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銀座でレタスが育つ!? リアルテック・カタパルトに登壇した、プランテックスの最先端植物工場を見学しました【ICCビジネス・スタディツアー vol.7】

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2020年12月某日。ICCパートナーズ一行は、ICCサミット参加者の方々や運営チームスタッフとともに、東京は京橋にあるプランテックスを訪ねました。ICC KYOTO 2020のリアルテック・カタパルトで紹介された最先端のクローズド型植物工場を見学し、その後ディスカッションを行った模様をお伝えします。ぜひご覧ください!

ICCサミットは「ともに学び、ともに産業を創る。」ための場です。毎回200名以上が登壇し、総勢900名以上が参加する。そして参加者同士が朝から晩まで真剣に議論し、学び合うエクストリーム・カンファレンスです。 次回ICCサミット FUKUOKA 2021は、2021年2月15日〜2月18日 福岡市での開催を予定しております。参加登録は公式ページをご覧ください。


プランテックスの山田 耕資さんがICC KYOTO 2020のリアルテック・カタパルトに登壇したときに、こう言っていたのをICCは聞き逃しませんでした。

「栽培レシピ」×クローズド型で生産量5倍!「プランテックス」は植物工場で日本発グローバル産業を目指す(ICC KYOTO 2020)【文字起こし版】

「京橋の工場をぜひ見に来てください!」

その言葉に甘えて、私たちは行ってまいりました!朝9時、銀座線の京橋駅から1分のところにある、プランテックスの植物工場「PLANTORY tokyo」です。

警察博物館の角を曲がってすぐ、本当に駅から1分のところに、ひと目でわかるプランテックスの植物工場、PLANTORY tokyoはあります。全員集合すると、早速クローズド型植物工場の見学となりました。

中が見えない!栽培装置

ガラスの向こう側の白い箱が「クローズド型」栽培装置

山田さん「中が見えなくて非常にわかりにくいのですが、この装置は実際に稼働しています。中で野菜を生産していて、スーパーの店舗にも納めています。

今までの植物工場だと栽培中の野菜が外から見られますが、これは断熱素材で全体を覆った内部に4段の栽培棚を設けて栽培を行っています。

各段を密閉しているので、内部の環境制御は装置自身で行わなければなりません。エアコンなど色々なコントローラーは、全部装置に内蔵しています」

育った野菜はエレベーターで上下して、自動で出てくる構造になっているそう。人は装置の中に一切入らないので、モニターで生育を確かめるのみ。密閉した装置の中で高い精度で制御を行っているのがプランテックスの強みです。

山田さん「一見コスト増に繋がるように見えるのですが、緻密な管理をすることにより植物の成長をこれまで以上に引き出すことを狙っています。従来の植物工場よりも植物自身のパフォーマンスが引き出せれば、生産性改善を通じてコストの低下につなげることができるのです」

見学している部屋には、装置の中で育つレタスの映像が映し出されていて、参加者たちはそれに見入っています。

「うわーすごい!」「青々している!」という声が上がっています。

映像の中で、レタスはみっちりと詰まって植えられています。こんなに密集させて生育させているのは珍しいそうです。参加者から「光を当てて育つなら、夜は必要?」という質問が上がりました。

山田さん「夜は必要です。夜を迎えないと障害が出たりだとか、育ち自体も悪くなったりします。植物の品種によっても、最適な時間配分はまったく違います」

映像の中では、1日5秒の早回しで、双葉から出荷サイズまで育つレタスが映し出されています。そもそもなぜレタスなのでしょうか。

山田さん「今から様々な品種が出てくると思いますが、現状、植物工場の主力となっているのはレタスが中心です。

レタスは根っこ以外全部が可食部です。植物工場ではどうしても太陽光と違って電気を使うので、食べられない部分を作ると、それだけ無駄が出てしまいます。

トマトやイチゴを作ろうとすると、枝や茎の部分が出ます。食べられない部分の多い植物は、現状では太陽光のほうが採算性が高いと言えます。その点で、ほうれん草やハーブ類などの葉物野菜は、植物工場には向いていると言えます」

次に参加者が注目したのは、レタスの「密」ぶり。露地植えよりもずっと密植でOKな理由とは?

山田さん「そこがポイントで、やはり環境制御なんですよね。風の強さ、あるいは水の流れの速さなどまで、緻密にコントロールすると、ここまで密植させても障害が出ないし、しかも一株の成長が速いのです。

植物工場だと面積が有限なので、面積あたりの生産性をいかに高めるかが重要なのです。

だから面積効率を高めつつ、成長を速くするというところがポイントになってきます。緻密な環境制御により、それが可能になってきます」

ちなみにガラスの向こうにあるのは試作機で、山田さんたちの手作り。現在開発している量産機は、工場に装置を数十本単位で導入することを計画しているそうです。

味、量産、安定生産…植物工場は何が一番強いのか?

上部は栽培のための20のパラメーターを随時観測しているモニター

小型装置で、その植物に合った最適な栽培レシピ=環境条件を作り、装置を拡大して再現性を確かめて、量産していくというのが、ここでの野菜生産の一連の流れです。

植物工場で野菜を作ることのそもそものメリットは、どこにあるのでしょうか? 美味しいものを作れることか、量産して価格を下げられることか、安定生産……何が一番強いのか?という核心的な質問が参加者から上がりました。

山田さん「いくつかあります。直近では、年間を通じて生産を安定させることができたり、農薬を使わない、清潔であり日持ちする、などのメリットが出てきていて、植物工場野菜が使われる局面は増えてきています。

将来期待されている点で言えば、1つはSDGsの文脈で、持続可能な農業、省資源・省エネルギーかつ低環境負荷での農業というものが求められている中で、食料生産を支えるキーテクノロジーとなりうる点です。

例えば水は、今までの農業よりはるかに少ない量で済みます。植物工場は屋内なので、理論的には、投入した水というのは蒸発しようが何をしようが全部回収して再利用できるのです。

1kgの野菜を作るのに、水1リットルしか使いたくない。そこがちゃんとコントロールできるのが大きなところで、SDGsの文脈の中では、植物工場は将来に向けて必ず必要な技術です。

もう1つの理由が、植物工場でしかできない野菜というのが今からできてくる、という期待です。

例えばこの中は病気や災害が少ないので、品種でも病気抵抗性や災害抵抗性が低いものでも安定的に生産できます。

そうすると、今までは病気に強い、災害に強いという品種が必要とされてきましたが、そうではないものがここで量産できる可能性が出てきます。

例えば雪の下で野菜を育てるとものすごく甘くなることが知られていますが、植物工場において現実の世界ではできないくらいの寒暖差をつけたりすることでより甘みを増強するなど、もっと植物の可能性を引き出すことができると思われます。そうすると今まではできなかったような野菜が作れる可能性があります。

将来に対する期待としてはその2つですね。生産側の期待と、食生活を高めるという期待です」

密閉している空間では、水温や気温を緻密に制御しながら、水や肥料の吸収量や、光合成の速度などの速度データを管理することで、栽培技術を高めているうです。

見て、話を聞いて、すでに質問したいことがたくさんある参加者たち。オフィスに戻って、質疑応答タイムです。

質疑応答タイム

ここから約2時間、記事ではご紹介できないオフレコ的な内容をかなり多めに、非常に活発な質疑応答が繰り広げられました。参加者のみなさんの鋭い質問をもとにうかがった、山田さんのお話をいくつかご紹介していきましょう。

失敗を経た上での「クローズド型」で生産性5倍に

プランテックス 代表取締役社長 山田 耕資さん

「会社設立当初は、葉物を中心に普遍的に使える数式チャートを作り、それで植物の成長を管理するソフトウェアを作り上げて、既存植物工場の生産量を高めることを収益源としていました。

既存の植物工場にそのソフトウエアを入れて収穫量を上げる。例えば、ある工場では、ハードウェアを変えずに4ヵ月で収穫量が2倍になりました。

ただそこで分かってきたこととして、環境条件のばらつきによって生産量が安定しないということです。例えば温度を測ると、場所によっては5℃くらい違うんですよね。さまざまな環境条件がばらついていて、何がどれくらい悪さをしているかというのは、分からないのです。

それで2017年に『密閉型』というコンセプトで、これならば緻密に環境制御できるという栽培装置を提示し、資金調達したのです。これまでの植物工場が部屋全体で環境制御していたのに対して、装置自体を密閉し、装置内の狭い空間を高度に管理する、という考え方です。

実際に、その方式で装置を製作したところ、高度な環境制御が可能になりました。環境を緻密に制御できたことで、栽培面積あたりの生産性を高めることが可能になりました。今の生産性はオープン型植物工場の約5倍まで高められています」

植物工場がSDGsである理由は?

山田さん「省資源と言いましたが、管理のしやすさもさることながら、結局は植物工場の価値というのは、インプットを最小化してアウトプットを最大化することが持続可能性につながるということです。

それはSDGsの文脈でもコストの文脈でもイコールで、インプットを最小化してアウトプットを最大化するというところに、ビジネスチャンスもあるし、SDGsへの接続性もあるだろうと考えています」

肝心の味は?

山田さん「印象的なのは、重量を引き出す仮定で、自然と品質が上がっていった点です。それは結局、植物本来の味を引き出せているという話になっていくのかなと思います。

今後でいうと、様々なパラメータの組み合わせで、まだまだ品質も生産性も高めていく余地があると思っています」

将来的に、どんなものができそう?DSCF1070

山田さん「バジルのようなハーブ類とか、白菜とかの葉物類が当面中心になると思います。少し先になると、根菜や、トマトやイチゴなどの果菜類なども期待されています。

あとは先ほど言った、健康成分がコントロールされた野菜などの高付加価値野菜ですね。

『食』に限らず、医療・健康・美容の分野でも植物は欠かせない素材であり、植物工場はこういった分野でもこれまでにない価値を提供できる可能性を持っています。

小型の実験装置から大型の量産装置までシームレスに繋がるということが、すごく重要です。シームレスに繋がることで、様々な実験の成果を、再現性高く量産に結び付けていけると思っています。

さきほど見ていただいたのは小型サイズの装置です。さらに大型の量産機が、12月に完成します。装置を変えても再現できることが重要で、そうすると量産と研究開発を明確に分離することができます」

明るい話題の少ない日本の農業に、イノベーションを起こし、新しい産業を作ろうという山田さん。海外にもインスタ映えするような植物工場が多数生まれていますが、日本の技術はその中でも非常に高いそうです。

この他、物流と工場の立地や、日本の投資家の農業への興味、どんな植物を作ったらいいのかなど、話題は多岐に及びました。

参加者の感想は……

みやじ豚 宮地 勇輔さん「僕は農業分野で、全国の若い農業者と色々な対応をしている中で、これからの農業はどんな形になるのか色々考えていかないといけないなと思っています。

やはり成功事例が少なくて植物工場にあまりいいイメージがなかったので、どうなんだろう?と思い今日は参加しました。

こんなに、本当に緻密に作られているのに驚きました。そんなに他の植物工場の事例を聞いていたわけではないのですが、ここまで考えられてやってるんだというのは、結構衝撃ですね。本当にすごいなと思いました。

『野菜の声を聞くんだよ』と言う、『この農家さんすごい!』みたいなのがなくなっていくのかと思いました(笑)」

inaho菱木豊さん「僕も農業関係で仕事をしています。本当にパラメータの変数が多すぎて分からないというので、環境制御も今の施設からたくさん入っているのですが、やはり温度ムラなどは間違いなくあります。本当にここまでコントロールしてやるのは、1つの正解なんだろうなというのが、今日お話を聞いていてすごく思いました。

それを今の現場とかでどう生かせるかなと思っときに、例えばトマトとかって、12メートルとかになるので、あの中に入るのかな?って。

(一同笑)

ちょっと今の延長線上にはないだろうなと思うので、2年後や3年後にトマトがこうなるとは、あまり思えないんですよね。

ただ、いつかそうなるのかもしれないし、何かこのエッセンスを今のところに持って行こうとしても、やはり変数が多いから難しいというところで止まっちゃう気がします。その先何かあるのか考え続けたいなと、いいテーマをいただきました」

サマリーポケット山本 憲資さん「工場だけでなく、農業がどうテクノロジー化していくかについては割と興味があって、色々見ていました。小林さんが今回の見学について書いていらっしゃるのを見て参加させていただき、とても勉強になりました」

GRA岩佐さん「人工光型の、レタスで……宮城県でもドカーンと投資しても皆やめていて、なぜだろうなと思っていて、どういうところがダメで止めていくのか、よく分からないところがありました。一方、上手くいってそうなところもあります。

だから、本質はどういうところにあるのだろうということにすごく興味があって、今日は来させていただきました。虫の話など色々なことを聞いて、何だか色々と納得できました。

イチゴはまだ、一粒あたりの製造原価がだいたい300円ぐらいするんですよ。まだまだ、ペイするまで時間がかかりそうです。今の話を聞くと、近い将来、今のうちから張っておかないといけないかなとか思ったりしました」

アセットマネジメントOne岩谷 渉平さん「朝歩いてきて、この建物の中にこんなものがあるという。全く違う……朝起きたときの自分と、世界の見え方が違います。こういうチャレンジを理解できて光栄です。

僕は、食の投資っていうのは全然進んでないなと思っています。先ほどの製造プロセスとか製造業とか、生産管理とか色々なヘルスケアとか。

色々なプロトコルで研究し尽くされて、投資されてきたと思うのですが、この領域……植物工場なんかを見ると、まだまだですね」

クレディ・スイス証券 齋藤 剛さん「もともと興味本位で来たのですが、お話を伺っていてすごいなと。逆にいらなくなる産業っていっぱい出てくるなと、ちょっと思いました。

物流とか、農家の不足感が解消できるという言い方もあり、逆に言うと一気にいらなくなる世界も出てくる、地方創生が不要になるなとか、マイナスの方ばかり考えてしまいました。

地域色のある農作物の優位性を見せなくなるんだろうなと思ったり、不安も興味も抱きながらお話を伺って面白かったです。ありがとうございます」

最後の齋藤さんの言葉を受けて、山田さんは「都市のために農村が食料を作るみたいな考え方は、少なくともなくなるだろうなあとは思っていますね」とコメント。土地に縛られない農作物作りは、食生活だけでなく、さらに大きな私たちの暮らしを変えていくのかもしれません。

最後に記念写真を撮って解散して、筆者が忘れ物を取りにオフィスへもう一度戻らせていただいたところ、ちょうどこの日の出荷作業に出くわしました!

上の段から降りてきた、この日収穫する京橋レタス。立派な青々とした葉に驚きます!

収穫時間まで打刻されたパッケージ。これから豊洲のスーパーに向かいます

収穫したての京橋レタスをいただいて帰り、早速頬張ってみると、味が濃くてびっくり! 日ごろ水っぽいものと認識していたレタスに味があるのがわかります。青くさくはなく、甘みがあり、つやつやした葉。青いので硬そうに見えますが、そんなことは全くありませんでした。豊洲のスーパーでは、並んで入荷を待っている人もいるそうで、毎回売り切れるのだそうです。

今回見学ツアーを受け入れてくださったプランテックスの山田さん、ご参加いただいた皆様、どうもありがとうございました! 以上、京橋の植物工場から浅郷がお送りしました。

(終)

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編集チーム:小林 雅/浅郷 浩子/戸田 秀成/フローゼ 祥子

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