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ICC KYOTO 2022の特別プログラム決定! 現在十六世が受け継ぐ「朝日焼」の工房を一足早く見学しました

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ICC KYOTO 2022の開催地である京都・宇治は、全国でも3本の指に数えられるお茶の名産地。そこに約400年前から窯を構える「朝日焼」の十六世である松林豊斎さんを訪ね、お話をうかがいました。今回特別プログラムとして予定されている見学ルートや、たった1つの家が継ぐ「朝日焼」のものづくりについてお伝えします。ぜひご覧ください!

ICCサミットは「ともに学び、ともに産業を創る。」ための場です。毎回300名以上が登壇し、総勢900名以上が参加する。そして参加者同士が朝から晩まで真剣に議論し、学び合うエクストリーム・カンファレンスです。 次回ICCサミット KYOTO 2022は、2022年9月5日〜9月8日 京都市での開催を予定しております。参加登録は公式ページをご覧ください。


日本の京都のお茶の三大名産地のひとつ、宇治。その地で約400年前から茶器を作っているのが、HOSOO GALLERY細尾 真孝さんのご紹介で今回訪問した朝日焼です。その16代目となる松林豊斎さんの名刺には、「朝日焼 十六世」と記されています。

朝日焼 十六世 松林豊斎さん

「海外の人に名刺を渡すと、私が作っているのかと驚かれます。エルメスなど、オーナーがいてクラフトマンがいてという分業する世界観ではなくて、自分たちの商売で、自分たちで手を動かしていて代を重ねているというのが、彼らにとって不思議で面白いみたいです」

穏やかに語る松林さんは、2016年に朝日焼十六世豊斎を襲名した職人でもあります。ギャラリー兼ショップでICC一行を迎えてくださった松林さんに、朝日焼やお茶の器の歴史について、お話をうかがいました。

十六世 松林豊斎(朝日焼)……作品一覧

平安貴族の別荘地、宇治川のほとり

「鳳凰が見えますか? 平等院の鳳凰堂の屋根が、この対岸からちょうど見えています」

宇治川に沿って工房に向かう一行に、対岸を指差した松林さん。たしかに、木々の間に輝く鳳凰が見えます。

この宇治という土地は、平安時代の京都の貴族たちにとって別荘地のような場所。かつては宇治川に千艘も舟を浮かべて舟遊びをしたり、宇治神社で行われる田楽を眺めたりして楽しんでいたといいます。近くに源氏物語ミュージアムがありますが、紫式部はここで源氏物語を書いたのではないかという説もあるそうです。

そんな文化的な背景がある土地でお茶の栽培が始まり、お抹茶碗を作ったのが朝日焼の始まりです。

この付近の山々は、宇治川が琵琶湖から運んできた堆積物が隆起してできたもの。その中に陶土があって、朝日焼は朝日山という山の土を掘り出して使っています。

朝日焼を守るのは一つの家だけ

粘土を成形する工程をする部屋

朝日焼には、ひとつの窯しかありません。〜〜焼というと、その里一帯で同様の製法を持った窯が集まっていたりしますが、朝日焼は「朝日」の名前を茶人の小堀遠州から授けられ、松林家でも本家の一つのみが受け継いでいます。

その特徴のひとつは、陶器と磁器の両方を作ること。松林さんに経緯をうかがいましょう。

知ってるようで知らない!?陶器と磁器の違いについて(JTOPIA)

「茶道の文化は江戸初期に発展しました。上林家という家があって、将軍のためのお茶を用意していました。

歴史と伝統(お茶のかんばやし)

江戸まで将軍のためにお茶を運ぶことを茶壺道中といい、大名行列のように江戸までお茶を運んでいく。茶壺行列のほうが大名行列よりも格が高いといわれていました。

すると全国の大名もお茶を求めるようになり、それと同時に茶碗も買われました。

江戸時代中頃になると、お茶文化がだんだん廃れていき、この辺りのお茶を作っていたところも朝日焼も下火になっていくのですが、やがて煎茶が大流行します。裕福な商人たちが文化の中心になり、抹茶文化はかつての権力層っぽいと、自由なものを求めて煎茶が始まったのです。

煎茶は茶の色が淡いので、より白い生地を求めるようになり、磁器の技術が京都に入ってきたので、朝日焼も磁器の素材を買ってきて、急須を作るようになりました。ここでは技術も素材もイノベーションがありました。

お茶の文化が変わるならば、我々は茶に合わせて、器を変えていく。お抹茶の器も作りながら、それから約200年、両方をやってきて、そこから発展したものなど、非常に幅広いものを作っています。

抹茶はおいしく飲めることとに加えて、精神的なものや美的なもの、煎茶はまずは実用性、おいしくお茶を飲めることが重要です」

煎茶用急須。底に溜まった最もおいしい一滴まで注げるように、下まで約150個の穴が開いている

環境に配慮し、知恵を詰め込んだ登り窯

昭和50年頃製の登り窯。窯からつながる灰色のパイプ上部に乗っているのは、排煙処理システム

話を聞きながら、登り窯の正面までやってきました。ICCの下見でもいくつか見学してきたことがありますが、ここの登り窯、大きいです。人との比較でわかるでしょうか?

そしてこの窯、なんと窯の下まで降りていくことができます。

この一見普通に見えるドアが窯の下の入り口

窯の隣にあるドアを開けて地下に降りていくと、なんとそこは窯の下。下の写真で見上げているのが、窯の天井の方向です。

地下は鉄筋コンクリート製

この窯の中では、焼くものに合わせて棚を組み、並べて焼成します。焼き上がったら油圧ポンプで上げて、上から取り出すこともできます。環境に配慮した排煙システムに加えて、蓋を開けると温度が下がるため、外から確認できる窓を作ったりと、松林さんの祖父にあたる14世がさまざまな工夫を凝らして設計し、作ったそうです。

「新しい技術が我々の作るものをよくしてくれるというのが、今よりもはっきりしていた時代です。ガス窯がほとんどない時代にガス窯を持ち、登り窯とそれぞれのよいところを意識して使い分けていました」

「玄窯」という名前は三笠宮殿下夫妻が見学の際につけたもの

窯の正面にはしめ縄と紙垂(しで)があり、精神的なものも感じさせます。

「西洋の人は、なぜこんなところに神社みたいな縄があるのか?と言われますね。

自分の個性を100%、混じりけなしに表現するのが西洋ではアートと言われますが、我々は土の個性をいかに引き出すか、土といかに向き合うかという姿勢です。

窯に火を入れるときにみんなでお祈りをしたり、祈る気持ちのようなものがこういう装飾になったりしています。

作るものは変遷していますが、朝日焼としての特徴は表面にあるのではなく、どのような姿勢であるかや作ることに向き合うか、土を保存しながら作っていくこと、お祈りをして窯を焚くこと、そんな習慣に大事なことがあるんじゃないかと思っています」

朝日焼のアイデンティティ

釉薬の部屋で。「窯を象徴する色が求められる流れもありましたが、朝日焼のコアな部分は内側にある」

お話をうかがって、窯やショップに一見、同じ窯のものとは見えないようなさまざまなものが並んでいる理由がわかりました。

土と向き合うというところで、近くの朝日山の土を使っていることを先に紹介しましたが、それについての話にも朝日焼の特徴が現れていました。

「良質な陶土を使い切らずに、少しずつ、寝かせた土を使っています。今使っている土は、50〜100年ぐらい寝かせた土です。

新しい土は使いにくいので風化させます。土の中に粘土がある状態は真空に近いので、100年ぐらいでは変化しない。それを掘り出すと、バクテリアの動きが活発になってすごく粘り気の強い土になって成形しやすくなります」

寝かせた土とそうでない土は、焼いたあとでは違いがわからないといいますが、何代も前のご先祖が、今の松林さんのために土を掘り、生産量を決めているということは朝日焼ならではの特徴です。

「ウイスキーの値段が突然上がりましたが、あれは20年、30年後の需要がわからなくて、作る量をセーブしていたからですよね。うちもすでに作れる量が決まっていて、拡大がほぼ不可能です。

企業経営として正しいかどうかはわからないのですが、サステナブルという観点では知恵があるのではと思います」

ものを持たず、所有することに執着が薄れているといわれる昨今でも、ものには大切な役割があると松林さんは言います。

「わびさびとは何かというと、多くの日本人は感覚的にわかりますよね。それは千 利休が設計した茶室や茶碗が残っていて、その美意識が共有されているからです。たとえ言葉だけが残っていても、ものがなければなかなか難しいんじゃないかと思います。

たとえば何かで優勝したという記憶が失われたとしても、優勝の記念品があれば、こういうのをいただいたらしいよ、となりますよね。

愛着がわくと残る時間が決まります。人は好きなものをすぐに捨てないじゃないですか。10年、20年、自分の人生より長く、次の世代も愛してくれるようなところがあれば100年、150年と残っていく。そういうところがものの面白さじゃないかと思います」

宇治川のほとりにある朝日焼ショップ&ギャラリー

ICC KYOTO 2022では、特別プログラムとして、朝日焼十六世 松林豊斎さんによる工房見学+抹茶ワークショップを開催します。松林さんは出張時にも道具を持参し、抹茶を点てることでビジネスホテルの空間を自分の部屋に変えているそうで、ワークショップではぜひそんな体験ができればと思います。ご期待ください。以上宇治から、浅郷がお送りしました!

(終)

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編集チーム:小林 雅/浅郷 浩子/戸田 秀成

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