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ICCサミット FUKUOKA 2020 ソーシャルグッド・カタパルトに登壇いただいた、Homedoor 川口 加奈さんのプレゼンテーション動画【貧困の連鎖を断ち、ホームレス状態からの再出発を支援する「Homedoor」】の文字起こし版をお届けします。ぜひご覧ください!
ICCサミットは「ともに学び、ともに産業を創る。」ための場です。毎回250名以上が登壇し、総勢900名以上が参加する。そして参加者同士が朝から晩まで真剣に議論し、学び合うエクストリーム・カンファレンスです。 次回ICCサミット KYOTO 2020は、2020年8月31日〜9月3日 京都市での開催を予定しております。参加登録などは公式ページをご覧ください。
本セッションは、ICCサミット FUKUOKA 2020 ゴールド・スポンサーの電通様にサポートいただきました。
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【登壇者情報】
2020年2月18〜20日開催
ICCサミット FUKUOKA 2020
Session 9B
ソーシャルグッド・カタパルト
Supported by 電通
(プレゼンター)
川口 加奈
認定NPO法人 Homedoor
理事長
公式HP
14歳でホームレス問題に出会い、ホームレス襲撃事件の根絶をめざし、炊出しなどの活動を開始。19歳でHomedoorを設立し、ホームレスの人の特技を活かしたシェアサイクル事業を2011年にスタート。現在は、大阪市内70拠点以上で展開。2018年には長年の夢であった20部屋の宿泊施設「アンドセンター」を開所し、ホームレスの人累計2,000名以上に就労支援や生活支援を提供した。日経WOMAN「ウーマン・オブ・ザ・イヤー2019」や人間力大賞グランプリ・内閣総理大臣賞等、数々の賞を受賞。また、世界経済フォーラムGlobal Shapersや、Forbes誌が選ぶ30歳未満のイノベーター30人「30UNDER30」にも選出される。1991年 大阪府高石市生まれ。大阪市立大学卒業。
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▶「ICC FUKUOKA 2020 ソーシャルグッド・カタパルト」の配信済み記事一覧
川口 加奈さん 皆さん、こんにちは。認定NPO法人 Homedoorの川口 加奈と申します。
私たちは「ホームレス問題」の解決を目指しています。
皆さんは、ホームレスの人と話されたことがありますか?
つい見て見ぬふりをしてしまったり、ホームレス問題を少し縁遠く感じていらっしゃる方が、多いのではないでしょうか。
14歳。駅から見えた“青テント”でホームレス問題を知る
私は14歳の時に初めて、「ホームレス問題」を知りました。
大阪には釜ヶ崎という、ホームレスの人が日本一多く集まるエリアがあります。
こちらの写真のように、ずらりとテントの並ぶ場所があります。
私は中学生になると電車通学をするようになり、毎朝釜ヶ崎の最寄りの新今宮駅を通るようになりました。
そして毎日の行き帰りでこの景色を眺めるうち、ある疑問が湧いてきました。
「なんで、こんなに豊かな日本で、ホームレスになってしまう人がおるんかな?」
その疑問を母親にぶつけると、「ええか、あんた、絶対に駅から下には降りたあかんよ」と言われました。
「えっ、なんでなん?」と私が尋ねると、母は「なんでもや」と言いました。
ちょうど反抗期を迎えていた私は、親に黙ってこっそり炊き出しに参加しました。
それが、私が「ホームレス問題」に関わることになったきっかけです。
家庭環境、病気、失業…誰でもホームレスになり得る
炊き出しに参加してみたものの、私の中でホームレスの人への偏見は根強くありました、
まず思ったのは、「もっと勉強したら、よかったのでは?」ということでした。
もっと勉強して、いい高校、いい大学に入って、いい会社に就職して、そこで定年まで勤めあげれば厚生年金をもらえて、悠々自適な老後の生活が待っているのでは?と思ったからです。
当時の私は、ホームレス状態になるのは、その人が「頑張らなかったから」「勉強しなかったから」ではないか、「自業自得」なのではないかと、心のどこかで思っていました。
ただ、そのマインドのまま炊き出しのおにぎりをホームレスの人に渡すのはよくないと思い、炊き出しの施設の方に聞きました。
「なんで、ホームレスになるんですか?」
施設の方は、細かくその理由を教えてくれました。。
ホームレスの人には、児童養護施設や母子・父子家庭、貧困家庭で育った方が多く、貧困が連鎖しているそうです。また、これは若いホームレスの人に顕著だそうです。
そしてたとえ家庭環境がよくても、うつ病になった、介護離職があったなどの理由で誰もがホームレスになる可能性があります。
大腸がんを患ったことをきっかけに離職せざるを得ず、ホームレスになったオストメイト(人工肛門保有者・人工膀胱保有者)の方も実際いらっしゃいました。
私はホームレスの人と会ったことも話したこともなかったのに、「怠けてるんちゃうん?」「自己責任ちゃうん?」と決めつけていたことへの申し訳なさから、中学、高校と、炊き出しや夜回りなどの活動に参加するようになりました。
借金を背負い、妻子と別れた“おっちゃん”との出会い
そんな中、ある1人のホームレスのおっちゃんと仲良くなりました。
おっちゃんには、私と同じくらいのお嬢さんがいるということでした。
さらにお話を伺うと、“お嬢さん”の年齢は40歳ぐらいだったので、「全然ちゃうやないか」と思いながらも耳を傾けると、自分で会社を経営していたこと、その会社が親会社とともに倒産して借金を背負い、奥さんや子どもと別れて釜ヶ崎に流れ着いたことを話してくれました。
一通り身の上話を聞き終えて、私は、「おっちゃん、今後どうしていきたいん?」と尋ねました。
するとおっちゃんは、「もう一度、畳の上で寝たいんや」と言いました。
「もう一度ちゃんとした仕事で働いて、お金を貯めて家を借りて、立派な姿になってもう一度娘に会いに行きたい」
それを聞いて、「ああ、そうなんや。なんかおっちゃんが働ける仕事ないんかな」と思いました。
その日から私は、求人情報誌を片手に求人先に電話をかけ始めました。
求人情報誌にはたくさんの掲載があるのだから、もしかしたらおっちゃんにも仕事が見つかるかもしれないと思ったのです。
「働くにもお金や住まいが必要」という高いハードル
しかしいざ仕事を探すと、色々なハードルが見えてきました。
先ほど、長坂 真護さんからサステイナブルなトライアングルの話(※) と通じるところがあり驚きましたが、「貧困から抜け出せない負のトライアングル」があります。
▶なぜ電子ゴミでつくったアートが1,500万円で売れたのか?「MAGO CREATION」長坂 真護(ICC FUKUOKA 2020)【動画版】
まず気がついたことは、おっちゃんが仕事をすることになったら、いつもの昼間の炊き出しには並べなくなるということです。
昼ご飯はどうするのか? 昼食代を持っていないと、働きに行けません。
他にも、交通費を用意したり、身なりを整えたりする必要があります。
当たり前ですが、働くにもお金がいるのです。
それなのに、求人のほとんどは給料の翌月末払いを条件にしているので、貯金がないと働きに出ることができません。
さらに、私の携帯から求人先に電話をするにも、採用が決まったときの連絡先、つまりおっちゃんの携帯電話がないと合格できません。
その他にも、携帯電話は、銀行口座の開設や年末調整など様々な手続きにも必要です。
にも関わらず、「住所がないと携帯電話を契約することができない」という問題があります。
家を借りるには初期費用が発生するため貯金が必要ですが、ホームレスの人にはそれがありません。
実は、ホームレス生活にはお金がかかるのです。
まず、食事はいつも外食です。
加えて、コインランドリー、コインシャワー、コインロッカーなど、色々な費用がかさみます。
盲点だったのは、日本では家を借りるにも家が必要で、必ず住民票の提出を求められることです。
路上脱出できないまま、亡くなったおっちゃん
路上から自力では脱出できない「負のトライアングル」があることに気づき、結局大した仕事も見つけてあげられないまま、翌月またいつものようにおっちゃんのところを巡回する日が来ました。
しかしその日に限って、おっちゃんに会うことはできませんでした。
「どうしたんやろ。いつもここにおったのに」と心配になり、周りのおっちゃんに聞いてみると、「あの人、こないだ、亡くなりはったで」という言葉が返ってきたのです。
それは、とてもショックなことでした。
当時、大阪市内だけで年間200人以上が路上で亡くなっていました。
確かに、路上で亡くなる人を「自業自得」と片付けてしまうのは簡単なことです。
でもおっちゃんは、後悔をしていました。
「あん時、ああしとったら会社を潰さんで済んだのに」
「あん時こうしとったら、妻や子どもと別れんで済んだのに」と。
後悔しもう一度やり直そうと思っていたのに、それが叶わず亡くなってしまいました。
身元の分からなかったおっちゃんは、亡くなった後もお嬢さんの元へ帰れず、無縁仏になってしまわれました。
17歳で「夢の施設」を描き、19歳でHomedoorを設立
当時17歳だった私は、やり直したい人がいつでもやり直せる社会をつくりたいと思い、この絵を描きました。
「とりあえずここに駆け込んだら、何とかなる」
来たその日からゆっくり休める個室が用意されていて、栄養ある食事が食べられ、誰にでも仕事がある。
そんな場所をこの日本で、この大阪でたった1つでもつくれたら、路上で亡くなる人の命を救えるのではないかと思い、19歳の時にHomedoorという団体をつくりました、
今年で10年を迎えます。
「路上脱出」の壁を越えるための6つのステップ
Homedoorでは、「路上脱出」を難しくする、「負のトライアングル」による高い壁を、
どんな人でも少しずつ乗り越えていけるように、ステップ開発を中心に取り組んでいます。
その様子をこちらの動画にまとめましたので、ご覧ください。
1つ目のステップは「届ける」で、ネットカフェにポスターを貼らせていただいたり、ウェブの広告で相談者を募ったりしています。
重要なのが「夜回り活動」で、85食のお弁当を、路上生活されている方にお配りしています。
その際にチラシも一緒に配り、今路上で生活している人でも仕事を見つけられることを伝えています。
2つ目のステップが「選択肢を広げる」です。
夜回りで配られるチラシやウェブの広告を見て来られた相談者に、「あなたであれば、あんな方法、こんな方法で脱出できる」という提案をしていきます。
3つ目のステップが、「“暮らし”を支える」です。
シェルターに泊まってゆっくりしてもらい、どうしていきたいのか、専門の相談員と話し合ってもらいます。
そのために5階建てのビル1棟を借り上げ、18室の宿泊施設を提供し、生活に関する様々なサポートも行っています。
また、企業さんから廃棄する予定の食品をいただき、おっちゃんたちに提供しています。
4つ目のステップが「“働く”を支える」です。「雇用創出」や「就労の支援」をしています。
その1つが、シェアサイクル「HUBchari」です。
ホームレスの人の7割が得意とする、自転車修理の技術を活かしたレンタサイクルを大阪で展開しています。
現在、ドコモ・バイクシェアさん、大阪ガスさん、積水ハウスさんなどの色々な企業に200以上のポートをご提供いただき、自転車の貸出返却を行っています。
月間数万人の方にご利用いただき、利用者は現在も増加中です。
外国からのお客様に対しては、おっちゃんも英語対応で頑張ってくれています。
HUBchari以外にも、企業や行政から駐輪管理の仕事を受託し、おっちゃんたちに働いていただいています。
5つ目のステップが「出発に寄り添う」、6つ目のステップが「伝える」です。
▶編集注:ステップ5、6については、レポート記事高校3年生で描いた夢の施設が実現! Homedoorが作る、ホームレス状態脱出の仕組みもご覧ください。
「おっちゃんサポーター」になってください!
最後に、皆さんにお願いがあります。
私たちの活動を支えるおっちゃんサポーターになってください。
というのも、2019年度の相談者数が前年度の2倍以上になっているからです。
▶編集注:川口さんによると、新型コロナウイルス感染症拡大の影響で相談者が増えており、2020年4月は前年比3倍近くとなる105名から新規の相談があったそうです。なお、上のグラフは2019年度途中までのものですが、最新の統計では、2019年度の相談者数は749名に上るとのことです。
ぜひ「Homedoor」と検索していただき、毎月1口1,000円から継続的にご寄付いただき、活動をご支援いただけると嬉しいです。
ご清聴ありがとうございました。
(終)
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編集チーム:小林 雅/尾形 佳靖/フローゼ 祥子/小林 弘美/戸田 秀成
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