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「本質を忠実に実行すれば、アップデートは起きる」豪華スピーカー陣が語る、レガシー産業への挑戦【ICC FUKUOKA 2022レポート】

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2月14日~17日の4日間にわたって開催されたICCサミット FUKUOKA 2022。その開催レポートを連続シリーズでお届けします。今回は、豪華な5人のスピーカーを迎えたセッション「伝統や産業をアップデートするクリエイティビティとは?」の模様をお伝えします。広告、メディア、酒蔵、製造小売業、不動産……既存の産業フィールドでチャレンジを続けるプレイヤーたちが結集し、その視点を語ります。ぜひご覧ください。

ICCサミットは「ともに学び、ともに産業を創る。」ための場です。そして参加者同士が朝から晩まで真剣に議論し、学び合うエクストリーム・カンファレンスです。 次回ICCサミット KYOTO 2022は、2022年9月5日〜9月8日 京都市での開催を予定しております。参加登録は公式ページのアップデートをお待ちください。


この「伝統や産業をアップデートするクリエイティビティとは?」セッションで、まず目を引いたのは登壇する5人の顔ぶれの豪華さ、業界の幅広さ。それぞれ1人でセッションが成立しそうなほどのスピーカー陣である。どんな話が聞けるのか? ICCサミットDAY1の最後のセッションにも関わらず、会場には大勢の観客が集まった。

登壇前のスタジオ写真撮影の様子

そして期待を裏切らず、5人のスピーカーからは話したいこと、お互いに質問したいことが溢れて渋滞状態となり、セッション終了間際にモデレーターを務めたお二人、THE KYOTOの各務 亮さんと、三星グループの岩田 真吾さんは、口々に「時間が足りなかった!」と言った。

 

スピーカー各々に質問を投げかけた岩田さんと、司会進行を行ったTHE KYOTO各務さん

スピーカーたちに事前に与えられていたお題は「自身の業界をどうアップデートしているのか?」。これが自己紹介代わりとなり、それだけでも十分に聴きごたえのあるものだった。

詳しくは後日公開予定の書き起こし記事をお待ちいただくとして、ここではそれぞれのスピーカーが試みているアップデートをダイジェストでお伝えしたい。

「どんな事象も、企業の価値を拡張するために作る」

株式会社2100 CEO 国見 昭仁さん

国見さんが携わるのは「広告業界」。電通から独立した国見さんが、在籍時から現職のビジネスデザインのブティックを営む現在に至るまで一貫して挑戦してきているのは、「企業の本質」を中心に据えたうえでの、広告を含む「事象」作り。

「広告」という「事象」を作って企業イメージを作ったり高めるのではなく、「企業の本質」を伝えて広げるために広告や商品、経営、社員までも含む「事象」作りをするという従来とは逆のアプローチは、今でこそ当然のように聞こえるが、国見さんが始めた当初は時代の先取りであり、逆風もあったはずと容易に想像できる。

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「“コンテンツ・アントレプレナー”が、メディアの変革を起こす」

PIVOT株式会社 代表取締役社長/CEO 佐々木 紀彦さん

Newspicksから独立し、経済コンテンツプラットフォームのPIVOTを立ち上げた佐々木さん。新聞社・キー局・ローカル局というクロスオーナーシップによる寡占で、長らく新規参入が難しかった「日本のメディア」業界だが、ヒト・テクノロジー・カネの3つが揃った現在、ついにアップデートのタイミングが来たと言う。

「BTSを始めとする世界的アーティストのマネージメント事務所HYBEパン・シヒョク、日本でも名を上げたJ.Y.Park、映画プロデューサーとしても成功しているブラッド・ピット、「スターウォーズ」「スタートレック」のJ・J・エイブラムス、マルチクリエイターでプロデューサーの川村元気には共通点があります。

それは自らプレイヤーでありクリエイター、プロデューサーという顔を持つ経営者であるということ」

それは世界的な潮流であるということから、佐々木さんは日本でもクリエイターと起業家の2役を兼ねた“コンテンツ・アントレプレナー”が、今後メディアの変革を起こしていくと考えている。PIVOTは今回ICCサミット会場で多数映像コンテンツを収録したが、そのきざしを感じられただろうか?

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「お客さんのロマンをかき立てる酒造り」

佐藤 祐輔さん / 新政酒造株式会社 代表取締役社長 CEO

もとはジャーナリストで、現在は1852年創業、「新政」の八代目当主である佐藤さんはICC初参加。日本酒好きならば誰もが知るブランドに育てたその手法はアップデートの逆で、「昔の形に戻る」こと。

近代的な酒造りの機械をすべて捨てて、伝統的なものづくりを求めて木桶仕込みで酒造りを行っており、桶屋が無くなりそうなため、桶づくりまで学んでいるという。2023年には、ようやく52本すべての桶が木桶になるそうだ。

「周りには機械を捨てるなんてと反対されましたが、むしろ長く続いてきた歴史の形に戻ったほうがリスクは少ない。お客さんのロマンを掻き立てなければ!と言って、コツコツ進めてきました」

伝統と革新を胸に携えた秋田「新政酒造」の酒造りが面白い(buono)

その言葉には、差別化や懐古趣味的なところは一切なく、経営と自分たちの酒造りを考えた上で、今採れる最善策という確信が宿る。その一方で、39の蔵元が集まり経営を学ぶ一般社団法人J.S.Pを組織し、週替りで日本酒・焼酎の魅力を伝えながら販売するECサイト「UTAGE」も整備している。

「経営を学ぶこと。そうすれば普通に業績は上がる」

株式会社 中川政七商店 代表取締役会長 中川 政七さん

ICCサミットでもおなじみのスピーカーである中川 政七さんは、日本中の工芸産地で「地域の一番星を作る」ことを目的に、経営コンサルティングを行っている。地元の奈良で自身も産業観光の拠点を作りつつ、さまざまな工芸産地のアップデートを行っている。そのポイントは極めてシンプルで、経営を学ぶことだという。

「アップデートのポイント、それは経営を学ぶことだと思います。どうしてもものづくりのほうが中心になりがちで、経営を知らない、できないというのが当たり前で、そもそも予算表もないようなところが多いので、経営を学んで普通に実行すれば、普通に業績は上がります。

言ってみれば、“無免許の社長”が多いんです。そこで中小企業経営の学びがないといけません。基本的で、ちょっとしたことなんです」

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「銀行に相手にされず、夢のホテルを直接売ってみた」

NOT A HOTEL 株式会社 代表取締役CEO 濵渦 伸次さん

濵渦さんも今回ICCサミット初参加。前職はZOZOグループ会社の取締役だったが、現在は別荘を造り、使っていないときはホテルとして貸し出せるという「あたらしい暮らし」を提案している。そもそも別荘やホテルの概念をアップデートするつもりはなく、ホテル建築のための資金が、銀行から借りられなかったことにあるという。

「好きなことをしたくて、ホテルを作ろうと思ったんです。そこで1部屋500平米の部屋がいくつかあるホテルのパースを持って銀行に行ったら、全く相手にされなかった。30平米に部屋数分ければ貸すと言われて、これだからホテルって面白くならないんだと思ったんです」

ホテルを数十億かけて建てて、その後稼働率を上げて回収するほうがリスクと考えた濱渦さんは、そこで発想を転換した。

「ホテルとしてではなく、コレがいいというオーナーに買ってもらえれば、資金調達できる」

独創的なホテルのパースを公開したら、実際に買い手がついた。建ったときに投資は回収でき、使っていないときのホテル運用の在庫リスクもない。

スマホで買える「NOT A HOTEL」40億円分をネット販売開始へ、8.5億円の調達も完了(BRIDGE)

「ちょっといいねだと共感されない。人の琴線に触れるような飛び抜けていいものを作ると、共感してくれるのではないか」。外国のリゾートかゲーム内の建物のように夢のある「NOT A HOTEL」の物件ビジュアルは、濱渦さんがスライドを繰るごとに、会場のため息を集めていた。

1時間半にわたって、さまざまな業界のアップデートのアイデア、手法が語られたが、スピーカーたちが強調していたのは「学び、思考し、実行(アウトプット)していく」というシンプルなこと。「クリエイティビティとは、考えること。それをやっていない人が多い」という国見さんの発言も印象的だった。

ICC初参加のスピーカーたちに聞く

セッションが終了したあと、今回ICCサミット初参加のスピーカーのみなさんに、ディスカッションの感想や、ICCサミットでの出会いをきっかけにやりたいことをうかがった。

PIVOT佐々木さん「皆さんの話が濃くて、話を聞いているだけで十分お腹いっぱい、すごく勉強になりました。それぞれの方々の話を30分ずつぐらい聞きたいなと、もっと議論したいなと思いました。

今後は、起業家の方々のコンテンツ、ドキュメンタリー的な映像を使ったものやプロダクトなど、場所と紐づけたような形でやりたいなと思いましたね。

ここで出会ってその後どういうふうにCo-creationに実際につながっていくのか、その過程もさらに見てみたいなと思いましたね。それを、当事者同士は知ってるかもしれないですが、他の方には伝わってないと思うので、そういうアフターストーリーを知りたいですね」

NOT A HOTEL濵渦さん「いろんなお話を聞かせてもらって勉強になりました。私は2回目の起業で、新しい全く違う業界へのチャレンジをしていて、今回こういった機会もいただけたので、何かヒントになるような情報発信ができていけたらすごくうれしいなと思っています。

ICCはいろんな業界の方が参加されていて、1つの業界で固まっているイベントではないところに非常に学びも多いですし、ともに創っていけるようなお話も今日いただいたりもしたので、そういうきっかけがまた非常に有難いなと思いました」

新政酒造 佐藤さん「非常に有名な第一線で活躍している方と、事業を始められたばかりの方がすぐ関係性を持てるという、この本当に公平な開かれた感じがすごくよくて、今日はランチのときにいろんな方と知り合いになることができました。今後発展しそうな案件も出てきたりしたので、びっくりしています」

びっくりするのは新政酒造の経営のほうだ。アップデート=時代に合わせた進化と思い込んでいたが、新政酒造はそこで伝統製法という、一見退化に見える方法を選んだ。

「ですよね。ただ、現代に合わせて進化するというほうが古いような考え方のような気も、今はするんですよね。本質的な価値というのは見る人によっては違います。

もうそういう考えは古いんじゃないかという時期に来ているのかもしれないし、いろいろな視点から見たときに、解答が1つではないっていうのはすごくよくて、我々の場合なら長く続いてきましたが、そういうのが伝統文化の中で多様性につながる。伝統文化の場合、1社では成り立ちません。

伝統産業というのは、その地方地方にいろんなものがあったり、たくさん蔵があってその中からチョイスできるという楽しみがあって、1社が巨大化して活性化してしまったら、その蔵はたぶん伝統産業としては寿命が短くなってしまいますよね。

1種類の生き物が多くなったら生態系としてちょっと危険なように、より多様性を持つのが伝統産業の持続的発展のためにはどうしても必要なんですよね」

◆   ◆   ◆   ◆   ◆

佐藤さんの言っていることは、伝統産業に限らず、どの企業にも、このICCサミットという場にも、新たな産業を生むためにも、社会にとっても通じることだ。1つの正解だけを追わず、それぞれの解、さまざまな方法論が共存することで、今の時代が強い層となって次の時代への持続的発展を可能にする。

そのためには、ともに学ぶ場、多様性を理解する場がますます重要になっていくに違いない。自分たちの本質をアップデートするためのクリエイティビティとは何か。年に2回のICCサミット、再会するたびにレベルを上げるには、誰もが本気で思考し、実行していかなければならない。

(終)

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編集チーム:小林 雅/浅郷 浩子/小林 弘美/戸田 秀成

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