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8月31日~9月3日の4日間にわたって開催されたICCサミット KYOTO 2020。その開催レポートを連続シリーズでお届けします。今回は、DAY3の9月3日、開催史上最長180分拡大版で開催された「ユーザー中心のサービスデザインを体験できる!Goodpatchのデザインプロセスワークショップ」 の様子を、Goodpatchのインターンで、ICCサミット運営スタッフ・メディアチームの塩田 小優希さんがレポートします。ぜひご覧ください。
ICCサミットは「ともに学び、ともに産業を創る。」ための場です。毎回250名以上が登壇し、総勢900名以上が参加する。そして参加者同士が朝から晩まで真剣に議論し、学び合うエクストリーム・カンファレンスです。 次回ICCサミット KYOTO 2020は、2020年8月31日〜9月3日 京都市での開催を予定しております。参加登録などは公式ページをご覧ください。
昨今、デザイン思考を始めとしてユーザー体験を中心としたサービスデザインなどの「デザイン」がビジネスの第一線にも広がりをみせている。2013年頃よりコンサルティングファームや金融機関によるデザインファーム買収が相次ぎ、InstagramやAirbnbなどデザイナーが共同創業者の企業は急激に成長。不確実性が高い時代においての革新には一貫したユーザー体験が不可欠で、その向上によってビジネスの成長に貢献できると言えるだろう。
今回実施したGoodpatchのデザインプロセスワークショップは、心地よいユーザー体験を作り上げる過程をICCに集う経営者が体験することで、ビジネスに「デザイン」という新たな観点を持ち帰ってもらいたいーーそんな背景から実現したプログラムだ。
▶ユーザー中心のサービスデザインを体験できる!Goodpatchのデザインプロセスワークショップとは(Goodpatch Blog)
GoodpatchはUI/UXデザインを強みにビジネスモデルやブランド、組織をデザインで支援するデザインカンパニー。大企業からスタートアップまで幅広いクライアントの新規事業立ち上げ、既存事業の改善、事業・企業価値の言語化、デザイン組織支援などを支援し、2020年6月にはデザイン会社初の上場を果たしている。
▶グッドパッチ、東京証券取引所マザーズ市場への上場に関するお知らせ(PR TIMES)
今回はそんなGoodpatchが現場で培ったユーザー中心の考え方、プロトタイピングを学ぶワークショップのレポートをお届けする。
ユーザー思考とプロトタイピング思考を起点とするGoodpatch流デザインプロセス
最終日のA会場には、事前に登録していただいた約30名の参加者が集まった。それぞれ指定されたテーブルに着席し、Goodpatch デザインストラテジーユニットでディレクターを務める中村 謙一さんのレクチャーでデザインプロセスを理解しながら、実際にユーザー中心のサービスデザインを体験するという流れだ。
冒頭、Goodpatch CEO 土屋尚史さんからの挨拶でワークショップが始まった。
土屋さん「今回のワークショップはGoodpatchが普段やっているデザインプロセスを凝縮して提供していきます。ICC史上最長の180分ということで長いかなと思いきや、本来デザインプロセスワークショップは丸一日かけてやることもあるので、今回はあっという間ですよ。
さらに今日は皆さんに組織崩壊を体験していただきます!本日はよろしくお願いします」
土屋さんの言葉に、会場で笑いが起こる。
早速、今回のモデレーターである中村さんからデザインプロセスが説明される。
中村さん「今回のワークショップではGoodpatch流のデザインプロセスをご紹介します。
プロダクトを作る手法としてのデザインプロセスは、大きく分けると以下の3段階のフェーズに分かれています。
- 課題定義
- 課題解決
- 開発
3段階のフェーズを、ユーザーを中心とした『ユーザー思考』と、思考の発散と収束を繰り返す『プロトタイピング思考』の2つの考え方を念頭に置きながら進めていきます。
そのため課題定義であっても最初から課題を特定してかかるのではなくて、課題がどんなところにあるのか広く考えることから始めていきます」
STEP1:チームビルディング
デザインプロセスのレクチャーが終わってワークに取り掛かるかと思いきや、同じテーブルに着いた5~6名のメンバーでチームビルディングが始まった。
中村さん「Goodpatchには『偉大なプロダクトは偉大なチームから生まれる』という言葉があるように、私たちはチームビルディングによって、生まれるアウトプットが変わると考えています」
そんなGoodpatchのカルチャーはワークショップでもしっかりと仕込まれている。
今回のチームビルディングは「絵」しりとりだ。制限時間は3分間。各自準備された付箋とペンを使って、チーム内で何個しりとりを繋げられたか競う。始まりの合図と同時に会場は盛り上がり、笑い声が聞こえてきた。チームビルディングは大成功のようだ。
さらに「ニックネームを書いて名札に貼って、呼び合いましょう!」ということで、チーム内の心の距離をさらに縮めていった。
STEP2:ターゲットユーザーヒアリング
中村さん「現在コロナでステイホーム中の皆さんに、おうち時間を豊かにするアプリを考えてもらいましょう」
今回のテーマに対して、まずはターゲットユーザーのヒアリングから始まった。これはデザインプロセスでいう1つ目の段階、課題を発散するところだ。「テーマに対して誰を豊かにしたいのか」という点をテーブルに配られたペルソナシートに基づいて具体化させていった。
中村さん「まずは5W1H(What, When, Who, Where, Why, How)を使ってユーザーの具体的な経験を聞き出していき、行動と感情の裏にある思考や価値観を引き出す質問をします」
Goodpatchがターゲットユーザーヒアリングで大事にすること3つ
今回は時間が限られるので「具体的な経験の聞き出し」ができるかに注力、またそのための5W1Hの質問を各テーブルに分担してペルソナの情報収集は全チーム総力戦で行う。
まずはチーム内で質問を書き出して整理してから、今回ペルソナ役であるGoodpatchのPR/PXグループマネージャー 高野葉子さんへの質問がスタートした。
今回ペルソナ役となったGoodpatch 高野葉子さんへの質問タイム
「高野さんの幸せ、不幸せとは?」「おうち時間は何をしていますか?」「最近ハマっていることはなんですか?」など、各3分間という短い制限時間を目一杯使うべく、間髪入れずに次々に質問があがってくる。
中村さんから「WhatやWhyには特に注目すること」というアドバイスも踏まえて、各チームは一言一句逃すまいと一生懸命にメモを取っていた。配られた紙や付箋に書いていくところもあれば、自前のパソコンを取り出して本気でメモをする姿も見受けられた。
STEP3:インサイト抽出
次は課題を収束する段階だ。前工程ではペルソナからたくさんの話を聞くことができたが、中村さんによると、ペルソナが言語化できていることは本人の思考の一部。言うならば「氷山の一角」だそうだ。ヒアリングで発する言葉の裏には、潜在的で言語化できていない本当の課題や欲求が隠れている。それを見つけてインサイトの仮説を立てるのだという。
また各チームに配布されたペルソナの注目すべき性格の特徴を加味しながら、ヒアリングからのインプット情報と掛け合わせてインサイトを10分間で抽出していく。うっかりすると時間が足りなくなってしまうので、自らのスマホを取り出して時間を確認する人も。
こうして持ち寄ったインサイトは、「こうだからこうなのでは?」と背景と仮説をセットに話されたり、皆の意見を重ねて議論が盛り上がるチームも。このように議論を重ねて、チームで一つフォーカスするインサイトを決めていった。
STEP4:アイディエーション
10分間の休憩を挟み、後半戦は解決策を考える。先ほどチームで定めたインサイトの仮説から、次は理想を定めて現状とのギャップを埋めていく。
まずはチームで理想を決めることから始まった。休憩直後の助走も不要なようで、活気ある賑わいがすぐに会場に広がる。ワークでも「なるほど、そうだよね」と納得した声もあれば「でも実は…じゃない?」と疑問や反対意見もしっかり出して議論している姿もあった。
そして、定めた理想と現状とのギャップを埋める解決策のアイディアを一人4つ考える。
中村さん「インスピレーションが重要なので、実現可能性やビジネスモデルは一旦置いて、各自でアイディアを発散してみましょう!」
各自でのアイディア発散の時間になると議論とは打って変わって集中状態で、会場は急に静まりかえる。しかし制限時間が終わりチームへのアイディアの共有となると場は一気に白熱。「アイディアがすごく近い!」「かなり共感できますね」と感想もあがっていた。
こうしてアイディアを発散したので収束させるかと思いきや、ここからさらに発散させていく。しかも今回は文字ではなく、絵でアイディアを出す。
中村さん「チームでの共有で得たインプットを元に、人のアイディアに乗っかるも良し、新たなアイディアを考えても良し。絵に書くことで、さっきとはまた違う脳を使って思考していきましょう!」
個人とチームを行き来して発散を繰り返してアイディアを広げた結果、2回目のアイディアの発散でも次々とアイディアが並び、チームの共有も盛り上がる。
ようやくチームで1つの解決策を決めるためにチーム内で各自良いと思うアイディアを順番に発表していくのだが、気合いが入ったのか、立ち上がって熱心にプレゼンするチームもあった。
STEP5:フィードバック
ここでペルソナにフィードバックをもらって、アイディアを見直したり、改善、そして軌道修正を行う。「12分という限られた時間のため、挙手制でフィードバックをもらおう」と中村さんが提案した直後には、皆一斉に手を上げるくらい参加者は前のめりだ。
テーブルごとにペルソナ役の高野さんからフィードバックをもらった
ここで、とあるチームは困難にぶち当たっていた。
チーム代表の質問者「インサイトとしては一言で『自分の足で歩く。向こう側にもっと行きたい』。ステイホーム中でも成長スピードをあげ続けたいし、ロールモデルを見つけたい。そのために、自分のロールモデルや深く付き合える仲間と繋がれる女性のSNSみたいなソリューションを考えています」
高野さん「女性だけのSNSはとても魅力的だと感じましたが、ロールモデルは既に身近にいるのであんまり考えたり、悩んだことはないですね…」
アイディアの反応は悪くなかったが、インサイトにズレがあったようだ。質問時間が終わるとチームは即、作戦会議へ。ズレを現段階でどのように修正していくのか、真剣な表情で議論を進めていた。
このようにペルソナからフィードバックをもらった後に、コンセプトシートを埋める。ここから使用したのが、9月1日にGoodpatchからリリースしたばかりの「Strap」だ。Strapはリモートコラボレーションの可能性を広げるクラウドワークスペース。今回はこのStrap上でコンセプトシートとプロトタイプを作成して、その画面を見せながらプレゼンテーションまで一貫して行う。
9月1日にGoodpatchからリリースしたばかりの「Strap」
シートではターゲット、インサイト、サービス・機能、価値を記入して、これまでのワークの思考を改めて整理する。
STEP6:プロトタイプ
遂に作業も終盤、プロトタイプに取り掛かる。
中村さん「収束させるためにプロトタイプを作っていきましょう。ここでは画面までイメージできるようなワイヤーフレームのような形でアイディアを具体的に作ってもらいます」
今回は時間内に、プロトタイプを作る人とプレゼンを準備する人の二手に別れて作業に取り掛かる。25分の中で時間配分は各チームに任された。すぐに取り掛かるところもあれば、最後に意見をすり合わせるチームも。
中村さんから「アイディアをどんな形で最低限作れば価値が伝わるのか考えること」と、アドバイスが入る。
早いところは複数の画面の遷移を構想していたり、タブレットで絵を描いてStrapに取り込んで使ったり、作業の方法や進捗はチームで様々だ。各チーム、メンバーの強みを活かして夢中で取り掛かっている。途中で手が止まって考え込むチームもあったが、それでも全てのチームがこの25分間で見事にプロトタイプを作り切った。
STEP7:プレゼンテーションと表彰式
中村さん「それではプレゼンテーションをしていただきましょう。各チーム2分ずつ、基盤となったターゲット、インサイトなどを紹介してから、どんなサービスに落とし込んだのかを発表していきましょう」
全6チームのプレゼンテーションをうけて優勝チームの発表へ。今回はデザインプロセスに重要なユーザー思考ができているかという観点から、ペルソナ役の高野さんに最も欲しいアプリと思わせたチームが優勝となる。
せっかくICCということでカタパルトのオープニングが流れ参加者の緊張感が高まる中、優勝チームが発表されると大きな拍手と歓声に包まれた。今回優勝したチームはフィードバックでインサイトの修正を余儀なくされたチームだった。
高野さん「最初インサイトが刺さらなかったところからのジャンプ力。自分も気づいていなかったニーズに気づかせてもらいました」
逆境でも今回のワークショップの重要な視点『ユーザー思考』に立ち返ってインサイトを見出せた成果だろう。嬉しそうにガッツポーズを決めるメンバーもいた。
最後に
前半ではデザインプロセスを学んでターゲットユーザーヒアリングからインサイトを抽出し、後半はそれを基にアイディエーションを繰り返してプロトタイプまで落とし込む。冒頭でも土屋さんからあったように、本来は一日かかるものを今回特別に180分に短縮したものの、ICCにとっては史上最長のワークショップとなった。普段とは一味違うワークショップであったが、会場は最初から最後まで白熱した雰囲気だった。
そして今回は発表後に、最後のワークとして個人とチームで学びの振り返りを行った。そこで挙げられた学びがこちらである。
- 「顧客にどれだけ付き合えたかで、サービスの質は決まることを感じた」
- 「未知のメンバーがチームにいることの重要性」
- 「インサイトにたどり着くには仮説と検証をプロトベースで繰り返すのが早い」
- 「スピード、アウトプット、チームビルディングが大事だと改めて理解」
今回はあまり馴染みがないデザインプロセスを体験するワークショップであったが、冒頭でレクチャーを受けてすぐに実践してみると、最終的なアウトプットにデザインプロセスがどのように影響を与えて、どうして重要な観点だと考えられているのか、180分間でしっかりと体感していただけたようだ。
(続)
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編集チーム:小林 雅/塩田 小優希/浅郷 浩子/戸田 秀成
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