▶新着記事を公式LINEでお知らせしています。友達申請はこちらから!
▶ICCの動画コンテンツも充実! Youtubeチャネルの登録はこちらから!
2月17日~20日の4日間にわたって開催されたICCサミット FUKUOKA 2020。その開催レポートを連続シリーズでお届けします。本レポートでは、DAY2(2月19日)夜にWITH THE STYLE FUKUOKAの2フロアで実施された特別プログラム「CRAFTED NIGHT powered by LEXUS」から、トークイベント「衣食住を通じてCRAFTEDを考える」とスペシャル展示・飲料体験の舞台となった2階会場の模様をお伝えします。ぜひご覧ください。
ICCサミットは「ともに学び、ともに産業を創る。」ための場です。毎回200名以上が登壇し、総勢900名以上が参加する。そして参加者同士が朝から晩まで真剣に議論し、学び合うエクストリーム・カンファレンスです。 次回ICCサミット KYOTO 2020は、2020年8月31日〜9月3日 京都市での開催を予定しております。参加登録などは公式ページをご覧ください。
▶ICCサミット FUKUOKA 2020 開催レポートの配信済み記事一覧
ICCサミット FUKUOKA 2020、DAY2のネットワーキングイベントは、特別プログラム「CRAFTED NIGHT powered by LEXUS」として開催された。会場は、DAY0のオープニングパーティの舞台でもある WITH THE STYLE FUKUOKA だ。
この特別プログラムでは、1階のレストランフロアで開催されたネットワーキング・パーティに加え、2階のバンケット会場「ザ・ノースギャラリー」にて特別トークイベント「衣食住を通じてCRAFTEDを考える」が開催された。こだわりのモノづくりや独自のアイデアで地域活性や豊かな体験提供に取り組む各社が「CRAFTEDとは何か」を語るトークセッションだ。
さらに会場内には、CRAFTED カタパルトの歴代登壇者やLEXUS NEW TAKUMI PROJECTが誇る“九州の匠”の展示コーナーが設置され、衣食住に関わるCRAFTEDなプロダクトを体験する場が設けられた。
本レポートでは、トークイベントで交わされた議論の内容を中心に、各社の魅力的な展示内容を写真とともにお届けしたい。
特別セッション「衣食住を通じてCRAFTEDを考える」
スピーカーは、埼玉川越のクラフトビール「コエドビール」の朝霧さん、岐阜羽島のテキスタイルブランド「MITSUBOSHI 1887」の岩田さん、京都丹後のネクタイブランド「KUSKA」の楠さん、“九州パンケーキ”を始め、こだわりの九州発プロダクトを展開する「一平ホールディングス」の村岡さんの4名。地域に根ざしたCRAFTEDなモノづくりに取り組む起業家だ。
そしてモデレーターを務めるのは、“コンテクストデザイン”の論客、Takramの渡邉 康太郎さん。
登壇者も参加者もお酒を手にしながら、和やかな雰囲気で60分間のセッションがが始まった。
渡邉 康太郎さん(以下、渡邉) みなさんこんばんば、Takramの渡邉です。
▼
渡邉 康太郎 (写真左)
Takram コンテクストデザイナー /
慶應義塾大学SFC 特別招聘教授
東京・ロンドン・ニューヨークを拠点にするデザイン・イノベーション・ファームTakramにて、事業開発から企業ブランディングまで手がける。「ひとつのデザインから多様なコンテクストが花開く」ことを目指し活動。主な仕事にISSEY MIYAKEの花と手紙のギフト「FLORIOGRAPHY」、一冊だけの書店「森岡書店」、FM放送局J-WAVEや日本経済新聞社のブランディングなど。新刊『コンテクストデザイン』は一般には流通させず、トークイベントを行った場所や書店のみで販売している。趣味はお酒と香水の蒐集。茶名は仙康宗達。番組ナビゲーターを務めるTakram Radioは木曜日26:30~にJ-WAVEで毎週放送中。
▲
今日のテーマは、「衣食住を通じてCRAFTEDを考える」です。衣食住と言っても結構な幅があります。僕は“CRAFTED”とは、味や香りなど五感から入り、人の視座を上げてくれるものだと考えています。
例えば良いビールを飲むと、コエドビールというブランドのみならずクラフトビール全体に興味がわきますよね。
そこでまずは、この「五感」の切り口から皆さんに話を聞いていきたいと思いますが、どうやらサウナの話から始めたい方がいるようなので(笑)、岩田さんよろしくお願いします。
五感を研ぎ澄ますことで、生活は豊かになる
岩田 真吾さん(以下、岩田) 事前の打ち合わせでサウナの話をしていいかと聞いてしまい、導入部分を仰せつかることとなりました、三星の岩田です。
▼
岩田 真吾
三星グループ
代表取締役社長
1887年に木曽川のほとりに創業した三星毛糸の五代目・代表取締役社長。「地方×伝統×革新」をテーマに自社ブランドの立ち上げや海外展開・ベンチャー企業との連携など新しいチャレンジを続ける。B2Bの素材メーカーながら「使い手と作り手がつながる場」として東京・代官山にショールーム型店舗を展開。「23時間を快適にするウールTシャツ」はクラウドファンディング史上、最も支援を集めたTシャツとなった。2004年に慶應義塾大学を卒業後、三菱商事株式会社、ボストン・コンサルティング・グループを経て現職。入社10ヶ月後に社長に就任。以後、会長である父親とは日々バトルしながらも、良好(?)に事業承継を進めている。
▲
今回の出張でドーミーインという温泉やサウナが有名なホテルに泊まっているのですが、昨夜その大浴場で髪を洗っていたら、同じくICCに参加しているベースフードの橋本舜さんが隣に座ってました。そこで「一緒にサウナに入りましょう」と声をかけると、「実は僕、サウナが苦手なんです」と言うんです。
だから僕は「橋本さんのペースでいいし、暑くなったら出てもいいからどう?」と誘って一緒に入ったのですが、そうしたら橋本さんが「僕、サウナ好きかもしれません」と言い出したのです。
僕らの「23時間を快適にするメリノTシャツ」もスペックで説明することもできますが、触って、着てもらって初めて「すごくいいな」と思えるTシャツです。体験が重要なのです。
MITSUBOSHI 1887「23時間を快適にするメリノTシャツ」
だから僕らの日々の生活、ライフスタイルは「感覚」を研ぎ澄ますことでもっと豊かになると思っていて、それこそがCRAFTEDなのかなと思います。
衣食住の「体験」で伝わるCRAFTEDブランドの価値
渡邉 クスカの楠さんにも伺ってみましょう。まずは楠さん、CRAFTED カタパルト優勝、おめでとうございます!
(会場拍手)
楠 泰彦さん(以下、楠) ありがとうございます。
▼
楠 泰彦
クスカ株式会社
代表取締役
京都・丹後生まれ。30歳で家業の織物業に入社し「伝統」「ファッション」「芸術」の3つを融合する自社ブランドKUSKA(クスカ)を立ち上げると共に、唯一無二の手織りのネクタイを開発し、百貨店や大手セレクトショップ・自社店舗で販売。2017年からイタリア・フィレンツェで行われる世界最大のメンズ服飾展示会PITTI UOMOに3年連続で出展し、世界最高峰のロンドン、サヴィル・ロウにあるロイヤルワラントの店舗でもネクタイを展開中。また、地元、京都・丹後に特化したWEBメディアTHE TANGO(ザ・タンゴ)を2018年から運営。趣味は丹後の海でサーフィン。
▶楠さんは、同日午前に開催された第3回「CRAFTED カタパルト」で見事グランプリを受賞しました。当日のピッチの内容は以下よりご覧いただけます。
【優勝プレゼン】伝統技法で“手織りの美しさ”を世界に伝える。京都丹後発のネクタイブランド「KUSKA」(ICC FUKUOKA 2020)
▲
改めまして、京都丹後からネクタイブランド「KUSKA」を発信しています、楠と申します。
我々はこれまで、マーケティングではなくモノづくりそのものに向き合うことで、ブランドを築いてきました。そこで大切にしているのは、デザインは「表面的」ではなく「本質的」であるべきだということです。
人の感動は、論理的に説明できるようなものではありません。パッと見て「美しいな」と思ってもらえる美しさこそが本質的な美しさであり、我々はそれを追求したいと考えています。
村岡 浩司(以下、村岡) アートもそうかもしれませんが、存在そのものには意味がなくて、「感じ方」に価値があるということですよね。
▼
村岡 浩司
株式会社 一平ホールディングス
代表取締役社長
“世界があこがれる九州をつくる”を経営理念として、九州産の農業素材だけを集めて作られた九州パンケーキミックスをはじめとする、「KYUSHU ISLAND®︎/九州アイランド」プロダクトシリーズを全国に展開。また、台湾(台北)の「九州パンケーキカフェ」は食による日本の地方創生モデルとして話題を呼び、予約の取れないカフェとしてブームを巻き起こしている。現在では多数の飲食店を経営する一方、九州各地にて様々な地元創生活動や食を通じたコミュニティ活動にも取り組んでいる。メディア出演:カンブリア宮殿、NHKワールド、日経プラス10、日経ビジネス、東洋経済 他多数。ローカルイノベーター55選、日本を元気にする88人(フォーブスJAPAN)に選出。「第1回 九州未来アワード」大賞受賞。ICCサミット KYOTO 2019「CRAFTED カタパルト」優勝。著書に「九州バカ 世界とつながる地元創生起業論」(発行=文屋、発売=サンクチュアリ出版)。
公式ウェブサイト:https://ippei-holdings.com
▲
僕は先ほどクスカのネクタイを実際に触わらせてもらって、立体的なデザインやその光沢を見て感動しました。普段あまりネクタイをつけないので、こうした特別な目線でネクタイを見なければ、なかなか感動は得られなかっただろうと思いました。
僕が作っている九州パンケーキについて、今までで一番された質問は「パンケーキとホットケーキの違いは何ですか?」です。
Kyushu Pancake Channel(YouTube)より
違いも何も九州パンケーキは九州パンケーキであり、英語ではどちらも同じですよと言っても、「でもパンケーキって朝ごはんに食べますよね」「パンケーキは甘くないですよね」と食い下がられます。日本人って、きちんと言葉で定義付けしないと先に進めない国民性があるのかもしれないですね。このクスカのネクタイにも、実際に触れてみたらスペックを超えた感動があるわけです。
要は、体験してもらうしかないんです。一回食べてもらって初めて共感が生まれて、そこから、使われている雑穀や産地などスペックの説明に入ります。何かを伝えるにしても、まずは体験からです。
渡邉 「まずは体験から」ということについて。朝霧さん、コエドビールではいかがですか?
朝霧 重治さん(以下、朝霧) 僕らは、ビールの“楽しさ”を知ってもらいたくて、「コエドビール学校」という体験ツアーを開催しています。
▼
朝霧 重治
株式会社協同商事(コエドブルワリー)
代表取締役 兼 CEO
埼玉県川越市生まれ。Beer Beautifulをコンセプトとする日本のクラフトビール「COEDO」のファウンダー・CEO。川越産のサツマイモから製造した「紅赤-Beniaka-」を筆頭に、日本の職人達による細やかなものづくりと『ビールを自由に選ぶ』というビール本来の豊かな味わいの魅力をクラフトビール「COEDO」を通じて、武蔵野の農業の魅力とともに発信している。品質やブランドデザインに世界的な評価を受けている。ビールは現在、アメリカ、オーストラリア、中国、シンガポール、フランス、イギリス等各国に輸出されており、Globalな視点での活動も進めている。
▲
▶ビール学校「COEDOクラフトビール醸造所」に入学してみた(Yahoo!ライフブログ)
僕らのブルワリーに来ていただいて、何でビールの色ってこんなに違いがあるのかとか、ホップって一体何なのかを学んでいただきます。
コエドビールの話をするのではなく「ビールのことを楽しく伝えること」を目的としていて、僕たちのモノづくりの場を共有することで、一緒に楽しめたらいいなと思ってやっています。
体験とは、モノに思い出を預けること
岩田 「モノ消費よりコト消費」と言われて久しいですが、それは僕らが、モノだけを売っていればいい時代に疲弊し始めているからかもしれません。しかし僕らのコト消費、つまり「体験」は日々、新しい体験で上書きされ忘れられるものです。
僕は、これからはモノ×体験の時代だと思います。記憶が薄れてしまった過去の体験も、写真があれば思い出せるように、モノと体験は密接に関係します。
最初の“Wow!!”と後から起こる“Wow!!”をつなげてくれるものが、モノの価値なのではないでしょうか。
渡邉 20世紀最大の作家の一人、マルセル・プルーストの『失われた時を求めて』の最初のシーンでは、紅茶に浸したマドレーヌの香りで主人公の記憶が蘇り、そこから長い小説が動き出します。あれも、「モノ」を引き金にしていますよね。
村岡 うちの実家は寿司屋なのですが、55年前に自家製マヨネーズを使ったレシピを開発して、実はそれが今のカリフォルニアロールやレタス巻き(サラダ巻き)の原型となりました。
朝起きて1階に降りると父が仕込みをしていて、酢の香りがマヨネーズに変わっていく香り…あの香りこそが僕の実家の日常であり、思い出です。味、音楽、香りは、私たち内面に眠っているものを呼び起こしてくれます。
渡邉 モノに思い出を預ける、ということですね。
昨日僕がモデレーターを務めた「『コンテクストデザイン』を考える」というセッションでも、Minimalの山下貴嗣さんが、誰かに何かをプレゼントする時に、百貨店で単に美味しいものを買って贈るのではなく「自分が一人称で感動を語れるか」を大事にするとおっしゃっていました。
そうすることで、思いごと相手に届けられて、村岡さんが言っていたように、ことあるごとに記憶が呼び起こされる、ということでした。
CRAFTEDを物語る「尺度」はどこに存在するのか
渡邉 CRAFTEDを感じる先にあるのは、一人ひとりがちょっとずつ目利きになる世界かもしれません。良いものとそれ以外を見分けることができるようになる。そこで、「CRAFTEDかどうか」「良いものかどうか」を判断する視点はどのように持つべきだと思いますか?
岩田 一つ議論したいのは、メディアの着眼点です。例えばアパレル業界だと、モノづくりを語る際に「原価率」にばかり着目されていた頃がありました。例えば「この服は原価率が50%です!」とか。
でも原価は何枚作るかによって変わりますし、輸送費や人件費などをどこまで原価にカウントするかによっても変わります。
百歩譲ってメディアの方々がそこまで調べて報道いただくならまだしも、取材に応じた各社が伝えた原価率をそのまま報道するなら、情報によってCRAFTEDを見極める感性が歪められる可能性があります。
ですから、着た時に気持ちいいとか、かっこいいとか、体験したお客様本人にとって価値があるものに注目する報道が大切だし、僕らもそのような情報発信を心がけるべきです。
朝霧 クラフトビールの業界でも、競合同士が比較される際に「ブルワリーの規模」が取り沙汰されることがあります。大量生産は悪で、小さく手作りしているのが良いというある種の信仰のようなものがあり、それがフィルターになって語られるのです。
それではモノづくりが正しく語られるとは思えません。クラフトビールであれば、その本来の価値は美味しさや楽しさであったり、モノづくりからの学びであったりするわけです。岩田さんがおっしゃった原価率もそうしたフィルターの一つだと思いますし、似たようなことが食の文化にもあるなと思いました。
渡邉 原価率の関連で言うと、今アパレル業界で話題の、エバーレイン(EVERLANE)という会社があります。アメリカ版のユニクロみたいな会社ですが、社是を「Radical Transparency」、つまり「過激なまでの透明性」としています。
彼らは世界の取引先工場全ての写真とそこで働いている人の顔写真を公開する。そして原価や輸送費などのコストの内訳までも開示し、「他のリテールで買うとこの値段だけど、我々はこれだけ安価に販売している」ということを謳っています。
岩田 表示している原価率が、刻一刻と変わるならいいと思います。でも生産数が増えれば増えるほど製造コストも輸送費も変わりますし、どこまで誠実な情報かは疑問です。
自分が提示している価格が価値と見合っていると思うなら、自信を持っていれば良いだけのことです。もちろん、僕もそういうマーケティングをしたくなることがありますし、他社と比べたくなるのは分かります。でもそれがメインのメッセージにはなりえません。
渡邉 世の中のあらゆるものは、価格という一つの尺度だけでは比べられないし、他にも無数の尺度があるはずですよね。そうなると、CRAFTEDを見分けるのは「そのブランドがどんな尺度を大事にしているのか」によると考えることもできる。ブランドごとの尺度があっていい。
村岡 ニューヨークのアーティスト、KAWS(カウズ)が最近ユニクロとコラボしましたよね。中国の店舗では、店のシャッターが壊されるくらい人が殺到したらしいです。
同時期にディオールでも同じようにコラボTシャツを販売しましたが、ディオールは8万円で、ユニクロは1,500円です。こんなことって、20年前にはなかったですよね。
それぞれ、受け取り側がどのような感性で、どのようなコンテクスト(文脈)で買っているかの違いなのではと思います。
思い出すのは、うちの親父がトヨタクラウンを買った時です。当時寿司屋がそんなに儲かっていたわけじゃなかったのに「おれはクラウンを買いたいんだ」と言って、家族会議になりました。
岩田 仲が良いですね(笑)。
村岡 でもあの時買ったクラウンは、所得的に買うことができるから買ったわけではないのです。40万円のスーツだって、大学生でも本当に服好きな人ならバイト代を貯めて買います。
買った人の感性が、ブランドが発信する感性とつながることが、CRAFTEDだと思います。
コエドビールのファンに、金色の麦畑を見に来て欲しい
朝霧 我々は食品の会社ですが原点は農業で、1970年代から農家の方々とオーガニック野菜を作っていました。小さな取り組みで、当時はまだオーガニック野菜の流通がなかったので産地直送の仕組みを作るところから始めました。
今ビールを作る時にも大切にしているのは、その原点に帰るということです。
ビールメーカーがビールの原料から全部作る必要はありません。でも敢えて畑の部分から関わることで、それをコエドのキャラクターにしていきたいし、地域との新しい関わりや、自然風景を維持していくことに繋がります。
だから僕は、いつか自分たちのブルーワリー周辺に、5月になったら金色の麦畑が広がる風景を作るのが夢なんです。そんな先の未来を描いて、始めようと思っています。
ブルワリーに見学に来てもらって、ついでに麦畑にも入ってもらって、収穫をファンの方と一緒にするという体験を作りたいんです。
日本からタスマニア島の生産者に会いに行く意味
岩田 僕は布を作っていますが、布を作るためには糸を買います。糸は国内メーカーから買っていますので、羊毛を生産する牧場主と僕は、直接の関係はありません。でも今の時代、どこの羊の毛が分からない状態は良くないと思い、オーストラリアのタスマニア島でつくられている世界最高ランクの羊毛「ウイントン」の牧場に連れて行ってほしいと糸屋に話しました。
すると、「何年もやっているけれど、牧場に行きたいと言う人は久しぶり」と言われました。周りからは「牧場に行っても、糸が安く買えるわけじゃないでしょう」と言われて「そこが問題ではなく、どういう場所で作っているのか聞かれた時に答えたいからだ」と答えても理解されませんでした。
実際に行ってみて一つショックだったのは、現地の人から「まだ日本人の客がいたのか」と言われたことです。今買いに来るのは中国人ばかりらしく、日本の商社からでも糸メーカーからでもなく、生地屋が来たことを喜んでくれました。
その牧場主と話して、持って行ったドローンで映像を撮影してきたので、今、生地を売り込む時にも牧場の様子や生地の良さを説明することができています。今後、社員にも同じ経験をしてほしいと思っています。
渡邉 今日CRAFTED カタパルトを聞いていて、皆さん産地や生産者など「自社よりも大きなコミュニティ」と共に歩んでいらっしゃるのが、とても印象的でした。それは皆さんにも通じていますよね。
また冒頭では、キーノートスピーカーを務めたLEXUSの沖野和雄さんから、そもそもLEXUSの定義するCRAFTEDとは、クラフトマンシップと“ソートフルネス”、つまり他人への慮りであるという話がありました。
共通しているのは、他人への慮りというのは、職人がただ「使い手」について思いを馳せることだけではなく、ブランドそのものが生産者など共に歩む「コミュニティ」についても思いを馳せることでもあると、僕は理解しました。
ブランドは、生産地に暮らす人々とともに作られる
楠 我々は京都の丹後ちりめんを扱っているのですが、丹後には今も約400軒の機屋が残っていて2,000人以上が丹後ちりめんの産業に従事しています。
世界中を探しても、これほど歴史があって機屋が残っている産地はありません。なぜ残っているかと言うと着物の文化がまだ残っているからですが、それも徐々に減っているのが現状です。
私たちは職人さんが作り出す織物の美しさをもっと多くの方に知っていただくことを重視してブランディングしていますが、実は職人さんたちも、流通の関係上、自分たちが作ったものがどこで販売されているかが全く分からない状態でもあります。
ですから私は、産地自体をブランディングしなければいけないと思い、THE TANGOというメディアを作って、織物と食を通じて丹後の魅力を伝えることに挑戦しています。
朝霧 コエドビールのある川越は古い街で、年間700万人の観光客が訪れます。僕たちはその街から生まれたビールというのが、一つのブランドだと思ってます。
川越氷川神社という歴史のある神社があるのですが、そこの宮司さんがやはり地元への想いのある方で、神社と人々との新しい付き合い方を醸成していきたいと模索されています。
そこで僕らと一緒に「恋あかり」という新しい祭事を作り、その祭事に向けた地域限定のビールを作って地元の方々に飲んでもらいました。
▶埼玉川越氷川神社行事「恋あかり」と「恋あかり」限定ビール(川越市内限定)のご案内(コエドブルワリー)
生産地の人々をつなげて皆で楽しみ、そこからどう地域とブランドを盛り上げていくかが、これから面白いところなのかなと思います。
丹後ちりめんの故郷、与謝野町での“Experience Amazing”
岩田 僕には一つ、自慢があります。実は今日のCRAFTED カタパルトで優勝した楠さんは、僕の紹介でICCサミットに登壇することになったのです
渡邉 おおっ!そうだったんですね
(会場拍手)
岩田 経緯を話すと、楠さんの会社がある与謝野町の町長の山添 藤真さんと山登りをする機会があり、その際「与謝野町は日本海に面していて蟹が美味しいので、ぜひ今度食べに来てください」と言われたのでした。
それで行ったら、今度は僕が生地屋だということで「せっかくだから繊維工場を見に行きましょう」と誘われて行った先がクスカさんだったのです。クスカの工場で手織り織機を見て「これはやばい!」と思いました。それで楠さんを雅さん(ICC代表・小林雅)に紹介しました。
そこで思ったのです。皆さん、楠さんの作るネクタイを見て「なんて美しいんだろう、素晴らしい」と感動しますよね。でもそれだけでは普通、工場まで行こうとは思いません。
ところが「このクスカのネクタイは、京都の日本海に面した風光明媚な土地で作られていて、そこは蟹もお酒も美味しいし、温泉もあるんですよ」と聞くと、ぐっと来ますよね。工場も気になるし、それじゃあ、ちょっと行ってみようかなと行動が起こる。そして一度その土地を訪れば、クスカのネクタイを締めるたびに、その体験を思い出すはずです。これこそが“Experience Amazing”ではないでしょうか。
僕の会社も負けていないと思っています。岐阜は毎年6月にはめちゃくちゃ美味しい鮎がとれます。うちのTシャツを気に入ってくれている方々が「生産現場を見たい」と思ってくれた時に「今度来ていただければ、絶品の鮎が食べられますよ」と言えるのは大きな魅力です。
それを経験してから再びTシャツを着てもらうことで、体験が循環し、豊かなライフスタイルが築かれます。モノづくりと体験が螺旋状に絡み合っていくイメージですね。
楠 丹後は、蟹だけではなくブリもあります。そして実は、日本屈指のサーフィンスポットでもあります。でもそれがあまり知られていないので、伝統や食などとも合わせて、地域をブランドとして発信していきたいですね。
渡邉 はい、早いものでそろそろ終了時間となりました。「衣食住を通じてCRAFTEDを考える」をテーマに60分間、ディスカッションさていただきました。
登壇者の皆さん、そしてCRAFTED カタパルト優勝の楠さんに今一度大きな拍手をお願いします。
ありがとうございました!
◆ ◆ ◆
地域を愛し、地域に愛されるCRAFTEDブランド体験
会場内の特別体験ブースで展示された、全国各地のブランドが作り出すCRAFTEDなプロダクトを写真とともに紹介したい。
▼
【料飲提供・展示企業】
・株式会社資さん(資さんうどん)
・株式会社HiOLI(HiO ICE CREAM)
・株式会社パンフォーユー(パンスク)
・株式会社みやじ豚(湘南みやじ豚)
・旭酒造株式会社(獺祭)
・株式会社ヤッホーブルーイング(よなよなエール 等)
・クスカ株式会社(KUSKA)
・株式会社Next Branders(Foo Tokyo)
・EVERY DENIM
▲
資さんうどん(福岡県北九州市)
福岡市内にも7店舗を構える北九州発のうんどチェーン・資(すけ)さんうどんからは、知る人ぞ知る名物「ぼた餅」が提供された。代表の佐藤 崇史さんが自らブースに立つ。
北海道産あずきを100%使用したぼた餅は、年間400万個も販売され、お彼岸には1週間で20万個も販売される「地元の味」だ。
筆者も店舗でいただいたことがあるが、うどんを食べた後でもぺろりと食べられてしまう、ちょうどよいサイズと程よい甘さが特徴だ。
HiO ICE CREAM(東京都自由が丘)
東京都自由が丘のクラフトアイスクリーム「HiO ICE CREAM」
続いて、今回のCRAFTED カタパルト登壇企業でもあるHiOLIの西尾さんにご提供いただいたのは、がクラフトアイスクリームHiO ICE CREAMだ。
季節感を感じさせるさまざまなフレーバーと軽やな食感が特徴のHiO ICE CREAM。こだわりの素材を用いるためスモールバッチ製造を基本とし、“アトリエ”と呼ばれる自由が丘の工房兼店舗で販売をしながら、オンラインでは“アイスの定期便”も提供する。ICCサミットのメインプログラムが実施されたグランドハイアット福岡では参加者向けに用意いただいた計450個も見事完売した。
HiOLI西尾さん「多くの方が『2個めも欲しい』とおっしゃってくださったのが、本当に嬉しかったです。本日お持ちしたシャーベットは焼酎や日本酒とも相性がよいですし、濃いめのお酒を飲んだあとのお口直しにもピッタリなので、ぜひお試しください」
HiOLIと言えば、4月から限定販売を開始した姉妹ブランド「Craft Butter Cake」にも注目だ。
パンフォーユー(群馬県桐生市)
同じく今回のCRAFTED カタパルトに登壇し見事準優勝に輝いたパンフォーユー。地域のベーカリーの出来たてパンを独自冷凍技術で冷凍し、オフィスや個人宅に届けるサービス“パンスク”を提供する。今日は5つのベーカリーからこだわりのクラフトブレッドを提供いただいた。
この日の午前中にピッチを終え、清々しい表情でブースに立つ代表の矢野健太さんに、カタパルト登壇の感想を伺った。
パンフォーユー矢野さん「今日はパン屋さんの思いを伝えることを意識してピッチしましたが、クスカさんやHiOLIさんなど、作り手本人が発信する言葉はやはり強いなと勉強になりました。作り手の言葉を代弁したとしても、その魅力がしっかり届けられるような伝え方や表現を学ばなければいけないなと。それができていれば、優勝だったのかなと思います(笑)」
湘南みやじ豚(神奈川県藤沢市)
前回のCRAFTED カタパルトで準優勝に輝いたみやじ豚からは、ブランド豚肉「湘南みやじ豚」の生ジャーキーを提供いただいた。みやじ豚の旨味の秘密はストレスフリーの生育環境と特別配合の穀物にあり。実際に、みやじ豚のブタ肉は旨味成分のグルタミン酸が極めて多く、その脂肪には体に優しいオレイン酸が豊富に含まれていることが科学的にも実証されている。宮崎県産の柚子胡椒が香る生ハムのようなジャーキーは、おつまみにぴったりの味だ。
獺祭(山口県岩国市)
そんなみやじ豚と一緒にいただきたい飲料展示ブースのトップバッターは、海外でも大人気の日本酒ブランド、山口県岩国市の日本酒メーカー旭酒造が作る「獺祭」だ。
ICCの各種パーティでもドリンク提供をいただく旭酒造は、ICCサミットのオフィシャルパートナーだ。旭酒造が獺祭を通じて経営者の皆さんに届けたい「体験価値」とは? 後ほど会場入りされた四代目蔵元、桜井一宏さんに直接お話を伺った。
獺祭 桜井さん「ICCに参加される経営者の方々のように忙しく、また日々の生活をちょっと豊かにしたい、そのために美味しいお酒が欲しいという方にはぜひ、獺祭を飲んでいただきたいです。そんなお酒を、私たちは作り続けています。
特に本日お持ちした『二割三分』は私たちの意志やプライドが全部込められたお酒です。また今夜はパーティということで、華やかさを演出してくれるスパークリングもご用意しました」
ヤッホーブルーイング(長野県佐久市 / 軽井沢町)
軽井沢地区限定のクラフトビール「クラフトザウルス」(ヤッホーブルーイング)
日本酒の次は同じくICCサミットのオフィシャルパートナー「ヤッホーブルーイング」のクラフトビール。定番「よなよなエール」や「金曜日のネコ」と並ぶ黒いパッケージとマンモスの絵柄が印象的な「クラフトザウルス」は、おそらく多くの方が目にしたことがないクラフトビールだろう。それもそのはず、クラフトザウルスは軽井沢地区限定販売であり、その他はオンラインストアでしか購入できないプレミアムなビールなのだ。
グレープフルーツのような華やかなホップの香りが特徴とのこと。軽井沢にお立ち寄りの際はぜひお試しあれ。
KUSKA(京都府与謝野町)
ICC FUKUOKA 2020 CRAFTED カタパルト優勝「KUSKA」
続いて、衣食住の“衣”を届けるクラフトブランドから、トークセッションにも登壇いただいた第3回 CRAFTED カタパルト優勝、楠 泰彦さん率いる「KUSKA」だ。
楠さんによると、男性へのギフトや海外の方へのプレゼントとしてご好評いただいているとのこと。さらにKUSKAのオンラインショップでは、豊富なネクタイのラインナップの他に女性用の手織りストールも販売している。ご興味のある方はぜひチェックしていただきたい。
CRAFTED カタパルトでのプレゼンテーションでは、今年6月に銀座に旗艦店をオープンすることも発表された。
三星グループ(岐阜県羽島市)
こちらは、同じく先ほどのトークセッションに登壇いただいた岩田真吾さん率いる三星グループの展示ブース。ウール100%の「23時間を快適にするメリノTシャツ」は、稀少な極細ウールを三星の技術で紡ぎあげた“ファーストクラス”のTシャツだ。
コエドブルワリーの朝霧さんも「このTシャツを着て出張に行った時、長時間着ていてもずっと快適だし汗をかいても匂わないので感動しました」と絶賛。
EVERY DENIM(岡山県倉敷市)
全国を旅した“デニム兄弟”が送る岡山発デニムブランド「EVERY DENIM」
続いて今回のCRAFTED カタパルトにラストプレゼンターとして登壇した山脇 耀平さん。共同代表で弟の島田 舜介さんと岡山県倉敷発のデニムブランド「EVERY DENIM」を運営する。二人は、2018年から1年3カ月かけて47都道府県をキャンピングカーで巡り、衣食住の生産者に出会う旅を行った。そして今回のCRAFTED カタパルトでは「2020年、1万着のデニムを回収する」と宣言した。
EVERY DENIM山脇さん「僕らのジーンズを履いてくれている人たちを巻き込んで、『消費者が生産に携わる』、そんなきっかけを実現できれば、モノを作って捨てるという今のサイクルに新しい提案ができると信じています」
Foo Tokyo(東京)
“おうち時間”をデザインするライフスタイルブランド「Foo Tokyo」
最後は、今回のカタパルト・グランプリで優勝賞品を提供いただいた「Foo Tokyo」。Foo Tokyoは、自宅での上質な安らぎの時間を提案するライフスタイルブランドだ。
代表を務める桑原 真明さんはカタパルト・グランプリの表彰式にて、優勝に輝いたT-ICU代表取締役社長・医師の中西さんに「普段は白衣を着て忙しくしていらっしゃると思いますが、たまにはガウンを着てゆっくりお休みになってください」とホワイトカシミヤ製のナイトガウンを手渡していただいた。
九州の匠が生み出す、CRAFTEDなモノづくり
衣食住の特別体験ブースとともにCRAFTED NIGHTの会場を彩るのは、LEXUSと全国の新聞社のパートナーシップによる開催された、地域のモノ作りの再活性を目指す LEXUS NEW TAKUMI PROJECTの作品展示だ。今回は福岡でのICCサミットということで、九州を拠点に活動する3名の若き匠をお招きした。
竹藝家 麻生 あかりさん(大分県豊後高田市)
大分県代表の匠、麻生 あかりさんは、従来の竹細工にはない立体的なX字状の編み方「キアズマ」でアクセサリーを生み出す竹藝家だ。プロジェクトでは、上記に示したイヤリングの他、バングル、ボウタイが制作された。
こちらは、“設計図を作らず思いのままに作った”という竹細工作品。キアズマの整然とした模様とは対照的な、複雑な編み模様と絶妙なバランスが印象的だ。
肥前びーどろ職人 副島 正稚さん(佐賀県佐賀市)
佐賀県代表の匠、副島 正稚さんは、佐賀市の重要無形文化財指定「肥前びーどろ」の伝統工芸技術を継承するガラス職人。
飲み口に独特な広がりを持つハイボールグラス「天開タンブラー黄昏(こうおん)」(上記写真、右)は、型を一切使わない「宙吹き」と呼ばれる技法で制作された。肥前びーどろの瑠璃色とハイボールの琥珀色が混ざることで、夕暮れのような色合いになる。
こちらは、江戸末期から伝わる伝統の酒器「藍色ちろり(長崎チロリ)」。細長い注ぎ口は“一発勝負”で作られるそうだ。
デザイナー 武石 一憲さん(福岡県福岡市)
最後を飾るのは福岡県代表の匠、武石 一憲さんによる3Dプリンターを駆使したアート作品。プロジェクトで制作された「CURRENT(カレント)」は、ドーム状のガラスの中に魚の群れが螺旋状に並ぶ立体作品だ。内部にはLEDが設置され、間接照明としても使うことができる。
これらのアクセサリーもすべて、3D CADでデザインされ、樹脂素材から3Dプリンターにより作られた作品だ。3Dプリンティングならではの立体的な造形は、一級建築士の資格を持つ武石さんならではのデザイン技術を感じさせる。
「CRAFTED」は、地域の文化・誇りと共に存在する
以上、ICCサミット FUKUOKA 2020、DAY2夜の特別プログラム「CRAFTED NIGHT powered by LEXUS」のトークセッション&スペシャル展示・料飲体験ブースの模様をお届けした。
この特別なネットワーキングの場で感じたのは、モノづくりやブランドにおける「地域性」の存在だ。あらゆるプロダクトが生まれる全ての土地には、そこに住む人々の営みがあり、地域に根ざした文化がある。
作り手がプロダクトに込めるCRAFTEDな思いは、その文化を代弁しているのかもしれない。あるいは、彼らがプロダクトを通して提供する体験が、地域の人々の誇りや思い出として刻まれているのかもしれない。
「地域とともに、地域のために」
考え抜かれたモノづくりと作り手の想いに触れることで、これからの“CRAFTED”の在り方の一つが見えてきた夜だった。
(続)
▶平日 毎朝7時に公式LINE@で新着記事を配信しています。友達申請はこちらから!
▶ICCの動画コンテンツも充実! ICCのYoutubeチャネルの登録はこちらから!
編集チーム:小林 雅/尾形 佳靖/戸田 秀成
更新情報はFacebookページのフォローをお願い致します。