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職人の技術と魂を次世代につなぎ、日本の食文化の未来を問う包丁メーカー「一文字厨器」(ICC FUKUOKA 2025)

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ICC FUKUOKA 2025 クラフテッド・カタパルトに登壇した、一文字厨器 田中 諒さんのプレゼンテーション動画【職人の技術と魂を次世代につなぎ、日本の食文化の未来を問う包丁メーカー「一文字厨器」】の文字起こし版をお届けします。ぜひご覧ください!

ICCサミットは「ともに学び、ともに産業を創る。」ための場です。そして参加者同士が朝から晩まで真剣に学び合い、交流します。次回ICCサミット KYOTO 2025は、2025年9月1日〜9月4日 京都市での開催を予定しております。参加登録は公式ページをご覧ください。

本セッションのオフィシャルサポーターはJ.フロント リテイリングです。

【速報】能登の酒を止めるな!全国の酒蔵との絆で能登の復活を誓う「鶴野酒造店」がクラフテッド・カタパルト優勝(ICC FUKUOKA 2025)


【登壇者情報】
2025年2月17〜20日開催
ICC FUKUOKA 2025
Session 8A
CRAFTED CATAPULT 豊かなライフスタイルの実現に向けて
Sponsored by J.フロント リテイリング

田中 諒
一文字厨器
代表取締役
公式HP | 公式X

17歳の時、祖父の他界をきっかけに、その想いを次世代へと伝えていく使命を胸に、家業を継ぐ決心を固める。その思いを形にする手段を模索する中で、人々の心をつなぎ、価値あるものを広く伝える仕事として、WEB広告の世界に飛び込む。8年間、広告企画営業やアドテクノロジー部門に従事し、ブランドの価値や想いを効果的に伝えるデジタルマーケティングに携わる。2017年、その経験を活かし、家業である堺一文字光秀を擁する一文字厨器株式会社に入社。包丁の価値を現代に紡ぎ直す挑戦を開始する。2021年には辻調理師専門学校の臨時講師に就任。2022年、同社代表取締役に就任し、食文化の発信拠点としての一十一(Ichitoi)の立ち上げをはじめ、祖父から受け継いだ想いと共に、日本の食と道具文化の未来を切り拓いている。


田中 諒さん 食文化を興すプラットフォーム「一十一(ICHITOI)」です。

はじめまして。

堺一文字光秀の三代目、田中 諒と申します。大阪の包丁屋です。

終戦から8年、祖父が道具屋筋で創業

早速、皆様に問いたいことがあります。

「あなたの人生を変えた道具は?」

万年筆、腕時計かもしれません。

そして、ある料理人にとっては、1本の包丁でした。

今日はその包丁を通して、私たちが持つ「問」(問い)について聞いてください。

私たちのお店の紹介をさせてください。

創業者は私の祖父です。

彼は戦後間もない頃、堺の包丁職人に弟子入りし、切れ味に命を懸ける職人の技術と思いを目の当たりにしました。

彼は問います。

「職人の魂をもっと多くの人に届けるには?」

見つけたのは大阪ミナミ、道具屋筋。

▶︎千日前道具屋筋商店街

140年間、関西の食文化を支える、食に関わる道具がすべて揃う商店街です。

そこに今から72年前、たった2坪のお店をオープンしたのが、私たちのお店の始まりです。

大阪の包丁専門店、堺一文字光秀の歴史(堺一文字光秀)

72年続く、商品開発の強みは「無料の研ぎチケット」

開店当初の祖父の次の問いはこちらです。

「使い手である料理人は、何を求める?」

この問いが、我々の強みになりました。

祖父は、お客様が購入される包丁に無料の研ぎチケットをつけました。

料理人は、包丁を一度は必ず研ぎに出します。

そこでフィードバックを受け、商品開発に活かしたのです。

この仕組みこそ、72年、現在まで続く我々の強みです。

事例をお話しします。

研ぎチケットを通して、40年前にたくさん聞かれた問いがこちらです。

「錆びにくくて切れ味が良い包丁はできないのか?」

祖父は、ある職人とともに、その包丁の開発に取り組みました。

試作を重ね、3,000本ものロスを出しながら、その包丁がついに完成しました。

それがこの「Gライン」です。

職人の目線 ステンレス包丁 Gラインシリーズについて(堺一文字光秀)

1本の包丁が、ある料理人の人生を変えた

使い手の問いから生まれた包丁。

ある料理人が、この包丁と出会いました。

彼は奈良のラ・テラス イリゼというレストランで、就任初年度にミシュラン・ガイド奈良の一つ星をもたらし、今まで維持されています。

彼は20世紀最高のシェフと称されるフレディ・ジラルデのレストランで働くことを夢見ていました。

日本、ヨーロッパで修行を積みながら、10通以上の就職希望書を送ったものの、すべて不採用でした。

資金が尽き、せめてもの経験として、彼は客として、そのレストランを訪れました。

そこで奇跡が起きます。

厨房のスタッフが急な怪我で、人手が足りなくなったのです。

彼の執念を知るシェフが言いました。

「一度やってみろ」

彼が手にした包丁こそ、まさに「Gライン」でした。

その包丁さばきに、周囲は息を呑みました。

そして、その日から憧れのジラルデに入社。

副料理長まで務め、数々の功績を残しました。

彼はこう言っています。

「今でも堺一文字光秀の包丁に感謝している。あの包丁でなければ、シェフを驚かすような包丁さばきはできなかった」と。

まさに1本の包丁が、料理人の人生を変えたのです。

味でつなぐ -料理人探訪Vol.8 ラ・テラスイリゼ 鷦鷯 進(堺一文字光秀)

日本の包丁は海外で高い人気

市場の話に移ります。

現在、日本の包丁は世界中で多大な評価を頂いており、輸出額は年々アップしています。

インバウンド需要は、日に日に活気を帯びています。

ちなみに今、こんな包丁が人気です。

見たことは、ありますでしょうか? 波模様が浮かび上がる美しい包丁です。

でもこちらは、刃先だけ波模様が見えません。これはなぜか?

一文字 淡 AUS8 槌目ダマスカス 和式三徳包丁(堺一文字光秀)

結局、模様は飾りだからです。

食材を切るのは硬い層で、柔らかい層は切れ味に影響しません。

模様の柔らかい層は装飾なのです。

受け継がれる職人魂が生んだ逸品

もちろん売れるからいいという考え方もあるでしょうが、我々はプロの料理人の声を聞き続けています。

そこでの問いがこちらです。

「硬い層だけ重ねて模様を出せないか?」

そんな鋼材で包丁を作ってみました。

できたのが、こちらです。

煌 コアレス 三徳包丁(堺一文字光秀)

刃先まで模様が出ます。

柔らかい層がないので、削り出すのも薄くするのも非常に難しいのです。

でも、ある職人は実現できました。

40年前、「Gライン」を作った職人の息子です。

包丁を作り続けて72年、日本の食文化に貢献

72年間、実に10万以上の包丁をプロの現場に送り出してきました。

世界一を5回獲得したレストラン、nomaのレネ・レゼピにも、堺一文字光秀を使用して頂いています。

我々は3世代にわたり、切れ味の面から日本の食文化に貢献してきました。

2024年、ミシュランを獲得した都市ランキングの、実に上位5都市のうち3都市が日本です。

もちろん包丁業界だけでなく、食文化を支えるさまざまな先人のおかげです。

しかし、決して将来が明るいわけではないのです。

課題があります。

昭和50年には150人いた堺の研ぎ職人は、今や23人。

その半数が70歳以上です。

包丁だけではありません。

空前の評価を得る食文化の足元、さまざまな作り手が逆境にあります。

当事者の方が、ここにいらっしゃるかもしれません。

このままでは日本の包丁だけでなく、食文化を次世代につなぐことができません。

今も生き続ける、私が受け継いだ職人の魂を届けなければ、祖父の問いが死んでしまう。

私はそんな未来にしたくないのです。

共感した他者から突破口を見出す

そこで考えました。

未来を開いたのは、「問い」です。

これまで出た問いに突破口を見出したのは、共感した他者でした。

常にイノベーションは他者の目線から生まれます。

私たちの取り組みについてご紹介します。

私たちはこの考えのもと、2024年10月、道具屋筋に問いを生む場所、「一十一」を立ち上げました。

11の食文化、道具文化の当事者たちで、同じ志を持ち、違う目線から問う、そんな場です。

文化を興せ!老舗包丁専門店が新たに食文化の発信地となるイベントスペースをオープン【一十一 ICHITOI】(PR TIMES)

まだオープンして4か月余りですが、34回ものイベントが開催されました。

漁師、農家、華道家、大学教授、デザイナーなど、文化の当事者たちが、それぞれの立場からの問いを発信しています。

問いからさまざまなプロジェクトが始動

「どうすれば若手職人を増やせる?」

ここに持ち込んだのは、最高の酒造りを未来に向けて発信する平和酒造の目線です。

文化の未来を考えるセッションを行い、包丁職人育成プログラムがスタートしました。

「堺の包丁文化をどう伝えればいい?」

職人とイベントを行い、参加した料理人のお声掛けにより、なんと大阪・関西万博ミライの食と文化ゾーンへの職人たちの出場が決まりました。

たった4か月で起こったことです。

次世代に胸を張れる日本文化を創っていきたい

皆様へのメッセージです。

私は子ども、孫の代でも、私たちのように胸を張れる日本文化を創りたいと思っています。

ここにいる食、道具文化の当事者に問いたいです。

「一十一」、世界中から料理人が集まる天下の台所、道具屋筋で一緒にあなたの問いを発信しませんか?

あなたの問いが文化の未来を変える。

「一十一」で、ともに始めましょう。

ご清聴ありがとうございました。

▶︎実際のプレゼンテーション動画もぜひご覧ください。

(終)

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編集チーム:小林 雅/星野 由香里/浅郷 浩子/戸田 秀成

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