「気軽な選択肢」をコンセプトに3Dプリンタやオープンソースを活用して、電動義手HACKberryの開発と普及に取り組むのexiii(イクシー)近藤さんのプレゼンテーションをぜひご覧ください。一部デモもございますのでプレゼンテーションの動画も併せてご覧ください。
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登壇者情報 2016年3月24日開催 ICCカンファレンス TOKYO 2016 「カタパルト」(10分間のプレゼンテーション) (プレゼンター) 近藤 玄大 exiii(イクシー)株式会社 代表取締役社長 「気軽な選択肢」をコンセプトに3Dプリンタやオープンソースを活用して、電動義手HACKberryの開発と普及に取り組む。2011年東京大学大学院工学系研究科修士課程修了。2009-2010カルフォルニア大学バークレー校に留学。在学中はBMI、サイバネティクスの研究に従事。2011年ソニー株式会社に入社、ロボット研究や新規事業創出に携わる。2014年10月よりexiii代表取締役。2010年度日本機械学会三浦賞受賞。
僕たちの会社は、こちらの義手を作っております。手のない方のための、電動の義手ですね。技術的な特徴をあらかじめ説明すると、電動義手というのは、もう半世紀以上前に商品化されているのですが、僕たちはこれを3Dプリンターで作っています。
あともう1つ、全部のデータをオープンソースとして世界中に公開しているというのが特徴になっております。
チームとしては3人で活動しております。僕はもともとソニーで働いておりまして、ロボットのソフトウェアの研究をしていました。左にいる小西というのが、パナソニックでデザイナーをしていた者でして、右の山浦は、同じくパナソニックでカメラの設計をしていた、メカエンジニアとソフトウェアエンジニアとプロダクトデザイナーの3人のチームです。2014年の10月29日に起業しました。
もともとは趣味で始めたプロジェクトなんですけれども、ジェームズ ダイソン アワードをきっかけに色々と評価頂きまして起業した、というような流れになっております。どんなものを作っているかというと、映像をお見せするのが早いと思うので、ご覧下さい。
ただ僕たちは逆転の発想で、SFちっくなデザインにして、ただ身体的な機能だけではなくて、心理的にも積極的に社会活動に出ていけるような世界を意識して、デザインをしておりますので、その結果去年のSXSW(サウス・バイ・サウスウエスト)でのトレードショーの映像なんですが、通られる方も前のタイプの義手だとちょっと気を使って声をかけなかったりしたと思うんですが、大人も子どもも興味を持って頂いて、積極的に握手をして頂いております。
始めに申し上げましたように、3Dプリンターで作っておりまして、これまで150万円以上していたものを、プロトタイプなんですけれども、今10万円以下で作れているので、売価もゼロひとつ下げることは出来ないかなと奮闘しているところです。手がなくなったことを障害として隠すのではなくて、ひとつの個性として積極的に表現していけるような世界を目指しております。
手というのは、本当に様々な機能を持っていまして、皆さん、趣味を思い浮かべて頂ければ分かると思うんですけれども。僕はバスケをしていまして、僕より、シュートの上手い義手を創りたいというのがそもそものモチベーションなのですが、この女性の方は生まれつき手のない方で歌手をされているんですね。
ご覧の通り、生まれ持った左手で歌うことは出来るのですが、長年ジェスチャーが出来ないことが悩みだったんですね。観客席に手を振ったり、指をさしたり。それを去年の6月に僕たちの義手を使って、初めてジェスチャーつきのライブをしていただきました。なので、1人1人のそういうストーリーを僕たちの義手で実現していきたいなと思っております。
少し僕自身のストーリーも紹介しますと、もともと大学で研究していたんですね。そこ(東京大学の本郷キャンパス)の14号館というところで、2008年から2011年まで工学的な研究をしていました。前の映像でありました通り、手を失われた方の腕に筋電センサーみたいなセンサーを貼って、筋肉の信号から、ロボットハンドを直感的に動かす、と。(動画をご覧ください)
学会フィールドでは、論文になった成果とかもあったんですが、実用性を考えるとまだまだなところがあるんですね。アカデミックに残ることは止めて、違う角度で義手を創ってみたいな、という思いがありました。ユーザーさんと話していると、機能だけではなくて、他の部分も気にされているんですね。
大学で研究している義手はすごく高いので、機能が満たされていてもなかなか買えないだろう、と。なので、コストを下げないといけないという視点と、デザイン、人の目にすごくふれる部分ですので、デザインもすごく気にされているので、そのコストとデザインという観点から、義手をもう1回作れないかなということで、3年前ぐらいに、冒頭に紹介した3人のメンバーで活動を始めました。
これ(以下の図)がその当時描いたスケッチなんですけど、機能としては、いきなりバスケをしたりピアノを弾いたりは難しいので、とにかく傘を持たせたい、と。手が1本だと傘を持つと、手がなくなってしまうんですね。なので、鞄からスイカを出したり、あるいはスマホをいじったり出来ないので、とにかく傘を持つくらいの機能は持たせよう、と。
ただ、それ以上は、ある程度割り切る。他の色々とアイデアはありまして、オープンソースというのも当時からあったんですね。アカデミックのフィールドだと、要素要素の技術っていうのは、開発が進むんですけど、なかなか義手としてインテグレートされないという現状がありますので、僕たちはプラットフォームを用意して、肩が得意な人は肩を改良して、指が得意な人は指を改良して、というそういうオープンイノベーションの仕組みで、義手を一歩一歩いいものにしていきたいな、と。
あと、義手をクックパッドくらい気軽なものにしたいな、という思いもありまして、生まれつき手のない女の子がお母さんと一緒に、ネットから自分の欲しい義手のレシピをダウンロードしてきて、自宅にある3Dプリンターで作っちゃうみたいな、そんな世界を目指しております。
実際オープンソースに、ちょうど1年前ですね、去年の5月くらいにしまして、どうなるかと不安ではあったのですが、想像以上に盛り上がっていまして、例えば、こちらの写真は、僕たちの義手を作るのに必要な電子部品をパッケージ化して売ってくれるチームが、アメリカのコロラドに出てきたんですね。
部品のリストは全部公開していて、このリンクをクリックすると買えるよという情報は提示しているんですけれども、結構バラバラなので、それをまとめて売ってくれていたり。こちらは後ろに見づらいんですけど、成人男性の手があって、この青いのが大分小さい義手なんですね。
僕たちが公開したのは、成人用の右のモデルしかなかったのですが、ポーランドのあるエンジニアが、友だちの息子が生まれつき左手がないということで、この模様の左手のデザインを提供してくれたり。
外側を小さくすることは3Dプリンターとか3D CADの技術があれば簡単なんですけれども、モーターとかバッテリーとか既成品は、なかなか思うように小さく出来ないので、中のレイアウトとかは、かなりポーランドのエンジニアが変えてくれているんです。
あとは実用的ではないんですけれども、3Dプリンター以外のレーザーカッターというデジタルファブリケーション技術がありまして、3Dプリンターと違って速いんですね。
それで作れないかということを、台湾のある研究者の方が実験をしていたり、あと義手に限ろうとも思っていないので、VRとか最近流行っているので、そっちの方向でどうしたら使えるかということで、CG用のデータを公開してくれたゲームクリエイターなども出てきています。
普及という面でも、かなり後押ししてくれていまして、普通だったらプロモーション費とかかけなきゃいけないと思うんですけど、オープンソースとして公開することで、勝手に新聞に載ったり、あの方は朝日新聞の記者さんなんですけど、本人が生まれつき右手がなくて、一念発起して、生まれて初めての3Dプリンターを回して、片手でハンダ付けから組み立てからネジ回したり、何から何までされて、4日で組み立てた義手の開発プロセスを、日曜別紙のGLOBEに載せて頂いたり、コロラドでローカルの女の子に渡したケースをテレビで紹介されたり、TEDのトークイベントでもマドリードやシンガポールなどの世界中で紹介されたりしています。
バーチャルなオープンソースのコミュニティが盛り上がる一方で、ローカルなミートアップというのも大事にしています。イクシーとは別に、mission arm JapanというNPOに実は所属していまして、そこは色んな上肢障害者の方が集まったり、医療関係者が集まったりする場なんですけれども、ただ病院で、処方箋を書くような一方的な医療ではなくて、ボトムアップ、草の根的に土曜日を使って、カジュアルに義手の開発をしたり、その他の色々な悩みを気軽な感じで語り合ったりしています。
左上の写真を紹介すると、写っている方は全員手がないんですね、生まれつきない方もいれば、事故でなくした方もいれば、ガンなどの疾病で切断された方もいるんですが、一斉に義手を付けられて、積み木で遊んでいるんですが、その中からこの機能いいいね、とかここはまだちょっと課題だね、とか自然と出てくるんです。
そうするとエンジニア側としても、本音のフィードバックを頂けて、いい感じで開発プロセスが回っています。エンジニアリングに触れたことがなかった医療関係者に、電子工作を教えたりしています。
最後、少しビジネスの話をしなきゃな、と思っていて。NPOをやる一方で、フォー・プロフィットなイクシーとして大きくなっていきたいなという思いはあります。ただ、前提として義手ってすごく難しいんですね。
ここに並べているのは色んな福祉機器でして、縦軸が対象となる人口、横軸が1人ひとりの個人差ですね。杖とかは歳をとってくると大体使いますしそんなに個人差はないんですが、例えば介護ベッドとか車いすとか装具とか義足ってなるにつれて、人口はどんどん小さくなって、その代わり個人差が広がってきて、二重の苦しみがあるんですね。
薬の世界だと、orphan drug(オーファンドラッグ)という呼ばれ方をしますが、オーファンデバイスと呼んでも過言ではなくて、なかなか商業ベースでは開発しづらい。だから、半世紀前に商用化されたものの、なかなかイノベーションが興って来なかったのですが、そこをなんとか変えたい、と。
これまでは、かなりノンプロフィットなスタイルで資金を回してきました。ダイソンアワードですとかグーグルさんから、NPOに2千500万円のグランドを頂いたり、松崎さんがそこにいらっしゃいますけど、「きびだんご」というクラウドファンディングのプラットフォームで360万円、280名の手のある方から、 支援を頂いてきたりしてきたんですが、なかなか継続的ではないので、今後どうしようかなということで、色々今年試そうというところです。
オープンソースとかローカルなコミュニティは盛り上がってきたので、場はあるんですね。なので、ライセンシングも全てフリーじゃなくて、商用利用の場合は有償で渡したり、そこに伴い生じるコンサルティングをしたり、実際プロダクトを売ったり、あとはIoTの世界の中で、色々なデータを欲しがる人がいると思うんですね、なのでそのデータを売り物にして、何かビジネスモデルを創っていきたいなと考えております。
最後なのですが、僕たちのビジョンとしては、冒頭で握手をされていた森川さんという方が手を失う前は、パラグライダーを楽しまれていたので、もう一度空を飛んでほしいなと思っています。
大切にしたいのは2点ありまして、僕たち自身がクリエイターであり続けたいなというのは一番大事にしたいことですね。その上で更にソーシャルなインパクトを与え続けられるような会社になりたいなと考えております。ご清聴有難うございました。
(終)
プレゼンテーション終了後は第一線で活躍する経営者やベンチャーキャピタリストの方々と積極的な質疑応答が行われました。
(コメンテーター 一覧) 株式会社アイスタイル 代表取締役社長 兼 CEO 吉松 徹郎 氏 Asia Africa Investments & Consulting Pte.Ltd. 代表取締役/CEO 椿 進 氏 East Ventures Partner 松山 太河 氏 クオンタムバイオシステムズ株式会社 代表取締役社長 CEO 本蔵 俊彦 氏 グーグル株式会社 製品開発本部長 徳生 裕人 氏 株式会社gumi 代表取締役副社長 川本 寛之 氏 グリー株式会社 取締役執行役員 荒木 英士 氏 株式会社慶應イノベーション・イニシアティブ 代表取締役社長 山岸 広太郎 氏 株式会社SHIFT 代表取締役社長 丹下 大 氏 株式会社スマートエデュケーション 代表取締役社長 池谷 大吾 氏 株式会社ディー・エヌ・エー 執行役員 原田 明典 氏 UBS証券株式会社 マネージングディレクター 武田 純人 氏
新しい産業をリードするトップリーダーが参加するコミュニティ型カンファレンスの特徴を最大限に活かした「カタパルト」は素晴らしい出会いの場となります。ICCカンファレンスではスタートアップのプレゼンテーションの場「カタパルト」の登壇企業を継続的に募集しております。スケジュールなどはぜひ募集ページをご覧ください。
編集チーム:小林 雅/藤田 温乃
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