですから。

石川 僕はエディー・ジョーンズさんとテレビの対談で一緒になったことがあるのですが、その時は大変ニコニコしていました。そして、彼が一番日本のラグビーチームで驚いたのは、「今日どうだったか」と聞くと反省点しか言わない、と。勝った試合でも反省しかしていないから、もっと良いところを見なよと、そんなことを言っていたのですが。

中竹 それで選手が良かったところを言うと、エディは厳しい人なので「そんなんで良いのか」という話になるでしょう。彼はよく、言っていることがコロコロ変るのです。朝礼暮改という言葉がありますでしょう。そんなところではありません。朝礼朝改です。どれくらい一貫性をもってやるのが大事なのかという話をしたときに、即答で「朝礼朝改はアリだ」と言ったのです。

 

要するに、朝言ったことは朝変えてもいいのだと。何故かと言うと、こちらは本気で考えているから、言っていたことがもし間違えだったと思ったら、一貫性を保つより良いことに乗り換える方が大事だと。「俺の言うことがコロコロ変わると言われても良いのだ。そちらの方が良いことをやれるのだから」と言う。

そこの信念はすごかったです。だから誤解されている面もあります。選手からすると、言われたことをただやると、「これをやれ」と言われてやったら激怒されるわけですから。ですから、それくらい何をやっても怒られるという厳しさは常にありました。

石川 それはトップ研究者と近いかもしれません。トップ研究者はセオリーとかを考えますでしょう。そして、考えた瞬間に次は何をやるかは二つある。一つは自分が考えたことに当てはまらない例外をすぐに探しに行くのです。そしてもう一つ。

例外がなさそうだと思ったら、自分の考えの原則に立ち返って、その原則から考えるとどういう間違えがありうるのかを探すのです。自信満々でありながら、ものすごく謙虚。この相矛盾するものが同居しているのがトップ研究者なのです。

中竹 信じながら疑っているということですか。

石川 そうです。エディさんはそれに近いかもしれません。

中竹 もちろん僕自身彼を見ていて、本当に彼は世界一だと思うくらい人を変える力があったのですが、選手に聞いたのです。五郎丸選手を含めリーダーたちに聞いたのです。

これは意図的かどうかはわからないけれど、練習をやっている時に、自分たちの中では言われた通りにやり、戦術も上手く行き、「よくやったな今日の練習」と選手たちの間で言った瞬間に激怒されたりしたことがあるらしいのです。

それが一回や二回ではないらしい。何なのだろうこれはということになる。そして、ずっとやって最後勝って話を聞いた時に、「これはもし意図的だったらすごいよね」という話になったのです。

やはり人間はカオス体験で本当の進化が起き、カオス体験で成長していくのですが、あえてそれを作りだしていたのではないかとリーダーたちは言っていた。実はそれを聞いたことがあったらしいのですが、答えてくれなかったそうです。

「テクニックとスキルは違う。日本のスポーツはテクニックを重視しすぎる。スキルを高めることが重要だ」(日本ラグビーフットボール協会 中竹)

石川 これは(陸上の)為末大さんに聞いた話なのですが、日本で強いスポーツというのは、練習と本番で同じ動きをするものが多いと言うのです。実際球技とかですと、状況状況で何が起こるかわかりませんよね。

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そして、日本というのは生まれた時から電車は時間通りに来たりとか、気温も調整できたりというように、物事が予測できるという前提で社会ができていると。しかし、ブラジルなどでは物事が前提どおりに動かないという前提で動くから彼らは強いのだと言っていたのです。

中竹 まさにそうだと思います。なのでこの4年間で、僕とエディ・ジョーンズでコーチングの指針を変えたのです。日本のラグビーのコーチングの指針を明確にしようということで僕と二人で作った。みなさんは、テクニックとスキルの違いというのはわかりますか。スポーツをやられている方はいますでしょうか。

小林 そちらの方、違いがわかりますか。

質問者1 サッカーで言うと、テクニックは例えばドリブルでどういう技ができるかということで、スキルはその技術を試合で例えばパスを出すとかシュートを打つとかというように落とし込むことだと思っています。

中竹 正解です。素晴らしいです。実は、これは世界的に定義はないのですが、日本のラグビーの中で決めようということで決めた。テクニックというのは身体的な動作です。

練習での素振りであったり、四股であったり、要するに型なのです。対して、スキルというのは、アンダープレッシャーです。本当の試合に近かったり、プレッシャーの中で状況判断、ディシジョンメイクを伴うものです。こういう定義です。

そして、僕らが分析したところでは、高校世代までの練習は、ラグビーだけでなくほとんど日本のスポーツはテクニック重視なのです。ほとんど敵を伴う練習をやっていなくて、美しい練習、成功する練習をやっている。決まったことを決まったとおりにやるというのは、練習そのものからそうなっているのです。

これではいけないということで、日本代表の練習から全部練習を変えて、敵をつけない練習を排除した。これは結構難しいのです。コーチは大変でしょう。敵を毎回つけなければいけないというのは。しかし、これで劇的に変わったと思います。

日本代表が強くなったのは、スキル練習を大幅に増やしたから。僕は企業のコンサルタントなどもしているのですが、営業などはそうです。ロールプレイングで実際にやってみなければならない。言葉を覚えたり、情報を覚えても、現場へ行った時に表情が読み取れるかというのが結構大事ですから。

なので、ディシジョンメイクを切り取った練習というのは日本ではすごく大事だと思うのです。

石川 それを聞いていて思い出したことがあります。ゲームで『桃鉄』(桃太郎電鉄)ってありましたでしょう。この『桃鉄』を作ったさくまあきらさんの話を聞いたことがあります。

ゲームでは、ボンビーというのがキングボンビーというのになっていろいろ悪さをするのですが、これが最初はスタッフから大反対されたそうなのです。と言うのは、キングボンビーというのはどう考えても理不尽すぎるからです。つまり、これはプレイヤーが受け入れられないだろうという話になった。

でも、さくまさんの考えでは、理不尽なことを自分のせいであると思わせることがゲームの本質だと思っているらしいのです。

中竹 深いですね。

石川 ええ。昔ゲームを作っていた人はそうなのです。理不尽なことを自分のせいだと思わせると、人々は繰り返しそれをやるようになる。

中竹 それは本質ですね。

石川 そして、キングボンビーはボンビーから進化するまでに少し時間があるのです。『桃鉄』は四人でプレイするのですが、その時間の間に友達にボンビーをくっ付けると自分からは離れてくれる。

だから、本当はそれができたはずだと。それができなかったせいで自分がキングボンビーになってしまったのだというふうに、自分のせいだと思うだろうと言っていたのです。

中竹 自責を持たせるというのが一つのポイントなのですね。

石川 ですが、先ほどのお話を聞いていて、人は理不尽なことが起きた時は他の人のせいにしたがる傾向があるのではないかと思いました。これは相手が強かったからとか。それを自責に向かわせるコツというものは何かありますでしょうか。

中竹 多分、一人では不安になると思うのです。これも本当に聞いたのですが、ウチの代表チームでもリーダーグループを作ったそうです。やはりチームにしがみ付く人間とチームを引っ張る人間というのは意識が違う。

理不尽が起こった時、付いていっている人間は理不尽に耐えられなくなる。ですが、少し上から俯瞰している人間は「ちょっとこれは意図があるのかもしれない」というふうに考えます。

ラグビーでは良いと思ってやったプレーが審判の判断によって覆されることがあるのです。わかりやすいルールではない。意図的にやったかどうかで反則がひっくり返るということがあるスポーツなのです。ですから、プレイヤーとしては結構パニックに陥る。ですから、

もしかしたらエディ・ジョーンズはこれを意図的に練習の中で、理不尽が振ってくるというのを何度も作り、しかもそれを他人のせいにするのではなく自分たちで解決させる。「こんなところでジタバタするな」、ということをひたすら4年間やられたのではないかというのを、実はリーダーの6人だけで共有していたのです。

そして、みんな言っていたのは「一人では無理だった」ということです。一人では絶対他人のせいにしたけれど、「やっぱおかしいよね」「いや、おかしいよね。俺も思ったんだよ」とみんながおかしいと言うと少し安心するらしいのです。そして、自分たちは代表チームだから仕方がないという形になったらしいです。

「長く活躍できる人ほど、その日その日でどういう目標設定をするのかというのがすごく上手い」(Campus for H 石川)

小林 それではみなさん、聞きたいことがいろいろ出てきていると思いますので、質疑応答に入りたいと思います。誰か質問をしたい人はいらっしゃいますか。何でもいいです。ラグビーのことでも。

質問者2 石川さんとはよく話すのですが、先ほどのゾーンの話についてお伺いします。僕はよく集中で資料をくる時に、サウナに入って徹底的にストレスを溜めた後、気温が涼やかなリラックスルームのようなところでやった後、効率も良く、良いアイディアも浮かぶというようなことがあるのです。これはまさにゾーンなのでしょうか。

石川 そうだと思います。

質問者2 これを組織的に、例えば何十人とか何百人という、個人ではなく組織をゾーンにしていくというようなアイディアがあったら教えてもらいたいです。

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石川 組織をゾーンにする時、まず大前提で大事なことをお話します。ステップ1のストレスを作る、危機感だったりこれをやりたいのだというワクワク感だったりそういうものを作るのはトップの力量によると思うのですが、ステップ2と3は結構やりやすいと思うのです。

ステップ2のリラックスするというのは、まず姿勢を良くして呼吸をゆっくりにするだけでできる。ただ、今ほとんどの人がどういうふうにして働いているのかと言えば、ノートパソコンを使っているので手が縮む。そして背中が曲がる。これは完全にゾンビなのです。

この状態でやっていると肺が縮まるのでむしろストレスが溜まりやすくなっている。ですから、姿勢を正して、リラックスしてパソコン作業ができるような、パソコン環境を整えてあげるということが大事なのです。

これには二つポイントがあります。一つは机の上にキーボードがある時点でストレスなのです。腕を上に上げなければならないから。本当は膝の上でキーボードを打つと全然肩は凝らないのです。

もう一つは、パソコンのモニタ画面を上げるということです。ちゃんと座った時に、モニタ画面の上三分の一くらいが目線に来るようにすると、まずはリラックスができる。

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そして、ステップ3のやるべき行動を設定するというのが結構難しいのです。と言うのは、その日その日でその人のパフォーマンス、体調やメンタルによってどれくらいの行動ができるかというのは違う。長く活躍できるアスリートと、一発屋で終わるアスリートの違いを研究したことがあります。

どういう目標設定の違いがあるのか。決定的な違いは、長く活躍できる選手ほどその日その日でどういう目標設定をするのかというのがすごく上手かったのです。この練習ではこの目標設定をする、と。

その立て方がどうして上手かったかと言うと、普通の人はゴールがあって現状があったら、そこまで段階的に上げていこうと考えてしまう。

しかし、一流選手はその日によって体調が違うということを知っているから、柔軟に目標行動を上げたり下げたりしているのです。そのように、毎日毎日適切な目標行動を設定してそれを着実にクリアしていくということをずっとやっているとゾーンに入りやすくなる。

ですから、3つのステップを組織でやる時には、まず強烈なストレスをかけるということ、パソコン環境を整えるということ、そして三つ目が目標設定の仕方です。特にこれは日々の。日々の目標設定の仕方をみんながきちんと習うという、この三つをやったら組織としてゾーンに入りやすいのだと思います。

質問者2 ありがとうございます。

小林 ありがとうございます。それでは他の方。

「人間がコントロールできるのは『今』しかない。全員がそれを理解・実践できるようになるだけでチームは変わる」(日本ラグビーフットボール協会 中竹)

質問者3 私はもともと研究の世界にいた人間なので、理不尽というのは大好きでした。私はそういう理不尽なな世界から、今度は自分で組織を持って運営してくるようになると、やはり理不尽に対して弱い者もいっぱいいる。

そこをしっかり見極めないと人を潰してしまうというところが懸念としてあります。多分、経営者のみなさんもそうだと思うのですが、理不尽に強い者がリーダーになりますでしょう。

一方で、組織になると理不尽に弱いものが出てくる。そこで、個人における理不尽に対する抵抗力の強さ、「グリット」が強いというところを見極めるための特性というのは何があるかというのが1つ目の質問です。

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2つ目の質問は、先ほどあったように、組織的にその理不尽さに対してある程度免疫を付けさせるための仕組みがあるのであれば、その仕組みというのにもコメントをいただければ面白いなと思って質問しました。

中竹 僕が去年チームを作った時に、メンタルコーチを入れたのです。結構有名なコーチなのですが、一つはレジリエンスという言葉を使っていました。逆境に耐えうる力。これは理不尽に耐える力ですね。スポーツ界ではあまりやられていなかったのですが、これをしっかり選手たちにレクチャーをして、ワークをやった。

いろいろな理不尽が来ても、人間がコントロールできるところと言うのは「今」しかないのだということを念頭に置かせた。

いちいちいろいろ考えても試合中は変わらないし、組織も変わらないから、「フォーカスするのは今にしましょう」というのを伝え続けていた。実は遠まわしにして言いたいことはそこだった。3ヶ月くらいかけてずっとそれをやっていたのですが、個人が全員それをやれるようになると相当強いです。

石川 ですから、理不尽な時にとにかく他人のせいにするのではなくて、自分に向かって「これをやるのだ」という。

中竹 「今」にフォーカスしないで、「これをこうしたら負けてしまうね」「こんな理不尽がきたら不利になるよね」とか言っていたら駄目。結果に関わらず今をどうするかが大事。さっきやったミスがどうとかは関係がなく、頑張ってその前後を縮めて、今やっていることに全員で集中する。チームのプロセスも一緒です。結構面白かったのが、ミスした人間というのは試合中も下を向いている。

ここで僕らはワードを作った。「フォーカス・オン・ナウ」とそのままのワード。誰かがミスをしたら「ドンマイ」とか「次頑張れよ」とか言うのではなくて、「フォーカス・オン・ナウ」というチームワードを決めてやった。

するとミスをした人間も上手くいって、調子に乗っている人間も「今」にみんな戻ってこれて、チームが機能したというのはすごくあります。だから、シンプルですが、ワードを決めて、みんなが一個に集中するというのをやりました。

石川 アメリカにヒューマン・パフォーマンス・インスティテュートというところがあります。そこはいろいろなスポーツ選手がメンタルトレーニングなどをするところなのです。理不尽なことが起きた時って感情が揺らぐと思うのです。それはネガティブに揺れたり、良いプレーをすると今度はポジティブに感情が揺れたりする。

ですから、そこでは喜びをどう早く捨てるかとか、怒りとか悔しがるという気持ちをどれだけ早く捨てるかというトレーニングをするらしいのです。

中竹 まさに落ち込んでいる時だけではなくて、上手く行っている時も怖いですからね。パフォーマンスは落ちますから。

石川 そういう意味ではトップ研究者が何かを思いついた瞬間に「いやいや」と言って例外を探すというような、自信満々と謙虚さというのを同居させないといけないと思うのです。

中竹 あとこれはもう一個参考になるとすれば、これは調べればパッと出てくるのですが、リゾナンス・パフォーマンス・モデルという言葉があります。これはドリームという言葉を使う。ドリームというと本当に夢、アメリカンドリームのような話を思い浮かべると思いますが、ここで言う、心理学の中で言う「ドリーム」とは、自分の中にあるドリーム。

どちらかと言うと小さな喜びなのです。僕なんかはインナー・ドリームと言っている。要するに、本当に世界を制しているトップアスリートは、実はインナー・ドリームを大事にしているのです。このドリームは何かと言うと、勝ってみんなから祝福されたとか優勝して胴上げされたとかではないのです。

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それらは勝った結果の喜びですが、そうではなく、とにかく「走る瞬間が気持ち良い」とか、「泳いで右手を入れる瞬間に快感を感じる」とか、「バットを振る時の腰を入れる感じで喜びを感じる」とかという、勝ち負けではない、自分の特に身体の部分で喜びを感じるというものなのです。

小林 深いですね。

中竹 深いのです。このモデルは結構前に研究されたのですが、実は先ほど言ったレジリエンスをやる時に、これも導入して、選手たちにワークさせて、「お前たちのドリームは何なのだ」と尋ねる。「勝ちたいとかではなくて、お前の本当の喜びは何なのだ」ということを相当ワークで詰めてやったら結構成果が出た。

しかし、30人中ドリームが本当に見つかった人間は5人くらいしかいませんでした。すごく難しいのです。その研究でも、インナー・ドリームを本当に見つけるのは難しいということが言われている。トップアスリートでさえ見つけられない人もいるのですが、見つけた人は長く競技を続けられるのです。

石川 それを聞いて思い出したのが、心理学の世界で言う外的モチベーションと内的モチベーションということなのだと思うのです。勝って嬉しいとかではなくて、自分の中で気持ち良いものを見出す。その研究でとても面白いことがわかりました。

外的モチベーションより内的モチベーションの方がパフォーマンスを高くすると知られていたのですが、ある研究者が「ちょっと待て、普通の人間は両方持ちたがるのではないか」となったのです。仕事であっても、仕事自身が楽しいというだけではなくて、給料も欲しいとか昇進もしたいとかありますでしょう。

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そして調べたのです。内的モチベーションが強い人。外的モチベーションが強い人。そして、内的も外的も両方ある人。この中で一番パフォーマンスが低い人が、両方持っている人なのです。それから次が外的で、一番良いのが内的なのです。ですから、結局今はどういうことになっているかと言うと、一つの仕事にすべてを求めるなと。

この仕事は外的モチベーションのためにやろうとか、こちらの業務は自分の内的モチベーションのためにやろうとか、分けろと今は言われているのです。これは女性が男性にすべてを求めすぎると失敗するように、多分役割ごとに分けた方がいいのです。これをする男子、あれをする男子というように。

中竹 アッシー君、メッシー君のようなものですか。

石川 あれは正しい選択だということですね。

中竹 パフォーマンスが長く続く。

石川 そうですね。

「リカバリープランとして睡眠と休暇は非常に重要。ビジネスマンでも計画的に準備すべき」(Campus for H 石川)

小林 残り10分くらいなのですが、質問のある方はおられますか。

質問者4 僕は12月まで東京大学のアイスホッケー部でした。アイスホッケーで番狂わせと言えば、1980年にレークプラシッドオリンピックでアメリカがソ連を破った試合があります。その時の監督がハーブ・ブルックスという同じくとても怖い監督がいたらしいのですが、その監督が自分でチームメンバーを選ぶ時とか運営方針とかでも無茶苦茶なことをする。そして無茶苦茶こわい。

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無茶苦茶なことをするのですが、連盟側に「まあまあ」と言って宥める役の人がいたそうです。そういう人がいなかったらそのハーブさんも、もしかしたらクビになったかもしれない。そして、そういうのを宥める人というのは日本の組織で結構出にくいのかと思うのですが、ラグビー協会は4年間それができたのかなと思ったのです。どうでしょう。

中竹 エディに対してそのような立場の人はいたのですが、宥められるレベルの人がいなかった。ですが最後は、あれだけ厳しかったけれど、これだけ成長させてもらって感謝しているという感じになりました。

小林 そういう意味では、経営においても理不尽さというのは意図的にでもあった方が良いのでしょうか。よくわからないけれど、お前ちょっと走って来いというような。この中であえて理不尽な経営をしているという方はどれだけいらっしゃいますか。

質問者5 絶えず理不尽な状況に追い込んで、ゾーンを作り出して、というような経営を心がけています。ただ、理不尽なことも繰り返し起これば慣れるので、何が起こっても仕方がないかと思うようになるような気もするのですが。

でも、理不尽な状況が続いてくると、よく心が折れる人というのが出るのをすごく見てきました。大体僕が見てきた中で本当に心が折れてしまった人のところというのは、休暇を取らなければ復活しないのだと思うのです。しかし、そうやって結構しんどくなってきたときに休暇を取らなくても復活できる方法というのは、例えば従業員とか役員でも、そういう方法というのはあるのでしょうか。

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石川 理不尽とかプレッシャーをかければゾーンには入りやすい一方で、大事なのはリカバリーの期間はきっちり設けるということなのです。スポーツの世界だと、スポーツリカバリーという考え方があって、疲れというものを「認知の疲れ」、「感情の疲れ」、「身体の疲れ」というふうに分けるのです。この三つがどのように疲れているかによってオフの日の過ごし方を変えるというのがある。

多分日本人の場合苦手なのは、リカバリープランをあらかじめ入れておくというのができないのだと思うのです。その顕著なのが、睡眠時間の確保というところなのです。一日の生活の中でのリカバリープランで一番大事なのは、何時に寝て何時に起きるというところなのですが、それをまったく決めずに、仕事というのに優先順位を置きすぎて、睡眠が後回しされますでしょう。

すると結局ゾーンには入りにくい状況になるし、リカバリーにもなりずらい。健康づくりの観点から見ると、やはり何時に寝て何時に起きるというところすら決められない人は、心が弱いと思います。折れやすくもなるでしょう。

また、年間で見ても、この時期は休むのだということを決められない人というのは、やはり弱いのだろうと思います。ラグビー代表でも何かそういうリカバリープランと言うのはあるのでしょうか。

中竹 実は日本代表はiPadを使って毎朝20個くらいの質問に答えるのです。昔、と言ってもつい最近、10年くらい前までは、実はスポーツドクターも監督も、選手に「調子はどうか」と聞いて「行けます」と答えたら「行って来い」というふうなレベルでした。顔色を見て「今日はどうだ」と聞いて「行ける」というから出すと。

それでも実は本人は風邪を引いて、熱があるのに、試合に出たいから、「行けます」と言ってしまう。これは本当に10年前まで起こっていたことです。しかし、ここ数年で劇的にリカバリーの科学が進んで、今はもう本当に要素一個づつ聞くのです。

そして、主観も聞く。要するに、今日どれくらい疲れているかというのを7段階で聞いたり、どれくらい食欲があるかとか。先ほど出た感情もそうです。不安な気持ちはどれくらいあるか。それと同時に睡眠時間はどれくらいで、腰の張りがどうで、右足がどうで、首の周りがどうで、と全部筋肉の疲労を答えていく。

われわれはそれを毎朝チェックして、「コイツは疲れている。練習メニューを変えよう」というふうにしています。これは結局スポーツ科学で言えば破壊と超回復の世界で、人間の細胞、筋肉というのは破壊しないと絶対に超回復しない。

先ほど言った、カオス体験でプレッシャーをかけてというのも同じ仕組みだと思うのですが、超回復する時に必要なのは栄養と休養の二つしかない。栄養は採る。プロテインを採る。休養は寝るしかない。ここのコントロールができないと成長はないです。

石川 そうですね。栄養や休養。社会人の方のために、どうやったら上手く疲れにくく回復できるのかというのが上手くまとまった本があると良いなと思っていまして、最近本屋へ行ったのです。そうしたら見事な本があった。『疲れない脳をつくる生活習慣』という本がプレジデント社から出ていました。

小林 それは最近石川さんが書かれた本ではないですか!

石川 僕は思わず、見事な本だと思いました。見事にまとまっているぞ、と。

小林 僕も見事にまとまっていると思って買って、読んでいます!

石川 ありがとうございます。スポーツの世界の前に、パフォーマンスを最も研究したのがNASAなのです。ですから、NASAの知見というのがすごく面白い。後はやはりスポーツの世界です。

中竹 それは本当に最近のことですね。われわれは実は、人の身体の20項目くらいのワンタップというサービスを開発して、毎日選手の状態を見ているのです。それで練習メニューを変える。それからもう一つ面白いのは、RPEという手法を使うのです。練習に対してどうだったかというアンケート。

今日の練習はどれくらいキツかったかというのを7段階で聞く。この本人の身体がどうだったかということと、コーチにとっては練習がどうだったかというのを知らなければならない。こちらとしては軽い練習をやったつもりが、選手としてはすごく疲れているということはあるのです。それは試合の影響だったりするし、天気だったりもする。

そこの齟齬がないように上手くコントロールするためには、本人の力と、実際われわれコーチが提供しているサービスが必要です。会社でしたらその環境です。仕事の与え方ですとか。それがどれくらいのバランスであるかというのはすごく連動しているのです。

小林 いずれにせよ休む必要はあるということですね。休まないということはない。疲れにくくするために日々の睡眠が大事と言うことでしょうか。

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石川 睡眠が一番基本になると思います。

「フォロワーシップの重要性。『君、いたね。おはよう」という一言だけでも、組織に大きな力を及ぼすんです」(日本ラグビーフットボール協会 中竹)

小林 わかりました。時間がついに来てしまいました。最後に経営者の方々へ、すぐにできる何かというのをアドバイスとしてまとめていただけますでしょうか。

石川 みなさん結構疲れているのでしょうか。あるいは元気満々なのでしょうか。

小林 疲れている方はどれくらいいらっしゃいますか。元気満々の方は。みなさんここにいらっしゃる方はやはり元気満々のようです。

石川 なるほど。ですと、自分が元気満々だと、周りが結構迷惑しているということがありがちです。ですからぜひ気を配っていただけたらと思います。

中竹 僕は少しフォロワーシップの話を。みなさん、首を左右に振っていただいていいでしょうか。結構スムーズに動きましたか。それとも首など最近動かしていないという感じですか。多分今はほとんどの人が首を動かさないで生活しているのです。

実はスポーツ、これはサッカーもラグビーもそうですが、ちゃんと視野を広げるために首を振る。そして、コーチは「首を振れ」と口で言う。ですが普段振っていないのでできないですよ。ですから、僕などは首振りだけの練習をするのです。そこだけ切り取った変な練習ですね。宗教団体のようです。でもそのくらいちゃんと意識して首を振らないと周りが見えない。

フォロワーシップというのは、組織の中で何か物事を引っ張る人でも、実は隣の人をしっかり見るとか、やっていることを褒めるとかではなくて、「君、いたね。おはよう」という一言が断然組織に力を及ぼす。

そして、先ほど質問で出ましたが、組織としてカオスになった場合にどうするのか。「俺たちって大変だよね、みんな」というように不安や悩みというのは共有すると解消される。それができるためには結局首を振らなければならない。

すごいシンプルですが、名前を呼んでおはようと言う。単におはようではなくて、名前を言っておはようというだけでも全然違う。組織の力を上げたいというのはそんな崇高なことではなく、周りの人をちゃんと見ていなければならない。

小林 首振り練習というのは何分間に何回とかあるのでしょうか。

中竹 結構やります。「ちゃんと後ろが見えているか」というふうに。肩を動かさず、正面を向いたままどこまで見えるか。これは練習をするとすごく視野が広がるのです。

小林 ということで、明日の朝からみなさん会社で首振り練習をしましょう。すると視野が広がり、組織が活性化するということです。もし試してすごく良かったという人がいれば教えていただければ幸いです。すこし時間が過ぎてしまいましたが、これにてICCコネクションの異分野対談を終了したいと思います。どうもありがとうございました。

石川 ありがとうございました。

中竹 ありがとうございました。

(終)

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編集チーム:石川 翔太/小林 雅/小林 泰/藤田 功博

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