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バーチャル(仮想空間)に閉じた生活は成立するか?(後編)【F17-9C #4】

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「リアルとバーチャルの境界線がなくなった後の世界はどうなるのか?」【F17-9C】セッションの書き起し記事をいよいよ公開!9回シリーズ(その4)では、バーチャル生活サービス「Second Life」はなぜ流行らなかったのかを議論しました。吉藤さんが分身ロボット「OriHime」を創った理由も興味深いです。是非御覧ください。

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ICCサミットは新産業のトップリーダー600名以上が集結する日本最大級のイノベーション・カンファレンスです。次回 ICCサミット FUKUOKA 2018は2018年2月20日〜22日 福岡市での開催を予定しております。参加登録は公式ページをご覧ください。


【登壇者情報】
2017年2月21〜23日開催
ICCカンファレンス FUKUOKA 2017
Session 9C
リアルとバーチャルの境界線がなくなった後の世界はどうなるのか?

(スピーカー)

伊藤 直樹
PARTY
CCO / Founder

稲見 昌彦
東京大学
先端科学技術研究センター
教授

村井 説人
株式会社ナイアンティック
代表取締役社長

真鍋 大度
ライゾマティクスリサーチ
ディレクター

吉藤 健太朗
株式会社オリィ研究所
代表取締役CEO

(モデレーター)

前田 裕二
SHOWROOM株式会社
代表取締役社長

「リアルとバーチャルの境界線」の配信済み記事一覧

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最初の記事
【新】リアルとバーチャルの境界線ー仮想空間の「現実化」を徹底議論【F17-9C #1】

1つ前の記事
バーチャル(仮想空間)に閉じた生活は成立するか?(前編)【F17-9C #3】

本編

前田 「バーチャルに閉じた生活」は成立するか?について議論しております。

伊藤さんは、元々何か考えられていたことはありますか?

伊藤 質問(「バーチャルに閉じた生活」は成立するか?)を頂いて、村井さんと結構同じことを深く考えていました。

つまり、質感について考えていたのですが、これはオンスクリーンで言うと解像度になりますが、最近でいうとIoTやインスタレーションに乗っていっている訳です。

その時にすごく気になるのはデジタルに質感が乗った時のことで、例えば陶器にしても、質感の違いで色々な作品が買われていますよね。

作家さんなどがいたりして。

形や薄さや口に当たる感じの違いで、100万円の茶器なんかがある訳ですよ。

それはすごく繊細な質感の差であって、英語で言うとTexture(テクスチャー)ということだと思います。

Second Lifeが流行らなかったのは「質感」のせい

伊藤 バーチャルと現実世界を融合していった時の境目というかくっつくところが、質感がより追いついてくればくるほど、人に受け入れられると思うので、「Second Life」が流行らなかったのは完全に質感の話なのだと個人的に思っています。

伊藤 3DCGの精度の問題で、ただそれは実装するためにああいうものになっているということだと思うのですが、そこが生理的に受け付けられなかった、そこは多少早かったということだと思いますね。

前田 やはり、根源にはテクノロジーの問題があるということですよね。

真鍋さんは、Perfumeの演出などもされていて、リアル側であるPerfume本人達とその映像や演出側との境目をいかに薄くするかというか、境目が分からなくなるような演出を心がけていらっしゃると思うのですが、それがそうなのかということと、その時に気を付けられていることはありますか?

それがテクノロジーで解決できるのではないかという向きもある中で、アイディアや演出の手法などで解決できる部分があるというお考えで取り組まれていると思うのですが、それには何かお考えがあるのでしょうか。

リアルタイムのレンダリングはまだ技術的に十分でない

真鍋 映像的に言うと、リアルタイムでレンダリング(rendering)できる画の質感は最近かなりよくなっていますが、まだ限界があって、生のカメラから撮影している実写映像からプリレンダリング(pre-rendering)のCGに行く間に、リアルタイムのレンダリングを入れてシフトしているんですね。

ですから、生カメラ、リアルタイムのレンダリング、プリレンダリングの映像、のような感じでシフトして、そこの境目を上手く目立たないようにする部分にアイディアがあります。

あとは、例えば今私がここにいるのをカメラで撮っていて、仮想世界に行って現実世界に戻って来るといったような演出をしようと思ったら、結構な下準備が必要になってきます。

事前に行う会場や私の3Dスキャンデータと、リアルタイムの3Dスキャンデータをうまく融合させる必要があるため、色々な座標系を一つにまとめるための工夫が必要になります。

また、ライブの場合は会場で時間をかけて行うことが出来ないので、ラピットにキャリブレーションを行う仕組みを開発したり、アウトプットの絵作りとは違う部分でのエンジニアリングも多いです。

真鍋 質感もそうなのですが、「Second Life」は、やはり元々あった哲学のせいで流行らなかったのかと思いました。それってリアルなファーストライフというか自分の世界があまりイケていない人達が、バーチャルの世界では自分の思い通りの世界を描けるといった感じの話だったような気もします。

Second Lifeは技術・ビジネス的な設計に失敗した

真鍋 僕は「Second Life」に結構ハマって、面白くて不動産を買ったりもしていたのですが。

前田 「リンデンドル(L$)」(=Second Lifeの世界における通貨)で。

真鍋 色々なことが割と自由にできていて、小銭を稼ぐこともできるような時代もあったと思うのですが…

前田 RMT(Real Money Trade※)ですか?

▶編集注:仮想空間におけるアイテムや通貨を、現実の通貨との交換で売買すること

真鍋 そうです。

でも、そこにマネーゲームも出てきて、リテラシーの低い人達が搾取されるような構造が生まれました。サーバー代などそういうマネタイズが「Second Life」では上手くいっていませんでしたね。

インフラの問題もあると思うのですが、モデルが沢山出て来るとすぐにレンダリングが追いつかなくなるとか、技術的・ビジネス的な設計も上手くできていなかったのではないかなと思いますね。

バーチャルだけで成立するかどうかということですが、「Ingress」の哲学というかメッセージみたいなものはものすごく明確で、しかもやっていることもものすごく納得できるというか、すごくシンプルだと思うんですよ。

そういうものを見てしまうと、現実の世界にはそもそもすごく色々な楽しいものもリソースもあるので、それをどうやって生かしていくかということに考えをシフトした方がいいのかなという風に思います。

前田 むしろ現実側の楽しさを増幅するためにということですね。

真鍋 そうです。

バーチャルだけなんて言っても、結局弱者が搾取されていく構造になっていってしまうし、そのあたりのゲームデザインのようなことが多分、すごく絶妙なんでしょうね。

前田 なるほど。

吉藤さんなんかはどちらかというと先ほどのリアル世界の幸せを作るためにというか、課題を解決するためにバーチャルや技術を使っておられると思うのですが、どのようにお考えですか?

ゲームに生き甲斐や居心地を感じた

吉藤 引きこもり代表として。

オンラインゲームには結構ハマりましたね。

前田 そうなのですね。

吉藤 学校という場所に全く居場所がなくて、友達も殆どいなくて、結構変わり者でしたので馬鹿にされたりする訳です。

ですから、アイテム一つによって皆から褒めてもらえるとか、例えば「回復役」のようにオンラインゲーム上に職業のような役割があるということにすごく生き甲斐というか居心地を感じていたというのがありました。

ある意味、私にとって薬のような状態だったような気がしますね。

でも、それを使い続けてどっぷりハマると、ずっとバーチャルの中にいるような感じがして、すごく疲れてしまったんですよね。

あの時、リアル世界に寝るためや、トイレに行くためや、ご飯に行くためというのがすごく嫌で、点滴を常に繋げていてくれたらよいのにとか、ゲーム世界上で皆でご飯を食べることで自分に栄養が注入されたらよいのにとか、そこをリンクすれば同じ釜の飯をオンライン上で食べられるのに、といったそういう発想までありました。

前田 極端な話、リアルでは植物人間みたいな状態でよいというモードにまでなっていたということですか?

吉藤 良いことだとは思っていませんでしたが、そうですね。

あの時、本当に没入するためにはリアルのスイッチを切らなければならないなと思っていて、オンラインゲームに入った瞬間までの記憶を全部リセットできれば、恐らくこの世界が現実であるという風に思えるのではないか、そういうことは考えたりしていました。

ですから、ゲームは昔から非常に好きですね。

リアルの価値に気付いて分身ロボットを作った

吉藤 しかし今取り組んでいる「OriHime」は、リアルの価値に気付いて作ったものです。

オンラインゲームを散々やって、高等専門学校生の時にしばらく人工知能も研究していた私が、バーチャル世界ではなくて、やはりリアルな人とのコミュニケーションというところでなくては、人は生き甲斐を、先ほどの寝たきりの方のように人工呼吸器をつけてまで生きるという選択肢に至らないという結論に達しました。

語ると長いのでここは省略させて頂きますが、弊社で一人寝たきりの番田という社員がいます。

4歳の時にタクシーにはねられて、それから20年以上学校にも全く行っておらず友達もいないのですが、顎が動くので、顎を使ってコンピュータを使うことでコンピュータ上の人とやり取りを続けていました。

でも、ある時、それでは辛いというメッセージが私のもとに送られてきて、それで彼に会いに行ったのです。

彼も紆余曲折を経て、人とのコミュニケーション方法をそこからスタートさせて覚えていって、今では、盛岡の病院や自宅から、毎朝9時にロボットで出社してきます。

彼は、このロボットとして、ほぼ一日業務をこなしています。

前田 すごいですね。

お差し支えなければ、どんな業務をこなされているか教えて頂けますか?

吉藤 主に私の秘書をしてもらっていまして…

前田 秘書としてスケジュール調整などをされているのですか?

吉藤 そうですね。

スケジュール調整などをしてもらっています。

今回の出張でも、飛行機の手配など、彼が全てやってくれています。

そうすることによって、彼に役割が与えられ、元気になれるのです。

前田 社会との繋がりですよね。

吉藤 そうですね。

最終的に元気になっていくんですよね。

でも、先ほども申し上げましたが、その彼をしてもずっと「OriHime」では嫌だということで、それが私の今の課題ですね。

最近、この「OriHime」というロボットを通して、リアル世界に友達が沢山できたのです。

例えば講演をさせて頂くと、「番田くーん!」と手を振って下さって、番田も手を振り返して。

今日はちょっと体調を崩して来られなかったのですが、番田が呼ばれてストレッチャーで東京に来ることもたまにあるんですよ。

そうすると、番田に会いたくて皆さんが集まって下さるのです。

番田もそれすごくが嬉しくて。

だから、彼はもう「OriHime」をあくまで人と出会うきっかけにしたい。

ずっと「OriHime」では嫌で、やはりリアルで繋がりたいということを切実に考えているようなので、私も何とか彼を東京で一人暮らしさせる方法はないものかと考えています。

前田 素晴らしいですね。

それは感動します。

吉藤 ロボットで来ている訳ですけれども、それでもリアルで人と繋がりたいという風に、彼は訴えています。

前田 なるほど。

皆さんのお話に共通しているなと思うことは、人間が本質的に求めていることは、人間として役割を持ちたいとか、承認されたいという思いですね。

それは必ずしもバーチャルだけで満たされて、バーチャルで満たされることだけで生きていける訳ではないという、何となく一貫したメッセージなのかなという風に感じました。

(続)

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続きは バーチャル・ネイティブ時代のコミュニケーションはどうなるのか? をご覧ください。

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編集チーム:小林 雅/榎戸 貴史/戸田 秀成/Froese 祥子/横井 一隆/立花 美幸

【編集部コメント】

現実世界の質感が嫌いになって、バーチャル世界に逃げ出す人も現れるかも。(横井)

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