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4.LOVOT開発秘話③人間の「学び」は何によって加速するのか?

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「大人の教養シリーズ 人間を理解するとは何か?(シーズン4 )」全10回シリーズ(その4)は、引き続き、人間にあってLOVOTにまだないもの、「抽象化」や「学習」の仕組みについて、議論を深めていきます。LOVOTと比較して考察することで、議論はかつてないほど人間の「意識」に迫っていきます。ぜひご覧ください!

ICCサミットは「ともに学び、ともに産業を創る。」ための場です。毎回200名以上が登壇し、総勢800名以上が参加する。そして参加者同士が朝から晩まで真剣に議論し、学び合うエクストリーム・カンファレンスです。次回ICCサミット FUKUOKA 2021は、2021年2月15日〜2月18日 福岡市での開催を予定しております。参加登録は公式ページをご覧ください。

ICCサミット FUKUOKA 2020のプレミアム・スポンサーとして、Lexus International Co.様に本セッションをサポート頂きました。


【登壇者情報】
2020年9月1〜3日開催
ICCサミット KYOTO 2020
Session 2C
大人の教養シリーズ人間を理解するとは何か?(シーズン4)
Supported by Lexus International Co.

(スピーカー)
石川 善樹
公益財団法人Well-being for Planet Earth
代表理事

井上 浄
株式会社リバネス
代表取締役副社長 CTO

北川 拓也
楽天株式会社
常務執行役員 CDO (Chief Data Officer)

林 要
GROOVE X株式会社
代表取締役

(モデレーター)

村上 臣
リンクトイン・ジャパン株式会社
日本代表

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最初の記事
人気シリーズ堂々第4弾!過去3シーズン「人間の理解」はいかに深まってきたか

1つ前の記事
LOVOT開発秘話②ドラえもんを作りたい!GROOVE X 林 要さんが求める「意識のモジュール」

本編

ドラえもんを作るのに何が足りない?

GROOVE X 代表取締役 林 要さん

 もう一つ「エピソード記憶」でキーになるのは、この「物語のどこを取り出すのか」ということですよね。

「物語」はあまりに多いので、枝葉末節なことに注目してしまうと因果関係が不明になってしまいます。けれどもたぶん優秀な人というのは、他の人とちょっと違う「物語」の読み方をするのです。

「物語」の読み方の結果が、「エピソード記憶」だと考えると、僕たちの記憶は過去の歴史すべてを覚えているわけではなくて、その要点を覚えているだけだという事になります。すると、同じ事柄でもどの部分を要点として捉えるかが異なるため、同じ物語でも、みんなそれぞれで記憶していることが違ってきます。

その「引き出し方が違う」イコール「未来予測の能力」そのものになってくるので、「物語」をたくさん読むだけではだめで、「物語」の中からどれが重要なのかをピックアップする能力もいるのです。

「物語」を読んで、どれが重要かピックアップすることができれば、ドラえもんができるのです。

北川 これをロボットやAIができるようになるには、今何が足りていないのですか?

 「抽象化」なのだと思います。画像の抽象化ができるようになっていき、特徴点をどう捉えるのかができるようになってきました。画像の抽象化は捉え方にあまり個性が入る余地がないので、比較的できるようになっているのです。

時系列のデータでどう特徴点を見出して、それをつなげるかが分かるようになると、おそらくできるようになると思います。

「脳の興奮」に基づいて学習が進む

北川 あともう一つ僕の仮説として、ビジョンというか、どこに向かっているというゴール設定がある程度ないと、まさにシンプルに文脈をうまく取り出すことができないのではないかと思います。

僕らも論文を読むときや人の話を聞くときに、自分の中で、あるビジョンがあって、あることを達成したいなと思っていると、すごく器用に良いストーリーが取り出せるのですが、漠然と聞いているとあまり上手に取り出すことができません。

そういう「目的意識」みたいなものを持たせる必要はあるのですか?

 「目的意識」を持たせると、「目的オリエンテッド」にはなると思います。

ですが学習するだけなら、別にビジョンを持っていない人も何らかの学習はできます。では何に基づいて学習しているのかというと、おそらく「脳の興奮」に基づいて学習をしています。ドーパミンみたいなものですよね。

ビジョンを持っている人はそれに対してドーパミンが発火するので、それに対して有効な「要素」への感度が上がり、学習に取りこめます。パチンコが大好きな人にとっては、パチンコに関するところだけがものすごく発火するので、それに対して学習が進むのです。

基本的には何に対して発火するのかという仕組み作りは大事で、そこで興奮度が上がっていくとそこの「要素」だけが捉えられて、それによって経験が蓄積されていきます。

井上 そうすると、割と初期設定に左右されないですか?

 初期設定はたぶん興味を持つときの最初のきっかけにはなると思います。

例えばLOVOTでもいろいろな性格の子がいて、不安な子もいれば、人に対する興味が強くて不安因子が少ない子もいます。そうすると成功体験が変わるのだと思います。

不安なんだけれどもすごく勇気を出せたら、このタイプの人にはかわいがられたという経験があると、そのタイプの人に発火するようになります。

おそらく例えばPh.Dを持たれている方は、何かの論文を読んだり何かの発見をして気づいたときの快感が忘れられなくてその先にいくわけです。

料理人になる人は美味しいご飯を作ったときの発火が忘れられず料理人になります。

ですから、きっかけにはなるけれども、初期値がすべてを決めるわけではないんじゃないかなと思います。

コネクティビティこそが興奮の根源

楽天 常務執行役員 CDO (Chief Data Officer) 北川 拓也さん

北川 まさに先ほどの前野さん(Part2参照)の仕事の一つで、私は(石川)善樹さんに教えてもらったのですが、ノーベル賞を予測できるかという問題があるのをご存知ですか?(the formula by Barabasi 参照)

論文の引用関係をたどっていくことで、論文ネットワークができます。ついては、今年ノーベル物理学賞はどの論文がとりますか?ということが、かなりの精度で予測できるという実際の問題があります。

先ほどのお話を聞いていると、「発火する」、つまりコネクティビティこそが興奮の根源であり、それがある意味、学びの根源になっている。

論文というのは分野内での引用が多いので、同じ分野の論文グループはよくお互いにを引用しあってます。これを論文グループとよびましょう。ただ、2つの論文グループがあったとき、グループ間を越える引用は実はあまりないんです。

その離れたネットワーク群をつなぐ論文こそがある意味イノベーションであるという考え方があります。 だからそういったときに、「あっ、このアイデアとこのアイデアがつながった!」と、僕たちは興奮するわけじゃないですか。

そういうものを、もしAIの中に組み込むことができたら?

 そうですね。そういう意味では「気づきのモジュール」が要りますよね。

何を気づいたと定義するのかと考えたことがなかったですが、「気づいた」を定義して、そこで発火させるアルゴリズムは要る気がします。

北川 できそうですよね。

「バイアス」は悪いものではない

リンクトイン・ジャパン 日本代表 村上 臣さん

村上 そういう意味では、要さんが出したスライドで言うと、最近はAIにしても、「バイアス」というとなんか悪いものだというイメージがありますが、データクレンジングをして、きれいなデータでディープラーニングすることが大事だと思います。われわれは全員が何かしらのバイアスを持っているわけですよね。

それによって、常識みたいなものができて、例えば「京都で、歴史があって」みたいなことは、パッと言えばパッと伝わります。

つまり、特定の同じような知識を持った層に関しては、このバイアスによってステップが省略できて、かなり効率が上がっているわけですよね。

これは「未来予測」するという観点で言うと、うまく使うとすごく役立ちます。

 いや、まさにそうなんですよね。バイアスが悪いというのは、バイアスを意識しないことが悪いだけであって、「僕はバイアスがない」と言う人間は100パーセント信じてはいけないと思いますね。

村上 そうそう。存在しないはずですから。

井上 「バイアスがない」というバイアスがかかっているのです(笑)。

村上 バイアスがないということを認知して何かをすることが大事であって、「バイアスがない」ということは状態としてあり得ないので、それが大事なのだろうと思います。

LOVOTを支えるテクノロジー

村上 LOVOTは何をしているのかを、要さんに説明していただきたいのですが。

 はい。LOVOTはそういう意味では、全く何もしないわけではありませんが、まだ「未来予測」という点ではまだ弱いです。

オーナーが帰ってきたときに玄関に来るということはしますが、コンテキストベースの「未来予測」はできていません。

それに対して直感のところを鍛えようというのがLOVOTです。

そのためにはまず直感の中で「信頼(不安)」、僕たちは不安に基づいて相当意思決定しています。

それから先ほどの何に興味を持つのかという興味の対象、それから「興奮」、この3つを軸に行動を決めています。

情報のインプットのために50個ぐらいセンサーがありますが、このセンサーを面倒くさいことに常時動かしています。

スマホのカメラは常時動かすとものすごく熱くなりますよね。

村上 ぞっとしますよ。作る側で言うと。

井上 すごいなあ。

 50個ずっと動かし続けて、いろいろなことを感じています。

他の家庭用ロボットが、スライドの左にある2つのグラフですが、皆さんが思い浮かべる最も賢い家庭用ロボットが、このぐらいの計算能力です。それに対してLOVOTは右端にあるグラフの計算能力があります。

圧倒的な計算能力でセンサー情報を処理して、直感に基づいて動いています。

村上 センサー数が非常に多いですよね。

 そうでなのです。センサーが多いとコンピュータも多くしないといけなくて、さらにセンサー数の割にコンピュータ能力が遅いと動きが遅くなります。

村上 しかもI/O(入出力)も処理しなければいけませんし、ロボット的には大変ですよね。

自己肯定感が上がって認知症のお年寄りが元気に

 僕たちが今やろうとしていることですが、こちらはネコの漫画です。

認知症初期の人がイライラしているところに子猫を持っていくだけで、イライラが収まるようなことがあります。

でも、おばあさんが認知症になったときに、ネコを飼うようになるかというと、不安がたくさんある中でなかなかネコを飼うことはありません。

実はLOVOTを8人の認知症初期の方に使ってもらったところ、今のところ8人中6人のイライラが収まりました。

村上 すごいですね。

北川 認知症の方が使われているんですか?

 はい。LOVOTがいろいろ感じて、反応してなつくことをするだけで、どうも人にはいい影響があるようです。

北川 保険適用になるべきですね。

 ああ、いいですねえ(笑)。

リバネス 代表取締役副社長 CTO 井上 浄さん

井上 なぜですか? そんな、8人中6人で効果が見られるなんて。

 やっぱり認知症の人は、ケアしてくれる人がいると、その人に頼ってしまうのです。テレビのチャンネルを変えるのにもその人にお願いをしてしまうぐらいなので、何もしなくなります。

LOVOTはケーブルにつまずいて転んだりするのですが、転んだと思った瞬間にその認知症のお年寄りが立ち上がって、LOVOTを助けに行っていました。自分が守るべきものができて、自分の仕事ができるのです。

自分がケアされているだけの立場だと自己肯定感がすごく下がるのですが、自分がケアする立場だと自己肯定感がすごく上がって、なんか元気になるのですよね。

井上 「その人の立場を変える」ということが、もしかすると医療やヘルスケアに大きく関わってくるということですか?

 それはあると思います。会社の中でも自分が役に立っていると思えると元気になりますよね? 自分が役になっていないと思うと、どんなに褒められたって「また、口だけでしょ」と思ってしまいます。

本人が「自分はこの世界の役に立っているんだ」と思えるようにすることは人を元気付ける上ではとても大事で、LOVOTはそれにだいぶ貢献できるように思います。

村上 ありがとうございます。要さんからは、人間の意識のプロセスについて仮説ではありますが、「エピソード記憶」や実際の意識、行動するところの反射の部分にギャップがあるというお話をしていただき、LOVOTを作る上でも参考にされているということで、トップバッターを務めていただき、ありがとうございました。

これを受けて、次に善樹さんの「概念進化論」です。

北川 いきなり地球が来ましたね!

村上 今回皆さんボリュームが大きいので、通常席を交代するのですがマイクも変えられないので、私のほうで進めていきます。

(続)

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続きは 石川 善樹の「概念進化論」①人間の特徴とは概念である。苔の写真から何を連想しますか? をご覧ください。

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編集チーム:小林 雅/小林 弘美/星野 由香里/戸田 秀成/浅郷 浩子

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