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9月5日~8日の4日間にわたって開催されたICCサミット KYOTO 2022。その開催レポートを連続シリーズでお届けします。このレポートでは、最終日の8日に、京都の「無鄰菴」茶室にて開催された、TeaRoom岩本 涼さんによる「ICC茶会」の模様をお伝えします。ぜひご覧ください。
ICCサミットは「ともに学び、ともに産業を創る。」ための場です。毎回300名以上が登壇し、総勢1,000名以上が参加する。そして参加者同士が朝から晩まで真剣に議論し、学び合うエクストリーム・カンファレンスです。 次回ICCサミット FUKUOKA 2023は、2023年2月13日〜2月16日 福岡市での開催を予定しております。参加登録は公式ページをご覧ください。
京都の南禅寺にほど近い「無鄰庵」は、明治27、8年頃に元内閣総理大臣の山縣有朋の別邸として築造され、その庭園が七代目小川治兵衛により作庭され国の名勝として指定されている。敷地内には母屋のほかに、茶室や「無鄰菴会議」で知られる洋館がある。
過去にICCでは母屋の2階を会期中の休憩スペースとして貸し切って参加者に向けて開放したり、夜はライトアップ・ビア・ガーデンを開催(その様子は一部こちらの記事で紹介)しており、ICCサミットの参加者にはおなじみの、メイン会場からも歩いて行ける京都らしさを実感できる場所だ。
ICC KYOTO 2022では、かねてから見学していた無鄰菴の庭にある茶室で茶会を開催した。亭主を務めたのはTeaRoomの岩本 涼さん。参加者しか入ることのできなかった茶室の模様は写真でご紹介するとして、岩本さんがどのような意図を込めて今回の茶会を設けたのかをうかがった。
▶25歳の茶道家 兼 実業家。TeaRoom岩本涼が文化とビジネスの垣根を越える理由(リクルート)
茶の木を根ごと床の間に据えた意図
「ICCサミットは『ともに学び、ともに産業を創る。』というコンセプトで、私たちの会社の文化という無形の資産、伝統工芸と言われるような業界もそうですが、見えない価値をどうやって産業と結びつけて、日本文化と実際の産業を全てつなげていくかにチャレンジをしています。それをコンセプトに 掲げてみようということでスタートしました。
通常お茶会は、その回のテーマを床の間に掛けます。日本の建築の面白さは、例えば季節のお花を床の間に飾ればその季節を室内でも表現できるというふうに、床が空間をガラッと変えることができます。私たちは今回、茶の木をテーマとして掲げました。
今回、京都に来る前の日曜日に、社員みんなで静岡の茶畑まで行って掘り起こしてきた茶の木です。私たちは耕作放棄地の改善のプロジェクトも行っているのですが、山間の急斜面に生えている成長してしまった茶の木を、スコップで1mから1.5mくらい下まで一生懸命、根っこまで掘り起こしました。
茶の木、椿科というのは、根っこがお互いに絡み合って横で持ち合うことで、段々畑の茶畑でもずれ落ちずに育ちます。
茶畑の茶の木は、隣同士でも友だちでも何でもない。でも急斜面の環境で水も上からどんどん流れ落ちるような、厳しい環境の中でどうやって生きていくかというときに、お互いに敵だろうが味方だろうが関係なく根を持ち合うことによって、そこに定着をする。
根を持ち合うことによって、ミネラルを土から吸収して一生懸命育って、それを抹茶というアウトプットとして出します。その環境をICCや、産業構造の話と見立てて考えました。
厳しい環境、時代も変化する中で敵だろうが味方だろうが関係なく、お互いに根を持ち合って、強くなった根を使って新しい産業を見出していこうという気持ちで、最初に枯木茶という幹のお茶をお出しして飲んでいただきました。
続いて本席に行くと、その茶の木が床の間に掛けてあって、力強い根っこを見ていただいたあと、注目の若手の作家さんたちの作品で、その抹茶をいただくという形で、次世代につながるようなコンセプトにしたというのが茶会の全体像です」
お茶と楽しむ季節のお菓子
お茶とともに、珍しいお菓子もご用意いただいた。
「左はこぼれ萩といって、京都の笹屋伊織さんという、由緒正しいお菓子屋さん。ちょっと黄緑色で、ピンクの線が入っており、こぼれるような萩の姿をイメージしています。9月の季節のものですね。
もう1つは御菓子丸さんという京都のお菓子屋さんのもので、一人でやられている若手の作家さんです。本当に綺麗なお菓子を作られていて、Instagramなどでも見られますが、すぐに売り切れてしまうので、全然買えないようなお店です。
その方に事前にご相談をさせていただいて、この期日までに納品いただけるように確保しました。『鉱物の実』という名前で、鉱物をイメージして作っているそうです。レモンや少しミントの香りもして、清涼感のある琥珀糖という形でご用意しました。
これもなかなか手に入らないもので、小林(雅)さんの奥さまも、『見たことはあるけど、全然手に入らないです』とお話をされていました」
自分の好きなものが見えてくる茶会の「受動的能動性」
「奇抜な器、とおっしゃいましたが、お茶会では『受動的能動性』という言葉をよく使います。受動的に茶会に誘われて行くだけで、人生全てのコンテンツが体験できる。これは思想や考え方もそうです。
亭主が客をどうもてなすかを考えるのかもそうですし、掛けてある軸や書も、建築空間もそう。お菓子やお茶だけでなく、茶事という場面では懐石料理も出てまいります。お酒、タバコ……もうほとんど人生全てのものが出てくるんですよね。
だからお茶会に誘われるだけで、自分の好きなものが見えてきてしまう。こういうお菓子が好きだなとか、こういうお茶の味が美味しい、こういう花が綺麗だなとかというのが見えてくるのです。受動的に体験しに行くだけで、能動的に何かを学びたくなったり、何か欲しくなったりするというのが茶会の面白い体験です。
今回は事業家の皆さんがたくさんいらっしゃいました。まだ日の目を見てないような若手の作家さんの作品を皆さんが受動的に体験して、この器、作品がいいなと思ってくれたら、調べていただけるでしょうし、その先にまた産業が発生するといいなと思い、そんな茶器のしつらえをいたしました」
三畳の茶室の中には農業からIT関連、裏千家・表千家の茶道経験者から初体験の人まで、絶え間なく会話の声が続き、終了して茶室から出てきたときは、興奮の面持ちで「とても良かった」と口々に感想を伝えてくださった。
この別の席で参加した、アジアに日本の農産物を販売する日本農業の内藤 祥平さんも「もっと儀式的なものかと思ったら、全くそうではなくて、今日は1時間でしたが、本当は食事をしてお酒を飲んで、タバコを吸ってからお茶というので、普通の飲み会を居酒屋でするよりも面白い。
海外の人との大事な会食も、お茶会にするとかっこいいかもしれない」と伝えてくださったほど、参加者たちにとって新鮮な体験だったようだ。
次回、大濠公園の茶室で開催決定
ICCサミットに初参加で、1日目と2日目まではフード&ドリンクアワードの出展に、最終日は午前から3回の茶席の主人と、3日間を走りきった岩本さんにICCサミットの感想を聞いた。
「他のカンファレンスだと、一体このビジネスで儲かるのかとか、類似サービスと一緒じゃないか、何の価値があるのかと見定められているような感覚がありました。
アワードのように賞を競うものならば、入賞すれば会社が社会から注目されて伸びる可能性があって、ひとつの評価軸を権威として確立できるチャンスなのに、どこもかしこも成長性が高いとか、エクイティの調達額が高いところが表彰される。それでは本末転倒で、存在しなくていいのではと正直思っていたんです。
ICCアワードの場合は評価軸が多様で、みなさん積極的で、審査員も何が面白いのか、なぜやっているのか、どんな背景をもっているかを聞いてくださったので、まず肯定されるのを感じました。そして大手も中小もベンチャーも、どういう思いでやっているのかがリンクしたら一緒にやろうよというのをいただきました。
今回、サントリーの方からウィスキーの樽を譲ろうかという話になったり、こんなに気軽にお話をいただけるんだと驚きました。みなさんが前向きに共創したいと思いながら、背景や文脈を大切にしている方々がたくさんいる。そういう部分も評価いただけるので、新鮮で面白かったです。
今回、同じ茶を飲むという体験をしたあと、皆さんは最後に名刺を交換していました。お互い誰かわからず1時間をともに過ごして、茶を喫して、価値観を交換したあとに出会えば、ひとつの価値観でつながります。資産額などではない、違うつながりができたと思います」
冷房のない茶室で、この日のためにおろしたという新しい着物を汗で色が変わるほど濡らしながら、岩本さんは熱心にそう語った。
ICCサミットは経営者・幹部が参加するカンファレンスだが、運営スタッフに向けてもフラットに接してくださる方が多い。それでも自分の立場に自覚的な方が多いと思われるが、茶会ではそれを忘れて、もてなしの文脈を読み解き、茶を通じて自分に向き合い、素の自分で同席者たちとのセッションを深める楽しさを感じ取ってくださったようである。
戦国時代から現代に至るまで、さまざまな目的のもとで変化してきた茶道。岩本さんのような新しい世代の茶人と、どんなことでも柔軟に受け止められるICCサミット参加者たちが1つの茶席に集うとき、新しいものが生まれる確率は非常に高いのではないだろうか。
この茶会の大好評を得て、次回ICC FUKUOKA 2023では大濠公園の日本庭園にある茶室でICC茶会を開催する予定である。初心者にも全く堅苦しくない、これぞ温故知新の体験となるこの茶会、興味を持った方にはぜひご参加をいただきたい。
(終)
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編集チーム:小林 雅/浅郷 浩子/戸田 秀成