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4. 世界の社員が自ら「楽天主義」を語るようになるまでの道のり【終】

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ICC KYOTO 2023のセッション「企業価値向上につながる!明日から実践できる人的資本経営」、全4回の最終回は、楽天グループの小林 正忠さんが登場。国内外約32,000人という規模で、ミッションやビジョンと従業員一人ひとりの想いを、いかに一致させ、価値観を共有するのか、その取り組みを紹介します。最後は、客席にいたUniposの田中 弦さんも飛び入りし、人的資本経営を語ります。ぜひご覧ください!

ICCサミットは「ともに学び、ともに産業を創る。」ための場です。そして参加者同士が朝から晩まで真剣に学び合い、交流します。次回ICCサミット FUKUOKA 2024は、2024年2月19日〜 2月22日 福岡市での開催を予定しております。参加登録は公式ページをご覧ください。

本セッションのオフィシャルサポーターは クラウドワークスです。


【登壇者情報】
2023年9月4〜7日開催
ICC KYOTO 2023
Session 7D
企業価値向上につながる!明日から実践できる人的資本経営
Supported by クラウドワークス

「企業価値向上につながる!明日から実践できる人的資本経営」の配信済み記事一覧


酒井 楽天の場合、32,000人と規模が全然違いますし、楽天主義ワークショップみたいなものもありましたよね。

ミッションやビジョンと従業員一人ひとりの想いを、どう接続していますか?

楽天主義を世界中に広める正忠さん

正忠 我々は、「イノベーションを通じて、人々と社会をエンパワーメントする」ことをミッションにしています。

イノベーションを起こしていくにあたり、同質の人間だけではイノベーションは絶対に生まれないとすると、多様性が必要です。

英語の公用化をすることで、世界中から多様な方々に集まっていただいています。

しかし多様というのは単にバラバラにすぎないので、根底に共通した価値観がなければいけません。これを「楽天主義」と呼んでいます。

皆さんの個性は素晴らしいし、例えば、買収した会社が持っていた企業文化もリスペクトしています。

文化が素敵だからこそ良い組織で良いサービスを提供していて、だからこそ楽天はご一緒したいと思ったわけです。

しかし楽天グループに入ってきて、これからワンチームで仕事をしていくのであれば、共通で持っていてほしいと思う価値観を楽天主義として、世界中に伝えています。

私は再来週もインドに行って、新たにマネージャーになった53名にそれを伝えてきます。

ただ、インドに行っている間、他の地域でも新しい人が入ってきています。

ですから、宣教師みたいな主義ファシリテーターという、私に代わってワークショップができる人を養成しており、今、世界中に85人います。

接続することの重要性を理解しているからこそ、どう担保しているか、どんな結果が出ているかについては、今後開示していくことになると思います。

酒井 なるほど。

正忠 こういう取り組みをしていますが、この場であえて課題についてお話しすると、イノベーションを起こすには、イノベーティブであり、チャレンジをするキャラクターが必要です。

社内には、R-Pitch(※) と呼ばれる、ビジネスアイデアコンテストのようなものがありますが、これへのエントリー数がイマイチ少ないのです。

▶編集注:「R-Pitch」は、楽天がアントレプレナーシップをグループ全体で活性化させるために2017年12月から始めた、新規事業インキュベーション・プログラム。社員がチームで作り上げたアイデアを経営陣にピッチして認められると事業化を本格的に進めることができる。

私はこれに危機感を覚えています。

掲げた目標があまりにも大きくて、それを因数分解して今日やらなければいけないことが明確に分かっているので、指示待ち人間が増えてしまっていないかと思っています。

R-Pitchのエントリー数によって、よりチャレンジをする人材を育てられていることを今後開示していければいいなと思っており、2023年からR-Pitchのテコ入れを行っています。

先週も、インベストメントのカンパニープレジデントと私で、500人の前でパネルを行いました。

このように、どういう企業でありたいかと現状のギャップを埋めるためのアクションプランを描いていますね。

酒井 ありがとうございます。

クラウドワークスも、先日、パーパス推進委員というものを作りました。

生産性向上に3年ほど取り組んできましたが、500人ほど社員が増え、クラウドワークスが掲げる「個のためのインフラになる」というミッションとそれのつながりが弱くなってきたからです。

楽天のワークショップでは、正忠さんから社員に、どういうことをお話しされているのでしょうか?

インドのエンジニアが楽天主義を語るようになった取り組み

正忠 今、インドには5,000人のエンジニアがいます。

彼らに、共通の価値観を理解してもらうのはなかなか難しいのですが…我々はカルチャーの押し付けで、PMI(買収後のマネジメント)で失敗しました。

「これが楽天ウェイだから」、と言ってしまったのです。

例えば、月曜の朝には朝会を開く、名札をつける、掃除をする、などですね。

でも、それではやはり、うまくいきませんでした。

そこで、先ほど申し上げたように、相手の企業文化をリスペクトし、同時に個人個人の価値観をリスペクトするようにしました。

ワークショップでは最初、個人の価値観をポストイットに書き出してもらいます。

そして楽天のフィロソフィーやバリューが書いてあるポスターに、そのポストイットを貼ってもらいます。

酒井 近い価値観のところに貼るということですね。

正忠 はい。

楽天が掲げているバリューのうち、私が書いたバリューだとこれが近いかなという感じですね。

それを4人1組で行うので、1人が他の3人に対して、「私が大事にしている価値観はこれです、なぜなら…」「なぜ楽天のこのバリューの近くに貼ったかと言うと、楽天主義のおけるチームワークという概念はこういうことなので、近いと思ったからです」と説明します。

1人あたり、7、8つの自分の価値観について説明するので、その都度、「楽天主義で言えば…」と自分の言葉で楽天主義を語るのです。

最初の30分間で4人がそれぞれこれを行い、それぞれが自分の言葉で楽天主義を語ってくれるので、私から説明は一切していません。

押し付けるのではなく、自ら接続しに来てもらうということですね。

これを行うことで、楽天主義は、本社が押し付けてくる、日本人が日本企業で日本人のために作った日本文化ではなく、ユニバーサルなものだと理解してもらうようにしています。

酒井 なるほど、ありがとうございます。

残り20分となりましたので、発信について話していきましょう。

中神さん、今までのメルカリと楽天の話を聞いて、市場や投資家にとって、より聞きたいと思える話はありましたか?

求心力は創業者に持たせるのものではない

中神 いや、僕はもう、今日のような話が聞きたかったです(笑)。

(一同笑)

繰り返しですが、僕からすればどうでもいい開示情報が多いのです(笑)。

僕は、上場の大企業に投資することが多いです。

ウォーレン・バフェットが僕らの世界では神様なので、彼の言葉が刺さるのですが、彼は”never invest in ABC”と言っています。

Aはarrogant、Bはbureaucratic、Cはcomplacent、つまり、傲慢で官僚的で現状満足で、これは日本語だとまさに大企業病ですよね。

大企業病にかかっている会社には投資するな、ということです。

ただ、お二人の話を聞いて、人間集団の設計が一番難しいのは、実は急成長ベンチャーなのではないかと思いました。

なぜなら、急成長しているということはつまり大企業に近づいているということですから、下手すればどんどん大企業病に近づくからです。

そうならないようにすることを、第一に考えないといけないですよね。

しかし急成長のドライバーはたいてい起業家精神だと思いますが、起業家精神はたくさんの人には宿りづらいものなので、どうしても個人の力になります。

その方向に行くと、多分、独裁的な人間集団になります。

大企業的な人間集団にならないようにしつつ、独裁的な人間集団にもならないようにし、心理的安全性が確保されたまま、何でもとことん言い合えてDisagree & Commitができるようにするのは、すごく難しいです。

大企業病にならないようにするのは比較的楽かなと思いますが、独裁的にならないようにするのはすごく難しい事ではないかと思いました。

実は、その解がビジョンやミッションなのかなと思います。

求心力を創業者には持たせるのではなく、求心力はあくまで会社が追求するビジョンやミッション、バリューであり、創業者ですらその下僕であるとしないといけないですね。

ある意味、法の下の平等というか(笑)、神の下の平等状態にしないと、大企業病にかかったり、独裁的な人間集団になってしまったりすると思います。

正忠 本当にそうだと思います。

我々はDEIB(Diversity, Equity, Inclusion, and Belonging)、Belongingという言葉を入れています。

日本語で言うと、帰属意識ですね。

みんなこれを愛社精神と捉えるのですが、僕は社員に、会社に対するコミットはあまり求めていません。

会社にというよりも、ミッションにコミットしてほしいのです。

ですから極論を言えば、私たちの組織から去っても、楽天のミッションにコミットしている仲間たちはたくさんいて、彼らとは未だに仲良くしています。

究極は、それでいいのではないかと思っていますね。

メルカリ「Impact Report」に込めた想い

酒井 なるほど、ありがとうございます。

少し宣伝みたいになりますが、クラウドワークスでは、人的資本経営の開示ツールをご用意しています。

A screen shot of a computer
Description automatically generated

人的資本経営ツール 『Human Capital FORCE』提供開始(PR TIMES) 

ここまで話し合った通り、本質的なところに時間を割くべきですが、人的資本経営の開示のための指標を集めるのに四苦八苦している、時間がない中、何となく出しました、というような会社があるのではないかと思っています。

これは、タレントマネジメントシステムと接続しながら、開示のための指標を整えられるツールです。

ぜひ、見ていただければと思います。

残り10分ほどですので、クロージングに進みたいと思います。

木下さんから、レポート(Impact Report)や今日の感想を含め、今後はこう発信していきたいという考えがあればぜひ、お願いします。

木下 ありがとうございます。

これは昨日のニュースですが、ありがたいことに、メルカリは日経平均銘柄に選ばれました。

日経平均株価を構成する225銘柄にメルカリが採用(メルカリ)

酒井 おめでとうございます。

木下 ますます社会的責任が重くなったので、気を引き締めたいと感じています。

今回私たちがレポートをまとめる中ですごく大事にしたのは、メルカリは社会にポジティブなインパクトを与えたい会社なので、投資家だけではなく、お客様や社員、パートナーにも、自分たちが実現したい社会とそのための道筋に共感してもらう状況を作りたいということでした。

レポートをぜひ、見ていただければと思います。

よろしくお願いします。

酒井 レポートは、何人くらいで、どのくらいの時間をかけて作ったのでしょうか?

木下 コアチームは数名ですが、当然それ以外の色々な部門に協力してもらっているので、結構総力戦でしたね(笑)。

いつも伝えていますが、レポートを発表することが目的ではなく、我々のやりたいことがメッセージとしてしっかりとステークホルダーに伝わり、ミッションの実現を応援していただけるようにするのが目的です。

あくまで、成長のためにいかにサポーターを増やすかが、本当に大事なポイントだと思います。

酒井 ありがとうございます。

社会課題への独自の解決策は、人的資本経営になりえる

正忠 楽天は、色々なことに取り組んでいますが、取り組んでいるということをどこにも書いていません。

もしくは、発信している内容は、散発的で戦略的ではありません。

ストーリーがないのです。

社内にはストーリーがあるのですが、それがきちんと開示できていないので、ストーリーを描き、ステークホルダーの皆さんに分かってもらうようにしなければいけないなと感じます。

冷静に考えると、実は社内でも、あまりストーリーが伝わってない可能性があるとも思っています。

別に投資家のためだけに開示するわけではないので、内容をまとめることはすなわち、社内の仲間たちのためにもなります。

一緒に働いてくれている仲間のためにも、改めて人的資本経営という観点から発信をしていくのが大事なのだなと思いましたね。

今回メルカリで新たにまとめたものは、きっと投資家の皆さんにとっては分かりやすいメッセージでしょうし、働いている仲間にとっては、経営陣のコミットが見えるようになるのは心強く、すごく良いなと改めて思いました。

それぞれの企業が属する産業において、社会課題がありますよね。

例えば、日本の労働人口が減っていて、これからも減っていくとした時、どう手を打つか。

AIで効率化すればマンパワーが必要なくなるから問題ないという解かもしれませんし、当社ではグローバル化を図るために実施した社内公用語の英語化により、日本だけからエンジニアを採用する必要が全くなくなりました。

社会課題に対して独自の解決策を出すのが、人的資本経営の一つのアプローチだと思うのです。

これまでは単に多様性という文脈の中で、社内公用語の英語化をし、外国籍の仲間たちと一緒に働いてきました。

そういう数だけの話になってしまっていて、それがどう経営に影響を与え、どういう社会課題への解決策になっているのかといったストーリーを描けていませんでした。

会場にいらっしゃる皆さんの中で、もし今後やるべきことがあるとすれば、既に行っていることの意味づけ、つまりストーリーを描いていくことかもしれません。

経営をしているということは、当然、人的資本について考えていると思います。

「社員は数字を作るための駒だ」なんて誰も思っていないですよね、思っている方はいるかもしれませんが(笑)。

ですから、普通に、きちんと取り組むことが必要だなと改めて感じました。

ありがとうございました。

酒井 ありがとうございました。

では最後に、中神さん、お願いします。

中神さんが投資したくなる会社とは

中神 「株価は、短期では美人投票だが、長期では企業価値の計測器である」という、ケインズの言葉があります。

美人投票|証券用語解説集(野村證券)

短期の株価に一喜一憂する必要はないと思いますが、株価は先ほどお見せした経路で生まれるものなので、開示をしていただくなら、ストーリーにするというのはまさにその通りだと思います。

また、木下さんが今日ずっとおっしゃっているのは、人的資本を経営することが、いかにビジネスパフォーマンスにつながるかということですが、まさにそういう話を開示してほしいなと思います。

まず、企業理念やミッションはこうで、目指している高みはこうで、そのためにはこういう人的資本が絶対に必要で、でもそこまでできていないので、今はこういう打ち手を行っている…というような内容です。

そして、企業の現実はほとんどが現場に基づくので、経営組織が、その現場の人たちを活かすための意思決定組織になっているか、つまり経営陣の心理的安全性があって、フラットな組織であるかと、実際の意思決定を語っていただく、だからこそ変曲点を作れる組織であり、結果、業績のαが生まれて株価のαも多分出るだろう、とつなげていただく(Part.2参照)。

そうしていただくと、僕らは、「うわあ、この会社に投資したい!」と思うのだと思います(笑)。

バリューを体現しやすくする30パターンを分析

正忠 今の話を聞いて思ったのですが、楽天は決断についてのニュースはたくさん発信していますが、断行できないだろうと投資家に思われているから、株価が低いのだと思います。

その断行について、一つお話ししていないことがありましたので紹介します。

Well-beingとWell-doingという概念がありますが、良い状態だからこそ良いパフォーマンスが出せます。

楽天では毎月、楽天主義を体現し、良い結果を出している社員を表彰する、楽天賞というアワードがあります。

楽天賞の受賞者全員に、Well-beingだったか、つまりどういう状態だったかと、何をきっかけにその行動を起こしたのかなどをインタビューしたのです。

そのテキストマイニングをしてエッセンスを抽出し、10のバリューを体現するためのヒントになる考え方3つをそれぞれ、計30のパターンランゲージとして作りました。

そのパターンを実行すると、バリューが体現しやすくなるという考え方です。

つまり、断行をするための仕組みを作っているということで、これも発信しなければいけないと思いました。

酒井 何をしたかだけではなく、どうしてそれを行えたのかということですね。

面白いですね、ありがとうございます。

最後に人的資本経営の専門家、田中 弦さん登場!

中神 今や日本の人的資本経営のカリスマ、田中 弦さんが会場にいるので、コメントを頂いたらどうですか?

田中 弦さん Uniposの田中と申します。

中神さんは僕の元上司なのですが、上司としての強制力がありますね(笑)。

昔からある、人を大切にする経営(今まで通りの日本的経営)と人的資本経営は少し違うと僕は思っています。

1288社の統合報告書を読んでわかった人的資本経営の要諦(HumanCapital)

基本的に人的資本とは、個人に属するスキルや能力のことです。社員が自主的に、会社にとって有益なスキルを身につけてくれるような土台が伴っている経営が人的資本経営だと思います。

一方、人を大切にする経営では、どんどん事業ごとに個別最適化が進み、事業のみに必要なスキルだけを身につけていきます。その事業以外のスキルはむしろ邪魔となります。

例えば、銀行方はゴルフが上手いですが、これはローンを貸し出すことに個別最適化されているということです。今まではそれだけのスキルでも良かった。

銀行の勘定システムを使えばいいので、エクセルやパワーポイントのスキルをあまり持っていません。一方、地方銀行などでは貸出以外の事業承継やM&A等のおよそ銀行業とは異なるスキルを身に着けて行く必要に迫られています。今までの狭いスキルではやっていけなくなった。

ですので、まだまだ人が伸びるポテンシャルがある気がしています。

あと、日本には後に続くべきだという同調圧力がすごくあるので、特定のグループ内の3割以上が自主的にスキルを身につけ始めると、他の人もそれに続くポテンシャルがあると思います。

全員を変えようとすると辛いですが、特定の集団の3割を変えるような施策をたくさん行えば、会社はすごく変わります。

僕はこれを、「ポケモンGO現象」と呼んでいます。ポケモンGOが流行れば、深夜に徘徊する民族なので(笑)。

それが人的資本経営ということではないかな、と最近は思っています。

酒井 ありがとうございました。

議論していただいたみなさま、ありがとうございました。 

(終)

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編集チーム:小林 雅/小林 弘美/浅郷 浩子/戸田 秀成

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