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6. VCから投資先企業への、従来とは異なる分業型経営支援がトレンドに

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「ズバリ聞きたい!ベンチャーキャピタルは今後どうなっていくのか?」全7回シリーズ(その6)は、これからのVCに期待される投資先企業への経営支援について。経営者の人選や組織づくり、人材採用から、アライアンスによる外部リソースの調達まで、各VCの強みを生かした分業化型の経営支援がトレンドになりつつあります。ぜひご覧ください!

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ICCサミットは「ともに学び、ともに産業を創る。」ための場です。毎回250名以上が登壇し、総勢900名以上が参加する。そして参加者同士が朝から晩まで真剣に議論し、学び合うエクストリーム・カンファレンスです。 次回ICCサミット KYOTO 2020は、2020年8月31日〜9月3日 京都市での開催を予定しております。参加登録などは公式ページをご覧ください。

本セッションは、ICCサミット KYOTO 2019 ゴールド・スポンサーのfor Startups, Inc.様にサポートいただきました。


【登壇者情報】
2020年2月18〜20日開催
ICCサミット FUKUOKA 2020
Session 2C
ズバリ聞きたい! ベンチャーキャピタルは今後どうなっていくのか?
Supported by for Startups, Inc.

(スピーカー)

仮屋薗 聡一
株式会社グロービス・キャピタル・パートナーズ
代表パートナー

野内 敦
株式会社オプトベンチャーズ
代表取締役

宮宗 孝光
株式会社ドリームインキュベータ 執行役員 /
DIMENSION株式会社 代表取締役

村田 祐介
インキュベイトファンド
代表パートナー

(モデレーター)

竹内 寛
MAGENTA Venture Partners
Managing General Partner

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最初の記事
1. 徹底議論!ベンチャーキャピタルは今後どうなっていくのか?

1つ前の記事
5.「セカンダリー投資」と「M&A」が、未上場ベンチャー株式の“塩漬け化”を解決する

本編

竹内 そこで思うのが、コストカットではPL(損益計算書)の下のほうを削っていくルーチンがあると思いますが、それに対してトップラインを伸ばすことは、人によっては「アートだ」ともいわれます。

SaaSや業種などのドメインで切って考えれば再現性の高いグロース手法はあると思いますが、ドメインを切らずに、さまざまな企業のグロースにベットし続けることがなぜ可能になるのでしょうか?

皆さんがどのようにされているか、興味があります。

海外投資家は何を基準に日本のベンチャーを見ているか?

株式会社グロービス・キャピタル・パートナーズ 代表パートナー 仮屋薗 聡一さん

仮屋薗 先ほど、SaaS系企業に対して海外のPEファンドやグロースキャピタルが投資をしているという話がありましたが、あちらのパートナーの方と話したとき、やることは主に2つあると言っていました。

1つは「経営陣を送り込むこと」。

もう1つは「グローバル化を支援すること」だそうです。

海外の投資家が日本企業に投資するときの目線は、世界に行けるポテンシャルがあるか、それを伸ばすことができるかどうかです。

海外のPEファンドやグロースキャピタルは、世界中のローカルな成長企業をグローバル展開させるために、そのためのチームをつくり、ネットワークを供給します。

これからのグロースキャピタルには、そうした拡張ステージで足りないものをサポートしていく力が極めて重要だと思います。

マイノリティ投資をしてコストカットするよりも、何がグロースに効くかを考えたサポートが必要ということです。

そして今、VC全体が、このバリューアッド(付加価値の提供)に取り組もうとしている現状かと思います。

VCに求められる、経営者の人選・チームづくりの能力

株式会社ドリームインキュベータ 執行役員 / DIMENSION株式会社 代表取締役 宮宗 孝光さん

宮宗 ドリームインキュベータの子会社のアイペット損害保険は上場しているのですが、かつてゴールドマン・サックスから購入し、当時10億円だった売上が現在は100数十億円を超えています。

弊社には戦略コンサルティングの仕事をしているスタッフがいますので、人を掛け合わせることでその企業をグロースさせることができるかを事前にしっかりと精査しています。

もう一社、今私たちは電子チケット最大手のボードウォークを経営しているのですが、ここ3~4年で会員数を200万人から840万人へ増加させることができました。

野内さんがおっしゃるように、コストカットだけでは雰囲気が悪くなるだけでそれほどグロースしないので、人材を掛け合わせてどうグロースさせるかが大事です。

そうしたケースでは、最初は私たちが経営しますが、途中から経営をバトンタッチします。したがってどのような方に担ってもらえるかの「人選」もすごく大事です。

もちろん成功例ばかりではなく、自分たちで経営してみてうまくいかず、売却している出資先もあります。

そんな中でも我々が信じていることは、情熱を持っている方をどうアサインメント、採用できるかがカギだということです。

起業家の方はよく分かると思いますが、良いチーミング、組織、雰囲気をどうつくれるかが、事業を拡大するためには非常に大事です。

明るくもあり、きちんとマネジメントが出来る方にしっかりとバトンタッチすることが、VCという立場でも必要だと思います。

村田 PEファンドにしてもVCにしても、組織づくりに力を入れているところは非常に多いと思っています。

インキュベイトファンド 代表パートナー 村田 祐介さん

PEファンドのほうが元来、コストカットだけではなくグロースのためのメソッドが確立されていますよね。

最近は、私のような人間も含めてHR専門の人間を据えたり、本セッションをサポートしているフォースタートアップスさんともしっかり強いつながりを持ってチームづくりに取り組むVCが非常に増えてきています。

私自身の取り組みとしても、採用にとどまらず、どう人材を定着させ、どう組織マネジメントをしていくかのまで踏み込んだ事例はたくさんあります。

そういう意味で、PEファンドとVCは、スタイルが少しずつ似てきている部分があると思います。

従来とは異なる経営支援がトレンドに

竹内 チケットサイズ(1回の投資額)が大きくなれば、ベンチャー企業に対してよりシステマティックなバリューアッドをという話になると思うのですが、一方でVCは、受け取ったマネジメントフィーの範囲で少人数でビジネスをするのが基本だと思います。

例えばアメリカのアンドリーセン・ホロウィッツ(a16z)のように、投資先に大人数のリソースを配置してグロースを目指すVCもいますが、日本ではそうしたコストはカバーされているのでしょうか?

仮屋薗 我々は彼らに比べると相当まだまだですが、アメリカも二極化していますよね。

アンドリーセン・ホロウィッツのように巨大化して、内製化したバリューアッド・チームをもつVCがある一方で、同じくアメリカのベンチマーク・キャピタルのように、ずっと400ミリオンドル(約440億円)+αのファンドを継続して、コアとなるパートナーとアソシエイトの少人数精鋭でやっているVCもあります。

そこにはおそらく、ファンドの運用思想が色濃く出ているのだと思います。

我々グロービスは400億円のファンドを運用していますが、今年、GCP Xというバリューアッド・チームを満を持して立ち上げました。

400億円ファンド組成のGCP、“次の一手”。バリューアップチーム「GCP X」で和製ユニコーン輩出を加速(COMPASS)

ヘッドには、エグゼクティブサーチのトップファーム(エゴンゼンダー)でパートナーをしていた小野壮彦さんに三顧の礼で参加していただき、投資先企業に提供できる価値が明らかに変わりました。

経営者の目線を上げる価値、質・量の両面において採用を支援する価値、そして全体のオペレーション強化の価値を提供しています。

VCのベンチャーキャピタリストが社外役員として提供できる価値を超えていきたいと思い、我々も遅ればせながら、かなり高い目線を持ってチームアップを始めています。

これは日本のみならず、世界のVC業界でも基本トレンドになっていて、サービス業化しているとも言えるかもしれません。

投資先のエンジニア採用にもVCがコミットする時代?

村田 投資先の経営支援にコストをどこまでかけるのかは、当然マネージメント・フィーとの折り合いではあると思いますが、日本のVCにおいても、そうした取り組みはより高度化しつつあると思っています。

わが社でもHR専門の人員が何人か在籍していて、この2~3年ぐらいで、我々を介して出資先で採用できた人材は200~300人に及びます。

人材紹介業の免許を我々自身が取得しており、当然、そこでの紹介フィーは一切取りません。

スタートアップに飛び込みたい方は増えているので採用はどんどんしやすくなっていると思いますし、「自分自身はこういう経験を持っているが、どういうスタートアップに飛び込めばいいのか?」とVCに直接コンタクトしてくる方も増えています。

私自身も、出資先の採用面接を毎日のようにしています。

幹部クラスだけでなく、エンジニア採用に経験があまりない出資先では、私が代わりにエンジニア面接を行うこともあります。

ビズリーチのHRMOS(ハーモス)のアカウントを私自身が持ってキーボードを叩いているぐらいです。

人材採用だけではなく「定着」も含めてHRに強いキャピタリストは、この業界でどんどん増えているのではないかと思います。

他社とのアライアンスによる外部リソースの調達支援も

株式会社オプトベンチャーズ 代表取締役 野内 敦さん

野内 私どもも投資先企業から様々なご相談をいただきますが、何がベンチャー企業にとって必要なものなのかを、まだ考えあぐねています。

もちろん組織を拡大するうえで「人」は重要で、村田さんのようなやり方をうちもやらないといけないと思っていて、粛々と準備をしています。

私たちはファンドサイズはまだ小さく出来ることも限られていますが、その中で過去の経験や私たちのリソースで最も強みを出せるのは、アライアンス(企業間の提携)のサポートです。

事業をグロースさせるポイントの一つは、外部リソースを入れてレバレッジを効かせることです。

事業を経験された方なら分かると思いますが、自分の力ではどうしようも出来ないことは多々あります。

おかげ様でVC業界がこれだけ大きくなったのでファイナンスのレバレッジは効くのですが、事業のレバレッジがなかなか効きません。

アライアンスには、垂直、水平を含めて色々なパターンがありますが、多くの方が自社のリソースでどうにかしようと考えがちで、アライアンスが上手とは言えません。

そうしたアライアンスをサポートするという意味では、現状私たちが投資する範囲での活動は十分できていますが、本当にこれを拡大していくとなったら、ベンチマーク・キャピタルのように巨大な外部ネットワークを持ち、どんどん外部のリソースをつないでいかなければいけません。

ですから、VCファンドごとの特徴がそれぞれ出てきて、HRに強いのはここ、アライアンスに強いのはここ、というふうになっていったらいいと思います。

イグジットとしてのM&A、その現状と課題とは?

竹内 ありがとうございます。すごく多様な方向性が出て、大変興味深く伺いました。

この業界は「イグジット」を語らずして終われないと思いますので、この辺りについてもにぜひお話を伺いたいと思います。

先ほども申し上げたとおり、アメリカ、イスラエルともに、ベンチャー企業のイグジットの8~9割はM&A(企業買収)です。

MAGENTA Venture Partners Managing General Partner 竹内 寛さん

私は普段イスラエルのテルアビブに住んでいるのですが、アメリカを中心に400社ぐらい多国籍企業の出先機関があり、次々に現地のベンチャー企業を買収しています。

イスラエルでは、起業家は最初からM&Aを考えて起業しますし、それに向かってバリュエーションもついていきます。

出口からさかのぼる逆算で色々なことが決まっていく印象ですが、日本ではいかがでしょうか?

企業がM&Aを機能的に活用していくために今後必要なことについて、ぜひご意見をいただければと思います。

村田 日本ではあまり目立っていないかもしれませんが、M&Aによるイグジットの数は着実に積み上がってきていると思います。

私たちの出資先で最大の規模だったのは、2012年にグリーに138億円で買収されたポケラボです。

紆余曲折はありましたが、今でもグリーの事業の大きな柱になっています。

昨年も、4~5社ほどでM&Aによるイグジットでいいリターンが出ました。

ただバリュエーションに直すと20~30億円ぐらいの中央値・平均値の規模感のものが多く、年に1~2件、100億円強のM&Aがあるという状況ですので、すそ野を広げたいと思っています。

竹内 ありがとうございます。仮屋薗さんは、大企業のM&Aについてどのようにお考えですか?

大企業によるベンチャー投資がM&Aにつながらない理由

仮屋薗 日本ベンチャーキャピタル協会(以下、JVCA)が2018年にCVC、M&A調査をしたときに分かったことは、日本の大企業ではM&Aの担当部門とCVCの担当部門が完全に分かれているということでした。

我が国のコーポレートベンチャリング・ディベロップメントに関する調査研究(~CVC・スタートアップM&A活動実態調査ならびに国際比較~)(PDF)

ゆくゆくはM&Aにつなげるためのマイノリティ投資という文脈が、全く機能していないのです。

世界的に見ると、大企業には「コーポレートデベロップメント」という形でM&Aによる成長戦略を司るヘッドがいて、その下にダイレクト投資、マイノリティ投資、LP投資と各部門が横一列に並んでいるのが一般的です。

ここをいかに回して機能させていくかが大事ですが、日本の大企業側はまだそういう状況になっていません。

2018年の調査からは、シナジー重視のマイノリティ投資から最終的にM&Aにつながらない「組織的な課題」が見えてきました。

ですがやはり、のれんをどのように会計的に扱い、コーポレートファイナンスとしていかに資本市場とコミュニケートしていくのか、ここに関しては資本市場側の“こなれ感”も求められると思います。

大企業・起業家ともに「ゴールから逆算」の視点を

仮屋薗 歴史的に見ると、1990年代のアメリカではIPOがVCのイグジットの多数派でしたが、インターネットブームが起こり、イグジットの主流はIPOからM&Aへシフトしていきました。

大きな資金が投下され投資規模が大きくなる中で、資金がしっかりと動脈と静脈(本セッションPart5参照)で回っていくには、M&Aによるイグジットが必須だったのです。

ですから今後の我々のエコシステムの課題は、大企業もしくはグローバルに向けてのM&Aのつなぎ込みですとか、起業家側としてもきちんと大企業側のニーズを認識した上で事業をつくるということになるかと思います。

竹内さんがおっしゃったように、M&Aから逆算して事業をつくる視点が重要なのではないでしょうか。

竹内 ありがとうございます。

イスラエルの例ばかりで恐縮ですが、イスラエルは人口が約900万人、面積は四国ぐらいの小さな国です。

国内マーケットがなく、ベンチャー企業を買収する現地の大企業も限られており、最初からグローバルに目が向いています。

例えば自動車の事業を興す人は、最初からドイツ、日本、アメリカの企業に買ってほしいと決めて事業を進めています。

当然大企業側も変わらなければいけませんが、起業家側も、「この会社のこの事業にはまる」「こういう大きな貢献が将来できるから、この事業を目指す」など、方向感を持って仕事をすることが必要かなと思いました。

(続)

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続きは 7. 21世紀型のベンチャーキャピタリストを、ともに創ろう!【終】 をご覧ください。

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編集チーム:小林 雅/尾形 佳靖/フローゼ 祥子/小林 弘美/戸田 秀成

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