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ICC FUKUOKA 2022 ソーシャルグッド・カタパルトに登壇いただいた、山西牧場 倉持 信宏さんのプレゼンテーション動画【「飲める脂」の可食部はたった半分! 副産物のアップサイクルで豚の価値を追求する「山西牧場」】の文字起こし版をお届けします。ぜひご覧ください!
ICCサミットは「ともに学び、ともに産業を創る。」ための場です。毎回300名以上が登壇し、総勢900名以上が参加する。そして参加者同士が朝から晩まで真剣に議論し、学び合うエクストリーム・カンファレンスです。 次回ICCサミット KYOTO 2022は、2022年9月5日〜9月8日 京都市での開催を予定しております。参加登録は公式ページをご覧ください。
本セッションは、ICCサミット FUKUOKA 2022 ゴールド・スポンサーのSIIF(一般財団法人 社会変革推進財団)にサポートいただきました。
▶【速報】未来を奪われた難民の、日本での活躍を支援する「WELgee」がソーシャルグッド・カタパルト優勝!(ICC FUKUOKA 2022)
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【登壇者情報】
2022年2月14〜17日開催
ICC FUKUOKA 2022
Session 11A
ソーシャルグッド・カタパルト
– 社会課題の解決への挑戦 –
Sponsored by SIIF(一般財団法人 社会変革推進財団)
倉持 信宏
株式会社 山西牧場
代表取締役
1990年生まれ。明治大学農学部卒。家業の三代目として有限会社山西牧場に入社。農場勤務し、一年間スペインに留学。帰国後屠畜場、ハム工場での研修を経て自社生産豚肉の販売事業・OEMでの加工品製作に着手。2018年に自主制作での自社サイトおよびウェブショップを製作しwebでの販売を開始。2019年、自社サイト製作、リブランドを目的としたクラウドファンディングを実施。株式会社山西牧場に変更し代表取締役就任。2020年3月に農場直送ブランド「三右衛門/3 é mon」を立ち上げる。
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倉持 信宏さん こんにちは、山西牧場の倉持と申します。
我々は、茨城県の南西にある坂東市で養豚業を営んでおります。
養豚家として、私で3代目です。
副産物を活用したものづくりへの挑戦
我々の農場では、7,000頭の豚を飼育しています。
養豚業が取り扱うのはもちろん豚肉で、そのお肉は様々な原料や素材になります。
今回のICCサミットでもベーコンを提供させて頂きました。
そのお肉などの大元になるのは、もちろん生き物であり命です。
今回は、生産の中で生まれる副産物を活用したものづくりと、その経緯についてお話しさせてください。
畜産では、肉以外にも、鶏からは卵、牛からは牛乳が得られます。
さて、豚はどうでしょうか。
実は養豚場では、豚を育て、豚が製品になるまでの生産過程の中で、出荷する豚以外にも、製品になりうる様々な副産物があります。
それは、骨や皮、胎盤などで、これらはバイプロダクトと呼ばれています。
豚の胎盤=プラセンタを基礎化粧品に
我々が今回目をつけ、着手したのは胎盤です。
母豚が子豚を出産する時に排出される胎盤は、アミノ酸やビタミン、ミネラルが豊富で、プラセンタとして、化粧品やサプリメントの原料になっています。
当初、我々の農場ではこの胎盤が十分に活用されず、廃棄されてしまっていました。
農場ならではのものづくりに活かせないかと考え、行き着いたのがプラセンタエキスを用いた基礎化粧品を作ることでした。
プラセンタを用いた基礎化粧品は、既に世の中にたくさんあります。
ただ、原料や配合率が明らかなものはなかなか見当たらず、質や透明性にはまだ疑問があったのです。
アップサイクルとはいえ、愛されるものを生み出さなければ意味がない。
そこで、自社農場生産のプラセンタ原料のみを使い、できる限りシンプルで、高品質で、素材の力を感じられるものを作りたいと思いました。
そして工場との打ち合わせの中で、原料の生産者だからこそできる取り組みがあることに気づきました。
農場だからこそ、原料の採取、洗浄、加工、保存の工程に手を加えられるということです。
分娩をしたその日に採取し、臭いのもとになりやすい血液や汚れた部分を丁寧に除去、入念に洗浄をした後、すぐに冷凍保存します。
このように手を加えた結果、抽出工場の方は、これほどきれいな胎盤は見たことがないとおっしゃいました。
プラセンタ高配合のスキンケア商品が完成
そして自社生産の豚の胎盤から得られるプラセンタエキスを使い、化粧水、美容液、100%原液などを作りました。
着手から2年、様々な協力を得て、やっと完成した製品です。
▶養豚・精肉業の山西牧場、豚由来プラセンタ使用のスキンケアラインを発売(美容経済新聞)
何よりのこだわりは、化粧水には3%、美容液には30%と、プラセンタエキスが非常に高配合であることです。
また、あえて香料を使いませんでした。
プラセンタ高配合で、香料を使わないからこそ、素材の持つにおいがわずかにします。
このように、生まれるものを活かしたアップサイクルなものづくりはもちろん、それ以上に、採取から製造にかけて、そのものの良さを活かすことに心血を注いで作りました。
生産者という枠組みから出て製品を作ってみると、生産者は、加工品はおろか肉の流通についても知らないことがたくさんありました。
養豚業は、出荷するまでが仕事です。
生産の先、もっと先にある産業と出会い、ともにものを創る共創、Co-Creationの形もあると考えています。
このような活動に至るには、生産から消費の過程において、消えていくものの多さに気づき、見てきた経緯があります。
115kgの豚で可食部は約40〜50kgのみ
この数字をご覧ください。
1頭の豚は、1kgで生まれ、半年かけて、出荷される体重である115kgにまで育ちます。
そこから得られる精肉は、約40〜50kgです。
たった40〜50kgであり、それ以外の部分は、骨や皮、内臓、頭など、お肉ではない部分です。
最終的な肉になるまでに、副産物が全体の半分以上を占めるのです。
生まれてから出荷されるまで、豚本体だけではなく、胎盤、糞尿、時には死骸などが出て、消えていきます。
今回ご紹介した胎盤は、形を変えて人の美や潤いに貢献する可能性がありますし、排泄物も堆肥となって新たな生産へと循環していきます。
一つの命は食卓に限らず、還元され、生まれ変わっていきます。
肉以外にもたくさんの可能性があるのです。
命を取り扱う中で私は、生まれてくるものが、できる限り愛される瞬間があってほしい、豚の全てに価値を、と考えるようになりました。
そしてもちろん、作るだけではなく、生産、消費、環境の3つの観点から利点がなければいけないと考えるようになりました。
我々生産者は、副産物を原料とするプラセンタを使用して廃棄物を減らし、コストを抑えたアップサイクルに取り組みます。
環境に対しては、廃棄物を減らすことで負荷を軽減します。
消費者に対しては、原料が明確で、より濃度にこだわった化粧品をリーズナブルな価格で提供しています。
胎盤以外の副産物の更なる可能性
このような、副産物を活用した製品づくりは、胎盤以外でもたくさん行われています。
これは豚の原皮で、自分たちの手で何かに活用できないか取り組んでいます。
皆さん、豚皮はありふれたものだと考えているかもしれません。
実は豚の皮は、日本でしかとれません。
なぜならアジア諸国やヨーロッパでは、豚の皮は、肉と一緒に食品として流通しているからです。
日本では皮剥ぎ、他の国では湯剥きと言って、皮を残して毛を抜いた形で屠畜されています。
豚の原皮は日本ならではの資源であり、それがたくさん眠っている現状があるのです。
豚皮は、国内の生産量のたった5%くらいしか、日本国内では活用されていません。
こうした、生まれても活用されていない資源は、まだまだたくさんあります。
豚の原皮の生産はもちろん、なめし(※)も日本のクラフトマンが手がける豚皮製品に生まれ変われば、今眠っている皮は、どこかで大切に愛されるものになれるのかもしれません。
▶編集注:動物の皮や毛を処理して、腐敗防止や耐久性や柔軟性をもたせること。
皮鞣し(なめし)皮革製造現場をレポート。豚革なめし加工の山口産業(株)さんの工場見学に参加させていただきました。(shoepara)
一次産業の中の、こんな小さな1分野にも、様々な課題があります。
作るだけではなく人の役に立つ道を作れるよう、生産物や、そこから生み出されるものの品質を信頼できるものにする、愛されるものづくりに挑戦したいと思います。
ありがとうございました。
(終)
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編集チーム:小林 雅/星野 由香里/浅郷 浩子/戸田 秀成/大塚 幸
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