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ICC KYOTO 2021の特別プログラムとして予定されている9月6日開催の「テキスタイルギャラリー『HOSOO GALLERY』を訪ね西陣織の歴史と着物の選び方を学ぶ」、9月6日開催「一般非公開 西陣織の工房『HOUSE of HOSOO』見学ツアー」。創業は元禄元年(西暦1688年)の老舗「細尾」の12代目細尾 真孝さんに、この特別プログラムを下見させていただき、お話をうかがいました。その模様をお伝えします。ぜひご覧ください!
ICCサミットは「ともに学び、ともに産業を創る。」ための場です。そして参加者同士が朝から晩まで真剣に議論し、学び合うエクストリーム・カンファレンスです。 次回ICCサミット KYOTO 2021は、2021年9月6日〜9月9日 京都市での開催を予定しております。参加登録は公式ページのアップデートをお待ちください。
京都といえばこの方、THE KYOTOの各務 亮さん。かねてからICC KYOTO 2021の特別プログラムの一つとして、創業は元禄元年の西陣織の老舗、細尾を訪問し、西陣織や着物について学ぶプログラムをご提案いただいており、今回はご挨拶とともに、HOSOOを訪問することになりました。
HOSOO FLAGSHIP STOREの前での待ち合わせ。各務さんは颯爽と自転車で登場
ほどなくして、12代目の細尾 真孝さんが、特徴的なビルの中から現れました。早速お話を伺いましょう。
西陣織と細尾の歴史
「京都の北西部に西陣のエリア、御所の西側約5km圏内で、約1200年織物が織られてきたエリアで織られているものを西陣織といいます。
西陣織には約1200年の歴史があります。1000年の間、都がここにあり、主なお客は天皇皇族、貴族、商人、神社仏閣といった、国内のトッププレイヤーたち。その人たちのためにオーダーメードの織物を折り続けてきました。
そういうパトロンたちのもと、時間やお金に糸目をつけず、ひたすら美を上位概念に発展してきた背景があります。当時は西洋のようにジュエリーをつける文化がなかったため、着物の素材で差別化しており、箔や貝殻を細かく織り込んだり、世界的に見ても非常に複雑な構造のものを織る技術が生まれました。
▶西陣織とは(西陣織工芸組合) – 歴史や出来上がるまでの工程など
▶西陣織とは?着物ファンが知っておきたい歴史と12種類の品種を徹底解説(きものと)
細尾は、元禄元年に西陣織の織り屋として創業して、それから300年は職人として織物屋をしながら、100年前曽祖父の代で問屋業を始めました。
現在は北海道から沖縄まで、全国のさまざまな日本の染色作家たちと、日本の着物の専門店として、百貨店や専門店に卸す着物のプロデューサー、ディストリビューター業も行うようになり、それが会社の母体になっています。
55年前、問屋の拠点をこちらに移して、工房とここの2拠点でやっています。そのときに元の建物を2019年にフルリノベーションをしました」
建物のお話が出たところで、見るからに異彩を放つこのギャラリー兼社屋のビルについて、見学しながらお話をうかがうことになりました。
見どころその①西陣織の工芸性を表現する社屋
建物の外観は黒く5階建て、外壁がミルフィーユのようになっており、非常に特徴的です。ICC一行は外に出て、改めて建物を 見上げました。
「工芸性を表しています。工芸とは素材と技術、いいものを長く使い続けていくという思想がベースになっており、その哲学が象徴されるようなものにしました。
ファザード(建物を正面から見た外観)は、漆喰(しっくい)に墨を入れて、職人が手で4面を塗り上げています。よく見ると、職人の刷毛使い手のストロークが残っています。金色のラインは、3mmのステンレスを埋め込んだものに、京都の老舗の職人が24金の金箔を貼っています。
金は時間がたっても変わらないもの、逆に黒漆喰は変わっていくもの。どちらも京都ならではのもので、その両方で時間の落差を感じていただきたい。せっかくなので、建物全体を見ていただけますか?」
最上階のオフィスフロアの外壁素材に使われているのが、「西陣リフレクテッド」という特別に開発した素材。非常に複雑な構造を持つ西陣織の表面の型に、歯の治療などに使うレジンを流し込み、立体感あるテクスチャーを再現した塊を作って耐水耐火性能をもたせ、外壁素材の要件を満たしているといいます。
素材開発に4年かかったというこの素材は、反射によってキラキラと輝き、ところどころ透けています。日が暮れて照明をつけると、外に明かりが漏れて見えて、カーテンだとわかるのだそうです。その素材は、1階のカフェラウンジにあるテーブルトップで見ることができます。
もう一つ、建物で特徴的なのが、均等な地層が積み重ねられているような壁の構造です。
「”時間”をテーマにしています。壁面や壁は『版築』といって、古くは飛鳥時代からあるといわれている日本の古代建築技法、型を作って土を入れて突き固めていく左官の技術で作っています。
色が違うのは、京都の異なる4種類の土を使っているからです。時間とともに土は作られているので、違うものを使うことよって時間を感じていただくような設計にしています。
伝統的な古代の飛鳥時代の工法を使いながら、最上階の外壁では伝統でありながら今の技術も使う。会社のスタンスを表明するような建物でありたいと思って作りました」
西陣織が織り上がるまでには20の工程があり、1工程に1人のマスタークラフトマンが担当するとのことで、つまり1つの織物は、約20人の職人の手を経て出来上がります。
「効率化のためではなく、究極の美を体現するためにそれぞれの職人が担当している。箔を創る職人、それを切る職人など、西陣の5km圏内の中に分業されていて、連携プレーのもと出来上がっています。
この建物も、普段交わることのない左官の職人や、箔を貼るさまざまな技術をもった職人のフラットなコラボレーションのもと作りました。それも、西陣織の工芸的な思想を反映させたものなのです」
ちなみにこのデザインは、細尾さんの実弟で建築家、細尾 直久さん率いるHOSOO architectureによるもの。細尾さんの父親はイタリアの伊藤忠商事で、実は日本にフェラガモを紹介した立役者。フェラガモ家とも親交があり、幼いころから美しいものに触れて育った兄弟の美意識と西陣織の工芸性のシンボルのようなこの建物は、今回のツアーの見どころのひとつです。
見どころその②日本発ラグジュアリーブランドへの挑戦
「帯は32cm幅と狭いので、大きなものに西陣織の生地を使おうとすると、継ぎ目だらけになってしまいます。そこで弊社は、約10年前に初めて150cm幅で織れる西陣織の織機を開発しました。
その最初のお客様が、クリスチャン・ディオールです。主に海外の店舗の壁面、張り地、カーテンなどに西陣織を使い始めたのが2010年で、世界100都市の店舗の壁面が、弊社のテキスタイルで飾られています」
▶ディオールからもラブコール、西陣織が内装材に 伝統技術、住まいのデザインに変身 (1/3ページ)(SankeiBiz)
▶一流を魅了する京の老舗 西陣織で世界のトップブランドとコラボ(事業構想)
それからシャネル、エルメス、ルイ・ヴィトンというラクジュアリーブランドや、リッツ・カールトン、フォーシーズンのレストランといったホテルへの内装導入が続きましたが、家具、カーテン、アートピースなどホームコレクションを中心に、自らのブランドでBtoCに着手したのが2019年のこと。
「技術やストーリーには十分いいものがあるのですが、日本からはなかなかグローバルなラグジュアリーブランドが出ていません。そこで日本文化の新しいライフスタイルの提案をして、挑戦していきたいと考えています」
椅子はデザインがデンマークのOeo Studio、製作は日本のモデラー第一人者の宮本茂紀さんの五反田製作所が担当
ぬめりのある光沢が美しい、和紙に漆を塗ったものを細かくカットして織り込んだテキスタイル
家具やアートピースに関しては、約200種類のテキスタイルから選ぶことができ、サイズもすべてオーダーメードできます。
「工業の規格化したものではなく、お客様の一人ひとりに工芸としておあつらえします。”工芸の逆襲”をどうするかがテーマですね」
西陣織というと、絢爛豪華な金糸銀糸の帯や女性用の着物のイメージがありましたが、ショールームに出ているだけでも、生地の多様さに驚かされます。表面と裏面がまったく違う見た目の箔を使った生地や、向こうが透けて見えるものもあります。
美しさ、多様さ、複雑なテクスチャーと見る角度で変わる表情など、西陣織の奥深さは、ぜひツアーのときに見て、触って、細尾さんの解説を聞いていただければと思います。リッツ・カールトンでマジックミラーの代わりとして使われている生地などもあり、美しさだけでなく機能性にも驚かされます。
見どころその③9000年前から続く織物の未来。西陣織のオープンイノベーション
「西陣の転換期は明治の遷都で、明治になって天皇家も京都からいなくなって、誰も買わなくなりました。
そこで旦那衆がお金を出し合って、最先端の技術、織物を学びにフランスのリヨンに行ったのです」
それまで使われていた二人がかりで息を合わせて織物を作る「空引き機」という織機では、うまくいかないと1日で数ミリしか織れなかったものが、「ジャガード機」の発明で1人で効率よく織れるようになり、それを学んで西陣に持ち帰ってきたのです。
「それは美をダウングレードせず、テクノロジーによって民主化しました。限られた人にしか与えられなかったものを、一般に展開できるようになりました」
コンピューターのバイナリ(二進法)は、このときに発明された織機の糸が上がる、下がるを指定したパンチカードが元祖といわれていて、織機から車を作ったトヨタしかり、テクノロジーと織物は深い関係があります。
「すべてのイノベーションは、美を追求して、身体を拡張するなかでできているのです。工芸という人間が原初から美を求めているアクションは、日本、とくに京都に残っていると思っています。そこは価値になるし、イノベーションを生み出すこともできてくるのではないか」
その試みとして、この建物の2階に当たる、HOSOO GALLERYでは年に2回、HOSOO STUDIESという研究会の企画展が行われています。東京大学大学院情報学環 筧康明研究室とZOZOテクノロジーズとともに行っている共同研究開発で、伝統工芸と先端テクノロジーを組み合わせた新たなテキスタイルを見ることができます。
今回特別プログラムで訪れる方のために、当日も開催されている「環境と織物」の展示を少しだけご紹介しましょう。
温度によって変化する染料を箔に塗布した、箔メーカーと開発した織物
25℃以上あるとブルーに発色。ヒーターで温かくなる場所を移動させている
こちらは逆に、24℃以上になると白くなる糸を使った展示。下から冷房の風が出ているため、下のほうがピンク色が濃くなっていますが、手で触れると手形に白く色が変わりました。
「我々が来ただけで、このフロアの見学が終わるころには、白に変わっているはずです。
つまり、人間が4〜5人来るだけで、環境に大きな状況を及ぼしているということが可視化されます。
今まで目に見えなかったから意識することはなかったけれど、それは確実にあったことなのです」
サイエンスのようで、見た目は美しく、人間が環境に与える影響を考えずにはいられません。まだまだ想像力を刺激されるような展示が続きます。
次に、水に浸された美しいグラデーションの布の前に来ました。これは何を表しているのでしょうか?
「左を真水、右をにブルーの染料を入れています。植物が根から水を吸い上げる毛細管現象をベースにして、特殊なコーティングで糸を作りました。今は真水のほうに浸かって水を吸い上げていて、3日かけてブルーの染料を押し返していきます。
浸透圧の関係で、自然の植物は重力に逆らって水を吸い上げていますが、我々は普段それを意識していません」
ボタン1つでスモークがかかるガラスを糸化した織物。電気が入ると電子が揃って透過する
1本1本をコンピュータ制御し、テレビなどで使用される有機ELを織り込んだ織物。布地を液晶モニター化や、光学迷彩も夢ではない段階に
紫外線を当てると3秒で硬化する織物は「もし硬化を解除できるようになったら、荷物を送るダンボール代わりになるかもしれない」と細尾さんは言います。
水中で振ってUVを当て、瞬時に硬化させた布の形。触るとパリパリしています
「荷物を美しい織物で包んで送ることができるかもしれないですよね。そういうことを頭に描きながら研究開発をしています」
未来の織物の形を見られる2階のギャラリーは、見どころいっぱい。細尾さんの解説によって、美しい見た目に秘められたテクノロジーを深く学び、織物とテクノロジーの両輪が生み出す可能性に驚く、刺激的な体験になると思います。
見どころその④国内最大・最高峰のショールームで、着物を通して日本文化と親しむ
先端的なギャラリーを堪能したあとは、それと相対するように西陣織の伝統的な世界へ入っていきます。4階は、反物や着物を見たりすることができるいわゆる上客向けのショールーム。細尾さんは2019年から、「細尾サロン」という会員制の着物サロンを立ち上げています。
「これからの着物のあり方ですが、西陣はもともとハレの日の織物ですし、昔の頃のように、洋服のように着ることはないだろうと思います。
しかし、日本文化は茶道などでも着物の所作をベースにして作られています。日本文化を知るのには着物の型を知ることが重要です。だからこそこれから日本を引っ張っていくリーダー、経営者は着物を着るべきで、活躍する日本人の武器にしていくことを目的の一つとして、会員制のサロンをスタートしました」
現在サロンは紹介制で、会員になると隔月で文化人を招いた着物に関するセッションや文化体験、食事などの場が設けられ、その機会に着物をあつらえたりする人もいるそうです。着物の保管メンテナンスや、ヘアメイク、着付け室や男性には着付けのトレーニングサービス、会員だけが利用できる町家をリノベートした宿泊施設などもあるそうです。
この着物のショールーム、北海道から沖縄まで、人間国宝や西陣織のレジェンドと呼ばれるような作家の作品も含め、日本のどの専門店より多い品揃えで、男性ものだけでもこのフロアが埋められるほどあるそうです。着物をあつらえるのならば、プロが揃ったこういうお店で仕立てるのが安心ですよね。
西陣のレジェンドという人間国宝、北村武資さんの着物。あの中田英寿も大ファンで着ているとか
ICCオフィスにも西陣織が登場します
西陣織の現在・未来・伝統を体験して1階のカフェラウンジへ戻ってくると、ICC小林が「オフィスの壁が白いのですが……買っていいですか?」と、誰ともなく許可を求める発言。心はすでに決まっているようです。
選んだのはICCカラーの3点。これを3つのアートピースに仕立てていただいて、オフィスの壁に飾る予定です。完成したら細尾さんをお招きして解説いただく予定ですので、ぜひ見に来てくださいね。
左はニューヨークのスミソニアン博物館の永久所像品となった「スターリー」、中央と右は、映画監督のデイヴィッド・リンチとのコラボレーション作品
▶デヴィッド・リンチと西陣織の細尾が異色のコラボレーション 表参道ジャイルで個展(WWD)
特別プログラムでは完全非公開の工房見学も決定!
300年を超える企業の12代目として、1200年の歴史を持つ西陣織を、日本発のラグジュアリーブランドとして打ち立てようとする細尾さんは、「1階のライフスタイルブランドの世界と、2階のギャラリー、3階のショールームを一気通貫させて着物のイメージを変えたい」と意気込みます。
歴史、哲学、イノベーションを生むテクノロジー、コミュニティ醸成と、全方位への目配りをしつつも、細尾の美意識と一貫性には痺れるような強さがあります。9月9日の特別プログラムでは、現在は一般非公開・写真撮影は不可となっている西陣織の工房も、特別に見せていただけることになりました。
▶『アート×西陣織、テクノロジー×西陣織…etc. 伝統の織物を新しい形で発信し続ける』(GAP 1969 MAGAZINE) 工房や150cm幅の織機の写真も
細尾さんは、Session 5D「末永く愛されるブランドを作るには? – 『モノづくり』と『モノがたり』を語り尽くす」の登壇と、特別プログラム(9月6日は「HOSOO GALLERY」、9日は西陣織の工房「HOUSE of HOSOO」見学ツアー)でICC KYOTO 2021にご参加いただく予定です。ぜひご期待ください。以上、京都のHOSOO GALLERYから、浅郷がお送りしました!
(終)
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編集チーム:小林 雅/浅郷 浩子/戸田 秀成
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