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地域の課題から産業を創る。那須コネクテッドで学ぶ、循環する”見えない”資本

ICCサミットの公認オフサイトイベント「コネクテッド」シリーズは、信州、男鹿、富山と回を重ねてきましたが、今回、6月17日〜18日の開催地は那須。フード & ドリンク アワードの参加者が中心となり、森林ノ牧場とGOOD NEWSを中心に訪問し、議論を重ね語り合う1泊2日の行程となりました。その模様をご紹介します。ぜひご覧ください!

ICCサミットは「ともに学び、ともに産業を創る。」ための場です。毎回500名以上が登壇し、1,200名以上が参加する。そして参加者同士が真剣に議論し、学び合うためのカンファレンスです。次回ICCサミット KYOTO 2026は、2026年8月31日〜9月3日 京都市での開催を予定しております。参加登録は公式ページをご覧ください。


新緑まぶしい6月、梅雨の晴れ間となった17日、都内からは東京駅を新幹線で9時16分に出発し10時39分に到着するという、都心からのアクセスの良さも魅力です。各地からやってくる参加者は新白河駅に集合し、GOOD NEWSのマイクロバスに乗り込んで森林ノ牧場へ向かいました。

見渡すと参加者ばかりいた新幹線のS Work車両から新白河に到着した参加者たち

使われなくなった森林を、もう一度活かす(のもり山川 将弘さん)

出迎えてくださったのは、森林ノ牧場を経営する「のもり」の山川 将弘さん。「森林を活用しながら酪農をする」という、日本ではまだ珍しいスタイルで牛を育てています。

▶︎株式会社のもりになります(note)

山川さんのクラフテッド・カタパルト入賞プレゼンはこちら

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山川さん「うちは搾乳から加工・販売まで自社でやることで、付加価値を高めていく、そんな酪農のスタイルでやっています」

その付加価値の源は、ここが森林であること。日本の国土のおよそ2/3は森林ですが、活用されずコストばかりかかる場所になってしまっているのが実情。東日本大震災の前までは椎茸の産地として、また薪や炭をとるための里山として使われていたこの那須の森も、その後は放置されたままでした。

「ここをもう一度活用しようというのが、僕らの取り組みです」

木の種類はクリ、ナラ、桜など4種類ほど。そんな木々の下で、今は牛たちが放牧されています。放牧地域に外から悪いものを持ち込まないよう、靴をカバーで覆い、消毒をしてから牧場、というよりも、森林へ入っていきます。

入ってすぐのところで、子牛たちに会うことができました。一行が通ると、興味深げにこちらへ寄ってきて、撫でられると気持ちよさそうにしています。

先が見えない森林の奥へ、奥へ。以前は原木椎茸が育てられていたという森の中を歩いていきます。

しばらく歩いていくと、いきなり開けた場所に着きました。栃木でも北端にあたり、すぐ先は福島県という場所です。いるいる! 山川さんのプレゼンの中の動画で見たような、ジャージー牛がゆっくりと草を喰む風景は、まるで絵本の世界のようです。

「使えないもの」を価値に変えるのが酪農の本質

放牧地に生えている草は人間には食べられないものばかり。「僕らが食べられない草を、牛たちがミルクに変えてくれる。これが酪農の本質だと思っています」その一方で、山川さんは飼料の約75%を輸入に頼っているという日本の酪農の構造的な課題も指摘しました。

草の生えている土地が余っていても、輸入飼料に依存しているからこそ、使われていない森林や耕作放棄地を活かすこの酪農のかたちには可能性があると山川さんたちは考えています。現在は那須ともう1カ所、栃木県益子町でも展開中で、チーズなどの加工品はまた別の施設があります。牛乳の需要が増えてきたら、第3の拠点も検討しているそうです。

1haに2.5頭。未利用地を活用するために

放牧のスタイルも特徴的で、森林ノ牧場では1ヘクタール(100m x 100m)あたり2.5頭という、比較的「密」な放牧密度を採用しています。

「一般的には広い土地を与える方がいいと言われることも多い。放牧は確かに手を加えずに放っておけますが、10頭飼うなら10〜20ヘクタールという土地が必要になってくる。北海道ならありえるかもしれませんが、ここでは現実的ではない」

あえて密度を高くすることで、牛の足跡や糞が土に分解されていくサイクルが増え、生態系の多様性や循環が強く生まれるのだそうです。

この生物多様性と酪農としての生産性を両立させる取り組みについては、感覚的なものに留めず、虫の数や生産性、繁殖率などのデータを取りながら検証とPDCAを進めているとのことでした。

牛乳の味を決めるのは「成分」と「体細胞数」

放牧した牛のミルクは美味しいとよく言われますが、それは単純な話ではないと山川さんは説明します。

「美味しさを決める要素のひとつは成分、つまり乳脂肪や乳タンパクです。放牧をすると水分を多く摂るので成分はやや薄くなる一方、青草を食べることでビタミン類が増え、黄色くて香りのいいミルクになります」

そしてもう一つの重要な指標が「体細胞数」。牛が病気になった際、それを攻撃する白血球が乳に入り込むことで増える数値で、これが低いほど雑味がなく、香りの良いミルクになるそうです。

「一般的には20万〜30万という数値が言われますが、うちは本当に低い時で2〜3万、今週でも6万くらいです。これはかなり優秀な数字だと思います」

体細胞数を低く保つには、牛の健康状態、ストレス、衛生環境など、細部への気配りが欠かせません。

「本当に美味しいものを作ろうと思ったら、その数字を限界まで下げる努力をする。そのためには、健康的に育てて、病気になったらすぐ対応するという、本当に細かな対応が必要になります」

ちなみに山川さんは、ICCサミットのフード & ドリンク アワードに参加したときに、牛乳を入口として、チーズやヨーグルトなどのプロダクトを紹介するつもりが、最初の牛乳の味に審査員から感動の声が上がたのが、一番驚いたことだそう。「それが新たな気づきとなりました」と言っていました。

▶︎Store 森林ノ牧場の商品

山川さんご自身は、東京農業大学畜産学科で放牧酪農を学び、卒業後岩手県の中洞牧場で酪農を実践し、2007年にアミタ株式会社(現アミタホールディングス(株))が始めた森林ノ牧場事業に参画。

アミタは70年代からリサイクル事業など環境の事業を実践し、未利用の自然資源を価値にする事業として森林ノ牧場事業を立ち上げたそう。2011年にアミタから事業を引き継ぎ今に至っています。

名前のある牛たち、そしてオスの牛の話

搾乳牛は、2つの牧場合わせて150頭ほどいて、牧場の牛には、それぞれ名前がついています。スタッフや、出産に立ち会った研修生が名付けることもあるそうです。

「あぐちゃんという子は、小さい頃に顎をぐっと上に上げて寝ていたのでその名前になりました」

好奇心旺盛で甘えん坊というあぐちゃん。話を聞いているかのように寄ってきました

3回お産をした後は肉牛となりますが、一般的な流通に乗せると非常に安い価格で取引されてしまうのが実情だといいます。

「搾乳牛はお肉の量も多くなく、放牧をしているので赤身なので安価で取引されます。手数料の方が高くなって、マイナスになってしまうこともあって。大事に飼っていた牛がマイナスの価値になってしまうのは、すごく悔しくて、辛いことでした」

そこで森林ノ牧場では、一般的な流通ではなく、自社で加工して販売する方針に転換しました。

「今日のお昼にお出しするお肉も、経産牛の肉を使ったものです。赤身もちゃんと美味しく食べられるメニューにしたり、レトルトパックで販売したりしています」

乳牛として長く活用できるメスに対して、オスの牛は、耕作放棄地を開拓する最初の役目を担ったり、子牛肉として販売されます。生後3カ月ほどミルクだけで育てた仔牛肉は「ホワイトヴィール」と呼ばれ、ヨーロッパでは古くから食材として使われている部位。日本で扱っているのは森林ノ牧場含めごくわずかだそうで、イタリアンやフレンチのレストランに届けています。

「この子は本当に生まれたばかりで、20kgくらい」と山川さん。

見学のあとは、説明のあった経産牛の肉を使ったカレーやミートソースを新鮮な牛乳とともにいただきました。デザートは一押しだという無糖ヨーグルトの上にソフトクリームが乗ったヨーグルトシェイク。ジャージー牛乳の濃厚さがありながら後味がスッキリ、那須の美しい空気を思わせる美味しさでした。

極めて牧歌的な風景の裏には、耕作放棄地でデータを活用して牛の価値を上げる持続的な酪農への挑戦があり、森を活かし、牛を活かし、人間が食べられないものをミルクや肉に変えていく。そんな循環を学び、最後に食でその一環を担うという体験になりました。

「もったいない」をブランドにする ―(GOOD NEWS宮本 吾一さん)

この先に森が広がっています。建物前には観光周遊バスが停まるバス停も

続いて訪れたのはGOOD NEWS。ショップはGOOD NEWS DAIRYとGOOD NEWS NEIGHBORSの2つのエリアに分かれています。案内してくださったのは、宮本 吾一さんらGOOD NEWSのみなさんと山川さん。この場の始まりは、地元の農産物を持ち寄る朝市から、6年前に山川さんたちと立ち上げた小さな店舗が原点でした。

「当時はみんなお金がなくて、なけなしの金をはたいて、7人で役割分担しながら作ったお店なんです」

そこから生まれたGOOD NEWSの人気商品が「バターのいとこ」。今ではデパ地下や空港で見かける人気のお菓子になりました。

「バターを作る過程でスキムミルクが大量に残ってしまう。脂肪分はバターになるけれど、残りの90%はもったいないけれど活用されないことが多い。それをアップサイクルしようというところから生まれました。バターの“いとこ”という名前は、親戚みたいな存在、というところから」

この敷地内には、バターのいとこを作る工場もあります。10坪ほどの狭いスペースから始まったといいますが、ここは大量生産が可能な生産ラインを持つ工場で、たくさんの人たちが働いています。

那須工場では社員のほかにパートやアルバイト、多様な方が活躍しています。グループ会社には就労支援を行う「グッドニュースパートナーズ」もあり、障がいやハンディキャップを持つ方々が、十分な対価を得て自立して働けるよう支援する仕組みも整えているとのことでした。

1/5の森を切って、4/5の森を守る

バターのいとこ」の製造工場も含めた広々とした施設の敷地は約1万5000坪。そのうち1/5にあたる森を切り開いて、施設や駐車場を作ったといいます。これは、共鳴する森林ノ牧場が森を再生させようとしている取り組みと、矛盾するようにも見える決断でした。

「森林ノ牧場を応援する考え方でいながら、僕らはこの施設を作るために森を切ってしまった。すごく難しい問題に向き合うことになりました」

その葛藤の中で出会ったのが「里山」という考え方だったといいます。

「里山は、人がいない奥山と、人がいる場所の間で、人と自然が共有できる場所のことです。それを現代的に考えたらどうなるんだろう、と考えてここを作りました」

商業活動を続けることで事業として存続させながら、その一部を森の保全に投資する。1/5を切った代わりに、残り4/5の森を積極的に手入れすることで、放置された森よりも生物多様性が回復するのではないかという仮説のもと、国定公園の登録を目指して森づくりに取り組んでいるといいます。

「川の音はするけれど、川があるのかもわからないくらい藪に覆われていた森でした。何度も手を入れることで風通しが良くなり、光が入るようになって、新しい芽が出てくる。そういう変化を定点観測しています」

森の保全活動を担当するスタッフもいて、鳥を呼び込むための巣箱の設置や、近隣の小学校の子どもたちを招いた自然体験活動なども行っているそうです。

「専門家にアドバイスをいただきながらも、僕らも一緒に勉強しながら入り口に立つくらいのライトな立ち位置でやりたい。観光地だからこそ、子どもたちが森で遊んで気持ちいいと感じる体験自体も、多様性の一つだと思っています」

ブランドが増えることが、地域への恩返しになる

人気商品の「いとこのラスク」は、バターのいとこの型抜きの際に出る切れ端を活用したアップサイクル商品。フローズンドリンクやソフトクリーム、ドーナツなど、人気商品の数々が“もったいない”から生まれているそうです。

GOOD NEWS NEIGHBORSにもさまざまなテーマを持った魅力的な店が集まっています。

「中の具にASTRA FOOD PLANの『ぐるりこ』を使用しているカレーパンは地元の生産者と一緒に作ったものですし、ドーナツはバターを作るときの副産物であるバターミルクを使っている。

課題の数だけ、それを解決するブランドが増えて店舗が増えていく。それが地域の生産者の雇用を生み、生産量が上がり、観光につながっていく。そうして立体的に組み上げていきたい」

宮本さんは、森林ノ牧場への思いも語ってくれました。

「僕にとって、森林ノ牧場がやっていることはとても大事なんです。あそこが素晴らしいからこそ、僕らも生きていける。あの牛乳に価値があるから、僕らが乳製品を無駄にしないことに意味が生まれる。“もっと大きな乳業メーカーと組めば”と言われることもありますが、そうじゃない。地域の素晴らしい生産者が持続的に活躍できる場を、どう下支えできるかがテーマなんです」

GOOD NEWSでは年に4回、大きなイベントを開催しています。真冬の2月には、那須の観光閑散期を盛り上げるためのイベントを開催しています。

「那須は年間500万人ほどが訪れますが、その1/10ほどがこのエリアに来てくれています。それでも2月は来場者が1/5まで落ち込んでしまう。でも“寒いから来ない”というのは嘘だと思うんです。スキー場には行くし、雪まつりにも行くし、温泉に蟹を食べに行く。要は“来るための理由”がないだけなんです」

そうやって始めた冬のイベントにも現在は4000人近くが来場するそうで、“寒いから来ない”那須の冬を変えつつあります。食や雇用の課題など、さまざまな課題を解決しながら地域を盛り上げる取り組み。山川さんや宮本さんたちのように地域に根ざした熱い思いを持つ人たちが、那須の未来を能動的に作っていることを感じます。

スケールの大きさに驚き、課題の数だけある事業に驚き、仕事の細かさに驚き、味のおいしさに驚く。平日なのにお客さんが絶えずやってきて、「バターのいとこ」やドーナツはほぼ売り切れで、GOOD NEWSはすでに那須の目的地の1つになっていることを実感する見学でした。

参加者と地域の人たちがともに学ぶ勉強会@Chus

その後、那須塩原市が運営に関わり、地銀や農協、商工会のほか、地元の酪農組合3組合も出資してつくる第三セクターが運営する道の駅「明治の森」や、那須塩原市図書館「みるる」を見学した一行は、勉強会であり今夜の宿泊会場である、GOOD NEWSが運営する施設 Chusへ移動しました。

1階はさまざまな「いいもの」が集まるショップと飲食&イベントスペースで、2階から上が宿泊施設となっています。ここでは、のもりやGOOD NEWSで働く皆さんも集まって参加者たちのディスカッションが開催されました。

共創の拍手からスタート

ここでは、のもり 山川さん、GOOD NEWS 宮本さんによる事業紹介に続いてスープストックトーキョー工藤 萌さん、ヤッホーブルーイングのニックネーム「てんちょ」こと井手 直行さんも加わってパネルディスカッションが行われました。その内容をダイジェストでお伝えしましょう。

モデレーターのパクリサさんはディスカッションの冒頭にICCスタンダードを紹介

酪農を文化と経済性を合わせ持つ産業にする(のもり山川さん)

のもり 山川さんは、那須塩原が、水が地中に染み込んでしまい農業ができない未開拓の土地で、明治以降、酪農によって新たな価値が生まれた歴史を持つ地域と紹介し、改めて事業の意義を強調しました。

6次産業で酪農の可能性を広げる一方で、乳製品の生産には大きな課題もあるといいます。搾乳量は年間ほぼ一定なのに対し、需要には季節波動がある点です。

「需要に合わせて搾乳をやめることはできない。その波のバランスを取るのが乳製品で、中でもチーズは、保存をするだけでなく熟成という時間を味方にできる、酪農にとって非常に大切な乳製品です」

2021年、山川さんは「チーズ工房那須の森」の事業承継を受け、新たに引き継ぎました。地域の酪農家と連携し、品質の高い生乳をチーズに加工することで、その価値を生産者にインセンティブとして還元する仕組みを作っています。今後の展望としては2つの構想を語りました。

「1つは、森林ノ牧場のような6次産業の仕組みを、もっと横展開していくこと。新しい酪農事業に投資する仕組みを作っていきたい。

2つ目は、チーズ工房を地域の酪農家にも開かれた“共通インフラ”にしていくこと。成分だけでなく、放牧や未利用資源の活用といった取り組みにも、インセンティブをつけられる仕組みを作りたい。酪農が文化と経済性を合わせ持つ産業になるよう、これからも取り組んでいきたいです」

那須を問いを育てる場所にし、地域課題を産業にする(GOOD NEWS宮本さん)

GOOD NEWS 宮本吾一さん「“食で幸せを作る”という気持ちでビジネスをやっています。場を作ることにすごく意味があるなと思い、本当にシンプルなことから始めました」

GOOD NEWSは那須を拠点に、新千歳空港や羽田空港、JR各駅などへも販路を拡大。現在30店舗を展開し、全体で約700名規模の組織に成長しています。拠点である那須町の人口は2.3万人で、高齢化率は42%超。その中で那須勤務のスタッフはおよそ400名を超え、町人口1.8%がGOOD NEWSで働いているという規模になっています。

「6年前は僕も含めて3人でしたが、コロナを超えながら、なんとかこの人数を雇用できるようになりました」

看板商品「バターのいとこ」は、製造過程で生まれる副産物であるスキムミルクを活用したアップサイクル商品ですが、宮本さんは、地域課題そのものが産業になっていく可能性についても語りました。

「人口減少が進むと、農家さんも、働く場所もなくなっていく。食材の調達、製造、販売というプロセスの中で、それぞれの課題をビジネスとして解決していくことを考えています。

製造の現場では、地域のお母さんたちや、障がいを持たれている方など様々な方々と一緒に働いています。3時間だけ働きたいという方が、なかなか働ける場所がなかった。その環境を作ることで、働けていなかった人たちの力を起こしていく。それが結果的に生産性の向上にもつながっています」

これから大事にしたいことを、宮本さんはこう語りました。

「手触り感とか、コツとか、師匠から言葉にせずに学ぶことがAIの時代において、すごく重要になってくる。自然の中で何かをやったら気持ちいいよね、誰かと一緒にやったら楽しいよね、というようなことを、田舎だったらもっとできるんじゃないか。那須を問いを育てる場所にしていきたい」

プレゼン後の質疑応答では「売上の急成長は計画していたのか?」、「新規就農を考える人へのアドバイスを」といった質問が上がり、宮本さんも山川さんも真剣に回答していました。

見えない資本を、巡る力に変えるをテーマに議論!

続いてモデレーターのパクさんが「あえて非効率を取り込んで価値や事業に変えている人たち」と呼び込んだ4名によるパネルディスカッション。テーマは「巡る経営──見えない資本を競争力に変える」で、議論が盛り上がったことは言うまでもありません。

まずはてんちょと工藤さんが事業紹介。てんちょは「みんな“人を幸せにする”ことを大事にしていて、まず自社の社員が幸せになる。社員が幸せだからこそ、いいビールが届けられる」といいます。

詳しい内容は、過去の記事もぜひご覧いただきたいですが、ヤッホーブルーイングは、10年連続で「働きがいのある会社」に選出されているだけでなく、19年連続増収、2025年は最高益を更新(2003年から2021年まで19年連続増収を記録し、その後2025年に過去最高益を更新)し続けています。

続いてスープストックトーキョー工藤さんは今日の見学についてもコメント。自らの仕事を振り返る機会になったそうです。

「今日の見学では、経営に大切なことがたくさん詰まっているのを身をもって感じられました。事業の持続可能性を考えたときに、『全ての答えは自然にあるのでは』というのを再認識しました」

てんちょの強い推薦により今回参加した 工藤さんは社長就任時、コロナ禍〜後の赤字を経験し、理念を中心として立て直しつつある経営の道のりを紹介。そこで核となったのは、「世の中の体温をあげる」という会社の理念への「共感」だといいます。

「理念を1人ひとりの中に持ってもらうことを、社長業の中で1番時間と力を注いでいます」

「理念は神棚に上げるものではなく、1人1人の中に湧き立たせるもの。あなたにとって、あなたの人生にとって『体温をあげる』とはどういう意味がありますか?ということを採用面接でも、入社後もずっと問い続けています。すごく情緒的に感じると思いますが、その成果が出てきています」

これはこの日、訪問した2社にとっても心強いコメント。参加者たちも理念が強い企業が集まっています。モデレーターのパクさんから設定された問いへの回答をご紹介していきましょう。

Q 大事にしていることは?

宮本さん「非効率かもしれないけど取り組んでいることは、友達を作ることです。人に手を貸してと堂々と言えるのは僕の強みで、本当にたくさんの方に関わっていただいています。

知っている農家さんからしか原料を買いたくないと、強く思っています。非効率に見えるかもしれないけれど、関係性の中にこそストーリーがあって、それをエネルギーとしてもらえるから、僕らは強く売れる。最終的にはコストバランス的にも非効率じゃないと思っています」

てんちょ「人を幸せにすること、うちの社員から幸せになって、その家族も、株主も、業者も幸せになる。真剣にそれを信じてやっていて、実現している。そんなのでビジネスが成り立つのかって言われますが、めっちゃ成り立ってます!」

山川さん「まかないを大事にしています。お客さんとの関係性が豊かになっていけばいくほど、まかないが豊かになってるんです。コンビニでご飯を買って食べるのも、もちろんいいんですけれども、それも会社としていいんじゃないかと」

Q 苦しい時期をどう乗り越えたか?

工藤さん「2023年4月、SNSで大炎上したことがあります。赤字の中での炎上で、社員も私も震えていました。でも1週間後に出した声明への反応で、売上が伸びた。あのとき救われたのは、理念への共感を社員が心から持てているということと、お客さんがそれを感じて応援してくれて、消費に変わったという経験でした。

▶︎5. スープストックトーキョーが考える 「あたりまえを生むために大切なこと」

『共感』という言葉は情緒的に聞こえるため、『それがお金になるのか?』と聞かれることもあります。しかし、『事業を通じて何をしたいのか』という原点に、働く仲間が共感することで、一人ひとりに主体性が生まれ、創造やチャレンジが自走していく。私は、共感には事業を動かす力があると思っています」

てんちょ「創業から8年間、ずっと赤字でした。1人2人で始めたインターネット通販がようやく伸び始めた頃、このままじゃダメだと思ってチームビルディング研修を始めて、それが目から鱗でした。

通販の仕事を他の人に任せて、2年間ぐらいチームビルディング研修をずっとやって、貯金も尽きてこのまま業績落ちるかというころに、いいチームができて1+1が2じゃなくて3や4になる体験をして、排水の陣で臨みました。すると売上が下がろうとした時から、業績が上がっていきました」

山川さん「お客様は増えていますが、まだまだきつい段階です。第2牧場も作って、まだ追加投資が大きいからしっかり回収しないといけない。その一方で資本がちゃんと成長している実感もあって、10年かかってあの放牧地がある。これはBSには乗りませんが、牛がいる自然のエコシステムが出来上がってきて、お客様に感動を与えることができている」

宮本さん「僕のメンターから教わった、“同じ春は来ない”という言葉があります。木々は毎年新緑が出て紅葉して、土に戻ってまた新芽が出る。同じように見えるけど、実は着実に違う状態に変わっている。

本当にずっと苦しいのですが、積み上げた先には、必ず何らかの資本、関係資本や社会関係資本が積み重なっていく。どれだけ丁寧にやったかを振り返ると、資本の関係性は確実に変わる。同じ春は来ないというのは、次に繋がる春なんじゃないかと思っています」

Q これから育てたいものは?

山川さん「関係資本です。人と人との関係性、人と自然との関係性。AIの時代にこそ、田舎にしかないアナログな原体験を作ることが、僕らにとって大事なことだと思っています」

てんちょ「ビールを通して人を幸せにする、という理念をこれからも続けていきたい。それを続けて儲かるのかとさんざん言われてきましたが、今日の話を聞いてもそれが大事で、企業として人を幸せにすることで、僕らは大きくなってきています」

工藤さん「共感を大事にしていて気づいたことは、共感できている従業員がとても幸せであることです。従業員が心から信じられるプロダクト、会社であって、そこで働けている自分が幸せであることが、とても大事だと思っています。

私たちにとって損益が出る出ないはプロセスでしかなく、理念達成が最終的な目的。私たちにとって大事な分岐点は、「損益分岐点」ではなく、従業員・お客様・社会にとっての「幸せの分岐点」を超えていくことだと考えています」

宮本さん「4つの資本──精神性、身体性、社会性、経済性のポートフォリオをどう作り育てていくかが重要だと思っています。働いてくれているスタッフが、その土台の上で自由でいられるような場を作りたいです。その4つはいびつでもだめで、平らにしていくイメージです」

耳を傾けていたてんちょが言いたくてたまらないとばかりに、最後に会場にいるのもり&GOOD NEWSの社員に向けてメッセージを送りました。

写真左からパクさん、宮本さん、工藤さん、てんちょ、山川さん

「あなたたちの会社、素晴らしいですよ!吾一さんから売上の伸びを聞きましたが、IT企業などではなくて、普通の製造業で創業からあの伸びはすごい。そしてこれまで何百社という経営者を見てきましたが、こんなに素晴らしい取り組みは久しぶりに見ました。みなさん、誇りを持ってほしい!」

議論が終わったあとにてんちょが言っていたのは「本当に素晴らしいから、社員のみなさんも来ているし、誰かが絶対言わなければいけないと思った!」ということでした。

最後はICCポーズで記念撮影

持ち寄ったフード & ドリンクで懇親会

続く懇親会では、共感しあえる素晴らしい仲間たちと、フード&ドリンクアルムナイの皆さんが持ち寄った食べ物や飲み物を楽しみながら行われました。のもりとGOOD NEWSは経産牛を含む串揚げを用意してくださり、みんなで作りながら、揚げたての味を楽しみました。

二次会は、Chusの3階、みんなが車座になって話せるようなソファスペースにて。まるでICCのCo-Creation Ngihtのごとく、いつまでも終わらない話が続いていました。ベッドも気持ちがよく、ミーティングスペースも充実のChus、チームビルディングや合宿におすすめしたい施設です。

農村コミュニティでのリーダーを育成する「アジア学院」を訪問

明くる朝の6月18日は、那須の「アジア学院」を訪問しました。世界各国の農村コミュニティでリーダーシップをとれる人材を育成する、1973年創立の学校です。そのキャンパスと農場を案内していただきました。

毎回9カ月のプログラムで25〜30名を受け入れており、現在はアフリカ出身が半分、日本人もいます。平均年齢は38歳で、農業従事者や農業でなくても農村で働いている人たち。彼ら・彼女らのためだけでなく、その後にいる100人、1,000人のための教育であり、その学びを責任をもって持ち帰ることを伝えています。

「循環」というキーワード

校長の荒川 治さん

まず出迎えてくださったのは校長の荒川 治さん。2001年からアジア学院に関わり、農場長を経て校長に就任したという経歴の持ち主です。

海外での農業支援の経験の中で、農薬の危険性に気づかないまま人間に被害が出た経験や、住民とビジョンを共有しないまま進めたプロジェクトが結局続かなかった経験、日本の農業従事人口の高齢化や自給率の低さから、持続可能なライフスタイルへの重要性やここで伝える学びを語りました。

「持続可能にするためには直線じゃなくて円、つまり循環です。窒素や炭素、食べ物の循環、エネルギーの循環、そして人やお金の循環。こういう循環を考えるライフスタイルをなんとかみんなで作りたいと、一緒に学んでいるところです」

キリスト教の牧師が創立したアジア学院のもう一つの柱が「サーバントリーダーシップ」。トップダウンで人を動かすのではなく、まず相手の話をよく聞き、相手と同じ目線やむしろ低い目線に立つこと。「豚と同じ目線になる、野菜と同じ目線になる」ことが、リーダーとしての気づきにつながるのだと言います。

農場を歩く ― 循環の実践現場

続いて副校長の大栁 由紀子さんの案内で、キャンパスと農場を見学。敷地7ヘクタールのうち1/3が里山、1/3が畑・田んぼ、残りが校舎や宿舎などの建物や道路という配分で、循環の思想がそのまま土地利用に表れています。

印象的だったのは、学院内での食料自給率の高さで、なんと9割。1日15~20kg食べるという米、野菜も豚肉・鶏肉・卵をほぼ自給し、地域の酒屋や豆腐屋の廃棄物(酒粕、おから、魚のあらなど)を発酵させて飼料にするなど、”使えないもの”を徹底して活用する工夫がキャンパス中に見られました。

さらに、天ぷら油を精製してトラクターの燃料にする取り組みや、東日本大震災後に試みた「グリーンオイルプロジェクト」(油脂作物でセシウムを吸収させる植物除染の実験)など、震災を機に深めてきたエネルギー面での挑戦についても伺いました。

「ここで伝えられるのはアイデアだけ」といい、あとは学生がいかに実践するかを考えるといいます。学生たちは畑・家畜・キッチンの作業をローテーションで担当し、2週間ごとにグループリーダーを交代。「農業の実践だけではなく、リーダーシップの実践の場としての畑もある」という言葉が印象的でした。

理念と経営のリアル ― 参加者との対話

常務理事の荒川 朋子さん

31年間アジア学院に関わってきた常務理事の荒川 朋子さんからは、学校の理念と歴史についての紹介がありました。世界66カ国から1,472名の卒業生を送り出してきたこと、9カ月間という凝縮されたプログラムであること、そして運営費の8割を寄付に依存する経営状況について、包み隠さず語られました。

▶︎もし興味をもった方がいたら、寄付ページはこちら

母国に帰った卒業生たちの活躍を伝えるポスター。地元に貢献して亡くなった卒業生の葬儀には、大勢の人たちが集まったという話も

学院のプログラムや学生たちについて話を聞くなかで、特に印象に残ったのは、対立する民族・宗教的背景を持つ学生同士が、共同生活の中で少しずつ和解していくエピソードです。ミャンマーの多数派民族と少数民族出身の学生が、9カ月の共同生活を経て和解し帰国した話には、涙する参加者も。

参加者たちも、持続可能なソーシャルグッド事業の話には敏感です。参加者からは「ブランディングや収益構造をどう可視化するか」「経営者向けプログラムをもっと展開しないのか」といった率直な質問も飛び交い、理事も「教えていただきたい」と本音で応じる、熱のこもった議論となりました。

この日はほとんどの学生たちが、近隣の学校を訪問するプログラムに参加していて不在でしたが、スタッフやインターン含めインターナショナルな職員の皆さんと、学生たちが食事する食堂でランチをいただきました。

メニューはここで作られたお米や肉と野菜のおかず、スープ。さまざまな国の人たちが集まるこの場所での会話は英語です。同じテーブルに座った若いアメリカ人のエミリーは、クレジットカードのビザに務めており、3週間のインターン体験のこの日が最終日でした。

ここでの体験は他にないものだと考えていて、以前にここで学び、いまはOBとして、世界に散らばる卒業生たちを訪問して現在を伝えるブログを書いているスティーブンをとても尊敬していると教えてくれました。翌日は日本滞在の総仕上げとして京都に行くそうです。

農場を案内してくださった大栁さんも同じテーブルで「2001年にボランティアとして初めて来たときに、見つけた!と思いました。教えているようで、いまだに毎日、学ぶことばかり。ここで働けて本当に幸せなんです」と、教えてくれました。

循環するライフスタイルのみならず循環する学びが、世界各地の農業課題や共生する社会での課題を解決する種となる。ここで伝えられている素晴らしい学びに、参加者たちは、自分の事業や一緒に働く仲間に思いを馳せたに違いありません。

◆   ◆   ◆   ◆   ◆

今回集まったのは、フード & ドリンク アワードの参加者を中心としたコミュニティですが、ICCサミットから生まれた出会いから、お互いを訪問し、学び、議論を重ねることで、悩んだときや困ったときに相談して支え、高めあえるような、さらに強いつながりが数々生まれているのを感じます。

地域を訪ねて学ぶ「コネクテッド」公認イベントは、ICCサミット以外の時期に今後も開催を予定しています。「ともに学び、ともに産業を創る」仲間として、ぜひご参加ください! 以上、現場から浅郷がお伝えしました。

(終)

編集チーム:小林 雅/浅郷 浩子/藤田 志穂/戸田 秀成

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