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こんにちは、ICCの活動をレポートする浅郷です。今日は、2016年から米IBMのチーフ・デジタル・オフィサーを務めるボブ・ロードさんの来日に合わせて行われた意見交換の模様をお伝えしたいと思います。テーマは「エンタープライズ企業における、デジタルイノベーションの重要性」。白熱した討論をほんの一部ですがお届けします。
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【開催情報】
2018年6月18日開催
ICCラウンドテーブル Vol.1. 「米IBM Chief Digital Officer ボブ・ロード氏 と意見交換会」
(場所: Nagatacho GRID)
【ご参加いただいた方々】
金坂 直哉 株式会社マネーフォワード 取締役執行役員 CFO
南 壮一郎 株式会社ビズリーチ 代表取締役社長
小田 志門 カラクリ株式会社 代表取締役 CEO
嶋田 光敏 BizteX株式会社 代表取締役 CEO
松本 恭攝 ラクスル株式会社 代表取締役
坂元 淳一 株式会社アプトポッド 代表取締役
井野 英隆 オーギュメントファイブ株式会社 CEO&プロデューサー
(モデレーター)
琴坂 将広 慶應義塾大学 准教授(SFC・総合政策)
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レイザーフィッシュやAOLのCEOを歴任
IBMというと、年2回のICCサミットでスタートアップカタパルトや、会場でのバリスタコーヒーの提供など、ICCサミットではおなじみの存在です。今回は本国アメリカのボードメンバーからのお声がけで、代表の小林と意見交換をしたいとのオファーをいただきました。
せっかくの機会なので、いつもと違った形で機会の共有をしようということになり、ICCサミットで登壇いただいた方々にお声がけし、モデレーターに慶應義塾大学の琴坂将広さん(准教授 /SFC・総合政策)をお迎えして議論の場を設けることになりました。
ボブ・ロードさんは、現職はIBMのCDO、経歴に広告代理店のRazorfishやAOLのCEOを歴任。引退も考えていた矢先に、ボブさん曰く「最高にチャレンジングなオファーに魅力を感じ」IBMで働くことを決めたとのこと。世界を精力的に飛び回るなか、離日直前の1時間半を割いてNagatacho GRIDを訪れてくださいました。
集まった方々を前に、ボブさんがまずプレゼンしたのは、IBMクラウド(※)、WATSON(※)、ブロックチェーンなど、IBMの提供するテクノロジーが社会のインフラになりえる可能性を秘めていること。
▶編集注(IBMクラウド):高度なセキュリティを有し、企業が持つあらゆるデータを一貫性を維持したまま利用可能なクラウド。従来のシステムをクラウドに上げたり、AIの導入やクラウド上での開発も可能。
▶編集注(WATSON):IBMが開発した質問応答システム・意思決定支援システム。IBMは、自然言語を理解・学習し人間の意思決定を支援する『コグニティブ・コンピューティング・システム(Cognitive Computing System)』と定義している(Wikipedia)。日本では2016年から提供開始。
日本の市場がいまだ成長中であることに魅力を感じていると言います。ボブさんが参加者に呼びかけました。
「IBMがみなさんと一緒に、何ができるか話し合いたいのです」
ブロックチェーンを企業が取り入れる方法は?
琴坂 将広氏(以下、琴坂) 今日集まった企業のみなさんは、すでに日本市場に影響力があり、IPOしているところもある。どんな組み方ができるのか知りたいのではないでしょうか?
松本 恭攝氏(以下、松本氏) ブロックチェーンに興味があります。クラウドサーバーとブロックチェーンとは別物に思いますが、IBMとどういう組み方ができるのでしょうか?
写真左からボブ・ロード氏、アプトポッド坂元 淳一氏、ラクスル松本 恭攝氏
ボブ IBMがオープンソースのコードを提供するという形になります。御社のアプリケーションを、IBMのブロックチェーンでビルドすることができます。IBMがブロックチェーンのコードを提供し、それをサーバーで学習させ、デベロッパーが開発していくという流れです。IBMのクラウドの中で開発いただくこともできます。
琴坂 IBMとの組み方としては、オーダーメード式でしょうか、それともいくつか商品があり、その中から選ぶスタイルでしょうか?
ボブ 現在、公開しているコードは120種類あります。その中から選んでいただく形になります。
たとえば小売大手のウォルマートでは、ブロックチェーンを食品のトレーサビリティに使われています。傷んでいる商品がどの時点でそうなったか2分以内に見つけることができます。以前ならそれを発見するのに少なくとも1週間かかっていました。ウォルマートのアプリケーションに、IBMのブロックチェーン技術をかけ合わせて可能になったことです。
みなさんがアプリケーションを開発し、IBMがアンダーラインコードを提供する。それでブロックチェーンの適用が可能になります。
ブロックチェーンに限りません。公開している120種類のコードなかには、データサイエンス、ユーザーエクスペリエンス、WATSON、チャットボット、IoTなど、あらゆるものがあります。取り入れたいものをお探しいただければと思います。
▶IBMクラウドをWatsonと組み合わせて「ビジネスをShiftせよ!」
スモールカンパニーにも注目している
南 壮一郎氏(以下、南) IBMには、すでに大きなクライアントもたくさんいると思います。世界から見れば小さな我々のような企業と話す時間を設けた理由は?
ボブ IBMにとって4,800億ドルの未開拓のマーケットだからです。IBMは850億ドル(85 billon USD)の会社で、すでにトップカンパニーとよばれる2,000の企業とビジネスをしていますが、私の役目は新しいマーケットを開拓すること。それは企業の規模は問いません。
デベロッパーの方々は、WATSONを一度使うと、とても気に入ってくれます。IBMのコードを経験して、今までできなかったことができるからです。それを伝えるのが私の役目です。
大きな企業を追っている同僚もいますが、私は違います。私はもっと今後成長が見込まれるスタートアップに強い興味があるのです。
南 ボブさんが就任してから、そういう方向性になりましたよね。
ボブ そうですね。私はずっと、企業の変革を助けることに従事しています。前職のレイザーフィッシュでもAOLでもそうでした。現IBM 会長・社長兼CEOのジニー・ロメティが私に目をつけた理由は、私が新しいビジネスモデルを考えることが得意だからだと思います。
エコシステム拡大とオープンソースに注力
ボブ 欧米ではデベロッパーのエコシステムが顕在になって、そこから成長が始まっている。開発環境としてはクラウドで開発を進めています。
IBMとしてはどのようにしてそのエコシステムを拡大するか、またそれを牽引するような企業を見つけるかに力を入れています。オープンソースのテクノロジーにフォーカスすることと、企業が常に成長できることを目的として取り組んでいます。
レッドハット(オープンソースソフトウェア&サービスプロバイダー)との提携を発表しましたが、これは企業向けサービスを強化することを意識しています。トムキャット(コンテナサービス)とのパートナーシップもそうです。
▶レッドハット Private Cloud as a Serviceをパートナー経由で提供 プライベートクラウド環境をクラウドで
IBMは、クラウドサービス・プロダクトがエンタープライズ企業にとって変革をもたらすと考えています。企業と協業する例として、最近アクティスという会社に投資をしています。
彼らは見積もりから回収までのセールスプロセスを簡素化するシステムを持っており、エンタープライズ企業をターゲットとしています。彼らにIBMクラウドにコミットしてもらい、彼らがソフトウェアを販売するたびに、我々がリーチできていないお客様にリーチすることができます。
琴坂 ラクスルのようなロジスティック・カンパニー(ハコベル)でも、マネーフォワードでも適用できそうな例ですよね。どちらも企業が顧客です。
ブロックチェーンは金融のスタンダードになるのか?
金坂直哉氏(以下、金坂) マネーフォワードとしては、そういった取り組みはまだ模索中なのですが、将来的なブロックチェーンの金融機関での広がり、国際的な規格はどうなっていくのでしょうか。
ボブ ブロックチェーンの金融機関での利用目的はセキュアな取引ができることです。まず第一に複数の関与者がいるときに、重要なプロセスを確保できます。信頼できる、証拠が残る取引ができます。一度取引がされたら、その記録を改変することはできません。これは銀行取引の上で必須です。
次にネットワークを作ることができます。海運を例に取ると、非効率なペーパーワークがなくなり、各国の通関業務、時間や手間を省けます。紙の改ざんができないので、不正の入る隙がない。配送のスピードアップにもなります。手間が省けるのでコスト削減にもなるなど、さまざまな効率性を目指せます。
銀行業においては、国家規模で銀行業界が検討してくれれば、ブロックチェーンがスタンダードになるかどうか決まると思います。
日本以外では、メディア・バイイングにブロックチェーンを利用する取り組みが広がってきています。理由はペイドメディアと直接取り引きができるからです。その間に誰も介在しなくていいので、中間マージンを取られることもありません。
銀行業界もそういったアプリケーションを開発する会社に投資しています。流れとしてはブロックチェーンが強くなってくると思います。
ブロックチェーンで中間マージンを削減できる
琴坂 IBMとジョイントベンチャーするならば、どんな企業が適しているのでしょうか?
ボブ 今のところはシッピング(船での運送)、食の安全性、ヘルスケアの3つの業界をブロックチェーン技術でサポートしています。近日、メディアオーシャン、アミノペイメントといった5つの広告主とペイメントプロセスでブロックチェーン決済の取り組みを行うことを発表します。
ブロックチェーンを使えば、たとえばテレビ広告で1ドルの費用対効果が40セントだった従来に比べて、90セントの価値になります。今まではその中間マージンを、いろんな人が取っていたわけです。
南 グーグルやアマゾンは、いろいろな接点があるので身近ですが、IBMは正直少し遠い存在です。エコシステムの話にしても、アメリカにはシリコンバレーがありますが、日本の企業はそれぞれエンジニアを抱えて競い、それぞれが開発しています。
WATSONのようなすばらしいものがあっても、マネーフォワードさんやラクスルさん、弊社にしても正直な話、利用するイメージがもてないのですが。
ボブ Build with IBM(※) を作ったのは、まさにそのイメージを変えることが目的で、アメリカでは順調にスタートしています。たしかに私達はまだデベロッパーの間では有名ではないけれど、アマゾンやグーグルにはない強みを持っています。
▶編集注:データ、AI、クラウド、ブロックチェーンの領域で、IBMの技術を活用して開発を進められる仕組み。開発にかかるコストや時間の削減ができ、収益化のサポートを受けることもできる。
また、Call for Code(※)の取り組みは、次の5年への投資です。IBMの技術を開放して自然災害対策に役立てたいと、2週間ほど前に無料公開しました。世界中からすでに5,000人のデベロッパーチームが参加してくれています。デベロッパーたちが、これで世界にインパクトを与えられると考えてもらえればいいなと思っています。
▶編集注:AIやブロックチェーン、IoT、クラウドといった技術を利用して被災者や被災地を支援することを目的に、自然災害に対する備えを強化するのに役立つ新しいアプリケーションの開発を開発者に促す取り組み。IBMは今後5年間で3000万ドルを投資する。
「テクノロジーを社会にいいことのために使いたい」
ボブ 私達はテクノロジーを社会にとっていいことのために使いたいと思っています。
ハリケーンに備えるために使いたいし、医者が、がんを少しでも速く診断できるようにしたいし、政府がサイバーアタックを未然に防ぐのに役立ちたい。実際この取り組みを使って、国際赤十字に災害前に不足している輸血の予測をすることができました。
また、アントレプレナーとしてビジネスを考えるときに、パートナーのことを考えますよね?今はすべてのテクノロジーを自分ひとりで考え出すわけではありません。
そのときに自分の顧客のデータを他人に差し出したくないでしょう? それはあなたの企業の財産であり、強みだからです。IBMなら自分たちのデータは自分たちのまま、それができる現在唯一の企業です。みなさんには本業に注力いただき、IBMはIBMでできることを考え、それをサポートします。
まだまだデベロッパー業界では後発ですが、もしもみなさんがIBMにコミットしてくださるなら、IBMもみなさんにコミットいたします。
ここまで説明を受けた南さん、日本IBMの正木大輔さんからビズリーチと話を進めていると聞き「リアリー!?」とびっくり。
参加者は、業界トレンドについて質問したり、自身のビジネスとIBMができることを考えて問い、議論は真剣に、ときに笑いを挟みながら進んでいきます。
ビズリーチ南さんが、ボブさんに切り込む!
残り10分となり、南さんがボブさんに質問しました。
南 なぜIBMに転職することを決めたのですか?
ボブ ジニー・ロメティは素晴らしい才能のあるCEOです。私は当時の会社を売却し、引退しようと思っていたのですが、彼女から電話をもらい、新しいビジネスモデルを作りたいので手伝ってほしいと説得されました。そして彼女やボードメンバーと話をして、私はIBM初代のCDOに着くことになりました。
とはいえ最初は、どういうことになるのかさっぱり見当もつきませんでした。300人、3000人の企業なら経験がありましたが、最初はこの規模(※)でどうすれば会社を変革できるのかわからず、非常に苦労しました。
▶編集注:2017年の従業員は全世界で数約38万人ともいわれている(Wikipedia)
現在は世界を飛び回り、ひたすら会議に出ていますが、やるべきことにフォーカスしてもらうことに注力しています。大企業だとそれは特に難しいです。私にとって大きなチャレンジですが、やり遂げたい。それに楽しい仕事でもあります。
南 ビズリーチはあなたのような人を雇いたいのですが、どうしたら見つかるのでしょうか?
(一同笑)
ボブ (笑)ありがとうございます。IBMに決める前に、実はアドバイザーやチェアマン、CEOとして15社のオファーをもらいました。そしてIBMのようなスケールの仕事はやったことがなく、間違いなく私のなかで一番大きなチャレンジだと思ったので、オファーを受けました。実際にとても楽しんでいます。
個人的には、社長になるよりプライベート・エクイティとかバックアップ側が好きだし、アントレプレナーと働くのが好きです。将来的にもそうすると思います。でも南さん、そう言ってくださってありがとうございます。今日は楽しかったです。どうもありがとうございました。
最後は全員で記念撮影を行い、盛会のなか終了しました。
「東京が大好き」と言うボブさんは気さくな人柄以上に、IBMのポリシーに深い共感と情熱を持ち、どの話題になってもすべてIBMのプロダクトの話へと収束していくことが印象的でした。ちなみに意見交換は通訳同席ながらも、ほぼ直接英語での討論でした。
今後もICCサミットに参加される方々へ特別なCo-Creationの場を作れるように、ICCは努めていきたいと思っています。以上現場からお送りしました!
(終)
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