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8月31日〜9月3日に開催予定のICC サミット KYOTO 2020。その最終日の9月3日に、CRAFTED TOUR 「『WABARA』のRose Farm KEIJI 見学ツアーとCRAFTEDトークイベント」を特別プログラムとして用意しています。今回CRAFTED カタパルトにも登壇いただくRose Universe 國枝 健一さんに、一足早くRose Farm KEIJIと和ばらの世界をご紹介いただきました。ぜひご覧ください!
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ICCサミットは「ともに学び、ともに産業を創る。」ための場です。毎回250名以上が登壇し、総勢900名以上が参加する。そして参加者同士が朝から晩まで真剣に議論し、学び合うエクストリーム・カンファレンスです。 次回ICCサミット KYOTO 2020は、2020年8月31日〜9月3日 京都市での開催を予定しております。参加登録などは公式ページをご覧ください。
▶Rose Universe 國枝 健一さんはICC サミットKYOTO 2020のCRAFTED カタパルトに登壇を予定しています。詳細はリンク先をご覧ください。
本編
産地直送のため、通販であっても通常の生花店で買うよりも長く花が楽しめるそう
ひたすら美しくて見るたびにうっとりとする、華やかなのに優しげで、見たこともないような形や色の個性派ばかりなのに、一体感がある。洗練にも素朴にもなる、矛盾の魅力に満ちた『和ばら』。
滋賀県にある、Rose Farm KEIJI にて、品種を紹介するために、國枝 健一さんが1本ずつ切り取ったばらをいただいて帰京して3日目。そのたおやかな花姿に矛盾するように、『和ばら』は今を盛りと咲き続けていました。
細い茎でも1つずつ蕾は開いていき、枯れていく様子ですら美しく、視界に入れば見入らずにはいられず、目も心も奪われる日々。花が終わるころには『和ばら』が自分の部屋にある感覚が、しっかりインストールされていました。
そんな特別なばらを生み出すRose Farm KEIJIの國枝健一さんが、次回ICCサミット KYOTO 2020のCRAFTEDカタパルトに登壇することが決まり、滋賀県守山市にあるばら農園を訪問してきましたので、そのレポートをお伝えします。
滋賀県守山市のRose Farm KEIJIへ
この日のICCチーム一行は、午前中は下見で比叡山延暦寺にいたため、同じ滋賀県でも大津市から琵琶湖を挟んで逆側に位置する守山市へと向かいました。畑の中の1本道を走り続けると、見えてきましたビニールハウス! 目を凝らすと、ハウス手前の緑地にも、野ばらのような小さなばらが咲いているのが見えます。
こちらのオフィス棟で、Rose Farm KEIJIの國枝健一さんにお迎えいただき、普通のばらと「和ばら」は何が違うのか、何を思って「和ばら」を作ったのか?など、温室を見せていただきながら、さまざまなお話をうかがいました。まずはばらの歴史からスタートです!
紀元前から続くばらの歴史
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國枝 健一
株式会社Rose Universe
代表取締役
1981年、國枝啓司の長男として生まれ、幼少よりばらに親しむ。25歳で父が営む「Rose Farm KEIJI」に就農。その後、2014年に「Rose Universe co., ltd.」を立ち上げ、CEOに就任。父の生み出すばらを「和ばら」と名付けるとともに、和ばらの世界観の構築のため栽培方法を一から見直し、父とともに理想のばらを追求する。2017年、琵琶湖畔に農園を新設。ばらの栽培の風景までもを価値化し、切り花から園芸苗、食用ばら、加工品事業を自社で一貫して行う。また、「WABARA」として、和ばらの哲学や思想を世界に発信。哲学や思想に共感し和ばらに込めた想いを同じくする海外6カ国の農園とパートナー契約をし、WABARAを世界各国で展開している。
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「祖父が始めて50数年、3代続いてこの地で、ばらを作っています。会社にしたのは2014年。僕達がばらを作る意味を考えて、やっていきたいと思っています。
ばらは人類の歴史とともに愛されてきました。お花は嗜好品と思われていますが、ネアンデルタール人が死者にお花を供えている遺跡が残っているぐらい、生物の本質的なもの、人のもっと根源的な部分と共鳴するものが、ばらのありかたじゃないかと考えています。
▶墓地に花を飾った最古の例、イスラエル(ナショナル ジオグラフィック)
ばらの原種は主に北半球に分布していますが、どこが根源かわかっていません。ヒマラヤという説など諸説あって、普通に森や山、土手に生えています。日本でも古くからあり、『万葉集』にも出てきます。浜辺に自生するハマナスや、ノイバラなど日本原種のばらもあります。
▶万葉集その三十(薔薇:そうび=うまら)(万葉集遊楽)
▶バラの原種「ハマナス」【松本路子のバラの名前・出会いの物語】(GARDEN STORY)
ペルシャやエジプト、メソポタミアのころから、ばらは食用とされていて、紀元前からばら自体は観賞用、嗜好品、食品、薬用として使われてきています。
ローマ時代から中世ヨーロッパは、ばらは富などの象徴であったりします。大航海時代は遠征すると、植物の種を持って帰ってきたといいます。
多様なばらが広がったきっかけが、ナポレオンの后ジョセフィーヌ。自分が住むマルメゾン宮殿の庭に世界中のばらを集めました。
▶ジョゼフィーヌ~バラを愛したナポレオン皇妃【花の女王バラを紐解く】(GARDEN STORY)
それまでは植物が勝手に交雑して品種が増えてきたのですが、ここで初めて人工的に交配を行って、一気に種類と特性が増えていきます。こから品種開発、生産技医術と革新が起き、徐々にバラづくりが産業化していきました」
心を癒やすのは、植物の本来のフォルム
そんな人類の歴史とともにあるばらですが、「和ばら」とは、國枝さんの父親であり、ファームの名前にもなっているばら作家、國枝 啓司さんが作っている、日本の文化や美意識を反映したばらのこと。
私たちが一般的にイメージするばらは西洋のばらで、色がはっきりとしてりんとして、迫力のあるものですが、「和ばら」は草花のように、たおやかで繊細で、原色よりも中間色。たとえば日本の建築が素材の形を活かすように、そのばらの個性がそのままでるように、手を加えすぎずに育てる。そんな和ばらは現在65種類を数えるといいます。
「僕が家業に入った2006年は2種類しかなかったのですが、父が約40年作っていて、品種ストックはありました。自分が関わるのならばと、約10年ぐらいかけて、全品種『和ばら』のラインナップにしていきました。
それまでは、土壌から隔離し、土とは異なる培地に液肥の肥料を混ぜた水を流すという現在の主流である栽培方法だったのですが、昔ながらの土に直接植える方法に戻して作っています。食用は無肥料無農薬、切り花も無肥料でやることで、本来植物が持っている形になっていきます。
人間もそうですが、植物は栄養があると過剰に摂ってしまう性質があるのです。するとフォルムやバランスが崩れていくのです。
植物に人が求めるものは、癒やし、心が落ち着くようなものではないでしょうか。そこになんとなくの違和感があることをよしとはできないなと思って、植物の本来のフォルムを出すために、肥料をあげず植物と土壌が共生関係を持ち、自分の力で育っていくというスタンスをとっています」
世界に例のない『和ばら』の試み
そんな『和ばら』の独自の栽培方法が、生花の課題解決にも活かせるのではないかと、國枝さんは考えています。
「品種のオリジナル化と、土作りをした栽培をしていくうちに気づいたことは、結局いいお花を作るのと、おいしい野菜を作るのは同じということです。
植物体として元気で、健全なものを作る。それは食べてもおいしいのではないか。歴史を紐解くと、紀元前からばらは食されてきたのです。
野菜や魚といったものはそのままの販売以外にも加工できるのですが、花は観賞用のものは多くが食用に適さない農薬の使い方や基準となっていて、生鮮物以外の加工方法が限られています。
花屋さんもそうですが、廃棄率が他の一次産業に比べて高い。その点からも販売価格が高くなってしまうので、そこを改善するためにも、ばらで食品ができないかというのが、加工品の発想のきっかけです。
食用ばらを調べると、花びらの元の部分は苦いから捨てましょうと書いてあるものもあったりしたのですが、『和ばら』を食べても苦くありません。おそらくこれはうちの土作りによって植物が過剰に養分をを蓄えていないからだと思います。
今は切り花と分けて作っているので、その廃棄率の改善には至っていませんが、ゆくゆくはその融合を目指しています」
話をしている間に、氷の入ったグラスが人数分と、一見薬品のように見える茶色い5つのボトルが運ばれて来ました。勧められるままにボトルの中のエキスを数滴、グラスの中に落としてお水を飲むと、なんともいいばらの香りが口の中に広がります。
「これは、オレンジ色の【かおりかざり】という名前のばらから作りました。このエキス(ばらの生体水)は、口に入れて飲むだけでなく、一応検査上は目に入れても害がないという試験もパスしているものになります」
この茶色い小瓶は、全部違う種類のばらのエキスでした。のちほどファームで花の【かおりかざり】を見てみると、お花のままでも香りの素晴らしい、見た目もとても可愛らしいばらでした。
「単純に嗜好品、市場に出す企画品としてだけではなくて、もっと人間の本質的な部分に響くものを作りたいと思い、草花のような野性味のあるばらを作るというのを、うちの品種作出のテーマとしています。
そういうばらは、力があって栄養価が高いので、純度を高めつつ、作為的にならないように気をつけながら、人間と根源的に結びつく加工品も目指して作ってきました。その結果、一般的なローズウォーターやオイルなどと、まったく違う製法で作る、このばらの生体水にたどり着きました。
エキスを抽出する、低温真空抽出機。ばらを入れると水分が抽出され、花びらは乾燥し、ばらを余すことなく全部使いきれる
通常の蒸留法は、ガクから上の花部分、または花びらのみと水を混ぜて蒸留するのですが、この低温真空抽出法は、水など他のものを一切混ぜずに、ばらの花びらに含まれる水分だけのエキスが取れます。オリジナル品種のばらとまだ珍しい抽出方法をしようしているので、世界的にもうちしかできないことをやっていると思います」
2019年の10月から、生花や園芸苗だけでなく、ばらを原料に使った加工品を商品化したばかりとのこと。こういった食品や化粧品の商品や原料展開は輸送や保管が生花に比べて容易なため、ゆくゆくはこちらを基幹ビジネスにしたいと考えているそうです。
「今のところは切り花が先行していますが、メインのビジネスは加工品に移行しつつ、現物のばらもちゃんとある展開にしていきたい。なぜかというと、今のバラの商品のほとんどは、現物のばらはこれです、という原材料のお花を見せての展開を、どのメーカーもできていないのです。
お花の業界で、独自の品種を作出して、切り花や園芸苗として世界的に展開しているのは数社ありますが、それをさらに加工商品を作ってネットワークしている会社は世界的に聞いたことがありません。そういう意味でも、今は細々なのですが、世界で他にないことをしています。道のりは長いですが(笑)」
切り花のばらといえば、花屋のショーケースに年中あるものというイメージがありますが、「和ばら」はそれも裏切っています。
「野菜農家さんは、自分たちの特性を出すために少量多品種化しています。僕にとっては花もそれに似ていて、ずっと安定的に供給できるのがよしとされているイメージが、全然面白くないなと思ったのです。
いろいろなものを作って、季節によってあったりなかったり、今はこれが旬だとか、今はこれがいいですとか、あってもいいんじゃないでしょうか。また、花束を作るときは色のグラデーションが大事なので、違う品種の同じような色や、それの代替品など似ている品種も作っています」
話を聞けば聞くほど、実際に育つ『和ばら』を見たくなります。ここで一旦話を中断して、ローズファームを案内していただくことにしました。
ローズファームを見学
最初に見学したのは、出荷を待つ「和ばら」の切り花が格納されている冷蔵庫。7度で冷蔵中にも関わらず、ドアを開けるとふわりとばらの香りが漂います。
ひとつひとつ、ふんわりと優しい色で咲くばらに見入らずにはいられません。種類で束になってまとめられ、お店に出荷を待つばらもあれば、さまざまな色のおそらく違う種類のばらが、ざっとまとめられている束もあります。ずっと見ていたい気持ちを抑えて、温室へ向かいました。
外気は30度ぐらいある日でしたが、この日は温室内もそれをやや下回るくらいに保たれ、湿気があります。温室は季節によって異なりますが、概ね16度〜30度程度に保たれているそうで、通路の左右には、一面のばらの畑が広がっています。
「ここは切り花用ハウスで、64m×84mの広さ、約5500平米あります。通年栽培していて、短手の側面に3台ずつエアコンがついています。日本の気候は四季があり、光はほしいけれど、温度を下げる必要があったり、逆に上げる必要があったりと、求めていることは冬と夏で反対です。
複合的な要素があるので、季節に応じて対応できるようにいろいろ設備を工夫しています。
温度管理に加えて、自然に近い無肥料栽培ではあるものの、温度、土、光の量は常時データログをし、週に1回は、新芽の樹液の植物体調査を行い、状態をモニタリングして、データを蓄積しています。
その他にも害虫対策など、滋賀県の龍谷大学の農学部とも共同研究していて、この先農薬を減らしていくために様々な取り組みや研究をしています。例えば虫の好きな色の波長で虫を捕獲する粘着シートを設置したり、吸引するようなものを使ったりしています」
この黄色や青色の短冊のようなものや、右側の桶のようなものが虫を集める
「和ばら」の代表的な品種を紹介
「和ばらといいながら、ひとつだけ特別なのものを最初に紹介します。これは【シャルロット・ペリアン】という、うちの父が最高傑作というばらです。
華やかではないばらを作りたい、という僕たちのばらの目指す方向性のなかで、この品種は僕たちの「和ばらの答え」のひとつです。
季節によっても全然違っていて、秋口になると、花びらにパールのようなな光沢が出てきます。
いろんな意味で不思議なばらです。これはベージュっぽく見えますが、蕾が赤いものは咲くと紫っぽくなります」
光線の加減によっては、シャンパンゴールドにも、ベージュにも見える
このばらのテーマとなったのが、日本とも深い縁があったフランスの女性建築家のシャルロット・ペリアン。その没後20周年に合わせてフォンダシオン ルイ・ヴィトンでの大回顧展に合わせて作出し、そのときに集まった世界のVIPたちに手渡されたそうです。
▶20世紀デザインを牽引したシャルロット・ペリアンの活動から見えるもの。パリのフォンダシオン ルイ・ヴィトンで回顧展が開催へ(美術手帖)
このばらとの出会いにインスパイアされて生まれたのが、AESOP(イソップ)の香水「ROZU」。エキスは入っていないものの、このシックな姿とシャルロット・ペリアンとの出会いのエピソードから、華美な花を嫌うブランドが異例のOKを出したそうです。
訪問した6月下旬は、夏に向けて株を育てるために花を減らしている時期だそうですが、それでもファーム内にはさまざまなばらが咲いています。國枝さんは自由に動きながら、紹介するばらを切っては持ってきてくれます。
「品種が増えるのに2つのパターンがあり、1つは種、もう1つは突然変異です。ばらは遺伝子情報が複雑なので、それが混ざって突然変異が起こります。そこからクローンを作ります。
種子繁殖すると、兄弟でも違う品種になっていくのです。野菜はそれほど変化しないのですが、ばらは世代を越えるとかなり違ってくるので、接ぎ木や挿し木でクローンをつくり増殖します。
そうしてたくさん作っていると、時折1本だけ突然変異が起こって、こういう色が起こります」
【風月】に戻りつつある【友禅】ハイブリッドのシリーズと、下は【友禅】
と見せてくださったのが、右側のクリーム色のばら。花びらに少しだけピンク色の部分があります。
「こうやって毎日行ったり来たりしていると、突然変異を発見したりします。新しく発見したものは、葉っぱの付け根に芽があるので、そこから増やしていきます。
僕らはそれをシリーズと呼んでいて、この品種の元となっているピンクの【友禅】というシリーズは、9種類に分かれていて、このばら【風月】もそのひとつ。【友禅】のピンク色が一部だけ【風月】に入っていますが、このように一部だけ元に戻るということがあります」
次にふたりが手にしているのは、ウェディング人気が高いという【結】と【わたぼうし】という和ばら。どちらも香りがよく、ほんのりとしたアイボリーの色が美しいばらです。
「植物と人間は似ているところがあって、暑くなってくると薄着になってくるように、花びらの数も少なくなって色はパステル調になります。
逆に冬になると服を着重ねるように花弁の枚数を増やし、色も落ち着いた、深みのある色になってくるんです」
植物の不思議を、ばらで次々と紹介していく國枝さん。ワクワクが止まりません!
真ん中の花が一番大きいスプレータイプのばら【葵】。蕾とは色がまったく違う
「これは【葵】というばらで、一枝から複数咲くスプレータイプのばらです。スプレータイプは真ん中の花から咲きます。
真ん中の花が退色するころに、外側の花があとから咲くので、色のグラデーションが出ます。真ん中は収穫前に咲くので、根っこがついている分大きくなるし、咲いた花の形が違ったりします。
季節や時期、天候によっても形や色が変化するので、これはいまこの瞬間の花の形です」
1つの枝からのグラデーションだけでなく、幅広い中間色展開を持つのが和ばらの強み。直販のサイトでも、ばらの品種で選べるだけでなく、色調で選んで、届いた花束から品種がわかるという、新しいばらとの出会いも用意しています。
さまざまな和ばらを紹介
「京都の祇園近くに花見小路通りというのがあって、そこの八重桜をイメージしたばら【花見小路】。遺伝子に少し異常がある形で突然変異種しているので、花の形が特殊で、葉っぱが細長いです」
【葵】から派生したシリーズの【そら】は季節によって茶色い花になる
自分と同じ名前の【雅】というばらを発見。よみがなは異なる「みやび」で、海外では【葵】と並ぶ人気のばらだそう
「和ばらの特徴として、強い色をあまり作らないようにしているので、他のばらと合わせたときに柔らかいイメージになります。これは椿のような花姿の【和花】という品種です」
【紫水】(しすい)は珍しいパープルのばら。「ばらはウェディングのイメージですが、最近はお葬式などにも使われています。和ばらで送ってほしいという遺言を残された方もいて、とても光栄に思います」
【結】から生まれたシリーズの【ひなあられ】
紫外線によってピンクの色の出方が異なる【かりん】
「これはうちのばらではないのですが、僕も見たことのない、原種に近いばらの1つ。花びらは葉が変化したものですが、これは葉の要素が強いのでしょう。こんなの出るんや、という感じです」
皇后陛下のご成婚に贈ったばら【プリンセスマサコ】。「実際雅子さまに何種類かの中から選んでいただきました。販売をしていなくて、見学に来られた方にお見せするぐらいです」
印象的な名前は、どのように決めているかというと……。
「僕がつけるか、父がつけるか。インスピレーションで決めています。
たとえば【暦】という品種は、見た瞬間こいつは【暦】と言っている気がしました。名前がなかなか浮かばないものは、その花が飾られるであろう情景を思い浮かべて、考えたりします。日本語特有のだけでなく多様な読み方や、文字自体が持つ意味を重要視しながら、音としてもばらに合う言葉を考えます。
柔らかさや質感を出すために、【そら】【カゲロウ】など、ひらがなにしたり、カタカナを使ったりもします。
子どもが3人いて、その名前をつけているばらもあります。【葵】が長男のばら、【ひより】が長女、【環】(たまき)が次男のばらです。生まれたときに、一番その子に合いそうな花を選んでいます。
甥っ子に「りく」というのがいるんですが【りくほたる】というばらもあります。
自分を象徴するばらですか? ないし、なくていいです(笑)」
國枝さんが次々と紹介してくださるばらで、いつのまにかバケツはいっぱいに。種類も色も違うものばかりに関わらず、いつの間にか一体感のある「和ばら」の花束ができていました。これが、冒頭に私が持ち帰らせていただいた花束です。
農業をやる気はまったくなかった
外側はピンク、中心はオレンジ〜ベージュにグラデーションと、1つの花に複雑な色が重なる【雅】と【絃】。右側の薄いピンクは【ひな】
國枝さんは、父親のばら作家、國枝 啓司さんに家業を継げと言われたことは一度もないといいます。
「僕は農業をやる気がまったくなかったんです。いま39歳ですが、大学のときに海外に2年間留学をしていて、戻ってきて半年だけサラリーマンをして、25歳のときに帰ってきました。サラリーマンをやめる瞬間まで、継ぐつもりはありませんでした。
戻るきっかけは、自分で何か事業をやりたいと思っていたからです。コンテンツを探していました。
農業でも花は特殊で、市場も野菜とは別で、食品でもない。学生の時は実家に帰省するたびに手伝わされていて、いつも地味に出荷作業をしていて、絶対にやらないと思っていました。
だから大学は農学部でもなく、卒業後は東京でそのまま一般企業に就職しました。
ただ学生時代や社会人時代に、人の家にお招きいただいた際に、お礼に花をあげたりすると、とても喜ばれたのです。
翻って家では花市場にしかお花を出荷しないし、生産者は受け取った方の顔や表情を知りません。なので、直接買う人とつながっていくようにしていけば、お花の業界も面白いんじゃないかなと感じて、それでばらをやってみようと思ったのです」
品評会では見向きもされなかったのに、問い合わせが
本家筋のいとこがばら農家を継ぐべく、その王道コースで農学部や海外研修に行く一方、農業のバックグラウンドがまったくない國枝さんは、ホームページ作りや流通の仕組みを学ぶことからスタート。ここにしかないばらを知ってもらいたいという思いからだったそうですが、そこで素人ならではの業界の盲点を見つけます。
「流通の中でよしとされていること、よくないとされていることも、一般の目で見ると、違うのでは?と思うことがあるのです。
生産性がよかったり品評会でいい賞が獲れることが、いわゆる”いいばら”とされているけれど、一般の人から見ると、そうは思わなかったりする。逆にダサいと思われることすらありえます。大きな束をどーんと渡されても、それを入れる花瓶なんて持ってないって、なるじゃないかなと。
その一瞬はいいけれど、それを本当に常に自分の家に飾っておきたいと思うかな?非現実的じゃないかな?と思って、自分たちだけ全然違う、しなだれたばらを品評会に出したりして、賞には箸にも棒にもかからないのですが、どう見てもかわいいな、と思っていました。
するとそれがきっかけで、海外含めていろいろなところから問い合わせが来るようになったんです」
現在「和ばら」は、ケニア、コロンビア、アフリカ、イギリス、フランス、メキシコで作られて世界中に出荷されており、エクアドル、オーストラリア、オランダも準備中といいます。
「まだ少しずつなのですが、北米、ロシア、ヨーロッパ、中東、アジア、オセアニアなど、いろいろなところに届いています。消費国とされる国で商標を取っているので、『WABARA』という共通のロゴを使い、品種も日本名で出荷しています。そうして出荷されているお花をSNSなどで見て、気になるので作りたいと問い合わせが来たりします」
ニコニコと柔和に語る國枝さん。この地を拠点に、『和ばら』を世界各国に送り出しています。
「興味を持ってもらった人には、まず一度日本に来てもらい、ここでお花と僕たちの哲学を感じてもらいます。それで、共感しいていただき、やりたいといってくださる方に、苗を送って、現地でテスト栽培を始めてもらって、それでうまくいった品種を栽培していくという流れです。
通常の種苗展開のやり方は、植えたものに対するロイヤリティなのですが、僕らはそれが発展的ではないと思っています。イニシャルではなくランディングで、和ばらというブランドを一緒に盛り上げたいので、販売額に対するパーセントでロイヤリティをいただく形にしています。
海外で『和ばら』は同じように育つのか?と思われるかもしれませんが、僕たちは同じように育つことを望んでいません。その土地や国柄に合わせて和ばらが変化することを楽しみにしています」
日本の環境は一番変化が大きくて難しく、四季折々のばらの姿を楽しめますが、赤道付近の国では気候の変化が少なく、標高2500〜2800mで気温も安定している環境で育てる南米やアフリカは、大きくて色も濃く、年中品質が安定していて作りやすいそうです。
個性のあるばらだから、さぞ作り方やブランディングにこだわわりをと思いきや、そこは和ばらのようにゆるやか。
「そこは彼らもプロなので任せています。それに植物なので、元は一緒でも場所によって変化するのです。うちで育つのと、香りも色も、大きさも変わります。情報共有はしていますが、僕らもインスタとかで写真を見て、この花、こんなに大きくなるんや!と、びっくりします(笑)。
いつか同じ品種でもこんなに違うというのを、集めてやってみたいです」
父とともに『和ばら』で目指すもの
『PLEASURE GARDEN』の2018年春夏号。ホームページの雰囲気そのままに紹介されている
2018年に、影響力のあるイギリスの有名な業界誌に掲載され、注目が集まったそう。『和ばら』の魅力は、はたして外国の人たちにどんなふうに伝わっているのでしょうか?
「ばらの歴史の深いイギリスやフランスの方にも、すごく伝わっているのを感じます。
西洋は形がすごくきれいで、完成された幾何学的な文化だと思いますが、和ばらに興味をもってくださる方は、それをつまらないと言い出すのです。
僕らはてきとうに、今日はこんな感じかなとか、ここはいびつなままでとか、西洋とは逆の不安定な要素もそのままにやっていますが、それを面白いと言ってもらえたりします。
僕は幼少期からサッカーをしていて、ドイツにサッカー留学で1年、交換留学で1年いて、正直あちらに残りたかったのですが、残るためには向こうから呼ばれるような、何かがないといられないなと感じました。だからこの『和ばら』をやるときに、世界に行けるように作っていこうと思いました。
それが『和ばら』と名付けた理由のひとつでもあります」
突然農業をやると言い出した息子が設定したゴール。それは、日々ばら作りに励む父親の心の中にあるもの遠くないと、國枝さんは言います。現在、弟も妹一緒に『和ばら』に向き合っているそうです。
「父も楽しみと苦しみの中で、ばらを作り出しています。
世の中の常識も変わっていきますし、父自身それを受け入れられる部分と、受け入れられない部分、あとになってわかる部分があるみたいですが、見ているところは一緒だなと思います。
僕は海外から帰ってきて世界へ行きたいと思いましたが、父はフランスとドイツ、オランダに農業の研修旅行で行ったときに、この新しいばらを生み出す「育種」という技術に出会いました。その時に、いずれ世界中のお花屋さんに自分の作ったばらを並べたい、と思ったそうです。その夢の実現でもあるのです」
「普通に買うお花は、もう少し気楽でいい。僕らの一番のライバルは、土手とかに生えている草花だったりするんです。
摘んできて、何気なく飾って、それで季節を楽しんだり、おもてなしの心とするというのが本来の花とのつきあいかたなんじゃないかと思います」
植物の生態や、自然のそもそものあり方に戻って、その生命をありのまま愛でる。それが圧倒的に美しいと感じられる体験を、ICC サミット KYOTO 2020では用意しています。
9月3日の午前中より、CRAFTED TOUR「『WABARA』のRose Farm KEIJI(滋賀県守山)見学ツアー」に申し込まれた皆さま、ぜひご期待ください! 以上現場から浅郷がお伝えしました。
(終)
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編集チーム:小林 雅/浅郷 浩子/戸田 秀成
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