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ICC FUKUOKA 2024 リアルテック・カタパルトに登壇した、F.MED 下村 景太さんのプレゼンテーション動画【直径1mmの血管を縫って繋ぐ「マイクロサージャリー」支援ロボットで、術後のQOL向上に貢献する「F.MED」】の文字起こし版をお届けします。ぜひご覧ください!
ICCサミットは「ともに学び、ともに産業を創る。」ための場です。そして参加者同士が朝から晩まで真剣に学び合い、交流します。次回ICCサミット KYOTO 2024は、2024年9月2日〜 9月5日 京都市での開催を予定しております。参加登録は公式ページのアップデートをお待ちください。
本セッションのオフィシャルサポーターは 慶應イノベーション・イニシアティブ です。
▶【速報】廃プラ活用の3Dプリント型枠で、持続可能な建設業界をつくる「DigitalArchi」がリアルテック・カタパルト優勝!(ICC FUKUOKA 2024)
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【登壇者情報】
2024年2月19〜22日開催
ICC FUKUOKA 2024
Session 7A
REALTECH CATAPULT リアルテック・ベンチャーが世界を変える
Sponsored by 慶應イノベーション・イニシアティブ
下村 景太
F.MED
代表取締役 CEO
HP
1974年生まれ。複数の医療機器メーカーや商社で営業、マーケティング、新事業開発を経験した後、2018年株式会社アステム入社。業務の一環で現CTOの小栗が九州大学病院で実施するマイクロサージャリー支援用ロボットの開発プロジェクトに参画。2021年3月、事業化を目指して小栗と共にF.MED株式会社設立。
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下村 景太さん F.MEDの下村です。よろしくお願いします。
私たちは医療機器の開発を通じて、世の中の患者さんが抱える多くの不自由を解決することを目標に活動しています。
高速度・高精細に動くマイクロサージャリー支援用ロボットを開発
まずは、こちらの動画をご覧ください。
これは3方向から骨組みに支えられたロボットマニピュレータ(人間の腕の動きを再現したロボット)が芋の梱包をしている場面です。
この3方向から骨組みが支える仕組みを「パラレルリンク」と呼びますが、この機構のお陰で剛性が高まり、これだけ高速度かつ高精細の動作が可能になっています。
私たちの開発している「マイクロサージャリー支援用ロボット」では、このパラレルリンクのマニピュレータを発展させ、小型の円筒形にまとめたものを2本のロボットアームの先に取り付け、左にいる操作者の入力に従って、忠実かつ動作を縮小化して再現できるようになっています。
「マイクロサージャリー」とは、顕微鏡を使った手術手技のことを指します。
手元を大きく拡大し、手作業で、例えば直径1mm程度の血管を縫って繋ぐなどする、非常に繊細さと慎重さが要求される技術です。
患者のQOLや予後を劇的に改善するマイクロサージャリー
どのようなことに使われるか、具体例を示しながらお話しします。
近年「がんは治る病気」とも言われ、現に1992年から2014年までの間、がんによる死亡率は大きく減少しました。
しかし、命が奪われなくても不自由に苦しんでいる患者さんは多くいらっしゃいます。
例えば、左の方は乳がんの手術でがんの組織を取り除くことはできましたが、乳房を失いました。
また右の患者さんは、がんの治療の過程でリンパ管と呼ばれる組織がダメージを受けて、リンパ液が流れなくなり貯留し、むくんでこのような腕になりました。
このような方々も、マイクロサージャリーの技術を活用すると治療が可能です。
例えば、左の方はお腹の脂肪組織を胸に移植して、血管同士をマイクロサージャリーの技術で繋ぎ合わせることで、再度乳房を取り戻すことが可能です。「乳房再建術」と呼ばれます。
また、右の患者さんはリンパ管と近くにある静脈等をマイクロサージャリーの技術で繋ぎ合わせることで、再度リンパ液の流れを取り戻し、むくみを劇的に軽減させることが可能です。「リンパ管静脈吻合術」と呼ばれます。
他にも、脳血管のバイパスや切断してしまった指の再接着など、人の生活の質(QOL)や予後を劇的に改善させるための手術には欠かせない技術です。
マイクロサージャリーの普及に4つの課題
しかし、マイクロサージャリーには技術的な困難という課題があります。
皆さんも、針の穴に糸を通す際に、手が震えて難渋した記憶はあるかと思います。
これはマイクロサージャリーにも言えることで、例えば、細かい作業をするときに発生する手の震えを制御しつつ、正確かつ細かな器具の操作を覚えることは非常に困難です。
あるエキスパートの医師の声によりますと、習熟にはトータルで10,000時間、1日8時間としても40歳前までの集中的な訓練が必要とされています。
また、指導医と呼ばれる一定の技量を持った医師の数も、医師全体の中で0.1%とごく限られています。
また、実施できる医師も決して楽々やっているわけではなく、例えば、無理な体勢を強いられるなど体の負担が大きく、実に78%の医師が何らかの筋・骨格系の疾患を抱えているという研究結果もあります。
また、近年日本では働き方改革の影響で、こういった訓練に割く時間も確保しにくくなっているという実情があります。
コア技術「微細作業用マニピュレータ」
現CTOで共同設立者の小栗(晋 氏)は、九州大学病院で研究員をしていた際に、こういった課題を上司から聞き、高速度・高精細なロボット支援システムがあれば課題の解決が可能と考え、2013年から開発に着手しました。
そして、このような装置を開発しています。
右がロボットの本体、左がメインコンソールという操作用の装置です。
ロボットの本体に搭載されたビデオ型の顕微鏡の映像をメインコンソールのディスプレイに映して、その映像を見ながら医師が操縦桿を操作しますと、その入力に従って忠実かつ手ブレを制御しつつ、動作を縮小化してマニピュレータが再現します。
この先端の「微細作業用マニピュレータ」が私たちのコアの技術で、リニアモータを使って角度を調整することで、高速度かつ高精細の動作を可能にしています。
また先端の捻りや開閉には液圧を用いることで、柔らか、かつ高出力の動作を可能にしています。
直径0.3mmの人工血管を人の手に代わり縫合
メインコンソールの操縦桿は、あたかもピンセットを操作するように操縦してもらいます。
すると、ロボット本体のマニピュレータが動作して、手術を実施します。
この時は直径0.3mmというシャープペンシルの芯ほどの太さの人工血管を縫い合わせる作業をしました。
皆様にご回覧頂いているのがその実物ですが、画面の右にある1目盛りが1mmなので、いかに小さいものかということがご想像いただけるかと思います。
▶️編集注:審査員席には直径0.3mmの吻合練習用人工血管のサンプルが配布されました。
このように、マニピュレータが人の手に代わって動作を縮小化し、針と糸を通して結び目を作る作業を問題なく実施して、模擬血管同士を繋ぎ合わせることにも成功しています。
この装置があると、今まで年単位でかかっていた習熟期間が時間単位に短縮できますし、ロボットの支援で取り組む医師が増えると、治療できる患者さんも増えると考えています。
また、ロボットが無理な体勢を代わったり、1人の特定の医師への集中を避けることで、例えば、1日2例だった手術が3例できるようになったり、医師の職業寿命の延長に繋がるなど、身体の負担軽減に繋がるとも考えています。
また、ワークシェアリングで生産性の改善も期待できます。
2025年に国内、2027年に海外での販売を目指す
2013年からこのような装置の開発に着手し、途中技術的な課題もありましたが、ブレークスルーがあり、現在は問題なく1mm未満の血管も操作できるようになっています。
今後は2025年に日本での販売を開始し、2027年に海外での販売開始を目指していきます。
現在、実施できる医師が限られているため、マイクロサージャリーの症例数は限られていますが、今後もしロボットの支援で取り組む医師が増えて症例数が10倍になったとしても、まだ潜在的な患者さんは多くいらっしゃるので、潜在的な市場は大きいと考えています。
導入当初は日本の大学病院からターゲットとして始めて、その後症例数の多い総合病院に展開させ、地理的にはアメリカやアジアパシフィックの大規模な病院に展開させることを目指します。
その後は第2世代の製品を開発して、例えば、3本目の腕を付けることで助手の役割をさせて1人で手術できるようにしたり、遠隔手術で対応できるようにしたりと、付加価値を高めることで世界の病院への導入を目指していきます。
導入当初は安全性や有効性のエビデンスの構築が真っ先に必要ですが、それが確立できた後、売上を大きく伸ばして、2030年には年間販売台数100台、200億円の売上を目指していきます。
マーケティングのプロと機械設計エンジニアが共同創業
私はもともと医療機器等の販売マーケティング等に長年携わり、小栗の開発プロジェクトに2018年から携わるようになりました。
また小栗自身はもともと機械設計のエンジニアで、2013年から九州大学病院で医療機器の開発に携わっています。
共同で2021年3月に、F.MED株式会社を設立しました。
その後坂野(さくら 氏)という薬事担当の者を加えて、この3人をコアメンバーとして現在事業を運営しています。
小さなスタートアップが不自由を解決する力に
最後になりますが、命があっても何らかの不自由を抱えている患者さんは世の中に多くいらっしゃいます。
私たちは非常に小さなスタートアップの会社ですが、そういった不自由を解決することを、我々が何らかの形で助けることができればという思いで活動しています。
皆様といろいろお話しできましたら幸いです。よろしくお願いします。
どうもありがとうございました。
(終)
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編集チーム:小林 雅/浅郷 浩子/森田 竜馬/小林 弘美/正能 由佳/戸田 秀成