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2. 正解の価値が暴落する時代、尾原 和啓さんが指摘する起業家に必要な3つの「おそれ」

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AIが何でも「答え」を作ってくれる時代になり、正解を出すこと自体の価値が下がっている現在、IT批評家・尾原和啓さんは、誰もがAIを使って自分だけの物語を語れる時代が来たと語ります。強い個が自分の物語を世界に押し付ける「独善の時代」の暴走を防ぐ鍵は、日本語の「畏れ」「恐れ」「虞」という3つの「おそれ」だそう。その根拠とは? ぜひご覧ください!

ICCサミットは「ともに学び、ともに産業を創る。」ための場です。毎回500名以上が登壇し、1,200名以上が参加する。そして参加者同士が真剣に議論し、学び合うためのカンファレンスです。次回ICCサミット KYOTO 2026は、2026年8月31日〜9月3日 京都市での開催を予定しております。参加登録は公式ページをご覧ください。

本セッションのオフィシャルサポーターは青山スタイル / natです。


【登壇者情報】
2026年3月2〜5日開催
ICC FUKUOKA 2026
Session 2F 
大人の教養シリーズ 人間を理解するとは何か?(シーズン15)
Supported by 青山スタイル/ nat

(スピーカー)

石川 善樹
公益財団法人Well-being for Planet Earth
代表理事

井上 浄
リバネス
代表取締役社長 CCO

尾原 和啓
IT批評家

中村 直史
五島列島なかむらただし社
代表 / クリエーティブディレクター

(モデレーター)

村上 臣
スマートニュース
VP of Consumer Product

『大人の教養シリーズ 人間を理解するとは何か?(シーズン15)』の配信済み記事一覧


正解の価値が暴落した“主観的物語化”の時代を生きる、尾原 和啓さん

尾原 皆さん、尾原でございます。


尾原 和啓
IT批評家

京都大学院で人工知能を研究。マッキンゼー、Google、iモード、楽天執行役員、2回のリクルートなど事業立上げ・投資を専門とし、内閣府新AI戦略検討、経産省対外通商政策委員、NHK中央番組審議員等を歴任。現在13職目 、AI変革を描いた「努力革命」(伊藤羊一共著)はAmazonビジネス書にて新着3日連続1位「アフターデジタル」は11万部、元 経産大臣 世耕氏より推挙。けんすう氏と共催のPodcast「ハイパー起業ラジオ」はAppleビジネスカテゴリーで10週連続一位

実はですね、この「人間を理解するとは何か?」シリーズの前哨戦である、「知性の核心とは何か?」というセッションが昔ありまして。

【一挙公開】知性の核心とは何か?(全8回)(ICCサミット FUKUOKA 2018) 

村上 ありましたね。

尾原 僕は、その時はモデレーターだったのですが、その「知性とは何か」が受けて、この「大人の教養シリーズ 人間を理解する」が始まった時に、外されたのです。

村上 (笑)

尾原 つまり、僕は「大人の教養を持っていない」のか、「人間を理解するとは何か」ではない、という話なのです。

井上 人間ではない(笑)。

尾原 そうそう(笑)。

今回呼ばれたのは、簡単に言うと、人工知能がそろそろ人間に近づいてきたので、人工知能が大人の教養を実装するようになってきました。

村上 AGI(Artificial General Intelligence、汎用人工知能) ですね。

尾原 そう、これが尾原もこのシリーズで「喋ってもいいよ」というシグナルかなと思って。

AI観点で見ると、実はこの「恐れ」という言葉は、起業家にとってめちゃくちゃ大事だという話をしたくて来ました。

村上 はい、よろしくお願いします。

「客観的な正解」を探し当てる時代は終わった

尾原 ほとんどの人が、「実証主義」と「構成主義」という言葉を知らないと思います。

まず大事なことは、世の中が「検索」から「生成」に変わりましたよね。

Googleですらもう、検索から生成AIにフルスロットルで移行する意思決定をしています。

生成AIは、生成するわけですよね。

検索は正解をくれるものですが、生成AIは生成するものなので、答えを構築するものだということです。

つまり、今までは「実証主義」と呼ばれる、「真実は世の中にある」という主義でした。

世の中にある真実を分かりやすくすると、そこにめちゃくちゃ再現性があるので、工場でたくさん作れる時代だったのです。

ややマニアックな話をすると、Googleの出す事実は「固有値解」なので、世の中のデータの中から一番蓋然性が高い、再現性が高いものを検索として抽出するという、実証主義に近いものなのです。

それが生成AIになった時、例えば分かりやすいのが、村上さんの滔々(とうとう)とした解説。

あれは全部、NotebookLMで作っているのですよね。

村上 そうですね。

尾原 あれは、今までのシーズン全ての内容をAIに入力し、皆さんに伝わるような物語として構成し直したものです。

つまり、世界は、「あなたのためだけに」を「みんなに届くように構成し直せる」ということが、もうワンクリックでできる時代に来てしまっているわけです。

この原理を見つければいろいろ作れるということなので、正解の発見だけで、スタートアップが伸びる時代は終わります。

AIが簡単に正解を作れるので、正解と実行の価値は暴落し、基本的に主観的な物語を作る構成主義に力が寄っていくのです。

AIが実現した「誰もが自分だけの物語を作れる時代」

尾原 世の中を見ると、困ったことが起こっています。

たとえば2人の超人(ドナルド・トランプ、イーロン・マスク)が自分の物語を世界に押し付けている、にもかかわらずインパクトを出してしまっているのです。

こういう時代において、この2人の超人が自分の物語を世界に押し付けることができる一方、みんなが幸せになるためには、彼らに何をインストールすればいいのか。

実はそれが、日本人が持っている「おそれ」という概念ではないかという話です。

大事なことは、生成AIのベースになっているのは「ニューラルネットワーク(※)」という考え方で、人間の脳みたいな形で神経が動きます。

▶編集注:ニューラルネットワークとは、人間の脳の神経回路(ニューロンのつながり)を数学的に模倣した計算モデル。

この概念を作った1人であるマーヴィン・ミンスキー(1927~2016)が『心の社会』の中で言っていたのは、「人間の知性は、心を持たない無数の、何かが起きたら何かに反応する小さなエージェントが集合体になることで生まれる」ということです。

では、みんなが知性だと思っているものは何かと言うと、「こういうシチュエーションではこう伝えたほうがゴールを達成できる」というものです。

これが、「文脈の構成」です。

生成AIというものは、「トランスフォーマー(※)」というモデルが作られたことにより、とにかく大量の文脈を放り込むと、これを言えば「ほほう」と思われるものを構成していきます。

▶編集注:トランスフォーマーとは、現代の生成AI(大規模言語モデル)のブレイクスルーとなった、自己注意を用いたニューラルネットワーク構造。 

MITメディアラボのシーモア・パパート(1928~2016)が、「構築主義(コンストラクショニズム)」という言い方で、世界がインタラクションを繰り返していけば、メディアとして再構築できるのではないか、構成をもっとアクティブに、社会に自らアウトプットすれば変わっていくと主張しました。

MITメディアラボ創設者のニコラス・ネグロポンテは、自分の歪みを照らしていくと世界が再構築されると主張しました。

今まではイーロン・マスクなどの有名な人しか、自分の世界に人々を引きずり込むことしかできなかったのです。

でも今は、先ほどNotebookLMで見せたように、7年半の内容をたった3分に見事にまとめ上げてくれるAIがいるので、そこにストーリーテラーとして臣さんがいれば、誰もが自分だけの物語を作れる時代になっています。

自分の主観で物語を作り、納得して一緒に歩こうと思ってもらえるようにするセンスメイキングが、デザインをするにあたって大事ですし、ハルシネーションは物語としての整合性を取るために生まれるので、バグというよりも新しい意味を生成していると捉え、クリエイティブに使っていく研究も進んでいます。

各国のシステムデザイン思想

尾原 何かの第一原理を見つけて、それをスケールアップすることで世界に貢献するアメリカ型のスタートアップが流行っています。その象徴がSpaceXなどのイーロン・マスクです。

例えば、「デザインシンキング(※)」が一時期めちゃくちゃ流行りましたが、日本からは撤退し、アメリカでも縮小しています。

▶編集注:デザインシンキングとは、2000年代後半〜2010年代にかけて世界的に広まった、ユーザーの視点から課題を捉え、解決策を導く思考法。 

なぜなら、一言で言うと、外から見えるものを抽象化して再現性があるようにまとめるデザインは、AIやいろんな教科書で代替できてしまうからです。

今、世界のデザインの潮流がどう変わってきているかと言うと、例えばイタリアでは、「ストラテジックデザイン」において、「全てのステークホルダーが1つの物語の中で一緒に進める」ことが彼らの戦略なのです。

デザインという再現可能な問題解決に、あえて物語や意味など、全員が一緒に歩きたくなる魔術を乗せているのです。

ドイツではもっと硬く、最後には規範がアップデートされなければ社会は動かないという考えのもと、かっこいい、もしくはかっこ悪いと思う、つまり美学や規範自体をアップデートする際にデザインが入り始めています。

最初の話に戻りますが、ICCは、世界を構築するためにみんなが集まっているものですので、みんなの世界の構築の仕方をアップデートしていく必要があります。

AIによって正解の価値が大暴落していく中で、僕たちはもう一度、構成主義に戻っていく必要があるのです。

自分の物語を他人に押し付ける独善の時代

尾原 ここまでが前段で、ここからが大事です。

この構成主義において僕たちが行っていることの究極が、自分の物語をただただ他人に押し付けて、世界に迷惑を撒き散らすということです。

「超人の時代だが独善の時代」に突入しているのです。

事実、アメリカによるイランへの爆撃に際し、倫理を守りたいアンソロピックという会社が、自律的なドローンで人を攻撃させるのは嫌だ、国民を全て監視してICE(移民税関捜査局)のような活動に活用されるのは嫌だと表明すると、アンソロピックは敵国認定され、国のシステムから弾き出されたのです。

米国防総省、アンソロピックを「サプライチェーンリスク」に正式指定 米企業で史上初 2026.03.06 (Forbes JAPAN)

そんな馬鹿なことがあるのかと思いますが、ようやく「恐れ」の話に入ります。

村上 ここまでが前振りでした。

ただ、この後の話において大事なので、ここまでの話はぼんやり覚えておいてください。

人知を超えたものへの敬意を表す「畏れ」

尾原 自分の物語で世界を構築できることによって、AIがその人に超人の力を与えた時、その人が「みんなのため」に戻ってくるかどうかが「恐れ」です。

「おそれ」には、3つの漢字が使われます。

たいてい、まずは恐怖の「恐」を思い浮かべると思いますが、畏怖の「畏」、そして遠慮の「慮」に似た「虞」です。

「センスオブワンダー」という言葉を知っている方はいますか?

SFの民は少ないですよね、ちゃんと説明します(笑)。

村上 ちゃんと説明しましょう。

尾原 ものすごい朝焼けを山の上から見た時とか、人工物でも落合陽一さんの作ったパビリオン(null²)を見た時とか、人知を超えたものに対し、恐怖の中に尊敬が混じるような気持ちになるのです。

それが、「畏れ」です。

つまり、自分にはコントロールできないけれど、世界には別のロジックで動いているものがあり、それに自分の心を動かす力があるということです。

それに気づくと、人間は謙虚になります。

チ。 ―地球の運動について―』という漫画、もしくはアニメは見ましたか?

あの時代には、地動説を考えることは最もしてはいけないことだったのです。

でも地動説をもとに考えると世界がもっと美しく見える、そうなると探究したくなるのです。

僕たちは、僕たち以上の存在を感じた時、その存在に向き合うということの尊さの前に、周りにあるバイアスを忘れて動く力を持てるのです。

自由のめまいと向き合う勇気を表す「恐れ」

尾原 2つ目が、恐怖の「恐」です。

これはフランス哲学においては、「自由のめまい」という表現をします。

フランスではAIが発達しすぎて、『自由からの逃走』という本が売れまくっています。

自由とは、予測可能性が下がるものです。

選択肢が広がれば広がるほど、今まで選択したことがないものを選択するので、予測ができなくなるのです。

予測ができないと、不安になります。

そういう不安があるから、逆に自分だけの物語を作り、自分だけの予測可能性を上げる、それが「独善性」につながります。

予測不能であるという自由、恐れを楽しむということが、実は独善性に陥らないために非常に大事なのです。

他者への深い配慮とためらいを表す「虞」

尾原 ここまでは外に対する「畏れ」と内に対する「恐れ」についてでしたが、もう一つ、同じ線の上に存在するのが「虞」であると、日本語では定義しています。

英語にすると、「care」とか「仲間を大切にする」という意味です。

日本人の素晴らしいところは、自分というものを共同体として認知するので、共同体の痛みが自分の痛みになる点です。

これが人間の、日本人の素晴らしい「虞」です。

今、独善的に進んでいく人たちは、誰かの痛みを痛みではないと考えるので、他者に攻撃ができるのです。

話を戻すと、この「Awe」、つまり人知を超えたものへの「畏れ」、畏怖、選択できる自由が恐いという「恐れ」、そして、他の人の痛みも自分の痛みであると引き受ける「虞」、この3つが、AIによって誰もが世界を構築できる時代においては、ものすごく重要であるということです。

村上 ありがとうございます。

日本人は自然と3つの「おそれ」が理解できる

村上 だいぶ重いテーマだったのですが……ちなみに、遠慮の「慮」は訓読みで「おもんぱ(ば)かる」ですね。

そちらのほうが知られていると思います。

「畏れ」と「虞」は日本らしいと思います。

災害が非常に多い国なので、昔から大自然に対して何らか畏怖の念を持っていることはナチュラルに理解できると思います。

また、「恐い」というのも自然に理解できると思います。

日本以外の国、特に欧米だと、宗教観の違いもあって理解し得ないのではないでしょうか。

我々は多神教かつアニミズムに理解のある国民性を持ちますので、3つともナチュラルに理解できます。

尾原 昔は、自然を制御したほうが、再現性を持って自分や仲間の権力を増やせるから、そうするほうが合理的だったのです。

村上 そうですね、日本家屋も、枘組(ほぞ)でまた建て直せる形式になっているのは、地震で潰れてしまうからです。

どうせ潰れるならうまく潰れるようにしようという設計思想ですね、石積みでガチっとした構造だと、潰れると大変なわけです。

そういう考え方の違い、周りの環境へのスタンスの違いがあると思います。

尾原さん、ありがとうございました。

尾原 人間になれたかな(笑)。

(続)

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編集チーム:小林 雅/小林 弘美/浅郷 浩子/戸田 秀成

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