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4.食から九州の広域経済圏の創出に挑む「一平ホールディングス」【終】

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ICC KYOTO 2024のセッション「地方創生を実現する新しい「街づくり」とは?(シーズン2)」、全4回の最終回は、九州パンケーキで知られる一平ホールディングスの村岡 浩司さんが登場し、ONE KYUSHUの精神を語ります。最後は会場とのQ&Aです。適切な事業規模は? 市民を巻き込むには? 街の中で認知度を上げるには?という質問を受け付けながら、議論を締めくくります。最後までぜひご覧ください!

ICCサミットは「ともに学び、ともに産業を創る。」ための場です。そして参加者同士が朝から晩まで真剣に学び合い、交流します。次回ICCサミット FUKUOKA 2025は、2025年2月17日〜 2月20日 福岡市での開催を予定しております。参加登録は公式ページをご覧ください。

本セッションのオフィシャルサポーターは EVeM です。


【登壇者情報】
2024年9月2〜5日開催
ICC KYOTO 2024
Session 2G
地方創生を実現する新しい「街づくり」とは?(シーズン2)
Sponsored by EVeM

(スピーカー)

東野 唯史
株式会社ReBuilding Center JAPAN
代表取締役

中川 敬文
株式会社イツノマ
代表取締役CEO

松田 文登
株式会社ヘラルボニー
代表取締役Co-CEO

村岡 浩司
株式会社一平ホールディングス
代表取締役社長

(モデレーター)

岩田 真吾
三星グループ
代表

各務 亮
株式会社 電通
クリエイティブ プロジェクト ディレクター

「地方創生を実現する新しい「街づくり」とは?(シーズン2)」の配信済み記事一覧


各務 では村岡さん、取り組みのご紹介をお願いできますか?

食を中心にして、九州全体の未来を考える「一平ホールディングス」

村岡 はい、一平ホールディングス、村岡と申します。


村岡浩司
株式会社一平ホールディングス
代表取締役社長

1970年、宮崎県生まれ。人口12,000人のまち、宮崎市高岡町で廃校となった小学校をリノベーションし、カフェやシェアオフィス・コワーキングを併設するムカサハブ(本社所在地)を運営。カフェや飲食店の運営・プロデュースを手掛ける他、“世界があこがれる九州をつくる”を経営理念として、九州産の農業素材のみで作られた「九州パンケーキミックス」をはじめとするプロダクトを国内外に展開。九州/沖縄の広域経済圏で繋がってものづくり産業を支援する、「九州アイランドプロジェクト」の運営リーダー。食を通じた地域活性化やコミュニティ活動にも取り組んでいる。

宮崎市内から20分くらいの山手に行ったところに、オーガニックのふるさとである綾町があるのですが、その手前に高岡町という小さな町があります。

そこにあった、廃校になった小学校を自費で購入してリノベーションし、町の人が集まれる場所を作りました。

そこが、弊社の本社になっています。

1階にはカフェがあります。

九州パンケーキ」という製品を発売していて、粉の研究をしているので、九州の素材を使ったパンや、豆から焙煎したコーヒーを提供しています。

我々の他に地元のベンチャーも入居していて、それぞれ資金調達したり、成長したりしています。

ちょっと壮大な感じですが(笑)、「食をまんなかにおいて九州の未来を考える」ことを行っている会社です。

九州パンケーキなど自社ブランドの商品開発やものづくり、食に関する他社へのアドバイザー業務、また、レストランやカフェの運営をしています。

そして、皆さんもされているような、街づくりのアドバイザー業務、プロデューサー業務も行っています。

九州パンケーキは、「九州の素材だけで作りたかった、毎日のおいしさ。」というコンセプトの製品です。

「九州」という1つのテーマで括ってパッケージにするにあたって、例えば小麦は九州南部では収穫できないので、福岡や大分、熊本など複数県に跨って収穫したものを使います。また、九州各県の優れた素材を集めて独自配合しています。

台風が来たので心配していますが、雲仙のもちきびなどの雑穀も使っています。産地は九州の色々な場所に散らばっているので、それぞれの素材は収穫期に一気に集め、福岡や宮崎の雑穀商に一旦預けて保存してもらい、製造に合わせて熊本の製粉会社に運んで焙煎などの手の込んだプロセスを経て粉にしたものを、福岡でパッケージングして製品化しています。

まさに、九州全体を1つの工場みたいに使っています。

岩田 それでいて美味しいのが良いですよね。

村岡 やはり、食は、「美味しい」が上位概念にないと続かないですね。

岩田 このセッションの初回には、北海道・北広島のFビレッジの小林(兼)さんが登壇してくれました。

ただ、北海道ボールパークで提供している食事は、北海道のものではないものばかりなのです。

なぜかと言うと、別に北海道に限らず、世界中で一番良いものを提供するというコンセプトだからと話していました。

一方で、北海道に行くなら北海道らしいものを食べたいと思ってしまいます(笑)。

一平ホールディングスの場合、九州という括りにしたことで、美味しいものを、ローカル性を担保しながら作るというバランスが重要だったのでしょうね。

村岡 そうですね。

12年くらい続けているので、このミックスを使って九州各地の工場とコラボしながら麺や焼き菓子などを作ることにも挑戦しています。

また、九州パンケーキ事業をやっていく中で生まれた広くリージョンで括る、という概念を「ONE KYUSHU」を掛け声にしてまちづくりの現場にも活かしています。

ONE KYUSHU サミット | ONE KYUSHU サミット

この掛け声の下に、地域の壁を溶かす、境界を超える、つながりを作ろう、ということを示しています。

地方創生という言葉は、人口減少と都市への一極集中という地方が直面する課題解決のために、2014年頃にできた政策から来ています。

現在、それらの問題はむしろ両方が加速しています。そんな中でも、新たな特徴ある取り組みを実践する多くのスタープレイヤーが生まれています。

例えば中川さんが都農町に移住してくれたことなどが起こると、生活圏では面白い渦が生まれます。しかし、局所で生まれた好事例が広く国全体の課題解決にはなかなかつながっていかない。

ですから、どこかで生まれた成功事例を自治体で囲い込むというよりも、少しずつ壁を溶かしながらエリア全体の経験値へと広げていった方が良いのではないか、自分たちの街だけで解決できないことに関して支えあうリージョン文化になったようがいいのではないかということを、九州全体で考える活動をしています。

九州全体からエキスパートが集まり、浸水被害から復興

村岡 これは1つの事例ですが、2020年にコロナ禍が始まって影響が一番大きかった頃、九州で令和2年豪雨水害が起こりました。

球磨川流域全体が浸水し、人吉という街全体が水没しました。

被害の概要|災害詳細|令和2年7月豪雨球磨川水害伝承記~後代に残す記録~

100年以上続いていて観光の目玉だった川下り施設も流されてしまい、復興は無理だと言われたのですが、施設の代表から何とか復興できないかとプロジェクトの相談を受けました。

その時、これこそまさにONE KYUSHUだと思いました。

人吉だから、熊本だからという話ではなく、九州全体には復興建築やデザインなど、それぞれの領域のエキスパートがいる。声をかけてみんなに集まってもらい、何とか1年後に復活させてオープンに至りました。

岩田 それは、ボランタリーで集まったのですか?

村岡 まず、建築や設計の専門チームに声をかけました。それからブランディングやマーケティングなど。

発足時、復興のための財源が集まるか分からない状態でのスタートでしたので、スタートはボランタリーでしたが、ゴール時にはきちんとビジネスになりました。

台湾などでも地方創生がブームですし、ONE KYUSHUのような広域経済圏構想は注目されています。

岩田 この村岡さんの写真は、思想家っぽいですね。

(会場笑)

村岡 これは台湾向けなので(笑)。

松田 炎の料理人っぽい(笑)。

村岡 (笑)このイメージのように、僕には自治体それぞれが地方創生を競い合っているように見えます。しかし、本当はもっと壁を溶かして、時には広域で繋がりあって一緒にやっていくのが良いのではと考えています。

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これは、今日語り合いたい課題です。

地方では、新たなチャレンジャーによるスモールビジネス、マイクロビジネスがどんどん生まれていく仕組みが、本当に尊いと僕は思っています。

既存の産業構造だけでは難しいこともありますし、スタートアップによる新しい産業の息吹も生まれてほしいです。

そういった全ての垣根を溶かしてどう混ざり合うか、ということをいつも考えていますね。

岩田 ビジネスで言えば、熊本に台湾のTSMCのセンターができて、所得がめちゃくちゃ上がって幸せそうに見えますし、北海道にもデータセンターが作られて街が興っているという事例が目につきます。

でも、長期的に見たら破綻するかもしれないので、バランスが大事だと思います。

ICCでこのセッションが生き残っているポイントの1つは、お金のこともちゃんと話し合っているという点です。

ICCでは、お金のにおいがしない地方創生系のセッションは、出ては消え、出ては消えでした。

Fビレッジや前橋市の事例など、インフラ企業も含めて大きなお金が動いたり、思想や情緒にも触れたりというバランスがこのセッションの面白いところだと思います。そういう話ができているかなと思います。

すみません、ちょっと語りたくなってしまいました(笑)。

会場の皆さんからの質問

各務 聞いていて、それぞれ規模感も課題意識も違うので、同じテーマで話すより、役割分担していく議論の方が面白いかなと感じました。

ですので、当初のアジェンダに沿って進めるよりも、それぞれの事例を深掘りする方向にして、ここまで進めてきました。

岩田 各務さんには、柔軟性があるのです。

(一同笑)

各務 とは言え、皆さんせっかくキーワードを出してくださっています。

それぞれのキーワードは、話してくださったこととリンクしていると思いますが、残り10分となりましたので……。

岩田 では、3人くらいから質問を聞きましょう。

質問者1 京都の与謝野町から来ました、株式会社ローカルフラッグの濱田と申します。

生まれ育った地域の衰退を止めたい! 地産ホップの「ASOBI BEER」で京都・丹後から挑戦する「ローカルフラッグ」(ICC KYOTO 2024)

地域活性化をする上で、目指すべき、適切な事業規模について悩んでいるので、お考えをお聞かせください。

彩りを増やすためには小さい規模のものがたくさんある方が良いのでしょうが、産業を作って街を変えるには大きくないといけないと思います。

岩田 ありがとうございます。

質問者2 ヘラルボニーの國分と申します。

今後、盛岡市を作っていくにあたり、色々と考えています。

もっと市民を巻き込みたいと考えているので、「市民を巻き込むために、これをしておいて良かった」ことがあれば教えていただきたいです。

岩田 ありがとうございます。

質問者3 福岡で焼酎を作っている、天盃の多田と申します。

松田さんがされていた、自分たちの街の認知度のレバレッジを効かせるという話が刺さりました。

街の中で認知度を上げる方法を、教えていただきたいです。

我々の場合、お酒の消費者は20歳以上ですし、焼酎が飲めない、そもそもお酒が飲めない人がいます。

つまり、プロダクトに制限がある中で、街での浸透率の上げ方です。

岩田 先ほど質問のあった、市民の巻き込み方とも少し近いですね。ありがとうございます。

質問への回答を交えながら締めくくり

岩田 では、頂いた質問への回答を交えながら、締めっぽいコメントをお願いします。

各務 東野さんからお願いします。

東野 適切な事業規模については、ゴールをどこに設定するかによると思います。

お店を増やし始めた一番の理由は、もしかしたら、自分が諏訪を好きになりたかったからかもと思いました。

例えば、美味しいコーヒーを飲みたいとき、世の中にはもっと美味しいコーヒーがあるのに、選択肢がチェーン店のコーヒーになってしまう。

あとは、喧嘩した帰り道、お花を買える店があるといいなとか…そういう気持ちから自分のゴールを増やしていくと、小さいお店が増えて、単純に自分の暮らしが楽しくなります。

結果的にそれが自分たちのビジネスに良い影響を与えるという、すごく独りよがりな街づくりをしていると思います。

岩田 そうなると、別に大きくなる必要はなくて、続けていけるくらいの数字で良いなと。 

東野 そうですね。

産業を作るまでは行けないかもしれないですが、自分の中のゴールは一旦そこに置いておきます。

小さければ真似しやすい状況が作れるので、それでスクールを開講し、諏訪を見てもらい、リビセンとエリアリノベーションの相性が良いことを理解してもらい、色々なところで真似してもらえれば。

捨てられる古材の全体量を減らし、再利用を促すことがリビセンの目的なので、真似してもらうことで、日本全国でのリビセンの目標達成もできると考えています。

中川 事業サイズよりも、年収1,000万円の社員をどう作るかということを仲の良い美容師と話し、それをずっと考えています。

その目標から逆算すると、売上はだいたい1億円で、営業利益が1,000万円です。

それを僕らの町のサイズにすると、現実的には「売上1,000万円、営業利益100万円」が第一目標です。

どちらかと言えば僕は、人の給料にフォーカスしていますね。

岩田 めちゃくちゃ大事だと思いますね。

松田 僕らは、世界を含めて、本気で社会を作っていくことを目指しています。

例えば大谷 翔平さんも、出身地の岩手に残っていれば、あれほど話題になることはなかったです。

世界で挑戦をして、色々な人たちに夢を与えて、その後で地元に還元していく座組です。

自分たちにとっても、社会的に大きなインパクトを残すことが重要ではないかと思っています。

例えば、銀座に出店すると、岩手の人は「私たちの会社が銀座に」と、めちゃくちゃ喜びます。

そのバランスが取れていれば、認知度につながっていくのではないかと思います。

岩田 大きくなるためには、その地域の外に出なければならないですよね。

松田 そうですね、それは共通事項ではないかと思います。

岩田 ありがとうございます。

村岡 自分たちの町が有名になって人がたくさん来るというのは喜ばしいことですが、もはや、それをあまり狙わなくてもいいのではないかと思い始めています。

良いことを楽しそうにしている人がいれば、その情報はどんどん広がっていくし、そこに皆さんのような思想家や事業家がいると渦ができて、その渦に巻き込まれたいと思う人がたくさん寄ってきます。

住む場所と事業規模は乖離していてもいいし、盛岡にいながら世界に挑戦することもできる時代です。

自分の街で、自分のしたいことを思いきりやることですね。

あと、色々な人が混ざり合うような文化、つまずいたとしても、次は何をするの?と背中を押して応援し合えるような文化を作るのが大事なのではないかと思っています。

岩田 ありがとうございます。では各務さん、締めの言葉をお願いします。

各務 街づくりと言うと、新しく何かを創り人をどんどん呼ぶというイメージがありますが、今日皆さんの話を聞いていると、あるべき姿に戻す、人と暮らしが自然に回る状態へ整えるという視点も大事なのかなと感じました。

勉強になりました、ありがとうございます。

岩田 余韻が残っていると思いますが、セッションの目的は結論を出すことではなく、問いを残すことだと思っています。

ぜひこの後も、色々な人と話してもらい、自分なりの街づくりを一緒にしていければいいなと思っております。

今日はありがとうございました。

(終)

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編集チーム:小林 雅/星野 由香里/浅郷 浩子/小林 弘美/戸田 秀成

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