ICC FUKUOKA 2024で、マネジメントのワークショップやスタートアップ・スクールの講師として、登壇いただいたEVeMを率いる長村 禎庸さんが、去る7月23日、ICC運営スタッフ向けにマネジメント講習を実施してくださいました。組織力を上げて高い目標を達成し続けたいと悩む経営者やリーダーに、今日から実践できるマネジメント手法をレクチャーいただき、運営チームはさらにやる気に満ち溢れています。ぜひご覧ください。
ICCサミットは「ともに学び、ともに産業を創る。」ための場です。そして参加者同士が朝から晩まで真剣に学び合い、交流します。次回ICCサミット KYOTO 2024は、2024年9月2日〜9月5日 京都市での開催を予定しております。参加登録は公式ページをご覧ください。
運営チームのマネジメント力を上げる
ICCサミット KYOTO 2024の開催まであと約1カ月。 ボランティアスタッフで構成する運営チームは、ベテランもいるものの、チームの約半数は毎回新しい人たちというチームですが、短い期間で組織力を上げ、ICCサミットをよりよい場にしたいと考えるときに、統括やリーダーメンバーを中心にマネジメントの勉強会をしたいという声が上がりました。
最古参スタッフのひとり、宍戸 直也さんが、運営チームにぜひこれをと推薦したのが、前回のICC FUKUOKA 2024のワークショップやスタートアップ・スクールで参加いただいたEVeMのマネジメント研修。スタッフ向けに内容をアレンジして自分たちでやってみたいと相談したところ、なんと長村さんをはじめ、EVeMの皆さんが運営スタッフ向けに講習をしてくださることになりました。
これぞスタッフ参加の恩恵と言わずして何といいましょう。運営チームの統括やリーダーといっても、その経験はさまざまで、チームも違えばやることも違いますが、よりよいチームを作りたいという思いは同じで、経営者やマネジメント層が受けるような研修を受けられるとあって、我こそはというメンバーたちが集まりました。
ICCサミットに来たことのある方はお察しかと思いますが、スタッフのみんなはそもそもモチベーションが高く、話し始めた長村さんを見つめる目、メモを取る様子がとにかく真剣、講習中に時折挟まれる机ごとのディスカッションでも真面目な議論が繰り返されていました。
Q&Aの時間に出た質問も具体例を念頭に置いたような内容が多く、おそらくICCサミットの運営チームにかかわらず、常にマネジメントについて関心が高く、考え続けているメンバーが多いのだろうという印象でした。
それではこの貴重なマネジメント研修の模様を振り返っていきましょう。
マネジメント研修、スタート!
「すべてのチャレンジにマネジメントの力を」をパーパスに掲げるEVeM(イーブン)。長村さんははじめにこの日の目的を「マネジメントができている状態を理解し、その状態に近づくためのインパクトのある『戦略の型』を学ぶ」とし、この日の目標を「基準」「基準に基づく評価」「戦略の型」について実践可能なレベルで理解している状態、と掲げました。
最初にスタッフたちに投げかけられた質問は、「半期目標は達成できているが、自分で何でも巻き取ってしまうマネージャーは良いマネージャーかどうか」。長村さんはこれについて同じ机に座った組でディスカッションをするように促しました。
良いマネージャーではない、という意見に一致しつつも、その根拠の言語化に少し悩むメンバーたち。そこで長村さんが示したマネジメントの4つの基準、つまりマネージャーの仕事を言語化したものがこれです。
基準と言っても、普通に知っている言葉のほうが、認識がずれてやっかいなもの。こうして最初に明確に定義することが大事ですが、一見どれも当たり前に見えます。では、長村さんの最初の問い、「自分で何でも巻き取ってしまうリーダー」が目標を達成しようとするとどうなるでしょうか。
仕事がすごくできる職場の誰かが浮かびませんか? もしくはチームが機能しなくてヤキモキしている自分自身かもしれません。これは実はDeNA在籍時の長村さんのことで、「短期的にはよくても、中長期的な成長には貢献しない」と、リーダーを外されてしまった理由だそうです。
では、どうするか。マネージャーがコミットすべきは「全社」の「中長期的」成長のため、上がり続ける目標を達成するには、チームを見て「執行」「活用」「伸張」「連携」4つの基準の比重を考え、それらをいかに掛け合わせてプラスにしていくかを考えなければなりません。たとえばこの例がわかりやすいでしょう。
「活用」が欠けるとメンバーは力を発揮する場がないため定着せず、人が入っては出るようなチームでは中長期的な成長は期待できません。ほかでも「伸張」がないと、メンバーの能力は高まらないので、自部署でできることは増えず、他部署に人を輩出もできません。「連携」が欠けると、他部署の足を引っ張ります。
4つの基準をうまく掛け合わせて、「ICCサミット」の「中長期的」成長を達成するのが、運営チームのマネジメントでコミットすべきこと。適材適所を行いながらも、一人ひとりの能力を上げていかなければ、前回以上の運営は達成できません。
もし自分がチームのマネージャーだったら?
続いてディスカッションテーマとして長村さんから出されたのは、自分の所属チームについて、もし自分がマネージャーだったらどうするか?を具体的に決めて同じ組の人と話し合うこと。4つの基準を足して100%になるように配分し、行動指針を考えます。
そのときに大事なのは、チームが今、どのような状況なのかを踏まえて考えること。次のような5つのような状況で自分たちのチームがどれであるかをまず確認します。
たとえば立ち上げ期や立て直し期のゴールは「執行」が100%となり、「活用」「伸張」「連携」を重視するのは投資フェーズの「急拡大」期のチームと新しいチャレンジへ向かう「成功の継続」期チーム、「軌道修正」チームならば、「執行」と「活用」の比重を重視、となります。
個人とチームの目指すものも異なり、理想と現実も異なりますが、自分たちのチームが5つのうちどれかを照らし合わせてみると、何を重視すべきかが見えてきます。
このようにマネジメントで考えるべきことや言葉の定義をはっきりと行いながら、「戦略とは何か」「目標とは何か」を辛抱強く紐解き、1つひとつの精度を上げていくことで、初めて継続的に成長を続けるチームとなることができるというわけです。構造化とフレームワークの力ってすごい!
全部お伝えしたいこの日の学びと目からウロコが山程あるのですが長くなりそうなので、詳細はぜひ長村さんの著書『急成長を導くマネージャーの型 ~地位・権力が通用しない時代の“イーブン”なマネジメント』をご覧いただくのをおすすめします。感覚的にできていた方でも、豊富な具体例で詳細まで言語化される快感と、腹落ちすること間違いなしです。
お互いが輝けるようサポートやフォローをしたり、助けあってICCサミットの成功を目指すというのが、一期一会のチームの短期的な目標ではありますが、運営スタッフの層も厚くなり、より上を目指そうというベテラン勢も増えてきた今、これまでやってきたチームづくりやマネジメントについて改めて学び直す機会となり、集まったスタッフからは終始積極的な質問が続きました。
AIで精度を高める、チーム目標と戦略立案
後半は、前半の学びをもとに、実際にワークシートを開いて、自分たちのチームについて達成したい目標を思いつく限り書くことからスタート。ここからはEVeMの北島 聖士さんと品原 由衣さんも入り、スタッフが記入に迷った際にサポートいただきました。
プライベートの目標ならば「あの山に登ろう」でOKですが、ビジネスの目標ならば「あの山に15時までに登って、カップラーメンにお湯を入れている状態」と、終了時の”状態”を明確にするのが目標を立てるときのポイント。達成状態があいまいだと、メンバーを駆り立てる目標になりえないからです。
続くワークは自分の書いた目標のなかでも、ICCサミットの運営に最も貢献できる目標を選んで、達成目標を具体化するために、2〜3つに分解した目標を書きます。
この分解目標に対して、現状維持でこのままやっていったらこうなるという成り行きの結果を書き出して、目標と現状のギャップが起こらないために最も解決すべき要因を考えます。それを正しく深掘りして分析できているかどうか?を判定し、サポートしてくれるのがEVeMのGPKaモジュールのトレーニングシートです。GPKaとは、目標は戦略方針・Key Driver・重要アクションの3点セットで達成を目指すEVeM独自のフレームワークのことを指します。
マネージャーとして目標を立ててアクションプランを考えても、それで果たして正しいかどうかは実施しなければわからず、終わって振り返ったときに、失敗や成功の要因は複合的で特定できなかったりするものです。小さな単位に目標を分解するのは、その特定にも役立ちそうです。
記入した内容を送ると、「マネ型AIパートナー」が自分の深掘りが正しくできているかどうかを判定して、アドバイスをもらうことができます。
実際に入力して、マネ型AIパートナーに診断してもらいました
それでは実際に入力していきます。筆者が所属しているのは、経験のあるメンバーで運用は安定しているメディアチーム。5つのチーム状況でいえば、前回のICCサミット終了後のチーム対抗プレゼン大会「チーム・カタパルト」で優勝したこともあり、「成功の継続」状況にあります。「活用」「伸張」「連携」を重視するとよさそうです。
継続的にICCサミットが産業を生む場になることに貢献するために、ちょっと抽象的ですが「最終日に全員がポジティブな課題感を持って終わるという状態」を最重要目標とし、その達成のための分解目標の1つを「ミスが起こってもチーム内でフォローできている」としました。
前半で学んだ「良い目標」とは、達成できる予測ではなく、チームの創意工夫を誘発して、チームの成果を最大化する”見えない30%”の部分を含んで達成しようとするもの。予測の上にプラスαを乗せたものが「野心的な目標」であり、それがカンフル剤となり、チームのパフォーマンスを上げていきます。
「70%はクリアできると思うけれど、その上どこまでいけるかな? 工夫してやってみよう!」という状態に目標設定するのがマネージャーの大きな仕事の一つともいえます。
次にその目標に対して、今までのまま、成り行きのままであればどうなっているかと、そういう状態になっている要因を掘り下げて記入します。
「いつも通りだとどうなるか」を考えてみると結構身につまされるもので、いつも失敗のカバーで精一杯で、メンバーの「活用」「伸張」をできていなかったことに気がつきました。
それではミスをした人は萎縮してしまうし、忙しいなか仕事を増やしたことに罪悪感さえ持つかもしれません。「再挑戦で挽回」より「二度とやらない」「足を引っ張らないように最低限で」という選択になる人もいるかもしれません。
そのままではチームの力が最大限にならないことは明らか。目標と成り行きの結果のGAPの最大要因を「うまくいくノウハウや失敗をカバーする方法を共有していない」と書くと、失敗前提で対策も用意していることをチームの共通認識とするべきということに気がつきました。入力内容をマネ型AIパートナーに送信して、判定を見ると……。
「OKレベル」と出ました、ちょっとうれしいです! 試しに、目標と成り行きの結果のGAPの最大要因に「メンバーにスキルの差がある」と入れてみると……。
「改善余地あり」と出ました。そもそも寄せ集めのチームでスキルの差があるのは大前提のはずなので、それはGAPの要因ではなく、マネジメントが不足しているだけのこと。なぜOKにならないのかを考えることも学びになります。
「OKレベル」の判定に戻って、GAPを埋めて目標を達成するための「戦略方針」を入れ、マネ型AIパートナーでOKが出たら、その方針の実行のために「結果」「行動」「納期」など、3種のKeyDriverとなる指標を入れます。
上のスクリーンショットにあるように、筆者が入力した「行動KeyDriver」以外にも、目標に対しこのような数値に収めるという「結果KeyDriver」、期限を切ってやることを決める「納期KeyDriver」などのサジェストも出てきました。うまくいかなかったときの次の打ち手としても使えそうです。
時間は有限、人も有限。戦略方針も数打てば当たるというより、絞り込んだ「筋の良い戦略方針」に絞っていかなければ効率も効果も悪くなります。
このように、目標の立て方、それが達成できない要因のつきとめ、目標を達成するための戦略の立て方を一つひとつ考えて、AIを相手に壁打ちしていくことで、やるべきことが驚くほど明確になります。先の4つの基準を念頭において、どんなふうにメンバーをサポートするかというマネージャーの仕事も鮮明になります。
何度かやっていくうちに、マネ型AIパートナーに「OK判定」をもらうコツもつかめて、1回でOKをもらえるような目標や戦略も書けるようになりますが、これこそツールがなくても、無意識にできればベストなマネージャーのマインドセット。AIの力を借りて、”鍛えてもらっている”のを感じます。
実は最初に講座で一連の流れを聞いたときに、ここまでやる必要はないんじゃないか、大変すぎるのではと思っていたのですが、実際にトレーニングシートに記入してみると、前半に聞いた内容と、自分が記入している内容がすべて連動して考えられて、非常に納得できるものでした。
必要なのはチームを客観的にとらえる視点と正しい目標設定で、そのために筋のいい戦略方針を立ててチームの力を集中させ、あとは実行するのみ。メンバーの力を掛け合わせれば、想定を超える成果が上がることが予想できます。マネージャーが目指す目標をメンバーにも理解してもらえればより効果的とのことで、「指示待ち」「言われたことだけやる」メンバーも減るとのことでした。
モメンタムを醸成して成果を導く
最後に長村さんが伝えたのは、チームが感じる自己効力感「モメンタム」について。私たちはもっと大きな事ができそうという高揚感が高いモチベーションを生み、さらに高い成果を上げるということです。
驚いたのは、「うまくいっているからモメンタムが出る」のではなく、「モメンタムが出るから成果が出る」ということ。逆のイメージを持っていましたが、そうではないのだそうです。
ではどうやってモメンタムを出すのか。何も成していないのに、それは出るのか?というと、これが意図して醸成できるものなのだそうです。
目標があって、戦略方針を一歩ずつ歩んでいる実感が持てればいいとのことで、チーム内で今週は目標に対してこれをしました、順調に推移していますと週報や報告を定期的に共有していくだけでも、モメンタムの醸成はできるのだそう。これ、今日からチーム作りに活用できそうです。
そんな週報の例がこちら。
モメンタムと戦略は、最初に上げた4つの基準全てに強力に効くのだそうで、目標設定がまず第一ではありますが、チームビルディングとして、このモメンタム醸成は活用できそうです。
最後は、3時間に渡って講義をしてくださった長村さんをはじめ、ご協力くださったEVeMの皆さんに感謝の拍手で〆となりました。長さを感じさせない、内容のぎっしり詰まった3時間でした。
運営スタッフがICCサミットのよりよい運営と、よりよい場作りで新しい産業を創ることに貢献するために、今回の講習を実施してくださった長村さんをはじめEVeMの皆さん、どうもありがとうございました! 以上、現場から浅郷がお送りしました。
(終)
編集チーム:小林 雅/浅郷 浩子/戸田 秀成