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9月2日~5日の4日間にわたって開催されたICCサミット KYOTO 2019。その開催レポートを連続シリーズでお届けします。今回は、最終日の9月5日、大阪府吹田市で行われた特別企画「佐竹食品グループの現場見学と組織マネジメントの秘訣を学ぶ」の模様をお伝えします。ぜひご覧ください。
ICCサミットは「ともに学び、ともに産業を創る。」ための場です。毎回200名以上が登壇し、総勢900名以上が参加する。そして参加者同士が朝から晩まで真剣に議論し、学び合うエクストリーム・カンファレンスです。 次回ICCサミット FUKUOKA 2020は、2020年2月17日〜20日 福岡市での開催を予定しております。参加登録などは公式ページをご覧ください。
ICCサミット KYOTO 2019最終日、9月5日の木曜日は、メイン会場であるウェスティン都ホテル京都のほかに、2つの特別企画が行われた。1つは京セラ本社で行われた「京セラの歴史・経営企画を学ぶ」。その様子についてはこちらのレポート記事を参照いただきたい。そしてもう1つは、本レポートでご紹介する「佐竹食品グループの現場見学と組織マネジメントの秘訣を学ぶ」だ。
佐竹食品グループは、大阪府吹田市に拠点を置く「地域密着型スーパーFoods Market satake」と「生鮮特化型業務スーパー TAKENOKO」を展開するスーパーマーケットグループだ。店舗数は大阪府を中心に計43店舗。グループの売上は600億円を超える。
ICC参加者が“日本一楽しいスーパー”に求める学びとは?
なぜICCサミットに参加する経営者が佐竹食品に学びを求めるのか? その答えは佐竹食品の「組織」にある。佐竹食品は、リンクアンドモチベーション社が主催する“ベストモチベーションカンパニーアワード”に9年連続で選出され、直近2年は1位を獲得している、言わば「日本一のモチベーション集団」だ。
▶Best Motivation Company Award 2019 | Link and Motivation Inc.(株式会社リンクアンドモチベーション)
特別ツアーは、JR吹田駅からほど近い佐竹食品の本社にて行われた。参加者は17名。その多くは、京都のサミット会場で昼過ぎまでセッションを聴講してから、約1時間かけて来場した。また一部の参加者は、京セラ特別企画の“午前の部”からはしごでの参加となった。なお本ツアーはLexus Internationalのサポートにより、参加者の送迎はLEXUSによって行われた。
佐竹食品がビジョンとして掲げる言葉は非常にシンプルだ。それは「日本一楽しいスーパー」というもの。本社事務所へ向かう階段では毎度、その文字が大きく私たちを迎えてくれる。
実はICCパートナーズでは、本ツアーに先立つこと2ヵ月前に佐竹食品の事前取材を行っている。その模様については、以下のレポート記事をぜひご覧いただきたい。
▶ベストモチベーションカンパニーアワード2年連続1位、大阪の老舗スーパー・佐竹食品の梅原社長が語る「組織マネジメントの秘訣」とは?
このレポートでは、ICCサミット KYOTO 2019 最終日に行われた本ツアーの模様をお伝えしつつ、前回の取材では伺い尽くせなかった同社の取り組みや社長の梅原さんの考えをご紹介したい。
梅原さん 「佐竹食品の梅原です。本日はよろしくお願いします。ICCの(小林)雅さんから依頼されて快く引き受けたものの、さてどうするかと悩みました(笑)。
佐竹食品株式会社/株式会社U&S 代表取締役社長 梅原 一嘉さん
佐竹はスーパーマーケットなので、一番いいのは毎日買い物をしていただくことです。ですがそれは難しいと思いますので、本日ははじめに佐竹のことをご紹介させていただきつつ、実際に店舗や研修風景も見学しながら、皆さまの質問に答える形で進めさせていただきたいと思います。
まず、なぜ『日本一楽しいスーパー』をビジョンに掲げているのか、なぜ楽しくなければいけないのか、僕がそれに気づくきっかけとなったエピソードを一つご紹介します」
お祭りのフランクフルトが教えてくれた「楽しさ」の価値
梅原さん 「長女が2歳の頃、家族3人で地元の夏祭り『吹田まつり』に行ったときの話です。そこで嫁さんが『フランクフルトが食べたい』と言うんですよ。
『ほな俺が買うてきたるわ』と屋台の列に並ぶのですが、順番が近づいてふと屋台の後ろを見ると、業務スーパーのフランクフルトの袋が並んでいました。
『おれはこのフランクフルトの原価を知っている。なんなら売値で59円や。それを300円で売ってるんかいな』そう思って、行列もあと3人くらいのところまで来たのですが、『やっぱりないな』と手ぶらで嫁さんのところに戻りました。
『どうしても食べたいなら、帰りに業務スーパーに寄って俺が買うてやる。そんで家で焼いてやるわ』そう言ったら、嫁さんは怒りながら自分で買いに行きました。それで僕のところに戻ってきて、目の前で美味しそうに食べるんですよ。それを見て『やっぱり美味しそうやな、一口ちょうだい』って言ったら『家で焼いてあげよか?』と返されて(笑)、結局自分ももう一回買いに行きました。
(会場笑)
『ああ、美味しいいな』と。そこで思うんです、『なんで買うてまうんやろ?』と。この祭りに来てる人たちは皆さん地元の人です。だから300円のフランクフルトを『これは業務スーパーのやつや』と誰もが思ってるんですよ。
ということは、『安いから』『美味しいから』ではなく、『楽しいから』お金を払ってるんだなと。そしてこの祭りのように楽しいところに人は集まるんだし、スーパーマーケットという業態を楽しくできれば、価格競争しなくともお客様は来てくれるんじゃないかと思ったんです」
「スーパーで働く人たちのモチベーションを上げたい」
梅原さん 「食品スーパー業界は、ご存知のとおり成熟産業で価格競争の世界です。例えば皆さん、新聞の折り込みチラシで卵が100円というのを見てスーパーに買いにいきますよね。卵1パックの原価は130〜150円。ですからあの10個入りのパックの卵というのは、50円玉を1個乗っけて売っているようなものです。そうでもしないと、お客様は来てくれません。
スーパーで働く人たちが元気よく働けているかと言われれば、場合によっては損するものを朝から晩まで売っている、ただひたすら物体を移動させている、そんな世界です。当然モチベーションは下がります。
でも自分はスーパーは楽しい、商売は楽しいと思っています。いい物を売れば、その分だけお客様から反応が返ってきます。
僕たちスーパーは日本の食を支えているという自負があります。今この瞬間にスーパーがなくなったら、みんな晩ご飯に困ります。コンビニとドラッグストアだけでは、子どもが喜ぶカレーライスは作れません。だから僕は、スーパーは本当に大事な産業だと思っているんです。
スーパーの仕事は本当に面白いものです。いいものを売れば、次の日に『美味しかったよ、またお願いね』という声がお客様から届きます。そんなコミュニケーションが、実はどの店舗でも生まれているんです。だからそこを強みとして伸ばせば、日本一楽しいスーパーができて、その先にスーパーの地位も上がるのではと思いました」
理念策定のきっかけは「カビの生えたアスパラガス」
梅原さん 「あとで研修風景も見ていただきますが、佐竹では考え方・ビジョン・理念の教育は徹底しています。元々、僕自身はビジョンや理念には懐疑的で、むしろ大嫌いでした。そんなものは念仏のようなもので、『毎朝念仏を唱えて売上げ上がるんかい』と、本気でそう思っていました。
でも社員数が400名を超えて、ちょうど顔と名前が一致しない社員がチラホラと出てきた頃、その考えを覆す出来事がありました。
ある日店舗に行くと、野菜売り場にねずみ色の何かが売っているんです。ねずみ色の野菜って何があったかな?そう思って近づいてみると、それはカビの生えたアスパラガスでした。
生モノですから時には傷んでしまったり、カビが生えてしまったりするものもあります。傷んだ部分を削って『おつとめ品』としてご提供することはあります。でもそのねずみ色のアスパラは、そのまま1束10円の特売品として売っているんです。もう、ふざけるなと思うわけです。
そこで主任を呼びつけて『お前なんやこれ。こんなことやったらアカンやろ』と言ったら『でも社長、安ければみんな買うていきますよ』と言うんです。
その瞬間、『あ、うちの会社はこのままだと潰れるかもしれない』と思いました。
僕らは、そんな商売したらアカンぞということを親父や先輩からずっと習ってきたのに、彼はそれが悪いことだとすら思っていないんです。それが一番怖いなと思って、じゃあ何が必要なのかなと考えたときに、何を目指すかというビジョンや理念が必要だとを気づき、その方向に経営をシフトさせました」
仕組みにはファンはつかない。ファンは必ず「人」につく
梅原さん 「ご存知の通り、今は『日本一楽しいスーパー』を掲げて、社員の意識のすり合わせをモチベーションクラウドで測定しながら経営しています。
そうした中で社員に対して一番発信しているのは『お客様が喜ぶことなら、何をしてもよい』ということです。佐竹では、各店舗が何かをしたいと思ったときに『こんなことをやってもよいか?』という問い合わせが本部に来ることはありません。したがって稟議書もありません。
そんなことをしていたら、目の前のお客様はすぐに行ってしまいます。お客様が目の前で困っていたら、社員だろうがパートだろうがアルバイトだろうが、そんなことは関係なく、ただその目の前の人を助けられなければ、ファンなんでできません。
ファンというのは、どんなにいい仕組みを作っても、値段をいくら安くしても、店舗をいくら綺麗にしてもつきません。僕たちは、ファンは『人』につくと信じています。
『あんたがおるから、この店に来るねんで』そういってもらえることが、ファンづくりです。だからファンづくりが出来ている店舗では、例えば店長が異動すると、お客様から『あの店長はどうした』と怒りの電話がかかってくるぐらいです。
スーパーマーケットという業態でありがたいのは、駅前に売上高8兆円の大手スーパーがありますが、結局は『うちとあの店の間に住むお客様が、どっちの店に来てくださるか』それだけだということです。8兆円が攻めてくるわけではありません。
その勝負に勝つためには佐竹のファンを1人でも多くつくる必要があって、そして何より大事なのは、やはりそこで働く『人』だと思っています。であればその『人』を信じて、目の前のお客様に喜んでもらうための商売を全部やってもらおうと。そのためなら何をやってもよいということです。
これは僕の父がよく言っていたんですが『従業員の失敗で会社は潰れへん。経営者の失敗で店は潰れるけど、従業員の失敗なんてたかが知れている』と。
また、そうした『考え』のすり合わせを目的として制作しているのが、『AllA(オールエー) AWARD JOURNAL』です。
表紙に書かれている『MVT』というのは『Most Valuable 店舗』です。日本一楽しいスーパーを実現するためには何をすればよいか? それを考え、実行できている店舗を表彰するもので、これとは別途、部門ごとに全店舗の中からMVS(Most Valuable 商売人)も選出されます」
要所要所に笑いが散りばめられた約30分間にわたる梅原さんのレクチャーに、真剣な表情で聞き入る参加者一同。この後、私たちは2グループに分かれて店舗と研修風景の見学に向かった。移動の準備をしながら、参加者の方々は口々に「これだけでも来た甲斐があった」と話している。
さてここからは、実際の見学風景のご紹介。写真を中心に、その模様をダイジェストでお伝えしたい。
「半年後になりたい自分を描く」1年目研修の現場を見学
梅原さんが引率するAグループは研修→店舗の順に、前回の取材でもお世話になった教育課の細川さんが引率するBグループは、店舗→研修の順に見学することに。筆者は、Aグループに同行させていただいた。
研修室は、佐竹食品本社から商店街を歩いて徒歩数分。同じく佐竹食品が運営する「業務スーパーTAKENOKO 吹田店」2階の大きな研修スペースだ。前回の取材時は、こちらでは主任研修が行われていた。
今回見学させていただいたのは、「1年目研修」と呼ばれる社内研修だ。文字通り入社1年目の社員全員が受講する研修で、本年度の新入社員49名全員が参加する。リンクアンドモチベーション社のサーベイ(上司、先輩が回答してくれたアンケートデータ)をもとに「半年後の目指す姿」を定め、それに向けて何をしたらよいのか、自らアクションプランを考え、ディスカッションする研修だ。
今回の研修も、個人でアクションプランを考えたあとは、ホワイトボードの前に立ってグループ内で発表を行い、他のメンバーからのフィードバックを得る研修スタイルとのこと。社員の皆さんの表情は真剣の一言で、中には頭を抱えながら考え込む方もいた。
参加者からは、佐竹食品がどのような思想をもとに採用や配属を考えているのか、様々な質問が飛び交った。ブランド豚「湘南みやじ豚」を手掛ける宮治さんの「あこがれの部署などはあるのですか?」という質問に、梅原さんは次のように答えた。
梅原さん 「採用担当がそれに近いかもしれないですね。ただ採用担当は新卒で配属されることはなく、まずは全員、店舗のいずれかの部門に配属されます。現場を知らなければ採用できませんからね。
実際に採用担当になるにも段階を踏む必要があり、現場をやりながら採用業務も担当する『ファンクリエーター』を1年間やって、その後本社勤務の『ファンナビゲーター』を10ヵ月間、その上で正式配属となります。」
研修室をあとにしたAグループ一同は、もと来た道を戻り、Foods Market satakeの本店へと向かった。道すがら、参加者の皆さんに、今回の特別ツアーに参加した意図を伺った。
まずは、埼玉県川越発のクラフトビール「COEDOビール」を手掛ける協同商事/コエドブルワリーの朝霧重治さん。
協同商事 朝霧さん 「うちはメーカーでもあり有機野菜の商社です。スーパーをはじめとした小売業の人たちともお仕事をご一緒しますので、まさにそうした方々が会社の中でどのようにモチベーションを高く仕事をされているのか、興味のど真ん中なので参加しました」
続いて、完全栄養食「BASE BREAD」「BASE NOODLE」のベースフードでCOOを務める小林紘子さん。
ベースフード 小林さん 「いま弊社は18名の組織で、まだみんなの顔が見える段階なのでうまく回っている実感があります。ただちょうど米国法人を立ち上げたばかりで、そちらでは組織をゼロからつくらなければなりません。
現地で3名のスタッフを採用したのですが、うちの商品は売り方も含めて独特なので、今は日本のメンバーが掛け持ちで米国のチームを観ている状況です。ずっとそうする訳にもいかないので、仕組みを整えなければと思い、今日参加しました」
初日のスタートアップ・カタパルトに登壇したシルタスの小原さんは、スーパーでの購買情報をもとに栄養管理を行うアプリ「SIRU+(シルタス)」の開発・提供を行う。
シルタス 小原さん 「モチベーションが高い組織、いい組織の定義が何かということを知りたくて参加しました。今弊社は社員10人なのですが、正直、組織の課題があるのかどうかも分かりかねている状態です。社員のモチベーションは高いものの、コントロールしてそうなっているわけではないので、KPIを導入するなどして、もうちょっとしっかりやっていかないとなと思っています」
数分ほどで、一同はFoods Market satake 朝日町本店へ到着した。
白菜半玉の値付けに見る、佐竹食品の「正直な商売」
店舗見学では、陳列や値付けの工夫や、店舗ごとに制作するポップ、お客様とのコミュニケーションについて、梅原さん自ら解説いただいた。
梅原さん 「この大きな白菜は1玉700円ですが、半玉はその半額の350円で売っています。1/4玉は175円です。普通のスーパーは、半分だからって半額じゃなくて、ちょっと高い値段で売っていますよね」
「分かります!それが悔しくて、頑張って大きめの野菜を買って、結局使いきれなかったりしますよね」ベースフード小林さんが共感する。
梅原さん 「そうでしょ。お客様からは『おたくは正直ねぇ』と言ってくださいます。佐竹の理念には『正直な商売』というのがあるのですが、値付けでもそれをしっかり反映しています」
養豚業を営む宮治さんは、やはり精肉コーナーが気になる様子。そっと一言「肩ロースがいいですね」とつぶやいていた。佐竹食品には、部門ごとに「部門の志(目指す姿)」が存在する。精肉部門はずばり「肉好きをうならせる」。肉好きどころか専門家さえもうならせる質の高い豚肉のようだ。
野菜・果物コーナーから精肉・鮮魚コーナーを抜けて惣菜、ドライ・グロッサリーとまわる中で、すれ違う店員さんがみな、元気よく挨拶してくださるのが印象的だった。
「現場の方の表情がすごくいいですよね。いきいきしていらっしゃいます。」そう言ったベースフード小林さんに、梅原さんは「みんなめちゃくちゃ緊張してますけどね」とはにかみながらも、とても嬉しそうに笑った。
全員が、楽しく元気に働く会社を目指して
さらに一行は、通常は立ち入ることのできない店舗のバックヤードも見せていただいた。
店イベントなどの予定表が掲示されたスペースに、前述した「AllA(オールエー) AWARD」の店舗別・部門別の順位表が掲載されている。
業績点、組織点、そしてモチベーションクラウドのサーベイが示すMI値(モチベーション・インデックス)が全て開示され、順位づけはそれらの総合点により決められているらしい。順位表の上部には「AllAとは、店舗内のすべての部門がMI値でA判定を取ることです」と書かれており、AllAを獲得した店舗には「AllAポイント」が加算される仕組みになっている。
さらに、梅原さんから補足が入る。
梅原さん 「AllAというのは、最終的には全店舗の全部門が組織偏差値67以上のA判定を目指そう、ということです。全店舗全部門オールAになれば、みんな楽しく元気に働いている証拠だよねと。それで、AllA AWARDとして表彰しているんです」
「料理の楽しさ」を伝えることも、スーパーの大事な仕事
研修と店舗の見学を終えて会議室に戻ったAグループ。Bグループの戻りを待つ間も、参加者からの質問が相次いだ。ここでは、その一部をご紹介したい。
店舗見学で絶えずカメラ撮影をしていたミクシィ石井宏司さんからは、お客の高齢化による購買行動の変化にどう対応しているのか、という質問が投げられた。その答えにも、佐竹食品が目指していることが明確に示されていた。
梅原さん 「お客様の年齢に関して言えば、うちの場合70歳くらいまでがっつり買われます。先ほど見ていただいたような大きな白菜を丸ごと1個買っていかれるのも、年配の方が多いです。なぜなら料理ができるからです。むしろ若い主婦の方は、レシピアプリを見て『豚肉150グラムください』と買い物に来られます。
そこで思うのは『僕たちスーパーマーケットは、料理をできる人を増やさなければいけない』ということです。
料理しない人ばかりになればコンビニで事足りますし、惣菜だけ売っていればいいみたいな話になってしまいます。そうではなく、みんなが料理をするようになれば、『ハンバーグだったら自分で作った方が美味しいよね』『カレーだってレトルトじゃなくて大きな鍋で作って食べたいよね』『味噌汁だってなんだって、自分で作った方がいいよね』と。
そこで大事になってくるのが、やはりお客様とのコミュニケーションなんですよ。鮮魚コーナーの魚も、若い方はなかなか一尾まるごと買っていきません。でもちょっとずつ店員が話しかけていくと『じゃあ今日は煮魚に挑戦してみようかしら』と行動変容を起こしてくれます。
それで美味しかったよ、失敗しちゃってさ、といったコミュニケーションが生まれたり、料理の上手なパートさんは自分でレシピを書いて渡したりもしています。そんなふうにしてると、通りすがりのお客様が『こうしたらいいわよ、これも美味しいわよ』みたいに教えてくれたりするんですよね。そうやって料理好きが増えてくれたらなと」
Aグループの質疑応答が一段落した頃、Bグループも会議室に合流した。
感動の「第4回ありがとう総会」ドキュメンタリー映像
次に私たちが見せていただいたのは、「第4回ありがとう総会」のドキュメンタリー動画だ。「ありがとう総会」とは、佐竹食品が2年に1回、全店舗を休業して正社員、パート、アルバイト含めた全従業員2,000名を集めて行う全社総会だ。
動画は、役員、部長による寸劇の様子や新制度の発表など、会場からも笑いが飛び交う和やかな雰囲気でスタートする。しかし、動画が永年勤続を表彰するシーンに差し掛かると、参加者の表情は一変した。
彼女はなんと勤続46年。梅原さんの「あなたのおかげで、今の会社があります」の言葉と、うつむきがちに目に涙を浮かべる彼女の表情に、一同の涙腺が緩む。
梅原さんがMVT(Most Valuable 店舗)を発表するシーンでは、映像のテンションは最高潮を迎えた。「業務スーパーTAKENOKO 箕面店!」と呼ばれた瞬間に湧き上がるメンバー。表彰状を受け取る店長の山口さんは唇を震わせながら、次のように語った。
山口さん 「今回ぶっちぎりの1位を取るために、各メンバーとコミュニケーションをとり、たくさん話させていただきました。私にとっては、最高の仲間とこの1年半仕事をさせていただき、本当に、本当に感謝しています。これからも、よりよい箕面店であるために、全力で、みんなで頑張ってまいります。ありがとうございました!」
ちなみにこのあと梅原さんの感動のスピーチが続くのだが「僕の話はいいですよね」と、映像はそこでストップした。
入社20年目、教育課 細川課長が当時を振り返る
最後に、参加者からの質疑応答パートが設けられた。回答者としては、Bグループの見学を引率いただいた教育課課長の細川さんも加わる。
最初に手を挙げたのは、今回ICCサミットの運営チームメンバーとしても参加した尾原和啓さん。細川さんの秘蔵エピソードを、梅原さんの軽妙な合いの手とともにお届けしたい。
尾原さん 「梅原さんのお話を聞いていると、トークがうまいので全てが上手く回っているように見えてしまいます。とはいえ、最初はうまく行かないこともあったと思うのですが、現場から見てどの瞬間に手応えというか、会社が変わったなと感じたか、細川さんにお聞きしたいです」
「会社が変わるぞ」と現場が実感したターニングポイント
細川さん 「ビジョンや理念ができる前の佐竹は、休みの日も出勤して当たり前みたいな空気がありました。休日も店に出て、10時にお疲れさまでしたと先輩に言っても誰も返事してくれない。12時でもダメ。14時くらいになってようやくお疲れと返してくれる、そんな状況でした。
梅原が言っていたように『理念で飯は食われへん』と僕らも思っていたし、10年前にリンクアンドモチベーションさんに来てもらい研修を受けたときも、『この時間に何の意味があるのか分からない。俺が店にいないとこの瞬間にも売上が下がってるんだ』と、共感も納得もありませんでした。
そうした中で『会社が変わる』と思ったターニングポイントがいくつかあります。
1つは、第1回目の『ありがとう総会』のときです。会社がはじめて全店舗を休みにして全社総会をすると言い、現場では『どこかの会社に吸収されるんじゃないか』『業績が悪いから本店以外は畳んで、“残りたいやつは手挙げろ”と言われるんじゃないか』そんな噂が立ちました」
梅原さん 「そんな事言うとったんか(笑)」
細川さん 「変圧器が吹き飛んで店の屋根に穴が空いたときも、店の前にブルーシートを敷いて商売する会社ですからね。その会社が全店舗を休むなんてと。でもあの場で『理念ができました!日本一楽しいスーパーを目指しましょう!』と言われて、『あ!会社が変わるんだ』と感動したし、ワクワクしました。
もう1つは、当時店長だった僕らが役員との面談で『休日も朝からちゃんと休んでるか? お前ら出とるやろ』と言われるようになったことですね。役員が僕たち従業員のために会社を本気で変えようとしてくれているんだな、ということを実感しました。
あとは、佐竹の理念・ビジョンに共感して入社した新卒入社の人たちが成長して、新卒主任がたくさん現れ始めたときですかね。店長の僕が『日本一楽しいスーパーを実現しましょう!』と朝礼で放った言葉に、新卒の子たちが『はい!』とまっすぐに受け止めてくれるのを感じて、会社が変わったなと実感したタイミングです」
梅原さん 「僕が教えたとおりに喋ってくれました」
(会場笑)
梅原さん 「うちの会社は本当に、ブラックとは言わないまでも“ミッドナイトブルー”くらいのブラック度合いでしたからね。ちなみに、彼のお子さんは、彼がお父さんであるという認識なかったんですよ」
細川さん 「僕は当時26歳くらいで店長をやらせてもらっていたのですが、その頃は朝5時半に店に入り夜は閉店まで、そして休みも出社という感じでした。子どもが妻に『なんでうちにはパパがいないの?』と。いやいや、いるやろと妻が説明すると『たまに昼に来てご飯を一緒に食べて、お風呂に入れてくれるメガネのおっちゃんがパパなの?』という感じでした。
子どもとの時間をつくりたいと思い、今は会長になられた当時の社長に一回だけ『店長をおろしてください』と直談判したことがありました。そしたら『お前ごときが会社の人事に口を出すのは100年早い。店長はワシが決める。お前は店長や!』と言われて、嬉しいやら悲しいやら、そんな時代でした」
梅原さん 「これが、ミッドナイトブルーです」
(会場笑)
続いて、楽天創業メンバーにして楽天市場などの事業責任者を務めた小林正忠(セイチュウ)さんが質問に立った。
セイチュウさん 「僕は、梅原さんが『スーパーは食を支える大事な産業だ』と言い切ったことが素晴らしいと思いました。ご自身が何よりもそれを信じている、いわばStrong Believerなのだと思います。そしてきっと今は店長さんは全員それを信じているのだと思いますが、そういう状況に好転したきっかけというのは何だったのでしょうか?」
梅原さん 「きっかけ……何でしょうね、“必殺技”みたいなものはないと思っていて、ずっと同じことを言い続けているからだと思います」
セイチュウさん 「手応えなどはどこらへんで感じましたか?」
梅原さん 「手応えでいうと、正直まだそんなに感じていないですね。ただ、2,000人の従業員のうち70〜80%くらいは自分と同じくらい信じられていると思いますし、正社員はそれが伝わっていなければうちに居られないと思います」
ICC×佐竹食品のきっかけとなった、リンモチ麻野さん
続けて、リンクアンドモチベーションの麻野さんが質問をする。梅原さんのICCサミットへの参加は、「ベストモチベーションカンパニーアワード」に関する麻野さんのFacebook投稿を、ICC小林が見たのがきかっけでもある。感慨深そうに手元のメモ帳を見ながら、率直な質問をぶつけた。
麻野さん 「実際に店舗のどんなところを見れば、従業員の皆さんのモチベーションの高さが分かるものなのでしょうか? 僕自身は普段スーパーに全く行かない層なので、先ほどの店舗見学では正直よく分かりませんでした」
梅原さん 「スーパーは週に3〜4回、お客様によっては毎日来るところですから、元気のいい服屋さんみたいな接客をしたら鬱陶しいんですよね。
よくモチベーションとテンションは違うと言うのですが、うちの従業員は本当に真面目に商売に取り組んでいます。皆さんが佐竹の店舗に来られたら『あ、初めてのお客様だ』と一発で気づきます。でも、すぐには声をかけません。何回か来られたり、何か探している様子を見て初めて『いつもありがとうございます』『何かお探しですか?』と声をかけます。
ですから従業員のモチベーションの高さは、佐竹のそばに住んで半年間買い物をいただいて、引っ越しをされたときに『この街には佐竹がないのか……』と気づくようなものです。実際に、遠方へ引っ越されたお客様から『近くにsatakeやTAKENOKOがない。つくって欲しい』とお手紙やメールをいただくことがあります」
降格は容赦なく行う。ただしチャンスは何度でもある
質問者は絶えない。次は、北九州を中心に展開するうどんチェーン「資さんうどん」の佐藤さん。
佐藤さん 「業績やMI値が良い店長さんと、悪い店長さんがいますよね。悪いお店を立て直すために良いお店の店長さんを異動させることもあると思いますが、その際、元々いた店長さんはどうされるのでしょうか?」
梅原さん 「その場合は『お疲れさま』と店長を降ろします。でもうちは何度でもチャンスが来ます。例えば、今エリアマネージャーやっている社員の一人は、3回くらい店長を降ろされています。
大事なのは、店長を降りたときに、良い店の店長の下につけることです。というのも、店長って他の店長がどんなふうに仕事しているか分からないんですよね。だから良い店長の下で『ああ、店長ってこんなこともするんだ』と学んで、それでまた半年後店長としてとしてチャレンジする、そんな感じです」
「売上や利益を追いかけていた頃よりも、今が楽しい」
最後に、高級ナイトウェアブランド「Foo Tokyo」の桑原さんからの「梅原さんが経営方針をガラリと変えたときに、離反というか『違うな?』と思った人はいなかったのでしょうか」という質問に、細川さんと梅原さんがそれぞれ答えた。
細川さん 「みんな頭の中はクエスチョンマークだったと思います。それまでは目を剥いて歯を剥いて売上をあげろ、と言っていた会社が『日本一楽しいスーパーを!』ですし、それがどんなものなのかもイメージできませんでした。
だから僕が店長として最初にしたことは、店を飾り付けることでした。それを見た会長に『昭和のキャバレーか!』と叱られて『これは違うみたいだな』とか言いながらみんなで外したりもしました(笑)。
ただ梅原をはじめとした役員がその理念を体現している、本気なんだというのは明らかに目に見えていたので、徐々にこういうことなんだなと分かるようになりました。それでも完全に分かるまでに、5年は掛かったかなと思います」
梅原さん 「僕の立場としては『儲けを取るのか、理念を取るのか』、ずっとその答え合わせを突きつけられている感覚でした。なぜならそれで『儲け』を取ったら誰も理念が正しいと思ってくれないじゃないですか。その答え合わせの繰り返しで、5年くらい掛かってしまったのではと思います。
ただ、売上や利益だけを追いかけていたときより毎日が楽しいです。お客様は喜んでくれるし、働く社員も楽しいと言ってくれますから。当然、そっちのほうがいいですよね」
◆ ◆ ◆
以上、ICCサミット KYOTO 2019 特別企画「佐竹食品グループの現場見学と組織マネジメントの秘訣を学ぶ」の模様をお届けした。
佐竹食品から新大阪駅へ向かう帰りの車中で、マネーフォワードの金坂さんに本日の感想を伺った。
金坂さん「佐竹食品さんのことは以前から記事などを読んですごいなと思っていましたが、今日実際に梅原社長にお会いして、パワーが半端ない、1ミリも迷いがないのを肌で感じました。それと、日本一『大きい』とか『売上がある』とかではなくて、『楽しい』というお客さん目線のワードを追いかけているところが、すごくいいなと思いました。
『日本一楽しいスーパー』というのは、それ自体が分かりやすいかと言われると、そうでもない気がします。だからこそ、リーダーに迷いがあると伝わらないと思いますし、梅原さんご自身もそれを毎日言い続けることによって、迷いをゼロにし続けているのかなと思いました」
今回取材していて何よりも感じたのは、ここまでお伝えしてきた梅原さんの考え方や佐竹食品の取り組みのすばらしさ以上に、その一つひとつの言葉に宿った熱量、気迫の凄みであった。その熱量を生み出す原体験となったのが、お祭りのフランクフルトや傷んだアスパラガスといった、もしかすると誰もが素通りしてしまっていたかもしれない、小さな出来事だったことも特筆すべきであろう。
モチベーションや優れたリーダーシップの源泉は誰にも平等に訪れていて、そこにいかに気づくかが問われる時代なのかもしれない。
最後に、今回のツアーにご協力いただいた佐竹食品の皆さま、参加者の送迎車両をご提供いただいたLEXUSの皆さまに、心から感謝の意を申し上げたい。
(終)
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編集チーム:小林 雅/尾形 佳靖/戸田 秀成
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