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「社会課題とは、人と人との関係が薄れること」ーー優勝アイランデクスが離島から見出した、ソーシャルグッドの確かな手触り

3月2日〜5日の4日間にわたって開催されたICC FUKUOKA 2026。その開催レポートを連続シリーズでお届けします。このレポートでは、アイランデクスが優勝を飾り、今回のカタパルトの中でも最高の評価となったソーシャルグッド・カタパルトの模様をお伝えします。ぜひご覧ください。

ICCサミットは「ともに学び、ともに産業を創る。」ための場です。毎回500名以上が登壇し、1,200名以上が参加する。そして参加者同士が真剣に議論し、学び合うためのカンファレンスです。次回ICCサミット KYOTO 2026は、2026年8月31日〜9月3日 京都市での開催を予定しております。詳しくは、公式ページのアップデートをお待ちください。


96.3%が「最高だった」と回答したカタパルト

 ICCサミットの最終日に開催されるソーシャルグッド・カタパルトは、開催終了後のセッション評価アンケートで、96.30%が「最高だった」と回答する、今回最も大きなインパクトを残したカタパルトだった。さまざまな社会課題に取り組む10名の渾身のプレゼンは、それぞれが歩んできた道のりや信念が伝わる、いずれも見応えのあるものばかりだ。

 「体験格差」「分断」をなくす取り組みが、今回のチャレンジャーたちに目立った。

 とことこあーすAYAのプレゼンは、病気や障がいを理由に、さまざまなものを諦めている子どもとその家族、社会とをつなぎ直してこの人生を大切にすることを教えてくれる。育ち盛りの都会っ子、駄々っ子が身近にいるならば、自然を通して子どもを育むセンスオブネイチャーのプレゼンは必見だ。

センスオブネイチャー古谷 繁明さんは、二度とない子どもの時期を豊かにする機会を伝えた

 湘南ベルマーレフットサルクラブが1人の選手の想いをもとに地域の課題、社会の分断を解決しようと取り組んでいることや、これからの社会のために街の環境を整えようとするウィーログの織田さんの挑戦に、励まされない人はいないだろう。

 このカタパルトは、知られざる社会課題を伝える人たちが続々登場する。

 病院の医療器具が滅菌が不十分な可能性がある現状も知らなかったし(SALWAY)、離島専門の引っ越しを事業にする人がいること(アイランデクス)、愛する父親の死を発端に、私財を投げ打ってヨーグルトの開発をする医師(神楽坂乳業)がいることや、誰に頼まれずとも、サンタ姿で人々の善意を楽しく引き出す仕組みを作っている人もいる(チャリティーサンタ)。

 ゴミ問題や使い捨て容器に罪悪感を感じるならば、カマンのプレゼンをぜひ聞いてもらいたい。リユースやリサイクルは社会に広がりつつあるが、顔が見える形でそれを訴える人はまだ少ない。

湘南ベルマーレのイベントで「Megloo」を導入、100kgのゴミとCO2を500kg以上削減の実績も

 同じ時代・同じ社会に生きていても、課題の発見とそれに対するアクションは人それぞれだ。ソーシャルグッド・カタパルト最後のスピーチでテラ・ルネッサンスの鬼丸 昌也さんは、登壇者たちを称して「ほっとけないことをほっとけない人たち」とエールを送った。

 なぜ彼女ら・彼らがこの取り組みをするようになったのか、どんな課題と未来を見据えて、何を伝えようとしているのか。時間のかぎりプレゼン前の登壇者たちに話を聞いた。

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【速報】人生に離島を!人と島をつなぐ“離島特化”の引越し屋「アイランデクス」がソーシャルグッド・カ... 「ともに学び、ともに産業を創る。」ための場「Industry Co­-Creation(ICC)サミット FUKUOKA 2026」(2026年3月2日〜3月5日開催)、3月5日の朝に「ソーシャルグッド・カタパルト – 社会課題の解決への挑戦 -」 Sponsored byICCパートナーズ が開催されました。 第一線で活躍する審査員が注視する中、様々な社会課題の解決を目指して活動する10名が各7分間の熱いプレゼンテーションを繰り広げました。審査員の投票の結果、人生に離島を!人と島をつなぐ"離島特化"の引越し屋「アイランデクス」が優勝しました! 

環境系やサーキュラーエコノミーの存在感を示したい

モンゴルの大草原に散らばるゴミ、ミクロネシアの海、ボリビアのウユニ塩湖で進む環境破壊を見たことが原体験

カマン善積 真吾さんは、初参加のICCサミットの雰囲気を楽しんでいる。

「何も知らずに申し込んで、このストイックな雰囲気、朝から晩まで本当に全力で頑張るというストイックな姿にめっちゃ感銘を受けています。

登壇が決まった3カ月前ぐらいからリハーサルやイベントで雰囲気を学びながら、頑張ってきたところをしっかり伝えられればいいなと思います」

カマンの提供するリユース容器シェアリングサービスをICCサミットの会場で使えないかと検討したが、オペレーションなどの関係から、今回は残念ながら見送りになった。

「全部ではなくて、たとえばドリンクのコーナーなど一部とか、そういうとこから徐々に進められたらいいなと。

ICCにはいろんなスタートアップの方がいらっしゃるけど、環境系やサーキュラーエコノミーといったものは少ないと思っていて、そういった1つのジャンルを作っていけるような存在感を示していければいいなと思います」

ソーシャルアクションで優勝するスポーツクラブを目指す

湘南ベルマーレフットサルクラブ 佐藤 伸也さんは、過去のこのカタパルトで優勝したLivEQuality大家さん 岡本 拓也さんの紹介で、ICCサミットにやってきた。

大学時代までプロ選手を目指していた佐藤さん

「経産省がやっている地域づくり事業のようなところで、採択事業者の仲間なんです。

▶︎令和6年度 地域の社会課題解決企業支援のためのエコシステム構築実証事業(地域実証支援を通じたエコシステム調査事業)事業成果報告書(PwC) – 両者が参加した実証事業の報告書

スポーツは熱狂があったり、人を繋げたり、人の感情を動かすという特性を持っていますが、私たちはちょっと目線を変えて、地域作りや街づくりに役立つような活動をしています。その内容を知っていただければ嬉しいなと思っています」

ヨーロッパではサッカークラブが地域に根ざしているイメージがある。

「そうですね。競技軸で頑張りつつ、そこで繋がる人の関係性や発揮できる力がいろんなことに転用できるので、それを今、競技以外のところにも投下しています。

今は地域の企業で約130社パートナーがいて、地域外にもいます。そこで連携共創しながら、地域課題の解決につながるようなプロジェクトを、 50個ぐらい積み上げています。

とはいえスポーツ団体なので、こういった活動を通じて、人と人気、お金を集めて、競技強化に再還元をしながら、ソーシャルアクションで優勝していくというスポーツクラブって、僕の知る限りはないんです。それを実現させたいなと思っています」

国内の医療器具の滅菌への啓発を行ったSALWAY山根 優一さん。シリアスなだけでなくユーモラスなシメで課題の印象を残した

人や世界がつながり直すことを実感した、旅の力

DAY3のソーシャルグッド・カタパルトまで、さまざまなプログラムやセッションに参加してきた

とことこあーす戸田 愛さんは、はじめは周囲がすごい経営者ばかりに見えていたが、「自分と同じような課題を持っている方が多かった」と、ほっとしたという。

「旅行会社をしています。今、いろんな分断がある社会の中で、旅は人と人が、世界がつながり直す、思いを進める一番の力になると思っています。それこそここにいらっしゃるような、1人で事業を頑張ってらっしゃる方が、旅でまったく違うところや人と一緒になって、つながっていくような。

そういう思いをつなぐような旅をどんどん作っていきたいし、私たちの旅からこれからの可能性を感じてもらえたら嬉しいですし、一緒に旅を作りたいと思っていただけたらなと思います」

旅の「物事をとらえなおす力」を信じて起業した戸田さんがICCに来たのは、マザーハウス山崎さんの紹介。以前からカタパルトの中継を見て、ICCのことを知っていたという。

「生中継で見ていた、この場についに来てしまいました。緊張します!」

緊張のなか、心が動かされる感動的なプレゼンで事業を伝えたが、入賞を逃して悔しがる彼女に、副社長であり夫の光明さんが優しく寄り添っていた。

幼馴染の名前をつけた、ライフワーク

もともと救急医だったというAYA中川 悠樹さんは、ICCサミット参加が二度目になる。じつは半年前の京都でもカタパルトに応募しており、そのときに「事業は面白そうだけどまだ早いから、とりあえず来てみたら」と言われ、前回は普通に参加者として、今回はいよいよチャレンジャーとしてやってきた。

病気や障がいをもつ子どもたちが、医療従事者も帯同のもと、同世代の子どもたちと一緒では気後れしてしまうような家族で映画館に行くことや、スポーツ観戦、レジャーを楽しめる場を作っている。そんな子どもたちが日本には現在、子どもの5%に当たる70万人いるという。

登壇者という立場で、印象が変わったことはあるのだろうか?

「初回に参加したときは強烈でした。あ、こんなやばい人たちばかり集まるんだ!みたいな(笑)。今回はそういう人たちという前提があったうえで来られたので、とてもありがたいです。前回はいろいろなワークショップやセッションに参加したんですが、前回の方が頭に入ってきやすかった。今回はちょっと緊張しているので(笑)」

「われわれAYAの存在を知っていただくことが目標」と話し、優勝を目指す、と力強く宣言した。

「対象とする子どもたちや家族はかなり知ってきてくださっているんですけども、我々が対象としている人たちの世の中でのプレゼンスはまだまだ上がっていないと思っているので、こういった場で意識の高い方々に知っていただきたいです」

企業名は幼馴染の女の子の名前から来ている。彼女は生後10カ月の時にかかったはしかが原因で、10年間の寝たきりを経て亡くなった。母親の「もっと色々な体験をさせたかった」という後悔を忘れないために、そして子どもと親、家族が一緒に楽しい体験を1つでも多く作るために、中川さんは登壇に臨み、4位に入賞した。

「多くの人が善意を持っているけれど、発揮する場面がない」

チャリティーサンタの清輔 夏輝さんが今の事業に至った経緯は、大人をサンタクロースに変身させる事業のごとく面白い。この仕事にどうやってたどり着いたのかをと聞くと、小さいころは大工になりたかったと言う。

「将来の夢を周りがプロ野球選手って書いていたりしてるときに、僕はあまり書けなくて。このクラスから何人出るんだ? そんなの現実的に無理だよなと思ったりして(笑)。

中学生の時に再び建築家になりたいなと思って、建築の勉強をしたんですが、就活の時にやっぱり違うな、と。次何をやるかな?と思いながらも、建築家の設計事務所に入って働きました。

その後1回フリーランスに。特にやりたいことがなかったので、建築には関係がないITでした。でも、何かやりたいことが見つかった時に、それをやれる自分になりたいということを決めたんです。

それでは何が必要かな? と考えて、結論は集客できればいいんだと思ったんですよ。お客さんを集める行為は何をするにも共通だから、集客のスキルを得ることを頑張ってみようと決めて、個人事業でITのSEOを引きこもって1年ぐらいずっとやって、ちょっとうまくいって、暮らしていけるようになりました」

天職に見えるような事業の裏には、やりたいことを見つけようとする若者の葛藤があった。清輔さんはひたすら行動して、”それ”が見つかる日を待っていた。

「今度こそ本当に何をやりたいか、色々やってみようと、思いつくものを10個ぐらいやってみたんです。その頃は旅をしていて、ヒッチハイクを仕事にできるかな? ヒッチハイクを協会にして……とか考えたりして。そうした10個の中の1つがチャリティーサンタなんです。

25歳になる時には、もういろんなことをやっていて、一応生計は立ててるんだけど、自分のやりたいことには全然関係がない。自分のサイトがお金を生み出してくれているけれど、ライフワークみたいなものは全然別の感じで、このまま僕は30歳になったらどうなるんだろう?と思いました。

別に困ってはいない。だけど何を頑張るんだろう?と、人生初めてのコーチングのようなものを受けて、その先輩に、君がおじいちゃんになってもやりたいものは何かあるの?って言われて」

そこで残ったのがチャリティーサンタ。意外に消去法でもあり、悩みながらも計画的にやってきた事業でもあった。ソーシャルグッドの人たちは、やりたいことや課題に邁進しているように見えるが、こうやって発見していくパターンもあるのだ。しかし清輔さんはこの後も、もうひとひねりある。

「実はチャリティをずっとやりたいのかと思ってから、サイバー(エージェント)に転職しました。今すぐ本業にしてもいいかもしれないけど、今自分に必要なこと、ビジネスのスキルを持たなければと思ったんです。そこでサンタの活動をやりながら3年頑張ってみました。

人生戦略的なものがちょっとあって、それをちゃんとやるために、必要なものを後から集めようとしてきた。当初思った形とは全然違う形で花が咲いた感じですけど、元々の叶えたかった世界観としてはすごく合ってるので、今はこの方向性、戦略がいいなと思っています」

この自分を客観視できる力と柔軟性が清輔さんの強さなのだろう。とはいえ、1本しっかり軸がある。

「本当は多くの人が善意の気持ちを持っているんだけれども、それを発揮する機会や場面が設計されていないだけで、その機会を作っていくことを僕らはやっていると思っています。めっちゃ性善説で、人には善意があるという前提で生きています。

今回伝えたいことは……まあ、一緒にサンタになってみませんか?って感じですかね(笑)」

最後はおどけて笑わせたが、本心のはず。プレゼンを楽しく展開しながらも、青い理想を真剣にやりきろうとするのはICCサミットにも通じるものがある。

「ICCサミットはちょっと体育会系だけど、何かちょっと違う。すごく楽しくて真剣で、心地良い。細部が作り込まれていることに気づくたびに、どうやってPDCAが回って改善がされるんだろう?みたいなことも含めて勉強になってます」

伝えるのは自分の生き方。人生のテーマを社会的にもやりきる

前日のクラフテッド・カタパルトで3位、フード & ドリンクアワードで優勝という素晴らしい成績を収めた神楽坂乳業の林 和彦さんは、前夜のアワードのCo-Creation Nightにも参加していた。そして翌朝7時半の集合時間にやってきたが、さすがに疲労の色は隠せない。今日で3日目のICCサミットの印象を聞いてみた。

「オーガナイズがすごくて、そのプラットフォームがすごい。それを支える人たちもすごいので、安心して参加できています。何も知らなくて、どうなるかも分からず来たけれども、本当にいい場所ですよね」

アワードの優勝スピーチで印象的だったのが、神楽坂乳業はまだ人数が少なく、アワードが終わり次第、ブースを担当していた2人は、東京に戻って製造を始めると言っていたことだった。まさにスタートアップだ。

「2時から始めるんですよ」

昼間ではなく、夜中の2時なのだという。

「発酵時間の関係で、ボイラーに火をつけるのは3時ぐらいから。梱包とか発送作業もあります。

工場は3人で回していて、共感してやってくれている人たちなのですが、よく回っているなと思います。ただ労基法などを順守できないから、社員はいなくて全員取締役なんです」

▶︎退職金も尽き、残高は7万円…東京女子医大教授が安定を捨てて借金3億円のヨーグルト開発に挑んだ理由(ブックバン / Yahooニュース

上の記事では、それだけではない理由も語っている。これから臨むプレゼンは、クラフテッドやアワードと内容が変わるのだろうか? 

「アワードのスピーチの内容に近いですね。なぜ私がこんな酔狂なことをしているのか。自分の人生をかけて取り組みたいことはがんで、ヨーグルトを作ったり会社を大きくすることは目的ではなくて手段。がんに関しての社会的な課題を解決することが人生のテーマで、医学的なことはもうやりきった。だから社会的なことをやって、死のうと思っています」

アワードの時のスピーチでは、もっと働くと語っていた。その真意とは。

「今日もそれは言います。少子高齢化の中で、何十年も前の社会保険制度を適用するのは無理に決まってる。社会情勢も全て変わっているのに、半世紀以上前の制度を適用する方が無理がある。それを変えようとすると、誰かが損をする。それが若者でいいのか?という話ですよね。

老人が損することを選ぶのもありじゃないかなと思う。僕ら世代は1回はチャンスをもらって、十分に60年生きてきたので、これから人生がある人たちに損をさせるのはどうかと思う」

そうして伝えたいメッセージを聞くと、「自分の生き方。かっこよく死んでやるってのが念頭にある」と答えた。

「これはチャレンジャーとしてのプレゼンでもあるんだけども、若い人たちへの応援歌でもあるんです」

近くMakuakeで無糖バージョンの「神グルト」も発表される。甘いものが好きではない人や、糖尿病など糖質を控えたい人からの要望があるためだ。「免疫やアレルギー対策としてはいい」。便通改善にはオリゴ糖入りのほうがおすすめだそうだが、困っている人を助けたい医師の顔がそこに覗いた。

もう一件、あと一件と続けているうちに、こんなにも困っている人たちがいたのかと

「これまで私たちは一人ひとりのお客様の課題だと思っていたし、出会った方々もすごく困っていたけれど、社会の課題なんて思っていらっしゃらなかったのでは」

と言うのは、離島専門の引っ越し屋を営むアイランデクスの池田 和法さん。ICCでもおなじみのコピーライター、五島列島なかむらただし社の中村 直史さんが、五島に引っ越す際に関わったのが池田さんたちで、中村さんの「どのカタパルトになるかわからないけれど」という紹介でICCにやってきた。

「それを社会課題なんだと私たちも声を上げ、認めていただけるような、そんな機会になるといいなと思ってますし、これまで出会ってきたお客様、様々な方々への感謝を伝える機会になればいいなと思っています」

私たちがインターネットで買い物をするときによく見かける「ただし、離島は除きます」という言葉。その除かれた人たちは、いかに社会が発展しようと便利な生活を享受できず、つねに負担を強いられている。その人たちを対象とする事業を、どこで「これは事業にできる」と思ったのだろうか。

「勝算はなかったです。事業になるなんて私も思っていなかった。目の前の人がなんとか引越しができたらいい。それがもう一件続けばいい、あともう一件と、目の前の人で続けているうちに、こんなにもたくさんの人が困っていたということに気づきました。

それが値段、価格の問題だけじゃなかったと今では思っていて、離島、除かれている感覚なんだと思います。大手運送会社さんは本当に素晴らしいインフラを整備されてらっしゃるんですが、それでも島の人たちから見たら『100万だったらやってあげるよ』と言われて自分たちは、のけ者にされている感覚なんです。

確かにビジネスモデルに合わないから当然ですし、合わない中でも対応されてらっしゃるから素晴らしいと思うんですが、受け手にとっては除かれてるような感覚がある。その心の問題というのも解いてあげたいなと思っています」

離島に住んでいない私たちは「沖縄・離島を除く」に、何の疑問も持たなかったことに気づかされる。不便も楽しめる旅行者とは違って、住む人にとっては毎日の生活のことである。一緒に働いている仲間たち50人は、その不便さを誰より実感している離島住まいで、8つの島に分かれて住んでいるという。

「理由はそれぞれなんですけど、島に元々暮らしていて、こういうサービスを私は作ると言った時に、共感してくれた方たちで、1人ずつ仲間になってもらったんです。

私も1年間の2/3を島で暮らしています。住民票は福岡ですが、人生を賭けているので、家族と一緒に、島に住んでる仲間たちに会うために、いつもずっと離島を巡りながら暮らしています」

ICCサミットに参加する3月は、1年の中でも移動や物流の多い時期である。

「スーパー繁忙期です! 仲間たちはヒーヒー言いながら現在もやってるんですけど、そのなかでもみんな見てくれていて、お客様にはもちろん、会社の仲間にも、私たちの活動に光が当たる瞬間を届けられたらいいなと思っています。

離島という、これまで除かれてきたかもしれない地域、皆さんからしたら観光地としか思えない地域、そこに光を当てることが日本全体の光になっていく。それを届けたいと思ってます」

「引っ越し屋がソーシャルグッド・カタパルトで優勝」に、驚いた人もいるだろう。しかし池田さんが仕事を通して実感した、離島の現在は人口減少が進む日本の未来の姿であるということ、人と人が手を離さず、思いやりをもってつながっている社会であるべきことは、誰もが共感するメッセージとなった。

優勝のコメントで、「離島に暮らし、生き続けることに希望がある。自分たちのようなブルーワーカーが日々頑張っていることに、少しでも光が当たったなら、本当に嬉しい」と池田さんは語った。能登半島地震でも、インフラが分断された能登半島の先にある舳倉(へぐら)島の状況を、離島業界(というのがあるそうだ)の人たちは非常に心配したという。

そんな風に気にかけ、心配する存在がいることの心強さ。池田さんは「人生に離島を。」と呼びかけていたが、その真意は池田さんのnoteによると、「人生の一部に、離島のような 助け合いがあり 笑いがあり 関係があり 意味があるものを持つ」という意味だそうである。

正しいことを声高らかにいうのは簡単だけど、それだけでは協力者は増えない

プレゼンは夫婦で壇上に上がり、スライド操作を杉山 葵さん(写真左)が担当した

ウィーログ織田 友理子さんに、登壇の意気込みを聞こうとしたら、まず「ありがたいです」と言った。そして、さまざまな場数を経てきているにも関わらず、「本当に皆さんすごい挑戦者たちなので熱量が全然違って、私はずっとドキドキしてます」と、本当に緊張した表情で言う。

ほかのソーシャルグッドの登壇者たちが織田さんのことを知っているのは、20歳を過ぎての人生の激変にも関わらず、さまざまな挑戦を重ねてきたからである。今回は、同じように車椅子で生活する人や体に不自由がある人、子どもやお年寄り、ロボットにまで優しい、段差を無くしたフラットな社会の実現を呼びかけるプレゼンを準備している。

「(1カ月前の)公開リハーサルからは全然違います。プレゼンはどんどんブラッシュアップして毎日書き換えるぐらい変えました。結局出来上がったのが昨日も夜9時で、表現の仕方を全部チェックして、なかなか決まりませんでした」

そこまでこだわって作り込んで、最も伝えたいと思ってるメッセージとは。

「車椅子にとって段差のないフラットな社会を実現するためにと思っているんですけど、皆さんがそれを応援してくれるようになったらいいなと。どうやったら応援したいって思ってもらえるかな? というのをすごく考えて、頑張ってみました」

当事者が伝えるのは、いい部分もあれば難しい部分もありそうだと伝えると、プレゼンを組み立てるにあたって注意している部分があると言う。

「そうなんです。例えば段差があることは、悪気があってやってるわけじゃないですよね。それに対して聞いてる人たちが、なんか悪いことしちゃってるなと思わせてしまったら嫌だなと。

あるものは仕方ないけど、これからはどうしていこうかを考えてもらえるきっかけになってほしい。どうやったら未来志向になるか、それがやらされてる感とか、ネガティブな印象にならないようにすごく考えます」

織田さんは、主張をいかに伝えるかというより、むしろ受け取る側の気持ちを強く意識していた。続く言葉に、そのように接する人がいたこと、正論の主張が、必ずしも世の中を変えることにつながらないことをよくわかっている言葉に、胸が詰まった。

「こうやって車椅子に乗っちゃってるので、圧的なものを感じられてしまったら嫌なので、悩ましいです。

正しいことを声高らかにいうのは簡単だけど、そんなことをやってばかりでは、仕組みを変えていこうという協力者になってもらえない。今日、日本全国からいらっしゃってる方々に理解していただいて、手を貸してあげるよというふうにできたら。そういう人たちの出会いがあればいいなと思って参加しています」

ICCサミットに集まる人たちは何か違うと感じたそうで、1月のオフィスでの公開リハーサルを振り返ってこう言う。

「あの時もメンターの方々がすぐに、じゃあ自分たちは何したらいいですか?という反応がすごくあって、驚いたんです。ただ、課題を感じるだけじゃなかった。

やっぱり違う、全然違うんだなと思って、それならばこの場で何をしようかと考えました。それで今日、署名のお願いをさせていただくことになったんです。あの公開リハーサルがなければ、この私たちの次の挑戦は生まれなかったです。

▶︎署名サイト:「新しいお店なのに入れない」を、私たちの代で終わりに(change.org) 

ここからスタートで、時間をかけて、全国から署名を集めて提出をして、世の中を少しでも変えていきたいと思っています。すごくいいきっかけになりました」

元気に笑って話してくれた織田さんは最後に、意外な告白をした。

「すみません、実は私、病み上がりで。今日は全然大丈夫なんですが、感染症にかかってしまって博多に来る前まで寝込んでいて。何かあってはとずっとこのホテルに泊まっていたんですが、泣く泣くライブ配信だけ見て、会場には来られなかったんです。だから、今日は楽しもうと思います!」

プレゼンは、夫の洋一さんも共演した。ぜひ動画をご覧いただきたいが、洋一さんが話したあとに、織田さんがゆっくりと微笑んだ場面が忘れられない。遠位型ミオパチーのため、顔を向けて微笑むことはできない。けれどそれは本当に美しい笑顔で、見ている側も笑顔になるような、慈愛に満ちていた。

ソーシャルグッドの想いを引き継ぐナビゲーターたち

いつもソーシャルグッド・カタパルトを力強く始めてくださるユーグレナの出雲 充さんは今回欠席だったため、その想いを引き継ぐ3名が、冒頭にスピーチをした。

まずはナビゲーターの運営スタッフ、豊島 里香さん。前回の京都で出雲さんが紹介した、自然界には存在しなかった「青い薔薇」をサントリーが19年をかけて開発したように、この場はどれだけ奇跡を起こせるか?と問いかけた。なお、このスピーチを耳にしたサントリーの方が、優勝商品として青い薔薇を提供してくださることになった。

いまやソーシャルグッドの顔、豊島さん

そして出雲さんの代わりにスピーチした2年前の優勝者、テラ・ルネッサンス鬼丸さんは「みなさんは生まれて良かったと思える世界を作る、大切な事業を作っている。恐れることなく語り尽くしてください」とエール。それは自分自身も含む言葉である。

開口一番、鬼丸さんは「ボン・ボヤージュ」と出雲さんのフレーズで会場を沸かせた

Will for Japan / 日本承継寄付協会の三浦 美樹さんは、2年前の優勝に「あの日が転換点。何億円積んでも買えない信頼を得た。これこそが最高の資産」と語り、登壇後の2年で約100億円の遺贈寄付が集まったことを伝えた。

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優勝以来、着実に事業を成長させている三浦さん

ナビゲーターの豊島さんが呼びかけたように、今、私たちが生きる社会の課題を知りに、このカタパルトを見てほしい。一番目のプレゼンター、カマン善積さんのプレゼンは27分25秒あたりから始まる。

このカタパルトも他と同様、S会場で実況中継が行われていた。どのプレゼンも素晴らしかったが、ウィーログの織田さんのプレゼンの最後で「私は頑張ることは、幸せなことだと思っています」と、登壇への感謝を伝えた心からの声に、会場では涙が溢れる人が続出した。この言葉は、カタパルトが終わったあとでも、さまざまな人の胸に残り、今日も誰かの心を支えていると思う。

審査員たちが、離島を巡って対立

5位から2位までが発表されたとき、会場は緊張した。そしてアイランデクスが優勝と発表されたとき、会場はどよめいた。水牛まで引っ越し協力者として紹介したプレゼンに、会場では度々笑いが沸き起こっていたためだ。

結果発表を待つ間の審査員コメントでも、それを巡って意見が対立した。ボーダレス・ジャパンの田口 一成さんは、「感動した、共感するではなくて、どう仕事をご一緒できるかという軸で投票したけれど、今回一番多く丸をつけたい企業が多かった。だけど『人生に離島を。』というのだけが意味わからなかった(笑)」

それを受けて離島住まいであり、紹介者の中村さんは、「『人生に離島を。』を意味がわからないのがわからない(怒)! 『人生に離島を。』じゃないですか、本当に」

シリアスな課題を扱いながら、こうやってみんなで軽口のように話題にするインパクトがあったのは、池田さんの勝利である。この連呼のおかげで、会場にいた人たちの頭にこのフレーズはしっかりと植え付けられたことだろう。

結果発表

発表の瞬間、池田さんは手を合わせた

「ありがとうございます。今日は社会課題という表現をしたんですが、本当は私は離島地域、離島に暮らすことを課題だなんて思っていません。

そこに暮らすこと、そこに生き続けることに希望があると思っているし、そこに、今回課題という表現をしたことで、離島地域に暮らし、そこにつながっていくこと、私もブルーワーカーだと思って青い服を着ていますが、それをつなぐ労働者が日々現場を頑張っていることに対して、少しでも光が当たったとしたら本当に嬉しく思います。皆さんありがとうございました」 

池田さんは誠実に自分の仕事に向き合い、そこから見えるシビアな現実から目をそらさず、かつ、その素晴らしさを希望として発信した。引っ越し屋、しかも離島専門という、ICCサミット初の業種ながら、会場の心をしっかりと掴んだ池田さんに、優勝商品の贈呈者たちも一言言わずにはいられない流れになった。

カタパルトが終わったあと、会場を移してヒーローインタビューが行われ、ラウンドテーブルから進化した、4つのグループでミニ・セッションを行うフォーカス・セッションが行われた。あらかじめテーマは設定されており、ソーシャルグッドの事業を行う際のさまざまな共通の課題の知見を分け合う場となった。

ヒーローインタビューの映像
ソーシャルグッド・カタパルト フォーカス・セッションの様子

改めて、アイランデクスが優勝した理由を考えてみる。

日本には、人が住む離島が416も存在するという。そこで暮らす人々は現在、物流においては基本的なサービスから除外された存在になっている。これをアイランデクスは「ふつうに帰れる場所にする」DX(どろくさいトランスフォーメーション)をし、引っ越しだけでなく車の輸送サポートや地域活性など、離島ならではの社会課題に取り組んでいる。

この先に人口減少が進むとき、物理的な島だけでなく、陸の孤島が日本中に発生する未来を、審査員たちは思い浮かべたのではないだろうか。若いうちは自分が動けても、年をとってその土地に住み続けようとすると不便が生じる。やがて人口が減って消滅可能性都市となったときに、私たちはどうすればいいのだろうか。

人は住む場所を選ぶ権利がある。便利なところに人が集まっているのは主体的な理由に見えるが、実はそうではないのかもしれない。

「社会課題とは、人口が減ることではなく、人と人との関係が薄れていくこと」

池田さんは離島引っ越しを通じて実感した人口減少社会の課題を、こう表した。関係が薄れるから、思いやりが持てなくなり、他人を蔑ろにしてしまう。効率を理由に自由が駆逐されて、楽しさがなくなってしまう。けれど、人と人との関係を強くするとさまざまな工夫が生まれ、自由が生まれ、感動が生まれるから、誰も除け者にしない社会を作ろうと言った。

ソーシャルグッドは、個人の課題を普遍的な課題に接続して、社会に問うことで、アクションを起こしていく。離島という特異性から別ものとして見てしまいがちだが、お互いの違いを受け入れる寛容と、つながり支えあうことで得られる安心を、誰もが必要としていることを最も代弁したのが、このプレゼンだったのではないか。

今回審査員たちが票を投じたのが、アイランデクスだったことがその象徴だ。不安定さを増す社会のなかで、人の顔が見えて実際の体温を感じ、手触りを確認しながらこの世の中をよいものにしようと行動し、そこに血の通った希望を見つける、そんな起業家が集まった今回のソーシャルグッド・カタパルトであった。

(終)

編集チーム:小林 雅/浅郷 浩子/小林 弘美/戸田 秀成

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