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「AIや技術の進化によって人間はどのように再定義されるのか?」【K16-9AI】セッションの書き起し記事をいよいよ公開!6回シリーズ(その3)は、日本IBM東京基礎研究所の福田所長に、コンピューティングで進化するコグニティブ(認知)とより重要になる人間とコンピュータのインターフェイスについてお話を頂きました。いま話題のWatsonも登場する議論を是非御覧ください。
日本アイ・ビー・エム株式会社はICCカンファレンス KYOTO 2016のプラチナ・スポンサーとして本セッションをサポート頂きました。「いまIBM Watsonが取り組んでいること」もぜひご覧ください。
ICCカンファレンスは新産業のトップリーダー160名以上が登壇する日本最大級のイノベーション・カンファレンスです。次回 ICCカンファレンス FUKUOKA 2018は2018年2月20日〜22日 福岡市での開催を予定しております。
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【登壇者情報】
Session 9A
AIや技術の進化によって人間はどのように再定義されるのか?
Supported by 日本アイ・ビー・エム株式会社
(スピーカー)
安宅 和人
ヤフー株式会社
チーフストラテジーオフィサー
稲見 昌彦
東京大学
先端科学技術研究センター
教授
鈴木 健
スマートニュース株式会社
代表取締役会長 共同CEO
福田 剛志
日本アイ・ビー・エム株式会社
東京基礎研究所 所長
理事 博士(情報科学)
(モデレーター)
尾原 和啓
Fringe81株式会社 執行役員
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【前の記事】
【本編】
尾原 いいですね。なんだか重なりつつ広がって来ましたね。それでは、福田さんよろしくお願いします。
福田 剛志 氏(以下、福田) こんにちは。IBM東京基礎研究所の所長をしております福田です。本日は、話がどんな方向に行くのか想像が難しく、素での勝負に賭け、あえて 資料なしの丸腰で参りました。
まずは自己紹介ですが、IBMという会社については皆さんご存知かと思います。実はこのカンファレンスのスポンサー(プラチナ・スポンサー)です。
IBM基礎研究所、IBMリサーチは世界に12ヶ所あり、日本は東京に、ヘッドクオーターであるワトソン研究所は、ニューヨークの郊外にあります。ワトソン研究所の名前の由来は、 IBMの創業者がトーマス・J・ワトソンだったことです。東京基礎研究所はアジアで初、世界で4番目のリサーチとして 1982年に創立されました。
IBMですので、コンピューターに関することは、端から端まで何でも研究しています。基礎研究では、必ずしも物理や数学、哲学的なことばかりを研究しているわけではなく、企業の研究所という性質上、どうやって事業に育てるか、来年再来年、5年後10年後のビジネスにどう育てていくかを考慮して研究しています。
東京基礎研究所の特徴的な分野として、自然言語処理が挙げられます。米国の人気クイズ番組「ジョパディ!」で勝ったWatsonは、40名ぐらいのプロジェクトでしたが、東京からもコア技術の開発に2名が参加しました。
応用数学の分野も得意です。データマイニングやロジスティクスの最適化といった数学の応用による分野ですね。AIのモデルの最適化も応用数学そのものなので、AIのベースを研究しているといってもいいかもしれません。
それから、FinTechですね。日本は、世界で2番目の経済圏ですので、注力しています。
半導体製造において、日本には強いエコシステムがあります。その地の利を活かしながら、ハードウェアデバイスの研究を東京でも進めています。特に、パッケージングやミニチュアライゼーションなどを得意にしています。
シンギュラリティを誰も望んでいない
AIや技術の進化によって人間はどのように再定義されるのか、というテーマについてですが、哲学的な切り口から拓かれる重要な研究分野があると思うものの、私は企業の研究所の所長という立ち位置上、とてもプラクティカルに考えています。
シンギュラリティは、懐疑的に見ると、誰も起こしたいと思っていない、と思うので、起きないだろうと考えています。人間は、自分が幸せになりたいから、金持ちになりたいから、世界をよくしたいからという動機でモノを創っていくわけですよね。
(編集注)
「シンギュラリティ(Singularity)とは、人工知能が人間の能力を超えることで起こる出来事とされ、テクノロジーが急速に変化し、それにより甚大な影響がもたらされ、人間の生活が後戻りできないほどに変容してしまうとする未来予測のこと。未来研究においては、正確かつ信頼できる、人類の技術開発の歴史から推測され得る未来モデルの限界点と位置づけられている。」(出所:Wikipedia)
であれば、シンギュラリティをわざわざ起こそうというのは、マッドサイエンスに近いとも言える。そう考えるとそんなことして何かいいことあるのだろうかという気がしています。
もしかしたら、シンギュラリティが起きるかもしれませんが、そのためには何かを生み出すときの強いモチベーションやエネルギーが必要です。私にはまだそれが何か分かりません。
人間を再定義するということで言うと、人間はこれまで何度も再定義されてきたと思っています。人間という種の知能というのは、石器時代からそんなに変わっていないはずです。頭のいい人も石器時代にいたと思います。なぜ文明がなかなか進化しなかったかと言うと、文字などによって記録することがなかったからです。
その後、文字が生まれて、紙が生まれて、さらに印刷することが出来るようになりました。そのことで、ある意味、人間に外部ストレージが生まれて、それによって、文明が加速度的に進化しました。
これを言うと年齢がバレてしまいますが、私が学生の頃勉強していたときは、残念ながらインターネットがありませんでした。なので、論文を調べようと思ったら、図書館に行って過去のジャーナルを探すわけです。
面白いなと思いついたことを調べてみると、大体数年前には考えられていたことでジレンマがありましたし、自分が読める論文の数で研究が律速、つまり研究のスピードが限定されていました。
ところが現在は、インターネットによって、Google Scholarを見ればいくらでも論文が出て来るし、関係する論文を調べるのは非常に簡単です。
なので、こんなに参考となる論文があるのに、今の学生はどうして論文が書けないのかと思うのですが(笑)。全員が同じ条件ですから、基準自体が変わってきているわけなんですね。
このようにインターネットの技術は、人間の能力をオーグメント・・・増強・拡大しました。これからは、これがどんどん進んでいきます。例えば、IBM Watsonは質問応答が出来るようになり、ゲノムの論文を全部読んで覚えます。
ゲノムの研究者はそれを使って研究が出来るようになります。これまでよりも格段に多くの情報・知識を使って研究できるわけです。
変わっていく人間の役割
人間の役割は、どんどん変わっていきます。研究そのものを人間はやらなくて済むかもしれません。問題設定だけすればいいかもしれません。そういう風に変わっていくと思います。
ただし、コンピューターに全幅の信頼を寄せているわけではありません。コンピューターは現時点ですごいことが出来るように見せてはいますが、実は解けている問題は、非常にプリミティブで簡単な解きやすい問題が解けているにすぎません。複雑な、知性の解明などはまだ全然出来ていないと思います。
知性の解明を進めていくには、哲学的な視点もそうですし、人間の脳や身体の仕組みを学んだり、人間だけではなく、知性を持っている蟻や他の生物の仕組みを研究したりすることで、解明が進んでいきます。
それをもって、人間をオーグメントするエリアが広がっていくのかもしれません。そうして進んでいくのが、ここ10年くらいの話だと思っています。
IBMがコグニティブと言っているのは、「認知」のことです。AIは非常に難しい問題はまだ全く解けていなくて、認知的な部分、世界を知覚する部分が進歩してきて、役に立つレベルにやっとなりました。
役に立つ度合いはどんどん高まり、応用範囲は広がっていくと思います。今、やっていることに、コグニティブのケイパビリティを足すことによってどんなことが起きるのかという点でアプリケーションを考えられれば、いくらでも新しいビジネスの可能性はあると思っています。
Augmented Intelligence、人間の知性の拡張を拡張するという観点で考えてみると、人間とコンピューター間のインターフェイスの果たす役割というのが非常に重要です。これまでは、ディスプレイとキーボードとマウスといったインターフェイスしかありませんでした。これがすごくボトルネックになっていると思いませんか。
スマホを凝視しながら歩いていたり、ディスプレイに釘付けになっているという今日のインターフェイスは、ラディカル、つまり、根本的に変わっていかないと人間の知性が拡張されることは不可能だと思います。
最近注目を集めているVirtual RealityはAugmented Intelligenceを実現する新しいインターフェイスの一つと言えるでしょう。映画のマトリックスのように、人間にプラグを挿すとコンピューターに完全に繋がるのが究極の形かもしれません。
残念ながら人間の神経というのは、人間外のものと触れると、だんだんと劣化して長持ちしません。ドーベルアイといって、後頭部に機械を挿して、視神経を直接刺激して、目の見えない人が見えるようにする研究があり、実際手術した事例があります。
最初は見えたのですが、結局インターフェイスがダメになって、見えなくなってしまいました。
人間とコンピューターの間のインターフェイスというのは、これからずっと研究されるべきだと思います。
今、Virtual Realityが進んでいるのは、1つの突破口になるのかもしれません。脳のニューロンネットワークの仕組みをもっと理解することで、インターフェイスを良くしていくという観点も可能性があると思います。
ということで、非常に高尚な哲学的なお話のあとで、現実的な話に引き戻した感じで恐縮ですが、コグニティブを推進する私企業として、脳を模倣するというのと、人間とコンピューター間のインターフェイスを革新していくことが必要だと日々感じて、研究を進めています。
尾原 有難うございます。
(続)
続きは ヤフーCSO安宅氏が考える人工知能(AI)の本質【K16-9A #4】 をご覧ください。
https://industry-co-creation.com/industry-trend/6040
編集チーム:小林 雅/榎戸 貴史/戸田 秀成/藤田 温乃
【編集部コメント】
続編(その4)では、ヤフーCSO安宅さんに、人工知能(AI)ができることとその課題についてについてお話を頂きました。人工知能を正しく理解してほしいというメッセージでした。是非ご期待ください。感想はぜひNewsPicksでコメントを頂けると大変うれしいです。
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