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3. 岩手県盛岡市のシビックプライドになることを目指す「ヘラルボニー」

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ICC KYOTO 2024のセッション「地方創生を実現する新しい「街づくり」とは?(シーズン2)」、全4回の③は、盛岡に本社を置くヘラルボニーの松田 文登さんが登場。ホテル事業やアートラッピング列車・バス、ギャラリーによって盛岡に新たなツーリズムを創出しているといいます。モデレーターの三星 岩田 真吾さんからの、取り組みと産業化についての質問に対する各スピーカーの答えは?ぜひご覧ください!

ICCサミットは「ともに学び、ともに産業を創る。」ための場です。そして参加者同士が朝から晩まで真剣に学び合い、交流します。次回ICCサミット FUKUOKA 2025は、2025年2月17日〜 2月20日 福岡市での開催を予定しております。参加登録は公式ページをご覧ください。

本セッションのオフィシャルサポーターは EVeM です。


【登壇者情報】
2024年9月2〜5日開催
ICC KYOTO 2024
Session 2G
地方創生を実現する新しい「街づくり」とは?(シーズン2)
Sponsored by EVeM

(スピーカー)

東野 唯史
株式会社ReBuilding Center JAPAN
代表取締役

中川 敬文
株式会社イツノマ
代表取締役CEO

松田 文登
株式会社ヘラルボニー
代表取締役Co-CEO

村岡 浩司
株式会社一平ホールディングス
代表取締役社長

(モデレーター)

岩田 真吾
三星グループ
代表

各務 亮
株式会社 電通
クリエイティブ プロジェクト ディレクター

「地方創生を実現する新しい「街づくり」とは?(シーズン2)」の配信済み記事一覧


各務 では松田さん、お願いします。

本社はずっと岩手に置き続けたい「ヘラルボニー」

松田 私は、人口約28万人の岩手県盛岡市でヘラルボニーを経営しています。


松田 文登
株式会社ヘラルボニー
代表取締役Co-CEO

ゼネコンにて、被災地の再建に従事、その後、双子の松田崇弥と共にへラルボニーを設立。4歳上の兄・翔太が小学校時代に記していた謎の言葉「ヘラルボニー」を社名に、福祉を起点に新たな文化の創造に挑む。ヘラルボニーの国内事業、主に岩手での事業を統括。岩手在住。双子の兄。Forbes JAPANが選出する30組の文化起業家「CULTURE-PRENEURS 30」受賞。著書「異彩を、放て。―「ヘラルボニー」が福祉×アートで世界を変える―」。

「異彩を、放て。」をミッションに掲げています。

私の4つ上の兄に先天性の知的障害を伴う重度の自閉症があったのですが、小さい頃から、兄に対して可哀想だと言われることに違和感を持っていました。

シンプルに、色々な人たちのマイナスをゼロにしていく今までの福祉のあり方ではなく、プラス1がそこに存在しているなら、やり方や伝え方、捉え方、価値観によって、それを10にも100にも10,000に変えていけると思っています。

そのために、異彩を強く社会に放っていきたいと考えています。

これまで、障害のある方の月額平均賃金は15,000円前後でした。

障害者の就労支援対策の状況 3 平均工賃(賃金)月額の実績額について – 令和四年度(厚生労働省)

これは、全国平均の額です。

今、ヘラルボニーの活動を通じて、確定申告をする作家が続々と現れ始めており、むしろ税金を納める側に変わっています。

でもそれを良しとするわけではなく、それが社会の一つのファクトになることで、色々な人たちの挑戦の幅が広がっていく仕組みを作りたいと思っています。

本社はずっと、岩手に置き続けたいと思っています。

ヘラルボニーは、盛岡市と包括連携協定を結んでおり、街づくりを一緒に行うために連携しています。

今まで岩手で行ってきたこととしては、岩手でキーパーソンと言われる地域の皆さん、企業との連携です。

この取り組みについては、会社として、収益を上げるというよりも根幹を作るためという意志が強いです。

ですので、例えば大企業と連携をして、ライセンスフィーをこのくらいもらって……というような考え方、価値観ではありません。

地域のシビックプライドになる存在

岩田 岩手の場合は?

松田 その連携によって儲けるという軸は、置いていません。

地域というものに、ヘラルボニーがどうレバレッジを効かせられるか。

全国で認知度調査をした際、ヘラルボニーの認知度は5、6%程度でしたが、岩手県だけだと、モンベルパタゴニアよりも上だったのです。

岩田 なるほどね。

松田 地域のメディア、テレビや新聞においては、ヘラルボニーは毎週どこかには登場しています。

ですから、ヘラルボニーが、地域のシビックプライドに常にあり続ける存在でありたいと考えています。

各務 盛岡にいることでブランドにレバレッジを効かせられるということですが、具体的に言うと、どういうことですか?

松田 現時点でレバレッジを効かせているかと言うと、懐疑的なところはあります。

ただ、DE&I(Diversity, Equity & Inclusion 多様性・公平性・包括性)など、ヘラルボニーの価値観が浸透したような街を作ることも含めて、長期的にやろうとしていることを考えたとき……例えば、経常利益1,000億円、売上3,500億円くらいのブルネロクチネリというブランドは、イタリアのソロメオ村を再興させています。

ブルネロ・クチネリはいかにしてイタリアの古代村を復元したか(生活の彩り)

荒廃した教会を建て直し、縫製工場や学校を作り、町を強くしています。

観光地として、盛岡のヘラルボニーを訪れてくれる人が増えた印象があります。

ヘラルボニーもLVMHに採択されるような状況になると、福祉と資本主義の、守りたい根幹を表現する場を、岩手に持っていたいという気持ちかもしれません。

日本初!ヘラルボニー、LVMH Innovation Award 2024で「Employee Experience, Diversity & Inclusion」カテゴリ賞を受賞 | 株式会社ヘラルボニーのプレスリリース

岩田 それを東京でやるとなると、また違うパワーが必要になりますが。

松田 盛岡というエリアで、表現したいと思っています。

各務 地域とブランドのキャラクターをうまくシンクロさせられれば、お互いに幸せだろうなと思います。

松田 そうですね。

地元に根を張り、アイデンティティを守る

岩田 松田さんは、盛岡出身ですか?

松田 出身は盛岡ではなくて花巻で、盛岡に移住しました。

障害のある兄が岩手という場所にい続けていて、親亡き後の問題に誰もが悩むなか、自分にとっては、兄を幸せにするのが最大のミッションだと考えると、岩手にヘラルボニーが存在する場所を作ることは、ブランドとしての筋を通すことになると思います。

資本効率を考えると、岩手に住む意味があるのかと色々な人に言われますが(笑)、岩手に住んでいます。

自分が岩手にいるということに意味があるのではないかと。

岩田 住んでいて、盛岡にいる方が良い生活を送れるのでしょうか?

家が広いとか、ご飯が美味しいとか、子育てしやすいとか、感じますか?

松田 それはもちろん。

シンプルに盛岡が好きなので、そこにいたいという自分の気持ちもめちゃくちゃあります。

岩田 先ほどの徒歩5分圏内の話にも通じますが、花巻の人からしたら「盛岡ずるい!」と思うのかしらと思うのですが、そうは感じないですか?

松田 おっしゃる通り、結局のところ、盛岡だろうが、人口1万人の町だろうが、エリアを絞る限り同じことかなと思います。

岩田 どこかに集中しないとパワーも出ないから、ということですね。

運命だと思って、一旦ここだ!と決めれば…。

松田 あとは、そこに根を張るということだと思います。

ギャラリーも持っていますし(※現在移転に伴い休業中、2025年春盛岡・カワトクにリニューアルオープン予定)、電車やバスが走っていますし、アートプロデュースを手掛けたホテル(HOTEL MAZARIUM)もあります。

ヘラルボニー作家が彩るJR釜石線、10月1日から岩手県で運行開始(HERALBONY)

このホテルは、泊まる度にアートを描いた作家に作品の使用料としてヘラルボニーを通じて、お支払いされる仕組みです。

ヘラルボニーがアートプロデュースを手掛ける「 HOTEL MAZARIUM(マザリウム)」が10月4日岩手県盛岡市にグランドオープン(PR TIMES)

今、地方の百貨店はどんどん潰れています。

ヘラルボニーは、カワトクという盛岡唯一の百貨店でのポップアップからスタートしました。

その時のスタンスも忘れたくないので、今、カワトクの1階に120坪くらいの大きなフラッグシップショップを作ろうとしています。

ヘラルボニーの旗艦店「HERALBONY ISAI PARK」3月29日岩手県盛岡市のカワトク百貨店にグランドオープン決定(PR TIMES)

ギャラリーも飲食店もあるショップで、攻めたプランです。

中津川沿いというすごく素晴らしいエリアに菊の司という酒蔵があったのですが、事業がうまくいかなくなり、水面下でマンションの会社に売られてしまいました。

解体される段階になって初めて、それを市民が知ることとなりました。

その時、行政として守ったわけでもないし、景観保護条例があったわけでもなく、つまり、守る仕組みが全くない状態で、資産とすべき景観が失われたのです。

それに私も憤りを感じて投稿したところ、反応がたくさんありました。

結果、今は定期的に勉強会をしています。

岩田 解体は一旦ストップしたのですか?

松田 いえ、もう買われているので、解体はされました。

弁護士に相談すると、「今、何か動くと相手に損失が生じるが、その損失責任を負う覚悟はあるか」みたいな話になり、それは難しいなと。

例えば、行政が不動産屋になるマチスタントという取り組みがあり、それで景観を守れる座組を作っています。

マチスタント/前橋市

来月、そのマチスタントを行う前橋の市長と盛岡市長を引き合わせる会があります。

そういう連携をして他地域での取り組みなどを知ることで、自分たちのアイデンティティを守るための軸を作っています。

短期的に見れば利益が出るので成功かもしれませんが、長期的に見れば損失ではないかと思います。

正解かどうかは時代や年月が判断するもの

松田 自分の叔父は、宮沢賢治記念館で副館長をしていました。

宮沢賢治の作品に、虔十という今でいう知的障害があっただろう少年が主人公の『虔十公園林』があります。

虔十は、杉苗700本を、育つわけがないと言われてもずっと植え続け、途中で亡くなりますが、彼の見たかった景色が100年後に作られます。

彼はバカにし続けられましたが、作中の最後には「誰が賢くて、誰が賢くないか分からない」という言葉が出てきます。

つまり、正解は時代や年月が判断するものであり、その瞬間に誰かが見た正解は正解とは限らないということを説いている物語なのです。

岩田 これは盛岡の物語ですか?

松田 宮沢賢治なので、花巻ですね。

岩田 そこは柔軟性を持って、うまく拡張していると。

松田 そうです。

スタートアップを経営しているので、短期でどれくらいARRや売上を伸ばすかということと、100年後の未来を描くこと、これらミクロとマクロのバランスを取るのが、岩手にいる会社の役割だと思っています。

岩手を、その考えを表明する場にしたいと考えています。

アートに限らず、「誰もが」をテーマにして、障害のある方たちも当たり前に暮らしていける社会を作るための場所を描いていこうと思っています。

岩田 ありがとうございます。

松田 あと、ブルネロ・クチネリの『人間主義的経営』は、勉強になりました。

岩田 僕も読みました。

ブルネロクチネリの商品は、めちゃくちゃ高いです。

先日、男鹿市の、稲とアガベの岡住(修兵)さんのところに行ったのですが、「事業は作れているが、街を復活させるには単独事業ではダメで、産業を創らなければいけない」という話をしました。

男鹿の未来を拓く挑戦! サケ造りとまちづくりで、地域の希望の星になる「稲とアガベ」(ICC KYOTO 2024)

産業の規模にならないと、街へのインパクトがあるとは言い切れないのではないかと思っています。

ブルネロクチネリは多分、もう産業です。

松田 完全にそうですね。

岩田 世界中のお金が流れてくる仕組みにまでなっています。

ローカルだけでは経済は回らないので、外貨を稼がないといけません。

産業を創るか、生活に寄り添うか

岩田 これは皆さんへの質問ですが、皆さんの取り組みも、産業にならないといけないと思っていますか?

それとも、違う方向を考えていますか? 自分も悩んでいるのですが。

東野 諏訪にはエプソンの本社があり、また、ものづくりをしている精密機械の中小企業がたくさんあります。

しかし実際に住んでいて、諏訪市民の暮らしとそれらが紐づいている気が全然しません。

例えば、自動車の部品を作っているようなところばかりです。

ヘラルボニーの場合、商品のパッケージなどに落とし込まれるので、自分たちの街にヘラルボニーがあると日常的に感じられるかも知れませんが、諏訪の産業を担っている人たちのことは、諏訪で暮らしていてもなかなか見えづらいです。

それよりは、目の前にカフェができて、そこで美味しいコーヒーが飲めるとか、子どもの絵本を古本屋で買えるとか、物が要らなくなったら売りに行けるとか、生活に寄り添った形にする方が幸せだなと思って、今、取り組んでいます。

岩田 将来的に、リビセンの考え方と工場が結びつく……例えば、フォルクスワーゲンの工場が撤退してニュースになっているように、諏訪でも、エプソンの工場が撤退して無力になってしまうと良くないですよね。

既存産業や他の企業と協業することは、考えないのでしょうか?

東野 今、産業廃棄物処理業者と連携できないかなと考えています。

壊された民家から、産業廃棄物がどんどん運ばれていきます。

当然、サーマルやチップにするリサイクルは行われていますが、リユースできる仕組みが作れないかなと考えていますね。

岩田 中川さん、いかがですか?

中川 都農町の場合、稲作地帯だったところでブドウ栽培にチャレンジし、ブドウが一大産業となり、九州最大で年間20万本のワインを製造する、都農ワイナリーができました。

これは、1つの産業ができたケースだと思います。

でも、その前提にあったのは、人口が増えていた経済成長期であったことだと僕は思っています。

村岡さんもこの後に同じことを言われるかも知れませんが、この先人口が減って高齢化していくので、キーワードは越境です。

僕の場合は、さらに教育ですね。

小中学生に、産業を創りたくなるような教育をしないといけないです。

また、1万人という規模で行う非効率性を考えると、宮崎全体、もしくは韓国や台湾なども巻き込んだ、広域での産業づくりが現実的ではないかと思います。

岩田 なるほど。種まきとして、起業家人材を育成しつつですね。

松田さん、いかがですか?

松田 産業というところまでは、あまり考えてなかったかも知れないですね。

岩田 ヘラルボニーにはデザインという軸があるので、産業を運営している人たちやメーカーとの連携はできますよね。

松田 そうですね、それを通じて発露することはできますね。

都農町や諏訪もそうだと思いますが、地域で活動をしていると、自分の地域を案内する機会がめちゃくちゃ多いです。

私も、大企業の役員に、岩手を案内する機会がめちゃくちゃあります。

でも、「この人の1時間をもらうのは大変だよなあ」と思うような人と1日一緒にいられて仲良くなれることで、とてつもないお金が動くこともあり、それによってとてつもなく大きなものを共創できていると感じる瞬間がかなりありました。

ヘラルボニーの場合、それがパッケージ化されて、岩手の案内をすることで、思想をどんどん浸透させていっています。

営業という観点から考えると、岩手に来てもらうことで、今後3~5年協業する企業との関係を強化できるので、これも営業手法の一つになると思います。

村岡 先ほど岩田さんが、「街づくりが抽象概念である」と言っていたのを聞いて、その通りだと思いました。

最近は、産業軸と思想軸の2つがある気がします。

情報が閉ざされていた時代は産業ドリブンだったのでしょうが、最近はそれが変わってきていると思います。

産業を街に作って、発展して人が増えて所得も増えて…となるには、ある意味、偶発性も必要です。

その街に、たまたま松田さんがいた、とかね。

でも、思想軸であれば、みんなが作れます。

岩田 お金ではない軸が必要だということですね。

各務 では村岡さん、取り組みのご紹介をお願いできますか?

(続)

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編集チーム:小林 雅/星野 由香里/浅郷 浩子/小林 弘美/戸田 秀成

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