創業96年、福岡の老舗「鈴懸」が追求する、生菓子の「生」の感覚 | 【ICC】INDUSTRY CO-CREATION

創業96年、福岡の老舗「鈴懸」が追求する、生菓子の「生」の感覚

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2月18日から開催のICCサミットFUKUOKA 2019。スピーカーズラウンジでは、東京でも人気の高い老舗和菓子屋「鈴懸」のお菓子をご用意する予定です。ICCは今年1月の福岡の下見の際に、鈴懸本社を訪ね、代表取締役の中岡生公さんにお話を伺う機会に恵まれました。鈴懸のお菓子やブランドの世界観の背景、ものづくりへの徹底したこだわりなど非常に興味深いエピソードが満載です。ぜひご覧ください。

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ICCサミットは「ともに学び、ともに産業を創る。」ための場です。毎回200名以上が登壇し、総勢800名以上が参加する。そして参加者同士が朝から晩まで真剣に議論し、学び合うエクストリーム・カンファレンスです。次回 ICCサミット FUKUOKA 2019は2019年2月18日〜21日 福岡市での開催を予定しております。参加登録は公式ページをご覧ください。


東京、新宿伊勢丹の地下フロアに常に行列のある和菓子屋、鈴懸(すずかけ)は今年創業96年。ICCサミットの会場であるグランドハイアット福岡で、ICCパートナーズ代表の小林が鈴懸のお菓子に出会い、鈴懸という企業にも興味を持ったことから、JR九州の小池洋輝さんを介して、福岡の本社に代表取締役の中岡生公さんを訪問する機会に恵まれた。

一番上の写真は春季、こちらの写真は夏季のお菓子

それに先立って、私たちICCチームも福岡にある鈴懸の店舗でお菓子を食べていた。洗練されたデザインの店舗、ショーケースの内にはその朝、作った生菓子が大皿に並べられている。進物用に、自家用に、さまざまな用途のために並ぶ人たちを、手際よく販売員がさばいていく。奥では、ひとつひとつ菓子を手作りしている様が見えた。

博多 鈴懸本店。入って右が菓舗(販売)で左が茶舗(喫茶)となっている

この時期人気の苺大福を始め、鈴乃最中や鈴乃○餅(すずのえんもち)をいただいたが、素朴でありながら美しさを感じる形、頬張ると心地よく噛み切れる餅、きりりと甘いのにあとを引かない餡など、どれもが素晴らしく美味しい。そんな鈴懸のお菓子を、ICCサミットFUKUOKA 2019のスピーカーズラウンジでお出ししたいと考えている。

3代目として家業に入り、現在の規模に鈴懸を成長させた中岡さんから、鈴懸の味、その成長の背景をうかがった。

「なによりもまずはうまいことが大事」

お話をうかがった中岡氏

鈴懸は、東京2店舗、名古屋1店舗、福岡に5店舗と、現在全国で8店舗ある。新宿伊勢丹店や、前日訪れた博多の店舗は、絶えず賑わっており、望めばもっと店舗を増やすことも可能だろう。

「すべて手作りのため、どんどん展開していけるような体質にはないし、出店のお話もいただきますが、我々も多店舗展開をしようとは思っていません。あくまでしっかり価値を求めて、作り上げていこうとしています。

私は若いころは海外に行ったりしていて、これしかやることがないということで、鈴懸に入りました。当時は20人ほどで、継ぐというほどのたいそうな会社ではありませんでした。

祖父が(和菓子)職人で、父親は半分職人という環境です。父親の時代は、国を挙げて大量生産、大量消費の世の中でした。

僕は「なによりもまずはうまいということが大事」と生意気にも言って、その流れとは逆の考え方でした。

当時、職人でさえ何を言ってるんだ、という感じでした。作り手だからそれこそが正しいとわかっているのですが、そんな彼らでさえ、今の時代は違う、とその時は言うほどでした」

対立しながらも引かなかった中岡さんは、ここで得難いものを得る。

「だから作り手との信頼が、うちはあると思います」

成功の原体験

賑わう鈴懸本店の茶舗

それをさらに推し進めたのが、現在の鈴懸の原型ともいえる実験的な店舗の話である。

「入社してすぐ、26、7歳のころに、自分が食べたい菓子だけを並べたお店を作ったことがあります。

それまでの形に僕はどうしても納得がいきませんでした。そこで、これだけあれば十分じゃないかというものを選んだら、ぼた餅や大福餅を代表とする、いわゆる朝生菓子(※)8種類が残りました。これは子どもの時から、つまみ食いしてた品々です。これが今の鈴懸の生菓子の定番になっています」

▶編集注:その日の朝に作る生菓子のこと

当時は職人長と二人きりで、その店を切り盛りした。朝、職人長が8品を作り、1m50cmのケースに入れて中岡さんが車で運んで、売る。商品は売れた。

「うれしかったですね。でもクレームなんかもいただきました。例えば、大福餅の餅生地には、砂糖を入れない昔ながらの製法。そうすると一日で固くなるし、日持ちもしません。

『固くなってしまう』というクレームに『餅ですから固くなります。固くなったら焼いてください』とお返事していました」

生菓子の「生」の感覚を取り戻す

自分は作り手ではないから、違う観点から見られたのではと中岡さんは言う。

「当時、私が会社に入って改めて菓子を見渡した時に、和菓子の本当の魅力というか、こうして食べるのがおいしいというのが、非常に僕の中にありました。

門前の小僧ではないですが、知らないうちに舌で覚えていた、菓子本来の感覚、おいしさ。郷愁の念に近いかもしれませんが、本当においしいのはこれだという、幼き頃の感覚を大切にしています。

菓子は裸が美しいし、生で、できたてを食べるのがおいしい。それがすべての出発点でした」

店舗の後ろ側では、作り手が一つ一つ手作りしているのを見ることができる。

「お父さんが後ろで作っていて、お母さんが売っている。昔は当たり前だった菓子屋の光景で、みなさんもたぶんどこかで見たことがあるはずです。そこは僕は変えたくないところでした」

博多 鈴懸本店菓舗。新宿伊勢丹店ほどの混雑はないが客足は途切れない

うまい菓子へのこだわり

商品に話を移そう。まずは今が旬の苺大福。これも改良に改良を重ねて、今の形になった。

「苺大福自体は20年以上前からありますが、今の形になったのは15年前ぐらいです。見た目には変わらなくても、それまで餅の生地の配合をずっと変え続けていました。それが決まったのが15年前です。

まずは、苺か大福か、どちらを主役にするか考えます。作り手はやはり大福を主役にしたがる。僕は菓子は作らないけれども、苺が主役のほうがうまいぞ、と思いました。
そして苺が主役でも、あずきと餅が入ることでたしかにうまくなる。だから、苺が主役でありながら、こういうバランスがいいとか、作り手とそういう話はよくします」

餅に砂糖を入れないのは、年々関心が高まっている無添加であり、今は当たり前となっている農家と直結したものづくりも20年以上前から始めている。これもただ、おいしいものを求めていったからだという。

「〜〜産というけれども、全部同じ畑ではないし、田んぼでもない。この人が作ったものがどう比べてもうまいというものがあり、その人と直接にやるようにしました。

直接話してみると、その人たちも同じ意識を持っていました。当時は、店としても知られていないので、自分たちから探しに行かなければいけない。全国行きましたね」

リピーター人気の高い、塩豆大福の餅についてのエピソードも面白い。

「発端は、なぜ今の餅は、のびるのがいいとなっているの?と思ったことからです。僕が子どものころ食べた餅は、もうちょっとガスッと、歯ごたえのあるような感じでは?と思ったのです。

そこで全国を探してみたら、その感覚を思い出させるような糯米が、山形県遊佐町にあったのです。これが、本当においしかった。

作付面積のわりに収穫量が少ない彦太郎糯(ひこたろうもち)という糯米ですが、農家にお願いして作ってもらうことにしました。収穫できたものはすべて買い取るようにしています。

現在、それは塩豆大福に使われている餅になっており、鈴懸限定です」

菓子も店も同じように作っていく

東京では2店舗目にあたる東京ミッドタウン日比谷店

和菓子は当然だが、店舗デザインや、カフェで使われている食器、買ったときの箱、紙袋や掛け紙まで、中岡さんは目を配る。

たとえばディスプレイ。店に入ってショーケースを見ると「菓子は裸が美しい」という想いを形にしたように、菓子の姿だけが目に入る。下の写真のように、ほぼ真上から覗き込まないと、プライスカードに書かれた値段や品名はわからない。店内に掲げられた「鈴懸」以外の文字は、なるべく見えないようにしているという。

鈴懸の世界を表現すべく、ホームページでも店頭でも特別に作ったフォントを使っている

鈴懸を深く理解しているデザイン事務所がディレクションしているかと思いきや、さまざまな世界の人たちが鈴懸に出入りし、一緒にブランド作りをしているという。

「鈴懸にはデザイナー、画家、書道家、陶芸家や農家さん、クリエイター、のれんを染める染色家など、驚かれるくらいさまざまな人がよく出入りしています。

その方たちと一緒に鈴懸を作っているという感覚です」

 

睦月・如月の掛け紙「馥郁(ふくいく)」は、2色の梅が描かれている

 

外の人たちと一緒に働くときに、どんな要望を伝えているのだろうか。

「ここだけは守ってほしいなどありません。むしろそういう制約は、逆につけないようにしています。

でも、丸投げではありません。よく話して、鈴懸というブランドを理解してもらって、それがうまく結びついています。お互いが自分の意見を言い、それをすり合わせていきます。うちの(菓子の)作り手とやっているのと同じです。

たとえばカメラマンが撮っている菓子の写真を見て、最近なにかちょっと違う気がすると僕が言いだすと、『ああ、自分もじつは最近気になっていましたと』なる。そこで調整します」

同じ目線で感覚を注意深く合わせれば、あとはお任せだという。そこで作り手やアーティストの技術が乗り、創造的な掛け算が生まれる。和菓子を1つだけ買う人も、その豊かさを分かち合うことができる。

年末年始限定の書家・桑原呂翁氏による干支の「亥」紙袋

▶文中に出た、ビジュアル、デザイン周りの詳しい話はこちらの記事へ。
One step forward「鈴懸の空気」をデザインする。

海外でも、心からの「うまい」が欲しい

「中途半端な化粧箱は不要」と、包装は簡易な箱か再利用できるような有料の籠の二択。コストとエコの両面からも意味がある

多くの企業が海外にチャレンジするなか、鈴懸も例外ではない。うまいだけでなく、表現に優れた歴史ある和菓子屋が、海外で期待される役割もあるだろう。

「海外は、ここ数年パリなどで何度かイベント的なものに出ています。まっさらな目で見てくれるから楽しいのですが、まだはっきりと、自分の中でこうだ、というのが見つかっていません。

海外では、日本人がおいしいと思うようには、今の和菓子をそのまま受け入れられていません。でもそう思ってほしいから、和菓子の感覚を失わないように、でも彼らに寄り添いながら、どこがツボなのかというのを探っています。その中で見つけたものも多いですし、現地のパティシエとも一緒にやったりします」

トライアルを繰り返しながら、自分の中の解決策を探す。なかなか見つからないと悩みながらも、中岡さんは楽しそうに語る。

「文化の押し付けにはしたくないのです。カッコいいとは言ってくれるのですが、それじゃないんだよなぁ。なんかこう、日本のスタイルとして見ている気がします。まだ自分の中で腑に落ちないし、納得がいかない。『うまい』というのが、お腹の中まで行っていないというのを感じているのです」

欲しいのは称賛ではなく、心からの、腹の底からの共感。自分たちが本当においしいと思うものを、同じ感覚で分かち合いたい。それを粘り強く続けた結果が、日本の店舗では行列につながっている。

「私も菓子屋の息子として、舌で覚えた感覚をそのままストレートに出してきたら、こうなってきました。ちょうど時代とかみあっただけではないかと思っています」

(終)

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編集チーム:小林 雅/浅郷 浩子

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