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3.【SaaS市場分析】米国SaaS上場企業の95%は、エンタープライズ(大企業)をターゲットにしている

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「徹底議論!エンタープライズSaaSビジネスの垂直立ち上げ裏話」全5回シリーズ(その3)では、B2B SaaSにおける顧客ターゲットの分類とその攻略の仕方を探ります。モデレーターを務めるセールスフォース・ドットコムの鈴木さんによると、米国の上場SaaS企業の95%はエンタープライズ向けに展開しているのだそうです。事業のスケール化を考えたとき、日本のSaaSスタートアップが取るべき戦略とは? ぜひご覧ください!

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ICCサミットは「ともに学び、ともに産業を創る。」ための場です。毎回250名以上が登壇し、総勢900名以上が参加する。そして参加者同士が朝から晩まで真剣に議論し、学び合うエクストリーム・カンファレンスです。 次回ICCサミット KYOTO 2020は、2020年8月31日〜9月3日 京都市での開催を予定しております。参加登録などは公式ページをご覧ください。

本セッションは、ICCサミット FUKUOKA 2020 プレミアム・スポンサーのオープンエイト様にサポートいただきました。


【登壇者情報】
2020年2月18〜20日開催
ICCサミット FUKUOKA 2020
Session 7A
徹底議論!エンタープライズSaaSビジネスの垂直立ち上げ裏話
Supported by オープンエイト

(スピーカー)
庵原 保文
株式会社ヤプリ
代表取締役

髙松 雄康
株式会社オープンエイト
代表取締役社長 兼 CEO

高柳 慶太郎
株式会社プレイド
取締役

富岡 圭
Sansan株式会社
取締役 / 共同創業者 / Sansan事業部長

(モデレーター)

鈴木 淳一
株式会社セールスフォース・ドットコム
執行役員 セールスデベロップメント本部 本部長

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最初の記事
1. 注目SaaS企業が徹底議論!KARTE、Yappli、VIDEO BRAIN、Sansanの成長の秘訣とは?

1つ前の記事
2.「THE MODEL」は万能なのか。タスクの“完全分業”は、メンバーが一緒に働く機会を阻害する?

本編

顧客ターゲット企業をどのように分類し、どのように攻略するか

株式会社セールスフォース・ドットコム 執行役員 鈴木 淳一さん

鈴木 それでは次に、顧客ターゲットについて伺います。

まずは各社のSaaS事業がどれくらいの規模の企業を顧客ターゲットとしているのか、簡単にお答えいただけますでしょうか。

庵原 Yappliがターゲットとするのは、ミッドマーケットからエンタープライズです。

髙松 VIDEO BRAINはスタートしたばかりなのでミッドマーケットが多いですが、エンタープライズが増えてきています。

高柳 同じです、KARTEもミッドマーケットからエンタープライズですね。

エンタープライズは最近、体制を整えて取り組みはじめたばかりです。

鈴木 その体制とはインサイドセールスのことでしょうか?

高柳 それもそうですし、フィールドセールスも含めてですね。顧客ターゲットに合致したチームを、この数ヶ月で構築してきました。

鈴木 なるほど。富岡さんはいかがでしょうか。

富岡 資料をお持ちしました。現在、Sansanのサービスは6,000件のご契約をいただいています。

Sansan株式会社 取締役 富岡 圭さん

この2、3年でこちらに示すようにエンタープライズが増えてきています。

次のスライドは、顧客の企業規模別のSansanの収入構成の推移です。

このスライドでは、100名未満の企業を「S(Small))」、100名〜999名の企業を「M(Middle)」、それ以上の規模の企業を「E(Enterprise)」としています。

創業以来ずっと顧客はSmall規模の企業が多かったのですが、だんだんエンタープライズが増えてきて、昨年の第2クオーターでエンタープライズからの収入が一番多くなりました。

最初に質問にお答えすると、最近はエンタープライズに注力し収入割合はトップとなりましたが、顧客ターゲットとしては、Small規模からエンタープライズまで企業規模は幅広いと言えます。

髙松 これは、Sansanがアカウント課金のサービスだから、企業の社員規模別にカテゴライズしているということですよね?

富岡 厳密に言うと名刺交換の枚数に対しての課金ですが、そのとおりです。

庵原 2018年に一気に収入額が伸びている瞬間がありますが、何が起こったのでしょうか。

富岡 鋭いですね。この時、ライセンス体系を変えたのです。

それまではアカウントごとの管理でしたが、全社ライセンスを標準にしました。

つまり、それまでは「ある部門で100名だけで使っています」というケースもあったのですが、このタイミングで全社で使ってもらうスタイルに変更したのです。

高柳 社内で、顧客企業の規模を分類する時に議論はありましたか?

富岡 ありましたね。

他社では、もっと大きい企業をエンタープライズと定義している会社もあると思いますが、当社では、社内のリソースやスキル上の課題に向き合いながら、少しずつチューニングしています

例えばこのスライドでは従業員数が100名未満をSmall規模としていますが、実は直近で対象を200名までの会社までに拡大しました。

髙松 営業も、それぞれのターゲット規模に分かれてアプローチしているのですか?

富岡 はい、部門を分けています。

“ロゴマーケティング”を制する者が、エンタープライズSaaSを制する?

左から、Sansan富岡さん、プレイド高柳さん、オープンエイト髙松さん、ヤプリ庵原さん

庵原 ちょうど先日、社内のマーケティングに「Sansanを見習え」と指示を出しました。

先ほどのロゴの配置、これはもうアートですよね。

経済産業省から始まり、三菱商事、トヨタ、金融……とすごい並びです。

僕は、エンタープライズマーケティングは結局のところ「ロゴマーケティング」だと思っています。

富岡 ありがとうございます。マーケティングに活用するために、ロゴ使用の許諾を得る交渉には、やはり力を入れています。

庵原 パナソニックさんやトヨタさんなど、ロゴの使用が基本NGな企業が入っていますが、どうやって許諾を得たのでしょうか?

富岡 そこは気合を入れて…。

高柳 どういう気合ですか?(笑)

(会場笑)

富岡 ロゴ使用を約款に組み込むことで、マーケティングへの活用に柔軟性をもつことができるということもありますが、交渉は見積書の段階から、営業担当者が丁寧に行っています。

庵原 そんなことができるんですね! これは今日のラーニングです。

▶編集注:“ロゴマーケティング”に関する話題は、本セッションのPart5でも議論されます。ぜひご覧ください。

高柳 Sansanが経産省に導入された時のプレスリリースをよく覚えています。「経産省が入れたんだ!」とインパクトがありました。

経済産業省が名刺管理サービス『Sansan』を導入 ~霞が関中央省庁初導入、省内の人脈を可視化・共有~(2015年3月 | Sansan)

当時はまだクラウド周りがあまり浸透していなくて「官公庁が民間企業に個人情報を預けるのはどうなの」みたいな議論があった時期でしたよね。

富岡 ありがとうございます。省庁の中でも一番早かったですね。

高柳 非常に効果的なプレスリリースだと感じたのですが、経産省には戦略的に売り込んだのですか? それとも、たまたま導入できたのでしょうか。

富岡 後者に近いですね。直近のは1年半くらいアプローチした結果ですが、当時はアカウントマネジメントをそこまでしておらず、まさにニーズが合致した結果導入いただけたという感じです。

経済産業省がクラウド名刺管理 「Sansan」の導入を拡大(2019年12月12日 | Sansan)

経済産業省が「Sansan」のオンライン名刺機能を省内職員4,000名で利用開始(2020年7月7日 | Sansan)

髙松 エンタープライズSaaSは基本的に、提案から導入までのリードタイムが長いと思うのですが、Sansanさんの場合はそこが短いイメージがあります。

庵原 そうですね、僕らは3ヵ月から半年は見るようにしています。

富岡 それは先方への導入の仕方でも変わってきて、部門で導入する場合はおっしゃるとおり時間はかかりません。

ただそれだとスケールしないので、全社導入を狙うとなると、やはり半年くらいはかかりますね。

髙松 でも、開発のプロセスは発生しないのですよね。

富岡 そうですね。

米国SaaS上場企業の95%は、エンタープライズをターゲットにしている

鈴木 ここで1つ資料を用意しました。米国のSaaS上場企業のうち、95%はエンタープライズをターゲットにしているというものです。

実に全体の46%がエンタープライズを主要ターゲットとしていて、エンタープライズ+SMB(中小企業)も49%です。

SMBを主要ターゲットとしているのはShopifyさんなどわずか5%に過ぎません。

ユニコーン企業を目指しましょう、ARR 100億円を目指しましょうといった場合、1,000万円の顧客を1,000社獲得するのか、SMBを1,000万社獲得するのかという話になります。

皆さんはこの中で、どのキャラクターの位置にいますか? ちなみにセールスフォース・ドットコムは、象と鹿の間ですね。

エンタープライズ1社あたりのACV(年間契約額)は?

庵原 これは縦軸が1社当たりのACV(Annual Contract Value:年間契約額)ということですね。

高柳 だとすると象と鹿の間くらいかなあ。

髙松 うちも象と鹿の間です。

庵原 同じですね。

髙松 ちなみに皆さん、どれくらいの振れ幅ですか?

庵原 平均だと600万円くらいですね。

高柳 うちはミニマムが400万円前後で、1,000万円を超えたら大きい方に入ります。

庵原 よく「KARTEのACVはやばい」と聞くのですが、実際のところどうなのでしょうか?

(会場笑)

高柳 KARTEは、導入いただくウェブサイト(もしくはアプリ)のUU(ユニークユーザー)数ベースの課金です。

お客さまの事業が成長するとサイトのUUが増えるので、一緒に成長していけるプライシング体系になっているのが大きいと思います。

また、複数サイトを持っている企業もあるので、その場合1社当たりからいただく売上は大きくなります。

庵原 うちもKARTEも、ユーザーID課金ではなく、基本的に企業単位ですよね。

SalesforceやSansanのような課金の場合、1万人を超える従業員規模の企業に導入されればACVが1億円でも理解できます。

しかし、企業課金なのに高いACVを出せるKARTEはすごいなと思っています。

高柳 ありがとうございます。でもトリックは特になくて、1社1社に導入いただけるよう地道にご提案するということと、お客さまがサクセスしたタイミングで、別プロダクトを導入いただくクロスセルの提案を愚直にやっているだけです。

エンタープライズの売上が増えればよいのか?

髙松 エンタープライズを顧客ターゲットとして高い売上を獲得していると、チャーン(解約)でその売上がなくなった時のインパクトが大きいですよね。

でも先ほど鈴木さんが出された表だと、米国の上場SaaS企業のほとんどがエンタープライズをターゲットにしているとのことでした。

皆さんは、このあたりのバランスはどう考えていますか?

庵原 そうですね、1社あたりの売上比率が大きいとやはりリスクを感じますし、そうした「うわー…」という事象も稀に生じますね。

高柳 契約金額が大きい案件の方が社内的にも称賛されがちですが、それは良くないと思っています。

社内でも、金額よりもどういう使い方をしてくださるお客さまなのかや、これまで使われてこなかった業界に導入いただけたのか、といったところに注意してコミュニケーションを取るようにしています。

会社としても、金額やACVではなく“ナイストライ”が評価されるカルチャーを重視した制度設計も行っています。

髙松 ちなみに皆さんの会社では、金額によって営業部隊は分けていますか?

例えば弊社では、ミドル向けはインバウンドで得たリードに対してインサイドセールス、フィールドセールスが対応していますが、それ以上の1,000万円を超える案件に対してはこちらから提案を行うアウトバウンド型のアプローチ方法をとっており、チームも分けています。

皆さんいかがでしょうか。

どう分ける? SaaSプロダクトのセールスチーム

高柳 弊社では“アカウントチーム”と呼ぶフィールドセールスのチームに20人いるのですが、このチームは3ユニットに分かれています。

エンタープライズが1ユニット、残りの2ユニットはミッドマーケットとSMBというふうに分けています。

エンタープライズは導入までの足が長いのと、ライトパーソンにアクセスする部分が戦略的に違うからです。

庵原 うちもフィールドセールスは20人規模ですが、業界別やエンタープライズ、スモールBのようにはまだ分けていません。

唯一、新人が入ってきた時の教育を担うイネーブルメント・チームが、小規模のお客さまを担当しています。

鈴木 イネーブルメント・チームが新人トレーニングをしながら、SMBにアプローチしているということでしょうか?

庵原 そうですね。最近、それをやり始めたという感じです。

富岡 うちは、インサイドセールスもカスタマーサクセスも、営業組織は「S(Small)」「M(Middle)」「E(Enterprise)」で分けています。

▶編集注:本セッションのPart3では、富岡さんが解説した「Sansanの顧客規模別収入構成」でも、同様の分類がなされていました。

庵原 分けることの効果は実感していますか?

富岡 やはりマーケットサイズによって取るべきアプローチが違うので、効果的だと考えています。

髙松 でもエンタープライズとSMBだと、評価のタームが違いますよね?

そこの人材評価の部分は、どのように基準を揃えているのでしょうか。

富岡 そうですね。当社では半年に一度評価をしているのですが、おっしゃる通りリードタイムも違います。

ただ、数字の持ち方は多少調整した上で、基本的には同じタームで評価をしています。

頭を悩ますセールスチームのインセンティブ問題

庵原 弊社では、インセンティブ制度を始めてからフィールドセールスがガラリと変わりました。

ただ、受注率や単価の低い業界があるので、インセンティブの振れ幅が今後の課題になると考えています。

髙松 フィールドセールスもいて、インサイドセールスもいてこその受注ですよね?

フィールドセールスだけにインセンティブをつけているのですか?

庵原 そのとおりです。

髙松 インサイドセールスの方などにも理解してもらえるのですか?

庵原 「そういうものだ」という経営方針で行っています。

髙松 実は我々も短期的に導入してみたのですが、そもそもインサイドセールスがいないと商談が設定されないという考えのもと、今はチーム単位の連動制にしています。

フィールドだけ、インサイドだけというインセンティブはつけづらいなと感じています。

高柳 弊社では、そもそもセールスにインセンティブを導入しようと思ったことがないですね。

ステークホルダーの皆さまから、アドバイスいただいたことはありましたが、フィットするイメージがなかったので現時点では導入するに至っておりません。

(続)

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続きは 4. B2B SaaSの「タクシー広告」や「イベント開催」はどれほど効果があるのか? をご覧ください。

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編集チーム:小林 雅/尾形 佳靖/大塚 幸/戸田 秀成

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