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2020年12月某日、ICC一行は、関西へとオフシーズン恒例の2泊3日CRAFTED TOURへ出かけました。今回訪問したのは、CRAFTEDカタパルトを中心に次回登壇いただく企業を中心に6社です。DAY1の1社目は、ダウンよりも軽くて温かい”エシカル・ダウン”を作る「KAPOK JAPAN」です。ぜひご覧ください!
ICCサミットは「ともに学び、ともに産業を創る。」ための場です。毎回200名以上が登壇し、総勢900名以上が参加する。そして参加者同士が朝から晩まで真剣に議論し、学び合うエクストリーム・カンファレンスです。 次回ICCサミット FUKUOKA 2021は、2021年2月15日〜2月18日 福岡市での開催を予定しております。参加登録は公式ページをご覧ください。
JR大阪駅より京都方面に阪急電車に乗って「関大前」で降りると、駅から1分というKAPOK JAPANのオフィス。地図の通りに到着しましたが、目の前にあるのは、ボーリング場に100円ショップ、ブックオフにゲームセンターです。
建物の前に立ち尽くしていると、KAPOK JAPANの深井 喜翔さんが現れました。この建物を有しているアパレルメーカー、双葉商事の一角に、オフィスがあるのです。
1947年創業の双葉商事に、深井さんが26歳のときに入社して新しい事業、KAPOK JAPANを立ち上げるまでのいきさつは、深井さんのnoteに綴られています。
▶【予告編】28歳スキル皆無、ヒトモノカネ不足のアパレルアトツギが、新規事業を始め半年で500人の前でプレゼンすることになった話(note)
部屋に通されると、目の前に「たった5mmで、ダウンの暖かさ」と銘打つ、KAPOK KNOTのジャケットが並んでいます。左から、アウトドアやタウンユースに良さそうなエアーライトジャケット、羽織りジャケット、ステンカラーコート、エアーライトジャケット(色違い)、カポックダウンライトジャケット。早速手に取ってみると……。
軽い! 拍子抜けするほど、驚きの軽さです。アウトドアウェアなどで、質がよくて、機能の高いものになればなるほど、軽くなって価格は高くなるイメージがありますが、植物の繊維で、この軽さ、薄さだと、冬の寒さをしのげるのか、心許ない気もします。
試しに羽織らせていただいて、写真を撮っているとたちまち暖かくなってきました。体感的には、ユニクロの大ヒットした薄いダウンベストの軽さで、格段に暖かい。寒い季節は重いロングコートで肩が凝ったり、着膨れたりしますよね? これならばそういったこともなさそうです。
深井さんは大学時代にソーシャルマーケティングを学び、マザーハウスに憧れていたといいます。それがカポックを事業化するベースの一つにあるようです。一体カポックとは何なのか? 早速深井さんにお話をうかがってみましょう。
なぜ植物由来の防寒衣類を作るのか
深井さん「私は創業75年のアパレル企業の4代目です。大量生産・大量廃棄といったアパレル業界に疑問を持っていて、今の事業を始めました。
皆さんご存じのようにファストファッションの台頭で、人にも地球にも負荷が重くのしかかっている。この現状を変えたいと思って、今の事業を行っています。
生産者としては5年で最低賃金が2倍になった地域もあり、それを賄うために児童労働、過重労働が行われています。利用者としてエコなものが欲しいと思っても、3割増しで買わなければならなかったりします。
結果としてアパレル業界は世界で2番めの環境汚染産業と言われています。
この負のスパイラルから抜け出せないアパレル業界を変えましょう。これが私の提案です。
消費者にも生産者にも環境にも、すべてにおいて持続可能なビジネスモデルを作り上げる。そのために、鍵となるのがこの素材、カポックです」
カカオのような形をしたカポックの実。バナナが収穫できるような暑い気候に育つ
打ち合わせは、CRAFTEDカタパルトに登壇する深井さんのプレゼン練習から始まりました。過去にもピッチコンテストでの登壇があり、クラウドファンディングに成功しているだけあって、よどみなくカポックの説明が続きます。
▶たった5mmで、ダウンの暖かさ。もっと冬を好きになるコート「カポックノット」(makuake)
深井さん「カポックの実の繊維は、コットンの約8分の1の軽さで『吸湿発熱』という、湿気を吸って暖かくなる機能があり、ダウンの暖かさをもたらします。
さらに採取した実の中の繊維を使いますので、木の伐採も必要なく、環境にも優しいです。
カポックはダウンと違って非人道的な羽毛の採取方法をされているかどうかを気にする必要もなく、木の伐採の必要がない。さらに保温性も優れていて、自生しているためコストも安い。そんな素材です。
その素材を使って立ち上げたブランドが、KAPOK KNOTです。KAPOK KNOTはたった5mmでダウンの暖かさを実現します」
モノづくりの工夫や、ビジネスモデル、将来への展望などが順を追って語られましたが、深井さんは、どこか物足りない表情です。ここからICC小林 雅のプレゼンブラッシュアップを兼ねた、深井さんへのQ&Aが始まりました。
カポックが動物由来の素材より優れている理由
小林「ウールやダウンといった動物由来の素材に、何の問題があるのですか?」
深井さん「動物由来のもの全てに問題があるわけではありませんが、ダウンに関して言えば、良質な羽毛を取るために用いられる「ライブハンドピッキング」という生きたまま羽毛をはぎとる手法を使われていることもあります。企業によっては、採取方法を公開していないところもありますが、カポックであれば、そういった手法が使われているかどうかを気にせず、安心して手にとっていただけます。
事業者の倫理観が問われ、「エシカル」な商品が注目される時代の中で、私たちはカポックという木に着目しました。ただ、もともとカポックは軽くて繊維が短いので、糸にすることが難しく、高機能であるにも関わらず、長年アパレル業界では使用されてきていませんでした。
それを私の古巣である旭化成と共同で開発し、日本の技術でシート化することによって、広く使われるようになると考えています」
これがカポックをシート化したもの。非常に軽量のため、シート化する技術を要する
小林「創業の原点は?」
深井さん「社会性と事業性の両立です。私は、フェアトレードや動物愛護というブランドになるよりも、自分の購入していたものがいつの間にかサステイナブルな世の中につながっていた、というふうにしたいと思っています。
KAPOK KNOTでやろうとしていることは、『サステナブルへの参加コストをゼロにしよう』です。
アパレル産業は世の中に色々な影響を与えてきました。自分の服をまとう時には、そういう意識を持たなければいけない。その現状を打破できる素材があることをぜひ知ってほしい。
動物愛護の観点からも非人道的な手法を用いる必要のない素材がカポックです。また、今まで冬用の市場においては、動物性由来の毛を使わないと暖かくなりませんでした。ポリエステルなど合成繊維だと十分に温まらないし、その原料の全てを石油由来の素材に頼っています。カポックのシートは少しでも石油由来の素材から脱却できる可能性を秘めた素材でもあります。
アパレル業界や旭化成にいたので、サステナブルで、より暖かい新素材はないのかと素材に注目して、カポックを見つけました」
小林「製品はウールに比べて安いというのが魅力ですか?」
深井さん「はい。カポックは自生力があり生命力が強いので、街なかにも生えるぐらいです。軽さが8分の1で、値段はダウンと比べると、シートにしてようやく3分の1ぐらい。育っているものを獲るだけなので、原価も非常に安いのです。
羊は育てるのが大変で、エサが良質だと毛も良質。洗わないといけないなどがあります。
カポックはインドネシアでの収穫後に詰めて、中国の工場に送ります。洗わずに、回転させて不純物を取り除く工程後に、シートにしていくだけです。その技術は確立していて、価格にも反映しています」
素材のイノベーションから始まるハッピーなエコシステム
2020年末で、カポックを素材として使っている会社は世界で3社で、日本ではKAPOK JAPANだけといいます。
小林「旭化成と組んでシートを作ることでイノベーションですね。へーベルハウスのタイルのような、素材ビジネスで、例を見せないと使うイメージが沸かないから、家を造るみたいな。エッジの効いた市場に対して、機能性で売っていくのがいいんじゃないでしょうか?」
深井さん「そうですね。ブランドのコラボとして、ゴルフウェアなど決まっているものもあります」
小林「植物由来で社会的にも良いから、素材ビジネスとしていいじゃないですか。軽いのは最大のアドバンテージ。メーカーにも軽くすればこんなに売れますよという話が言えますよね。
キャンプやスポーツのほかにも、軽くて暖かいものを求めるシーンはたくさんあります。
軽くすればするほど高くなる、でも2倍の暖かさでコストは2分の1、植物由来でサステイナブル。この素材を使わずしてどうするのか? 我々が提供するメーカーは利益率が2倍になって、我々も儲かる、消費者はサステイナブル、全員がハッピーなエコシステムと訴えられるのでは?」
深井さん「すごいなあ、ここまで広がるとは思っていなかったです。僕がピッチをして、それに対するフィードバックをもらうだけなのかなと思っていました」
軽くて機能性が高いこと以外にも、カポックは様々な分野から注目を集めています。
カポックが植物由来であることから、暖かくても重い綿をまとっていたヴィーガンからも歓迎されているそうです。
エシカルがファッション業界で大きなキーワードとなっている今、VOGUEで紹介されている記事によると、従来のダウンジャケットなら一着につき30羽以上の水鳥の羽毛が必要なのに対して、カポックの樹木1本から作れる植物由来のジャケットの生産数は、なんと約30着。目ざといインフルエンサーは、カポックをすでに知っているそうです。
これだけお話を聞いたら、最後にもう一度、袖を通してみたくなります。その軽さを実感するにはやはりロングコート。ちなみにこの記事の一番上の写真で深井さんとICC小林が着ているのは、腰丈のジャケットです。
レディースもあります。今回のオフシーズンCRAFTED TOURに参加した、ボランティアスタッフの能任花凛さんが着てくれました。
その他、お話は技術やマーケット、フルリモートで4カ国を拠点にブランド作りをしていることなど多岐に渡りました。練習を重ね、磨きをかけたプレゼンは、2月17日のCRAFTEDカタパルトで披露されます。当日はライブ中継も予定していますので、ぜひご覧ください。以上、現場から浅郷がお送りしました。
(終)
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編集チーム:小林 雅/浅郷 浩子/北原 透子/戸田 秀成
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