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9月2日~5日の4日間にわたって開催されたICCサミット KYOTO 2019。その開催レポートを連続シリーズでお届けします。今回は、最終日の9月5日、京セラ本社にて行われた特別企画「京セラの歴史・経営企画を学ぶ」午後の部、その後に開催された「京セラ流コンパ」の模様も合わせてお伝えします。参加者が驚愕した、コンパ体験で実感した京セラのカルチャーとは? ぜひご覧ください。
ICCサミットは「ともに学び、ともに産業を創る。」ための場です。毎回200名以上が登壇し、総勢900名以上が参加する。そして参加者同士が朝から晩まで真剣に議論し、学び合うエクストリーム・カンファレンスです。 次回ICCサミット FUKUOKA 2020は、2020年2月17日〜20日 福岡市での開催を予定しております。
「京セラの歴史・経営企画を学ぶ」午後の部
ICCサミット KYOTO 2019最終日、9月5日の木曜日は、メイン会場であるウェスティン都ホテル京都のほかに、2つの特別企画が行われた。1つは大阪府吹田市の佐竹食品、もう1つは、こちらのレポートでご紹介する京セラ本社でのスタディツアーである。ツアーは午前の部に続き、午後の部の2回が行われ、午後は終了後に”京セラ流コンパ”が行われた。
京セラ創業者、稲盛和夫さんのポートレートに迎えられるエントランス
午後の部の開始時間は14時、集合は稲盛ライブラリー。午前の部は大変盛り上がったということを聞きながら、午後の参加者を待つ。参加予定は20名。到着してきた人たちに、参加の理由を聞いた。
ERRORs柏谷さん「学生時代に、京セラでインターンをしていました。アメーバ経営とは全く関係が無い仕事をやっていたのですが、アメーバ経営には社員の方々との会話から何となく触れてはいました」
カラクリ小田さん「前職の社長が一回り年上だったのですが、京セラの出身で、稲盛さんの話をよく聞いていました。アメーバ経営を参考にしながらやっていたので、原点を知りたいと思って参加しました。今回案内が来たときに、勉強できるチャンスだと思いました」
RevComm會田さん「稲盛さんとは共通の知り合いが結構いるので、何とかお会いしたいと思っています。第二電電つながりでは、昨日の千本倖生さんのお話(セッション9B「【特別企画】レジェンドが語り尽くす! メガベンチャーを創るための経営者の仕事とは?」)が感動しすぎたので、アポを取って再来週会いにいきます。
通信事業の先輩として、お話をしたくて。RevCommも、セッションで千本さんが言われていたように、1兆円企業を目指しています。人のため、世のため、人を喜ばせるというのが事業の原点というのが、最高でした。その哲学が大好きなんです」
前日、第二電電(現在のKDDI)を稲盛さんと一緒に創業したレノバ代表取締役会長、千本 倖生さんのセッションの余韻が大きく残っているようで、今日の京セラ・スタディツアーへの期待が高まっているようだ。
青臭い議論を社内で戦わせる
京セラ吉田さん「ICCのみなさんは、活気があってすごいですね。午前中はすごく盛り上がって、活力をもらいました。午後も引き続きすごくワクワクしています。よろしくお願いします!」
吉田さんは参加者、運営スタッフも含め30人に向かって、京セラの歩みをかんたんに説明し、稲盛さんの生涯をたどるビデオを上映した。
その後は、2グループに分かれてライブラリーの見学。ちなみにこの稲盛ライブラリーは、第二電電を創って社外の組織が大きくなったため作ったのだという。
そもそもこのライブラリー自体が、稲盛さんの経営者としての歩みと経営に対する考え方を学ぶ展示であるが、参加者が若い企業が多いことから、京セラ創世記のころとフィロソフィに関するものに興味が集中したようだ。
ヒストリアンである京セラ塚田さんが、まるで自分がその場にいたように語るエピソードに参加者は聞き入り、見学というよりは、目に入ったものから質問やディスカッションが広がっていく。
社員と語り合うことが何よりも好きな稲盛さんは、コンパのときでも、どういう人生を送りたいと思っているのかなどについて話すことが多かったそう。「青臭い議論をするのが好きで、それで考え方のベースを揃えていたんだと思います」と聞くと、思わず「いいですね」と言ったのはFABRIC TOKYOの森さん。
稲盛さんは同じ考え、価値観を共有すること、同士というのを大切にしており、少しでも話す機会を作ろうと、熱があるときでも解熱剤をうってコンパに顔を出すこともあったのだそうだ。
実現にはプロセスをカラーで描けるまで考え尽くす
塚田さんが取り出した社員手帳には稲盛経営のエッセンスとなるものが記されている。手慣れた様子でページを開きながら、解説は続く。
「これは入社のときに全員に配ります。各国の言葉にも訳して配っています」
稲盛さんが昔に利用していた机の前まで来ると「経営者は一番最後、後回しでいいのだと、稲盛は粗末な机を使っていました。それを伝えるための展示です」
展示されている大きな机の上に目を止めたのは、inahoの菱木さん。「『考えよ』って何ですか?」
塚田さん「IBMから分不相応な注文をもらったときのもので、IBMの”Think”から来ています。どうしたら無理なことを実現できるのか、実現するためには、カラーでプロセスを描けるまで考え尽くしてイメージできないとだめだ、と稲盛は言っていました」
「イメージして考え尽くすのはトップダウンに近いし、自立した小集団で達成せよというアメーバ経営は、矛盾するというか、2面性がありますよね」と鋭いコメントをしたのは、再びFABRIC TOKYO森さん。
塚田さん「本人も大きな決断をする一方、神経質で他人の言うことを気にするという2面性があります。コミュニケーションを大事にする人で、わかってもらいたい人なんです。
私が入社したときは、あまりに社員同士の関係が強く、入りにくいと感じるほどでした。稲盛は『我々は同じ、同士だ』と、社長と社員の区別をつけることを嫌がっていましたね。現在は、それを稲盛に直接会っていない世代にどう伝えるかが課題です」
森さん「スタートアップと似ているな……」
OKAN沢木さん「根源的な思想なんでしょうね」
塚田さん「とはいえ、それが若い人に煙たがられることもあるかもしれません」
採用の際に、カルチャーフィットを見極めるそうだが、企業カラーの強さゆえ、京セラに入ってくる人には、独特の雰囲気、匂いがあると言われたこともあるそう。「自分らしく働く」ことが尊重される昨今、京セラで個性が失われるとか、自分らしさが失われると言われることにも危機感を覚えているそうである。
菱木さん「稲盛さんのだめなところをあえていうと、どこなんでしょう?」
塚田さん「何でも自分で答えを出してしまうところでしょうか。我々が稲盛イズムになったのも、稲盛さんのところに行くと必ず答えが出るからと、頼ってしまうところがありました」
人生は方程式で表せる
もう1つのグループでも熱い質疑応答が展開していた。
篠さん「お好きなところを自由に見ていっていただいていいのですが、1つだけ、稲盛が一番大事だと言っている方程式だけご説明させてください。人生はこの方程式で表されると言っているものです。そう言うと、新入社員はびっくりするのですが、年数がたつほどにそのとおりだと納得します。
『人生・仕事の結果=考え方×熱意×能力』
仕事は知識がないとできませんし、やり抜く体力も含めて能力です。勉強する時間はかかるけれども、能力についてはちょっとやる気になればできます。
仕事をやり抜くのには、強い意思が非常に重要だと稲盛は言っています。
学生時代にすごく優秀だった人が、社会に出ても結果を出せなかったり、その逆で学生時代はそんなに勉強しなかった人がものすごい結果を出したりするのを、稲盛はずっと不思議だと思っていました。そしてそれは、その人の持っている考え方がものすごく重要なのだと考えました。
考え方だけは、マイナスとプラスがあると言っています。チャンスが来ても、自分にはそんなことできないとか、今は景気が悪いからと思ってしまうと、考え方がマイナスになる。すると、この方程式は掛け算になっているので、結果もマイナスになる。
経営者の方であれば、よくご理解いただけると思いますが、できないと思ったら、事業をスタートできないですよね。
どの方も、成功されている方は、できないなんて思わないはずです。どうやったらできるかとプラスに考え、行動することで、つかみ取っていくのだと思います」
橋本さん「小さい会社だったころに、どうやってIBMに見つけてもらったのでしょうか?」
篠さん「稲盛は国内では難しい、注文は少ししかもらえないので大きく伸ばすことができないと、創業3年目にアメリカに出張に行きました。ところが大枚をはたいて行ったのに、最初は成果もなく帰国して非常に落ち込んでいました。でもそれを継続していきました。
日本は創業何年目など、信用で取引をします。一方、アメリカは、いいものを作れるかどうかで評価します。できるかどうかで、できるといえばそこで約束が成立します。
1966年、京セラはIBMから2500万個の注文を受けます。創業7年目のことでした。それは当時の規格よりも遥かに厳しいもので、当時の標準の誤差3分の1という、高い技術を要求するものでした。1ヵ月に生産できるのが100万個、それを2年4ヶ月かかって完納しました。
そうすると、日本のメーカーは海外の部品のリストを見ますよね。そこに『京都セラミック』とあるわけです。こんな難しいことが京セラはできるのか、一流のメーカーに入っているんだ、すごいなということになって、それからは注文をいただけるようになりました。
ここに書いてある一文、京セラの経営の基本方針が書いてあるところが、私は好きなんです。創業して8年目、昭和42年のものです。
『京セラは世界的視野に立って世界の京セラへ前進する。京セラは開拓者であらねばならぬ。人がやらない、人がさけて通るところを、やり通るものなり。京セラは独創を重んじ、個性を生かし、人の模倣をせず、独自の技術を確立し、もっと世界のセラミックメーカーのリーダーシップを執るものなり』
京セラは創業からそうだったのです。簡単なものは注文はもらえず、難しいものをできますと言って完成させ、技術力を磨く。人と同じことをやっていたら、成長できませんよね。特に小さな会社ならなおさらです。
チャレンジ精神でそれをやり抜く感覚、それが京セラのDNAなんだ、お前たちは今も増幅しているのか?と、叱られるわけです」
家族の一員だから一生懸命叱る
會田さん「稲盛さんの本を拝見していると、稲盛さんは数字や結果に非常に厳しい方ですよね。鬼のようだと言われたりもしています」
篠さん「激しいとも言われますが、叱ったあとに様子をみていて、必ずフォローが入ります。『期待しているからな』と、肩を叩いて優しく言葉をかけてくれるのです。現場ではそういう感じです。
私たちは稲盛名誉会長の部屋にあらゆることを相談に行きます。難しい課題で、部屋に行くときには緊張するのですが、一度相談が終わって出てくるときは、すっきりとしてニコニコしています。
物事によって叱り方も違うのでしょう、立っていられないほど叱られたという先輩の話もよく聞きます。
5年ぐらい前に、私も叱られました。京セラのホテルを経営していたころのことです。
『おまえなぁ、できないならできないといってもらっていいんだぞ』
でもそれで、私は何くそと思いました。私と名誉会長のつきあいもありますが、やめろと言われたら、何くそと私自身は考えて、へこたれませんでした。会長は相手を見て、それぞれの叱り方をします」
展示にあった『京セラフィロソフィ』という本からも、稲盛さんの人情味あふれるエピソードが紹介された。
篠さん「できの悪いの、いいの、さまざまな人がいても、家族の一員なら一生懸命叱ることもできるし、そのあとに必ずフォローをして仲直りをするじゃないですか。たとえば稲盛に対して11名の仲間が団体交渉に来たときも、家族だから収めようとしたのです。
三日三晩交渉して11名のうち10名が納得したならば、普通はもういいだろうと思いますよね。でも最後の1名まで絶対家族として大切にするというのは、信念なんですよね。厳しいことを言ってもわかってくれるのが家族です。
人はもろいものです。ちょっとしたことでいい関係があっという間に崩れたりしますが、家族ならば崩れません」
アクセルスペース 山崎 泰教さん「エンジニアの半分くらいが、17カ国から来た外国人です。京セラのようなグローバルな企業で、どうやって哲学を浸透させて、同じ方向を向くようなアプローチをしているのかを教えていただけますか?」
篠さん「1つのアイデアとして聞いていただきたいのですが、事業を成功させるためには、この12ヵ条を上から順番にやりなさいと稲盛は言っています。まず最初が『1.事業の目的、意義を明確にする』
第二電電でいえば、日本の電話料金を安くするぞという理念を明らかにする。これでみんな燃えますよね。32万人のNTTに対して、頑張るぞ、と集まったのは19人。日本全体の通信を、絶対に安くするぞというので燃える。
そして『2.具体的な目標を立てる』『3.強烈な願望を心に抱く』と続きます。稲盛は1つ1つを丁寧に徹底してやると言いました。
4つ目は『誰にも負けない努力をする』です。どうですか? みなさんできていますか?
私は京セラに40年いますが、どうしたらやっていますと言えるのかと、考えます。若い頃に三日三晩寝ないで開発に取り組んだときぐらいでしょうか、いまだにやっていますとは言えません」
参加者たちの質問は尽きなかったが、見学は2フロアでタイムアップ。稲盛さんと一緒に仕事をした方たちの様々なエピソードを、もっと聞き続けていたい気がしたが、参加したみなさんはいかがだっただろうか。午前の部の見学も同様に、非常に盛り上がったと聞いた。
▶他のエピソードをご覧になりたい方はこちらへ。
ICCサミット KYOTO 2019 特別企画! 京セラ ヒストリアン解説による、稲盛ライブラリー見学&本社訪問記【活動レポート】
アメーバ経営についてのレクチャー
その後は場所を移し、資料を使ったアメーバ経営のレクチャーが、コンサルティング事業本部の堀 直樹さんから行われた。
すでに書籍などで学ばれている方も多いようだったが、みなさんが携帯電話を取り出し、写メを撮っていたのが、評価制度について。エンジニア、営業、事務職、異なるアメーバの評価制度をいかに公平感を保ちつつ作っているのか、社外秘ではあるが具体的なデータが示され、参加者の興味を惹いていた。
さて、18時となり、参加者もお待ちかねの「京セラ流コンパ」の時間である。
京セラ流コンパのスタート!
京セラ本社のエレベーターを上がり、社員食堂のあるフロアに移動した一行。そのフロアの一番奥に、コンパが行われる座敷スペースがある。入り口には本日の参加者リスト一覧と、座席表が貼られているのも、コンパのしきたりに則ったもの。ICC側から参加者のリストを事前に提出して、座席表を作っていただいた。
テーブルは8卓に分かれ、中央には車座スペースが空けられている。ブルーが参加者、オレンジが京セラの方々、グリーンがICC運営ボランティアスタッフである。
それぞれが着席すると、京セラ守山さんの軽快な司会で「京セラ流コンパ」が始まった。
司会を担当する京セラ 経営推進本部 事業戦略室の守山 和之さん
守山さん「京セラ流コンパとは何でしょう? それは、普段話さない仕事仲間と、胸襟を開いて一杯飲んで、語り合うことです! 昔はよく社長をつかまえて、不満をいっぱい言って新しい事業をやらせてもらいました(笑)。
今日は京セラ9名も含めて、総勢40名のコンパです。車座コーナーが中央にあります。飲み物はそこに準備がありますが、自由にセルフでお願いします。京セラコンパは、自分ですべてやるのが原則です。
お酒がなくなったら、奥の冷蔵庫に取りに行ってくださいね。よそのお酒を飲んじゃだめですよ!『研究開発』と書いてあるところから取ってください。それでは執行役員の稲垣からご挨拶させていただきます」
ICCサミットにもご参加いただいている京セラ研究開発本部長の稲垣 正祥さん(中央)
稲垣さん「皆さんこんばんは。今日はICCサミット、最後のセッションにお越しいただきありがとうございます。ICC小林さんに京セラ流コンパをやりたいと言われ、興味・関心をもっていただいたとのこと、満足いただけるかどうかはわかりませんが、普段どおりにやってみます。
立場に関係なく、楽しんで、盛り上がっていただければと思います。
先日、ヤッホーブルーイングさんにご協力いただき、京セラの新しい研究所の立ち上げイベントで”京宴”というのをやり、そのときに余ったよなよなエールがあります。今日は隣の部屋でも社員がコンパをやっていますので、うかうかしているとあいつらに飲まれるので、取られないようにしてください。
それでは、皆さんの事業の成功と仲間の幸せを祈って、乾杯したいと思います。乾杯!」
伝統の鍋を味わいながら、議論スタート
焼き鳥、枝豆、フライドポテト、豚肉と海鮮のボリュームたっぷりの鍋がテーブルに並ぶ。鍋のシメはうどん。京セラ流コンパといえば鍋、ということで、夏でも鍋ということにさせていただいた。
とはいえ、参加者の心に残ったのは、まさに立場に関係なく、自由闊達に議論を戦わせる京セラの風通しのいい雰囲気と、すみずみにまで行き渡っているフィロソフィではないだろうか。
各テーブルに京セラの社員の方々がいるため、京セラやアメーバ経営への質問で、さっそく話に花が咲く。やがて司会の守山さんの「お題を決めて、突然話しかけます」という予告どおり、前日深夜に海外出張から戻ってきたばかりというコンサルティング事業部の堀さんが車座の中心に座らされ、質問の集中砲火を浴びた。
守山さん「皆さん、堀さんに、厳しめの質問をしてください!」
「アメーバ経営の基準となる単価は誰が決めるのか」「営業と製造の間で値決めはどう行われるのか」などといった質問は、どのテーブルでも疑問に上がったポイントのよう。京セラ独自の方法が明かされ、参加者は感心することしきりだ。
OKAN沢木さん「大学のときに、アメーバ経営の論文を書きました。内部の人だからわかる、アメーバ経営の致命的な欠点を教えてください」
堀さん「セクショナリズムになりがちですね。上位リーダーがいかにそれを調整するかが大事です。でもスポーツマンシップを理解して、正々堂々と戦うことが大事です」
その答えに反論するように「そんなきれいごとじゃない、そんなことじゃアメーバ経営の本質は決してわからないよ!」と話し始めたのが吉田さん。
吉田さん「私が思うに、スポーツマンシップというより、競争なのです。アスリートたちが世界一の記録を獲ろうとするのと同じ気持ちを入れたのが、稲盛名誉会長のアメーバ経営なのです。私はそう理解しています。
小集団に分けて競争させることで、物凄い闘争心がわいてきます。それが会社の業績、数字となって戻ってくるのです。
アメーバリーダーはみんな、1銭でも、1円でも高くとってやろうと競うから、喧々諤々となるわけです。そのケンカがなければ、うちの経営は成り立ちません。
どういうふうに(ケンカを)収めるかは、飲み会になって、どっちが勝つか、どっちがどっちを言い負かしたかという、そういう次元のところで値段が決まっていきます。
現場で聞いていても、あいつは気に入らないから飲みに連れて行こうとなり、それでとにかく議論しています。議論で相手を負かせば勝ちです。議論を磨いていって、とにかく競争します。
だからうちの会社の運動会は、めちゃくちゃ盛り上がります。どちらも基準が同じなのです。イベントとアメーバ経営は表裏一体で成り立っていて、あの事業部には論破で負けた、金額で妥協してしまった自分が腹ただしいから、運動会では負けへんぞ、というのがうちの会社の根底にある闘争心、競争です。
そういうところをみなさんの会社にうまく入れていけば、きっと面白くなるんじゃないかなと私は思います」
(一同拍手)
月次でしめるときに、月末の最後数日で非常な集中を見せて目標を達成する「月末集中」の話など、聞けば聞くほど、京セラの皆さんからは面白い逸話が次々と出てくるのだった。
アメーバ経営でイノベーションは生まれるのか?
ICC運営スタッフ 下川さん「イノベーションを生むためには、一見無駄と思われることをやったほうがいいと言われたりします。グーグルなど、8割業務で、2割は業務外のことに時間を使おうと言ったりしますよね。アメーバ経営は、いかにイノベーションを生もうとするのでしょうか」
吉田さん「さっき言っていた、アメーバ経営の最大の弱点は、まさにそこなんです! 日々のオペレーション管理とか業績向上に関しては、こんなに優れたシステムはありません。でも、目の前のことしか考えなくなる人もいて、一番の問題はイノベーションです。
京セラでは『マスタープラン』(年間の経営計画)というのを作っているので、来年のことぐらいまでは考えているけれど、5年後、10年後のこととなるとどうか。でも、優秀なアメーバリーダーは考えています。
今日の経営しか考えられないトップは瞬間的に業績が上がるのですが、永続的に上げていくことについては何も考えられず、次の代になったときに大変なことになります」
稲垣さん「アメーバ経営に先行投資をしてはいけないとは、どこにも書いていないんです。でも、経営である以上は、儲かっていないと先行投資はできない。いかに儲けを生んで、新しいことをやるかというサイクルを回さないといけない。
アメーバによってはそれを考えて回しているところもあります」
外の人間がいるからと、遠慮して話さないことは一切ないように見え、その率直さは逆にこちらが肝を冷やすほど。現場の問題意識と、それについて経営に及ぶまで真剣に考えている当事者意識には、驚いた参加者も多かったのではないだろうか。
柏谷さん「アメーバ経営の完成度は高いと思いますが、フィロソフィやアメーバ経営をもっとこうしたらさらによくなる、というアイデアを持っている方はいませんか?」
守山さん「それでは最近まで海外の事業所にいた、後藤さんに聞いてみましょうか」
後藤さん「4月まで中国の現地法人を9年、やっていました。いかに普遍性をもたせるかは、常に悩んでいるところです。
でも、そんなに大上段に考えなくても、本当に人間として何が正しいかを考えると、アメリカ、南アジア、中国を回ってきましたが、今のままで行ける実感があります。形式にこだわらないほうが良いのではないかと思います。
ベースさえしっかりしていれば、元気に木は育つ。人間としての倫理観があればいいのではないでしょうか」
どこまでいっても、誰に何を聞いてもフィロソフィが自分の血肉となった言葉が出てくるのは驚くばかりだ。
規格外の人材、アイデアを組織はどう受け止めるか
この夜、一番盛り上がった議論をご紹介しよう。
ラディウス・ファイブ菅原さん「組織に居つけない人を留める、救済する手は、京セラにあるのでしょうか」
守山さん「自分の経験から話しますね。私の社内で師匠とする人は、稲盛と一緒にJALに行きました。その人に、よく言われたものです。
『守山よ、やりたいことがあればまずは自分の上司に言え。だけど、伝えてそれを断られ、その理由を聞いても納得できなかったら俺のところへ来い』と言うのです。
なぜなら、上司は私を育てないといけないし、上司あっての私だから、まずは聞くべきである。上司の人間性を高めるために聞いてやれというのです。もしも聞いてくれる器がなかったら、自分のところへ必ず来いということでした。だから、それだけは守るようにしていました。
本当は師匠のところへ行ったほうが早いのですが、それからは直接必ず上司に説明をして、だめだと言われたら、その理由をちゃんと聞くようにしていました」
アイデアのある人は、勢いがあるあまり組織に収まりきれないもの。それをフィロソフィをもって説得する守山さんの”師匠”の器がうかがえるエピソードだ。
稲垣さん「今、京セラでは決定するまで上司もわからない形で自分から他部門への希望を申請できる社内公募制度もありますね。第二電電のときは、稲盛がある日突然、通信会社を作るから行きたい人は?という感じでしたが」
守山さん「せっかくの機会なので、今日は社内の若いのも呼んでいます。どういうふうに思っているか聞いてみましょう。社内スタートアップ制度で採用された小材さん!」
小材さん「やはり社内公募は、今の部署にいたくない人への救済措置なのかなと捉えています」
守山さん「転職して、入って来た人にも聞いてみましょう。佐藤さん!」
佐藤さん「私の場合は、やりたいことがあれば、とにかく関係者を説得しています。自分は弁が立つほうという自負もありますが、人のためにやるんだと、ただただ説得します」
佐藤さんの答えに拍手が起こるのを聞いて、小材さんがマイクを握りしめて立ち上がった。
小材さん「さっきの話、撤回したいです! 僕が今、考えていることを言わせてください。
京セラでは今年初めての試みで、社内スタートアップ制度というのが立ち上がりました。これをどううまく作っていくかはこれからなのだと思います。
とがったアイデアをそのまま出したところで、正直、誰が審査しているのかわからないので、会社や上層部が選ぶようなアイデアを応募しないと選抜されないだろうと考えて出しました。
(一同どよめく)
制度があっても、会社の上の人達がどういう思いでやっているのかわからないのです。教育的な立場でやりたいのか、実際に何年後かに実現したいのか」
ベースフード橋本さん「とがったアイデアを提案できないと、スタートアップはできないですよ!」
そうだそうだ、という声がICC参加者から上がる。
會田さん「僕は前職が商社なのですが、上の人が選ぶのはだいたいイケてないです」
(一同笑)
小材さん「フォローさせてください! そのなかでも、吉田さんと稲垣さんは、とがった人たちを採用してくれます。逆に、トップが変わったらどうなるか不安です」
あまりに正直な告白に爆笑と、拍手が起こった。そこへ吉田さんがぎらりと目を光らせてマイクを握った。
吉田さん「その考えは間違っていると思う! 上がどうであろうと、やるべきことはやるべきだ!」
一同、大きな拍手が起こった。
吉田さん「私がずっと京セラでやってきたのはそれです。怒られながら、稲盛さんからもやめちまえとかボロクソに言われながら、なぜ残ったかというかというと、研究開発費がここにはあったからです。
みなさんがすごいなと思うのは、スタートアップだとお金を集めないといけないじゃないですか。京セラにいれば、それが潤沢です。
でも、上がどうであろうと、ちゃんと自己主張してやらないと、スタートアップだろうと大企業であろうと私は同じだと思います。それを理解できない人が増えてくると、いかに引き留めたとしても、とがった人間は辞めていきます。
私と稲垣がやろうとしているのは、会社を硬直化させずに、いかに次の世代に渡していくのかということです。私たちがいなくなっても、きっと若い世代がやりきってくれると信じています。
だから私たちに頼るなと言いたいです!」
先輩からの、愛のある若手への檄に拍手喝采が起こった。なんと層が厚く、頼もしい先輩が社内にいることだろう。終始私たちは京セラの方々の率直さ、熱さに圧倒されっぱなしだった。このときばかりは、イキのいい経営層が集まっているICC参加者であっても羨望を感じたに違いない。
参加者の感想は
京セラ流コンパに参加した方の、感想をいくつか紹介しよう。
「本を読むだけでは決してわからない、実際の部下の方々から見た稲盛さん評などにも触れられ、また、参加者のレベルの高い質問の数々により、非常に学びの多い時間となった。コンパも最高でした」
「歴史館、鳥肌が立つ思いで話を聞いた。その後の鍋がまた最高。社内にそんな施設があって羨ましい」
「コンパが最高でした!フィロソフィとアメーバがどう機能しているのか、ディテールをかなりお話しできたので、自分の組織やプロダクトに反映できる学びが得られました」
「正直、京セラのイメージが180度変わりました。社員さんの熱量、意識の高さは、スタートアップの魂そのもので、アメーバ経営とフィロソフィが有機的につながり、さらにコンパでチーム意識を高めると、こんなにも素晴らしい会社になるのかと思いました。
若手が堂々と上司に意見を言い、上司が堂々と青臭いことを言う。もし自分が学生なら一発でここに惚れ込むだろうなと思いました。全てのスタートアップにとって学びになる組織だったと思います」
一番上の写真は、コンパの最後に隣の座敷の襖を取り払い、撮られたものである。隣では別のコンパが催されていて、そこでも襖越しに、非常に盛り上がった議論が交わされていることが伝わってきた。襖を開けると、私たちの背景に写り込もうとふざけていたが、社内でもトップの業績を誇るチームだそうだ。
偉大な経営者とその経営に触れ、鍋とお酒と議論を戦わせた、ICCサミット KYOTO 2019最後のセッション「京セラの歴史・経営企画を学ぶ」。企業の歴史、規模、世代は違えど、次の時代へ新しい産業を創ろうとする気持ちは同じ。歴史ある大企業から、スタートアップ、ベンチャーへ大きな刺激をもらえた企画だったのではないかと思う。
最後になるが、今回の特別企画の実現にご尽力いただいた京セラの皆様に感謝を申し上げつつ筆を置きたい。なお、次回のICCサミット KYOTO 2020でも、この企画は開催予定である。
(終)
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編集チーム:小林 雅/浅郷 浩子/戸田 秀成
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