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「テクノロジーが溶け込む」マーケティングの未来とは?

Webのユーザー・インタフェース改善を簡単に実現する「Kaizen Platform」を運営するKaizen Platform, Inc.の須藤さん、ウェブ接客プラットフォーム「KARTE」を提供するプレイドの倉橋さんのお二人と、「無印良品」のMUJI passport など担当している良品計画 CMT(Chief Marketing Technologist)の濱野さんをお招きし、「今後のマーケティング・テクノロジーとは?」をテーマに議論しました。

(その1は)AIやVR/ARといった最先端のテクノロジーがマーケティングをどう変えるか、豊富な事例とともに議論頂きました。ぜひご覧ください。

登壇者情報
2016年3月24日開催
ICCカンファレンス TOKYO 2016
Session 4E 
今後のマーケティング・テクノロジーとは?

(スピーカー)

須藤 憲司
Kaizen Platform, Inc. 
Co-founder & CEO

倉橋 健太
株式会社プレイド 
代表取締役社長

濱野 幸介
株式会社良品計画 
CMT

司会 まず、始めに簡単な自己紹介として、今の会社でのお立場でしたり、どんな事業をなされているかをご紹介頂いても宜しいでしょうか。

濱野幸介氏(以下、濱野) 株式会社良品計画の濱野と申します。良品計画は、「無印良品」というブランドを運営していて、日本で400店舗、海外で340店舗くらいあるブランドです。

私はWeb事業部、デジタルマーケティングを統括する部署に所属をしていて、その中でCMT、Chief Marketing Technologistという役職をやっております。

3年前ほど前から、主にMUJI passportというアプリに取り組みつつ、その周りのソーシャルの取り組みや、データの分析といった色々な役割に携わっております。

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濱野 幸介
株式会社 良品計画
CMT

2000年、アクセンチュア株式会社入社。主に小売・流通業のIT戦略策定、業務改革、基幹・CRMシステム導入等のプロジェクトに従事。
2009年、株式会社リヴァンプに入社後、小売・流通業の基幹刷新・マーケティングシステム導入を推進。
2013年、同社CTOに就任、MUJI passportの企画・開発・運営を担当。
2015年、株式会社良品計画CMT(Chief Marketing Technologist)に就任、現在に至る。

司会 有難うございます。

倉橋健太氏(以下、倉橋) 株式会社プレイドの倉橋と申します。弊社は、ウェブ接客プラットフォームというサービス展開をしております。「KARTE(カルテ)」というプロダクトなのですが、ユーザーに関わる消費閲覧系やソーシャルといった様々なデータをもとに、そのデータをいかに消費者の体験、顧客接点に還元していくのかを実現するサービスをを提供しています。

サービス初期は、主にEC系の企業様が多かったのですが、最近は人材、不動産、金融など、カテゴリーを問わず、様々な企業様にお使い頂いているので、今はウェブに共通する大きな課題の解決にトライしているところです。よろしくお願いします。

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倉橋 健太
株式会社プレイド
代表取締役社長

同志社大学を卒業後、2005年新卒として楽天株式会社に入社。マーケティングおよびウェブディレクションチームにおいて、楽天市場のUX改善、モバイルデバイス戦略の推進、楽天の会員基盤における顧客育成施策の立案、商材カテゴリ別の流通拡大戦略の立案など多岐にわたり担当。2011年10月に株式会社プレイドを創業。約1年にわたるβ版での実地検証、2014年12月に開催されたInfinity Ventures Summit Launch PadにおけるAward獲得を経て、2015年3月にウェブ接客プラットフォーム「KARTE」を正式リリース。導入企業はリリース後1年で845社を超える。

司会 よろしくお願いします。

須藤憲司氏(以下、須藤) Kaizen Platformの須藤です。3年前に創業しまして、ウェブサイトのUIやUXを改善するツールとリソースを一緒に提供している会社です。今日は楽しみにしています。

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須藤 憲司
Kaizen Platform, Inc.
Co-founder & CEO

2003年に早稲田大学を卒業後、株式会社リクルートに入社、同社のマーケティング部門、新規事業開発部門を経て、アドオプティマイゼーション推進室を立 ち上げ、株式会社リクルートマーケティングパートナーズ執行役員として活躍。その後、2013年にKaizen Platform, Inc.を米国で創業。現在はサンフランシスコと東京の2拠点で事業を展開。Webサイト改善を簡単に計画・実行できるオンラインソフトウェアと、4,000名を超えるWebデザインの専門家(グロースハッカー)から改善案を集められるサービスから成るUI改善プラットフォーム「Kaizen Platform」を提供。エンジニアやデザイナーがいなくても実現出来るWebの継続的な改善が市場に受け入れられ、すでに大手企業190社、40カ国 3,000カスタマーで活用されている。

司会 有難うございます。本日のテーマは、「今後のマーケティング・テクノロジーとは?」です。先ほどMUJI passportの紹介もありましたが、良品計画さんは、色々な取り組みをされていると伺っております。

まず濱野さんから、皆さまの中で、唯一ユーザーの立場ということで、どんな取り組みをされているのか教えて頂けますか?

無印良品の「MUJI passport」の取り組み

濱野 簡単に、これまでの取り組みを説明したいと思います。

Web事業部に所属をしていますが、実は無印良品のEC化率は、7%くらいしかありません。

残りの9割は、店舗からもたされているので、ネットストアでの売上を上げることは当然の課題ですが、むしろ、いかに店舗の集客を増やすか、デジタルのツールを通して、いかにお客さんとコミュニケーションしていくか、という点に注力している部署です。

この考え方は、2000年頃から、脈々と受け継がれているのですが、きっかけとなった気づきがあります。

昔ネットストアの購買分析を行ったところ、登録しているユーザーの内で約4割しか、2年間で1度以上お買い上げしたことがないことに気づきました。では、残りの6割の人は何をされているのか疑問に思い、アンケートをとったところ、例えば、店舗に行く前に商品をチェックすることやセールの情報を知ることが利用用途であって、ネットストアで買うことは、2番目だったんですね。

そうだとしたら、どうすれば集客が出来るのか、しっかりデジタルに取り組みながらアプローチしていくことが重要だという思いから、早くからデジタルに取り組んできました。

例えば、日本にTwitterやFacebookが入ってきた2008年、2009年頃から、ソーシャルはやり始めています。結果として、フォロー数ではTwitterで40万を超えていますし、フェイスブックページはいいね!が100万を超えていたりします。

また、無印良品はもともとユーザーと共創する文化が大きいので、お客さまの声をどう吸い上げて、どう商品に反映していくか、という取り組みのは、90年代からずっとやっています。

それをデジタルに展開したものが、「ものづくりコミュニティ」という取り組みになり、今は「IDEA PARK」という名前の取り組みに引き継がれています。

「こういう商品を再販してほしい」、「こういう商品を売ってくれないか」といったお客さまの声を、社内で1週間に1度の「お客さまの声ミーティング」という会議で、新しい商品にどう反映していくかを検討しています。

他にも、単発のプロモーションで、へクセンハウスというお菓子の家を、有楽町にバーツと並べて、ストリーミングで配信するなどといったことをやっていましたが、ソーシャルやお店でやっていても、継続的な売上にはなかなかつながりませんでした。

どうやったら出来るのか?という問題意識から、2013年に生み出されたのがMUJI passportです。
これは何かというと、いわゆるデジタルで管理されるポイントカード+ニュース媒体+便利ツール(例えば店舗在庫の検索など)が出来るツールになっています。

MUJI passport の紹介ムービー

いま大体月間で200万 MAU(Monthly Active Users)ほどです。専門店としては、大きな規模になってきています。MUJI passportを利用されているお客さまの内、レジを通過する人を100とすると、20〜30くらいの人がMUJI passportを提示するに成長してきています。

また、直接的にポイントを使用して生み出される売上だけでも、それなりの額に達するくらいに増えているので、マーケティングのツールとしても、かなり効果を上げてきているという現状です。

このように、MUJI passportは集客のツールとしても使っているのですが、先ほど申し上げた通り、ニュース媒体としての機能もあります。お客さまとどうコミュニケーションしていくか、より深く考えていこうというのが今の問題意識になっていて、お店ごとに特化したい情報が異なるので、それらをどう編集してお客さまに届けていくのかが、目下の課題です。

ここまでが、直近で取り組んでいるアプリに関わる話です。これ以外にも、多くの様々なことに取り組んでいます。例えば、機械学習のツールを使うことで、業務をより効率化できないか、あるいは技術を持つベンチャーとの恊働で、店内・店外の客数計測など取り組んでいます。

司会 先ほど、既にウェブサイトに登録しているお客さまの内、約4割の方しか購入しないとおっしゃっていたのはどういうことでしょうか?

濱野 2年間で1回以上購買している方が、全ネットストア登録者のうち、4割しかいないということです。6割が2年間を経ても何も購入していませんでした。

司会 そのデータを受けて、ウェブサイトだけで完結するのではなくて、ウェブやアプリを活用することで、実店舗に送客する流れを生み出す、あるいは、実店舗のお客さまの行動を、デジタル技術を使って解析する、ということに取り組まれているんですね。

濱野 そうですね。お客様の行動がMUJI passportによって、かなり可視化されてきています。

ウェブサイトで商品ページを見て、実際に実店舗で購入するのは、カスタマージャーニーを語る際にはよく想定される行動ですが、測定して結果を出すのはなかなか難しいはずんですよね。

最近分かってきて面白かったのは、自社ネットストアの商品ページを閲覧した3割ほどが、実店舗で実際買っていただけていた、ということですね。数字の推移を追えるようになってきているので、3割という具体的な数字がわかってくると、経営者も敏感に反応するようになって来ました。

須藤 当初 MUJI passportを作ったときは、何を主目的に進めたのでしょうか?

濱野 MUJI passportの当初の目的は、かなり直接的で、来店客数の増加、または維持を通じて売上増に貢献することでしたね。

須藤 それは、「ポイントカードをデジタル化します」と言ったのか、「MUJI passportをフックにメディアにします」と言ったのか、どちらでしたか?

濱野 当初は、どちらかというと前者で、お客さまとタッチポイントを増やすこと、かつ、ポイントというより、年に4〜5回ある良品週間というセールのお知らせを通じて、客数を増やすということを話していましたね。

須藤 会員化が収穫なのでしょうか?

濱野 そうですね。後々、メディア化をもっとやっていかないととダメだよね、という意識が醸成されていった感じですね。当初は、売上や利益にどう貢献するかを説明されないと、経営者はなかなか「うん」とは言ってくれません。

Web事業部ではありますが、大体これくらいのインパクトが全社PLに対してあります、というのをシミュレーションとして描いて、損益分岐も書いて、それで稟議を通しました

須藤 ちなみに、今その通りになっていますか?

濱野 結構なっていますね

須藤 では、組織内でオーソライズすることを考慮しながら推進することで、今の状態まで至ったんですね。面白いですね。

倉橋 MUJI passportが今始められて2年くらいですか?

濱野 3年ですね。

倉橋 3年ですか。目的にむかって進捗していますか?

濱野 当初意図していたところまでは、未だ到達出来ていない部分も結構多いのですが、例えば、客数の増加に寄与する点は、現場も含めて、結構実感してくれています。

でも、ポイントを付与しすぎてしまうと、当然経費に対しては、ダメージを与えるので、乱発はダメです。なので、その辺のバランスをとりながら、いかにしてお客さまとのコミュニケーションを継続的に実現していくかが勝負です。

だからこそ、コミュニケーションをいかに密にやっていくのかに、皆の意識は向いていますね。

その辺りの議論が、健全に経営者も含めて行えていることが、今の好循環を生んでいるという感じですね。

須藤 マーケティング・テクノロジーというと、手段の話をしがちです。本来、マーケティング・テクノロジーは、マーケティングの話であって、テクノロジーを通じたマーケティングということですよね。

濱野 むしろ、経営のテクノロジーと言ってもいいくらいですね。

須藤 そうそう、そういうことですね。会員化するというのは、コミュニティを創るということを意図しているということだと思います。

店舗が大きくなっていくと、お客さまの顔が見えなくなってしまい、誰がよく来てくださっているのか分かんないから、可視化していくということですよね。

濱野 そうなんですよ。例えば、すごく優秀なアパレルの店長さんは、お客さまの顔をみんな覚えていて、アナログな紙ベースであっても、しっかり顧客リストを作っていたりしますよね。

ただ店長によってばらつきが当然発生するので、良品計画は、「MUJIGRAM(ムジグラム)」というマニュアルを作成し、オペレーションの統一化、標準化をしています。

それは、「これしかやってはだめです」と言っているわけではなくて、「ここは必ずやりなさい」ということを決めているもので、底上げを図ってきました。

おっしゃる通り、客数を増加させる際に、一人ひとりの顔というのは、レジ通過が年間で7千万件ほどあると、分からなくなっていきますよね(笑)。

須藤 すごく面白いですね。カリスマ店長のような人は、会員登録をしなくても顔を覚えているはずですし、その人自体がメディアですよね。

僕は、マーケティングは本来、そういうものではないかと思っています。ただ、そのレベルを実現するのはスキルが必要な、大変なことです。なので、その大変なことをお手伝いできるといいよね、という話をしていますね。

だから、逆に聞いてみたいことは、人工知能がマーケティングに活用される可能性についてです。
人工知能が全部のマーケティングを出来るようになる未来は、まだ遠いとは思っているのですが、かなりの部分を助けてくれる気がしています。楽ちんになることはあるのではないかと思います。それについては、どう思っていますか?

濱野 人工知能が全てになってしまうのか、という質問を先ほど聞かれて、難しいなと思いました。難しいというか、現場のリアルな感覚に比べると、投資家目線に感じました(笑)。

(一同笑)

ロボットや人工知能をどのように活用すべきか?

須藤 この話題は面白くないでしょうか。

濱野 面白いです(笑)。

倉橋 すごく面白いですね(笑)。

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須藤 投資家は、人工知能だなんだと言っていますが、僕の意見では、見当はずれな議論だと実は思っています。

何故かというと、本来 人間はロボットと会話したい、と思っている訳ではないし、人と人同士でコミュニケーションしたいと思っている存在であって、人工知能と会話したい人はどこか変わっているか、何か寂しい思いがあるか、そういった人だと思います。

濱野 いくつかの側面で、人工知能を使わないといけないなと思う局面はあるのですが、今後のデジタルやマーケティング・テクノロジーについて、大きく2つ考えています。

1つは、みんなが接する場面そのものであるタッチポイントが、デジタルになっているので、デジタルを活用するという話と、もう1つは、効率化の実現や人間が考えつかないヒントの獲得のために、人工知能も含めてテクノロジーをツールとして使うという観点は絶対にあっていいと思っています。

加えて、ブランドが何を大事にしなければいけないかというのは、本当はきちんと定義しないといけなくて、無印良品の場合は、そこがしっかりあると思っています。だから、それに基いて、ツールとして人工知能を使うことは機能すると思います。

須藤 そうですね。全部がロボットになったとしたら、そのお店に行きたいかというと、義務的に行かないといけないお店ではない限り、行きたいと思わない気がしています。

濱野 ロボットと呼んでいるもののプレゼンテーション、一番最後にどんな形で表現されるのかが鍵かなと思っています。

今回シリコンバレーの方に視察に行った際に見てきた面白いお店があります。サンフランシスコにある「Eatsa」というお店です。

そのお店には、端末が置いてあって、店内はクールなイメージの内装で、流れている音楽もクールな雰囲気でした。端末にクレジットカードを読み取らせると、注文が開始されて、注文が終わると、オーダーが入ったことが目の前のディスプレイに表示されます。

eatsa出所:Eatsa社のウェブサイト

料理自体は実は、裏で人間が作っているのですが、作られた料理が注文者側に見えない状態でケースに入れられると、透過型のディスプレイによって幕が開くようにケースから料理が見えるようになり、お客さんはディスプレイをダブルタップすると料理が受け取れます。

このお店の仕組みはロボットで成立していますよね。でも、プレゼンテーションというか見せ方としてありだな、と思いました。オフィスが多くオフィスワーカーが多い地域で、5分ほどで料理がすぐ受け取れる訳ですよ。それが接客として心地よくないかというと、これはこれで1つの形態としてありだなという印象でした。

須藤 それは、自動販売機の進化版だと思っています。

昔、自動販売機が出てきたときに、中に人がいるのだろう、と思った人がきっといると思います(笑)。それのスーパーハイテク版ですよね。

濱野 そうですね(笑)。

須藤 一方で、実はお店に行って話すのが嫌な人はそんなに多くないですよね。面倒くさがりの人は、自動販売機の方がいいと思うときもあるでしょうし、よく分からないので聞いてみたいときはお店に行くでしょうし。街の全てが、AIやロボットのお店になったら楽しいかというと、楽しくないでしょうと思います。

濱野 本当は、スマホさえ持っていない状態が一番いい気もします。

例えば、無印良品で使用している色合いで真っ赤な派手な色がないのは、基本的に自然にある色、自然な染料を使って染めているからというのが理由です。そういう世界観があるのに対して、今は、「passportをお持ちですか?」と言って、スキャンをする行為をレジではやっている訳です。でもこれは…

須藤 自然ではないですよね。

濱野 ということなんですよね。では、顔パス的なものはどうなのかという話で、店員が自然にレジで商品を詰めて接客しながらも、お客さまが認識をされることで、「この前は有難うございました」というコミュニケーションが自動的にとれるようになるのは、ありだと思いますね。

須藤 ありですね。だから、溶けこませないといけないのではないか、と思っています。

マーケティングを目的としてはいけない

司会 デジタル時代のコミュニケーションというのが話のテーマになっていると思うのですが、倉橋さんは、ウェブ接客を始めとして、その辺りに関してかなり考えられていると思います。いかがでしょうか?

倉橋 今のお話は、まさにその通りだと思いながら聞いていました。

事業側が置きたい価値のポイントと、消費者が求めている期待値がちゃんと合っているといるのか、そのマッチングの精度を高めることで市場創造することがいわゆるマーケティングだと思っています。

なので例えば、今の話で言うと、Amazonにおいては、相手に覚えてもらっていることを期待している訳ではなくて、欲しいものが明確にあって、それが最速で届くという期待値がある訳です。

そういった世界観はあるし、先ほどのサンフランシスコのお店のような提供のされ方に、エンターテイメントとして期待値を消費者側が持っているのであれば、成立する話かなと思います。

ただ、僕が思うのは、インターネットの登場によって、主役がどんどん事業者側に移ったのではないかと思っています。それによって、本来の消費の在り方やサービスの提供形態が、少し変わってきたと感じていて、その揺り戻しが、Amazonの提供価値と違うところにあるのではないかというのが、僕らが考えている点ですね。

もっと泥臭いところで、ネットショップでも入ると「いらっしゃいませ」と言われるようなことは、技術的には実現出来ます。ただ、吉野家の接客とホテルの接客は違うように、どのようなサービスを実現するのかは企業側がしっかりマネジメント出来るような環境が必要ではないかと思っています。

濱野 店長が一人ひとりのお客さまの顔を見て、接客やサービスが出来ている状態が出来るといいかもしれないですね。

倉橋 楽天がそうなのですが、2000年頃から今も第一線でずっと活躍されている企業さまは、実はあんまり変わってないです。新しく活躍される方は出るんですけど、ずっとトップでやられている層にはあまり変動がない。

ものすごく出来る範囲は決まってはいても、泥臭さを随所に出していくことをやられている企業さまは、いまだにトップにいらっしゃるので、その世界観は確実に残る、むしろ大きくなっていくのではないかと思いますね。

濱野 どこにお客さまが価値を求めているかというのを、すごく読んでいるんだろうなと感じますね。

須藤 そうなんですよね。僕は、マーケティングのゴールが何かと言ったら、顧客の創造だと思っています。

先ほどのサンフランシスコのお店の方法も、今は差別化になると思うのですが、隣に同じような別のお店ができたら、あるいは、アンチテーゼのようなお店があったら、それはそれで盛り上がると思うんですね。

顧客の創造の方法は、効率的に実現するのか、差別化して実現するのかという2つありますよね。テクノロジーは今の時代の顧客を創る方法であって、効率的に顧客体験を実現するのか、差別化するのかという2つの取捨選択だと思っています。

無印良品がテクノロジーを活かしたお店を作ることで、それがすごくいいと言う人もきっといるし、それが当たり前ではない時代においては差別化としてとてもいいですよね。でも、それが当たり前になってくるとまた違うってことになるのではないかと思います。

濱野 無印良品の場合は、設立初期から、ポリシーやフィロソフィーがすごくはっきりしていています。それが在り方の軸として真ん中にしっかり持ちながら進んでいるので、今のやり方でいいと思っています。

例えば、あまり特色のないスーパーはどういう風になっていくのだろうか、とは思います。

須藤 分かります。だから、実はマーケティングが上手な会社が残ったことはなくて、マーケティングは手段であって、本来はマーケティングの前提に、その企業のフィロソフィーなのか美学なのか、源となるものがあるんですよね。

それを伝えていくことを目的として、マーケティングを手段として、効率よくやるのか、差別化するのか、両方取り入れながらやっていくのかということですね。目的がマーケティングだと言われたら、それは残っていかないでしょうと思います(笑)。我々はベンダーなのでそれは言わないのですが(笑)。

(一同笑)

濱野 無印良品は特殊ですね。家も売っていますし、キャンプ場も運営しています。おかしいですよね(笑)。

須藤 だから、目的がマーケティングになっている企業とは逆ですよね。僕は無印良品さんの企業のフィロソフィーを伝えるやり方が本来のマーケティングだと思っています。

濱野 そういう会社ですね。

須藤 コンテンツのマーケティングが今すごく流行っていますよね。

濱野 それ自体が目的のマーケティングは、僕は違うと思っています。

須藤 そうなんですよ。コンテンツマーケティングは、面白くないコンテンツをマーケティングしたところで、面白い訳ないと思うんですよね。コンテンツ自体が面白いかどうかを問われますよね。「コンテンツマーケティングやりたいんだよね」って言われたときに、大丈夫かなと思ってしまいます(笑)。

(一同笑)

濱野 コンテンツは積み重ねですね。

無印良品では「くらしの良品研究所」というコンテンツをずっと運営しています。毎週メルマガを配信していますが、商品の売り込みでは全くなくて、色々なライフスタイルに関するコラムを発信しています。

去年一番読まれたコンテンツは何だと思いますか?「うるう秒」の話です。うるう秒について書いたコラムが、なぜかは僕らも分からないのですが、一番読まれたんですよね。

須藤 それはコンテンツとして面白かったという話ですね。

濱野 そういう話かもしれないですね。タイトルがキャッチーだったのかもしれないです。

一方で、ソーシャルも使っているのですが、これもまた面白い話があります。ずっと継続的にTwitter、Facebookと、あとInstagramも始めて発信し続けています。

例えば、Twitterで「無印良品のバウムは、恵方巻としてはもちろん、ドラゲナイにもいけそうです。」とツイートしたのですが、これはリツイートが2万7千回にのぼりました。ですが、多少は売れたものの、そこまで爆発的には売れませんでした。

他にも、ドラマのデスノートが最終回を迎える前に、「無印良品にデスノートはありませんが、デスクノートはあります。」とツイートして、5万リツイートされました。ですが、全然売れませんでした。

一方で、チョコがけいちごという商品の事例があります。フリーズドライしたいちごが、チョコレートコーティングされたものですが、無印良品のInstagramのグローバルアカウントで写真で掲載したら、7千いいね!がついて、爆発的に売れる事態になりました。

どの事例も、コンテンツマーケティングなのかもしれないですが、どこがツボになるかっていうのはコントロールはしているわけではありません。定常的に、時節を見て、泥臭い積み重ねとして、無印良品の7千品目ある商品の魅力を少しずつ発信する中で、当たったことがあるという感じです。

須藤 コンテンツとしての商品を、内でのマーケティングとして何を届けたいのかという点をすごくソリッドにしているので、外に対しても、それを料理して提供できるわけですよね。

濱野 手法論ではないですね。

須藤 両方やってないと華開かないと思うんですよね。イチゴの商品もイチゴが美味しそうに見えなかったら、コンテンツ化しても拡散しなかったと思います。

濱野 無印良品の商品は、それがマーケティングと呼ぶかどうかは分かりませんが、細かな点まで色々と工夫されています。

それこそ、インターネットが普及していなかった頃からオブザベーションという形で、生活されているお宅を実際に拝見して、色んなモノを使っている状況をつぶさに観察させてもらっていました。観察を通じて、様々な不便だったり不具合だったりを、どうしたら解決していけるのかにチャレンジして来ています。

例えば、シャンプーやリンスを別々のメーカーで買うと、見た目や使い勝手が揃わないですよね。詰め替え用のペットボトルを販売して、それに詰め替えることで色や形を揃えて並べやすくすることを提案しました。

四角い形のペットボトルですと、内側が洗いにくいのですが、洗うためのボトル用ブラシを開発して売っていて、これもまたよく出来ています。

しっかり真面目に消費者に向き合いながら、商品を感じ良い暮らしを提案するために発信していくというベースがあるんですよね。

須藤 そうですよね。自分たちの中でマーケティングをした上で、外に発信しているんですよね。それをまた商品に活かす循環があります。

だから、循環しないマーケティングをしていても、会社自体が続かないんですよね。

濱野 そうですよね。前にやっていたスポットのキャンペーンにおける問題意識は同じです。

有楽町でやったヘクセンハウス以外にもありまして、ネット上でコーディネートを掲載して、そのコーディネートがいいと思ったら、いいね!を押して下さいというキャンペーンをしました。いいね!を押すと、有楽町の店舗にある同様のコーディネートを行ったマネキンに設置された、いいね!カウンターが連動して数字が増えるという仕組みです。

【参考】
KNIT Like COLLECTION

さらに、それだけでは人は気づかないので、いいね!が入ると、木の玉が木の階段を転がっていく仕掛けもありました(笑)。

(一同笑)

濱野 実は、これは世界三大広告賞の一つ「One Show」のインタラクティブ部門でメリット賞を受賞しています。

【参考】
凸版印刷が企画・制作したO2Oプロモーション「KNIT Like COLLECTION」が世界三大広告賞の一つ「One Show」のインタラクティブ部門でメリット賞を受賞

ですが、この広告効果がどこまで波及するのかという話で言うと、その時だけ有楽町が盛り上がったり話題になったりしても、全国に波及する訳でもないですし、継続的なものでもありません。

前の事業部長が、マーケティングとは永遠のゼロサム・ゲームだという話をしています。ある1点でプロモーションを刈り取ったところで、どこかでやっぱり反動があるのが通常なので、ある時無理をすると、別の時に無理な結果を招きますよね。

須藤 点と点と、それから線のマーケティングの両方が必要ですよね。だから、お祭りの施策として、楽天スーパーセールはすごいですよね。僕は、見ないのですが(笑)。

(一同笑)

倉橋 楽天出身者としては、なかなかコメントしづらいです(笑)。

濱野 色々裏側を知っているだけにね(笑)。

須藤 あの施策から線として戻ってくる流れを作りながら、点としての施策を打ち出しているのだと思うんです。無印良品のマネキンの施策も、それが無意味だとは思わないですが、それだけだとダメだという話ですよね。

濱野 そうだと思います。

倉橋 いわゆる、世の中でいわれているマーケティングは強引なものが多いイメージがあります。

濱野 プロモーションに近いですよね。

倉橋 そうですね、プロモーションなんですよね。

須藤 全然話が変わってしまいますが、「KARTE(カルテ)」のUIを見ていて思ったことが、データを企業の中の人しか見れないのはどうしてかなと思いました。

ウェブサイトにどんな人が来ていて、どんな人がサイトを見ているのかかは、訪れているユーザーも知りたいのではないかな?と思いました。考えられたことはありますか?

倉橋 はい。考えたのですが、どこからやるかという議論がありました。

前職のときに、頻繁にサイトに来ている人が一部見えていて、一緒に買い物が出来る仕組みがあったんですよね。それは、ほとんど流行らずに終わりました。

あと試みとしては色々ありまして、ページにアクセスしている人を、ページの上で歩かせてみる、こともしていました(笑)。

濱野 気配を感じさせるんですね。

倉橋 そうですね。試みはあったのですが、ただ面白いエンタメでしかそのときはなりませんでした。

当時は、ソーシャルがそこまで浸透していた訳ではないので、ウェブ上で人と人のコミュニケーションが発生している感覚に、まだ慣れていない状態でした。なので、これからはあり得るかもしれないな、とは思っています。

ただ、無駄にコミュニケーションをとることは、人はしないと思いますし、現状のウェブの発展からは、ノイズになる可能性がまだ高いな、と。

ある特定のタイミングに絞ると可能性はあるかもしれません。例えば、店頭の接客は、売り手と買い手がつながるタイミングですが、買い手と買い手がつながる必要性があるタイミングがあれば、可能性はあるかもしれませんね。

一方で、少しまだ遠いかなっていうイメージも、僕は持っています。まずは、売り手と買い手が今は顔を全く見なくていい状態になっているので、強引に思いっきりつなげてみることで起こる反応を見ながら、考えていこうかなと思っています。

面白いのですが、皆さんにサービスを導入頂くと、自分のサイトやサービスのお客さまがバーッと表示されていくので、何かをする訳ではなく、しばらく見入っているんですよね。

「この人100回来ている」といったことを言いながら、見ています。お店は生き物であるという感覚がネットにおいてはどこかしらで失われてきたので、その感覚のある種の再生ではないですが、転換期を僕らはコンセプトに据えているところがありますね。

濱野 無印良品では、Web事業部にいる人間でも、もともと店頭での経験をほとんどの人が経てくるんですよね。だから、感覚がそういう点では鋭敏かもしれないです。

倉橋 例えばアパレルさんでウェブをやられている方は、もともとリアルな接客をされていたり、お客さまと対面で接していたりした方が多いので、「どうしてお客さんが見えないのに、雑誌を作って出しているの?」という反応になるんですよね。

面白かったのが、最初に僕らがウェブ接客と言い始めたときに、「ウェブにおける接客とは何ですか?チャットですか?クーポン出すんですか?」と言われました。

それも一部ありつつも、そもそも接客は相手のことが見えないと出来ないと思っているので、その部分をベース解決して、色々なアプリケーションを載せて実現します、という話をしています。

意地でも僕らのコンセプトの部分をなくさないために、ユーザーがリアルタイムにリストされている画面は処理としてはとても重いのですが、長期的に見てスーパー大変でもそこを意地でも残そうと思っています(笑)。

濱野 アイデンティティですね。

倉橋 そうですね、アイデンティティとしてやっています。

須藤 その昔に思考実験をしたことがあります。

ある新規事業の企画を考えているときに、109をネットに持って行けるのかという実験をしたんですよね。結論、できませんでした。実際に109にみんなで行ったのですが、これ無理だと思いました。

例えば、人が賑わっている感覚ですね。店内に誰がいるのか、どんな人がいるのかといった感覚は、顧客体験の中で、大事だと思いました。

濱野 空気感ですねね。

須藤 空気ですね。今のオンラインショッピングでは、それは体験出来ないんですよね。行列は味わえないですし、人がいる感はありません。ソーシャルはそれが少しあると思っています。

濱野 実店舗の視点で言うと、いわゆるマーチャンダイジングだけではなく、ビジュアルマーチャンダイジングがすごく鍵なんですよね。それ専任の人もいるくらいです。

そういったものをウェブに持ち込めるかというと、まだ先かなという感じがしますね。

(続)

編集チーム:井上 真吾/小林 雅/藤田 温乃/Froese 祥子/渡辺 裕介

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