4. カンボジアで新たに設立したジャパンハート医療センターの挑戦

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ICC KYOTO 2025のセッション「ジャパンハート吉岡秀人 特別講演 「人のために生きることは、自分のために生きること」- これからの生き方を考えよう 」、全6回の④は、現地で手術不可能な子どもを日本で治療したエピソードからカンボジアの現地に設立した経緯、小児がんの生存率を上げる取り組みについて語ります。ぜひご覧ください！

ICCサミットは「ともに学び、ともに産業を創る。」ための場です。そして参加者同士が朝から晩まで真剣に学び合い、交流します。次回ICCサミット FUKUOKA 2026は、2026年3月2日〜 3月5日 福岡市での開催を予定しております。参加登録は公式ページをご覧ください。

本セッションのオフィシャルサポーターは EVeM です。

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【登壇者情報】
2025年9月1〜4日開催
ICC KYOTO 2025
Session 4B
ジャパンハート吉岡秀人 特別講演 「人のために生きることは、自分のために生きること」- これからの生き方を考えよう
Supported by EVeM

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▶︎編集注：会場で投影された一部スライドや動画は、著作権の関係と患者さまのプライバシーを考慮し、非公開にしています。ご了承ください。

2kgの腫瘍が気管や食道を圧迫

吉岡　ミャンマーの子どもの話に戻りますね。

首から大きな腫瘍が出ている、僕が二十数年前、ジャパンハートを作った頃に診た子どもがいました。

空気の通り道の気管は、わかりますね？

腫瘍が気管や食べ物の通り道の食道を強く圧迫して、あと3カ月ぐらいで食べ物が通らなくなったり、肺炎を起こしたりして亡くなるだろうなと思いながら、僕は治療していました。

当時僕は貯金を切り崩してやっているだけだったので、僕がミャンマーで医療をしていることなんて、誰も日本では知らないので、応援に来てくれる人はいません。

でも、この子の親には治療できないと言えなかったものですから、「日本から麻酔科医が来てくれたら治療をする」と言っていたのですね。

とは言っても、来てもらう当てがないので、時間だけが過ぎていきました。

6カ月くらい経ち、僕の予想では完全に命が尽きている頃ですが、ちょっと離れた場所にあるこの子の家を車で訪ねてみたのですよ。

この子の家は駄菓子屋さんを営んでいて、お母さんがお店の入り口に座って店番をしていました。

何回も会ったことがありますから、お母さんとパッと目が合った時に、その子は死んでいると思いつつ、一応、「子どもは元気か？」と聞いたのです。

そうしたら、「奥で寝ています」と言ったのですよ。

正直、「まだ生きているんだ」と思いました。

停電しているので、薄暗い家の奥のほうまでどんどん歩いて行くと、家の突き当りのところにあったこのゆりかごに、その子は寝せられて生きていました。

もう自力で起き上がれなくなっていました。

腫瘍が破裂して、毎日出血を起こして、タンパクが出て行くわで、もう死に近い状態でした。

体重は10kgでしたが、腫瘍が2kgありましたから、体重の5分の1が腫瘍でした。

この子にとってはラストチャンス

吉岡　6カ月前と変わっていないので、僕はこのまま帰ろうと思ったのですね。

もう帰るしかない。

でもその時に、患者を見捨ててこのまま帰ったら、明日から自信を持って医者をやっていけないなと、ふと思いました。

でも、助ける方法は外国に連れ出すしかないし、外国に連れ出すにはお金がかかるし、ここの政府は外国に連れ出すなと言っている。

色々なことが頭をくるくる、くるくる回って悩んでいた時、母親の視線が僕の目に入ってきました。

母親もこれがラストチャンスだとわかっていて、僕が帰った瞬間にこの子の死は確定するので、僕が何を言うか、ずっと待っているのです。

僕は母親の目を見て、「日本に行って治療してみるか？」と聞きました。

助かるかどうかなんて全然保証はないから、「死ぬかもしれない、もう二度と帰ってこられないかもしれないけれど、それでも行くか？」と聞いたのです。

そうしたら、母親は僕に、「死んでもいい、連れていってくれ」と言ったのです。

それで僕も決意して、間に合うかどうかもわからなかったのですが、日本に連れて行くことにしました。

僕が小児外科を学んだ病院が岡山にあって、僕の上司がそこで院長になっていたので、受け入れてくれて、そこで治療をしてくれました。

1カ月ぐらいでなんとか日本にたどり着いて治療を終えて、なんとか間に合ったのです。

これは手術中の写真です。

手術後、この子は右半身麻痺になりまして、帰る前にはリハビリをしていました。

腫瘍が首の骨をずらして神経を圧迫して、リハビリが必要だったのです。

無事に帰った数年後に、僕に会いに来た映像がありますので、今から皆さんに見ていただきます。

▶︎編集注：ここで、会場では歩けるようになった子どもが、4年ぶりに吉岡さんに再会、吉岡さんに向かって歩いてきて、「大きくなったら医者になりたい」と語る映像が紹介されました。

カンボジアで拠点病院を設立

吉岡　この後も、こういう子どもたちを何人も日本に連れて行って助けましたが、本当にたくさんいますから、きりがないので、どうしても病院を作る必要が出てきて、現地に建てることにしました。

ただ、ミャンマーは軍事政権です。

ラオスという国でもやっていますけれど、ミャンマー、ラオス、カンボジアという陸アジアの3カ国で医療活動をやっているのですが、この3カ国は乳幼児死亡率、5歳以下の子どもたちの死亡率が群を抜いて高い3カ国です。

ここの3カ国でやっているのですが、ラオスは社会主義、ミャンマーは軍事政権で病院を作れないので、カンボジアに作ることにしました。

飛行機で首都から首都まで全部1時間です。

先ほど言ったように、子どもたちは慢性疾患が多く、計画治療できるので、2016年に病院を作り、2018年に小児医療センターを併設しました。

▶カンボジア ジャパンハートこども医療センターでの医療活動（ジャパンハート）

こちらが、今の病院の全景ですね。

ここにはたくさんの子どもたちが入院していて、がんの子どもたちも30人以上、入院しています。

30人以上というのはすごい数で、日本の大きな病院でも十数人で、20人いないくらいですね。

そのぐらいの人数の子どもたちが入院して、治療しています。

その病院の中の様子を少しお見せします。

▶︎編集注：ここでカンボジアのジャパンハート医療センター院内や、入院中の子どもたちの映像が紹介されました。

吉岡　たくさんの子どもたちが、今もそこで治療を受けています。

僕らが病院を始めるまで、誰も小児がんを治療する人がいなかったので、がんになった子はほぼ亡くなっていたと思います。

子どものがんの専門医はゼロで、大人のがんも専門医が1人しかいませんでした。

でも誰かが始めれば、治療が広がり、続く人が出てくるので、大変だったのですが、誰かがやるしかないと思ってやり始めました。

8歳で、肝臓がんの治療をした子は去年だったか、お母さんと弟と3人で、僕に会いに来てくれました。

今も元気にしています。

2022年度の、日本にあるがん拠点病院の小児がん（固形腫瘍）のデータを見ると、僕らは少なくとも倍以上、多いところは10倍ぐらいの数を、もっと少ない人数で診ています。

僕らが治療を始めるまで、この国の小児がんの生存率は10%でしたが、今5割まで持ち上げてきました。

日本では8割ですから、まだ 3割のギャップがありますが、ここを僕らがこれからアプローチしていくことになると思います。

治療しないといけないのは子どもたちだけではないので、もっと巨大な病院を作る必要が出てきました。

この2025年10月31日にもう一つの病院を完成させることになっていて、それが200床規模の、小児だけの病院です。

▶カンボジア　ジャパンハートアジア小児医療センター開設（ジャパンハート）

プノンペンに新空港ができるのですが、そのすぐそばに建てます。

ミャンマーやラオスは今内戦状態にありますから、子どもたちを海外からも搬送して、助けていきたいなと思っています。

（続）

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編集チーム：小林 雅／浅郷 浩子／小林 弘美／戸田 秀成