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4. なぜイノベーションには「境目」が重要か。免疫組織学から考察するその必然性

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「大人の教養シリーズ 人間を理解するとは何か?(シーズン6)」全8回シリーズ(その4)は、前シーズンに引き続き、リバネス井上 浄さんによるリンパ組織的考察、シーズン2! 人間を突き詰めて考えるときに、折り合いをつけることが大事と感じた井上さんは、それを、細胞と細胞の「境目」になぞらえて解説しました。その「境目」を乗り越えるとき起こる免疫反応は、人がイノベーションを起こすときを思わせるとか。専門家が語る、人体の不思議と人間の不思議、ぜひご覧ください。

ICCサミットは「ともに学び、ともに産業を創る。」ための場です。そして参加者同士が朝から晩まで真剣に議論し、学び合うエクストリーム・カンファレンスです。 次回ICCサミット FUKUOKA 2022は、2022年2月14日〜2月17日 福岡市での開催を予定しております。参加登録は公式ページをご覧ください。

本セッションは、ICCサミット KYOTO 2021 プレミアム・スポンサーのリブ・コンサルティングにサポート頂きました。


【登壇者情報】
2021年9月6〜9日開催
ICCサミット KYOTO 2021
Session 2B
大人の教養シリーズ 人間を理解するとは何か?(シーズン6)
Supported by リブ・コンサルティング

(スピーカー)

石川 善樹
公益財団法人Well-being for Planet Earth
代表理事

井上 浄
株式会社リバネス
代表取締役副社長 CTO

北川 拓也
楽天グループ株式会社
常務執行役員 CDO(チーフデータオフィサー) グローバルデータ統括部 ディレクター

深井 龍之介
株式会社COTEN
代表取締役

(モデレーター)

村上 臣
リンクトイン・ジャパン株式会社
日本代表

「人間を理解するとは何か?(シーズン6) 」の配信済み記事一覧


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最初の記事
1. シーズン6突入! 前シーズンまでの「人間の理解」を振り返る

1つ前の記事
3. 人の思考を変えた産業革命、宗教改革、世界大戦…それと酷似する現在の状況とは

本編

村上 では深井さんの話を踏まえて、(井上)浄さんに話してもらいましょう。

井上 すごく良いことを言わないといけない雰囲気に…(笑)。


井上 浄
株式会社リバネス
代表取締役副社長 CTO

博士(薬学)、薬剤師。大学院在学中に理工系大学生・大学院生のみでリバネスを設立。博士過程を修了後、北里大学理学部助教および講師、京都大学大学院医学研究科助教を経て、2015年より慶應義塾大学特任准教授、2018 年より熊本大学薬学部先端薬学教授、慶應義塾大学薬学部客員教授に就任・兼務。研究開発を行いながら、大学・研究機関との共同研究事業の立ち上げや研究所設立の支援等に携わる研究者。多くのベンチャー企業の立ち上げにも携わり顧問を務める。経済産業省未来の教室とEdTech研究会委員、経産省産業構造審議会委員、JST SCORE-大学推進型委員会委員、NEDO技術委員、武蔵野大学アントレプレナーシップ学部客員教授、株式会社ヒューマノーム研究所取締役、株式会社メタジェン特別顧問、等を兼務。

石川 いやいや(笑)。

北川 浄さんが一番苦手なやつですね(笑)。

生物学的なアプローチで人間を理解する

村上 このような条件(Part.2参照)が揃うと思考のOSがアップデートされるということですが、浄さんには、いつもの通り科学的なアプローチで、人が折り合いをつけることについて話してもらいます。

色々な思想から色々な言説が出てきますが、個人を見れば、資本主義寄り、共産主義寄りなど、偏在が生まれます。

議論をする際、例えば採用時でもよく言われますが、バイアスという言葉が使われますし、アンコンシャスバイアスをどうなくすかということも問われます。

つまり、生まれや教育など色々なバックグラウンドによって、知らず知らずのうちに、偏りを持って捉えてしまっています。

それが社会的アジェンダになった時、議論になります。

例えば同性婚や選択的夫婦別姓などのテーマについて、気づいていないバイアスを持ちながらの議論の中で、人はどう折り合いをつけていくべきかという話です。

これについて浄さんに、生物学的アプローチから語ってもらおうと思います。

北川 面白いじゃないですか!

井上 そうなんですよ。

人間を突き詰めて考えた時、折り合いをつけることが大事だと感じ、それができるからこそ人間はすごいと感じたので、それを今回、ご紹介します。

まずは振り返りです。

僕は2020年2月に、壮大な理論を…。

10. 人間を理解するためのリンパ組織的考察〜僕らの境目〜

北川 いや~、これは面白かったですね。

村上 緑のと赤いのをむにゃむにゃっとした…。

井上 リンパ組織論という理論を、発表させていただきました。

学会未発表のデータを初めて、ICCサミットで出したのです。

今、コロナも含めてワクチンが話題で、ようやくT細胞とB細胞が皆さんの頭の中にも浮かぶようになったかと思い、大変うれしいです。

(一同笑)

村上 そうですね、キラーTなどは誰に聞いても分かりますからね。

井上 ありがとうございます!

世界の偉人伝セッションで、ぜひエドワード・ジェンナー(イギリスの医学者)の話をさせていただきたかったのですが、今回はこちらのセッションに参加しました。

右側はネズミの脾臓の画像で、ワクチンを打った皆さんの脾臓もこういう風に見えるかもしれません。

緑色がB細胞で赤色がT細胞、免疫反応が起こっているのが白くなっている部分です。

風邪をひいたり、怪我をしたり、感染したりすると、リンパが腫れるといいますが、腫れている原因は、免疫細胞が増えているからです。

左側の人間の図は、血管ではなくリンパ管を示したものであり、このように免疫臓器が体中にあって免疫反応が起こっています。

これを調べていくと、とても面白いことが分かりました。

赤や緑がきれいに分かれて見えていましたよね。

免疫組織を見ていて、きれいに分かれていることが強い反応を起こすために必須だということを発見したのです。

今こそ境目で強いイノベーションを起こせる時代

井上 これが、僕が見つけた衝撃の事実です。

井上 左が若いネズミ、右が年老いたネズミです。

左はきれいに色が分かれていますが、右は入り組んでいます。

村上 境界が若干、溶け出していますね。

井上 そうなんです、境目があることが、免疫反応を起こすためにはとても重要です。

この境目がなくなったマウスも存在していて、よくよく見てみると、そのマウスは免疫学的には病気になっていました。

つまり、境目が曖昧になると不具合が起こるということが、このリンパ組織の中では常識だということが分かったのです。

当時は、やれオープンイノベーションだということで、みんなやたら混じりに行って危なくないですか?という話をしました(笑)。

免疫組織学的にもそうなので、やたらめったら境目を出れば良いわけじゃない、という提案をさせていただきました。

そういうことを言っている最中、コロナによって隔離され、あっという間に境目ができました(笑)。

村上 (笑)確かに。

井上 今まさに境目ができているんです。今こそ強い反応を起こせる時代になってきたと思っています。

この境目が強くあって、それを飛び抜ける人がいると、新しいイノベーションがその境目で起こります。

村上 なるほど、境目がクリアになったからこそ、強い反応が起こる可能性があるということですね。

井上 そうです、それが、一番初めに見せた白い部分です。

赤と緑の間で強い免疫反応が起こり、それがおそらく世界を変えていくんだろうなと思います。

境目がとても重要だと言いましたが、今回、境目を保つにはエネルギーが必要だということからもう1つ、気づいたことがありました。

例えば、自由に出入りをしているときは、外の世界が見えて気持ちがいいですよね。

何となく何かが起きたらいいなと思っているときは、たいてい何も起きないですよね。

村上 そうですね(笑)。

井上 でも境目をバチっと作っていて、反対されていても、「いやいや、俺が外でやるんだ!」という人が反応を起こしています。

これが免疫反応とそっくりだと僕は思っています。

境目を保つにはエネルギーが必要ですが、皆さん、境目があると大変でしょ?

そう思いません?

ストレス含めて、縦割りとか、やりたいのにできないとか、思うところがたくさんありますよね。

今回僕が言いたいのは、境目を保つにはエネルギーが必要なので、会社や社会において何か理不尽があった時、先ほど見せた、若いマウスのリンパ組織の図を思い出してほしいということです。

そうかそうか、ここが境目なのか、と(笑)。

村上 あの図を部屋に貼っておきますか(笑)。

井上 そして、いよいよイノベーションを起こすチャンスが来たと思って頑張ってください!

というのが1つ、今回言いたかったことです。

境目と「ジョブ型雇用」は似ている

村上 前も思ったのですが、この境目の話はジョブ型雇用の話に近いです。

インパクトを起こすグローバル企業は、ジョブ型雇用です。

▶参考:ジョブ型雇用とは?メンバーシップ型雇用との違いやメリット・デメリット | クリエイト転職 (job-terminal.com)

僕は、日本企業の総合職からジョブ型雇用企業に転職しました。

ロールがはっきり決まっていて良いのですが、逆にロール外のことをやるのがめちゃくちゃ大変です。

井上 はい。

村上 すごく面倒くさいし、サイロ化(※)も起こりやすいです。

▶編集注:部署間などで壁があり、連携がとれていないこと。

ですから、他の部署の仕事をちょっと兼務できる日本企業の総合職はすごく便利です。

OKR(Objective and Key Result:目標と主な結果)でも、目標を明確にし、その目標をロールに落としてはっきりさせると大きなインパクトは起こせます。

それはグローバル企業や、何よりGoogleが証明しています。

前回この話を聞いた時、何となくOKRっぽいなと思っていたのです。

「嗜好品」は物質ではなく、折り合いをつける「体験プロセス」

井上 ただ、エネルギーを使って境目を保つのは、ものすごくストレスを感じます。

それをどうやって乗り越えればいいか?

人間はとんでもない発明をしていたのです。それは嗜好品です。

境目を保つには、折り合いをつけているわけです。

嗜好品と言うと、皆さんは、物のイメージを持っているかもしれません。

僕はあまりに嗜好品に興味を持ちすぎて、JTの元研究所長の志方比呂基さん(※)と(村上)臣さんをお呼びして、嗜好品について徹底的にディスカッションするというセッションを、1年間で6回も実施しました。

▶編集注:2015年からたばこ中央研究所長を経て、2019年よりたばこ事業本部 R&Dグループ部長 科学技術戦略担当

【実施報告】オンラインセミナー「嗜好品5.0 〜その定義から未来へ〜」の第6回を開催しました | リバネス (lne.st)

村上 やりましたね(笑)。

井上 オンラインで公開しました。そこに脳科学者など、色々な研究者もお呼びしました。

村上 冬眠を研究している人とか。

井上 4大嗜好品というものがあり、それは酒、お茶、たばこ、コーヒーです。

僕らがディスカッションしていく中で分かったのは、これらの物自体を嗜好品と呼んでいますが、実は嗜好品そのものではなく、あくまでもきっかけだったということです。

つまり、めちゃくちゃ研究した結果、先ほど言った境目で、自分が折り合いをつけるためのストーリーを作るための、単なるきっかけだったということが分かりました。

そして、それらのきっかけが嗜好品になっていくプロセスが分かったのです。

これも面白いのですが、皆さんが嗜好品と捉えているのは、新しい体験や新規のものです。

例えば、ビールなどのアルコールもそうですが、いわゆる、最初の刺激です。

でも、その刺激をどんどん学習していくと、「楽しかったあの時」を思い浮かべるようになるのです。

有名な脳科学の例で言うと、「パブロフの犬」で、これは音が出た時に犬にエサを与えることを続けると、エサを与えなくても音を出しただけで唾液が出てくるようになるというものです。

「パブロフの犬」の脳内の仕組み解明 | Science Portal – 科学技術の最新情報サイト「サイエンスポータル」 (jst.go.jp)

同じようにストーリーを作っていくという点で言えば、仕事をした後のビールはなぜ美味いのかという話が面白かったです。

これは、脳科学的に、自分が予測した報酬を超えたときに、ドーパミンが出てくるからです。

この「報酬予測誤差」が、どうやら仕事をした後のビールを美味いと思う正体だということです。

そのディスカッションの場では、これらストーリーを全部踏まえて「嗜好品」なのではないか、という意見がずっと出ていました。

僕は、なぜ人間にはこういう能力があるのだろうかと不思議に思いました。

それで、それはやはり、もしかしたら境目を作るためなのではないかと思ったのです。

これが、嗜好品という発明について考えたときに、僕が気づいたことの1つです。

自分を取り戻すきっかけとして嗜好品がある

井上 今、世の中には境目がたくさんできていて、例えば皆さん、家飲みをすることもありますよね。

僕の周りで、ノンアルコールに切り替えていく人がどんどん増えているのですが、これは、最初に新しい体験として位置づけされていたのがアルコールという嗜好品だったのに、それをノンアルコールに代替しても良いということなのです。

アルコールがノンアルコールになっても納得のいくものになっているということは、つまり、化学物質がポイントなのではなく、ストーリーの中で何かしら折り合いをつけているのだろうということなのです。

どうやら人間には、「自分を取り戻す能力」というものがあり、そのきっかけとして嗜好品があるのです。

社会と自分の間には、何らかの壁、境目があります。

それは人間という動物として生きるにあたり、確実に存在するものです。

個々人が、自分がやりたいことだけをやっていると成り立たないし、大きなこともできないので、組織というものをしっかりと維持し、外に出て強い反応を起こします。

ですから、人類というものが維持されるためには、どうやら自分を取り戻す能力が必要だったのではないかということです。

そのきっかけとして生理活性物質がスタート地点となり、経験と学習があり、ストーリーがあり、結果、自分だけの時間、自分を取り戻す時間がとても重要だということが分かってきました。

このように、嗜好品についての議論をずっと行ってたどり着いた嗜好品の枠組みは、時系列だということです。

村上 ストーリーの記憶ということですね。

井上 ストーリーの塊が、自分を取り戻す時間であり、嗜好品ではないかという結論になりました。

ストレスを消化する時間がなぜ必要なのか

北川 すみません、今の「自分を取り戻す」というところが理解しにくかったのですが、どうやって自分を取り戻すのでしょうか?

井上 色々なストレスを受けますよね、ですから、それらを自分の中で消化する時間が必要です。

何かを言われた時にケンカをするのではなく、ちょっと待って、一回落ち着きましょう、今までの状況を客観的に見ましょう、情報を全部取り入れた脳みそで、自分なりの整理で自分なりの結論を出しましょう、という話です。

村上 ウェルビーイング的な話ですよね。

北川 ああ、なるほど。

村上 一度受け止めて、自分で自分の機嫌を取れるようにして、納得し、次に行こう、ということです。

北川 自分のストーリーにしてしまうということですね。

村上 そういうことです。

それが逆に、ストーリーの記憶として脳の海馬にぎゅっと定着し、例えば梅干しを思い浮かべるとよだれが出るように、反射的に反応する体験になっていくということです。

井上 そうそう。

北川 なるほどね。タバコを吸った瞬間に、「上司に色々言われて嫌だったけど、それを受け止められる俺がここにいるってことだな」と思うということですね(笑)。

井上 そういうこと、そういうこと(笑)!

そういう時間が必要だよね、ということです。

その先どうしようかな、というところも含めて自分の時間があることがとても重要で、この時代は特に必要になってきたのではないか、というのが僕の投げ込みです。

次にディスカッションしたいのは、なぜこんな能力があるのかなという点です。

(続)

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続きは 5. 社会と自分との「境目」のために、我々は嗜好品を欲す! をご覧ください。

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編集チーム:小林 雅/星野 由香里/浅郷 浩子/戸田 秀成/大塚 幸

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