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2月15日〜2月18日の4日間にわたって開催されたICCサミット FUKUOKA 2021。その開催レポートを連続シリーズでお届けします。今回は、開催地である九州を舞台に活躍するスピーカーを中心に、地域の魅力を高める街づくりを討論した「地域の魅力を最大化する街づくりの取り組みとは?」の模様をお伝えします。ぜひご覧ください。
ICCサミットは「ともに学び、ともに産業を創る。」ための場です。そして参加者同士が朝から晩まで真剣に議論し、学び合うエクストリーム・カンファレンスです。 次回ICCサミット KYOTO 2021は、2021年9月6日〜9月9日 京都市での開催を予定しております。参加登録は公式ページのアップデートをお待ちください。
市長から宮司まで、街づくりに取り組むスピーカーが集結
地方創生といわれて久しいが、ICCサミット FUKUOKA 2021の開催地であるここ、福岡市もそれを標榜する大都市のひとつ。国家戦略特区にいち早く名乗りを上げ、大幅な規制緩和や制度改革で、自治体の成長戦略を描いている。
過去のICCサミットでも地方創生・活性化というテーマは常に語られてきたが、今回のセッション「地域の魅力を最大化する街づくりの取り組みとは?」では、その福岡市市長の髙島 宗一郎さんを始め、鉄道・文化・観光・神社の宮司まで、さまざまな立場からその実現に取り組むスピーカーが集結した。
今回、髙島さんは登壇にあたり、緊急事態宣言下でもあり辞退すべきではないかという議論もされたが「ここまで感染症対策をして、リアルイベントを開催するというICCのチャレンジ魂を受けて」参加を決めていただいたそうだ。登壇前の髙島さんにコメントをいただいた。
大都市の中で人口増加率1位、旧市街プロジェクトやスタートアップ支援に加え、世界最先端の感染症対応シティ創りに挑む福岡市市長 髙島 宗一郎さん
「コロナだからとジッとしてばかりいるわけにはいきません。今だからこそ芽生えた新しいニーズをいかにビジネスにして実装していくか、後押ししていくのは行政として非常に大事です。
ここに集まっている皆さんは、日本の中でもトップリーダーですから、行政も一緒に新しい産業をクリエーションしていきたいという思いで参加しています。
福岡市としてスタートアップ支援の取り組みをしていますが、テクノロジーがどんどん進化しているのに、提供するサービスやビジネスが古いままでいいわけがありません。それを実装する現場が必要で、スタートアップだけが頑張っても、展示会用のもので終わってしまう。
これを社会に実装するのが行政です。政治とスタートアップが一緒にならないと駄目なのです。福岡は日本の中でも、そういうインキュベーターのアイディアやビジネスが実現できる街になっていこうという思いで、スタートアップを応援しています。
▶福岡市、スタートアップ支援で会社登記の実質完全無料化を発表(BRIDGE)
ICCには、時代を作っていく仲間が集っているので、そういう皆さんと新時代を作って行きたいと思います!」
モデレーターを務めるのは、京都の魅力を発信するメディアTHE KYOTOのEditor in Chief & Creative Director各務 亮さん
外出する機会が減らざるをえなかった過去1年、組織内外さまざまな外の人と、地域の人をつなぎながら事業を進めている登壇者たちは、一体何を思考し、どのようなことをしてきたのか。
「街や土地の魅力再発見の方法」「それを現代的にアップデートするヒント」「情報発信」「街づくりの本質」といったテーマに沿って、各々の事業紹介とともにディスカッションした本セッション、自分の代では結果を見ることができないかもしれない社会創りに取り組む登壇者たちの、街づくりにかける情熱がほとばしるものだった。
詳細は後日の書き起こし記事でお読みいただくとして、こちらのレポートでは街づくりのみならず、これからの事業づくり、産業づくりに通じる、この1年を経て登壇者たちが痛感した、社会の変化と人々が求める価値について語った印象的な内容をご紹介していく。
大きな出来事が起こったとき、人は拠って立つ大地や本質的な価値を再発見する
「日本文化を紡ぐ」をテーマに、歴史的建造物を活用したNIPPONIA HOTELブランドなど、歴史観光街づくりを全国で展開するバリューマネジメント他力野 淳さん
バリューマネジメント他力野 淳さんはICCサミット初参加。歴史的建造物をホテルやレストランといった人の集まる場所に作り変え、その価値と魅力を発信している。全国から町おこし的な依頼が殺到し、現在は全都道府県に社員を配置しているという。
「今回いろいろなことが制限されたことで、ある意味時間を得た。それによって人々は何が価値かということを考える機会を得たのです。そしてそれまで当たり前だった、人と交わることが、こんなに大事なものだったのかということがわかった。何か大きなことが起こったときに、こういう本質的なことに向かい合う機会が来るのです。
一方で合理的な社会も進みました。だから10年分くらいアップデートしたんじゃないかと思います。
100年、1000年と続く街がありますが、なぜそれが紡がれているのか、今までいろいろなことがあったにせよ、時代を超えてきているわけです。我々がやっている歴史地区の街づくりには、まさに時代を超えたものにその本質があり、文化になっていると思います。
そこを感じに人が集まってくるのです。観光が一時大きく沈んだあと、本質を感じに来る人がものすごく増えました。太宰府もずっと人がいっぱいでしたし、今まで誰も来なかったところに人が集まるようになりました。
それは、ただの余暇ではなくなってる感じがあります。何が大事だったのか、なぜこれが時代を超えているのか、街の人もその魅力を再発見していて、それを感じて自分自身もアップデートしているのではないかと思います」
同じことを違う立場から語ったのは、2020年の1年間、明治期にコレラが流行したときの記録を参考に、祭礼を執り行ってきたという太宰府天満宮宮司の西高辻? 信宏さん。
太宰府天満宮 40代目宮司の西高辻? 信宏さん。1000年以上前から残る記録を紐解き、神社が主体的に街づくり、人づくりに関わっていくことを目指す
「太宰府天満宮を訪れる方は全体では減っているのですが、大きな変化としては、家族連れや若い人が増えました。神社は屋外ですし、選択肢として、天満宮に行ってみようとなった。そして滞在時間がすごく長くなっています。非常にありがたいことです。
いままで選択肢が多様にありすぎたのを、もう一度、ローカルで何があるかを改めて見つめるようになった。そこで行ってみる、自分の拠って立つ大地であったり、軸をもう一度意識しようと思うようになった。
年間百数十の祭事があるのですが、今までは喧騒の中で執り行うこともあったのですが、今は非常に静謐な雰囲気の中で、皆さん心を1つに祈られています。
祈りという本質的な部分で、今まで気づかなかった意識をされているんじゃないかと思います。コロナの後に、一人ひとり、家族という単位で見直して、いいものがあるなと気づいたのでは」
コロナ禍で表出した、新たな街づくりの可能性
髙島市長の力強いサポートを経て、福岡を中心に九州各地の街づくりを推進するJR九州の小池 洋輝さんは、九州全土を回れなくなった1年で、新たな可能性を発見したという。
「街というのは『風土』という言葉で自分が感じているのは、『風』というのが、よそからやってくる人や情報、感性で、『土』は地元の人たち。これがうまい具合にハーモニーで街づくりをしていく。
よそものに何を期待しているかというと、新しい視点です。今まで地元の人が気づかなかった目線を伝えることではないかと思います。
私は会社にいないような人間だったのですが、この1年はずっと動けなくて、インプット・アウトプットができなくてつらいと感じていました。そこで自分たちがやろうとしているプロジェクトについて、それができる人といかに接点を持っていくかということを改めて考えました。
福岡は160万の大都市ですが、車に30分乗れば豊かな自然があります。コロナ前から仕込んでいたのですが、昨年スノーピークと協定を結びました。アウトドアブームが来ていて、スノーピークは白馬で、新しい自然と都市のあり方として新しいグランピングを提案しています。
▶【スノーピークとJR九州がニューノーマル時代の新たな体験の創出】野遊びとモビリティで紡ぐ九州の魅力(PR TIMES)
▶スノーピークが隈研吾設計の複合施設 開発の勢い止まらぬ白馬(日経XTREND)
九州でも都市開発を中心にしていましたが、福岡だけでなく九州は海山に恵まれています。
都市で働きながら、都市から離れてリセットをしたりと、オンとオフの関係性が日常の中にあるべきだなと思いました。都市部の魅力、福岡の価値を上げるために周辺を面白くしていきたい。我々は欲張って両方の開発をしていきたいし、それを新たな事業としてやっていけるのではないかと思います。
生き方の豊かさや、新たなワークライフバランス。言葉だけでなくて、形にできるのがローカルの面白さじゃないかなと思い、広げていきたいなと思っています」
小池さんの言う、「風土」を実践していたのが、西高辻?さんの祖父、西高辻?信貞さん(第38代太宰府天満宮宮司)。
西高辻?さん「祖父がハーバード大学に昭和30年代に留学していたのですが、海外では車がどんどん伸びていった時期でした。
祖父は野球が好きだったものですから、ボールパークにみんなが車を停めて出かけていくのを見て、これだ!と思ったらしく、日本に帰ってから大借金をして、1,000台入る駐車場用地を買いました。
駐車場は天満宮のそばではなく、明治期にできた鉄道駅の近くで、参道を通った下に位置しています。するとそこに車を停め、参道で買い物をしたり、街を楽しんでお参りをする。最近は神社の近くに駐車場があるところも多いですよね。でも車を停めてお参りして帰るだけでは、街が衰退します。
地域とともに神社がどうあるかを考えるなかで、このような配置を考えて、神社が栄えれば街が栄えて、街も神社を支える。そういう循環構造を当時から考えて、街づくりをしていたのだと思います」
情報発信は、誰かに話したくなる“よい違和感”を
これについては非常に和やかなやりとりがあった。小池さんが髙島さんを評してこう言う。
小池さん「まさに情報発信のお手本がここにいます。(髙島さんの)発信が、非常に明確でわかりやすい。どう発信するかではなくて、受信者側の勘所をいかに押さえて発信するかだと思います。
誰かに話したくなることかどうか、期待値を超えられるのか、そこをちゃんと作っていくことが大事です。本質を押さえたものであれば、おのずと人は伝えていってくれます。
太宰府天満宮のピンクの鳥居とか、人に言いたくなりますよね(笑)!」
Nicolai Bergmann HANAMI 2050 – フォトギャラリーなど
▶太宰府天満宮×ニコライ バーグマン展覧会「HANAMI 2050」レポート。「未来の花見」がテーマで、ピンクの鳥居も出現。(フクオカーノ)※2018年03月30日の記事
西高辻?さん「(笑)それを突き詰めながら、”よい違和感”というのを大事にしています。普通のことを普通に言ってもなかなか残らない。でも”よい違和感”があると、なんだろうこれ?と残ったり、人に話したくなる。それをかなり意識しています」
髙島さん「あのピンクの鳥居は、お父さん(西高辻? 信良さん、第39代太宰府天満宮宮司)は怒りませんでしたか?」
西高辻?さん「それは認める側の度量もあります。(一同笑) 長い歴史があり、それで本質は揺るがないという強さもあったのでしょう。ニコライ・バーグマン側も、戦略的に最後の最後までこのアイデアを隠していましたね」
街を動かす“不変のエンジンは何か”を見極める
福岡の街づくりの本質について、髙島さんは2000年間続くこの場所の特色について紹介した。他の登壇者が語ってきた、時を越えても変わらない価値、残ってきているものとまさに合致している。
「福岡は9割の方が第三次産業で働いている。つまり『交流』が街のエンジンになっているのです。福岡はアジアのリーダー都市ということで、”人が来る”、こういったコンベンションなどに力を入れています。
なぜ、自信をもってそれできるかというと、今、ひらめいわけではなく、2000年間の歴史に根拠があります。歴史の教科書に出てくる「金印」は、福岡の北にある志賀島という場所で発見されたのですが、ここは古くから安曇族という海賊が、風と海流を読みながらアジアと交流していたわけです。
ジェットエンジンがない時代は、風と海流で物流をしていて、外国からさまざまなものがもたらされました。福岡の街が2000年間ずっと『交流』が成長のエンジンであったという本質は、今コロナが来ようと、急には変わらないのです。
だから、その本質は変えずに、最先端のものを取り入れながら、今の時代にあったアップデートをするという対応をしています。今回のICCも本質は変えずに感染症対応がさらにすごくなっていますよね。
これまでの歴史を紐解くことは、地域の魅力再発見やアップデートの大きなヒントになると思います」
これからの街づくりはどう変わっていくのか
倉庫街だった天王洲をアートシティに変貌させた寺田倉庫の代表取締役社長 寺田 航平さん。この取り組みを他の場所にもと意気込む
議論が進む中で、この50年にわたり天王洲で街づくりに携わる寺田倉庫の寺田さんから、この1年の社会の変化が及ぼす影響として、興味深い考察が語られた。街づくりに限らない部分も多いと思われるので、ぜひご紹介しておきたい。
「明確に言えることは、リアルの価値は上がるのではないかということです。昨秋に外出する人が一挙に増えたように、人はリアルを渇望している。リアルの価値が上がる一方で、移動のコストも上がるのではないかと思っています。
個の空間や、その充実への欲望も増えますし、それが地方という拠点になることもありえます。
他力野さんの発言にもありましたが、処理、作業に近いものがデジタルに行く一方、人間の本質的欲求を満たすものが結果的に価値を増大させて、リアルとしての価値を生んでいく。その二分化をどう
とらえるか。
個人的には、より魅力を持っているものへの集中が進んでしまうと思います。ICCサミットに来ている方は、本質に価値を持っている方が多いからいいのですが、街づくりでいうと、差別化がより進んでしまうリスクがある。すると、国全体の問題となってきます。
それを踏まえて局所的にスポットライトを当てながら、分散する。国も、自治体も、企業も、そういうような世の中に変わっていかなければいけないと思います。今のように全国均一的な街の成長を目指していると、だらだらと日本全体の価値が落ちていきそうな気がします」
時を越えて残っていく本質的な価値と、それを守ろうとする試み、一方で未来に起こりうる取捨選択。ビジネスと通じる、まさに本質的なところで意気投合した登壇者たちは、ここからをもっと議論したいという雰囲気の中、セッション時間が終了した。
登壇者の中でも、街づくりの先輩ともいえる存在の寺田さんに、セッションの感想を伺った。
「それぞれの地域の皆さん、どういうアプローチなのか実例がいろいろ見えたのが楽しかったですね。エッセンスも吸収できて、学びになりました。
天王洲の海辺の開発ひとつにとっても、品川区だけでなくて、行政や港湾局、都の行政の壁、既得権益などがあります。それを崩さず、我々のやっていることを認めていただいたうえで、最終的には全体の活性化、収益力をあげようとするときに、いろいろな壁が立ちはだかります。
それをひとつひとつ取り除いていくのは、非常に大変でした。街中のパブリック・アート(壁画)も毎年3,000〜4,000万円かけて毎年消して描いて効果を見せていきながら、8年かけて行政から認可を得て、今は常設になりました。そうして街のルールを全部変更していきました。
そういうものって時間がかかります。大きな苦労も伴いますが、意外にやれちゃうもので、頑張ればできる。その積み重ねで、ひとつの街づくりになっていく。全地権者を巻き込んで、コンセンサスが取れたので、むしろ楽しみなのはこれからですね。
市長と握り会えると、それなりに進みやすいというのは現実にあります。海の上に建物を、船を浮かべて商業施設(ホテル)を作るというのは、もともと法律的にできなかったのですが、石原 慎太郎都知事の時の鶴の一声で一挙に進みました。市長が乗り気になっていると大きく違います。
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髙島市長のような人が全国区に広がれば、日本全体の発展につながるのではないかと思いますね」
すべてが等しく発展できる時代ではないというシビアな現実も何人かのスピーカーから語られたが、官民一体となってそれを試みる苦労は想像を絶する。現状維持すら、緩慢な衰退につながっていく。
いくつもの未曾有の事態を乗り越えてきた先人たちの歴史を紐解きながら、現代の価値を加えて街のアップデートを試みる登壇者たち。スタートアップとは、時間軸も対象も異なるものの、経営者にとって学ぶところの非常に多いセッションだったのではないだろうか。
(続)
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編集チーム:小林 雅/浅郷 浩子/戸田 秀成
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