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能登の現状を知って、復興の応援をしてほしい! 震災で全壊「鶴野酒造店」が伝える能登の現在(能登コネクテッド)

9月22日〜24日の3日間、石川・能登にて開催された「ICC石川・能登コネクテッド」。ローカル・コネクテッドのセッションや、能登半島地震で全壊した鶴野酒造店を応援するICCサミットの参加者たちが、3日間にわたって石川や能登を訪れ、地元企業や被災地の見学、ディスカッションを重ねました。こちらの記事では、現地の方々も含む約60名が参加したDAY2の「ICC能登コネクテッド」のプログラムから、鶴野酒造店 鶴野 晋太郎さんのプレゼンの書き起こし記事をご紹介します。ぜひご覧ください。

ICCサミットは「ともに学び、ともに産業を創る。」ための場です。そして参加者同士が朝から晩まで真剣に学び合い、交流します。次回ICCサミット FUKUOKA 2026は、2026年3月2日〜3月5日 福岡市での開催を予定しております。詳しくは、公式ページをご覧ください。



9月22日〜9月24日開催
ICC石川・能登コネクテッド
Sponsored by ICCパートナーズ

<スピーカー>
鶴野 晋太郎
鶴野酒造店
14代目蔵元

<モデレーター>
荒木 珠里亜
ICC運営チーム

白井 智子
CHEERS
代表取締役

鶴野酒造店 鶴野さんが「能登の酒文化復活への挑戦」をプレゼン

鶴野 晋太郎さん(以下、鶴野) 石川県の能登町で「谷泉」というお酒を造っております、鶴野酒造店の鶴野 晋太郎です。


鶴野 晋太郎
鶴野酒造店
14代目蔵元

1989年生まれ。石川県能登町出身。株式会社鶴野酒造店14代目。大学卒業後の2012年、IT企業・富士通グループに新卒入社。プログラマーとして、認証・認可をはじめとするセキュリティシステムの開発や、iOS/Android/Windowsなど多様なOSに対応したモバイル・Webアプリの設計・開発に従事。開発だけでなく、導入や運用といった現場の泥臭い工程まで一貫して携わる。次第に「能登の風土や祭りなどの伝統文化、日本酒文化を未来に残したい」「自分の手で日本酒を造りたい」という想いが強まり、2019年に家業である酒蔵にUターン。酒造りにすぐさま参画。しかし、2024年1月の令和6年能登半島地震により、酒蔵が全壊の被害を受ける。現在は、全国の酒蔵の協力を得て「共同醸造」という形で酒造りを継続しながら、能登での再建に向けて日々奮闘している。

令和6年の能登半島地震で、被災しました。

私からは、能登の現状と能登の酒文化を復活させるために活動していることや挑戦について、お話しさせていただければと思います。

私たちが造っている銘柄の「谷泉」はよく「たにせん」と間違えられるのですが、「たにいずみ」です。

ぜひ覚えてください。

豊かな自然に恵まれた能登

石川県能登町はどこにあるのかと言いますと、今日これから視察に向かう輪島市の右隣に位置しています。

能登は、今日こちらにいらっしゃる時に見ておわかりになった通り、大自然があります。

2011年に「能登の里山里海」として、世界農業遺産に認定されました。

本当に美しい雄大な自然があります。

さらに、漁によってもたらされる多くの恵み、豊かな生き物の繋がりがある場所です。

昔から漁業によって獲られる新鮮な魚とともに、日本酒が親しまれていました。

観光では、地酒や採れたての野菜などが買い物できる、年間約80万人の観光客が訪れる輪島朝市も有名です。

伝統や食が守り伝えられてきた地

祭礼が本当に盛んな地で、守り伝えられてきた伝統を大切にする地です。

能登町の代表的な祭りは、「あばれ祭」という祭りで、高さ7mの大きな奉燈が、燃え盛る松明の火の粉を浴びながら乱舞するような熱狂的な祭りです。

祭りでは、神様にお供えするためのお酒が欠かせないものとなっています。

さらに言うと、私は能登町のことを「発酵王国」だと思っています。

「かぶら寿司」や「糠(こんか)いわし」などの発酵食品が、豊かに根付いている地区です。

▶︎かぶら寿司 | こんかいわし(農林水産省)

各家庭のおじいさん、おばあさんは、かぶら寿司を漬けて皆さんに与え、そして近くの方に配るという文化があるので、本当に発酵というものが豊かに根付いています。

紹介させていただいたように、あらゆるものに日本酒が密に関わっています。

だからこそ江戸時代から、「能登杜氏」という酒造りのプロフェッショナル集団がいるほどです。

その中でも、その名をとどろかせた、能登杜氏の四天王と呼ばれる名杜氏がいます。

能登半島地震の甚大な被害

そんな能登を、令和6年能登半島地震が襲いました。

2024年1月1日16時10分でした。

人口はどんどん減っています。

震災から1年で、7,100人以上減少して、減少ペースは前年の2倍以上と言われています。

海では海底地盤が隆起してしまい、漁船を動かすことができず、漁業ができなくなってしまいました。

69ある漁港のうち60港が被災しました。

さらに田畑も地盤が隆起して、田植えができなくなりました。

今年、自分で米作りをする予定で買った田んぼも隆起してしまって、今は使えなくなってしまいました。

農業だけで損害額は、1,794億円とも言われています。

輪島朝市は、1300年の歴史があると言われていますが、地震に伴う大規模火災で焼失してしまい、すべてがなくなってしまいました。

酒蔵、店舗、住居、事務所が全壊

酒蔵は11蔵中9蔵が大規模半壊以上で、私の酒蔵、店舗、住居、事務所のすべてが潰れてしまいました。

これは、被害の状況を数値化したものです。

109ある宿泊施設のうち、まだ63しか復興できていません。

その中でも、能登唯一の温泉街である和倉温泉は、21のうち6、飲食店にいたっては322のうち99しか復興できていません。

本当に泊まる場所も、私たちの癒しもなくなってしまっている状況です。

漁業、輪島塗も営業を再開

しかし、ネガティブな情報だけではありません。

先ほど紹介した時、漁港の数を69と言った数字がここで60になっているのは、登録されていない港が9あって、正確な数字は60らしいのです。

60のうち58は、すでに漁業に出ています。

輪島塗は、8割の業者がもう営業を再開して、頑張っています。

さらに、公道などの公共の復旧は順調に進んでいます。

「能登の酒を止めるな!」で生まれる新たなチャンス

私は酒造りをしていますので、酒造りについてもう少し深掘りしてみます。

自社の醸造を再開し、自分の酒蔵で酒造りができているのは、9酒蔵のうち3です。

ですが、今、共同醸造や委託醸造の形で全国の酒蔵様に助けていただきながら、営業再開できているのは100%になります。

合言葉は、「能登の酒を止めるな!」です。

能登の酒造りが止まらない仕組みを立ち上げていただきました。

酒造りの継続が困難になってしまった能登の酒蔵の復興を支援する「共同醸造支援プロジェクト」についてお話ししたいと思います。

その後の、「能登のお酒を止めるな!」です。

被災した能登の酒蔵と全国の酒蔵のマッチングを行って、能登の蔵のこれまでの技術に基づいたお酒と、コラボレーションによるお酒を造っています。

この仕組みは自然災害大国の、ここ日本のどこで災害が起こっても、銘柄の流通を止めない、キャッシュフローが止まらない仕組みになります。

現時点で、全国30蔵以上の酒蔵が名乗りを上げてくれました。

この全国の志をともにする造り手たちと出会えたことで、私たち能登の酒蔵は酒造りが続けられています。

「地震が起こったからすべてがなくなってしまった。もう終わり」ではなくて、私は「ピンチはチャンス」だと思っています。

このプロジェクトのお酒は、能登の未来を明るくする一滴です。

能登の酒を止めるな!プロジェクトでの技術交流を活用して、ピンチを乗り越えていくだけではなく、チャンスに変えていくという、今は前向きな強い気持ちを持って、新たな酒造りに挑戦しています。

震災を機に生まれた新たな学び

実際に長崎県の福田酒造では、今までやってこなかった生酛(きもと)づくりというものをやらせていただきましたし、日本酒ブランディングについても学ばせていただきました。

さらに、こちらの森酒造場は、技術力の優れたすごく今“イケイケ蔵”で、若手の超新星と言われているほどの有名な蔵です。

こちらで生酛(きもと)を学ばせていただきました。

石川県の吉田酒造店では、モダン山廃と、昨日飲んでいただいた「貴醸酒」という製法も学ばせていただいております。

秋田県の稲とアガベでは、発酵の面白さや奥深さを学ばせていただきましたし、新たな文化であるクラフトサケ、まちづくりについて、多くのことを学ばせていただきました。

これまで外に出ることもなく、クローズドで自分の蔵にこもった酒造りという感じでしたが、能登半島地震の震災を機に、能登の酒を止めるな!プロジェクトで得た外の世界との交流によって、さまざまな技術を習得しました。

これまでと変わらない地元の蔵の酒造りから、世界を見据えたブランディングへ、自分自身が進化できています。

酒蔵に生まれ、能登の歴史を背負っているからこその使命

酒蔵に生まれ育っていますが、酒蔵に生まれ、能登の歴史を背負っているからこそ、僕はやらなければいけないことがあると思っています。

能登の日本酒文化を残していかなければいけない。

能登で再建したいと、強く思えるようになりました。

これを言うと、何人かにお叱りを受けてしまいましたが(笑)、私は能登のあらゆるものに関わってきた日本酒だからこそ、「酒文化の復活は能登の復活である」と信じています。

今は辛い状況もありますが、苦しみを乗り越えるには希望が必要です。

すべてを乗り越えていくためには、自分の勇気が必要です。

勇気を持って新しい産業、未来を意識しながら、一生懸命まちづくりをしていきます。

熱く語っておりますが、まだまだ能登の復興は進んでおりません。

復旧が進んでいないところもたくさんあります。

私の蔵は、まだやっと解体が終わったばかりで、自分の蔵を建てるというところまでも行けておりません。

何もなくなってしまいました。

人もいなくなりました。

このままでは能登が終わってしまいます。

ぜひ能登の食材を食べていただき、日本酒を飲んで応援していただきたいというのもそうですが、今日実際に能登を見て能登の現状を知っていただいて、ともに産業を創っていただければ、嬉しいです。

私は再建を目指して頑張っております!

よろしくお願いします。

会場からのQ&A

白井 智子さん(以下、白井) ありがとうございました。鶴野さんのプレゼンテーションを聴くと、毎回胸が熱くなるのですが、プレゼンテーションの中でもネガティブな側面だけでなく、ポジティブな側面も必ず話をされています。

実際現地に私も行かせていただきました。重要な夢というプレッシャーを背負い、何もなくなったまちで、「ピンチはチャンス」という言葉は誰もがよく言う言葉ですが、あの光景を前にして世界に挑戦というのは、むしろ聴いている皆さんが勇気をもらえるプレゼンテーションだったのではないかと思います。

荒木 珠里亜さん(以下、荒木) ぜひここからは会場の皆さんにも、Q&Aという形で積極的に議論をしていただければと思います。

どなたかいかがでしょうか?

坪井 俊輔さん サグリの坪井と申します。

我々は衛星で能登町に耕作放棄地などを発見するSaaSの導入をしています。

農業の現状はよく理解しているつもりではいますが、プレゼンの最後に復興がまだまだ続くなかで、特にリソースの課題などが出てきた感じですけれども、それを進めるためには何が一番変わらないといけないのか、何が必要なのか、我々ができることは何かをぜひ知りたいです。

▶︎令和6年能登半島地震を受け、サグリは石川県内において衛星データによる農地の生育・土壌分析が可能なソリューション「Sagri」を無償提供いたします。(PR TIMES)

鶴野 一番何が必要なのかというのは、地震が発生してから毎日考えていますが、今も何が必要なのかというのは、正直答えが出ていないような状況です。

現状、能登の人たちはどんどん疲弊してきて、元気がなくなっています。

能登を実際に変えたいと思っている人でも、気持ちが弱くなってきているのではないかと、最近すごく感じています。

だからもっと自分たちはこういう風にしたいという思いを今だからこそ強く持っていくことが大事かなと思います。

実際に色々やろうとしていることについては、能登から出ていく人も結構増えてきているから、能登を変えたいという強い気持ちを持ってほしいなと思います。

坪井 ありがとうございます。

荒木 他の方はいかがでしょうか?

復興・人口流出に取り組むうえでの課題は?

石川 勤さん(以下、石川) 石川樹脂工業の石川です。

僕は石川県の加賀市で工場を運営しています。

▶︎「石川樹脂工業」は、1,000回落としても割れない食器「ARAS」を通して樹脂の可能性を世の中に拡げていく(ICC FUKUOKA 2024)

加賀市でも震災の被害は多少ありましたが、道がまだガタガタしているところがあるくらいで、たいした影響はなかったのですが、人口減や人口流出という意味では、能登と同じような課題を抱えていると思っています。

今日のセッションもそうですし、地震があって初めて、色々な外の方が関わろうとしてくれていたのかなと、外から見ていて思いました。

これから人口流出する中で、移住という形、副業のような形で新しく人が入ってきて、うっすら関わっていく関係人口をどう増やしていくかということに取り組まない限りは、加賀市も含めてなくなっていくと、加賀にいるからこそ思っています。

関係人口を増やすうえで、いったん関わってくれる人にどのように定着してもらい増やしていくのかや、どのようなことに取り組んで、どのような課題があるのか、うまくいったところ、そうでないところも含めて教えていただけたらと思います。

鶴野 難しいですね(笑)。

というのも、関係人口をどう増やしていくのかというのは、私たちがもっと考えていかないといけないし、もっと皆さんに教えてもらって知っていかないといけないと思っています。

これです、というのは答えづらいですが、能登は発信側に関しては良いのですが、良いものがたくさんあるのに、それに気づいてもらえていないということはあると思います。

食もそうですが、先ほどの発酵、その他にもたくさん良いものがあるので、まずはそれを知っていただくことが大切かなと思います。

石川 加賀で課題と思っているのは、1回来てくれても定着しないということです。

それには色々な理由があるかもしれませんが、精神的な面でも設備的な面でも、受け入れの態勢にあるのではと感じています。

能登には新しく人がたくさん来たと思いますが、復旧・復興の過程で(設備的な面で)課題はあると思いますが、年齢が高い方や昔の能登が好きだった方がいらっしゃる中で、精神的な面ではどういう受け入れ態勢で進めているのか興味があります。

荒木 紗恵さん、よかったらお願いします。

一緒に汗をかいて産業を創ってくれる人が、圧倒的に足りない

伊藤 紗恵さん  珠洲で関係人口の受け入れをしている伊藤と申します。

▶︎合同会社CとH

今のご質問が、ちょうど私が取り組んでいるところなのですが、まさに関係人口、新居住の方を受け入れて、地域を盛り上げていこうという動きはもちろんあるし、県としてもやっています。

そこでの緊急的な課題は、簡単に言うと受け入れ側のキャパシティがないことです。

現地側でプロジェクトマネージャーをできるプレイヤーがあまりにも少なくて、物理的な施設がないというのもありますが、それは探せばなんとかなるもので、古民家もあると言えばあるのです。

ただ、そこにうまく接続していったり、対話ができる人があまりに少ないので、どうしてもそこで停滞してしまうと感じています。

先ほども話に出た、どのような人が必要か、何が一番必要かは、まさにICCのように一緒に産業を創ってくれる人だと思います。

一緒に汗をかいて、一緒に産業を創ってくれる人が、圧倒的に足りないのが現状です。

関係人口というのは、そこまで最初からできないので、それをどうやってやっていくかが今の課題なのかなと思います。

荒木 ありがとうございます。鶴野さん、受け入れ側としては、復興したい気持ちがありつつ、外から来る人に対して、どういう思いをお持ちの方が多いですか?

鶴野 ネガティブな意味だけではないのですが、島国みたいな感覚に似ていて、外から入ってくることをあまりいいと思わない方も、正直います。

でも今回の地震をきっかけに、今までの絶対外から入って来るな、みたいな雰囲気から徐々に変わりつつあります。

本当に外から来る人たちを受け入れようという風に変わってきているので、それも地震を機に良くなったことかなと思います。

荒木 鶴野さん以外の9蔵の酒蔵の皆さんは、どのような感じでしょうか? 鶴野さんのように、「ピンチはチャンス」と捉えているのでしょうか?

鶴野 はい、みんなそう思っていると思います。

(会場から「すごい」などの声)

そのなかで、私が一番思っています。

(会場笑)

白井 いいですね(笑)。

田中 諒さん 大阪で包丁店(一文字厨器)を営んでいるので、食文化を支えるというところで何かお手伝いできないかと、鶴野さんとはお話しさせていただいています。

▶︎職人の技術と魂を次世代につなぎ、日本の食文化の未来を問う包丁メーカー「一文字厨器」(ICC FUKUOKA 2025)

僕らはわりと近しい業種ですが、そうではない方々もいらっしゃると思います。お手伝いできることは何があるのかなと思っています。

例えば、インフラも壊滅的な打撃があると思いますし、あとは人の面でもお話が出ましたし、設備、食材、生産かもしれないし、海外の需要という話もあるのですが、いろんな交流があるかと思います。

直近で一番課題として大きいもの、それに対してこういう協力がしてもらえたらということがあれば、お伺いしたいと思います。

鶴野 日本酒などは流通のルートがしっかりしているので、そんなに問題はないのですが、地元で漁業を営んでいる方と最近よく話をするのは、せっかく魚を獲っているけれど大阪に卸すのは価格が高くなってしまうから、どうしてもやっぱり卸せないということです。

そのため1回きりになってしまって、継続的に買ってもらうことができないのが問題だと常におっしゃっているので、インフラ周りやそういったことに支援が必要なのかなと思います。

例えば、大阪の方は値決めに厳しいところがありますが、能登の良いところをもっと見つけていただいて買っていただけると嬉しいなと思います。

田中 継続的な需要を望まれていますか?

鶴野 はい。今日は、能登の生産者の方がたくさん来ていらっしゃると思うので、別のご意見もあるかと思いますが、私が地元の漁師さんと話すのは、今お話しした内容だと思います。

白井 皆さん、自分は何ができるのだろうかと、ようやく心が開かれてきたところかなと思いますが、あっと言う間に時間が経ちました。この後のお時間でも、質問のある方はぜひお願いします。

司会 登壇者の皆さまに、今一度大きな拍手をお願いいたします。

(終)

編集チーム:小林 雅/浅郷 浩子/小林 弘美/戸田 秀成

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