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過去最多18社が参加! 伝える力を磨き、課題解決の仲間を増やすフード & ドリンク アワード

9月1日〜4日の4日間にわたって開催されたICC KYOTO 2025。その開催レポートを連続シリーズでお届けします。このレポートでは、クロマニヨン小柳さんが八女茶の出品で優勝を飾った、フード & ドリンク アワードの模様をお伝えします。過去最大数の18社が参加し、ますます盛り上がるこのアワード、参加者と参加企業の双方から体験価値を考察してみました。ぜひご覧ください。

ICCサミットは「ともに学び、ともに産業を創る。」ための場です。そして参加者同士が朝から晩まで真剣に学び合い、交流します。次回ICCサミット FUKUOKA 2026は、2026年3月2日〜3月5日 福岡市での開催を予定しております。詳しくは、公式ページをご覧ください。


ICC フード & ドリンク アワードとは

ICCサミットに参加している方にはすでにおなじみとなった、全国からの美食が集まり優勝を目指す、フード & ドリンク アワード。もしご存知ないならば、前回のICC FUKUOKA 2025のドキュメンタリーをご覧いただくのがわかりやすいかと思う。

それは全国津々浦々で日々、想いを持ったものづくりに励む生産者が集う場であり、それを味わってもらい・味わえる場であり、同じような志を持った仲間と出会う場である。作ることと届けることのこだわりと課題を語り合い、審査員をはじめとする”食べる人”のリアクションを直接見られるという貴重な場でもある。

当日を迎えるまでのさまざまな準備や、2日間の過酷な審査&プレゼンのレース、交流会などを経て、作るものは違っても生産者たちには仲間意識が芽生え、終了後に訪問したりコラボ商品が誕生したりもする。このアワードでプレゼンを磨いて、後日さまざまな場面で活用いただいているとも聞く。

今回のテーマは「食は消費ではなく、生産者への投資」 

前回のICC FUKUOKA 2025で過去最高の盛り上がりを見せたフード&ドリンクアワードの運営チームには、今回新たな試練が課されていた。出展が前回から3社増えた過去最多の18社となり、1会場では収まらず、2会場での運営となった。加えて要となる運営メンバーが卒業となり、新たな布陣でのチャレンジとなった。

そんな中でも、素晴らしい生産者たちを応援したいという気持ちは回を重ねるごとに強まっており、今回は、カタパルトでお馴染みの必勝カタパルトワークショップのフード&ドリンク版がオンラインで開催されたり(下写真)、アワード前日には会場にてプレ審査会も行われた。

スタッフ発案で、出展企業のSNSやオンラインストア情報をまとめたNotionページも事前に作成され、興味を持ったらすぐ購入につながるような仕組みも整えられた。

会場でおにぎりのビジュアルのサインボードを見た人も多いかもしれない。そのQRコードを読み込むと、上のページが開くようになっていた。今回のテーマは「食は消費ではなく、生産者への投資」であった。

素晴らしい味やものづくりは大前提のうえで、作り手のメッセージや理念も伝わるのがICCアワードの大きな特徴である。今回のテーマに沿って言うならば、私たちが食べるときの選択は、生産者が伝える未来、取り組む課題解決への投資である。味わいながらも、それを生産者から直接聞ける場である。

出品されたフード&ドリンクの詳細については、上のサイトをご覧いただくのが一番正確かと思うが、生産者たちは、アワードでの出品を通してどんなことを考え何を課題とし、どんなことを求め、伝えたいのか。また、このアワードならではの体験価値とは何かを、出展企業の話や交流会から追った。

体験価値①生産者の取り組みを直接聞ける

地域課題を学ぶ大学生が猟師に

審査員のKurasuの大槻 洋三さんに、どのブースが良かったかと聞いたときに、名前が上がったRE-SOCIAL(京都鹿肉専門やまとある工房)の笠井 大輝さんは、大学で街づくりを研究していたときに知った『獣害被害』がきっかけで創業、日々ニュースを騒がせる野生動物との共生に食を通じて挑んでいる。

「正月の三が日に畑に行かなかっただけで、人参が2トンなくなった話を聞きました。京都は適正数の約7倍〜9倍いるので、まずはある程度減らし、毎年1.3倍ずつ増えるその0.3を獲り続けたら、生態系サイクルは元に戻る。そこで僕たちが一番課題意識を持ったのが、駆除された9割がただ捨てられることでした。

裏山の25mぐらいの穴に動物の死体が一面に広がっているんです。それを見てこのまま放っておけない、せめて美味しく頂くことができないかと、会社を立ち上げました。シカは臭みが強いイメージがありますが、処理の仕方で全然違うので、美味しい食べ方をまず研究。自分たちが猟師になり獲るところから、解体し販売するまで一貫して行っています」

長野の名産物、おやきが生き残る文化になるために

いろは堂伊藤 拓宗さんは、量産され低価格で売られるおやきを、特色ある長野の文化、手仕事として残したいと話す。

「おやきは150円前後で売っているところが多く、地元ではおそらく100社ぐらいある。兼業が多くて、少なくとも10年後には半分になります。小さい事業者さんが大多数、高齢の方が多くて、継ぎたくない仕事になっている。かといっていきなり値上げすると、お客さんも離れてしまいます。

バリエーションがあってそれぞれの個性がある、というのは文化を作っていくと思う。先に続けるため、人を雇用をするために、自分たちの品質へのプライドと、ブランディングを含めて倍近くに値上げをしています。そこまで行ける自信があったので勇気を持って。そうでないと産業にならないので」

りんご農家が取り組む、りんごの甘いだけじゃない多様性

食べチョクAWARD受賞歴の常連でもある

安曇野ファミリー農産は、食べチョクで人気の、珍しい夏りんごの生産者。中村 隆一さんたちは、100品種以上試した結果、30品種の本当に美味しいりんごを作っている。その目的は、りんごの多様性を実現したいからである。

「今販売されているりんご(取材時は9月)は、11月に収穫して、長期保存されて食感がスカスカした食感ですけど、私たちはシャキシャキしたりんごをお届けしたい。

それに甘いほど美味しいっておかしいなと思っています。甘いから美味しい、蜜がたっぷりだけじゃない多様性を、私は酸味のあるこれが好き、僕はこれが好きっていうものを楽しめるようにしたい」

なお、りんごは国内で2,000品種もあるが、流通している品種は4品種8割で、50年以上変わってないそうである。交流会のときは、海外の品種を育てるときにはライセンス量が発生するが、日本で開発したりんごにはそれがないという問題提起もされていた。

集落を残すため、未利用資源を活用する平飼い養鶏

平飼い鶏のゆでたまごとその卵で作ったマヨネーズを出品

点々羽田知弘さんは、「鶏は中山間地農業の救世主」だと思い、平飼い養鶏を初めて1年弱。その本当の自給率に疑問を抱き、養鶏のサーキュラーエコノミーで地元を残すことに挑んでいる。

「日本人は年間320個、ほぼ毎日卵を食べていて、世界第4位の消費量。卵の自給率は97%ですが、飼料の自給率を考慮すると12%しかない。本当に輸入した配合飼料に頼らないと畜産できないのか、そうじゃないだろうと、地域で規格外のお米とか豆腐工場のおからや米ぬかなどいろんなものをかき集めて、鶏に卵を作ってもらっています。

鶏の糞は通常産業廃棄物ですが、隣の田んぼで農家さんに使ってもらい、一緒に卵かけご飯のセットを作っています。なぜやるかと言うと、この半径1kmの集落があと10年ぐらいしたら多分なくなってしまう。僕が住んでいる集落がなくなっちゃうのが悔しくて、産業と雇用を作ろうとやっています。

今は600羽で飼育しているけど、あと2年で3,000羽にする。そこまでなら餌の半分を地域の未利用資源で回せます。その後は耕作放棄地が余っている場所に展開していく。餌の作り方も飼育の仕方も全部オープンソースで共有します。だから一緒に養鶏をやりませんか?田んぼ1枚、1反で米を育てるより耕作放棄地で100倍の価値が出せるし、誰も文句を言いません」

八女伝統本玉露には、高価なワインと並ぶ価値がある

クラフトビールの製造者や茶道家などプロが審査員

クロマニヨン(八女茶)小柳さんは生産者ではない。八女市役所から八女茶のブランディングの依頼を受けて携わるようになった。

「ずっと福岡に住んでいて、八女茶は飲んでいたんですけど、『八女伝統本玉露』を飲んで、こんな世界があるのかと驚きました。日本茶も本気になればここまでできる、これを少しでも残していきたいという気持ちで参加しています。

八女茶は2%ぐらいの小さな生産地なのに、すごい賞をたくさん取っている。それは600年間、質にこだわってきた生産者たちの努力によるものです。普通の玉露の畑はかまぼこ型のような形に切り揃えますが、八女伝統本玉露は木を自然に伸ばし、ビニールではなく天然のワラの屋根を敷き、手摘みで2枚だけを取る。そんな気の遠くなるような作業をずっと続けています。

両方とも2万円の価値はあるのに、ワインと日本茶では、ワインだけが価値が高いという意識を皆さん取り払って、世界に日本茶を紹介してほしいです」

体験価値②新しいフードの提案、出会いがある

トルティーヤへのワクワクだけで工場も農場も作るインテリア事業者

新しいものに出会える楽しさを提供したのが、NewClassicyuppa。まずは日本に入っているけれども、誰もが知っているとは言えないトルティーヤのNewClassicから。

東京でのフード & ドリンクのアルムナイイベントにも参加して、「トルティーヤを日本の主食にしたい」と意気込んでいる。メキシコで食べたおいしさが忘れられず、日本でも作り始めたというピュアな動機だ。

「そのときに、吉野家さんが牛丼をアメリカで普及させるのに40年というのを聞いて、もっとかかりそう、思ったより難しそうと思ったんですけど、それと裏腹に皆さんの反応がいい」

本業はインテリアのデザイン&製造業。しかし「なんかもうワクワクだけで突き進んでいて、工場も作って、来年から農業もやるとか思ってなかったです。トルティーヤは1カ月2万枚売れていて、それぐらい需要があるんだなっていうのを感じてます」と笑顔だ。

「本場の味を再現できる在来種を2カ月前に見つけたんです。前回アワードに出てたアットホームサポーターズの保坂(幸徳)さんの村に滅びかけのものがあって、滅びるのが悲しいから、畑に撒いてるんだよねみたいな。本当それぐらいな感じで生き残ってる品種なんです」

酒蔵が仕込みに使う米作りを始めるように、シェフが料理に使うハーブを育てるように、片山さんたちは本場の味を求めて在来種のトウモロコシの生産に着手する。このピュアなワクワクが、種の絶滅を救うことになるかもしれない。

老舗タッグで生まれた新感覚ファストフード

「湯葉に」の𠮷田さんも一緒にポーズ

yuppa渡邊 尋思さんが出品したのは、茶そばや野菜を生湯葉でくるっと包んだ、高タンパクのワンハンドフード。なんと名料亭京都『菊乃井』のレシピ開発、湯葉は明治38年創業の『湯葉に』の提供で、味はお墨付き。渡邊さんはグリコを辞めて、中高校時代の同級生と、年内にも表参道の出店に挑戦する。

「一番最初に行ったお店が『湯葉に』で、社長の𠮷田さんと出会いました。孫のようになっていますが、おばあちゃんと呼んだら、お姉様だと言われました(笑)。でもターゲティングとか普通に言っていて、すごいんです。菊乃井さんとは、LinkedIn経由の紹介で」

資金調達もでき、とんとん拍子に進みすぎているため、今回のアワード出展でむしろ店舗の開業が遅れそうだという。

「11月末オープンではなく、12月頭くらいになりそう。これは勝つことでしか慰められない。僕らはブランディングで行くことを最初から決めているので、入賞を狙っています」

体験価値③共創にオープンな環境がある

審査時間外に行われた出展企業同士の交流会の様子

 出品されたものはいずれも質の高いものばかりだが、参加企業の多くは、いかに未来へものづくりをつなぐか、新しい価値を生み出すかという課題を共通して持っている。今回出展企業同士の交流会では、課題に加え、助けてほしいと思っていることの共有が推奨されたため、様々な声が上がった。

自慢のナガノパープルのハイクラスな販路を求む!

日本の航空会社ファーストクラスで提供されている自慢のナガノパープルを持って参加した ZERO(EGAO FARM)青木竣平さんは「生産者の石橋さんは、一般的なぶどう農家の1/4しかない規模でこだわりを極めたものづくりをし、サンプルを提供すれば断られたことがない高い品質を誇ります。そんな職人の価値を高めたいし、それが世界にどこまで通じるか挑戦したい。

もしお力添えいただけるならば、ミシュランや、5つ星ホテルなどと僕たちを繋げていただきたい。お取引ができたらと心の底から思っています」と訴えた。

醤油味噌の蔵がつくる、糀と果実のお酒で地域コラボを!

ビール造りを営むプロ審査員たちにプレゼンする山本さん

ヤマト醤油味噌の山本耕平さんは、金沢の本社醸造所の敷地内にある「金沢天晴山藤濁酒研究所」で、発酵文化をテーマにした「ヤマトどぶろく」の事業化を進めている。経営を志す中で、営業現場に立ち、自ら販路を開拓している。会場では、「地域の発酵文化を次の世代へつなぐための挑戦」として、糀と果物を使ったどぶろくの新規事業を紹介した。

「第一弾として糀と柚子をたっぷり使ったフルーティなどぶろくができました。楽しく飲めて、からだの内側からの美を考えたお酒。柚子の次はカシスを商品化します」

地域の農産物には、健康に良いポリフェノールを含む素材も多い。糀と果物の出会いは、誰も見たことがない新しい発酵文化につながる。生産者の多いこの会場で、「集まった皆さんと、糀を活かして商品開発をしたいです」と、山本さんは呼びかけた。

「ぐるりこ」のコラボ先を募集中!

交流会でスタートアップ・カタパルト優勝を告げると、展示企業がみんな拍手!

ASTRA FOOD PLAN加納 千裕さんは、「『ぐるりこ』という名前は、循環型を作るための粉というネーミングで、カレーに入れれば飴色玉ねぎの代わりに、納豆に合わせたり、今回の出展者さんならば、焼肉のタレに入れたり、ハンバーグの中に入れたり、おやきの中に入れても美味しい、いろんなコラボレーションができる商品です。

ビールを醸造する時に使うホップの搾りかすも香りを残したまま乾燥ができるので、もう1回ビールの醸造に使えます。それがクラフトサケの原料になり、稲とアガベさんの商品にも(「【稲とアガベ】花風ぐるりこ ※2025年10月現在売り切れ)。装置や食品の提供、マッチングによっていろんな新しいアップサイクル食品を作り出すことに挑戦しています。ぜひコラボを」

新概念のフードをともに営業しよう!

The Rice Creameryを審査する、るうふさんと熱燗DJつけたろうさん

素材で共創の呼びかけの他に、営業コラボの提案をしたのは、お米からクリーミーなアイスクリームを作るKinish橋詰 寛也さんだ。今年から本格的な発売を開始している。

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「新しいフードや植物性って、1つだけじゃなくコラボで行ったりすると、結構そのままセットで店舗に取り扱っていただけたりする。ぜひ一緒に営業行きませんか?」

四毛作も土壌改良も可能な薬草で、ともに商品開発を

フルーツが作物のグァバは、葉のお茶としてもトロピカルな味が楽しめて、付加価値を生む

日本の薬草文化を広めるため、TABEL新田理恵さんは農業従事者の多い出展企業たちに新たな提案をする。その視線の先には、薬草を作る生産者たちの収入を上げたいという目標がある。

「日本は二毛作が多いと思いますが、中米グアテマラのマヤ民族の人たちは、古代から四毛作をやっています。単純に生産量2倍にすることができますし、間に野草などの栽培を入れることで土壌が回復する。肥料など使わずにもっと豊かな大地にしていくサステナブルなことができます。

そういった薬草と一緒に栽培してみようかとか、自分たちが作っているものの間になど、そういったコラボができれば嬉しいですし、野草の調達もできます。ぜひ一緒に商品開発やハーブ開拓などお願いいたします」

ICCは本当に共創が生まれる場。ぜひ交流を深めて!

アワード名物の“肉おじさん”門崎の千葉さんは、毎回の自身のチャレンジに加えて、この場の共創を促すことにも熱心に取り組んでくださっている。

「過去にICCで出会った方々、GREENSPOONさんとコラボしましたし、ベイシアさんとは相木(孝仁)社長とICCで出会って、そこから商品化されています。サイボクさんともICCで『ああ、千葉さん、やっと出会えました』みたいな感じでした。ICCは本当に共創の場なんです。

ぜひ皆さん、自分の商品の発表も重要なんですが、アイデアが結構重なってたりするから、そういうところを融合すると本当に共創することができるので、ぜひ皆さん交流を深めて、この価値を最大にしてもらえるといいと思います」

F&Dアワードの特徴④助けを呼びかけられる

瀬戸内は頭島でオリーブオイルを作るkashirajimaoliveと、奈良で柿や梅の生産加工を営む農悠舎は、ともにこだわりゆえの収穫の悩みを持つ。

求む!オリーブの手摘みを手伝ってくれる人

地域おこし協力隊として2018年に頭島に移住してオリーブを植樹し、2024年に初めて収穫したという山本 剛さんは言う。

「収穫がめちゃくちゃ大変なんですよ。全部手摘みです。手摘みが一番本当に傷つかないですし、一番いい状態で搾れますので、もし興味がある方がいたら、摘むのを手伝っていただけたら(笑)。去年は本当に取り残してしまっています。

時期は10月に入ったらです。効率は非常に悪いですけど、外からの人と地域の人のミュニケーションの最高のコンテンツだと思ってますのでよろしくお願いします」

求む!梅と柿の収穫・摘蕾を手伝ってくれる人

柿をセットすると、くるくると皮をむいていく装置に歓声が上がっていた農悠舎。奈良県五條市は全国1位の柿の産地で、小梅の生産も行っている。和田 ゆかりさんの前職はICCでもおなじみ温泉道場だ。

「梅の収穫や、枝にできた蕾を一つずつ手で落としていく摘蕾は全部手作業で、しかもすごく急斜面の場所でやっています。一気にその作業をしなきゃいけない5月から6月にかけて、私たちも援農で来ていただくことをお願いしたいです。

誰でも簡単にできる作業なんですけど、手間がかかります。柿山の上にグランピングレストラン、カフェ、交流体験の場も作っております。商品を食べていただくだけじゃなくて、産地に足を運んでいただくのが、一番私たちにとって嬉しいことですので、産地でお待ちしております。

あと、小梅の収穫も5月にあります。選果は6月にひたすら10時間、ずっと流してます。ぜひその際もお手伝いいただければと思います」

自然を相手にする生産者の苦労がぐっと身近になるこのアワード。ちなみに和田さんに美味しい柿の選び方を聞くと、「実は柿は青くても甘いってことを、ぜひお伝えしたい。今まで受けた温度を足し合わせた、積算温度で甘味って決まるんです」と教えてくれた。

体験価値⑤出展での気づき、試合のような切磋琢磨

伝えたいことをわかってくれる人との出会い

宝牧舎山地 竜馬さんは、ブランド牛ではなく、一頭一頭名前をつけた牛を放牧で育て、それを屠畜場で肉にして販売している。その命を理解して、美味しいと食べてもらうことで、無駄な命がなくなり、動物を救うことができると考えている。しかしプレゼンに葛藤を感じているようだった。

「サステナブルでフェアネスなお肉ですと伝えたら『あっ、美味しいな、サステナブルだ』だけど、ジャージー牛、ムサシのお肉ですと言ったら、みんなが『かわいそう』と、ちょっと引くんです。投票となると、言わないほうが点数は上がるんですよ。でもそうしたらこの牛は、救えないんです」

「一番伝えたいのは、食べるお肉は命だということ」と言う山地さん、審査員の一人の言葉に心を動かされたとも言う。

「それを言ったほうがいい、生命、生きてるっていうこと、名前つけて大事に育てて、それを売っている、それを自分たちがやっていると言ったほうがいいって言った方がいて、すごく印象的でした」

自分たちが伝えるときに、何が響いているのかがわかる

ゆうぼく岡崎 晋也さんはアワードの学びあいやフィードバックの仕組みに手応えを感じているようだ。2日に渡るアワードで、運営チームは1日目の審査会が終わった後、出展企業毎に1日目の審査会の得票数と審査会でのプレゼンを録画して、動画を共有している。

「ここまでフィードバックというか、自分たちの商品に対して振り返る機会がなかったので、その点はすごく面白くて、学びになるなと思ってます。一番分かりやすかったのは、スコアで書いてもらえるところです。

サスナビリティとアルチザンといった項目があるんですけど、自分たちの伝えているところで、何が文脈として響いてるのかがわかる。もうちょっとこうしたほうがいいとかっていうところも確かにそうだと思いながら、わが身を振り返る機会になっています」

プレゼンで楽しませるだけでは審査員に通用しない

ICC初参加で、沖縄からやってきた大人気の丸焼きチキン店、世界のブエノチキン浅野 朝子さんも、展示即売会とは異なるアワードのプレゼンに、必死で取り組んでいる。

「昨日の中間発表で突きつけられたのが、なんか楽しませるだけじゃダメなんだっていうこと。それに気づいて、プレゼンを研ぎ澄ませて、3分に集約するっていうのがめっちゃむずいです。

取材に答えてくださったブエ子さん(写真左)

みんな真剣にちゃんと準備してきてるのがひしひしと感じられるので、普段経営者同士でコミュニケーションを取ってるのとは違う、本当に試合してるというか、いい切磋琢磨。全員いいのにさらに磨きかけて、すごいなと。ノリだけは自信あるんですけど、審査側のノリだけでは判断しないっていうのがシビアだな」

アワードの最高の盛り上がりはファイナル・ラウンド

ICCサミットのDAY1とDAY2の審査会を駆け抜けて、DAY2の最後の時間帯にはいよいよ部門賞の発表があり、各部門の1位入賞者だけが進めるファイナルラウンドにて優勝が決定する。フード & ドリンク アワードの最も大きな魅力は、実はこの出展企業たちと審査員たちが集まるこのファイナルに凝縮されているのではないかと思う。

このファイナルの冒頭、部門賞発表のときから会場は熱狂的な雰囲気に包まれる。2日間、想いと美味しさを伝え続けた出展企業の方々は、それが報われることを熱望している。入賞が発表されると渾身のガッツポーズが出るし、仲間を心から讃える拍手の音が大きくなる。

・美味しさ部門

 1位 クロマニヨン(八女茶) 2位 ZERO(EGAO FARM) 3位 世界のブエノチキン

サステナビリティ部門

 1位 ASTRA FOOD PLAN(ぐるりこ) 2位 点々 3位 RE-SOCIAL(京都鹿肉専門やまとある工房)

・アルチザン部門

 1位 クロマニヨン(八女茶) 2位 ZERO(EGAOFARM) 3位 ASTRA FOOD PLAN(ぐるりこ)

・ブランディング部門

 1位 クロマニヨン(八女茶) 2位 世界のブエノチキン  3位 点々

・想いへの共感部門

 1位 点々 2位 世界のブエノチキン 3位 クロマニヨン(八女茶)

・審査員賞

 1位 クロマニヨン(八女茶) 2位 点々  3位 Kinish(The Rice Creamery)

オーディエンス賞

 9月2日 1位 ゆうぼく  2位 世界のブエノチキン  3位 yuppa

 9月3日 1位 ゆうぼく  同率2位 yuppa、門崎(格之進) 

今回はオーディエンス投票が両日合計で704票が集まり、以上の結果となった。ICCサミットに参加している合計が約1,400名のため、その約半数がメイン会場から離れた葵殿の会場に足を運び、投票したというのは驚異的ではないだろうか。

各部門賞の1位の4人で記念撮影

部門賞の集合記念撮影から、温かい拍手が鳴り止まない。司会がそれをなんとか制して、続いてファイナリスト進出6企業が発表となった。今回はオーディエンス賞も含む7つの部門賞の1位が6社とならず重複したため、オーディエンス賞2位以下の企業の中から、審査員投票総合の平均点が高かった世界のブエノチキンとKinishもファイナルへ進出した。

ファイナリストの6社

ファイナル・ラウンドの見どころはここからである。キックオフの1分スピーチも、アワード審査のプレゼンも素晴らしいのだが、ここでの3分スピーチは本当に見もので、ファイナリストたちの本当に伝えたい思いが溢れ出る。6社のスピーチをダイジェストで紹介しよう。

ゆうぼく岡崎さん「畜産を希望に満ちた業界にするために挑戦する」

ゆうぼく岡崎 晋也さんは、農業に取り組むに至った経緯を語った。以前は好きではなかった日本を海外から見つめたときに、その魅力を再発見し、自分にできることを考えたそうだ。逆風にさらされながらも、若いパワーとポジティブなメッセージが鮮烈な印象を与えた。

「近年、畜産業界は餌代高騰で本当に厳しい状況に立たされています。例外なく私たちもその現実に直面しています。牛を育てれば育てるほど赤字になる悲惨な状況です。そんな状況だからこそ私自身生産現場に入り、そして試行錯誤を日々重ねています。

そこで気づいたのが、農業畜産という仕事が、こんなにもクリエイティブでこんなにも頭を使うことなのかという驚きでした。

国産飼料へのシフト、ITを使った牛の管理、生産者自らが海外輸出の営業を行うことなど実現が難しいと言われ、私の周りでは誰も挑戦していなかった取り組みです。それでも私たちは挑み続け、何とか、何とか形にしました。

その達成の喜び、そして無限の可能性を私は日々実感しています。だから私はこの仕事が大好きです。厳しい毎日ですが、牛の姿に癒され、そして困難に一緒に立ち向かっている仲間たちにも私は恵まれています。

だからこそ、これからも変化を恐れず挑戦し続けます。そしてかっこいい農業を実現し、希望に満ちた世界に誇れる業界にしていくこと、それこそが私たちが日本にできる最大の貢献だと信じています。この状況を必ず乗り越え、これからも未来を切り開いていきます。応援よろしくお願いします」

世界のブエノチキン ブエ子さん「はじめはやることなすこと大赤字。今は毎日300羽焼いています」

見るからに元気いっぱいの世界のブエノチキンブエ子さんは、落ちないテンションで店の波乱万丈記を語った。大変な話なのにあまりに表情豊かな語りで、タイムオーバーが知らされたとき、そこからの逆転ストーリーをもっと聞きたいのに、と感じたのは私だけではないだろう。

「ハイタ〜イ! 沖縄から参りましたブエノチキンという謎の名前のお店をやっている社長、ブエ子と申します。お父さんお母さん見てますか? みんなに美味しいと言ってもらってます!ここまで来ることができました。

このブエノチキンというお店が始まったのは43年前、私が生まれた年でした。その当時、1日10羽とか20羽くらいしか焼かないような店でした。今では毎日300羽を焼いてます。

今は笑い話ですが、母によく、おばあちゃんの家で寝てるあんたを迎えに寒い夜道をスクーターで走って涙が出たわ、と聞かされました。今ではお客さんがたくさん来るお店になり嬉しそうにしていますが、夜中もニンニクの皮むきをしたり、1日中苦労して働いている両親を見て、私はこんな商売を継ぎたくないと30歳まで思ってました。

継いだきっかけは、父の体調不良でした。足が悪くなって、もうお店ができない。その時はクリスマスに売り上げを作るという商売体制だったので、クリスマスに売り上げを取れないともう立ち行かない。どうしようかなというのを盗み聞きしていた私は、これは私の出番だと思って、後を継ぐことにしました。

偉そうに、両親を助けるんだ!とお店に入ったんですが、やることなすこと大赤字。ちょっと忙しくなると親を馬車馬のように働かせる。そんな風にもう苦労をかけてばっかりの娘です。

テイクアウト専門店だったのをイートインを開ける挑戦をしたときに、そんなニーズあるわけないと親戚中から大反対にあいました。それでも私は後継ぎとしてお店に入った時に、焼きたて熱々のブエノチキンってなんて美味しいんだと衝撃を受けて、絶対売れるというプレゼンをして、自分のお金だけでやるからと、しぶしぶ開けてもらいました。

開けてみると同時に妊娠するという衝撃の展開が起きまして、ろくに開けずにフェイドアウト。さらに大赤字が5年続きました。なので親が足痛いなとか言いながら頑張って営業してるのを、妊娠している私は子育てとか言って逃げながら、大赤字で利益を食い潰すという恐ろしい経営をしておりました」

ASTRA FOOD PLAN加納さん「食品の製造販売業も始めた理由は、産業創出のため」

「カタパルトは競争という感じでしたが、アワードは、みんなで一緒にイベントやっているという感じで、あまり争いというか競争という感じは全然しなくて、ともに作るの方の共創をすごく感じています」と話し始めた加納さんは、このアワードに出たきっかけを語った。

「カタパルトでは、会社が隠れフードロスを解決するために機械を開発したというところからスタートしているんですが、なぜ私たちがこのアワードに出ることになったのかという、『ぐるりこ』誕生秘話を、今日はお話しします。

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もともと過熱蒸煎機という機械は、うちの父が長年やっていた技術をベースに私が新しく作り替えました。これで『かくれフードロス』と私が呼んでいる食品残さをたった10秒で乾燥してアップサイクルする装置として、メーカーさんに販売ができると考えていました。

めっちゃ売れると思って事業開始したんですが、メーカーさんにご提案したところ、みなさんのニーズは残さの廃棄コストをなくすというニーズで、それを使って美味しい食品を作ろう、アップサイクルしようっていうニーズや思いはなかったんです。

そこでレンタルで機械を提供して、出来上がったものを全量買い取るという一大決心をして、このビジネスモデルを作り上げました。全量買い取りはかなりリスクが高いんですけれども、アップサイルするためには、誰かがリスクを取らないといけない。それなら私が今、取るしかないという決断をしました。

それまでは名前もなくて、機械の販売業から食品の製造販売業にも展開することになったので、循環型を作るための粉、ぐるりこという名前を付けて提供開始したんです。ですから私がここに、フードの人として立っているのをすごく感慨深く感じています。

今まで食品残さは捨てるルートしかなくて、食品として生まれ変わっていく道はなかったし、今もまだない状態。市場のない産業を作っていくためには、まだまだ仲間がたくさん必要です。そのために私は今、アップサイクルフード協会の立ち上げの準備をしています。

年間2000万トンという膨大な量のかくれフードロス、私たちだけでは解決ができません。皆さん、一緒に取り組みを進めていきたいので、アップサイクルフード産業を一緒に作っていきましょう!」

Kinish橋詰さん「人生に必要なのはちょっとした希望。フードはその役割を担える」

特別に開発したコメで、植物性のアイスクリームを作って世界に打って出る橋詰さんは、優れたビジネスパーソンの印象が強いが、極めてパーソナルな話からスピーチを始めた。高校へ行けず、社会人にもなれず塞ぎ込んでいた家族が、食べ物の力で笑顔を取り戻したという話だ。

「僕はそれを見て、人生に必要なのはちょっとした希望なんじゃないかと、それはフードがすごく大きな役割を担ってるんじゃないかと思って、僕は人生をフードにかけようと思ったんです。

ところが、美味しいものを届けようと頑張っていたところ、そんな簡単じゃないという世の中でした。生産者も足りなくて、何より地球が温暖化してもうものが作れない状況が近づいています。僕は次世代に、そういう美味しいものが残せなくなるんだと考えたとき、すごく恐ろしくなりました。

今日はダメだったけど明日生きてみようと思う人が減るかもしれないと思ったからです。だから僕は、この日本の米の力を信じて、それを世界中に広げて、地球の裏側にいる人も今日はすごい辛かった、明日生きたくないという人も明日生きてみようって思えるような世界を作りたいなと思っています。

身の周りのことだけじゃなくて、地球の裏側の人もそうなってほしいんです。そういう人がいると考えるとすごく胸が苦しくなります。

今、フードは本当に難しい状況ですが、それでも日本のお米、日本の食自体がすごく大きな力があると思います。本当に地球を笑顔にすると思っているんです。The Rice Creameryはその第一歩です」

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点々 羽田さん「彼女たちが伝えつないでくれた集落のために、僕がやりたい」

「皆さんの顔、よく見えます」と、会場に集まった、2日間を一緒に戦った展示企業の仲間たちと審査員たちを壇上から眩しそうに眺めた羽田さん。この光景を「きっとずっと覚えています」と言った。

「養鶏業は、始めたばかりです。まだ実績も何もない。でも今日、僕らが描いた絵空事に、美味しい、共感するよって言ってくれた人がここにいたことが、すごく嬉しく思います。

今日、畜産とか農業をやられている方がたくさんいると思います。僕も未利用資源を活用した平飼い養鶏だと言っているものの、そんな甘い仕事じゃありません。

うんちまみれになる仕事です。技術がなかったら鶏が死んでしまう仕事です。捨てられるものを拾って餌あげて、お前儲かるな、ってそんなことも言われる仕事です。自分が住んでた集落で事業を始めるとなった時に、うるさくて臭くて汚い養鶏なんてやらないでくれと、そう言われる仕事です。

でもやっぱり鶏は中山間地農業を変えるポテンシャルがある、救世主になれる存在だと思って事業を始めました。

僕らの集落の話、ちょっとだけさせてください。20世帯40人の集落なんですけれども、86歳と92歳の女性がいまして、二人とも旦那に先立たれてシングルです。僕は結婚して4年半不妊治療していたのですが、ようやく子どもが生まれたんです。

今1歳半で、すくすく元気に育ってるんですけど、そのカオルさんとアズマさんが初めて僕の子供を抱いたときに『集落に生まれてくれてありがとう』って、言ってくれたんですよ。赤の他人にですよ、そんなこと言えますか? でも、おふたりとも10年後はいないんですよ。

彼女たちが伝えつないでくれた風景っていうのは、このままじゃ維持できない。だから産業と雇用を作らなきゃならない。じゃあ誰がやるんだって言ったら、僕がやりたいと。ここにいるスタッフのみんなとやりたいと。そう思って、1年前に事業を始めました。

なかなかうまくいかないこともあるんですけども、今日はすごく僕、勇気をもらいました、皆さんから。美味しいよ、頑張れって言ってくれたので、なんかもっともっとできそうな気がします。こんな機会を与えてくれて本当にありがとうございます」

クロマニヨン 小柳さん「日本の文化や誇りは、名もなき人たちが必死になってつないでいる」

「厳しい基準をクリアして気の遠くなるような手間暇をかけなければできないこの八女伝統本玉露というお茶は、いくら作っても採算に合わない商品なんです。

私が八女茶の仕事を始めた2016年、最初にお会いした伝統本玉露の生産者に宮原さんという方がいらっしゃいました。可愛い小柄なおじいちゃんだったんですけど、2回も日本一を取っているすごい方でした。僕は宮原さんにその時「そんな割に合わない伝統本玉露なんで作ったんですか?」って聞きました。宮原さんはこう言いました。

『これはね、作らないかんとよ』って。

それを聞いて、コスパとかタイパとか効率とか、そういうものを度外視して、日本のお茶の価値とか文化の誇りを作り続けないといけないんだぜ、って言われた気がしたんです。

それから9年、残念ながら八女伝統本玉露の生産者は数として半分にまで落ち込んでしまいました。その宮原さんも昨年亡くなられました。

僕は今、明確に言語化できます。タイパコスパ効率上等だと。要はそこにどれだけ大きな経済的な価値をつけられるのか、八女茶を作るっていう強い意味をどうやってつけるのかが僕の役割なんだと思っています。

宮原さんの死から1年、4日前に、お茶の品評会がありました。1位は八女の徳永さんという40代の若い人でした。3位に宮原ゆき子さんという名前がありました。宮原さんの奥様です。高齢です。それを周りの若い生産者や家族が支えて、あの宮原さんの畑を復活させて、日本3位にしてるんですね。

日本の文化とか誇りって、こういう名もなき人たちがマジで必死になってつないでいるんだなというのを、僕はこの仕事を通してすごく強く、いつも感じています」

審査員たちも生産者たちに心動かされる

こんな渾身のスピーチをされたら、審査員たちも黙ってはいられない。審査の集計が進む中、指名された審査員たちは、口々に、生産者たちへの感謝とともに、この2日間の体験で考えた事を語り始めた。

こんまりで知られる近藤 麻理恵の著書『人生がときめく片づけの魔法』のマネジメントやNetflixのシリーズのプロデュースなどで知られるTakumi 川原 卓巳さんは、今回から新たにこのアワードの審査員に加わった。

「自分が日頃、直接手を動かして関わっているわけじゃないので、審査をするとなると、すごくおこがましいなと思いながら来ました。

できることがあるならば、僕が一消費者として、そして日本だけではなく世界の日本を好きだという人たちと触れる人間として、本当に感じたことや思ったことをお伝えすることで、可能性や自分たちのポテンシャルをより知ってもらえるような機会になったらいいなと思ってやらせてもらいました。

本当に、皆さんめっちゃ美味かったです。どれも世界に行けるポテンシャルが必ずあります。僕が世界に行って感じるのは、日本の食のクオリティの高さは間違いなく地球でナンバーワンのものがあるということです。

ただそこに、明確にプロデュースやビジネスブランデングがなければ安い価値のままになり、未来を開いていくことができない。それを変えるために、ともにここにいる会場の皆さん、今回出られた皆さんで変えていけるなっていう確信が持てたことが、今回最も嬉しかったことです。

まさにICCのともに産業を創ろう、そしてともに未来を変える人たちが、ここに集まっているという事実が何よりの証拠だと思うので、今回初めてですが、この出会いから、ともにやっていきたいと思います」

五島列島なかむらただし社 中村 直史さんは、しみじみと語った。

「審査をさせていただきながら思ったのは、食というものは一瞬で人を幸せにする世界最高の魔法みたいなものだなと。特別なことじゃなく、そのものをただ食べるということだけで、一瞬にして人を幸せにしてくれる。

そんな魔法みたいなものだし、命みたいなことと直結している。だからこれだけテクノロジーとかいろんなことが進んだ世の中になっても、どれだけ利益が少なくても、どんなに大変でも、本能的にやっぱり人は食という分野に引かれてしまうんだなということをめちゃくちゃ思わされました。

今日ここで思ったのは、拍手ってなんて素敵なんだろうということをずっと感じていました。僕たちの役目は、拍手をここで終わらせずに、ずっと拍手をし続けようということです。それぞれの拍手の仕方があると思います。

周りに話すことだってできるだろうし、こういうやり方があるよねって手伝うことだってできるでしょうし、そんな感じで拍手を止めずに、ぜひぜひこの応援を続けていけたらと思いました」

日本草木研究所 古谷さん「地域への愛、その風景や暮らしている人への愛がここにはある」

日本草木研究所の古谷 知華さんは、2年前の京都、このアワードでグランプリを獲得している。

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「自分の時も泣かなかったですが、今日はすごい涙が出てきちゃって、心から心が動いてて。

私は普段、林業従事者と一緒に、在来のスパイスやハーブを山から収穫する事業をしています。私がアワードに出た2年前から今、山はどんどんはげていくし、従事者もどんどん高齢化していって、本当に状況が悪化しているのを日々感じています。

先日も鹿児島で収穫で2週間魚村にいたんですけど、その漁師のリーダーのような人に、東京から来たんだろう?と、この鹿児島のこの魚村にどうやったら観光客が来ると思う?って聞かれたんです。

私すごい真剣に考えて、怒られるかなと思ったんですけど、人が群がるようなものは正直ないと思います、ただここには漁業が作ってきた風景や素晴らしい暮らしっていうものがあって、観光に頼るのではなくて、この産業が続いていってちゃんと地元の人が残っていくっていうことを一緒に考えたいって伝えたんです。

そうしたら怒られるかなって思ったんですけど、そうだよな、俺も本当はそうしたいんだよって言ってくれたんですね。その時から一次産業と二次産業についてより考えるようになりました。

今回このアワードで私は確信したことがあって、このフード & ドリンク アワードに流れているエネルギーっていうのは、愛なんですよね。その地域への愛、そこにある風景やそこに暮らしている人への愛情だったりとか、そういうものを存続させたくて、今すごく大変な事業をみんな頑張っていると思うんです。

いろいろな地域を回っていて、頑張っている人ほど孤独を感じていたりとか、理解者がいなかったりしますが、ここに今日集まった人たちは本当に一生の仲間になると思っています。

私もICCに出てから、本当にいろいろな人とコラボレーションさせてもらっています。全国にそういう仲間がいる、そういう仲間が見つかったのは、めちゃくちゃいいことだと思うんです」

ビビッドガーデン山下 麻亜子さんは、毎回のように出展者を推薦いただく一方、審査員を務める。

「例えば12時間かけて氷だけで出すお茶は、ある種狂気を感じました。審査員という立場で飲ませていただきましたが、生活者として本当に感動しました。本当に美味しいということが、どれだけ人を幸せにするかというのを、本当に生活者として感動した。

また今回は、ビジネスとしてのイノベーションを、たくさん刺激をいただきました。

ブエノチキンさんは常連さんにファストパスを提供して、それで常連さんがすごく通ってどんどん広めてくれるので、口コミでお客さんが獲得できているという話。点々さんが数十人の集落でやっているこのビネスモデルはその地域の特徴がそのまま売りになるから、日本のいろんな地域で展開できるはずだと。

こういうことはビジネス上のひらめきも必要ですし、そこに至るまでの努力もあると思っています。原材料が高くなり原価も高くなるし、消費者は価格に敏感で安全意識も高いし、こだわってやればやるほどビジネスを大きくするのは難しい。それでも難しい理由を並べている暇がないぐらい、皆さんどんどんと突破されているのが本当に刺激でした」

ここからは、新集計方式となったアワードの集計に時間がかかったため、このアワードお馴染みの審査員たちにコメントを聞いていった。一平ホールディングスの村岡 浩司さんは、このアワード初回からの参加者である。

「これ以上何を言えばいいのかと思って、一つだけ言えるのは、全員優勝でいいんじゃね? 去年も言っていましたが今年は今年で8月に日本全国で水害があって、この中にも被災した人がいます。被災して来れなかった人もいます。

いろんなことがあって大変なんですけど、金で解決できるのだったら、それはそれでいいですよ。みんなでなんとかしよう。いろんなアイデアを知恵を持ち寄って、こういう場を作っていただいていることは本当に貴重ですし、いい時も、悪い時も、ぜひ皆さんここにまた来て、次に向かっていけるように頑張っていきましょう。

この2日間の修行のような試食とプレゼンテーションをされた皆さんに、心から尊敬を申し上げますし、私もこのコミュニティに入れていただいていることが本当に誇りです」

ベースフード橋本さん「食はビジネスの本丸。その実績をともに作っていこう」

ベースフード橋本舜さんは、アワードができる前の、2018年のスタートアップ・カタバルトからICCサミットに参加している。当時は食領域の参加者は少なかったが、一平ホールディングスの村岡さんや、Minimal山下 貴嗣さんといった方々がカタパルトで存在感を示し、少しずつ参加者が増えてきた。その第一人者ともいえる。

「カタパルト入賞後に出た中でも、僕たちはトップクラスに伸びたと思う。

今回のカタバルト・グランプリはリージョナルフィッシュが優勝して、スタートアップはASTRA FOOD PLANが優勝。ICCのビジネスの本丸で、食が中心を占めているはずなのに、なぜ食って中心感ないんだろうとか、伸びない感じがあるんだろうと思う。

ソーシャルグッド・カタバルトでは、NPOやソーシャルグッドって報われないと言われる、大変だよねというのが共通見解としてある。僕はフードもすごくそう思っていて、そうではないイメージに違和感があるんですよ。

僕は食ってビジネスの本丸、事実本丸になってるし、超伸びると思ってるので、みんな普通にそうだよねっていうような実績を作っていきたいと思ってます!」

山西牧場 倉持 信宏さんも過去のカタパルト、アワード経験者。審査員ではあるが、一次産業の若き担い手でもあり、出展者に近い目線を持つ。

「自分も後継ぎで、その土地のことや、この産業が長く続くこととか、すごく悩むことが多いです。

豚も今年のように暑いと、例えば我々の種付けという仕事においては発情が来ない。産じょくで死んでしまう豚もいれば、病気などもある。なんとかしておいしいものを作ろうとしても、失われるものが多い。本当に思い返せば思い返すほど悩ましい思いがあります。

その一方で、今回ご紹介したオリーブの山本さんは、6年前に頭島に小さな苗木を植えました。これから6年後に収穫するとおっしゃっていて今年、出来上がったと。その商品を見て、めまいを感じました。

僕らは失われる中でどうやって戦うのか、これから生まれていくものもあるし、自分の持ち場の中でどう広げていくか、共生をどう考えるか、すごく複雑な思いが巡っている中で、食という領域に飛び込んで何かを届けようとしている姿は、本当に尊いと感じました。本当に学ぶことばかりです。私も一生懸命生き残って、より頑張ろうと思いました」

青曜社松尾 真継さんは、この日参加した、ジャパンハートの吉岡 秀人さんとの座談会での感激そのままにファイナル・ラウンドの会場にやってきた。

「物語とか命とか価値とか感謝とか愛とか、食べ物の話をしているんだけど、人生というか、皆さんの後ろに背負っている、生き様みたいなのを感じています。

僕はこの直前が吉岡先生とお話しさせていただく時間だったんですけど、人間はどう生きていくのか、もしかしたら報われないことがあっても、そこに合理や成功がなかったとしても、淡々とやり続ける、なんなら自分のためにとおっしゃっていました。

結果それが本当に利他になって、人を生かしていて、社会を救っています。そんな話を聞いた直後にここに来たんですけど、皆さん一人ひとりの話が全部重なって聞こえて、すごく魂が震えました」

吉野家の田中 安人さんは食のプロ。生産者の想いに触れるアワードの審査員を経て、新たなライフワークができたという。

「私は最近、旅行で皆さんのところを回るようにしています。(アワード統括の)パクさんがアルムナイを作って日本の食を紡いでいこうと尽力されていて、これを私もライフワークにしたいなと思っています。

先日もサゴタニ牧農さんに不在のときに電話してしまったんですけど、ちゃんと事前に予約するようにします(笑)。世界から見たときに日本の食とIPって日本が誇るものだと思うんですよね。それを未来永劫つなげていけるように、まずはおいしいものを作り、素晴らしい仲間と世界の命を支えられたなと思います」

アワード初の「ドリンク」優勝、八女茶

ICCのアワードに顕著なことだが、どの出展者もすばらしく、レベルが高くて優勝に値する。そこで勝敗を分けるのは、想いの強さ。それをどこまで言語化して伝えられるかが、ファイナルの結果につながる。優勝は既報のとおり、以下に決定した。

1位 クロマニヨン(八女茶)       (ファイナル得票数49票)

2位 点々              (ファイナル得票数33票)

3位 ASTRA FOOD PLAN(ぐるりこ) (ファイナル得票数20票)

クロマニヨンの小柳さんは、優勝が発表されると、ゆっくり壇上へ進んだ。

「僕はお茶農家でもなければお茶屋でもありません。ブランディングの会社をやっていて、八女茶のブランディングを9年やらせていただいてます。

今回12時間かけて氷でお茶を淹れた茶師の竹中さん(TEA FOREST JAPANESE)に、拍手をお願いします。今回はクロマニヨンという1企業よりも、八女茶業界の代表のチームで来ています。何も賞を取れなかったら帰れなかったんですけど、それを一番思っていたのは、この八女市役所職員の2人、萩尾くんと山口さんです。

本当に泣きそうなのですが、報われました。

お茶って古いものだし、当たり前にあるものなので、高い値段をつけようとすると、売れるわけないと言われる方もいて、そういうのをずっと言われながらも皆さん頑張って、特に市役所の方はめっちゃ言われながらこのやり方を信じて進んできて、こうやってICCで報われたのはもう一生忘れません。ありがとうございました」

フード & ドリンク アワードには、今回から優勝者に賞品を提供してくださる企業ができ、ヤッホーブルーイングからは「よなよなエール賞」としてビールを、Makuakeからは出品料無料の権利が贈られた。

ICCサミットが終わってちょうど1カ月がたった10月6日、ICC KYOTO 2025のカタパルトやアワードに挑戦した方々や関わった審査員、スタッフが集う「カタパルト & アワードナイト」が開催された。全国各地から、ともに戦った”同士”たちは再会を喜び、カテゴリーを超えた交友を楽しんだ。

そこで小柳さんに、当日は聞けなかった優勝の感想を聞いた。

「あの場にいたら、負けたらダメなんだと思いました。最初はICC、仲間もできるし、出ることに意義があると思ってたんです。それでもあの会場の雰囲気で、負けたらダメなんだと。

美味しいって言ってもらえるのが、あんなに嬉しいのかと。皆に認められるのが、あんなに嬉しいのかと思いました。

何よりも、経営者の方など審査員のみなさんが八女茶を認識してくれたことが最高です。価値観が高いレベルで伝わったのがめっちゃ嬉しいです」

小柳さんは、開催3週間前に、ICC代表の小林にこんなメッセージを伝えていた。

「当初、27,000円のボトリングティーを振る舞おうと思っていましたが、あの後、茶師のみなさんと作戦会議を重ねる中で、あのボトリングティーは、様々なレストランで『食中茶』として、シェフがペアリングする、クリエイティビティを引き出せるような「控えめな」濃度で調合されたものです。

これは、これで複雑な味を表現しているつもりですが、今回の審査方法だと、インパクトが薄いと結論付けました。他は、お肉系ほか強敵揃いの中で、『日本茶の革新』を感じてもらうために、文字通りの最高峰で勝負することにしました。

お出しするのは、1kg=ウン十万円レベルの「八女伝統本玉露」をかき集めて0度で12時間抽出する、最高峰の氷出しを、1日500杯で勝負します。前の日から、氷の自然融解を利用して12時間かけて抽出する仕込みをやります」

これを小柳さんが送っていたときでさえ、素晴らしい生産者が並ぶ今回のアワードで、勝てはしないと思っていたという。ICCサミットの会場で、優勝を知らない人にアワードの結果を伝えたときに、誰もが驚いたのは事実である。

「最後の3分プレゼンは、世界で一番緊張しました。僕は30年ぐらい広告業界にいて、年間30回ぐらいのプレゼンとかやってるんですけど、それぐらい緊張しました。

ABCの3つのパターンを用意していたのですが、八女茶を残していかないといけないというメッセージのAにしました。ほかは機能的な話や、日本茶の危機という話だった。そう決めたのは、あの時、僕の前にプレゼンした羽田さんの話を聞いて、八女茶がどんなだって言っている場合じゃないと」

人の話に耳を傾け、人の心に伝える力を磨く。小柳さんのように広告業界に長くいても、このアワードでプレゼンするということは特別だったという。自分たちの本質をとらえ、何が自分の心を動かすかを言葉にして伝えなければいけない。それが事業の核心であり、すべてのモチベーションにつながっていることを、聞く人に納得させなければいけない。

「企業ブランディングをやっていて思うんです。

あのファイナルのプレゼンのときはみんな、私はこうなりたい、という話じゃなくて、こうすることで地域をよくしたいという話をしてました。

海賊王に俺はなる、ばかり言ってる人には誰もついていかないんですよ。

海賊王になって、7つの海が平和になるとか、その先を言わなければ。

業績目標や、地域ナンバーワン、シェアナンバーワンになるとか、そんなのは一般の人には関係ないんです」

優勝したからといって、八女茶の存続が確定したわけではない。日本茶の国内消費は縮小を続け、生産者がどんどん減っていく中で、何をどう守り、どこに活路を開くのか。このままでは消滅する文化をいかにつなぐのか。八女茶だけでなく、この課題を共有する事業者はたくさんいるだろう。

そんなときに、このアワードのように課題を伝える場、伝える技術を磨く場と仲間を作る場は必ず役に立つ。この2日間を通して、それを実感した人が多いのではないだろうか。

今回アワードに出展した生産者を応援したいと思うなら、再びになるがこのページをぜひ開いてみてほしい。

https://industry-co-creation.notion.site/icc-kyoto-2025-fdaward

アルムナイイベントも予定され、次回ICC FUKUOKA 2026もフード & ドリンク アワードは開催予定である。一人でも多くの拍手、一人でも多くの応援が集まって学びあい、課題を解決しながら確かな未来を作っていくために、ぜひ会場に足を運んでみてほしい。

(終)

編集チーム:小林 雅/浅郷 浩子/小林 弘美/戸田 秀成

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