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2. 耐えきれないほどの課題には、常に直感の声に従う

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ICC KYOTO 2025のセッション「ジャパンハート吉岡秀人 特別講演 「人のために生きることは、自分のために生きること」- これからの生き方を考えよう 」、全6回の②は、現地での医療の始まりを吉岡さんが解説。人口32万人に医者1人、電気も医療機器も乏しいミャンマーで、吉岡さんが、「無理だ」と思った時にいかに決断するか、そこで見つけた生き方を語ります。ぜひご覧ください!

ICCサミットは「ともに学び、ともに産業を創る。」ための場です。そして参加者同士が朝から晩まで真剣に学び合い、交流します。次回ICCサミット FUKUOKA 2026は、2026年3月2日〜 3月5日 福岡市での開催を予定しております。参加登録は公式ページをご覧ください。

本セッションのオフィシャルサポーターは EVeM です。


【登壇者情報】
2025年9月1〜4日開催
ICC KYOTO 2025
Session 4B
ジャパンハート吉岡秀人 特別講演 「人のために生きることは、自分のために生きること」- これからの生き方を考えよう
Supported by EVeM

(スピーカー)
吉岡 秀人
特定非営利活動法人ジャパンハート最高顧問/ファウンダー/小児外科医

(モデレーター)
白井 智子
CHEERS
代表取締役

山田 敏夫
ファクトリエ
代表

(リングサイド席)
上田 誠一郎
インターナショナルシューズ
専務取締役

岡本 拓也
LivEQuality大家さん
代表取締役社長

尾田 洋平
一般財団法人 地域・教育魅力化プラットフォーム
専務理事

鬼丸 昌也
認定NPO法人テラ・ルネッサンス
創設者

金谷 智
LX DESIGN
代表取締役社長

亀石 倫子
一般社団法人LEDGE
代表理事

川口 加奈
認定NPO法人 Homedoor
理事長

小嶌 不二夫
ピリカ
代表取締役

園田 正樹
グッドバトン
代表取締役

田口 一成
ボーダレス・ジャパン
代表取締役社長

冨田 啓輔
HelloWorld
代表取締役Co-CEO

中川 悠樹
特定非営利活動法人AYA
代表理事

野口 昌克
SMILE CURVE
代表取締役

廣瀬 智之
Tomoshi Bito
代表取締役社長

福寿 満希
ローランズ
代表取締役

松本 友理
Halu
代表取締役

三浦 美樹
一般社団法人日本承継寄付協会
代表理事

『ジャパンハート吉岡秀人 特別講演 「人のために生きることは、自分のために生きること」- これからの生き方を考えよう』の配信済み記事一覧


人口32万人の町に医者はたった1人

吉岡 僕がミャンマーに行った時は、このような感じでした。

人口は日本の半分ぐらい、国家予算は1/100ぐらいで、ものすごく貧しく、国民皆保険制度はもちろんありません。

1日働いた収入が100円を切るぐらいで、50〜60円の頃だったと思うのですね。

ちょうど第1次湾岸戦争(1990〜1991)とかと、言われていた頃ですね。

経済封鎖でボロボロでした。

僕が働いた町の人口は32万人でしたが、医者はたった1人しか配置されていませんでした。

これは、東京都に医師が40人ほどしかいない状態です。

「ホスピタル」と彼らが呼んでいた場所は2つで、そのうちの1つが今皆さんに見てもらっている、この掘っ立て小屋です。

いかに国中が経済でボロボロになっていて、いかにたくさんの人たちが死んでいるかということですね。

特に5歳以下の子どもが大量死していて、平均寿命は50歳ぐらいだったと思います。

平均寿命が50歳というのは、日本で言うと第二次世界大戦の前の昭和10年(1935年)ぐらいの平均寿命ですから、たくさんの子どもが生まれ、たくさんの子どもが死んでいるような状態だったと思います。

もう少し大きな町へ行くと、こんな感じで建物はあるのですが、点滴を打てるような(お金に余裕のある)人たちは誰もいませんでした。

中国製の安い点滴でも、彼らの日給ぐらいかかるので、打たないのですね。

ベッドの戸板に寝かされて、お尻に筋肉注射を打たれるというのが、彼らの状況だったと思います。

家の周りには診察を待つ大行列

吉岡 僕は月曜日から土曜日まで場所を決めて、巡回診療をしていました。

そこでは、政府が配置した医療者、看護師や看護師見習いのような人たちが配置されていました。 

そうすると、その地域の人たちがそこに来てくれますから、来た人たちを診ていました。

ところが、僕が借りて住んでいた家にも、患者たちが噂を聞いて押し寄せてきました。

電話も通じない国でしたから、噂だけで満員のバスや汽車に乗って、僕の家にたどり着いてくるのです。

当時、日本はバリバリの先進国で、世界で最も進んだ国と言われていて、その国から医者が来て、無料で治療してくれるということで、たくさんの人が来るのです。

30歳の頃でしたが、空が明け始めると、大量の患者さんたちが僕の家を何十人と囲んでいますので、その人たちを朝から家に入れて、床に座って診察するわけですね。

朝の8時過ぎまで診た後、巡回診療に出かけて、夜の6時ぐらいに巡回診療から帰ってくると、また家の前が、今度は午後からやってきた人たちで人だかりになっているのです。

この人たちを夜の零時過ぎまで診て、毎日毎日、この繰り返しでした。

そういう中で体は疲れていくのですが、やりたいことをやっていますから、心は折れなかったですね。

ところが、ある日から、先ほどの映像に出ていたような子どもたちが、親に連れられてやってくるようになりました。

何て言ってくるかというと、「先生、手術をしてください」と言って、次から次へとやって来るわけです。

しかも、彼らは交通費すら借金してやって来るのです。

そのような状況ですから、大量にやって来たのは、病気やケガで放置されていた子どもとその親でした。

この子も、左の足を生後5カ月で大やけどしてそのままでしたから、親にぶら下がって生きているような感じでした。

皆さんは、国境なき医師団のことを聞いたことがあると思いますが、基本的には紛争地域で活動する団体なので、緊急疾患しか診てくれません。

でも、子どもの病気というのは、ほぼ慢性疾患です。

時代は変わり、下痢や肺炎で死ぬ時代は遠い昔で、点滴も売っています。脱水では死なないようになり、抗生物質も出回っていますから、感染症で死ぬこともだいぶ少なくなりました。

今は、生まれつき心臓が悪い子や腎臓が悪い子、腫瘍ができた子、奇形の子たちが、そのままほったらかしにされているような状況ですね。

耐えきれないほどの課題には、常に直感の声に従う

吉岡 実はこういう治療を海外でしている人たちは、日本には誰もいませんでした。

公衆衛生みたいなことをやっている人たちはいたかもしれないですが、治療している人は誰もいませんでした。

僕は現地に行って、こういう子どもたちのために生涯、医療をやっていこうと誓いを立てて、今に至ります。

電気も来ない国です。来たとしても1日1時間、2時間ですね。

大雨が降ると電信柱が倒れて、1週間続けて電気が来ないことは普通なので、麻酔の機械も動かないため、手術なんてできると思っていませんでした。

そこで、僕は最初の壁にぶち当たりました。

子どもたちがどんどん来て、手術してくださいと言うのですが、できないでしょう?

夜になると、この子たちや親たちが残念そうに帰る背中を思い出すわけですね。

「できません」と、毎日言わないといけないわけですが、ずっと言い続けていくことがだんだんストレスになってきて、これを一生ずっと言い続けないといけないのかなと思った時に、多分無理だろうなと、ふと思ったのですね。

だから、その時には、手術をするのか、しないのかの2択になっていたわけです。

このまま帰って日本で普通の医者になるのか、それともここに留まって、この医療をできるようにしてやっていくのかということですね。

僕の心は、「やるしかない」でした。

だって、このために僕は生きてきましたから。

神様がいてやれと言ってくれたら喜んでやるのですが、そこはもう自分の心ひとつで決めるしかありませんでした。

常に僕はそういう直感的な声に従って生きてきたのですが、それは僕の中では右脳の声ではなくて、全脳の声だと思っているのですね。

僕らは色々なことを経験して、色々な情報が蓄積されていて、最後にある事象を入れた時に、脳がアウトプットの答えを一瞬にして出すのですね。

細かい計算とかはできなくて、全ての答えですから、それは宇宙の果てを知るのと同じ作業だと思っていて、それは直感的につかむしかないと僕は思うのです。

ですから、こういう事象が自分の中に入った時に、最後にポンと押されて、やりたいと思った心は、僕が直感的につかんだ未来で、それが正しいかどうかは、自分でもわからないです。

けれども、少なくとも、これは今僕が出せるベストの答えだと思っているので、そのベストの答えに従ってずっと生きてきたのですよ。

その僕の答えを信じられなくて疑うということは、今の自分を疑うということだから、僕は未来が開けないと思っているのですね。

ですから、この答えに従い続けて、今までひたすら生きてきました。

僕は自分が耐えきれないぐらいの課題に出合った時は、常に瞬間的に、直感の声に従い続けて生きてきましたが、その結果、今はすごく満足しています。

何かをすることは「寿命を別のものに代える作業」

吉岡 僕は60歳ですが、人生60年でもよかったと思っているくらいです。

もう人生の2周目に入ってしまったと思っているくらいで、それぐらい幸せに囲まれていて、こんな風になるのだなと思っています。

こんなに人に大切されて、申し訳ないなと思いながら毎日生きているし、僕が今見ている世界、感じている世界を皆さんと共有できたらいいのですが、それは本当に気持ちの良い、心地良い世界です。

それは多分、直感の声に従い続けてきたから、たどり着いた世界なのかなと思います。

この時も手術をすると誓い、そう決めて、6カ月かけて準備をして、とうとう手術をし始めました。

そして30年経った今、ジャパンハート全体では、年間数千件の手術をしています。

こんな未来が来るとは、思っていなかったですね。

僕はひたすら必死に、常に目の前のことのほうが大きいので、やってきただけです。

人間は時間をかければできないことはほとんどないので、多くのことは時間が形を変えたものでしょう?

エネルギーを時間と掛けただけで、多くのことは達成されていきます。

なくなっていくのは、自分の寿命だけです。

1つだけ言うと、僕は何かをするということは、「自分の寿命を別のものに変えている作業」だと認識しています。

ですから、その変えたものが集まったものが自分の人生の質です。

だから、後悔のないように生きていこうと思っていますね。

自分の寿命が尽きた時に、「こんなものに変えちゃった」ということがないようにはしたいなと思っています。

医療の本質とは「患者の人生の質を上げること」

吉岡 その延長線上で、この子も手術ができるようになりました。

何回か手術したのですが、通常こういう子どもは足を切断して義足をはめて歩かせるのですが、手術できるようになれば、こうやって自分の足で歩いて生きていけるのです。

今はもう大きなお兄さんになって、親を手伝って農業をしているそうです。

今は、走ったりして見せてくれています。

口唇口蓋裂という、昔から日本でも、ミャンマーでも、どこでも同じくらい発生する病気があります。

▶︎口唇裂口蓋裂などの先天異常(日本口腔外科相談室)

ただ、日本の子どもたちは、生後1カ月目に手術できます。

ミャンマーでは、この子たちは手術できないので、このまま生きて、親がやっている農業を手伝ったりして、そして親が先に死んで、本人はもちろん結婚できないので、最後は独りになります。

これが彼らの人生なのですが、この子は治療を受けることができました。

こちらの子はだいぶ前に治療した子ですが、この頃は麻酔の機械は動かないし、電気は懐中電灯を照らしてもらってやっているしで、手術の滅菌も江戸時代みたいですが、煮沸滅菌ですよ。

そういう感じでやり始めましたが、麻酔の機械がないので、血管の麻酔と局所麻酔しかなくて、麻酔が1時間しか効かないのです。

それ以上、麻酔薬を入れ続けると、痙攣を起こしたり、心臓が止まったり、不整脈を起こしたり、脳が腫れたりするので、必要以上は使えません。

1時間で手術を終えないといけないので、終わらない時は、暴れても押さえつけて終わらせるのです。

意識はないのですが、痛みが出てくるので、どうしても暴れるのですね。

こういう子どもたちもそれを耐えて、耐えて、治療を完結させていったわけですね。

この子は、実は手術後10年ぐらいしてから結婚しました。

人生が変わって、子どもも生まれたそうです。

僕は日本にいる時、どうせ医者になったのだから、命を助けられる科の医者になろうと思って、外科を選びましたが、治療した子がその後、子どもを産んだと知った時に、医療とはこういうことなのだなと、遅ればせながら理解しました。

こういう子どもたちと接するうちにわかってきたのは、医療というのは、患者さんたちの人生の質を上げている作業だということです。

病院に来るとか医者に会う前後で、少しでも患者さんたちの人生の質を上げる、それが医療なのだなとわかりました。

命を助けるのは大切な役目ですが、それは一部なのだということを理解しました。

そうすると、普段命に関わらない医者も含めて、全ての医療者は、同じことをやっているのだということを悟らせてくれました。

(続)

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編集チーム:小林 雅/浅郷 浩子/小林 弘美/戸田 秀成

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