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岐阜羽島に133年! 三星グループが織り上げる、世界が認めた高級生地の製造現場を見学【ICCビジネス・スタディツアー vol.6 三星グループ編】

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今回のICCビジネス・スタディツアーは、モノづくりの担い手として、133年続く繊維・樹脂メーカー「三星グループ」の五代目として事業のアップデートを試みる、岩田 真吾さんの岐阜羽島の現場を訪ねました。日本の産業発展とともに歩んできた「一流の裏方」が、いま「ファッション」に提案するものとは? ぜひご覧ください。

ICCサミットは「ともに学び、ともに産業を創る。」ための場です。毎回200名以上が登壇し、総勢900名以上が参加する。そして参加者同士が朝から晩まで真剣に議論し、学び合うエクストリーム・カンファレンスです。 次回ICCサミット FUKUOKA 2020は、2020年2月17日〜20日 福岡市での開催を予定しております。参加登録などは公式ページをご覧ください。


ICC KYOTO 2019のCRAFTED カタパルトに登壇し、3位に入賞した三星グループの岩田 真吾さん。

三星グループは、世界最高峰の天然繊維で「衣服」と「幸福」をアップデートする!(ICC KYOTO 2019)【動画版】

岩田さんは、三菱商事、ボストン・コンサルティンググループというスマートな経歴、サウナについて熱く語る姿(岩田さんはフィンランド・サウナアンバサダー)の印象が強く、普段は月曜から木曜まで、岐阜羽島で生地を作る工場を束ねているというのが、失礼ながら想像できていませんでした。

今回のスタディツアーは、初訪問の中京エリア。そこで岩田さんが拠点とする岐阜羽島の本社にうかがい、ICCパートナーズ+登壇者のinaho菱木 豊さん、ICCサミット運営ボランティアスタッフの希望者総勢9名で、工場などモノづくりの現場を見学することにしました。

名古屋から車を走らせること1時間弱。木曽川を渡ると羽島市に入りました。名鉄竹鼻線の線路を越えると、学校のような門がある三星グループの敷地です。入り口左手には羊の像が見えます。

ウールといえば羊

敷地内に入ると公共施設のような大きな建物や道路、庭が見えます。

三星グループ本社では岩田さんと、先に到着していたinahoの菱木 豊さんが待っていました。さっそく岩田さんに、社内を案内していただきましょう。

1887年創業、三星グループの歴史

三星グループの5代目、代表取締役社長の岩田さん

オフィスでは、まず会社の歴史を辿る展示が目に入ります。1887年に岩田さんの曽祖母(ひいひいおばあさん)にあたる、岩田志まさんが綿の艶つけ業として創業したのが三星グループの始まり。

艶つけとは、織り機で織って布にしたものを水に漬けて石に置き、砧(きぬた)と呼ばれる槌のような道具で打つことで、布の表面に光沢を出すこと。

創業者の肖像画の前で艶つけを再現中。実際はもっと重い5kgの砧で行ったとのこと

最初は和装で用いる綿や絹が主流だったのが、寒地で戦う日露戦争をきっかけにしたウールの扱いで事業が発展し、1931年には毛織物染色整理加工、1948年には梳毛紡績(羊毛を梳きそろえて毛糸に紡ぐこと)と、生地作りにおけるバリューチェーンを拡大させてきました。

木曽川の両岸に広がる尾州は世界でも有数の織物の産地ですが、日本でもとくにウールの織物の生産70%を占めています。その理由はきれいな水が豊富なため。世界各地の産地も同様の理由だそうです。

岩田さん「みなさん毛糸や布になった状態でしか見ないからわからないと思うのですが、肉の部位と同じように、羊毛も場所によって価値が違うのです。肉と同様、肩の部分が最上級で洋服に使われます。脚やお尻の部分は中材などに使われるんですよ」

羊毛の部位と価値を表した標本模型

岩田さん「現在の上皇、上皇后にもこのような説明を、僕の祖父が差し上げたことがあります。

当時は繊維が花形産業でした。金の卵といわれた女工さんたちが九州や四国からやってきて、働いてもらいながら学校に通ったりして一種のコミュニティを作っていました。

ご覧になったかもしれませんが、エントランスから入ってきたときに庭などがあったと思います。以前はそこが中国人とベトナム人の寮でした。生活するときのために、そこに公園なども作っていました」

以前は敷地内に寮があったという。訪問したときは紅葉が真っ盛り

岩田さん「羊毛製品の製造工程、バリューチェーンは非常に長いものです。

ニュージーランド、オーストラリア、アルゼンチンなどで原毛を作り、毛の流れを揃えてフリースになったところを輸入します。それを紡績工場で糸にし、織る、編むところを僕らがやります」

バブルの1997年頃が製造のピークで、この産地に4000社あった織物工場は現在140社未満。作れば売れる時代は終わり、価格で競争すれば海外との消耗戦になることは明らかで、三星グループは質や価値での勝負に土俵を移しました。

岩田さん「賞を獲るくらい、いいものを創るということをしています。

海外への展開もしています。エルメネジルド ゼニアに生地に選んでもらい、三星の名前を出してもらっています。

採用された生地は、伸縮性がありそうな手触りですが、じつは織物。だからカジュアルに見えるのに、カチッとしています。

ブランドの方が実際工場まで来てくださったりして、生地の深い色味も評価していただいています。

ゼニアで生地が採用されたジャケット。キャンペーンでは俳優の加瀬亮がモデルを務めた

そのほかにも楽しんでもらえる機会を増やそうと、ツイードランというイベントをやったりして。

昔は生地を作って売るだけで、あとは商社に任せきりだったのですが、自分たちで衣類を作って売るところまでやるようになっています」

それはまさに、CRAFTEDカタパルトのプレゼンで話していたウールTシャツのこと。スーツを着る機会が減っていることから、温かく、汚れにくく、燃えにくく、色あせしにくいといったウールの長所をTシャツにした提案と、クラウドファンディングは大好評を博しました。

23時間を快適にするTシャツ(Makuake)

うわさのウールTシャツ。ポロシャツやジャケットなどの試作品も見せてもらいました

創業から、世に出る前の試作品を見せていただいたあとは、三星の膨大なアーカイブを見せていただくことになりました。

三星の膨大なアーカイブ

応接スペースや壁、額縁にまでその歴史をひしひしと感じることができるオフィスです。すべてはご紹介できないので、その一部をご紹介します。

さまざまな生地見本が、ガラス製テーブルトップを支えている

前社長の「ミュージアムを創ろう」という提案で、素材の特徴を記載した生地のサンプルが並ぶ

1968年に現在の上皇ご夫妻が訪問した際の写真

岩田さん「布は編み方、織り方、素材の組み合わせ、整理加工といって、洗いの強さにもよって素材の風合いが変わってきて、無限にパターンができます。

毎シーズン、僕たちも100種類ぐらいずつコレクションを作って、展示会に出したりお客さんに提案しにいったりします。そういうアーカイブがここにあります。

デザイナーさんが来ると、1日ここで過ごして好きな生地を探したりしています」

といって案内されたのは、さまざまな生地のサンプルが収められている部屋です。

素材・質感が異なるサンプルがかけられたハンガーラックが至るところに

1967年版のテイラーさんが使う見本帳。布地を選んでオーダーメードが当時の主流

マルニに採用された生地の見本

歴代のアーカイブや素材サンプルが棚に収納されている

数え切れないほどの生地サンプルや資料が部屋いっぱいに並びますが、毎シーズン100種類作るなら、おそらくこれ以上にあるのでしょう。

岩田さん「こういう歴史の蓄積があるのが、長く続く企業のいいところかもしれません。先日のラグビーワールドカップで、ニュージーランドと南アフリカが一宮市をキャンプ地として選びましたが、それはアンゴラや羊毛といった素材で、昔からやりとりする関係があったからだそうです」

高級生地の織物工場を見学

次に私たちは、2つの製造工場を見学するために車で移動。10分ほどでまず到着したのは製織(織物)の工場です。昔話の「鶴の恩返し」のように人が座って動かして、バタン、バタンという音をさせながら布が織られていく機(はた)織りの現代版の機械が使われています。

半世紀以上、織機を操っている金子さん

岩田さん「みなさん、織物と編物の違いってご存知ですか?

『織る』というのは縦の糸と横の糸を織ったもの、『編む』のは1本の糸を絡み合わせているものです。

織物は伸び縮みしないので、スーツやコートなどカチッとしたものに使います。Tシャツやセーターは、伸縮性がある編物です。

皆さんからすると同じではと思われるかもしれませんが、伸びるものと伸びないものでは機械が全く違います」

左右にシャトルという糸巻きが入った器具が往復して、布地が織られていく

この工場で、銀座の老舗の高級礼服の生地を織っている金子さんは、1973年に導入した機械を現在も手入れしながら使っています。

金子さん「部品などは取り替えているけれど、本体はいい油を使えば100年は使えます。昔から1分間に95回転するシャトルを90回転しか出さないようにして、大事に使っています。

修理の専門家もいるけれど、全部自分で直します。まだわからんこともあるけど、長年の経験やね」

「昔は朝6時から10時まで働いたけど、今はゆっくり」と金子さん

大量生産の猛スピードで動く機械とは違い、1時間に1メートルしか織れないため、1日に作れるのは2着分だけ。でもゆっくり織るために、繊細な糸も扱うことができます。貴重なものを優しく創るにはこの機械がいいそうです。

岩田さん「織機を作っているところはもう日本にはなくて、廃業したところから買ってきたり、部品取りをしたりしています。

銀座英國屋(オーダーメイドの高級スーツ店)で最も人気のある生地の一つは、おそらく三星毛糸のものではないでしょうか。

いいものにはいいだけの理由があります。ただそれを今までは見せようとはしてきませんでした」

金子さん「細かい仕事だから、国内ではやりきれなくなって中国に仕事が行ってしまい、国内が空洞化したけれど、いままた中国があかんとなって戻ってきた。でも、もう日本でもできるところがない。ここでは品質的には昔ながらの品質でできます。

織機の針に糸を通すだけでも1日かかる。わしは小学校の頃からやっている」

布地のように見えるがまだ糸の状態。1台の織機に糸を通す作業だけで、1日かかる

柄の設計図。糸を1本かけ間違えると、柄が違ってしまう

頭上に下げられている巻き簾のようなものに注目した菱木さん

上部にあったのは、織り方のパターンを記した”プログラムのもと”

「始めたころは自分が一番若かったけど、今は年上の人はいない」という金子さん。金子さんはまだお元気で現役ですが、岩田さんいわく、技術の継承と工場の存続のために三星の社員を送っている工場もあるということでした。

あのウールTシャツの生地が作られている工場へ

次に長良川を渡って訪れたのは、編物の工場。ダブルの平たい生地を織っていた先程の工場とは、見た目から違います。糸巻きから機械の上部上に糸が供給され、筒状の生地が、機械の中心に少しずつ編まれていきます。

あの23時間を快適にするTシャツも、この工場で作られています。

カラフルな糸が機械の中に取り込まれ、布地が編まれていきます

岩田さん「ここは丸編みの工場で、Tシャツなどになる生地を編みます。宇宙船みたいに見えるのが編機で、一般的な形です。作るものによって機械は使い分けるのですが、ここにある機械は、薄手のものに適しています。

糸が全面に入っていて、1周で編み物ができていきます。みなさんが思う編み物とは違って、編み上がったものは筒状です。カットソー(cut and sewnの意味)とよく言いますが、それを切って開いて、使います」

技術的には、織物より編物は比較的に新しい技術で、周辺には約100社程度の工場があるといいます。三星グループは、それぞれ10社と取引しているそうです。

右側が1枚の布に使われている糸

頭上の糸巻きに巻き取られます

繊細な糸を扱う編針

編物が得意とする凹凸のある繊細な地模様が編まれていく

生地の密度で調整するダイヤル。微妙に目盛りが異なるのは、
糸のバランスや機械の状態に合わせて調整しているため

異常があると、機械が自動にストップ。切れた糸を手で繋ぎ、ホコリが巻き込まれないよう刷毛で払っている

あらゆる箇所が同時に動いて、少しずつ編物ができていく

稼働している機械の間を、異常がないかどうか人間が巡回しています。ほとんどの作業は機械がやっても、人間が対応しなければいけないこともあります。

それは職人でないとできない世界で、細い糸を編んでいるときに、生地に筋が出てしまった糸がすぐ切れてしまうといったときの対応。直すというより、機械のスピード設定などのような、微調整の部分です。

織物はメートル単位で納品し、伸び縮みする編物は重量で納品するそうです。面白かったのは、岩田さんが「織物の世界はカチッとした性格の人が多くて、編物はゆるい人が多い」とおっしゃっていたこと。作っているものに、働く人が影響を受けるのでしょうか?

いずれにせよ、高級生地とはいえ小ロットで驚くほど時間も、人の手もかかっていること、そして手作業が多いことに驚きます。大量生産とは真逆の世界ですが、つまり人件費が安いところなら、安く作れるということにもなります。

それが現在さまざまに言われている労働環境含む環境問題を引き起こしていること、SDGsにもつながります。薄利多売の世の中から、洗わなくてもきれいが保てる価値ある服の創造は、着る人や環境のペインを減らし、作り手も救う。そんな岩田さんたちの最新作を、オフィスで紹介してもらうことにしました。

エコに配慮した新作生地

岩田さん「森谷がご紹介するのは、2019年に作ったウールやカシミア、キャメルなどのナチュラルカラーコレクションです。世界的にエコへの関心が高まっていて、色を染めるということに環境負荷がかかるという面があるので、動物の色をそのまま使っています」

商品開発の森谷さんが持っているのは、2020年〜21年秋冬に流通する素材

岩田さん「次にこのブルーの生地は、ワイルドシルクとシルクを組み合わせたものです。シルクは繊維の構造が三角形になっているので、光の反射がきれいです。一方、ウールは表面の滑らかさで光ります」

青と黒の糸を使ったヘリンボーン柄はいかにも上質です。上質といえば、ジャパン・テキスタイル・コンテスト2019でグランプリを受賞した生地についても、聞かねばなりません。

モリヤさん「受賞した『ヌメロ・ラーナ(ぬめりのある新しいウール)』は、開発に1年半かかりました。ぜひ触ってみてください」

写真右が受賞したヌメロ・ラーナ、左がパリのラグジュアリーブランド採用の”先代”ヌメロ・ラーナ

控えめな光沢としっとりとした肌触りながら丈夫そうな生地は、繊維の向きを揃えた2本の糸を二重織りすることで実現。手触りに加えて見た目の繊細さは、まるでカシミアのようにも見えます。岩田さんいわく、一枚仕立てのコートやジャケットに最適なのだそう。

ちなみに上の写真左側の生地は、ヌメロ・ラーナ開発時の1つ前のモデルで、誰もが知っているパリのラグジュアリーブランドに採用されたものだとか。

無駄を減らす世の流れに、選ばれる服を

1887年から続く三星グループのモノづくりの現場を見て、考えたことを、最後に岩田さんにお聞きしました。

見学した工場は高齢化が進み、若い働き手がいません。三星から社員を送っているところもあるとのことでしたが、具体的にどのように継続を考えているのでしょうか。

岩田さん「今まではできた布地を買い取っていたけれど、月給制にして、逆にうちから社員を何人か送って技術を教えてもらい、稼働させているところもあります。それで技術を引き継ぎ、後継者のいないところは機材も引き継いでいくという形を考えています。

まっさらなところから工場を作るのは、生産に大量の水が必要なこともあり、いろいろと問題が多いのです」

地域の問題、技術の継承、きわめて閉塞感がある環境でも、岩田さんは世界の潮流に目を向けています。寒地での戦争が事業を発展させた時代から、モノが有り余る時代となり、次の一手は逆説的かつ挑戦的なものですが、ICCサミットのCRAFTEDコミュニティで、モノづくりに関わる人たちが口を揃えて言う本質にリンクしています。

究極のプロダクトを目指す企業が明かす、今、モノづくりとブランドに求められるものとは?【ICC KYOTO 2019 CRAFTED NIGHT連動企画】

岩田さん「服は食品とは違って、毎日買うものではないし、トレンドもある。景気変動価も高い。

衣服は世界で年間40億着ぐらいが供給され、その半分が一度も買われることなく捨てられていきます。その需要供給を適正化して、無駄を減らそうというのは当然の流れです。

フランスが、売れ残った服を焼却処分してはいけないということを決めて、政府も後押ししてコンソーシアムを創ろうとしています。企業も積極的にリサイクルに乗り出すようになってきました。世界的にそういう流れになっていき、プチプラは成立しなくなっていくのではないのかと思います。

フランス政府が2023年までに“売れ残りの商品の廃棄”を完全禁止へ(HYPERBEAST)

素材がよくて長く使えるものができれば、買う服も半分になり、糸の需要も減ります。そうなってもすべての過程で単価が倍になればいいのでは?と思います。たとえば素材で一番上流のオーガニックコットンは、現在過重労働の面もありますから、作業量をこれ以上増やさずに済みます。

消費者のトレンドとしても、もっと少なくいいものをという方向へ変わってくると思います。その流れに、うちのウールTシャツは合致しているのではないかと思います。

三星としては、まずは付加価値を上げるのが先で、規模はあとからでもいけると思います。実際うちの生地の値段は高いのですが、ゼニアで使われている生地だと言われたら、そのぐらいかな?となると思います」

「生地屋が素材のよさをアピールするならストールかなと」と岩田さん。
LEXUSのCRAFTED MARCHEでも人気だそう

たしかに、その生地がどれだけ素材を選び、手をかけて作られた上質なものかを、今回のスタディ・ツアーでは学ぶことができました。ICC小林もストールを思わずお買い上げしてしまいました。

今回、ツアーを快く受け入れてくださった岩田さんをはじめ、三星グループの皆さま、参加いただいたinahoの菱木さん、運営スタッフの津田 晋吾さん、石橋 康太郎さん、坂上 聖奈さん、どうもありがとうございました! 以上、現場から浅郷がお伝えしました。

(終)

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編集チーム:小林 雅/浅郷 浩子/戸田 秀成

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