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現地ツアーで完成するセッション、「ローカル・コネクテッド」とは何か?「男鹿コネクテッド」を体験レポート

ICC KYOTO 2024から始まった人気セッション「ローカル・コネクテッド」の出張版、セッション中の議論で紹介された地域を尋ねて、2025年7月、「男鹿コネクテッド」が開催されました。秋田県・男鹿で酒づくりとまちづくりに励む稲とアガベがホストした男鹿コネクテッドのツアーのレポートをお送りします。消滅する可能性が高い自治体といわれる男鹿での挑戦と、今、何が生まれているのか?ぜひご覧ください!

ICCサミットは「ともに学び、ともに産業を創る。」ための場です。そして参加者同士が朝から晩まで真剣に学び合い、交流します。次回ICCサミット KYOTO 2025は、2025年9月1日〜9月4日 京都市での開催を予定しております。参加登録は公式ページをご覧ください。


男鹿に「コネクテッド」な人々が集結!

 ちょうど1年前、ICC KYOTO 2024から始まった「ローカル・コネクテッド」セッション。全国からさまざまな起業家たちが集まるICCサミットで、地域の魅力と、もし起業家が訪れるならどんな学びがあるかをプレゼンし、最後には会場に集まった参加者たちが、どの地域を訪れたいかを投票で決定する。

 投票で決まった優勝地区を「コネクテッド」関係者が訪問して、その土地を学ぶツアーや議論、交流をすることで、地域をより深く知り、課題解決や共創を考え、自分の地域にも持ち帰る。すでに2回が遂行され、参加者たちからは熱い反応を得ている。

 1回目は中村 直史さんがプレゼンした五島列島が優勝し、五島列島と、大阪八尾のツアーが実施された。少人数の招待制でさまざまな地域から経営者が訪れ、ICCサミットさながらの議論と交流を楽しんだ。

▶︎【一挙公開】新企画「コネクテッド」 – ICC地域コミュニティを盛り上げよう!(全8回)

 シーズン2となるICC FUKUOKA 2025は、ICCではおなじみ、稲とアガベ岡住さんの秋田県・男鹿が優勝。それに伴い、過去最大規模の30名で7月3日〜5日、「男鹿コネクテッド」が実施された。

▶︎【一挙公開】「ローカル・コネクテッド」(シーズン2) – ICC地域コミュニティを盛り上げよう!(全10回)

  男鹿は、SAKE AWARD優勝、そしてクラフテッド・カタパルトで優勝した岡住 修兵さんのプレゼンで、消滅する可能性が高い自治体と知っている方も多いだろう。稲とアガベ以外の男鹿というと、何が浮かぶだろうか? 海と山の豊かな自然、なまはげと、近年始まった風力発電などだろうか。

秋田空港のなまはげ

 岡住さん、齋藤 翔太さん、石田 遼さんからなるチーム男鹿は、詳しくは書き起こし記事をご覧いただきたいが、さけづくりとまちづくりに挑む熱量高いプレゼンを展開して、見事優勝を勝ち取った。

 実際にコネクテッドに参加してみると、事前情報は多かったにも関わらず、訪問する価値は計り知れないほど大きいと感じた。暮らしている人がいるのに消滅する可能性が高い自治体とはどんなものなのか、そこで事業を作るとはどんなことなのか、どんな人たちと協力してやっているのか。どんな水を飲み、どんな空気を吸って、どんな景色を眺めながら挑戦を続けているのか。

 それが現地に行くと、体感できる。立ち上げて3年半で作ってきたものに加えて、ものづくりも、地域活性の事業も、さまざまなことが進んでいることもわかった。参加した経営者たちは、大いに刺激を受けたに違いない。2日間に渡ったツアーの内容を紹介していこう。

男鹿コネクテッドの模様をぜひダイジェスト映像でもご覧ください!

DAY1 男鹿に到着

 午前9時前後に秋田空港に到着した一行は、11時の集合時間までまだ早いため、男鹿に向かう途中で寒風山を訪れた。芝生の山というのが珍しく、どこまでもゴルフコースのような山が広がっている。

 緑の豊かな7月、広々とした男鹿駅前に向かうと、カタパルトなどのナビゲーターでもおなじみのICC運営スタッフ、荒木 珠里亜さんが手を振りながらやってきた。SAKE AWARDがきっかけでこの地に移住し働いている荒木さんは、今日は稲とアガベの人として男鹿コネクテッドを運営する。

男鹿駅前。駅舎の奥に稲とアガベの醸造所とオフィスがある

 自家用車で来た人、レンタカーで来た人、前夜から男鹿入りしていた人など総勢33人が11時に勢揃いして、駅前の施設テノハ男鹿の見学がスタートした。

テノハ男鹿に、コネクテッド関係者が続々集まってくる

 テノハ男鹿は、その昔、港湾都市として栄えた時代に秋田海陸株式会社の営業所だった施設で、当時の雰囲気を残しながらリノベーション、地域の人々が自由に使えるワークスペースとして活用されている。地域共生の拠点として生まれた施設だ。

▶︎秋田に新しい風を吹き込む、地域共生の拠点「TENOHA能代・男鹿」(東急不動産ホールディングス)

 見学のあとは、ランチのおがやが12席のため、入れ替わりで順番を待ちながらショッピング。男鹿駅の前にある道の駅、なまはげの里オガーレを見学すると、地元客も多く、シーズンを迎えたサザエをはじめとする新鮮な魚介類、マグロなどが並ぶ新鮮な海産物などを見ている。名物のいぶりがっこも壮観のラインナップだった。

 稲とアガベのオフィス前に戻ると、稲とアガベのお酒も買えるショップ「土と風」で買い物をすませた面々に遭遇。おがやの順番待ちで談笑している。

「土と風」の前でポーズ

 以前は100杯で終売していたというおがやだが、現在はそれ以上提供できるそう。今回は男鹿コネクテッド参加者で、1時間のみ貸切とさせていただいた。冷蔵ケースには稲とアガベの「花風」が冷えていた。

 塩と醤油味の2種類で、どちらもうまい。ラーメンに三つ葉と麩が添えられ、別皿のトッピングは、稲とアガベの麹を使った塩麹漬燻製チャーシュー、青菜と極太のメンマ。秋田のブランド鶏「高原比内地鶏」からとった出汁、名産のしょっつると塩のきいたスープがうまい。サイドメニューの炒飯は醤油味でこれまたうまい。

 やってきた家族連れが貸切と知って去ろうとしたが、席が空いて喜ぶのを見た時に、この店が地元から愛されていることを知った。なんといってもここでしか食べられない、あの一風堂が監修した稲とアガベとのコラボラーメンである。稲とアガベの酒が手繰り寄せた縁で、地元に1軒もなかったのにこんなにうまいラーメン屋ができるとは、酒のパワーおそるべし、である。

稲とアガベ、3年半の実績をたどるウォーキングツアー

 おがやでのランチのあとは、稲とアガベの醸造所前に集合して、男鹿コネクテッドのコアプログラムがスタートした。

天気はあいにくの曇りだが、「男鹿コネクテッド」スタートの挨拶をする稲とアガベの皆さんの顔の晴れやかなこと!

ここから参加者はガイドは稲とアガベの岡住さん・齋藤 翔太さん・荒木さんの3つのグループに分かれて、徒歩15分圏内に次々と作っていったという男鹿の見どころ見学ツアーがスタートした。

見学ツアー①稲とアガベ醸造所

 施設紹介が始まると思っていたら、優勝者岡住さんはやはり違う。酒のタンクを背景に、声を張って、語り始めた。

「情熱と行動で世界を変える! 文句を言っていても世界は変わらない。世界は変えないと滅びると、確信的に思っています。

僕が変えられるなんて全く思ってないんですけど、でも本当に想いをもって、ただただ愚直に行動することによって、今日のような、こんな風景が見れるなんて、3年前の僕は全く思ってなかったんです。

3年前、ICCに初めて出た時、本当にどうしょうもないプレゼンをして、もう呼ばれないと思っていた。それでもまささんにチャンスをもらって、本当にいろんな奇跡的な意味のわからない歯車が噛み合って今この場がある。

その歯車は、もしかしたらみんなの想いと行動次第で、隙間隙間を埋めて噛み合わせていけると思っていて、それを今ここにいる人たちが埋め続けた先に、僕たちの世代が豊かになることはないかもしれないけど、せめていいバトンを、子どもとか孫とかに渡せるかもしれないじゃないですか。

僕はそれを、そういう仕事を、やりたいんです。ここに集まってくれた人がそうだなって思ってくれて、それぞれの地域でそういう思いでやってもらった先に、人類っていうのは少しばかり、ちょっと豊かになるんじゃないか、僕はそう信じています。

今日はそういう夜明けになったような、なんかそんな気がしています。来年、再来年、3年後、5年後、10年後、もっともっと本当に素晴らしい場が、この場所で多分できるような気がしています。

今までは、本当に力を貸してくださいってずっと言ってきました。だけど、もしかしたら僕はなんか皆さんのとこにも力を貸せるかもしれないなと4年頑張ってきて思ってきてるんで、何か力が足りないなって思う時はいつでも連絡ください。

僕ができることは全部やりますんで、ちょっとでもよくして死にましょう!」

まさかこんなのっけから、こんな熱い演説を聞くことになるとは思わなかった。聞いていた参加者たちから、口々に「よくして死のう!」と声が上がった。

「乾杯!」

共鳴する、熱い仲間たち。誰からともなく声が上がり、私たちはエア乾杯で大拍手して、ツアーがスタートした。私たちが岡住さんを大好きなのは、こんなふうに、いつでもど真面目で熱いところである。

私が参加したグループは酒の造り手が集まっていたため、各工程で、酒造りについての質問が多かったが、使っている麹のことから需要が増えているため生産量を増やすことまで、岡住さんは何一つ隠すことなく伝えていた。

見学ツアー②宿 ひるね

醸造所から徒歩5分といったところに、稲とアガベが作った宿泊施設「宿 ひるね」がある。3棟同じ形の家が並んでいて、この宿は荒木さんが主導して運営している。

グレーの壁の目立つ宿 ひるね

今回こちらに宿泊させてもらったが、全室和室で、地方の親戚の家に来たような雰囲気。1階はリビングとソファーベッド、キッチン、シャワーに洗濯機などがあり、2階はシングルベッドが2台入る部屋、キングサイズが1台入る部屋の2室があり、くつろいで眠れる快適な宿だった。朝食はオプションで、近くの飲食店から配達いただいた。

ちなみにこの宿に置かれていたサーキュレーターは、コロナの時期にICCサミットの会場で使用していたもの。しばらくICCパートナーズのオフィスに収納されていたが膨大な数だったため、運営スタッフの希望者にプレゼントした。荒木さんも手を挙げて、この宿で活用してくれている。

見学ツアー③SANABURI FACTORY

次に一行が足を止めたのは、SANABURI FACTORY。男鹿駅前の大通りを出ると1つ目の交差点の角という好立地にある食品加工場に併設する雑貨屋だ。

私たちのグループは店内に入らなかったが、入ったグループの写真がこちら。

店内にはお酒、「発酵マヨ」など稲とアガベの商品をはじめ、ICCでもおなじみのヤマチクのおはしや、日本全国から選ばれた食品や雑貨が並ぶ。コーヒーやスイーツもあり、滞在中は何度もお店に戻っていく人も。定期的にマルシェも開催しているそうで、詳しくはお店のInstagramへ。

見学ツアー④スナック シーガール

SANABURI FACTORYから歩いてすぐ、シーガールは、稲とアガベが復活させた男鹿のスナック。リノベーションに補助金などを活用して、外観はレトロだが一歩中に入るとおしゃれな空間が広がる。現在は金曜・土曜など週末を中心に19時半からオープンしている。

見学ツアー⑤森長旅館

シーガールのほど近くに建つ森長(もりちょう)旅館は、築95年以上の本館・離れ・土蔵からなる有形文化財の宿として2025年に再オープンした。見るからに重厚な雰囲気だが、内部はリノベーションされており、土蔵(下写真左)はサウナとなっている。男鹿のランドマークのような存在だ。

稲とアガベらの活動により、男鹿にいくつか飲食店や旅館がオープンしているが、森長旅館もそのひとつ。この旅館に宿泊した参加者たちもいて、特別な雰囲気の蔵サウナを堪能したそうだ。

そぞろ歩くにはちょうどいい天気で、平日の昼間のためか、人はほとんど歩いていない。少し歩くと見どころがあり、さまざまなものが目に入る。

この町に、来年3月開業予定で160部屋のホテルが建設中で、高い稼働率が予想されているという。それに伴い、牛丼チェーン店やマクドナルドもできるというから、岡住さんが言う通り、1年後のこの町の景色はかなり変わりそうだ。

見学ツアー⑥早苗饗(さなぶり)醸造所

稲とアガベ最新の製造拠点が、この鉄工所の中をリノベーションしたジンの醸造所。小型機でも入りそうなスペースでジンを造っている。入口にはテイクアウトで買えるドリンクバーがあり、造っているジンや、早和果樹園のみかんジュースなどを飲むことができる。東京では考えられない広々としたカッコいい空間だ。

さけづくりメンバーが揃っているため、質問が止まらない。最後には造り手の鶴田一樹さんを呼び出して質問、冷蔵庫に材料としてスタンバイされている柑橘類の皮を見たり、蒸留器のエリアに入って至近距離で見たりと、パネルディスカッションの時間まで質問は続いた。

「かぜまちみなと」でディスカッション

「かぜまちみなと」のエントランス

15時になると、各グループは稲とアガベが作ったホテル「かぜまちみなと」に戻り、男鹿コネクテッドのディスカッションがスタート。エントランスを入ってすぐのレストランスペースに椅子を並べて参加者がずらりと座った。地元・男鹿の経営者たちも参加している。これは地元の人たちとも”コネクテッド”しながら刺激を受けあい、学びあうことを意図している。

地元から参加してくださった方々も一言ずつ挨拶

司会をするのはもちろん荒木さん。カタパルトのあの聞き慣れた声で、ICCサミットのカタパルトのカウントダウンムービーが流れ、男鹿コネクテッドのディスカッション開始を告げた。

司会をする荒木さん

最初にICC小林がマイクを握り、これまでのコネクテッドツアーの来歴を説明。実は第1回目の大阪コネクテッドは鮨屋の予約から始まり小規模で開催してみたところ好評だったこと、2回目の五島列島のツアーでは地元の人々とコネクテッドすることで新たな可能性が見えたこと、今回は過去最大の40名規模での開催となることが語られた。

ICCサミットさながらに共創の拍手でスタートした、岡住さん齋藤 翔太さんによる「稲とアガベの挑戦」と題されたプレゼンは、クラフテッド・カタパルトの内容より、より一歩踏み込んだ内容だった。

「今日は涙が出るくらい、嬉しい瞬間」と語る岡住さん

素晴らしい自然と、20年前くらいまでは石油産業で栄えて、この日歩いたエリアに70軒ほど飲食店がひしめきあっていたという男鹿市は、いまや過疎が進む地方都市のひとつとなり、NTTすら撤退し、消滅可能性都市として名が挙がるようにになった。

そこへ新政で修行していた岡住さんが移り住み、稲とアガベを始めてから3年半。仲間も集まってきて8拠点を立ち上げ、他のお酒との差別化として「クラフトサケ」というジャンルと協会を作った。そこでは次々と面白い酒が生まれており、盛り上がる兆しを見せているという。

男鹿が消滅すると、せっかく作った拠点もなくなってしまう。町を未来に残すために、お酒をメディアとして中核に据え、世界に羽ばたくようなサケ造りと、まちづくりに挑む。ディスカッションの会場となった「かぜまちみなと」もこの6月に開業したばかりだ。

岡住さんたちが徒歩15分圏内に店や宿を増やしていったことで、地元の旅館や飲食店が少しずつ増える流れが生まれている。しかし作ったコンテンツは古くなっていくので、それを産み続ける文化を作るための「男鹿サケシティ構想」を岡住さんは解説した。

これには日本酒特区を作るという規制緩和への挑戦も含まれる。長い時間をかけてきたが、最近ようやく進展の兆しが見えたとそうで、もしもそれが実現したら、酒造りはしたいが免許が出ないために諦めざるを得ない、若い酒の造り手たちが男鹿に集まってくることになる。

NEW LOCALの石田さんも含む彼ら・彼女らの行動力は爆発的で、サマースクールなどの開催や、今後、神田の有名ピザ屋を含む商業施設を作る計画、「楽しい場面を共有するために」築90年の古民家を結婚式場にリノベーションする計画、10倍規模の醸造所を作る投資計画、他の造り手をサポートする計画などを語った。

見てきたばかりの静かな町に、これからさまざまなことが起こる。参加者たちは質問する気満々である。

ヤマチク山崎さん「岡住さんは突っ走って、町の人が触発されるように、火を点けているように見える。そのときに気をつけていることは?」

岡住さん「一人でできることは限られている。異分子なので、さまざまな感情を持たれることはわかる。出る杭は打たれる覚悟で、突っ走るしかない。それでついてくる人がついてくる。そして、わざわざ外から来てくれるような人には、1%ぐらい力を貸してほしいと伝える。

それが僕の決め文句で、そういうとだいたい10%くらいの力を貸してくれて、最終的に30%くらいになる。それが(NEW LOCALの)石田 遼であり、(マッチャイナでメニュー監修を務めるシェフの)井上さんである。この町にこの人がいると絶対いい、と思ったら口説くようにしています」

翔太さん「僕は日本政策金融公庫という金融機関の一次産業への融資に特化した農林水産事業にいました。そのなかで2014年から2018年まで秋田支店に赴任して、(岡住さんと)飲み友達になって。起業することは知っていて、応援していたのですが、単純に面白そうだなと思って入りました。

最初は事務周りやお金周りをやっていたんだけど、話ができるのを見込まれて、フード & ドリンクアワードに出ることになり3位に入賞して、こうやってICCの仲間に入れてもらいました。想像もしていなかった世界に来ているけれど、地元の方に応援してもらっているからこそだと思いますね」

そして、翔太さんは会場である「かぜまちみなと」含め、どんな根拠のもと、どの不動産を買ってどんな資金を借り、それがそれぞれいくらかということを一通り説明した。内装・設備などにいくらかかり、どこのお金が入っていて、何年の借り入れをしているかまで詳細に話した。

細川農興 細川拓也さん「地方の既得権益を持っている人とは、どう付き合いますか?」

岡住さんは、幸いそういった目にはあっていないと答えつつも、「出る杭は打たれる発想、出すぎるしかない」と岡住さん。一方石田さんは「いろんな地域を見ていますが、あまりなかった理由は男鹿に強い産業がなかったこと、観光もあまりやってこなかったことが大きい。逆に古い温泉街などある地域は、そういったものがあるかもしれません」と答えた。

Makuake坊垣さん「なぜ一生をかける覚悟で男鹿を選んだのでしょうか?」

岡住さん「最大の理由は人との縁です。あとはお金を落とす場所が男鹿になかったことと、酒蔵が1つもなかったこと。今、特区を目指していますが、酒蔵が1つでもあるとややこしい面がある。

男鹿にいる唯一の知り合いで肉屋のフクシマ福島さんという人がいるのですが、ぜひ会ってほしいと”スーパー公務員”の池田さんという人を紹介されました。

それで池田さんに話をしたら、ぜひ男鹿に来てほしいという話になって、男鹿中の空いている物件の情報、水源地の情報、田んぼを貸してくれる情報をまとめた分厚い資料を作ってくれたのです。

そして男鹿に来たら、一緒に回ってくれて、いろんな人を紹介してくれて、最後には市長さんまで紹介してくれました。だから市長さんとのパートナーシップのきっかけも池田さんなんです。

そんな池田さんの一生懸命な背中を見たときに、どこでもいいから男鹿にしようと決めたのが最大の理由です。必然めいたものを常に感じています。いろんな場面で男鹿の重要人物と出会った。最初よりも今のほうが、男鹿である大きな理由を感じています」

Far Yeast Brewing山田さん「人口600人の村でクラフトビールを造っています。移り住んで働くことになりますが、経営者・従業員とその家族で同じ気持ちになるように、どういったところに気を使っていますか?」

岡住さん「僕ができることは、この町に暮らす楽しさをいかに作っていけるかということ。ラーメン屋、雑貨店を作っていますが、映画館やライブハウスも欲しいなとか。みんなの住み良い街を作るというのが視点の1つにあります」

ひとつの酒蔵が、である。それでも見学ツアーの冒頭に岡住さんが言った、「ちょっとでもよくして死ぬ」ほどの覚悟、他に誰がいるだろうか?

このプレゼンとQ&Aだけで十分聴き応えがあったが、このあとさらに、中村 直史さん、CHEERSの白井智子さんも加わったパネル・ディスカッション「魅力あふれる地域を創るには」が行われた。

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ここでは地域づくりに関わる方に非常に参考になる学びがたくさん語られたので、ぜひこちらもご覧いただきたい。

パネル・ディスカッションの様子

パネルを聞いて、さまざまな課題と解決のアイデアが語られると、参加者たちもさらに語り、議論したくなってくる。パネル・ディスカッションが終わると、再びウォーキングツアーのグループに戻って、ラウンドテーブルが行われた。振り返ってみると、ひたすら語りまくっていた1日であった。

ラウンドテーブル

能登の震災で蔵が全壊してしまった「鶴野酒造店」の再建プランを真剣に語り合う「さけづくり」グループ。

「ものづくり」グループは議論を翔太さんがリード。アワードメンバーが多く参加。

人数が多かったまちづくりグループは2つに分かれて議論。こちらはまちづくりグループ①。

まちづくりグループ②は、まちを越えて人間とは?を問う議論に。

集中して深い議論をしたあとの各グループの発表は、それぞれパネル・ディスカッションのテーマになりそうなほど。これも男鹿を見て、歩いて、当事者たちから話を聞いて、刺激を大いに受けたからである。まだまだ話し足りない…という雰囲気でラウンドテーブルは幕を閉じた。

真剣ながら和気あいあいとした雰囲気

交流会

続きの話は、男鹿の夜の交流会で。続いては、開店オープン直前のこのホテルのレストラン「マッチャイナ」で絶品の中華料理と、各自持ち寄ったお酒での交流会となった。

TETOTETOの井上豪希さんがメニュー監修、”ネオ町中華”を目指す「マッチャイナ」の料理は、お酒も話も進むものばかり。ホテル「かぜまちみなと」の厨房を担うというより、これを目掛けて男鹿に行きたくなるような、稲とアガベの酒粕や男鹿の食材を活かした料理がテーブルに並び、あっという間に消えていった。

▶︎食のクリエイティブディレクター 井上豪希の実績紹介(note)

これ以外にも、人気すぎて一瞬で無くなり写真が撮れなかった香港風やきそばや、右上の写真、井上さん自らが盛り付けている魯肉飯風ビリヤニは、食事の締めとしてはおいしすぎる一品だった。

それをさらに美味しく彩ったのが、持ち寄られたお酒の数々。もちろん造り手たちのプレゼン付き。

彼らをICCサミットに呼び込んだ小林 雅もプレゼンに乱入、得意技の”本家よりも上手いプレゼン”&補足情報をトーク。会場は乾杯と中華でさらに盛り上がった。

やがて家族も合流して、こんなに嬉しそうな姿は見たことがないというほど、岡住さんは終始満面の笑顔だった。最後の料理が消えたころ、続く二次会はもちろん、昼間訪れたシーガールである。

二次会

夜のシーガールは超ムーディーで一見入りがたいが、扉を開くと、居心地のいい雰囲気があり、飲んで語るには絶好の場所である。ICC一行も長居してしまったほどで、男鹿の夜を過ごすならここ一択、お酒のラインナップはもちろん、軽食などのメニューもある。

このシーガールから、森長旅館、かぜまちみなと、宿 ひるね、そしてこれから開業予定のホテルも、どこへも楽しい気分のまま歩いて帰れる近さ。小さい町の良さはこういうところにあるな、と実感しながら宿に戻る夜だった。

DAY2 男鹿ツアー

翌日は、男鹿ツアーに参加した。その前に、ホテル「かぜまちみなと」に宿泊した人が、いかに宿のサウナが素敵だったかがよく現れている写真を紹介したい。サウナのあと、水風呂からこんな景色が見られるのだそうだ。

下の写真は、左から森長旅館、かぜまちみなと、宿 ひるねの朝食。ひるねはキッチンがある素泊まりの宿だが、近所の飲食店で手配いただき、味噌汁とおにぎりのお弁当が届けられた。

しっかり朝ごはんを食べたあとは、アルファードに分乗して岡住さんと翔太さんのガイドで男鹿ツアーに出発した。

男鹿ツアーに出発!

ゴジラ岩

まずは男鹿半島の突端を目指してドライブ。左は海、右は国定公園の男鹿潮風街道沿いで停車。ここに子どもが海に親しむ施設を作る計画が進んでおり、岡住さんたちはそれにもからんでいる。

そこから少し走ると潮瀬崎に着き、観光スポットのゴジラ岩を見学。岩礁を歩いて回って灯台まで登り、日本海を眺めた。

男鹿半島の突端、入道崎

それからまたしばらく車を走らせると、男鹿半島の突端、入道崎まで来た。秋田というとなまはげを思い起こす人も多いと思うが、男鹿が由来で、男鹿の伝統行事。1年に1回やってくる大晦日のキャラクターと思っていたが、男鹿市のいろいろなところに巨大な像があり、わりに日常的な存在のようだ。

この入道崎のお土産物や売店が並ぶエリアにも、岡住さんたちが継承を相談されている施設がある。前日は徒歩圏内に作られた施設を見学したが、この日は、酒蔵でありながら、男鹿市内に広がっている稲とアガベの影響力と、この地で未来を託される存在であることを実感した。

入道崎は男鹿半島の突端で、ここにある岩が男鹿半島最古といわれており、男鹿の名物料理である「石焼料理」に使われているという。そこここに江戸後期に秋田を旅した旅行家、菅江真澄の碑が建っている。

曇天なのが残念だが、広がる緑地と海に雄大な自然を感じられる。切り立った崖もあり、かつて男鹿半島に増えすぎた鹿を追い落としたという「鹿落とし(ししおとし)」もある。

ランチは地元の人気居酒屋「秀」で地元の魚を味わい、デザートはカフェ「土と風」で、こちらも井上さんのTETOTETO監修、稲とアガベの酒粕を利用した発酵ソフトクリームをいただいた。地元の人も車で買いにくる人気で、酒粕のほんのりした甘さがやさしい味わいだ。

稲とアガベの仕込み水、滝の頭水源地

お腹を満たしたら、再び車に乗って、午後のハイライト、稲とアガベのお酒の仕込み水にも使われている男鹿の水源地へ。「滝の頭水源地」は、男鹿半島の根本のあたりに位置する内陸の寒風山麓にある湧水地で、古くから地域の人たちの飲料水や農業に活用されてきた。

雨や雪などが、岩山の上から濾過され続けてきれいな水ができる

この仕切りのある装置は、農業用水が公平に配分されるよう昔の人が考えた仕組みなのだそうだ。

森であり湧水地のため、足元はふかふかと柔らかい。青く澄んだ水の中には魚が泳いでいるのが見えて、濃い緑の森と青い水が幻想的だ。自然への畏怖を感じずにはいられないこの湖水が、巨大な湧水群の「滝の頭」である。

初日に見た寒風山の山麓、湖のまわりを歩いていくと、岩山の上に不動尊「今木神社」がある。この神社の鳥居は近づかないと気がつかないが、水道管でできている。

▶︎滝の頭(たきのかしら)(あきた元気ムラ)

飲料水として水を汲める場所もあって、試飲してみた。何かの特徴や味があるのではないかと注意深く探しながら飲んだが見つけられないまま、穏やかに引き込まれるように飲んでしまう。これが稲とアガベが醸すサケの土台、男鹿の土地を宿す水である。

岡住さんは「この水を落とすようなものは造ってはいけないと、いつも思っている」と言った。

wine store firefly

最後に訪れたのが森の中にあるワインストア「firefly」。前日の男鹿コネクテッドの交流会にも参加していた、青木優輝さん・幹子さんのソムリエご夫婦が東京から移住して営む、森の中のワインストアである。男鹿の中心地からは少し離れるが、岡住さんたちとは酒のつながりで出会ったそうで、小さい町であることを改めて感じる。

ずっと放置されていた土地を借り、山林を開拓して、「まったくの素人」だという優輝さんがYouTube動画などを見ながら一人で建てたというから驚く。

天井が高く明るい店内。幹子さんは左端

店の中には、ソムリエの二人が厳選したワインが並ぶ。ここまで来た甲斐がある1本を発見した人もいるようだ。

乾燥中の木材を背景に話す優輝さん

高い木を切る時想定した場所に倒すのが難しいこと、傾斜地から切った木を降ろすこと、残すべきものは残し、切るべき木を切って手入れすることでより寿命の長い山になること…優輝さんは尽きることなく山の仕事の魅力を語った。土地を貸した側からも喜ばれているという。

*    *    *    *    *

前日に語っていた「男鹿サケシティ構想」、商業施設や結婚式場などの計画に、この日に見学した各所からの依頼で動いている案件もあり、稲とアガベは、この地に活気を取り戻すための力強いプロジェクトをたくさん抱えている。3年半で、めちゃくちゃ面白そうな仕事をたくさん作っている。若い人で思い切り挑戦したい人には間違いなく面白い場所である。

誰に頼まれるでもなくしょいこんだ、町が消滅するか否かが自分たちにかかっているという重圧と、それに抗う挑戦は続く。同じような想いで挑戦している人たちは、かつて岡住さんが新政で酒造りを学んで醸造所を立ち上げたように、この男鹿に来て学べば、他の自治体で同じような試みが再現可能なのではないかと思う。

岡住さんはICC初参加のICC KYOTO 2022、クラフテッド・カタパルトに登壇したが、極度の緊張のあまり何度も言い淀み、入賞できなかった。その時にすでにラーメン屋の構想も、いろいろなものを作っていく意欲も語っていたが、それは果たしてできるのか?と思えるほど弱々しかった。

後日、カタパルトでは、自分だけでなく従業員や家族のためにも中途半端なプレゼンはするな、事業をしっかり伝える義務があるといつも檄を飛ばしているICC小林に、なぜ岡住さんに2度目のチャンスがあったのかと聞いた。すると拍子抜けするような「いいことをやっているから」という返答であった。

人生をかけて本気でやっているかどうか、わかる人には必ず伝わるものだ。チャンスを得た岡住さんは、見違えるような結果を量産し始めた。プレゼンは格段に力強くなってSAKE AWARD初代優勝、クラフテッド・カタパルト優勝、サケを起点に3年半の間に仲間も増えて、地域の未来を少しでも創ろうと全力で挑んでいる。

”消滅可能性都市”で、こんなに新しいものが生まれ、若い人たちが躍動している場所は他にないのではないか。本当にいいことを実現しようとして本気の行動をすると、それが本気の人々を集め、応援される。もちろん大変なことのほうが多いはずだが、そんなまっとうなことが実現する場所が、今、男鹿なのである。

この2日間の「男鹿コネクテッド」では、それをさまざまな角度、五感から体験することができ、見知っていた情報が立体的になって実感することができた。これはディスカッションやプレゼンでの情報を倍増させるほどの体験価値がある。おそらく男鹿以外の「ローカル・コネクテッド」でプレゼンしたどの地域を訪れてもそうだろう。

ICCサミットのパネル・ディスカッションの進化した新しい形、「ローカル・コネクテッド」の次の訪問予定は石川県。「能登コネクテッド」は、震災復興のチャリティの側面も備えてICC KYOTO 2025後の9月に開催の予定である。ぜひご注目いただきたい。

⭐️一部お写真は、HENGE天野 治夫さんにもご協力いただきました。天野さん、ありがとうございました!

(終)

編集チーム:小林 雅/浅郷 浩子/戸田 秀成

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