9月22日〜24日の3日間、石川・能登にて開催された「ICC石川・能登コネクテッド」。ICCサミットの登壇者・参加者たちが3日間にわたって石川や能登を訪れ、地元企業や被災地の見学、ディスカッションを重ねました。この記事では、現地の方々も含む約60名が参加したDAY2の「ICC能登コネクテッド」のプログラムから、シーベジタブル 友廣 裕一 さんが登壇した特別企画のスペシャル・プレゼンテーションを書き起こし記事でご紹介します。ぜひご覧ください。
ICCサミットは「ともに学び、ともに産業を創る。」ための場です。そして参加者同士が朝から晩まで真剣に学び合い、交流します。次回ICCサミット FUKUOKA 2026は、2026年3月2日〜3月5日 福岡市での開催を予定しております。詳しくは、公式ページをご覧ください。
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【登壇者情報】
2025年9月22〜24日開催
石川・能登コネクテッド
特別企画 – スペシャル・プレゼンテーション
Produced by ICCパートナーズ
（スピーカー）
友廣 裕一
シーベジタブル
共同代表
（モデレーター）
朴 理沙
ICC運営チーム
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朴 理沙さん（以下、朴） プレゼンターはシーベジタブルの友廣さんです。
ICCでは、ICC FUKUOKA 2024のフード＆ドリンクアワードでグランプリ、クラフテッド・カタパルトとソーシャルグッド・カタパルトの2位、3位に入賞した方です。
▶︎ソーシャルグッド・カタパルト3位プレゼン「シーベジタブル」は、藻場の再生で、海藻の新たな食文化と産業をつくる（ICC FUKUOKA 2024）
まちづくりという観点とはまた異なるところではありますが、またひとつの軸として、色々な地域、実は能登とも関わりがあるということですので、そういったお話も伺えたらと思います。
ICC小林 雅さん 補足しますと、今回はもともと東日本大震災の復興から学ぶテーマにと思ったのですが、新しい産業というか、何もなかったところにゼロからつくることや、海藻の産業では水温が上がって育たなくなったり、マイナスになる課題があり、研究開発でプラスにしていくというという試みがあります。
能登もそうですが、特に海で行われる事業の話でいいのではないかと思い、今回の登壇をお願いしました。友廣さん、よろしくお願いします。
本セッション記事一覧
- 稲とアガベ岡住さん「まちを未来に残すには文化が必要、プロダクト起点であるべき」
- シーベジタブル友廣さん「世界一の海藻食文化がある能登。養殖藻場で、産業と海が豊かになる循環を」
シーベジタブル友廣さんが海藻を事業にしたきっかけ
友廣 裕一さん 皆さん、はじめまして、こんにちは。
シーベジタブルという海藻の会社をやっています。
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友廣 裕一
シーベジタブル
共同代表
2016年に高知県で創業。世界初となる地下海水を利用した青のりの陸上栽培を事業化。東北から九州まで過疎化が進む沿岸地域に生産拠点を立ち上げ、障害のある方や高齢の方々と共に香り高い最高品質の青のりを栽培してきた。 現在は、多様な専門性を持った研究者たちに加え、一流の料理人たちも仲間に加わり、今まで流通してこなかった美味しい海藻の陸上及び海面での栽培技術の確立から、新たな食べ方の開発／提案までを行っている。海藻が激減する地域の海藻食文化を守りつつ、新たな食文化を育むことで、磯焼けが進むエリアに海藻を増やし、漁業者の仕事を生み、海の生態系を豊かに育んでいくという循環をつくるために活動している。
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10分という時間ですが、話したいことがたくさんあります。
最近はあまり過去の話をしていませんでしたが、実は僕は大学を卒業してから、日本中の農山漁村に泊まり歩いていました。
それが、僕のファーストキャリアで、その後、東日本大震災が起こり、震災の5日後くらいに現地に入って、ずっとそこから地域の人たちと一緒に、仕事を創っていくようなことをしていました。
（スライドを指しながら）この辺にある牡鹿半島（石巻市）の先っぽにある漁村のお母さんたちと、お弁当屋さんを立ち上げて2年ぐらい一緒にやりました。
（スライド右上を指しながら）こちらはシカの角です。地元にシカがたくさんいて獣害駆除のため、年間1,000頭くらい処分されているシカの角を買い取って、輪切りにして、それに漁網を巻いて作るアクセサリーのブランド（OCICA）をやっていたこともあります。
これを世界中に売っていただいたりしながら、生業をつくっていました。
ずっとそういう現場にいたので、（震災後の能登でも）色々感じるものが多くて、何か少しでも参考になることがあればいいなと思い、ここに立たせていただいています。
OCICAは、自分でも奇跡の連続のように思っているのですが、たまたま地域の資源を地域の人たちの手によって作って、たまたま売れるものができました。もちろんすばらしいデザイナーなどの力があってこそですが再現性はすごく低い。
その土地に暮らす10人ぐらいのお母さんたちにとっては、すごく良い事業ができたなと思っているのですが、またやれるか、また成功させることができるかというと、結構難しいと思っていました。それが実は海藻の事業に移る原点です。
能登の海藻食文化は世界一
今日、ここ能登でお話ししたかったのは、能登は実は日本で一番海藻食文化があるということです。
コロナ禍の頃には、北海道から沖縄まで、日本中の沿岸を百何十か所、ずっと周って潜ってきましたが、能登の海藻食文化は圧倒的に多様です。
能登には震災前にも結構来ていたのですが、ものすごい勢いで海藻が失われています。
来るたびに、以前売っていたものがない、ということを見てきました。
ちなみに、日本の海藻食文化は世界一なので、能登の海藻食文化が日本一ということは、能登の海藻食文化は世界一なのです。
海藻食文化は今、世界中でめちゃくちゃ盛り上がっています。
世界中が日本の海藻の食べ方を見ているという中で、能登はすごくポテンシャルがあるのではないかと強く感じています。
だから、いつか僕らにも役割が出てくるのではないかと思ってきました。
これまでの復旧フェーズでは、なかなか関われないと思っていましたが、今年ようやく小さく海藻生産の実証実験をスタートする予定です。
3年ぐらいで量産までもっていけたらいいなと思っています。
コンビニの海苔なしおにぎりが増えている背景
シーベジタブルはどんな会社かと言いますと、海藻を生産している会社です。
海藻産業は、これまで全く生産技術が確立しておらず、ほとんどは天然のものを採ってきて成り立ってきました。
能登の海藻産業も基本的にはほぼ採取で、栽培、つまり養殖されてこなかったのです。
例えると、一億人が天然のキノコや山菜を食べてきたような文化なので、磯焼けと呼ばれる環境変化によって海藻がなくなると、どうしようもないんです。
昔、食べていた、おばあちゃんの味をもう一度食べたいと思っても、二度と食べられない思い出の味になっていきます。
それに対して、僕らは今、種苗の生産技術をどんどんゼロイチで確立して、30種類くらいの種苗の生産に成功しました。
そこから実際に陸上や海で量産するというところに溝があるので、（種苗の生産に）成功しても実際に陸上や海にもっていくのが難しいのですが、僕らは一気通貫してやってきまして、十数種類の海藻で量産フェーズまで来ています。
さらにできた海藻をどうやって食べるのかについても、研究しています。
海藻食文化はどんどん衰退していって、消費量がどんどん減っていく中で、新しい食べ方を開発、実行するために、社内に料理人が4名ほどいまして、日々新しい海藻の食べ方を開発して発信するところまで行っています。
もともとは、僕らは青のりの会社でした。すじ青のりというとても香りの良い海藻があって、高知県の四万十川が天然の主産地で、かつては約60トン採れていたのですが、2020年にはほぼゼロになりました。
に今年の5月に『カンブリア宮殿』に出演して、そこでも紹介してもらったのですが、オタフクソースの現会長から「青のりをなんとかつくってくれないか」とお声掛けいただいたのが、僕らの最初の大きなお客様でした。
青のりは天然海域だと汽水域でしか育たないので、栽培できる場所が限られます。
これは陸上で作るしかないと、我々は陸上栽培の技術を確立しました。
室戸岬で創業して、今は各地に拠点を作っています。
この写真のなかで一番大きい水槽は直径20mあります。
成長段階に合わせて水槽を移し替えていく形で育てていて、地域の高齢の方、障害のある方が働いてくださっているのが、シーベジタブルの特徴です。
さらに、陸上栽培の話の延長で言うと、皆さんが好きな黒い海苔も非常に採れなくなってきています。
この18年間で半分以下に減っていて、特にこの4年間で価格が2倍以上に高騰していて、こんな作物はないのでは？と思うぐらいです。
コンビニの海苔なしおにぎりがどんどん増えているのは、海苔が採れないからです。
おにぎりには海苔が巻かれている、という日本の食文化がなくなるのではないかとも言われています。
海苔はタンパク質が40〜50％含まれている海藻なので、栄養分をたくさん必要とします。
色落ち海苔が増えて、（海苔が）減っているのは、海の栄養が足りなくなっているのが、一番大きい原因です。
海の栄養はコントロールできないので、おいしい海苔を食べ続けるには陸上でも作らないといけないのではないかと思い、僕らは6年前から研究開発を始めました。ようやく海苔の量産に成功し、今年は300kg、9万枚相当の海苔を作ることができまして、これは世界初と言われています。
あとはスケールアップすれば、何億枚でも作れる段階まできたので、食文化を残すためにも、地域に新たな生業をつくるためにも、陸上の海苔生産モデルを日本中に広げていきたいと考えています。
能登半島でも進む海藻の食害
ここまでは陸上編で、こちらは海中です。
海の中では、すごい勢いで海藻がなくなっていっています。
能登半島も今、食害が始まってきているところです。
とくに魚やウニの食害の影響が大きいのですが、とくにアイゴという魚が越冬すると、その海域で新たに生えてくる海藻の芽が食べられてしまい、一気に磯焼けと呼ばれるような状況になってしまいます。
去年ぐらいから能登半島でのアイゴが越冬しているのを発見しているので、どんどん食害エリアは北上してきています。
数年で何もない海に変わっていくさまを、日本列島の西のほうではたくさん目の当たりにしてきて、一本も海藻が生えていないような海域もあります。
こうなると何が起こるかというと、生態系のピラミッドが小さくなっていきます。
ピラミッドの一番下を支えている要素の一つが海藻なので、海藻がなくなると、ピラミッドはどんどん小さくなっていきます。魚が採れない、イカが採れない、貝が採れない、エビが採れないみたいな、そこだけ報道されますが、原因と結果を考えていただくと、これは当然のことなのです。
逆に言うと、どうやって海藻を海に増やすかということがすごく大事です。
一番右はワカメの養殖の写真です。
ワカメは養殖の技術が確立されているため、ワカメが育ちやすい海域ではワカメがびっしり育てられています。
でも、ワカメが育たない海域は何にも使われていなくて、耕作放棄地のような海がたくさんあります。
種苗生産技術が確立して漁師さんが手に入れられる状態になっている海藻は、ワカメ、コンブ、ノリ、オキナワモズクくらいしかありません。
漁師さんが育てたいと思って育てられる海藻はこれしかないので、これらが育たない海域は、すべて未利用な状況です。
そこに対して、僕らは種苗生産技術を確立して、ワカメは育たないけれどヒジキや他のものなら育つ、といったことを広げることに取り組んでいます。
海藻の養殖でも海の生態系は改善する
昨年1年をかけて調査をしたのですが、「天然の海藻が増えたら魚が増える」と聞くと、皆さんそうだと思うかもしれませんが、「海藻を養殖して魚が増える」と言われても、「えっ、そうなの？」と思うじゃないですか。エビデンスもありませんでした。
これを海藻を育てている場所と育てていない場所でどれくらい変わるか、計測してみました。
3地域で、コンブ、ヒジキ、トサカノリで調査をしました。
それでわかったことには、海藻を育てると、ワレカラやヨコエビという小型の生物が増えるのです。
ヒジキ養殖場では、2億匹以上に増えました。養殖していない海域ではほぼゼロです。
さらに魚の個体数を見てみると、海藻を育てている海域は育てていないところでコンブだと4倍、ヒジキだと7倍、トサカノリだと36倍、というくらい変わるという調査結果が出ました。
海藻の養殖は、需要が満たされていない海藻であれば作れば売れるので地域に新たな生業をつくることができ、食文化を残していくこともできる。食料の安定調達をしながら、その結果、生態系が回復していくという、2つのメリットがあるモデルです。
企業版ふるさと納税の活用で全国で実証実験
これらの技術もできてきて、どんどん広げていこうというフェーズですが、面展開していくためには、その場所での実証フェーズが必要です。
ここが今大変で、量産するまで2〜3年は時間がかかります。
これを今までは自力でやろうとしてきましたが、僕らのような弱小ベンチャーでは2年間売上が立たないというのは大変です。
このボトルネックへの新しい仕組みとして、企業版ふるさと納税を活用したモデルを進めています。自治体に手を挙げてもらって、そこに企業から寄付してもらうことで、企業は最大9割の税制控除を受けられるので、10倍レバレッジが効いたお金を使えます。
すべて実施するわけではないですが、11自治体が手を挙げてくれました。
企業版ふるさと納税にご協力いただける企業の方はぜひお知らせいただけたらありがたいです。
海藻産業を創出する取り組み
別の角度でも、事業を作っていかなければならないと感じています。
いろんな業種の企業の方たちに海藻のことをしっかり理解してもらって、その上で一緒にプロジェクトを作って、新たな海藻の産業を創出していこうという「SEA VEGETABLE Co-Creation Project」というプログラムを朴 理沙さんにも手伝っていただいて立ち上げました。
今年は12社、日本を代表する企業の方々に参画していただき、一緒に合宿して海に潜ったり海藻を食べたりしながら海藻について学んでいただくという半年間のプログラムです。
そんなことをやりながら、生産・研究からはじまった我々の事業は、食文化を創ることで、海が豊かになっていくという循環を創りたいという壮大な夢を持って活動しています。
ありがとうございました。
朴 質疑応答をしたかったのですが、時間の都合上、別の機会にご質問いただきたいと思っております。友廣さん、ありがとうございました。
（終）
編集チーム：小林 雅／浅郷 浩子／戸田 秀成／小林 弘美