「メンタル、心というのも同じで、ストレスのかかった時ではなくて、そこからリカバリーする時に強くなるのです」
「普段のルーティーンの中に、仕事でパフォーマンスをあげるための重要な因子として、身体を鍛えるということを含める必要がある」
「メンタルの強い人は、自分のことを名字で呼ぶという特徴がある」
「長く活躍する人は五つくらいの専門分野を持っている人が多いらしいです。一個とか二個だけだと一発屋で終わってしまう。」
数々の素晴らしい発言が飛び出したICCカンファレンス TOKYO 2016の代表的なセッションです。 強いメンタルを持つ人間の行動は何が違うのか? - ICCカンファレンス TOKYO 2016 「試練に打ち勝つ強いメンタルの作り方」(前編) を是非ご覧ください。
登壇者情報 2016年3月24日開催 ICCカンファレンス TOKYO 2016 Session 1B 「試練に打ち勝つ強いメンタルの作り方」 (スピーカー) 石川 善樹 株式会社Campus for H 共同創業者 出雲 充 株式会社ユーグレナ 代表取締役社長 佐藤 光紀 株式会社セプテーニ・ホールディングス 代表取締役社長 (モデレーター) 小林 雅 ICCパートナーズ株式会社 代表取締役
小林雅氏(以下、小林) 皆さん! おはようございます。ICCパートナーズの代表をしております小林 雅です。本日は第一回目となる「ICCカンファレンス TOKYO 2016」にご出席いただき誠にありがとうございます。 本日の最初のセッションは非常に面白い内容となっています。是非ご期待ください。 では石川さんかから自己紹介と近況をお話頂ければ。
世界のエグゼクティブがごぞって訪れる「ヒューマン・パフォーマンス・インスティテュート」とは何か?
石川善樹氏(以下、石川) 自己紹介はさて置き、先日『WIRED』という雑誌の取材でフロリダにある伝説の施設に行かせていただきました。
「ヒューマン・パフォーマンス・インスティテュート(HPI)」といって、トップアスリートはもちろん、FBIや軍人、最近では企業のエグゼクティブがこぞって訪れています。
小林 どんなところなんですか?
石川 この施設は元々、スポーツ心理学の世界の第一人者であるジム・レーヤー先生によって創設されたものです。
一人当たりの参加費は、なんと5,000ドル!二日半にわたるプログラムなのですが、その顧客満足度が異常に高い。アップル製品よりも全然高い。ですから噂には聞いていました、「すごい施設があるらしいぞ」と。
石川 善樹 株式会社Campus for H 共同創業者 予防医学研究者、博士(医学) 広島県生まれ。東京大学医学部卒業後、ハーバード大学公衆衛生大学院修了。 「人がより良く生きるとは何か」をテーマとした学際的研究に従事。 専門分野は、予防医学、行動科学、計算創造学、マーケティング、データ解析等。講演や、雑誌、テレビへの出演も多数。NHK「NEWS WEB」第3期ネットナビゲーター。著書に『疲れない脳をつくる生活習慣(プレジデント)』『最後のダイエット(マガジンハウス)』、『友だちの数で寿命はきまる(マガジンハウス)』 そもそも、スポーツ選手のメンタルが真剣な科学の対象になったのは、1950年代にさかのぼります。それまでスポーツ選手は、「長い時間、一生懸命頑張って、たくさん競争すれば強くなる」という発想でトレーニングしていました。今で言えば「ブラック」と言われるような。
小林 仕事と同じですね。長時間働けば何とかなるという発想。
石川 そうなんです。そんな「ブラック」な練習の結果、怪我人が続出し、さらには燃え尽きてしまう選手が多発したのです。ですから、そういった「やみくもな根性」ではない方法でスポーツを捉え直さなければならないということで、1950年代に旧ソ連がメンタルを科学し始めました。
先ほどのジム・レーヤー先生は、テニス選手のメンタルを研究されたことで、多大な貢献をされました。
小林 ほう、テニスですか!
石川 テニスという競技は面白くて、一試合のうち実際にプレーしている時間は35%しかありません。残りの65%は次のプレーの準備をしているのです。
例えば、球を打って、点を取って、「よっしゃー」となる。その「よっしゃー」となってから次のプレーを始めるまでの時間がほとんどなのです。
これは多分、僕らの仕事もそうだと思うのです。一日の内に仕事をしている時間というのは、多分35%もなくて、ほとんどの時間は次にする仕事の準備をしている(笑)この時間が長い。
そして、ジム・レーヤー先生は、テニスのトップ選手ほど、プレーをしていない65%の使い方が上手いということを発見したのです。
小林 それはどういうものだったんですか?
石川 どんな選手であれ、点をとれば興奮するし、とられれば怒ったりします。それは自然なことで、その感情を抑え込むことは難しい。
しかし、トップ選手になるほど、「リカバリー・ルーティン」というものを持っていたのです。例えば一つのプレーが終わったら、1)ラケットを持ち替えて利き手の緊張を解き、2)くるっと後ろを向いてコートの端まで歩いていき、3)その間ラケットのガットに注意を集中することで終わってしまったプレーから心を離し、4)またベースラインまで戻って「よし、やるぞ」となる。
ジム・レーヤー先生は、この「リカバリー・ルーティン」というアイデアをさらに昇華させ、「ストレス&リカバリー」という概念を提唱します。
(セプテーニの)佐藤さんは筋トレをやられるからわかると思いますが、筋肉というのはストレスをかけた時に成長するのではなくて、リカバリーの時に成長します。超回復というものですね。
メンタル、心というのも同じで、ストレスのかかった時ではなくて、そこからリカバリーする時に強くなるのです。最近もいろいろ叩かれる人が多いですよね。あれも見方によってはすごくチャンスで、ストレスが大きければ大きいほど、そこからリカバリーする時に人は強くなれると考えられます。
あ、リカバリーで思い出しましたが、「100歳になる人というのはどういう人か?」という研究があります。
小林 それは面白いですね!どんな人なんですか?!
石川 結論から言うと、「若い時にとんでもない苦労をしている人」は、100歳の人に多いようなのです。
あらためて考えてみると、歳を取るということは苦労が増えるということです。身体は衰える、親しい人は亡くなる、社会的にもどんどん活躍できなくなる。
辛いことが多いのですが、若い時の苦労を乗り越えた人からすれば、「こんなものは大したことない」と乗り越えやすいと考えられます。たとえば、強制収容所を生き抜いたユダヤ人の一部には、とんでもなく元気な人が多いと報告されています。
このように、先ほどのHPIという施設では、「ストレス&リカバリー」という概念をはじめとして、いろいろと教えてくれます。
睡眠と食事と運動の大切さ
小林 それでは佐藤さん。自己紹介を交えてお答えいただければと思いますが、身体やメンタルに関する習慣はありますでしょうか。
佐藤光紀氏(以下、佐藤) 心が健康な方が仕事で高いパフォーマンスが出るというのは実感するところです。そして、やはり身体が丈夫だと心が健康になりやすい。
ですから、普段のルーティーンの中に、仕事でパフォーマンスをあげるための重要な因子として、身体を鍛えるということを含める必要がある。そういうことを過去のいくつかの経験から感じていて、しっかり身体作りをするようになりました。
佐藤 光紀 株式会社セプテーニ・ホールディングス 代表取締役社長 1975年東京都生まれ。立教大学法学部を卒業後、1997年4月株式会社サブ・アンド・リミナル(現株式会社セプテーニ・ホールディングス)に新卒で入社。 1999年新規事業責任者としてインターネット広告事業を立ち上げ、同社を国内トップクラスのインターネット広告会社に育てる。 2006年10月持株会社体制移行に伴い、事業会社である株式会社セプテーニの代表取締役社長に就任(現任)。 2009年12月 セプテーニ・ホールディングス代表取締役社長に就任。(現任) 2011年1月セプテーニ・ホールディングスが世界経済フォーラム(World Economic Forum)より世界成長企業(Global Growth Company)として選出される。 2015年2月 セプテーニグループ(対象10社)が、Great Place to Work(R) Institute Japanが実施した「働きがいのある会社(日本版)」ランキングにおいて、従業員数100~999名の企業のカテゴリにて4位に選出される。
トレーニングという意味でもそうだし、食生活という意味でも、睡眠という意味でもそうです。ですから、基本的には、ルーティーンの中に睡眠と食事と運動というのをリズミカルに質を高く、必ず一定の割合で入れています。
小林 佐藤さんは何時に起きて、何時に寝ていますか。以前(20代)は寝ないで働いていたと思うのですが、最近はどうのような考え方方でしょか?
佐藤 寝ないで働いた時期もありましたが、そういう時期もあって、学びました。
今はだいたい平日6時間睡眠くらいです。24時くらいには寝て、朝6時くらいには起きるというのがほぼルーティーンになっている。ですから、会食とか行きますでしょう。そこで夜遅くまで飲みましょうというノリになることもあるのですが、最近は「もう帰ります」と言って帰ってしまいます。
あるいは、もう会食中でも寝てしまう(笑)24時くらいになって、もう眠いと思ったら、構わず寝てしまうようになりました。まあ、一応家には帰るようにしているのですが(笑)
小林 それではユーグレナの出雲さんにもミドリムシを代表して、自己紹介を交えて身体やメンタルについてお話をいただけますでしょうか。
出雲充氏(以下、出雲) 出雲と言います。ヘルスケアに関して一番良いのは、ミドリムシを飲むということでしょう。それはさて置き、私がお聞きしたかったのは、2日で5,000ドルということは約60万円ですよ。2日で60万円もかかって、そんなにアップルよりもファンになって帰ってくるというのは、とてもすごい。
出雲 充 株式会社ユーグレナ 代表取締役社長 東京大学農学部卒、2002年東京三菱銀行入行。2005年8月株式会社ユーグレナを創業、代表取締役社長就任。同年12月に、世界でも初となる微細藻ユーグレナ(和名:ミドリムシ)の食用屋外大量培養に成功。世界経済フォーラム(ダボス会議)Young Global Leader選出(2012年)、第一回日本ベンチャー大賞「内閣総理大臣賞」(2015年)受賞。著書に『僕はミドリムシで世界を救うことに決めました。』(ダイヤモンド社)がある。
60万円かかって2日ですごく良いプログラムでしたとなるのは、本当は何を教えてくれるところなのでしょう。ぜひ教えていただけませんでしょうか。
脳に酸素と血液を送り込む「マイクロ・バースト・エクササイズ」
石川 あんまりしゃべると怒られるかもしれませんが(笑)、その施設ではかなり細かいことまで教わります。たとえば人は、40分から45分くらい座ったままだと脳があまり機能しなくなる。
そこで一つ教わるのが、「マイクロ・バースト・エクササイズ」というものです。
小林 なんですか、それは。
石川 要は、瞬間的に「パパパッ」と動いて脳に酸素と血液を送り込めということです。だいたい40、50分くらい座ったままでいると脳の機能は落ちてきます。なぜなら、酸素と血液が足りなくなるので。
でも一回立って、「パパパッ」と動けば、脳はまた一気に活性化します。その「パパパッ」をマイクロ・バースト・エクササイズと呼んでいました。
小林 このセッションも40分くらいたったらみんなで「うわー」と動いた方がいいですね。
石川 そうですね(笑)
佐藤 私は最近、ずっと「Apple Watch」を使っているのですが、これを使い続けて一番良かったと思うことは、たまに時計が「立て」と指示してくれるのです。ずっと座った姿勢でいると、「今から立ってください、そして1分歩いてください」という指示がきます。
多分、それは今の話に近いのだろうなと思います。やはり、ずっと座った姿勢でいることで、体に色々と悪い影響があるのでしょうから、「立て」という指示が来る。もう、僕はこれで通知が来たら立つようにしています。立って、1分そのあたりをウロウロして歩いて帰ってくる。そうすると、きっと良いことがあるのでしょう。
そういうことを様々な文献を読んで学ぶことがありました。だから、最近はもうアップルウォッチの言うとおりに立って歩こうということになって。そして、その間にぐるぐる肩を回しながらトイレへ行ったりとか、お水を買いに行ったり、ある意味軽いエクササイズをこなすのです。
そうして帰って来て、またデスクに座る。また、そういう点でこういうスマートデバイスが良いなと思うのは、習慣化するということです。通知が来た瞬間に「立たなきゃ」と思って、何かをしていても立つようになるのです。
だから、メールを見ていて「このメール返したいな」とその瞬間思っていても、ちゃんと訓練して習慣化すると立てるようになる。結構便利です。これは今のお話に少し近いような気がしました。
石川 たしかにそうですね!僕らはこれまで、「30分間座りっぱなしだと煙草1本吸ったくらい健康に悪い」などと言って椅子から立たせようとしましたが、もちろんみなさん立ちませんでした(笑)しかし、Apple Watchのようなものがあると、習慣化したということですよね。
佐藤 プッシュ通知というのは良いものです。
「お腹が空いていると思っている時点で30分遅い」
石川 別の話題になりますが、先ほどのフロリダの施設で教わることの一つに、「お腹が空いていると思っている時点で30分遅い」という話があります。
というのも、お腹が空いたと感じる時点で、脳は低血糖になっているからです。本当はその30分前、お腹が空いたと思う前に予防的に少しだけ間食すると、パフォーマンスを落とさずに脳を働かせることができる。
小林 ほー、そうなんですね。
石川 あらためて考えると、私たちはそういった睡眠や運動、食事のことを何も習わず社会人になっています。さらに視点を変えると、前回の東京オリンピック、1964年の頃は55歳で定年していました。だから、とりあえず55歳まで駆け抜けろと。
定年したら、あとは年金で面倒を見てくれるし、何かあっても70歳以上の医療費は無料だった。そういう時代だったのです。でも、今を生きる私たちは、100歳まで生きる可能性がかなり高い。
だから100年の人生設計を本当に考えておかなければならない時代になっています。そう考えると、私たちは75歳くらいまでは最低限働くんじゃないでしょうか。
定年が55歳なら、全力で駆け抜ければよかったと思いますが、75歳まで働こうと思うと、夜通し遊んでいる場合ではないですよね。健康を害している場合ではないというか。
ここで出雲さんからいただいた質問に戻るのですが、「フロリダの施設で本当は何を習うのか?」というのは、今日のこのセッションの後半でお話しようかなと。
小林 では、前半は何を議論しましょうか?
石川 少し、メンタルのお話をしませんか。
小林 良いですよ!
メンタルの強い人は自分のことを名字で呼ぶ
石川 実は最近、メンタルの研究を始めました。それでまず気がついたのが、メンタルの強い人は、自分のことを名字で呼ぶという特徴があるなと。
小林 矢沢永吉が自分のことを「矢沢」と呼ぶような(笑)
石川 そうです(笑)この間、本田圭介の『プロフェッショナル 仕事の流儀』を見ていたんですが、彼は自分のことを「本田圭介」とフルネームで呼ぶのです。象徴的だったのが、ACミランに入った当初はあまり活躍できなくて、彼もすごく悩んだようです。移籍しようかとすら考えたと。
その時です。本田さんは、とても印象的なことを言っていました。
「正直、チームから出ることも選択肢の一つかなと考えました。ただ、そこから本田圭介との対話が始まるわけです」と。
自分のことを「本田圭介」と呼んでいるのは、つまり自分を客観視して見ていますよね。そして、自分と対話し始める。「逃げたいというが、ACミランを選んだのはお前じゃないか。それは、お前らしくないぞ」という具合に。
実は似たようなことを、イチローもよくやっています。ですから、自分を斜め上から見る感じで自分と対話する人というのは、メンタルが強いんじゃないかと思うのです。
小林 参加者の方にお伺いします。自分と対話される方というのはどれくらいいますか? 結構いらっしゃいますね。
石川 佐藤さんがすごく自分との対話をされているとおっしゃっていて、気になりました。
小林 どういう対話をされるのですか。
佐藤 ありとあらゆることです。実は僕、普段あまり人と喋らないんです(笑)もちろん、仕事をしていて必要に応じて喋ることはあるのですが、それ以外ずっと黙っていることが多い。ずっと黙っていても楽しいです。それはやはり自分と会話しているからなのかな、と。
これは小さい頃からの習慣で、そうなった理由は色々あるのですが、自分と対話するようになる。例えば、朝起きて何かを始める時に、新聞を読んだとする。新聞の記事について気になる時事ネタがあったら、それについてどういうことなのかと考えますね。
そうやって考えると、自分に聞くのです。「これってどういうことなのだろうね」と自分に聞くと、「こういうことじゃないか」と返ってくる。それに対して「いやいやこうでしょう」と反論すると、また反論が返ってくる。
これを何回かぐるぐる繰り返していると、結局そういうことかと納得して、ああ良かったという感じで終わるのです。その間、内面ではいろいろ対話が繰り返されて、ディスカッションを経て一定の合意なり、納得なり、気づきがあって、議論が収束しているのですが、でも外から見てれば何ということもなくただ新聞を読んでいる人というだけなのですよね。
だから、その間で割と満足してしまっているのです。だから、人と話しているのも、この感覚とあまり変らない。例えばここで石川さんと小林さんと出雲さんと話していても、自分と対話している感覚とあまり変らないんです。
だから、人と話しているのも、自分の中で話しているのも同じですから、感覚的にはずっとひとりで一日いて自分と話していてもそれなりに楽しい感じです(笑)
石川 自分のことを「佐藤」と呼びますか。
佐藤 それはまだ呼んでいないですね!(笑)
小林 出雲さんは結構ミドリムシを主語にして話すことがあるのですが、それも一種同じことなのでしょうか。ミドリムシを代表して、「ミドリムシは云々」と言いますでしょう。
出雲 半分以上の主語はミドリムシですね。
小林 そうすると、自分はミドリムシであるという感覚になるのですか?
出雲 自分は明らかに多細胞生物ですから、ミドリムシではありません。ミドリムシというのは単細胞真核生物なので。でも、ミドリムシを確かに主語で使いますね。
佐藤 出雲さんを見ていて思うのですが、言葉にしてミドリムシという単語をたくさん使いますでしょう。そうすると、だんだんミドリムシになっていっているような気がしませんか?もちろん、単細胞真核生物になっているという意味ではなくて。人格的な意味で、ミドリムシ的人格のようになっている。
ですから、そうやって言葉をずっと言い続けると、やはりその言葉を自分も聞いているので、ずっと刷り込まれて変っていくという感覚はやはりある。だから、なるべく自分がこうありたいと思う状態を言葉にしています。
例えば、話す際にもなるべくマイナスな言葉を使わない。そういうことも普段から習慣化していて、自分が何て喋るかということにすごく気をつけます。それは、やはり言ったことが返ってくるという、「言霊」ではないですが、そういう感覚があるからです。ですから、出雲さんを見ていると、ミドリムシになるために言葉を発している感じがします。
出雲 私はあまり喋る内容がポジティブなのかネガティブなのかというよりも、もう少しニュートラルに考えます。確かに、自分がこうなりたいとかそういうことはなるべく言葉にしないとまったく伝わらない。
以心伝心という言葉は非常に日本的なものであって、おもてなしとか、察するとか、空気を読むとか、大切だとおっしゃる方もいらっしゃいますが、私は以心伝心ではなくてどんな内容であっても言わなければわからないと思うのです。
少なくとも科学ないし研究やビジネスもそうだと思うのですが、今、ビジネスのここが上手く行っていないとか、研究のここが上手く行っているのですというのは、以心伝心で伝わると思った瞬間に非常に情報が丸いものになってしまう。
これでは受け取る側が非常にセンサーを発揮しないと正しく、どういう現状で、どういう情報なのかというのがわからなくなってしまう。私は情報を受け取る側のセンサーを鍛えるということはこれ以上は難しいと思っています。
今は山ほど情報があると思いますから。なので、発信する側が、発信する意図で捨象せず、非常に具体的に伝えられるかどうかということが大事だと思っています。だから、自分もそうしたいと思っているのです。
日本人のプロフェッショナルの3つの特徴
石川 なるほど!関連するかどうか不明ですが、「日本人のプロフェッショナルにはどういう特徴があるのか?」、という話を思い出しました。
この話をしてくれたのは、NHKの『プロフェッショナル 仕事の流儀』のプロデューサーだった有吉さんという方です。
彼に言わせると、色々なタイプのプロフェッショナルがいたが、どうも共通している要因が3つあると。
一つ目は、何故かとんでもない困難へ飛び込んでいく人が多いということ。そして、自分でも「嫌だな」と思うらしいのです。何でここへ行かなければならないのかと。このとんでもない困難へ飛び込んでいくというのが一つ。
二つ目は、やはり困難へ飛び込んだ時は不安になる。その不安に対処する術を持っている。
そして、三つ目は、異分野の友達を持っている。と言うのは、困難へ飛び込んだ時というのはどう対処して良いかわからないし、メンタルだけではどうしようもないことも多い。その時に、異分野の友達がいると良いらしいのです。
それでは、どれくらいの異分野が良いのかという研究もあります。長く活躍できる人の特徴というのを調べた研究があるのですが、だいたい長く活躍する人は五つくらいの専門分野を持っている人が多いらしいです。一個とか二個だけだと一発屋で終わってしまう。
だから、そういう意味で言うと、五つくらいの違う分野の人と付き合っておくといいのかなと思うのです。小林さんはどうですか。お知りあいに多くのいろいろな人がいらっしゃいますよね。例えば、普通だったら私のような研究者と小林さんは、知り合わないと思うのです。
小林 石川さんについては、以前(2012年) この会場でTEDxUTokyoというのをやっている時に「この人すごく面白い人だな」と思って話を聞いていて、僕が話しかけに行ったということでした。
そういうことがキッカケです。出雲さんについても、R-SICという社会起業家が集まるカンファレンスの同じパネル・ディスカッションでご一緒したときに「この人本当に面白い人だな」と思って、「ぜひ我がイベントへ」というふうにリクルーティングをした。それからずっとラブコールを送り続けて実現するというような感じでした。
また、ブログで発信するということもやります。今ではFacebookなどでもいろいろ書いていますが、佐藤さんは僕のブログを読んで問い合わせが来たということでした。
石川 そういうこともあるんですね!
佐藤 そうなんですよ。ブログを見ていたら、面白いことを書いている人がいたので。僕は生まれてこの方ブログへ問い合わせをしたのはその一回限りです(笑)
小林 セプテーニの佐藤です、とメールが来るのですよ。ビビリます。
佐藤 面白いですねというふうに。何か面白かったんでしょうね、きっと。そして、問い合わせ欄にコメントをした。それが小林さんだったんです。ですから、小林さんのことは知らずに記事を見て面白かったということだった。
小林 僕の習慣としては、アウトプットをすごくよくしていますね。僕、自分のFacebookグループ(「ICC経営論」)というのがあるのです。自分の経営論というものを語るグループがあって、ひたすらそこにアイデアや考え方を書く。
例えば、ICCのロゴを映すのだったら見える位置に作るべきだ、というようなことを書いて自分で読んでいる。もちろんICCの運営チームのコアメンバーや仲の良い経営者が読んでいるのですが、完全に独り言なのです。ひたすらそれをやり続けて改善していく。そういうことをやっています。
石川 それは面白いですね!
有吉さんの言ったとんでもない困難だったり、不安に対する対処だったり、異分野の友達が必要だったり、ということは、どこでもあまり習わないですよね。
そもそもとんでもない困難へ飛び込むという時点で、プロフェッショナルというのはちょっと気が狂っているもいえます。例えばですが…きっと普通の人なら、こういうICCのようなイベントをやろうと思わないんじゃないでしょうか(笑)
小林 「ICCカンファレンス TOKYO 2016」の運営マニュアルは300ページくらい全部自分で書きました。ステージ横にいるスタッフが持っている「開始30分経過」なども自作です。
それを、30分経過したら出せというふうにマニュアルに記載がある。そして、必ず「モデレーターがこちらを向いているから、その方向へ向かって出せ」というような指示がすべてに渡って書いてありまして、誰でもできるようにしようという感覚でやる。
石川 それは出雲さんがおっしゃったことですね。すなわち、センサーを高めるのはもう無理だから、全部書いているのですよね。
小林 全部書いているのです。細かく書く。それからビジュアルを利用する。これをいつこう出しましょうというのを、具体的に、箇条書きではなくて、文章やビジュアルで書く。
すると、自分自身がほぼ暗記するくらいになる。そうやって暗記するくらいになると、いろいろなことを発見するわけです。なるほど、これはこうしたら良いのではないかというふうになって、興味がわいて、次へ繋がって行く。
石川さんの話を聞いて面白いなと思ったのは、例えばこうしたイベントを運営するためにはホテルとかレストランの運営を知らければならないから、素晴らしいレストランへ行ってみようということになる。
そして、いろいろ詳しく聞いていくと仲良くなる。そんなことをやっています。
石川 興味の幅が広いですよね。
小林 広いと思います。ですから、最近は石川善樹ファンになっているのです。ゾーンとかメンタルとか好きなので、「石川善樹」とどんどんいろんな人を対談させよう、対談させたらいろいろ面白い話が出てくるのではないか、というふうに企画を考えている状態です。
石川 結局、その視野を広げるためには、視点が高くなければならないということがあります。実は先ほどのフロリダの施設はなぜ5,000ドルもとるかというと、まさにその視点の高さを見直すからなんです。
例えば金メダルを取ったような人たちが来るのです。テニスのランキング1位とか。もう商用の飛行機に乗ったことはありませんというようなエグゼクティブがいっぱい来るのです。
その中でジム・レーヤーさんは、彼らに共通した悩みがあると気づきました。いわゆる成功というものを手にした人たちというのは、結果として虚しさが残っている。
人は成功を手に入れれば入れるほど、逆に成功から追い立てられるようになる。金メダルを取ったは良いけれど、そうしたら次に何をしたらいいのだっけ、ということは実は誰も教えてくれない。また金メダルを取るのですか、という話になる。
「結局自分はどうなりたいのか?」
もちろん自分の成績を上げたり会社の経営のことは一生懸命考えてきたのだけれども、自分のパフォーマンスを高めて夢なり成功なりを追いかけた果てとして、「結局自分はどうなりたいのだっけ?」ということをあまり考えてこなかったというのです。
小林 それは面白いですね。
石川 それを、このフロリダの施設まで来て、エグゼクティブたちが考えるのです。そんなことって、普段考える暇はないでしょう。
もちろん、「俺、こんなことやりに来たんじゃないし!」と怒りだす人もいるらしいのです。でも、そういう人に限って、「いやあ、良かったわ」と帰ってゆく(笑)
ですから、そういう自分の内面ですね。日本ラグビー・フットボール協会の中竹竜二さんの言っていたインナー・ドリームです。
2016年2月17日開催のICCカンファレンスのセッションより
リゾナンス・パフォーマンス・モデルという言葉があります。これはドリームという言葉を使う。ドリームというと本当に夢、アメリカンドリームのような話を思い浮かべると思いますが、ここで言う、心理学の中で言う「ドリーム」とは、自分の中にあるドリーム。
どちらかと言うと小さな喜びなのです。僕なんかはインナー・ドリームと言っている。要するに、本当に世界を制しているトップアスリートは、実はインナー・ドリームを大事にしているのです。このドリームは何かと言うと、勝ってみんなから祝福されたとか優勝して胴上げされたとかではないのです。
それらは勝った結果の喜びですが、そうではなく、とにかく「走る瞬間が気持ち良い」とか、「泳いで右手を入れる瞬間に快感を感じる」とか、「バットを振る時の腰を入れる感じで喜びを感じる」とかという、勝ち負けではない、自分の特に身体の部分で喜びを感じるというものなのです。
このモデルは結構前に研究されたのですが、実は先ほど言ったレジリエンスをやる時に、これも導入して、選手たちにワークさせて、「お前たちのドリームは何なのだ」と尋ねる。「勝ちたいとかではなくて、お前の本当の喜びは何なのだ」ということを相当ワークで詰めてやったら結構成果が出た。
しかし、30人中ドリームが本当に見つかった人間は5人くらいしかいませんでした。すごく難しいのです。その研究でも、インナー・ドリームを本当に見つけるのは難しいということが言われている。トップアスリートでさえ見つけられない人もいるのですが、見つけた人は長く競技を続けられるのです。
−中竹竜二
小林 自分もそうなのですが、今みなさんが付けている名札がありますでしょう。それはすべて僕が500名分すべて入力しました。普通、こんな面倒くさい作業など経営者はやりません。
しかし、入力する時に「ああ、この人と久しぶりに会うな」と顔を思い出しながらとか、「会ったことないな、この人」と思いながらとか、結構楽しくやっていました。
このように、インナー・ドリームという話しを聞いてから、日々の活動や作業を通じて楽しさや喜びを感じているようにしていたら、すごく幸せになれましたね。
石川 中竹さんがおっしゃっていたのは、「どこに勝ちたい」とではなく、例えばボールを蹴るときのこの動作が気持ち良いのだとかいうのがインナー・ドリームらしいのです。
あるいは水泳なら、手が水に入る時のこの感覚が好きで、これを追いかけたいというのがインナー・ドリームらしのです。彼の感覚だと、例えば20人の代表選手がいた時に、それを見つけられる人というのは5人くらいだと言っていました。
このインナー・ドリームを見つけた人というのが長く活躍できる。だから、イチローなんかはずっと自分の感覚を追いかけているのでしょうね。だから長くできるというのもあると思います。
佐藤 今日の参加者の方は会社を経営されたり起業されている方が多いと思うのですが、私も会社を経営していて、その、インナードリームについて考える瞬間があります。究極の話、会社を経営していると、当たり前ですが競争があり、競争の結果として事業の成功や失敗があったりする訳ですが、その競争をしていく過程で、世界一ということを意識するようになりました。
アスリートにとっての金メダルが会社経営にとっては何かを突き詰めて考えれば「世界一になる」以外にない。経営成績において世界一になること以外、ゴールはない。例えば、時価総額という企業価値の観点から言うと、スティーブ・ジョブズが亡くなる直前にエクソンモービルを抜いて世界一になった。今はまた状況は変わっていますが。
その時考えたこととして、一つの経済競争のピラミッドの中で、金メダルを取らなければならないということを目標にすると、「スティーブ・ジョブズに勝つ人生以外はクソだ」という結論以外、残らないのではないかと。ロジカルに考えて行くと。その人一人、金メダルを取った人以外に価値はないとすると、これはなかなかに大変です。
つまり、メンタルの話に紐付けるとこうなります。「生」と「死」の競争で言えば「ここを取らなければ死である」と。資本市場の論理で言えばそうなりますでしょう。でもそれは当然世界で一人しかなれない。世界中に経営者はたくさんいますが。
すると、金メダルを取れば「生」、取れなければ「死」、という価値観で仕事をすれば、これはなかなか大変なので、少し違うアプローチの方が良いかなと思うようになりました。
結果として金メダルは取れるかもしれないけれど、結果としてジョブズを抜けるかもしれないけれど、それはある過程を経た結果であって、その過程、プロセス一つ一つの節目を思いっきり充実させて楽しんだ方が、結果的にゴールへも近づけるのではないかと、自分の考え方を整理しました。
(続)
編集チーム:石川 翔太/小林 雅
続きはこちらをご覧ください:活躍する人はどのように目標設定を行うのか?
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