「テクノロジー」「文化」「身体」の一体化から生まれる超人スポーツの可能性を熱く語る東京大学大学院 教授の稲見 昌彦さんのプレゼンテーションを是非ご覧ください。
登壇者情報 2016年2月17日開催 ICCカンファレンス CONNECTION 東京大学 稲見教授プレゼンテーション (スピーカー) 稲見 昌彦 東京大学大学院情報理工学系研究科システム情報学専攻教授
稲見昌彦氏(以下、稲見) 去年、2015年の11月に慶應義塾大学から東京大学の情報理工学系研究科のシステム情報学専攻というところに移りました。今でも慶應での客員教授は続けております。稲見と申します。そしてまた、本日少し紹介させていただきます超人スポーツ協会というものも共同代表を行っております。
稲見昌彦 東京大学大学院情報理工学系研究科システム情報学専攻教授 1999年 東京大学大学院工学系研究科博士課程修了。博士(工学)。東京大学助手、JSTさきがけ研究者、MIT CSAIL客員科学者、電気通信大学教授、慶應義塾大学教授等を経て、2015年11月より現職。人間拡張工学に関する研究に携わる。 米TIME誌Coolest Invention of the Year、文部科学大臣表彰若手科学者賞、情報処理学会長尾真記念特別賞など各賞受賞。超人スポーツを提唱。超人スポーツ協会共同代表。
さて、みなさんは小さな頃、スーパーヒーローになりたいと思ったことはございませんでしょうか。私はあります。これは(写真の)右が私なのです。
稲見 マントをつけて、そして頑張って少しずつ高いところから飛ぶ練習をすれば、いつか飛べるようになるかもしれないと、そういうふうに思って、忍者の本なども一生懸命に読み、練習をしました。そして練習の結果どうなったか。こうなりました。
稲見 高いところから落ちて、骨折してしまいました。三ヶ月くらいかかりましたでしょうか。これで自分は運動神経がないと思い、空を飛ぶという方向で頑張るのはやめた。
身体を鍛えるのではなくて、その代わりにそういうことが実現できるテクノロジーを勉強していこうと考えた。そういうことで、大学院ではこのように透けて見えるかのような技術というものを作りました。
稲見 最近ではそれを車の内装に応用して、安全に運転できる車ができないかという研究を行っておりました。
稲見 そして、この研究を行った時にふと思ったことがあります。自動運転の自動車は今いろいろと話題になっておりますでしょう。未来の車と言うのはどうなるのでしょうか。
稲見 99%の方が自動運転車になるのではないかとおっしゃるのではないかと思われます。私もそう思う。ですが、この自動運転車。それは自動車の唯一の未来でしょうか。これはおそらく自動運転車というより未来のタクシーだと思うのです。
ですが、自動車を運転する、特に二輪車や自転車といったものを運転するというのは、目的地に着くということだけではなくて、そこまでの過程とか体験とかそういったところも実はエンターテイメントとしてある。
そして、それはおそらく自動という未来だけではなくて、自由自在に自分が行動することを助けるもの。つまり、自動化というだけではなく、自在化という考え方があるのではないかと思い至りました。
稲見 そこで近年、私が取り組んでおりますのは、人機一体を実現する自在化技術というものです。これはどういうことか?自動化は今後も進むでしょう。しかし、世の中のすべてが自動化することはおそらくありません。
何故なら、みなさんの代わりに映画を見てくれるロボットのペッパーがいても嬉しくないでしょう。レストランでペッパーが自分の代わりに食事をしていたら腹が立ちますでしょう?
多分、そういう未来だけではなく、「自分」がやりたいことはこれからもある。そこを補助するようなテクノロジーを作っていく。今後もAIがどんどん進んでいくと思います。その時、われわれはAIとどういうふうに付き合うのでしょうか?
もちろん対等に人型のヒューマノイドと付き合うというのもあるかもしれません。もう一つ、AIを身に纏うという考えもあると思います。ちょうど人馬一体という言葉がありますでしょう。昔はそれこそ手綱をしっかりと握っている間は人と馬が一緒になったシステム、その主導権は人にあった。
ですが、その手綱を弛めたりとか、酔っ払って侍が寝てしまっていたら、いつの間にか馬が家に着いていたというような話がある。これは馬が主導権を握っているわけです。そういう自動的なシステムと、自分が自由自在に動かそうとすること。そこをいかにシームレスに繋ぐか。
それは今後AIがわれわれの生活を支援していくということも大切になってくると思います。では、人機一体とはこういう未来でしょうか。
将来、AIが49%の仕事をしてしまうというようになった時、われわれは何をすればいいのでしょうか。そして、私は一つの試みを始めました。
稲見 ご存知のように、2020年にオリンピックが来ます。私も最初はオリンピックなど全然関係のないものだと思っていました。私はスポーツが苦手ですし、今さらオリンピックの選手にはなれません。ですが、ある時に思い至りました。
稲見 もし自分が自在化で研究しているような、テクノロジーと文化と身体、この3つをくっつけた新しいイベントができれば、もしかしたらそれは海外から日本に来る人も喜んでくれるかもしれない。
実際、前職の慶應義塾大学のメディアデザイン(KMD)は、3、4割が留学生でした。その留学生に「何故日本に来たか」と聞くと、一つは『ワンピース』とか『ドラゴンボール』とか、日本のポップカルチャーを小さい頃から見たからだと。
二つ目は、日本は技術が進んでいるから。その2つがが大きな主な理由だそうなのです。そういう意味では、日本でオリンピックを見に来た人にもそういう新しいテクノロジーとポップカルチャーが混ざったようなものを見てそれが私の願いです。
それで超人スポーツ協会というのを、この後お話いただく暦本先生とポップカルチャーで有名な中村伊知哉先生と一緒に立ち上げました。
稲見 これが去年(2015年)の6月です。さらに、すぐに仲間が集まりました。
稲見 超人スポーツアカデミーと言う形で50人以上の有識者の方々に集まっていただいております。ロボットやヒューマンインターフェイス、それからスポーツ科学の研究者、それに加えてメディアアーティストですとか、あとは元アスリートの為末さんとか、そういった方々に集まっていただいております。
そして今は、いろいろと一般会員の方にも入っていただいています。「超人スポーツ」で検索していただければたくさん出てきます。
よく国際会議などでもこういう話を紹介することがあるのですが、「何を日本人だけで楽しそうにやっているのだ」「さっさと仲間に入れろ」というふうに言われております。
まずは国内組織を早く固めたいと思いますが、今年は国際化の年にしていきたいと思います。そして、これはまだ中身はほとんどないです。立ち上げただけなのに、何故かいろいろなところで報道されています。
稲見 何故かウォールストリートジャーナルにまで出ている。立ち上げただけですよ。何も中身がないのに何故か報道されているという形になっています。
稲見 でも、われわれには確信があります。何故かと言うと技術的な裏づけがおそらくあるからです。こちらがアカデミーとして関連するメンバーがやっている研究をまとめた映像です。
稲見 いかがでしょう。素材を見ただけでも意外となんとかなるかもしれないという片鱗を感じていただけたと思います。
稲見 超人スポーツ3原則というものを作りました。超人スポーツは進化し続けます。テクノロジーと共に進化し続けます。そして、今はパラリンピックと普通のオリンピックというのを分けていますね。
ドイツの走り幅跳びのマルクス・レーム選手などがオリンピックに出るかどうかをすごく議論している。でも将来テクノロジーが十分進めば、もはやオリンピックとパラリンピックを分けるような必要がなくなる時代がくるかもしれない。
そして、多くの人々が観戦者として楽しめる。たいていこういうものを作ると、自分たちは楽しいけれど、周りの人たちは楽しくないではないかとなりがちです。そこもしっかりやらないとサステナビリティがないと思っています。
稲見 さて、テクノロジーが進んできました。人は猿から直立二足歩行になりましたけれど、今度はテレビの前に座っているという時代になっているかもしれません。
稲見 一方で、テレビゲームの進化などを考えてみます。コンソール機、例えばWiiやXボックスは部屋全体をゲーム空間に変えてきました。そしてスマートフォンがわれわれの行動範囲をどんどんゲームに変えてきました。
同じようにこうしたゲーム的なものが屋外へ出ていく。そして、ゲーミフィケーションという言葉があるように、もしかするとスポーティフィケーションということもあるかもしれない。いろいろなところでわれわれの身体と繋がるような新しいサービスが出るかもしれないと思っています。拡張してゆくべきところはたくさんあります。
稲見 身体をどんどん拡張していく。それもあります。
稲見 そして、用具をどう拡張していくか。
稲見 これはバブルサッカーで使われているようなものとジャンパーを繋げただけなのですが、これだけで相当違ってきます。スポーツというのは新しいのを試そうとすると痛いでしょう。
しかし、痛いからなかなかチャレンジできないというとろこも安全とわかるとやたら上達が早くなるのです。そういう防具なども含めて開発していく。
稲見 そしてフィールドも、オーギュメントリアリティを使った新しいフィールドも、どんどんできても良いはずです。かめはめ波を出しましょう。
稲見 トレーニングもどんどん拡張できるはずです。
稲見 私は今 「JINS MEME」というものをかけていますが、これは私の頭の動きや眼球の動きを計測してくれるような眼鏡なのです。そういったものをトレーニングに使えるかもしれない。
稲見 また、観戦も拡張できます。みなさん、将来オリンピックは4Kと8Kのテレビだけで十分でしょうか。
稲見 例えば触覚を使ったもの。打った感覚が自分の手に伝わってくるようなものがあってもいいかもしれない。
稲見 そして見るのもカメラの視点ではなくて、例えばこういうボールの視点でフィールドを見ていくということがあってもいいかもしれない。さまざまなことを使いますと、われわれはもっと楽しくオリンピックを楽しめるようになるかもしれない。
稲見 2020年。もう時間がありません。
稲見 いろいろなものをどんどん作り始めています。ブラインドサッカーとも連携しています。
稲見 ハッカソンもやりました。
稲見 未来館でもスポーツ運動会というのをやりました。ぜひ映像をぜひご覧ください。
稲見 そして、未来のスポーツを漫画家の卵の人たちにイラストとしていろいろ書いていただいた。
稲見 また、こうしたちびっ子と一緒にやったり。
稲見 学術研究会をやったり。
稲見 地域の運動会として一緒にやったり、
稲見 ご当地スポーツを作ろうというような話も起きつつあります。
稲見 これはマルクス・レーム選手です。先ほども話しに出しましたが、もはや人間を超えつつある。普通の人の記録を超えつつある。これからどんどんテクノロジーが進むとどうなるでしょうか。
稲見 例えば今年の2016年。サイバスロンということで、スイスで障がい者スポーツをより技術化していこうという試みもある。そういったものが進みますと、先ほど申し上げましたように、本当にオリンピックとパラリンピックの区別がつかなくなってくるというのがあるかもしれない。
どういうことかと言いますと、ちょうどF1で磨かれた技術が民生車に下りてくるように、こうした超人スポーツで磨かれたテクノロジーというものが、超高齢化が進む日本でわれわれの日常生活を支える技術になるかもしれない。
稲見 スポーツ市場もどんどん増えていくと言われています。
稲見 そしてまた、一歩引きますと、これに関連するさまざまな産業があるかもしれません。そして最後に、最近考えていることをお話させてください。
稲見 私の研究のアジェンダとして、こういう超人スポーツのように、われわれの身体そのものをどんどんさまざまな形で拡張したり、変身したり、分身したり、合体したりできないかということを考え始めています。そういったことを考えた際、デジタルメディアを考える上で重要なのがシャノンです。
稲見 シャノンは情報世界と物理世界をどういうふうに繋いでいくかということを記述しました。たいていBitsとAtomsの界面ということで多くのサービスは考えられていたと思います。最近私が提案しているのが、ウィーナーの界面を考えようということです。
稲見 ウィーナーは本の中で、自分が制御できる世界と制御できない世界に分けよと言っております。そして、これは下が人類、上が自然ということになるかもしれません。
稲見 これを一人称で考えると、「私」が制御できる世界と制御できない世界ということになる。この下の部分が「私」の定義かもしれない。ダニエル・デネットが、「私とは何かというと、私が制御できることすべてだ」と言っています。ですから、ウィナー界面というのはもしかするとATフィールドっぽいかもしれません。
稲見 一方で、ビジネス書の『7つの習慣』に出てくる影響の輪、関心の輪といったものが実はウィナーの言ったことかもしれない。
稲見 今あるメディアのサービスを、今度はシャノンの界面とウィーナーの界面で分けて考えると、実はこのウィーナー界面をいかに上へ持って行くかというのが、テクノロジーの目指す方向として見えてくるのかもしれない。
稲見 さて、こういったことができるとどうなるか?われわれ人類は道具を作る生物だと言われてきました。ですが、チンパンジーも道具を作っているということがわかったり、カラスが石を落としたりということがもう知られています。われわれの特権はなんでしょう。
稲見 それは、われわれの身体を自ら再構成できる生物だということかもしれません。そうなった時に実はIT革命というのが、後から見た時に本当に人間界を変えることだったかもしれないとなると思っています。最後に一つ宣伝させてください。
稲見 このような話、15分で高速だったのですが、もう少しゆっくり理解されたい方は、最近NHK出版新書にて『スーパーヒューマン誕生!』とうい名前で出版しましたのでこちらをご覧いただければと思います。以上です。ありがとうございました。
(終)
編集チーム:石川 翔太/小林 雅
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