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5. スープストックトーキョーが考える 「あたりまえを生むために大切なこと」

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ICC FUKUOKA 2025のセッション「『あたりまえ』の作り方 – 新しいアイデアやサービスを社会に浸透させ、ビジネスを加速するパブリック・リレーションズとは?」、全6回の⑤は、スープストックトーキョー 工藤 萌さんが登場。子連れでも気兼ねなく温かい食事を楽しめる、新しい「あたりまえ」の実践から起きた反響を振り返り、「あたりまえを生むために大切なこと」を語ります。ぜひご覧ください!

ICCサミットは「ともに学び、ともに産業を創る。」ための場です。そして参加者同士が朝から晩まで真剣に学び合い、交流します。次回ICCサミット KYOTO 2025は、2025年9月1日〜9月4日 京都市での開催を予定しております。参加登録は公式ページをご覧ください。

本セッションのオフィシャルサポーターは ココナラ です。


【登壇者情報】
2025年2月17〜20日開催
ICC FUKUOKA 2025
Session 5C
「あたりまえ」の作り方 – 新しいアイデアやサービスを社会に浸透させ、ビジネスを加速するパブリック・リレーションズとは?
Supported by ココナラ

(スピーカー)

井手 直行
ヤッホーブルーイング
代表取締役社長

工藤 萌
スープストックトーキョー
取締役社長

小林 兼
ファイターズ スポーツ&エンターテイメント
執行役員 開発本部 副本部長

福田 恵里
SHE
代表取締役CEO / CCO

松田 文登
ヘラルボニー
代表取締役Co-CEO

(モデレーター)

嶋 浩一郎
博報堂
執行役員 エグゼクティブ クリエイティブディレクター

「『あたりまえ』の作り方 – 新しいアイデアやサービスを社会に浸透させ、ビジネスを加速するパブリック・リレーションズとは?」の配信済み記事一覧


嶋 引き続き、工藤さん、お話しいただいてよろしいでしょうか。

食のバリアフリーを実践する、スープストック 工藤 萌さん

工藤 私はスープストックトーキョーという会社を経営していまして、その中のブランドの一つであるSoup Stock Tokyoは創業から25年を迎え、国内に70店舗ぐらいお店があります。


工藤 萌
スープストックトーキョー
取締役社長

新卒で株式会社資生堂へ入社し、営業経験後、一貫してマーケティングに従事。低価格メーキャップブランドで当時史上最年少ブランドマネージャーを務めた後、サンケアブランドのグローバルブランドマネージャーを務める。第一子出産を機に2019年バイオテクノロジー企業の株式会社ユーグレナへ転籍し、マーケティング部門の立ち上げや事業本部長、執行役員を歴任。2023年3月より株式会社スープストックトーキョー顧問、2023年8月に同社へ入社し、取締役に就任。価値づくりユニット長も兼務し、ブランド戦略を軸に経営執行を推し進める。2024年4月より現職。「売れれば売れるほど社会がよくなる」ビジネスを志す。

一昨年に入社して、昨年の4月からスープストックトーキョーの3代目の社長を務めています。

株式会社スープストックトーキョーの取締役に、 工藤 萌が就任いたします。(スープストックトーキョー)

私たちが、最近一石を投じられたと思っているのは、「子連れでも気兼ねなく温かい食事を楽しめるあたりまえ」であり、包括性のある店舗づくりかなと思っています。

無償の離乳食を全店で提供

工藤 何をやったかというと、「Soup for all!」という食のバリアフリーを実現するアクションのひとつとして、離乳食の無償提供を全店で始めました。

スープという食事自体が、様々な食材を溶け込ませた栄養があるもので、離乳食としても、シニアの方の食事としても、比較的年齢に関係なく、誰でも食べやすいものです。

私たちの得意なスープ作りで、フードバリアを取り除いていく、例えば健康上障害のある方やベジタリアンの方、アレルギーのある方、そういう方々も含めて、ちょっとした配慮で、1つのテーブルを囲んで美味しいねと言い合える時間を作っていきたいと思い、活動を続けてきました。

なぜそれをしているかと言うと、先ほども申し上げた「世の中の体温をあげる」という企業理念によるものです。

スープで体だけではなく、心の体温をあげたいということが企業理念なので、体温をあげるためには体温が下がっている人たちがどのような方なのか考え、色々な制約で食べることができない方々に、場所や食事を提供することが必要だと考えました。

その中の一つが、小さなお子様への離乳食の提供です。

また、小さなお子様連れの方がお店でゆっくり食事をとることをためらってしまう課題を解決したいという思いがありました。

私たちはN1(特定の一人の顧客)をすごく大事にしていますが、この話をしていくにあたって、社内で産休から復帰した女性社員から、「子どもが騒いでしまうから、レストランでご飯が食べられなくて、雨が降っている日に、傘をさしながら公園でおにぎりを食べていた」という話を聞きました。

そんな社会は絶対嫌ですし、誰でも温かい食事を食べていいじゃないですか。

そういうことをできるようにしたいと、無償の離乳食を提供する姿勢、活動を通じて、誰でも包括できる食事があるということを伝えました。

離乳食の無償提供をめぐり大炎上

工藤 2023年の4月のことですが、当時のTwitter(現 X)でご意見をたくさんいただいてしまって、トレンド入りするくらいの騒ぎになってしまいました。

私たちは「炎上」とは社内では言わなくて、「お声を頂いた」という形ですが、本当にたくさんのお声を頂きました。

「くれくれママがバギーでお店を埋め尽くすのではないか」「今まで一人でゆっくり食事をとっていたのに、とてもうるさくて嫌だ」「自分の居場所を返してほしい」というようなお声が寄せられました。

たくさんのメディアから取材依頼をいただきましたが、だいたい言われたのが、お一人様vs子持ちママという女性の分断を起こしたことを、どう考えているのかということでした。

今映している声明文を、1週間後に出しました。

大炎上した場合、企業の対応として、謝罪をするか黙っているかが多いと思いますが、私たちは決して謝ることをしませんでした。

私たちがこの活動をする理由、「Soup for all!」の考えのもとに活動していること、今までしてきた色々な活動を示すことで、特定のお客様を優遇するのではなく、お一人お一人と向き合いたい姿勢を誠実に伝えました。

▶︎スープストック「離乳食炎上」への対応が秀逸な訳(東洋経済ONLINE)

その結果、「炎上」と言われるくらいだった騒動は収まり、今度は逆に応援の声をたくさん頂けました。今はお店に行くとバギーを押すお客様も、必ずいるぐらい来てくださっています。

お礼の言葉をメールでたくさん頂くのですが、「無料でありがとう」ではなくて、「居場所を作ってくれてありがとう」という内容です。

その居場所を作れたことが嬉しかったですし、反面、それぐらい自分たちの居場所がない人たちが社会にはいるのだと改めて感じました。

離乳食は一つですが、食のバリアフリーを考えると、障害のある方やアレルギーのある方などいらっしゃいますので、色々やらなければいけないなと思っています。

そういう「あたりまえ」を、これからも作っていきたいなと思っています。

どんなに批判されても、大事なことはやりきる

工藤 この活動を通じて、自分自身がその「あたりまえ」が本当に必要だという信念を持つことが改めて大事だと思いましたし、わかりやすい姿勢をしっかり提示すること、どんなに非難や批判があっても、折れずに、今それが大事だからということでやりきることが必要だと思いました。

 素晴らしい。いや、簡単に言えないですよね、これは。

松田 すごいですよね。

ヘラルボニーでは、1週間後のこの声明を全社員向けに投稿しました。

素晴らしいスタンスの表明ですが、きっと1週間生きた心地がしなかったですよね?

工藤 ずっと泣いていました。

松田 炎上の具合が、かなりのものでしたから。

工藤 私も一人の母親として、ここで黙っていたら、多分一生ママたちは肩身の狭い思いをして生活していくのではないかと、燃えるような気持ちになりました。

松田 1週間ためて、この声明文が出せるという企業のスタンスが素晴らしいと思うし、普通あれだけ炎上したら、2、3日で出したくなってしまうけれども、それをぐっとこらえて1週間後に出した姿勢が、本当にすごいなと思いました。

“ピンチ”を“チャンス”にして、売上が3倍に

井手 ちなみに、声明を出して急に炎上は収まったのか、それともある一定収まったけれど、しばらく続いていたのですか?

工藤 批判的なお声がしばらく続いていましたが、これを出した後は賞賛のお声をたくさんいただけ、まるでV字回復のような形でした。

匿名の世界の不思議なところだと思うのですが、最初に批判していた方々は、もしかしたら実際にはお客様ではなかったのかもしれません。

私たちの声明を見て、「そうそう、スープストックって、そういうブランドなのよ」と、今までのお客様が声を上げ始めてくださって、それがすごくリアリティがあって、そこにも皆さんが共感してくださってというスパイラルが起きました。

井手 言い方は悪いですが、この一件があって、改めて会社のスタンスを告知できる、逆手に取ると言うと変ですが、いいPRというか、やらせじゃないかみたいな(笑)、そんなことはないですよね?

工藤 本当に想定外でしたが、「ピンチはチャンス」というのは、本当にこのことだと思います。

社員に対しても、改めて私たちの存在意義を伝える良いきっかけにもなりましたし、最近そういえばお店に行っていないなという方も、多分リマインドで来てくださって、結果的にECの売上も3倍ぐらいになりました。

井手 プロの嶋さんから見ると、この声明文はどうですか?

 プロだなんて…(笑)。

でも、最高ですね。

得意なスープ作りから、おっしゃられていたように概念を広げて、みんながほっとできる場所を作るという、スープストックならそれができる、だったら一緒にやろうというのが。

自分の得意技のところに、同じ価値観を持っている人が参加できる余白というか、そこに乗っかることができる状態を作れているのがすごくいいですよね。

工藤 ありがとうございます。

(続)

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編集チーム:小林 雅/小林 弘美/浅郷 浩子/戸田 秀成

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